塩辛の作り方です。

 初めて塩辛を食べたのは小学生の時でした。近所のオジサンが実に変なものをしかし本当に美味そうに食べていたんですね。泥を水で捏ねたようなドロドロした中からナメクジみたいなものを摘み上げてご飯の上に載せパクッと口の中に入れてはコクコクと入れ歯の音をさせ( 当時の総入れ歯は精度が低くて口を動かすだけで音がしたんですね。でもそれがエも言われぬ美味さの象徴を音で表現しているように聞こえたんです )て食べているんです。それは塩辛と云うものだと知って憧れになっていたその塩辛を、「かあちゃん、オラもあれが食いてえ」で( そんなものすぐ食べさせてもらえます )食べたんです。
 「ウワーッ」食べた、と言うより口の中に入れた瞬間に叫び声を上げ、べッべッ(塩辛を吐き出す音)ペッ、ペッ、ペッ(唾を吐き散らす音)ガラガラガラ(うがいの音)で、もう金輪際塩辛なんて食わない、見るのも嫌だ、なる当然の結果で、しかし塩辛初体験は終わった訳です。
 熱々のご飯に載せて口の中に放り込むように入れ、舌に触れさせず余り噛まずに、ゴックンと呑み込むと美味いんだ、で食べられるようになったのは二十歳前後になった頃ですが、お酒を飲むようになってからは(私はお酒が三十歳近くになるまで一滴も飲めませんでした。だから宴席での下戸の辛さが良く解かるのです。それで今でも、他人の酌は受けますが、絶対に他人には(相手がどれ程の飲兵衛だろうと)酌を致しません。飲む飲まないはあなたの好みでお好きなように、ですから)好きな酒の肴の一つで、塩辛単独で、勿論よーく噛んで、食べています。
 使うイカは刺身用と表示されているものを買って(*注*お金が無くて買えない人は仕方ありません、万引きしてもいいですけど、その場合は貧乏じゃない商店からにしてください「オイオイ…」)来ます。塩辛なんてどうせ生臭いんだから、で材料の吟味をイイカゲンにしてはいけません。皮を剥いたら胴体部分を先端と真ん中本体と後端の三つに切り分けます。厚い本体部分は塩辛にせず(塩辛にするなんて! そんなもったいないことする訳ない! )お刺身にして食べるからです。目ん玉は実に恨めしそうな目なので捨てます。軟骨化している部分はどうやっても柔らかくなりませんからこれも切り取って捨てます。後は全部使います。
 真ん中以外の胴体、ミミ、足、をお好みの大きさに切ります。全部の内臓は切り刻みます。(塩辛は見た目の悪いものですから墨袋もそのまま入れてもちょっと黒ずむくらいのものです。未消化の胃の内容物も気にしません。なんであれ結局皆んな溶けちゃいますから)それからそれらを全部いっぺんに器へ一緒くたに入れ、豆板醤を適量(自分の好みの辛さ)加えてグチャグチャに混ぜます。そしてアジシオを、ちょっとしょっぱくないな、まで加えます。その後で醤油を自分の好みのしょっぱさになるまで加えたら、後は味の素と粉末煮干(いりこダシの素って言うの? )をちょっとだけ、おろしニンニクをちびっと(ニンニクは隠し味です。ニンニクを入れたことが判るような量を入れてはいけません )、お好みでトマトケチャップをこれもちょっとだけ入れて、もうただグチャグチャにかき混ぜて、終わり、です。こうして室温で一昼夜置いて置けば自家消化がちょうど良い塩梅に進んだ、出来たての塩辛を食べられます。残ったら、チルドで保存して(しかし一週間くらいでしょうね、最長それでも)置いて下さい。
 絶対に守って下さい、は甘味系の調味料は入れない、と云うことです。味醂は勿論お酒も駄目です。爽やか系香辛料(生姜なんかですね)も入れてはいけません。要するに、塩辛と云うものは、そう云うものなのです。