伊藤真弁護士が語る『ご存知ですか?日本国民は憲法を守る義務なんてありません。』

18:33

2013年3月21日に放送されたTBSラジオ「ニュース探究ラジオDig」では、司法試験予備校として名高い『伊藤塾』を主宰する伊藤真さんがゲストに登場。「護憲、改憲を言う前に・・・憲法とは何かを考える。」というテーマで日本国憲法についてアレコレ議論されていた。そして冒頭あたりで伊藤さんが仰ったのが「日本国民は憲法を守る義務なんてありません。」という話です。なんでも、日本国憲法の根底には立憲主義という思想があるようで・・・。また自民党が作成した憲法草案がトンデモナイ内容だという話も・・・。
■会話をしている人物

伊藤真 (弁護士 / 資格試験指導校「伊藤塾」を主宰)
青木理(あおきおさむ / ジャーナリスト)
江藤愛(TBSアナウンサー)


 
伊藤 憲法ってのは我々国民が守る義務は全くないんですよ。

青木 うん
江藤 えっ、そうなんだ

伊藤 我々国民は憲法を守る義務なんてありません。

青木 どうですか、江藤さん。ビックリですよね。

江藤 はい

伊藤 江藤さんなんかね、憲法を別に守んなくてもいい・・

江藤 え、いいの?

伊藤 別に守る義務なんか、負わされてなぁーいんです。『え、ちょっと待って、じゃあ憲法は誰が守んのよ?』って話になるじゃないですか。

江藤 はい

伊藤 憲法は、政治家とか官僚とか裁判官とか自治体の知事、えー、首長とか職員さんとか、公務員の皆さんたち。もっと言えば、国の側や自治体の側で仕事をする、そういう皆さんたちが守らなければいけない法なんですね

江藤 うん?

伊藤 まぁちょっと、代表して分かりやすく官僚、政治家でいきましょうか。官僚や政治家の皆さんたちが守らなければいけなくて、『じゃあ国民はどうすんのよ?』。国民は彼らに守らせる責任があるだけなんですよ。

江藤 へぇー

伊藤 国民がこの憲法を作って、政治家や官僚に、『この通り政治や仕事をやんなさいよ!』。

青木 うん

伊藤 我々国民が、政治家たちに押し付ける命令書っていうかな

青木 うーん
江藤 うーん

伊藤 『この通り政治やりなさいよ!』。国民が彼らに押し付ける。国民が彼らに守らせるものであって、国民が守るモノじゃ実はないんですね。

青木 うーん

江藤 それってどこかに書いてあるものなんですか?

伊藤 それはねぇー、ハッキリそう書いてあるわけじゃないんだけど、そういう趣旨だよってハッキリ分かる条文があるんです。

青木 うん

伊藤 ちょっと読み上げちゃっていいですか?

江藤 はーい
青木 どうぞどうぞ

伊藤 あのね、憲法の99条ってコレね、実は一番最後の、実質的な条文なんですね。

青木 うん

伊藤 憲法って第、全文があって、第1条から99条までが実際に使われる条文なんですが、第99条、ちょっと読み上げますね。

青木 はい

伊藤 『天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。』

青木 うんうん

伊藤 もういっぺん言うとね、天皇、摂政、国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。ここに国民をあえて入れていないんですよ。

青木 うん
江藤 へぇー

伊藤 国民にね、憲法を尊重して擁護しろとは一言も言っていない。

青木 うん

伊藤 それは、国民は守る側ではなく守らせる側なんだ、ということですね。

江藤 誤解・・というか、分かっていない・・

伊藤 わかっていない。だって僕だって分かってなかった。うん、大学入って憲法勉強するまで全然知らなかった。



● 更に、日本国憲法の根底に流れる立憲主義について解説していた。

青木 それの、その心っていうのはね、なかなかそのー、何故じゃあ憲法っていうものを制定してですね、そのー、まぁ、『天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員』。まぁおよそ公務員ですよね。公務員、官僚とか政治家っていう風にくくれる。まぁ裁判官なんかもそうですけど

伊藤 はい

青木 その人たちに守らせるんだと。これをいわゆる立憲主義っていうんですよね?

