宏樹の指で迎えさせられた、二度目の絶頂。
全身が倦怠感に包まれていた。
私は水着を脱がされた状態のまま、海の中で宏樹に抱きしめられていた。動きを止めた指はまだ中に入ったままだ。時折、小さなうねりに身体が揺れる。
どのくらいそうしていたのだろう。眠くなってきた頃、宏樹が耳元で囁いた。
「……帰るか」
いつの間にか、夕陽は水平線の下に沈んでいた。周囲は薄暗くなりはじめている。そろそろ帰らなければならない。
小さくうなずくと、指が引き抜かれた。何十分間も体内にあったものが急になくなって、逆に違和感を覚える。
裸のまま水から抱き上げられ、乾いた玉石の上に降ろされた。もう、見える範囲の海岸に人の姿はない。
そのまま水着を脱がされる。一糸まとわぬ身体にバスタオルが巻かれ、濡れた肌を拭かれる。パンツと、ジーンズと、Tシャツを着けられる。
私はその間、ただ黙ってなすがままにされていた。まるで着せ替え人形のように。
まだ海の中でのことのショックが残っていて、どう反応すればいいのかわからなかった。
宏樹も服を着る。濡れた水着とタオルをバッグに詰め、私に背負わせる。その私を抱えてオートバイの後ろに座らせる。
いつも同じ手順。だけど私は平静ではいられない。
来る前とは、なにかが決定的に違っている。
固くなった乳首が、薄い生地を持ち上げている。そんな状態で宏樹の背にしがみつくことには少なからぬ抵抗がある。
手首を固定される時には、反射的に腕を引っ込めそうになった。
私はひどく疲れていた。
久しぶりに遠出をして運動をしたせいもあるが、それ以上に精神的な疲労が大きい。初めての直接的な性行動による驚きと緊張によって、体力と精神力をごっそりと削り取られていた。
まぶたが重い。周囲が暗くなっていることもあって、眠くなってきた。くっつきそうになるまぶたを意志の力でこじ開けているのももう限界だ。
このままでは危険だろう。いくら手枷を填めているとはいえ、オートバイの後席で眠ってしまったら転倒は避けられない。
だけど家まではまだ遠い。一時間以上かかるだろうか。
「宏樹!」
信号待ちで停まった時、エンジン音に負けないように大きな声を出した。
「ごめん、眠くてもう限界。どこかで停まって」
「…………わかった。あと五分我慢しろ」
「ん」
この場合の「どこかで」とは、ファミレスとかハンバーガーショップとかの意味。だけどまだ街に入っていない。周囲にはそうした店はおろか、民家もろくに見当たらない。
数分後、宏樹がオートバイを停めたのは、街外れにぽつんと建つラブホテルの駐車場だった。
「……ここ?」
予想外の展開に、さすがに躊躇してしまう。ここなら確かに椅子もベッドもあるだろう。休憩するにはもってこいだ。
しかしこれは「ゆっくり休む」ための施設ではない。ある、ただひとつの目的のための場所だ。
そんなところに姉弟で入るだなんて。
生まれて初めてのラブホに姉弟で入るだなんて。
とはいえ付近には他に適当な場所もない。この季節に屋外で休んでいては、蚊の大空襲を受けることになる。
それでもやっぱり抵抗がある。
ただでさえ、血のつながった姉弟でラブホテルに入るなんて簡単にできることではない。それが、海であんなことがあった直後ではなおさらだ。
する気、なのだろうか。
宏樹はここで、私とセックスするつもりなのだろうか。
まさか。
いや、でも。
昨日までなら、そんなことはないと言うことができた。だけど今日は自信がない。宏樹がなにを考えているのか、なにをする気なのか、まるで予想ができない。
まさか私の方から「セックスするの?」なんて訊けるはずもない。
途方に暮れた私は、手枷を外されてオートバイから降りても、その場で動けずにいた。
