原点が存在する

7月はじめ、ひとつの朗報が伝わりました。

日本の飼育技術が活かされてボルネオの野生のオランウータンに、新たな繁殖と種の持続の可能性がほの見えてきたのです。

アブラヤシ・プランテーションの展開などにより寸断されているボルネオの熱帯雨林と、生活域の破壊によって存亡の危機に瀕するオランウータン。

食品・化粧品の原料等々、わたしたち自身も利益を享受する安価なパームオイルを全面否定することは出来ません。単なる個別的な忌避は、それに依存する現地の経済を否定することにしかなりません。

ひとつには野放図な大規模プランテーションに代わって、より持続的で地元に根差した産業の在り方が問われなければなりませんし、他ならぬ消費者としてのわたしたちがそういう、より望ましい生産形態での商品を選ぶなら、実は最大の支援となるのでもあります。

また、開発と野生動物のための環境の保全の両立のためには、プランテーションの一部を二次林として再生し、寸断された森をつなぎ合わせる「緑の回廊」をつくるのが有効な手段です。わたしも関わるNPO「ボルネオ保全トラストジャパン(以下BCTJ)」も、現地の組織と連帯しつつ、この「緑の回廊」の形成のための土地購入を支援しています。

http://www.bctj.jp/about/about.html

しかし、中には本当に狭い孤立した森に、自分たちの世代を継ぐのも危惧されるような小規模集団として暮らしているオランウータンもいます。そんな集団の中には、川向こうにもオランウータンの生息地があり、そこの個体群と交流できればあるいは……というケースもあります。オランウータンは水を恐れ、原則として(パニック時などの例外的観察例を除いて)泳ぐことはしません。けれども、人間用の吊り橋を利用していたという目撃例もあり、川に橋が架かっていれば、そこを渡って交流することは十分考えられます。

そこでBCTJは現地と協議し、限られた予算や人手の中ながら、オランウータン移動用の吊り橋をかけるプロジェクトを実施しました。

今回、二本架けられたつり橋のうち、一号橋に設置された無人監視カメラにオランウータンと断定できる動物の渡河映像が確認されたのです。

プロジェクトの詳細や件のカメラ映像については下記のリンクを御覧ください。

http://www.bctj.jp/project/bridge/news_bridge.html

 http://www.bctj.jp/project/bridge.html

この「一号橋」ですが、その設計の際には、多摩動物公園のオランウータンの高所移動システム「スカイウォーク」とともに、このブログでも紹介した、とあるシステムが活用されました。これです(↓)

市川市動植物園のスマトラオランウータン放飼場(※)。

熱帯雨林に立ち並ぶ木を模したポールと、枝々の広がりやそこに絡み垂れ下がる蔓を模したリサイクルの消防ホースの間を移動するのは、22歳のオス「イーバン」。

彼については下の記事の後半に記しましたが、ここに見られる捩じってロープ状にした消防ホースは、市川市動植物園のオランウータン担当者で、この工夫の発案者でもある水品繁和さんに因み、動物園関係者の間では「水品巻き」と愛称されています。

http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=523

水品さんはBCTJの理事でもあるので、一号橋架橋の際には、同じくBCTJ理事で多摩動物公園のオランウータン担当者(当時)の黒鳥英俊さんとともに、現地作業にも参加しています。

※以下、市川動植物園での写真は2010年3月~7月の撮影分を適宜編集して使用してます。

こちらの消防ホースの「枝」の上で寛ぐのは、同じく22歳のメス「スーミー」。

スーミーはごく最近、2007年以来の子育てを終え、ほっと一息でした。その辺りの事情は下記の記事を御覧ください。

http://www.zoo200.org/yuminblog/?p=559

そして、2010/7/16、スーミーは2回目の出産を果たし、いま子育てを続けています(´∀`)

http://www.city.ichikawa.lg.jp/gre06/1111000061.html

 

女の子です。

見交わすまなざし……

子育ては何かとくたびれるんでしょうね。

そろそろ寝部屋に戻る時間。

(今日はこの段ボールを持って帰りましょう)

母さんが口にくわえた段ボールが、うまく赤ちゃんの傘になっています(´∀`) 

※スーミーと赤ちゃんは、原則として毎日開園前から10:30まで放飼場と寝部屋の間を開放しています。スーミー母さんの判断によっては、寝部屋から出てこない可能性もありますが、御訪問の方はひとまず朝イチが狙い目です!

