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ジャパンテクノロジーシステムズ > システム取引の最先端 アルゴリズム取引とは?

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アルゴリズム取引の現状 目的

 アルゴリズム(Algorithm)とは、そもそも問題を解くための効率的手順を定式化した形で表現したものであるが、これをコンピューターの情報処理能力を使い、金融取引における意思決定に利用したのがアルゴリズム取引と言われる。米国においては1990年代後半から証券会社のディーリング部門におけるコンピューターのプログラム売買利用は始まっていた。2000年以降は情報伝達や処理スピードが格段に向上することによって、過去の価格情報以外に取引に影響しそうな情報もプログラミングに取り込めるようになった。2003年頃からこの様な電子取引の形態をアルゴリズム取引と言い始めた。今やこのアルゴリズム取引は、株式だけではなく金融先物や商品先物取引にまで用いられるようになっており、米国株式市場では売買代金ベースで6~7割、欧州株式市場でも5割程度がアルゴリズムによって自動的に売買執行されていると言われれている。外国為替取引においても、約半数がアルゴリズムによる売買という指摘もある。

 現在日本市場におけるアルゴリズム取引は、全体の取引量の30%程度(東証のコロケーションサービス利用分)と見込まれる。これだけ市場での存在感を増しているアルゴリズム取引だが、一般の個人投資家にとっては見えない部分もある為に一部には感情的な反発もあるようだが、このアルゴリズム取引の現状を整理してみたい。


 先ずアルゴリズム取引を何の為に行うかという目的からみると、次の様な取引に関する動機があると考えられている。


[1]
機関投資家などが大口取引のコスト・リスクを削減させたい
[2]
証券会社などブローカーが、取引のコストやマーケットメイキングなどで発生する在庫保有リスクを軽減する為に、取引所への受発注行為を自動化させたい
[3]
市場の動きをよくウオッチして、短期売買の取引機会を発見したい
[4]
他者より早く情報を獲得し早く発注を行いたい。また利益を生む取引を繰り返したい
[5]
裁定取引やポートフォリオ構築の為に、複数の銘柄や商品を同時に売買したい

 各動機の中にも、取引の目的に応じて複数のアルゴリズム取引があり、また他の動機のアルゴリズムとも相互の影響を及ぼしあうことも多い。少し言い方を変えると、他のアルゴリズムを発見し、自ら有利な取引を先行させようとするものもあり、アルゴリズム間で如何に情報を早く取得し、アルゴリズムによって素早く処理し、かつより早く発注するかということがポイントになっている。この為、アルゴリズム取引を支える取引所のシステムがより高速化する傾向にあり、今後はミリ秒(千分の1秒)を超えて、更なる高速化競争が取引所間で起きるのではないかとの予想もある。

アルゴリズム 相互 発見 干渉

アルゴリズム構成 情報処理

 売買取引を行う為の基本構造は、情報を取得し投資判断を行い売買執行注文を出すことだが、売買を行う目的によりその取得すべき情報及び重要度は異なる。その影響期間の長い順に整理すると次の様になっている。


マクロ経済指標=経済のファンダメンタルズを判断する
企業の財務情報=企業をバリュエーション(企業価値判断)する
過去の株価情報=チャートなどから、対象企業独自の株価のトレンドなどを発見する
ニュースなどのトピックス的情報=ニュースの影響度を判断する
板情報などの注文状況・売買情報=最適な売買執行を判断する

 以上を人間が行わずにコンピューターに入力されたプログラムが行うのがアルゴリズム取引だが、様々な価格モデルを組み合わせたり、データマイニング技術の向上により情報そのものを網羅的に解析しその影響度を推計することも可能となっている。一方アルゴリズム向けの情報提供サービスも充実してきており、ダウ・ショーンズは2010年から経済ニュースをアルゴリズム用にデータ化してリアルタイムで配信することを始めた。また東証も2011年2月末より、アルゴリズム取引による裁定取引を促進する為、TOPIXなどの株価指数をミリ秒単位で計算し、かつアルゴリズム向けに配信するサービスを行っている。