手が肩に触れてくる。
「我慢できないくらい眠い時は、短い時間でもちゃんと眠った方がいいだろ」
「……そ、そう……だね」
嘘だ。
そんなの言い訳に過ぎない。また私に、なんらかの性的な行為をするつもりに決まっている。
それでも反論できなかった。
宏樹に促され、ゆっくりと歩き出す。腕に掴まって歩く姿が、まるで腕を組む恋人同士のように思えた。
建物に入って、無人のフロントに安堵した。
人に見られたくはない。まるで似ていない姉弟、たとえ見られても血のつながりがあるなんてわかるはずはないのだが、それでも見られたくはない。
部屋はほとんど空いているようだった。宏樹は鍵を取って、その番号が示す部屋へと私を連れていった。
なんとなく余裕を感じる動作だった。初めてじゃない、という雰囲気だ。あるいは垣崎と経験しているのかもしれないが、普段からあまり感情を表に出さないから本当のところはわからない。
もちろん私はラブホテルなんて初めてだった。セックスはもとより、男の子と付き合ったこともないのだから当然だ。
ラブホテル初体験が実の弟となんて、人としてどうかと思う。いや、ラブホどころではない。これから実の弟相手に、正真正銘の初体験をするかもしれないのだ。
そう思うと、ただでさえ力の入らない脚が震えた。立っているのも辛くて、宏樹に寄りかかるようにして室内に入る。
予想通りというか、室内で一番広い面積を占めているのは大きなベッドだった。周囲の壁は鏡の部分が妙に多く、そのベッドが眠るためのものではないことを思い知らされた。
あとはテレビと、小さなテーブルとソファ、飲物とスナック菓子の自販機、目についたものはそれくらいだ。
宏樹から手を離し、ソファに腰を下ろす。
鼓動が激しい。
どくん、どくん。
身体を通してではなく、直に耳に聞こえるほどに大きく脈打っている。
眠気なんてすっかり吹き飛んでしまっていた。
ここで、するのだろうか。
セックスするのだろうか。
宏樹に、血のつながった実の弟に、バージンを奪われるのだろうか。
どくん、どくん。
心臓が破裂しそうだ。
宏樹とセックスする、私はそのことをどう思っているのだろう。
嫌か、といわれると違う気がする。倫理的によくないことだとは思っているが、嫌悪感は感じない。
しかし、それを期待しているわけではないことも事実だ。宏樹とセックスしたいわけではない。
せずに済むならその方がいい、普段と同じ程度の接触だけにして欲しい、というのが本音だと思う。
姉弟で肉体関係を持ってはいけない。
恋愛感情を持っていない相手と肉体関係を持ってはいけない。
ごくありきたりの、私の倫理観。しかし宏樹が同じ考えとは限らない。
もしも宏樹がセックスすることを望むのなら、私はそれを拒めない。受け入れるしかない。
宏樹が要求することを拒むという選択肢は、私には与えられていない。
……そうだ。
今さらのように気がついた。
私には選択権がない。宏樹が望むことはすべて受け入れるしかない。
選択の余地がないのなら、悩む必要もないのだ。
これまでと同じでいればいい。なにも言わず、なにもせず、ただされるままになっていればいい。
そうするしかない。
どくん、どくん。
心を決めても激しい鼓動は治まらなかった。こればっかりは、これから初体験を迎えようとしている女の子としては仕方のないところだろう。
「……喉、乾いた」
緊張のためだろう、ひどく喉が渇いていた。宏樹が自販機を覗き込む。
「何がいい?」
「何があるの?」
「スポーツドリンク、烏龍茶、コーヒー、ビール、チューハイ、ワイン」
まあ、どこにでもありそうなメニューである。
「……ビール」
