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スポーツ報知>コラム>城田憲子の「フィギュアの世界」

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全日本選手権(札幌)男子総評

全日本選手権に初優勝した羽生結弦(中)と2位の高橋大輔(左)3位・無良崇人

 羽生結弦のSPの曲はブルース「パリの散歩道」。振り付けを担当したジェフリー・バトルとのユニゾンは思いのほかマッチしていたようだ。バトルが羽生の才能を上手く使いこなしているとも言えるだろう。さらには、カート・ブラウニング、デビット・ウィルソンらも羽生への助力を惜しまなかった。それはトロントに移った頃から、すでにブライアン・オーサー・コーチの構想の中に入っていたという。ブライアンの確かな目とチーム・ブライアンにその身を委ね、結果出来上がったのがこのSPだ。

 ジャンプは、まずステップからの4回転トーループを軽々とタイミングよく上がり、軸、回転の速さ、ランディングと見事。ここは3点の加点を付ける価値がある。トリプルアクセルは羽生とオーサーが考えた作戦で、後半に跳んでも大丈夫と読み、1・1掛けのルールをきちんと活用。アクセルはカウンターターンから跳び、コンビネーションジャンプの前後にも工夫したステップを入れ、そつなく加点対象とした。一つ一つのエレメンツをこなすごとに、少しずつ加点がたまっていく…。これが、今季のSPで高得点を得ている大きな要因だろう。

 3つのスピン要素で見せたのは、曲想を意識しつつ、他の選手がやらないオリジナリティーあるポジション。カナダのゴールデンチームだけでなく、2年前からサポートしてもらってきたロシアのベステミアノア&ボブリン夫妻の影響も大だ。彼ら2人とも、要素を彩るためのアイディアが満載で、羽生が学んだことも多かっただろう。ステップでもブルースのけだるい雰囲気を、18歳は若さをもって演じてしまう。何と言っても間の取り方が絶妙で、羽生自身の曲のとらえ方も共感を呼ぶ。スコアは記録を更新し、97・68点をマーク。2位の高橋と9・64点差でのスタートとなった。

 迎えた翌日のフリー。最初は得意の4回転トーループで珍しく着氷が乱れた。続くサルコーは4回転になったものの、ランディングがイーグルのような降り方になってしまい、減点。意図的に後半に持ってきた5連続のジャンプ、これは今の羽生には少しきついような感じがした。GPファイナルで体調を崩し、なかなか回復しなかったというが、体力面はどうだったか。少しやせているようにも見えたし、一つ一つの要素で、少し力がないようにも感じた。

 いつもはレベル4を取れるスピンでも取りこぼしがあった。ステップではレベル4とはいかなかったが、18歳になったばかりの羽生には少し難しかった曲想を、それなりにこなす才能の片りんを見せた。アップ&ダウンやメリハリは、いつもより欠けていたかもしれない。しかし、音楽に助けられるのではなく、彼自身の演技の質を持って音楽と共に盛り上がる大人のプログラム構成は、きっと羽生を成長させてくれるに違いない。フリー2位、総合1位と高橋の追い上げをかわし、初めて全日本王者となった。

 高橋大輔は、リンクに降り立っただけで確固たる存在感がある。会場の空気を自分のものにできる、数少ない選手だ。アスリートとして肉体的にも精神的にも強じんな力を発揮できるのは、膝のケガから立ち直った経験値と、過酷な戦いから得ているエネルギーゆえだろうか。

 SPはロックンロールのメドレー。彼の得意分野だ。しかし7つの要素を確実にこなすことを求められる初日は、高橋といえども緊張が走る。冒頭は男子の勝敗の分かれ道となる大技、4回転トーループ…。着氷が乱れて回転不足に。3回転ルッツは間違ったエッジの踏切で「e」マーク。続くトリプルアクセルはリズムに乗り、高橋らしく跳んだ。スピンの要素では、独特の特徴を生かしたポジションで見せてくれた。

 ステップはお手の物、彼の最大の見せ場だ。リンクを自由自在に使い、「高橋の命」ともいえる技術で氷上を舞台に変えてしまう。これは観客、ジャッジまでもが見入り、吸い取られそうな迫力だった。ビートの強弱を上手く利用し、鍛練した滑りと足さばき、ステップシークエンス…。一つのストーリーを見るような錯覚に陥ってしまう。レベルは3だが、全てのジャッジから加点3を得ることが出来た。そのまま最後のスピンコンビネーションへ―。これがまた高橋らしいオリジナリティがある。4回転の回転不足とエッジの「e」マークが響き、羽生に技術点で差をつけられ惜しくも2位発進だった。