伊藤 そうですね。要するに公務員の方々っていうのは国の側で仕事をするようん人たちですよね。その人たちの仕事って色々あるんですが、重要な仕事が『権力』という力を使う。権力って『有無を言わさぬ力』みたいな。例えば逮捕されちゃったりだとか、とかいうのも1つの権力かもしれないし、それから法律を作ってこの法律に従いなさいよ!っていうのも権力かもしれません。裁判をしたりだとか行政をしたりとか法律を作ったりする、そういう国の側が行う権力の行使を憲法で縛るんですね。

青木 うん

伊藤 国を縛って、『じゃあ何の為にそんなね、権力、国を縛るの?』

青木 うん

伊藤 なんか『権力』って怖いイメージなんですけど、要するに国というのは力がないと、国を治めることが出来ないじゃないですか。みんな好き勝手なことやっちゃうと困るんで、やっぱり国には権力という力がどうしても必要なんですね。

青木 うん

伊藤 ところがその権力というのは、とても大切で必要なものなんですが、時にそれが間違って使われちゃうと大変なことになっちゃう。まぁ冤罪とかね、不当逮捕だとか、そういうことってあるじゃないですか時々。

青木 うん

伊藤 そういうことが蔓延しちゃうと困るんで、だからその国の権力の行使を憲法で縛る、というのを立憲主義っていうんですね。

伊藤 『じゃあ何のためにそんなことするのよ?』ってことですが、それは一人ひとりの、まぁ市民の人権、自由を守るためなんですね。

青木 うん

伊藤 私たちが幸せに、自由に生きることが出来るようにするために、・・やっぱ、国を縛るための道具、そのように個人の人権を守るために憲法で国家を縛る。これをね、立憲主義、憲法によって立つ政治っていうね。憲法で立つっていう立憲っていう字を書くんですけどね。立憲主義っていう言葉で表すんですね。



● 更に、青木さんが『でも日本国民には、勤労・納税・教育という3大義務がありますよね?』という質問をしていた。

青木 『ハイ!先生!』って感じなんですけど(笑)。憲法の中で、とはいえ、義務、国民の義務ってのが・・・

伊藤 ありますね。

青木 今の現行憲法でいうと3つですか?えーと、納税と、それから勤労は権利であり義務なんですよね?

伊藤 そうです。

青木 それともうひとつ何だっけ?

江藤 教育?

青木 えーと、教育の義務か。

伊藤 そーです

江藤 あーよかったー!

伊藤 アハハハハ(笑)

青木 この3つってのは、義務であると。なぜ国を縛るべき、権力を縛るべき憲法にもかかわらず、この3つに関しては憲法の中に書かれているってことなんですか?

伊藤 はい。とても良い質問です。

江藤 お!『青木くん偉い!』とか言って(笑)

青木 ありがとうございます(笑)

伊藤 ハハハ(笑)。元々憲法は個人の権利や人権を守るためのものだから、憲法の中に義務って実は書く必要まったくないんですよ。

江藤 ふーん

伊藤 だから本当はその3つも無くてもよかった。

青木 うん

伊藤 無くても良かった。で今、3大義務、ね、指摘していただきましたけど、例えば、あのー、教育を受けさせる義務、これね親の子供に対する責任みたいなものですよね。

青木 あぁー

伊藤 それから勤労の義務っていうのも、『強制労働しろよ!』っていうんじゃなくって、ちゃんと働ける、働く能力も機会もあるのに働かないでプラプラしているような人には、ちょっと生活保護とかは出せませんね。っていう位の意味合いぐらいしかないんですよ。