こんな異常な状況、しらふではとても神経がもたない。酔うことができれば少しは楽になるかもしれない。
普段、アルコールを口にすることはほとんどない。クリスマスのシャンパンとか、お正月のお屠蘇とか、あとはせいぜいごく希に甘口のワインか果汁入りのチューハイを悪戯するくらいのものだ。
そんな私がビールを要求するというのは異例のことなのだが、宏樹はなにも言わずに缶を開けて渡してくれた。
缶の上に細かな泡が盛り上がってくる。私は小さく深呼吸すると、一気に喉へ流し込んだ。
苦い液体。
痛いくらいの炭酸の刺激。
反射的に咳き込みそうになるのを堪える。慣れないビールに、喉が、そして胃が、熱くなっていく。
一缶を一気に飲み干して、空いた缶を宏樹に返した。そしてお代わりを要求する。
二本目も一気に半分近くを流し込んだものの、さすがにそれ以上は勢いが続かなかった。あとは一口ずつ、ゆっくりと飲んでいく。
宏樹もビールを飲み始める。
「あんた、運転は?」
「ビール一缶くらい、少し休めば醒めるって」
何気ない口調。しかし私は缶を持つ手に力が入った。
少なくとも、酔いが醒めるくらいの時間はここにいるつもりなのだ。その間、何をするつもりなのだろう。姉弟でビールを飲んで一眠りして終わり、の可能性は限りなく低い。
二本目のビールも空になる。さすがに顔が火照って胃がむかむかしていたけれど、さらにお代わりを頼んだ。ビールの苦い味はやっぱり苦手なので、今度はチューハイをもらう。宏樹も二本目はチューハイに手を伸ばした。
三本目が空になる頃には、私はかなり酔っていた。
もとよりアルコールに強い体質ではない。飲み慣れてもいない。鏡に映る顔は火がついたように真っ赤で、それはもちろん日焼けのためではない。宏樹の顔もいくぶん赤くなっているように感じる。
本当は、何もわからなくなるまで酔い潰れてしまいたかった。しかしその前に胃の方が限界だった。
空腹時に慣れないビールを一気に流し込んだせいか具合が悪い。吐き気すら覚える。
その上、アルコールで緊張が解けてきたせいで、再び睡魔が襲ってきた。具合が悪いのに眠くて仕方がない。眠いのに具合が悪いせいでなかなか眠りに落ちることができない。ぐったりとソファにもたれかかる。
「寝る前に、シャワーでも浴びた方がいいんじゃないか?」
「……ん……そだね」
半分寝ながら応える。遠ざかる宏樹の足音を聞きながら、大きなげっぷをする。バスルームから水音が聞こえてくる。
意識が眠りの淵に落ちかけた時、宏樹が戻ってきて私に触れた。
Tシャツを脱がされる。水着を脱いだ後、ブラジャーは着けていない。裸の上半身が露わになる。
「少し、日に焼けたか?」
胸の間の浅い谷間を指が滑る。
いくら日焼け止めを塗っていても、まったく焼けないというわけにはいかない。かすかに水着の跡が残っている。
手が下へと移動していく。手のひらでお腹を撫でる。
「腹、減ってないか?」
「……平気」
夕食は食べていないけれど、三缶の炭酸飲料のせいで胃はぱんぱんに膨らんでいた。
宏樹の指はそのままジーンズのボタンを外し、ファスナーを下ろしていく。ゆっくりと焦らすように、ジーンズが脱がされていく。そしてパンツも同じように。
ちょうど正面の壁に鏡があった。全裸でソファに座る自分の姿が映し出されている。改めて無毛の下腹部に気がついて、さらに顔が熱くなった。
宏樹もシャツを脱ぐ。日に焼けたせいか、普段よりより逞しさを感じる。ジーンズを脱ぎはじめたところで慌てて視線を逸らした。
全裸になった宏樹に触れられた時、びくっと身体が震えた。そのまま犯されてしまうかと思った。
しかし宏樹はなにもせず、私を抱き上げてバスルームへと連れて行く。
