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【蹴球探訪】

金持ちクラブが勝てない Jの特殊性

2013年3月1日

 2013年、Jリーグが20周年を迎える。短期間で世界的にも類を見ない急成長と成功を収めたリーグは、欧州とは違って予算規模の大きいビッグクラブがそのまま覇権を握れるわけではない。2日の開幕前に、2005年度からJリーグが開示している各クラブの収支表、欧州4大リーグとの比較から特徴を検証。識者の理論、分析から特殊なリーグ像が浮かび上がった。 (占部哲也)

 2日にいよいよ開幕するJリーグ。2011年にはJ1昇格組の柏が優勝、12年は財政的に豊かではない広島が頂点に立った。近年は下克上の様相を呈しているが、スポーツ経営学を専門とする大坪正則・帝京大教授は「中長期的な視点では、条件さえ整えれば人件費(年俸総額)は順位に反映される」と話す。理論的には、予算の大小が順位に直結するというのだ。その前提条件は、3つあるという。

 (1)オーナー、社長、GM、監督、選手がクラブの方針を共有する。

 (2)選手にけがをさせない。もしくは、早期復帰させる。

 (3)選手が高いモチベーションを保つ環境づくりができている。

 しかし、現実は…。2005年度から公表されているJリーグの収支表によると、表(1)の通り総収入や総人件費と順位との相関関係は薄い。一方、2011〜12シーズンの欧州4大リーグ(表(2))を見ると、強い相関関係がある。大坪教授は「欧州サッカーだけではなく、米の4大スポーツでも同じ。条件を満たしている。裏返せば、Jはどこかに問題点があるということ」と分析する。

 では、その問題点とは何か。条件(1)の目標、方針の共有が難しいと指摘するのは、Jリーグ理事の経験もある武藤泰明・早大スポーツ科学学術院教授だ。「ACLの存在が挙げられる。現状ではもうかるわけではないので経営者の観点から見ればコストがかかる。リーグ戦で上位に入っても大きなリターンが期待できない」。費用対効果で見れば、経営側の上位を狙う動機が弱くなるという。

◆低い費用対効果が「目標、方針の共有」を妨げる

 今季も新体制発表で「優勝」「ACL出場権獲得」を目標に掲げるJ1クラブは多いが、中堅クラブの幹部は「欧州とはビジネスモデルが違うのは認めざるを得ない。その点で経営者の熱量に差があるといわれればそうかもしれない」と話す。欧州4大リーグのクラブが得る欧州チャンピオンズリーグ(CL)の放映権料は10〜30億円。2011〜12シーズンを制したチェルシーは約58億円を獲得した。一方、ACLの優勝賞金は約1・5億円。昨季ACL16強に進出したFC東京でも、遠征費や賞金などを含めた収支は「トントン」だったという。武藤教授は日欧を比較して言う。

 「Jでは降格しそうになると監督を解任するが、ACL圏内(3位以内)が難しくなっても続投が大半を占める。プレミア(イングランド)ではCL出場権が危なくなれば監督を交代させる。この現象だけを見ても分かるでしょう」

 昨季CL王者のチェルシーは今季序盤につまずき6位に沈むと、開幕3カ月でディマッテオ監督を解任、リバプールでCL優勝経験のあるベニテス氏を迎えた。CL出場圏内の4位以内に入らなければ大金を逃すため、経営者の目はシビアだ。一方、日本では「お金がない」とこぼすJクラブ幹部が増えている。国内不況に加え、2013年から3期連続赤字で不参加となるクラブライセンス制度が導入される。順位よりも黒字に目を向けている印象だ。

 だが、発想の転換をすればACLは新規の市場をつかむチャンスでもある。アジア各国を飛び回るため、高い経済成長が見込まれる東南アジアの新興国などからスポンサー契約を結ぶことも可能性も広がる。浦和は2007年にACL用ユニホームの胸スポンサーに世界最大輸送物流会社「DHL」を獲得。昨季のFC東京もACL決勝トーナメント用ユニホームにエネルギー会社「MALAYSIA LNG」が付いた。

 武藤教授も「Jはアジアで高いブランド力を誇る。東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々の中には、スポンサー契約を結びたい企業も出てくるだろう。Jリーグも東南アジア戦略を進めており、チャンネルができつつある。また、極東市場に目を向ける中東マネーもある。リーグ、クラブの営業力が必要になる」と話す。

 Jリーグは費用対効果が薄く、順位予想が困難な特殊なリーグだ。予算が中位のクラブにも優勝の芽はある。だが、大坪教授が挙げた3つの条件さえ整えれば欧州のように富むクラブが上位進出、優勝を“買う”ことができる。経営と現場が一体化して本気で優勝を目指し、アジア戦略、拡張路線まで描けるクラブが現れるのか。答えは12月までには出る。

ACL初戦でブニョドコルに完敗し、肩を落とす広島イレブン=2月27日、広島広域公園

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◆昨季は20億円の広島、仙台が旋風!今季は波乱が少ない!?

 昨季は、収入が20億円台とみられる広島、仙台の2クラブが波乱を起こした。大坪教授は「プロでも簡単に新しいやり方、急激な変化に対応するのは難しい」と言い、監督、戦術の継続をキーワードに挙げる。優勝した広島は指揮官がペトロビッチ前監督から森保監督へと移行したが、選手の入れ替え、戦術の変更は最小限だった。2位の仙台も手倉森監督が5年目で成功を収めた。

 一方、常勝軍団のG大阪は10年指揮を執った西野氏からセホーン氏に路線変更し、J2へ降格した。強豪の鹿島も3連覇を達成したオリベイラ氏からジョルジーニョ氏にバトンタッチしたが、システム変更などでつまずいた。広島の織田強化部長も「去年は周りに助けられた部分もある」と話し、大番狂わせの条件がそろっていた。ただ、今季は監督交代が少なく、昨季よりは予算上位のクラブが本来の実力を発揮する土壌は整っている。

(2013年3月1日 東京中日スポーツ紙面より)

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