江藤 ふーーん

伊藤 義務らしい義務はね、納税の義務。これはね、完全な義務だよね。

青木 うーん
江藤 うーん

伊藤 だって税金を払わないと脱税とかで刑罰を科されちゃう。納税は立派な義務。だけどその納税の義務ですら実は憲法の中に書いている国は少ないです。

青木 ふーん

伊藤 ロシア、中国、日本、イタリア、スペインくらいかなぁ。韓国もあったかなぁ。

江藤 へぇー

伊藤 アメリカの憲法にもイギリスの憲法にもドイツの憲法、フランスの憲法にもそんなものは書いていない。それは法律で、税法という法律で国民に義務を課せばいいだけのことでしょ?っていうことなんですね。ただまぁ、納税の義務は主権者たる国民が、この国を作っていますから、自分たちが作った国なんだから、その国を動かす費用は自分たちで払いましょう、という意味合いでまぁ納税はあっても良いのかなと思いますが、本質は人権を守るための法ですから、憲法の中には権利や自由の規定ばかりなのは当たり前なんですね。



● 更に、自民党が作成した憲法改正草案がトンデモナイ内容だという話をしていた。

青木 まぁ自民党ですね、今政権与党ですけど、日本国憲法改正草案ってのをですね、平成24年ですから去年になるんですかね

伊藤 去年ですね

青木 去年の4月27日に、これぇ決定という事でまぁ出している訳ですね

伊藤 はい

青木 で、これを見るとですねぇ、そのまぁいくつも、僕なんかは今の話を聞いていると少し疑問に思っちゃうところがまずあるんですけれど

伊藤 はい

青木 コレどうしようかな。個別に伺った方がイイですよね?例えば、

伊藤 はい

青木 そのー、憲法尊守義務っていうか順守義務ちゅーんですか。

伊藤 はい、憲法尊重擁護義務(けんぽうそんちょうようごぎむ)

青木 憲法尊重擁護義務ですか。でそのー、仰っていた、伊藤さんが仰っていた現行憲法でいくと99条は、国民は別に守るなんてことは明記されていないと。

伊藤 義務はないよ、と。

青木 ところが自民党の憲法草案だと、えー、これ102条になるんですけども、あの後段にね、やっぱり『公務員はこの憲法を守る義務がある』と、まぁ基本的な状況は変わっていないのかもしれないけど、その前段に『全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。』と

伊藤 はい

青木 国民も、尊重しなさいよと。

伊藤 守る義務があるということですね、実質的には。

青木 こういうのが入るっていうのは、今のお話を聞いていると、いわゆる立憲主義からは方向が違うんじゃないの?っていう気もするんですが

伊藤 まぁその通りですね。全く逆方向。要するに立憲主義を否定するに近いんですね。

青木 うん

伊藤 しかも2項を見てみますとね、天皇、摂政、外れているんですよ。

青木 はぁはぁはぁはぁ

伊藤 天皇、摂政は憲法を守んなくていいっていう、そういう条文になっちゃっている。まぁこれは憲法と別のテーマかもしれませんが、天皇というものを縛るというのが今の憲法の実は重要なポイントなんですね。

江藤 うん

伊藤 明治憲法の時代は、まぁ天皇が主権者でした。それを、ある意味では政治利用しちゃったっていうそういう反省から天皇の権力は縛って、『天皇には政治には関わらせませんよ。』っていうのが今の憲法の第一章。

青木 うん

伊藤 それから、戦前はやっぱ軍隊が暴走しちゃいましたから、そういう軍隊は持たない。『軍隊も縛りますよ。』というのが今の憲法の第二章、戦争の放棄なんですね。

青木 うん

伊藤 すなわち明治憲法の反省から、天皇の権力を縛って、軍隊の行動を縛って、それで初めて人々の人権が保証されますねっていうんで第三章という国民の権利って置いたんですよ。

青木 うん

伊藤 ですから、立憲主義の観点から、憲法で天皇の権力を縛り、軍隊を縛ってっていうのが立憲主義。これ昔から重要なことなんです。どこの国でもそうなんですが、ところがこの自民党の改正草案102条の2項で天皇、摂政を憲法を守る義務を負わせていないんですよね。外しちゃった。どういう事なんだって・・。

江藤 外した理由はなんなんですか?