お湯を張った浴槽に下ろされる。日焼けで少し赤くなった肌にお湯がしみる。宏樹も入ってきて、海でしていたように背後から抱かれる体勢になった。
大きな手が、胸を包み込む。少し乱暴に揉まれる。
「……んっ、……」
指先が乳房にめり込む。痛いくらいにこね回される。
それでも私は感じていた。普段なら痛みを感じるような愛撫に、乳首が固くなってくる。アルコールのせいで痛覚が鈍くなっているのかもしれない。
「あっ……、んっ」
下も、触られた。割れ目の上を指が滑る。いちばん敏感な小さな突起を抓まれる。
その強い刺激に、堪えようとしても声が漏れてしまう。腰は無意識のうちに、指を受け入れようと動いてしまう。私の身体は知らず知らずのうちに、あの、海で感じたえもいわれぬ快楽を欲していた。
しかし、愛撫は長くは続かなかった。急に立ち上がった宏樹が、私の前へと移動してくる。
ちょうど目の前に宏樹の下半身があった。隆々とそそり立つ男性器を、初めて正面から直視してしまった。
今までも入浴時にはそれに気がついていたけれど、あえて見ないふりをしてきたのだ。これほど間近で、これほどはっきりと見るのは初めてだ。
それはびっくりするくらいに長く、太かった。本来は女性器に挿入するための器官であるが、しかし、そんなことが可能とは信じられなかった。
私の膣が今までに受け入れたことががあるのは、自分の指と先刻の宏樹の指だけ。
宏樹の股間にそそり立つものはその何倍も太くて長い。私の手首くらいの太さはありそうな気がする。これが私の膣に収まるとはとても信じられない。
あまり、見ていて気持ちのいいものとも思えなかった。まっすぐに上を向き、青い血管が浮き出て、鼓動に合わせるように小さく脈打っている姿は、グロテスクですらあった。
本能的な恐怖を覚える。全身の筋肉が緊張する。
いきなり、宏樹の手が私の頭を鷲掴みにした。髪を掴まれ乱暴に引き寄せられる。
「――っ!」
次の瞬間、驚いて悲鳴を上げようとした口に、大きく勃起した男性器が押し込まれていた。
ぐいぐいとねじ込まれてくる。
喉の奥を乱暴に突かれ、咳き込みそうになる。
最初に感じたのは、その熱さ。
それはまるで焼きたてのステーキ……いや、硬さを考えればスペアリブの方が近いかもしれない。
次に太さ。
けっして大きくはない私の口を、無理やり、いっぱいにこじ開けている。
そして長さ。
先端は喉に達しているのに、根元はまだ口の外にある。
私ってば、なにをさせられているのだろう。
宏樹ってば、私になにをさせているのだろう。
なにが起こったのか、しばらく理解できずにいた。
口の中に押し込まれている。
大きくて。
固くて。
熱くて。
太いもの。
それは、宏樹の男性器。
ペニス。
陰茎。
それが、口の中にねじ込まれている。
フェラチオ。
その単語を思い出したのは、私の頭を掴んだままの宏樹が、腰を乱暴に前後しはじめた後のことだった。
愕然とした。
フェラチオ。
口淫。
私は今、宏樹に口を犯されているのだ。
もちろん知識としては知っている。
今ではごくありきたりな性行為のひとつ。口を女性器に見立てて、男性のペニスを舐めさせたり、くわえさせたりする行為。
それは頭で考えていたよりもずっと難しい、苦しい行為だった。
私が無理なくくわえるには、宏樹のそれは少しばかり太く、長すぎた。似た形状で普通に口に入れるものといえばバナナやフランクフルトが思い浮かぶが、それよりも太くてずっと硬い。
人間の男性器に骨はないはずだが、それが事実とは信じられなかった。堅い木の棒に、薄い皮膚をかぶせたような印象を受ける。
歯を立ててはいけない、ということは知っている。しかし実戦するのは難しかった。口をいっぱいに開いていないとどうしても歯が当たってしまう。それでも宏樹は行為を続けている。
