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2012-12-05

「伝『足利尊氏』像について」 田中先生(高1E担任・社会科)

日本学園では期末試験が始まっています。三年生の授業ももう終了、後は受験に向けてがんばろう、といったところです。とはいいつつも、まったく関係のないお話ですが、三十代以上の方々がイメージする「足利尊氏の肖像」はどんなものでしょうか。

おそらくは(私も含め)、京都国立博物館所蔵の旧守屋本の騎馬武者姿の武人を思い浮かべるのではないでしょうか。ざんばら髪に大鎧、大太刀を背負い鬣振り乱した奔馬にまたがり前方をぎろりと睨みつけた、あの有名な肖像画です。

しかし皆さんもご存知のように、あの肖像画は足利尊氏ではなく、執事の高師直だという説などがあり、現在では中立的に「騎馬武者像」と呼ばれているようです。この肖像画が足利尊氏のものであると断定はできないと知りつつも、南北朝や観応の擾乱を象徴する絵であると思い授業で紹介しようとふと思いました。しかし、現在日本学園で使用している日本史教科書や資料集にその姿を探したところ、完全に姿を消していたのでした。その他の教科書や資料集も同様でした。すくなくとも数年前までは掲載されていたように記憶していたのですが、現在では「騎馬武者像」としてすらもその姿を見ることはできないようです。美術的な価値はともかくとして、単なる騎馬武者の姿を教科書に掲載する理由はないからなのでしょう。

しかし、多くの人が足利尊氏といえばあの肖像画を思い浮かべるように、あの「騎馬武者像」には見るものをひきつけてやまない何かがあるように思えます。子どものころは単純に勇ましく進む足利尊氏の姿であり、それが心の中に残っているのだとしか思っていませんでした。

しかしよくこの絵を見てみると、やはり尋常ではないものを感じずにはおれません。ほぼ尽きかけ折れた矢、矢のみが残り手元から失われた弓、どういうわけが奇妙に外反した左足、そして鬣を振り乱し叫ぶとも倒れ掛かるともつかない馬の様子、なによりも、じっと中空をにらむ騎馬武者の表情は壮絶な何かを感じさせてくれます。これがいったい誰なのか、またなぜこれが足利尊氏であるとされたのか、それに言及するつもりはありません。しかしこの肖像画は、学術的調査ではわからない何かを感じさせてくれる絵であると思います。

それにしても、戦前は逆賊、大悪人とされていた足利尊氏が、戦後は一転して新時代を切り開いた英雄だとされたように、この絵も足利尊氏の肖像画として従来までは当たり前のように教科書に紹介されていたのに現在では人物を断定できないとして教科書や資料集から姿を消している、この奇妙な関係性を思うと不思議な感覚を覚えます。やはり私の中であの肖像画は足利尊氏その人なのです。

学術的な裏づけのないまったく非科学的な話なのですが、あの絵は「足利尊氏的な何か」を持っているように思えます。「騎馬武者像」が足利尊氏なのか、それともまったく違う人物なのか、そして再びあの絵が教科書に掲載される時がくるのでしょうか、興味は尽きません。