伊藤 いや分かんないです。憲法を超越する存在として天皇を置いているのかもしれませんね。天皇に憲法を守れなんて言うのは恐れ多いと、いう事なのかもしれませんけれど、それは・・・。

江藤 国民が尊重しなきゃいけないと入れたのは・・

伊藤 逆に、それは国民に『守れ!』と。すなわち、本来憲法は繰り返しますが国民が人権を守るために国を守るための道具だったのが、それが全く逆転し、国家が国民を支配しコントロールするための道具のように、実はコレね、なっちゃったところがあるんですよ。

江藤 うーん



● 更に、自民党の憲法草案が『国民への義務』を増やしまくっていることを指摘していた。

青木 あのー、ね、先ほどの話の中でいうと、国民の義務っていうのは基本的には書く必要はないんだと。

伊藤 そうです。

青木 まぁそれでもね、先ほど納税と、それからまぁ教育、それからぁ勤労ですか。まぁそれはまぁ書いてあるんだけど基本的には書かなくていいんだっていう事だったんですけれども、この自民党の草案を見ていくと、やっぱりいくつか義務というか、まぁ義務とまではいかないまでも、えー『国民はこうしなさい』っていうのがいくつかあってですね、例えば、えー第3条。『国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。』と。まぁこの是非っていうのは色んな議論があるんでしょうけど、これはとりあえず置いたとして、その後に2項で『日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。』と。

伊藤 はい。

青木 これはまぁ一種の義務ですよねぇ。それから『国民の責務』っていう、まぁ第12条っていうのが置かれるんですけれども、『自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反しではならない』と。

伊藤 はい。

青木 こういうのもあるんです。それから、例えば緊急事態令っていうのが今度、まぁ作るんだと。これもまぁ議論が分かれるところですけど、とりあえずそこを置いといたとして、でその緊急事態令が発せられた時には、『何人も、えー、措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。』と。まぁ挙げていくとキリがないんですけれども、こういう形でいくつかいくつか新たな形で義務っていう

伊藤 そうですね

青木 えぇー、入ってくるっていうのは、これはぁー、そのー、やっぱりいわゆる立憲主義からいうと、かなりちょっと異質というか異常というか・・

伊藤 かなり異質ですね。

青木 うん
江藤 うん

伊藤 もう義務と解釈できるものは10個くらい増えちゃうんですよ。

青木 あぁ
江藤 ふん

伊藤 ホントに。色んなところで。例えば、『家族は助け合わなければならない』。

青木 うーん

伊藤 家族の互いに助け合う義務みたいなものとか。それとか、愛国の義務、国防の義務と解釈できる規定があったりだとか。

青木 はい

伊藤 領土を保全する、国民と協力して領土を保全する。だから国民にも領土を保全する義務を負わせたりだとか。まぁ解釈によっては国民の義務と取れるようなものが、実は10個くらい増えてる。

青木 10個もあるんですか?

伊藤 10個もあります。ですから、それはねぇ、やっぱ立憲主義の国ではちょっとあり得ない事ですね。

青木 うーん

伊藤 そんなに義務ばっかり書いている国はちょっと見たこと無いです。ですから、ちょっとそこは異質なものになってしまっている。ですから、西洋のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツという、まぁ近代立憲主義の、まぁ日本が価値感を共有するというような西洋諸国とはかなり異質の憲法になっちゃっている、というところは・・・ちょっとどうかなって思いますよね。


と話していた。



※ぜひ音声で全編を聞いてみてください。

3月27日(水曜日)まではTBSラジオの公式サイトから音声を無料でダウンロードできます。合計収録時間は57分ほどと少々長いですが、当サイトで伝えきれなかった話しがたくさん収録されていて大変勉強になります。よろしければ今のうちにダウンロードして都合のよい時間に聞いてみてください。

・TBSラジオ「ニュース探究ラジオDig」公式サイト 【3月21日(木)「憲法とは何か」】
http://www.tbsradio.jp/dig/sample.html



【あわせて読みたい】伊藤真弁護士が回答『日本国憲法は米国に押し付けられた?成り立たない議論です。』
 
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