 これらを利用して行うアルゴリズム取引は、主に次の3つの取引形態に分かれている。


大口取引=機関投資家などが行う大口の取引は、本来はファンド・マネージャーによる経済のファンダメンタルズや企業のバリュエーション分析により投資判断されるが、実際の売買を行う際少しでも売買コストを引き下げようと、アルゴリズム取引の利用が広がっている。
裁定取引=裁定を行う対象が広がっており、異なる市場間の相関性分析にもアルゴリズムが活用されている。またアルゴリズムそのものの進化から、ごく短期間で裁定取引を行うことが可能となっている。
高頻度取引(HFT=High-Frequency Trading)=本来は裁定取引やマーケットメイキングであったものが、よりリスクを減少させる為取引の細分化・取引時間の短縮を試みており、その為のアルゴリズムは必須になっている。投資が目的ではなくサヤ取り・リスク極小化が目的なので、アルゴリズム取引が別のアルゴリズム取引を呼び込むような状況がおきることもある。

アルゴリズム構成

基本的なアルゴリズム戦略

 アルゴリズム取引は、取引形態によって利用目的が異なる為、その目的の遂行を目指すアルゴリズムの基本的な考え方(戦略)も次の様に分かれる。


【取引コストを下げる】

大口取引などにおける取引コストは、以下の様に考えられている。

■手数料や税金などの直接的な費用

■実際は支払いが発生しないのもの

・投資の意思決定から実際の売買執行までに発生するコスト〈遅延コスト〉

・売買執行直前の価格と実際の売買価格の差によるコスト〈マーケット・インパクト〉

・売買執行中に価格や市場流動性が変化することに伴うコスト〈ダイナミック・コスト〉

・想定外の市場価格変動から予定通りに売買執行出来ないことによるコスト〈機会コスト〉

などがあるが、これらのコストをまとめた概念がIS(Implementation Shortfall)とされている。このISを如何に引き下げるかということが戦略の中心となる。


IS戦略=ISを構成するマーケット・インパクト、ダイナミック・コスト、機会コストなどを同時に最小化させる為に注文分割して売買執行する
AS戦略*1=IS戦略に加えて、市場環境に応じて最適執行を逐次再計算して注文を分割、売買を執行する

【最良執行を目指してベンチマークに近づける】

VWAP戦略*2=VWAPに近づける為、過去の平均的日中出来高分布に応じた割合で分割し、適当な時間間隔で売買執行する
TWAP戦略*3=日中平均に近づける為、適当なタイミングで売買執行する
MOC戦略*4=取引コストを押えながら終値に近づける為、モデルを用いて最適執行時刻と注文量を計算する

 以上に加えて、市場のリアルタイム・データやその他の市場環境を取込み再計算するものもある。


【売買注文の板情報を利用して売買執行価格を有利にしようと試みる】

アイスバーグ戦略=板情報に応じて最適化された数量・値段で発注する。前の注文が全て完了するまで次の発注を行わない。大口注文の執行中であることを隠す事が目的
ペッグ戦略=板情報に応じて最良気配値に自動追随して指値注文を行う。前の注文が全て完了するまで次の発注を行わない。最良価格での売買執行が目的

【取引機会を発見する】

ウェイト・パウンス=板情報をモニタリングし条件に見合う指値が提示された瞬間に成行注文を入れ取引を成立させる
戦略スイッチ=アルゴリズムの戦略を売買執行の途中で入れ替える。市場環境の変化などから、ある注文が執行中であっても残りの分を異なる執行戦略に入れ替える

 以上は大口取引のアルゴリズムにおける基本的な戦略となるが、発注する機関投資家のニーズとしては、やはりマーケット・インパクトをいかに低減させるかが中心になっている。


 一方、HFTを行う証券会社系のプロップ・ハウス(自己売買に特化)や短期の裁定取引ファンドなどは、自らの短期的収益機会の発見・確保をしながら同時にポジション保有リスクを回避しようとする為、次の様な戦略を取る。


