◇勤務内容記録はいらない? 「問題のすり替え」と専門家批判
(ラジオフォーラム リ・シネ)
「じゃあ、国会議員は全部、勤務実態を出してますか?出してないでしょう。『特別職』というのは勤務実態がないんです」
特別秘書の奥下剛光氏の勤務実態を問う記者に対し、橋下徹大阪市長はこのように答えた。国会議員、あるいは議員秘書と、橋下氏自らが条例を作って採用した大阪市の特別秘書を一からげにした発言だ。長らく「政治とカネ」の問題に取り組んできた弁護士の阪口徳雄さんは「すり替えだ」と憤る。
今年2月13日、大阪市民79人が、橋下市長に対して、奥下特別秘書の問題に対して住民監査請求の申し立てを行った。その内容は、
①不当な条例によって採用した特別秘書に支払った給与、手当、賞与などの全てを秘書から返還させる。
②仮に条例が不当でなかったとしても、特別秘書が大阪市の公務に従事していなかった間の給与、手当、賞与の相当分を返還させる。
③特別秘書に対して、今後、給与、手当、賞与など一切の費用の支給をやめる。
以上の3点であった。
阪口さんはこの申し立てを弁護士の立場からサポートした。
弁護士の阪口さんが共同代表を務めるNGO「政治資金オンブズマン」は、昨年11月に奥下特別秘書の待遇と勤務条件について大阪市に情報公開請求した。市が明らかにした奥下秘書の給与は月額35万円余り。それに手当が加算される。
そして賞与は、採用からわずか4カ月後の夏のボーナスは満額とも言える80万円余りだ。また昨年末の衆議院の選挙期間中は休職扱いとなっていたにもかかわらず、冬のボーナスでは74万円余りが支払われている。年間で600万円近い。
阪口さんは次のように指摘する。
「600万円は課長級の給与。本来は内規で定まっているはずの勤務内容がまず定まっていなかった。特別職であっても、秘書課の職員であるため市役所内部の資料にどんな仕事に関与したのか文書がなにかしら残るはずだが、2012年2月1日から10月末までの期間、一切それはなかった」
つまり、奥下氏が仕事をした痕跡が市役所内に公式な文書としてまったく残されていなかったというわけだ。
奥下特別秘書はどんな仕事をしているのか?橋下市長に直撃すべく、ラジオフォーラムは、3月11日大阪市役所を訪れ、まず次のような質問をぶつけた。
「2月13日に市民が、奥下特別秘書の問題について、住民監査請求をしました。その日の会見で、『条例を作って採用したので問題ない』とお答えでしたが、奥下さんは、昨年はタイムカードの記録もない、業務内容の記録もありませんでした。選挙期間中には維新の仕事を手伝っていたのではないかとの疑惑もあります。この件についてどう考えますか」
橋下市長は
「『特別秘書』は『特別職』ですから、勤務時間の概念がありません。24時間、365日、超過勤務手当もない」
と即答。
ラジオフォーラム記者の質問に答える橋下大阪市長 3月11日 撮影リ・シネ |
「勤務『時間』は決まってないとはいえても、勤務『実態』はあるもの。そこをすり替えている。客観的に奥下氏が大阪市の会議に出席したと、もしくは他の会派との調整に参加したとの文書があってもいいはずだが、それもない」
と切り捨てる。
また、橋下市長は、特別秘書が必要だとして
「『特別秘書』を問題視するなら国会議員の秘書をもっと問題視すべき。申し訳ないけど新人の国会議員より僕の方が仕事量は多い。それに比べれば効率的にやっている」
と述べた。
これに対し阪口さんは
「大阪市長の『特別秘書』を国会議員と比較するのもすり替え。比較するなら同じ政令指定都市の横浜市などが妥当であり、横浜市には『特別秘書』は設置されていない」
と指摘している。
就任以来、財政難を理由に大阪市職員の給与カットを進める橋下市長。全国的にも注目を集める"改革の旗手"を演じながら、自分が条例まで作って採用した奥下特別秘書の働きぶりについては、不明瞭な点が多いといわざるを得ない。
奥下特別秘書の疑惑について、さらに橋下市長に迫った。(続く)
※阪口徳雄弁護士 1942年12月生まれ、「政治資金オンブズマン」共同代表として、政治とカネの問題について調査・告発を続けている。
※リ・シネ ライター