勿論、父親はイーバン。しかし、オランウータンが子育て期間の母子以外は森の中でばらばらに暮らし、緩いつながりだけを保っていることは上記の記事でもお書きしました(イーバンとスーミーの場合、別々に暮らしていますが、お互いの姿は見えるので意識はしあっています)。

こちらも大あくび=3

雨の休日、ビールとつまみでテレビを見るお父さん?(本当は牛乳と生のインゲンです ^。^;)

(あんまりいい加減な解説はしないように)

どぉもすみません(´_`)ゞ

これは乳離れに続いて「お兄ちゃん」になったウータン7歳(スーミー・イーバンの第一子)。これから本格的に自立への道=日々鍛錬?

……blowin’ in the wind.

(こんなんも出来るよ)

(俺に惚れちゃぁいけないぜ?)

ともあれ、ボルネオオランウータン以上に稀少なスマトラオランウータンの繁殖、特に母子ともに健康に、最低線の飼育ケアで自然な子育てが行なわれていることは特筆に値するでしょう。

そんな快挙を祝してというわけでもないでしょうが、1株(1球根)からは数年に一度しか花が咲かないというショクダイオオコンニャクが、東京大学の小石川植物園と鹿児島県指宿市のフラワーパークかごしまで、相次いで花開く趨勢です(小石川は7/22-25で花を終えました。フラワーパークでの開花は間もなくの見込み)。

http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/+Amorphophallus/+A.titanum2010/titanum.html

 http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100726-OYT1T00212.htm?from=navlp

ショクダイオオコンニャクは別名「スマトラオオコンニャク」とも言い、その名の通り、スマトラ島原産です。その花はひとつひとつは小さいですが、付属器官を含めると直径1.5m,高さ3m以上となり、花の塊としては世界一です。

さて、ニュースつながりで、スリランカの霊長類の話題をひとつ。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100720001&expand

ホートンプレインズホソロリスと呼ばれる原始的な特徴を遺す霊長類のひとつで、1937年にスリランカで発見されましたが、その後、2002年のほんの束の間の観察記録を除いて、永らく生息情報がなく、絶滅が確実視されていました。今回(2010/7/19発表)、2頭が写真撮影されたわけですが(世界初)、それでも現存個体数は100頭以下だろうとされています。

上記のリンクを御覧いただけば分かりますが、ここでも、茶園としての農地開発などで森林伐採とともに分断された生息地を結びあえるかどうかが種の存亡のカギとなっています。 

 

最後に、広島市の安佐動物公園からアメリカのスミソニアン国立動物園にオオサンショウウオが贈られました。

http://mytown.asahi.com/areanews/hiroshima/OSK201007230201.html

現在、世界の両生類は、致命的な感染症であるツボカビ病の脅威に曝されていますが、オオサンショウウオはこのツボカビに耐性を持っているとのことで、今回のアメリカへの寄贈は、この特異な生理の研究が主目的とのことです。

ここでも日本の動物園の飼育の技術と営みの蓄積が国境を越え、そして世界中の両生類の野生生息地での「域内保全」(※)に貢献しようとしてます。

地球は全体としてつながっているのですから、日本と世界・動物園と野生もまた、連携していかなければなりません。

わたしたちが日常の余暇に訪れる動物園での動物たちの姿も、彼らの野生での同族たちと、いわば車の両輪のように一体なのだと言えるでしょう。

他ならぬわたしたち人間の活動に大きな影響を受けながら、種としての存在を細らせている野生動物たち。現状は、近い将来に振り返る時、彼らの最後の姿「ピリオド」になってしまうのでしょうか?それともせめてものわたしたちの巻き返しの努力で、再び彼らとの共存・共生を実現しはじめた「原点」として記録されるのでしょうか。陰陽いずれの可能性も、わたしたちの前に開かれているはずです。

※動物園で絶滅危惧種の飼育・繁殖に取り組むことも「種の保存」には大切です。このような野生生息地外での活動は「域外保全」と呼ばれます。

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