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第1話 ゲームの中へ
「あー暇だなあ……」

 読んでいた本を閉じ、寝転がっていたベッドから起き上がる。
 推薦入学が決まり、学校も自由登校になってしまっているので、最近は毎日家でだらだらと過ごしている。
 仲の良い友達は受験勉強に忙しく、とても遊びに行こうなんて誘えない。
 仕方なく一人で買い物に出掛けてみても、そう毎日は楽しめない。
 結局、家の中で過ごす時間が多くなってしまうのだ。
 両親ともに仕事で弟は学校。一人きりの家の中でテレビを見たり本を読んだりしながらお昼になればご飯を食べる。そしてまただらだらと過ごす。
 さすがに飽きてきて、何か面白そうなものはないかと弟の部屋を覗いてみた。
 とりあえずテッパンのベッド下を見てみるが、特にそれらしい本は見つからない。

「チッ、どこに隠してるんだ……」

 別に見つけたからといって何があるわけでもない。弟をからかう材料にできれば多少の退屈もまぎれるかと思っただけだ。
 机の引き出しなどを探るのは抵抗があるので早々に諦め、テレビ台に並べてあるゲームを探ることにする。
 なるべくクリアに時間がかかりそうなものはないかと探し、一本のRPGを手に取った。
 パッケージには『モンスターパニック』というタイトル文字が踊り、その下に様々なモンスターの絵が描かれている。裏面の説明によると、大量発生したモンスターを退治して回るゲームらしい。
 ゲーム機にセットすると簡単なオープニングが流れ、選択画面に切り替わった。
 そこにはニューゲームとコンフィグの文字しかなく、どうやら弟のセーブデータはないようだ。パッケージの封はされていなかったけど、まだ手を付けていなかったのだろうか。
 もしかしたら中古で買ったばかりなのかなと考えつつニューゲームを選択すると、最初に主人公の性別の選択があり、私は自分と同じ女の子の主人公を選んだ。
 次に名前の設定。捻った名前をつけて弟に見られると恥ずかしいので、これも自分と同じ名前にする。「スズネ」と入力すると確認画面が出て、OKを押してようやくゲームがスタートした。
 最初は最近畑に出没するというコボルト退治を依頼され、夜を待って畑を荒らしにきたコボルト達を退治し、依頼完了。同様に細々とした依頼をこなし、旅をする。
 様々な依頼をこなす内にモンスターの大量発生は魔王が現れたせいだと分かり、主人公が勇者となって魔王討伐に乗り出すことになる。
 ありきたりなストーリーながら、単純作業が好きな私は次々に起こる依頼をこなすことにのめり込み、時間を忘れてゲームを続ける。
 滞在していた町での依頼が終了したので次の町を探して森を歩いていると、ふいにぐらりと地面が揺れた気がした。

「ん?」

 顔を上げ、きょろきょろと見回しても部屋に異常はない。
 気のせいかと再びゲーム画面に視線を戻し、森の奥の方へと進む。
 と、急に床が抜けた。
 ゲームの中の話でも比喩でもなく、本当に私の足元の床がなくなった。

「は? え? ちょっと、……っ」

 足元には何の感触もなく、落下する体。

「やっ、きゃっ――」

 弟の部屋は遥か遠く、辺りは闇に包まれている。
 落下速度は増し、声を上げることさえできない。
 びゅんびゅんと風を切り、髪が舞い上がってばさばさと音を立てている。
 ぎゅっと目を瞑って気持ち悪さに耐えていると、どのくらい時間が経過したのか、どさりと地面にぶつかり、落下が止まった。

「い、たた……」

 頭や足からの追突という事態は免れ、背中を打ちつけたものの、どうにか無傷でいられたらしい。
 目を開き、茫然とした。

「ここ、どこよ……」

 物がごちゃごちゃと散乱した弟の部屋にいたはずが、目の前に広がるのは深い森。
 足元はカーペットではなく、土や草の感触。
 しかも何故か、いつの間にか着ている服まで変わってしまっている。
 部屋にいる時はもこもこしたタオル地のパーカーにショートパンツを着ていた。それが、硬いザラザラした布製のワンピースっぽい服の上に皮製のベストという服装に変わり、膝まであるルームソックスが飾り気のない編み上げブーツに変わっている。
 それと私の物なのか何なのか、近くに木製の弓が落ちている。今まで弓を扱ったことなんてないし、こんな筋肉のない腕で扱える気が全くしない。
 途方に暮れて空を見上げる。
 ざわざわと揺れる葉の音や遠くで響く何かの鳥の鳴き声。
 夢と言うにはあまりに現実的な感覚。
 試しに頬を抓ってみる。

「いたい……」

 鈍い痛みが走り、頬を押さえる。
 周囲を見回してもどこまでも続く森が広がるだけだ。
 空を見上げても、枝を伸ばした木々にほとんど覆われてしまっている。
 薄暗い森の中で一人きり。
 ぞくりと背中が震え、途方に暮れる。

「何なのよ、これ……」

 呟いても、答えてくれる人は誰もいなかった。


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