太さばかりではなく長さも、私の口には釣り合っていないように感じた。宏樹は私の頭を掴んで乱暴に腰を突き出してくる。喉の奥まで押し込まれ、息が詰まる。それでもまだ全体が口中に収まってはいない。口の外にはみ出ている部分がある。
何度も喉を突かれる。吐き気が込み上げてくる。具合の悪い時に、口に指を入れてわざと吐くようなものだ。一気飲みしたビールが逆流しそうになる。
激しく腰を前後させる宏樹。
乱暴に揺すられる私の頭。
すごい勢いで口の中を往復する肉棒。
息が苦しい。
掴まれ、引っ張られている髪が痛い。
苦しくて涙が滲んでくる。私は泣きそうになりながら、この陵辱に耐えていた。
こんなこと初めてだった。フェラチオが初めてなのは当然だが、問題はそこではない。宏樹に、こんな乱暴な扱いをされたのが初めてだった。
口を犯されていることはもちろんショックだけど、それよりも、宏樹に乱暴に犯されているということがショックだった。
そのショックの大きさにどうしていいのかわからず、ただなすがままにされていた。
熱い、固い弾力のある肉の塊が、舌を、内頬を擦っていく。
喉の奥まで押し込まれようとする。
息が苦しい。乱暴に揺すられて首が痛い。
気を失ってしまいそうだ。いっそその方が楽かもしれない。
視界が暗くなって、意識が遠くなりかけた瞬間。
頭を掴む手に、さらに力が込められた。
口の中のものが大きく脈打つ。
熱い液体が、一瞬で口の中いっぱいに溢れる。
射精。
簡単なその単語を思い出すのにも、やっぱり少しの時間が必要だった。
その間、口の中では固いペニスが二度、三度と脈打ち、その度に精を吐き出していた。
それは想像していたよりもずっと量が多くて、ずっと粘性が強かった。どろりとした液体が喉の奥に流れ込み、私は激しく咳き込んだ。
口から吐きだされた肉棒が、最後の飛沫を顔にかけてくる。生臭い臭いが鼻腔を満たす。
栗の花の臭いに似ていると聞いたことがある。確かに似ている。だけど本物の栗の花よりもずっと生臭い。それは植物と動物の差だと思った。
顔の上を、ぬるぬるとした粘液が滑り落ちていく。口中にどろりとした嫌な感触が残っている。
無意識のうちにそれを飲み下そうとする。しかしその瞬間、激しい吐き気に襲われた。
手で口を押さえる間もなく、胃の内容物が噴き出してくる。私は浴槽から上体を乗り出して嘔吐した。
タイルを叩く水音。
夕食を食べていないので固形物はほとんど含まれていない。飲んだばかりのビールとチューハイに胃液が混じった、苦酸っぱい液体が口から溢れ出す。
その中に生卵のカラザに似た白い物体を認めて、それがなにか理解したところで、さらに吐き気が増した。
止まらない。胃の中が空になって胃液さえ出なくなっても吐き気が治まらない。
涙と涎が滴り落ちる。私は浴槽から身を乗り出したまま、荒い呼吸を繰り返していた。
顔を上げて、宏樹を見ることはできなかった。ただうつむいて、床のタイルを汚す濁った吐瀉物を見おろしていた。
なにも考えられなかった。
なにも言えなかった。
唇の端から胃液の混じった涎を滴らせながら、頬の上を生臭い粘液が流れ落ちるのを感じながら、ただ呆然としていた。
背後で宏樹が動く気配がする。手を伸ばしてシャワーを掴むと、タイルの上の汚物を洗い流しはじめた。
濁った液体が渦を巻いて排水口に吸い込まれていく。
床が綺麗になると、シャワーのノズルは私に向けられた。
顔を汚していた精液と吐瀉物が流れ落ちる。
それから私を抱え上げて椅子に座らせると、宏樹はいつもと同じようにシャンプーをはじめた。
いつもと同じ?