 フリーは時間が長い分だけ、高橋の魅力がいっそう満喫できる。序盤の4回転トーループをきれいに降りた。続く4回転トーループ+2回転トーループに回転不足が付いたが、流れは止まらなかった。トリプルアクセルは入りも出もスピードがあって気持ちの良いもの。後半の5連続ジャンプは、最初のトリプルアクセル+2回転トーループ+2回転ループの3連続ジャンプの最後が回転不足になったものの減点とまではいかず、加点が付く。それほどスケートが良く乗っていたのだ。3つのスピンもレイバックを含め、オリジナリティあるポジショニングを見せてくれた。

 得意のステップシークエンスは、音楽の盛り上がりとともに気持ちの高ぶり、気合も十分見せつけた。さらに観客からの熱い応援もあり、一層、シークエンスを盛り上げていく。コレオステップも曲想に合う流れのあるもので、終盤ながら感情の入り具合も見ごたえがあった。全体を通じて、最高の出来―高橋だからこそできる名演技だった。観客、ジャッジ、いや、アリーナ全体と高橋は会話しながら滑った。それも、とびきり熱い会話だ。

 彼は、やはり大人になった。好みの曲という「道化師」に乗り、演技の高みを自身で作り上げ、曲を盛り上ると同時に自分の演技も盛り上げていった。音楽も、演技派の彼の良さと感情を思い切り氷上で出すことが出来る、もってこいの曲だ。さらに観客の熱い視線をエネルギーに変えていく出来で、彼自身も満足だったのではないか。フリーは1位だが、羽生のSPの得点差に追いつけず、総合2位。しかし、緊張をも力に変えて仕事をやり抜いた高橋。立派だった。

 上位陣に追いつけ追い越せと、無良崇人は2年前から米コロラドスプリングスでの練習を重ねてきた。コーチは父・無良隆志だが、その傍らでトム・ディクソンが振り付けと監修。また、厳しいトム・ザカライセックにも協力を仰ぎ、一歩ずつ階段を駆け上がってきた。昨季はSPとフリーの2本をそろえることが出来なかったが、今季はGPシリーズのフランス杯で優勝。経験値も徐々に上がってきたところだ。

 SPは「マラゲーニャ」の曲で勇ましく氷上に立った。「男のジャンプ」の跳び手と呼ばれる彼、序盤は4回転トーループ+3回転トーループで挑む。高いジャンプ、飛距離も十分あり、豪快だ。続くトリプルアクセルでも豪快さを見せつけてくれた。少し甘めのステップからの3回転ルッツも「男のジャンプ」。あれだけの高さを跳ぶためには、相当なスピードも必要だろう。ステップシークエンスも「マラゲーニャ」に合わせて男っぽく。7つの要素を一つずつ丁寧に進めていき、何年か前の無良とは違うところを見せて行く。滑り、ジャンプ、スピン、ステップが一本の線でつながってきたようにも感じた。4位と表彰台を狙える位置にまず身を置いたことは、一歩前進だ。

 期待のかかったフリー。無良のキャラクターとマッチした曲「Shogun」。日本風のアレンジに動作もぴったりとはまっている。序盤、4回転トーループは少しバランスを崩した形で着氷。相変わらず高さのあるジャンプだ。トリプルアクセルは質の良い豪快なジャンプを見せつけてくれる。しかし、もう一つのトリプルアクセルが1回転半になり、3回転フリップが「e」。7つのジャンプには少し乱れが生じたが…男っぽさは健在だった。

 スピンもポジションがしっかりしてきたし、ステップシークエンス、コレオステップとも曲想に合わせたもの。氷上にターン、ステップを描き、さらに上半身も足の動きに合わせ大きく武士らしく踊った。上位進出を志して2年。個性を武器に、勝つために鍛練した成果はあったようだ。今後も勝ち抜くために、精進していってくれるだろう。フリー4位、総合3位で、2年連続4大陸と4年ぶり2度目の世界選手権への切符を手にすることが出来た。

 織田信成もSPの失敗から立ち直り、フリー3位。しかし上昇仕切れず、総合4位で4大陸と世界選手権のビッグ大会出場権を逃してしまった。才能ある彼のこと、このままでは終われない。来季に向けて一層、策を講じながら挑んでくるだろう。

 男子の選手たちは、自分の個性をフル活用しつつ「されどジャンプ」という感じがした。今後は、何よりもジャンプの確実性を増してほしい。2種類の4回転を跳ばなければならない時代は、目の前にきている。戦う男子選手たちには、心から頑張ってほしいと思う。

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(2013年1月13日13時28分  スポーツ報知)

著者略歴 城田 憲子(しろた・のりこ)

 1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。

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