【機械的にマーケットメイキング】

 短期的(長くても数秒の間)に反対売買が出来ることを前提として売り買い両サイドの発注を行い、その価格差を収益としようと試みる。


【市場での短期的鞘取り】

 自ら売買を繰り返して流動性を供給しながら、市場の注文状況を把握し価格の変化を先読みしようと試みる。注文状況を分析するアルゴリズムが中心となっている。


【ニュースや経済統計の起こすマーケット・インパクトを利用】

 ニュースなどの市場外の情報に関してデータ・マイニングで市場への影響度を分析し、市場での価格変化を先読みすることで収益機会を得ようと試みる。

基本的名アルゴリズム戦略

アルゴリズム取引 期待 不安

アルゴリズム取引の出現は、IT技術の進歩と統計学的市場分析スキームの発達によるもので、金融のイノベーションと捉える考え方もある。また市場の流動性向上に寄与していることも事実だろう。アルゴリズムの影響は取引が細分化されるのだから通常の市場なら流動性が増し、かつ市場価格推移も安定するはずと言うことが定説になっている。しかしアルゴリズム取引に対する不安は消えない。

 2010年の11月下旬に東京で開催されたパリ・ユーロプラス国際金融フォーラムにおいて、日本銀行の西村副総裁はアルゴリズム取引に対する問題点として、次の3つを指摘している。


[1] アルゴリズム取引は予想外の出来事に対して脆弱な面がある。5月の米国市場におけるフラッシュ・クラッシュに関して、米国証券取引委員会と商品先物委員会による共同報告書では、アルゴリズムによる1つの大口売り注文の自動執行が他のアルゴリズムを混乱させたと指摘されている。


[2] 高頻度な取引をめぐる新たな相場操縦の可能性と、売買が高速化する中でそうした違法行為をどのように防止・摘発するかという課題。例えば見せ玉は不公正取引として禁止されているが、視覚的に確認できない瞬間的な見せ玉により他者のアルゴリズムを意図的に誘導し、自己の取引に有利な方向に価格を操作しようとする行為をどの様に監視していくか、その態勢整備が充分なのかといった懸念がある。取引所はまだしもDMA(ダイレクト・マーケット・アクセス)サービスを提供する証券会社がアルゴリズムを不公正取引の視点で精査しているのか分かり難いし、摘発する当局も膨大な取引データを解析する機能が必要かも知れない。


[3] 市場への流動性供給について、高頻度取引(HFT)への過度な依存を回避するにはどうしたらよいかという課題。

HFTを行うファンドや業者は、HFTによって確かに流動性を供給しているが、彼等はポジションの保有を避ける為に、短期間(通常は数秒)で反対売買を行おうとする。つまり、HFTで買ってしまったものは出来るだけ早く売らなければならないが、この売りに別のHFT業者の買いが入った場合、これも次の売りを生む。昨年のフラッシュ・クラッシュの様に、一時的に他の市場参加が発注しないような状況の中でHFT取引のみの状況になった場合、価格が一方向に急激に変動してしまう。この事は先の報告書においても指摘されている。


  以上の問題は、アルゴリズム取引そのものによる問題というより、アルゴリズムを利用したHFTというごく一部のファンドや業者の問題行為(現時点では問題となる可能性があると言う意味)ではないだろうか。米国においては2%のHFT取引業者が株式市場の50%以上の売買注文を出しているとの推計もあり、米国議会や行政の一部ではHFTを制限しようとする動きもある。

 高速で取引を行うアルゴリズム取引は確かに金融の技術革新の成果で、取引インフラもこのイノベーションを受けて整備されつつある。しかし市場全体がこのアルゴリズム取引を受け入れる為には、投資家・市場参加者間の理解が進み、監視体制が整い、個人投資家レベルでも理解出来るアルゴリズム取引に関する情報提供が行われるべきではないだろうか。

 金融のイノベーションは、個人までもそのメリットを享受して初めて定着するのではないだろうか。

アルゴリズム取引

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