いいや、違う。
髪を洗ってくれる宏樹の手つきは、いつもより少しだけ乱暴だった。
バスルームを出ると、ベッドの上に放り出された。
身体が弾んでバランスを崩した一瞬、宏樹と目が合う。
怒っているような、思い詰めているような、ひどく恐い目をして私を見ていた。
あれは獣の目だ。
獣の欲望に支配された牡の目だ。
同じような目を中学時代に見たことがある。
気に入らないクラスメイトを、血まみれになるまで殴っていた時の竹上の目。
その事件の少し後、誰もいない屋上で私を襲おうとした時の竹上の目。
今の宏樹はそれと同じ目で私を見ていた。
股間の男性器は、大量の射精にもまるで勢いを失わずにそそり立っている。
これから犯されるんだな――と、ぼんやりと考えた。
宏樹とセックスする。バージンを奪われる。
私の意志とは無関係に、力ずくで。
嫌だ、とか。
怖い、とか。
不思議と、そんな感情はほとんど感じなかった。
口を犯されただけで十分だった。すっかり感覚が麻痺していた。宏樹に初めて乱暴な扱いをされただけでもう十分だ。最後までしようがしまいが大差はなかった。
どうにでもなれ、という心境。少しばかり自棄になっているのかもしれない。
私にはどうすることもできない。宏樹にされるまま、すべてを受け入れるしかない。
こうしてベッドに横になって、宏樹の好きにさせればいい。
それでも、少しだけがっかりしていたのは事実だ。
私だって年頃の女の子。一応、初体験には憧れもある。素敵な経験であって欲しいと思う。
それなのに弟となんて。
しかもレイプだなんて。
いつかは宏樹と肉体関係を持つ日が来るだろうと、予想はしていた。宏樹の接触に性的な意志が感じられるようになった頃から、漠然と思っていた。
それを望むわけではないが、初めての相手が宏樹になる可能性は考えていた。それでもこんな乱暴な陵辱はまったくの予想外だった。
そう、例えば。
ある日、宏樹が恥ずかしそうに告白するのだ。「俺……沙耶のことが好きなんだ。姉じゃなくて、女として……さ」と。そんな場面を想像したことがないといえば嘘になる。
そうした状況なら、私は戸惑いつつも素直にうなずいていたことだろう。
だけど、こんな初体験はまったく期待はずれだ。全然、素敵な経験なんかじゃない。きっと一生残る苦い思い出だ。
今なら……まだ。
やめて。
お願いだから、やめて。
乱暴なことはしないで。
いま謝れば、許してあげる。
そんな想いを口にすれば、今ならまだ間に合うのかもしれない。
はっきりと拒絶すれば、宏樹は諦めてくれるのかもしれない。
だけど声が出てこない。
私には、宏樹が望むことを拒絶することはできない。宏樹を失う危険は冒せない。
全裸のまま、宏樹がベッドに上がってくる。
ああ、いよいよだ。
とうとう犯されてしまう。
せめて、あまり痛くないといいな……と思いながら、目を閉じようとした。
しかし宏樹の行動は、また私の予想を裏切った。
仰向けになった私の顔の上にまたがってくる。目の前に、大きな肉棒が突きつけられる。
「……あ」
それが、口の中に押し込まれる。
「んっ……んんっ、んぅんっ、んっ!」
宏樹の腰が上下する。
熱い肉棒が私の喉を貫き、一気に引き抜かれ、また奥まで突き入れられる。
激しい動きが何度も何度も繰り返される。
宏樹は私の口を相手にセックスしていた。お風呂での行為よりもさらに激しく、私の口を陵辱していた。
荒い息づかい。
私のくぐもった呻き声。
ベッドのスプリングが軋む音。
乱暴な抽送が繰り返される。いきり立った男性器がピストンのように往復する。
また吐き気が込み上げてくる。胃の中に吐くものが少しでも残っていたら堪えることはできなかっただろう。
「んっ……ぐ、ぅぐ……んっ、ぅうっ……」
私は吐き気を堪え、溢れそうになる涙を堪えながら、この陵辱に耐えていた。
だんだん動きが大きく、激しくなってくる。
口の中をめちゃくちゃに犯している。
もう限界だ、と思った時、口の中で小さな爆発が起こった。
「うぅっ……くっ」
嫌な味の、生臭い液体が口いっぱいに広がる。唇の隙間から溢れてくる。
激しい嘔吐感。胃が絞り上げられるようだ。
咳き込み、吐きだしそうになるけれど、大きなペニスに口を塞がれていてそれも叶わない。
宏樹の分身、欲望で膨らんだ肉棒は、まだ私の口中を占拠していた。
勃起した男性器は、射精すると小さくなるのではなかっただろうか。口の中にあるそれは、大きさも硬さもさしたる変化を見せていない。
射精を終えて動きを止めていたのは、ほんの短い時間だったろう。宏樹がまた動きはじめる。
二度の射精にも萎えることなく、宏樹は私の口を犯し続けていた。
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