今日は以下の記事について書く。
2ちゃんねるから盗用してFacebookに「イイ話」として投稿することや、それをシェアすることは、褒められたことではないと私も思う。しかし、気になるのはその理由である。この事案への嫌悪感は、実は非常に複雑に構成されているのに、この点が正しく理解されていないように思える。
「嘘を真実であるかのように語っていること」が問題なのか?
元記事を書かれたHagexさんは、以下のように書いている。
感動バスエピソードのコメント欄で「これは2ちゃんねるからの盗用じゃないか?」と指摘がでると、他のユーザーから「例え嘘でもイイ話だから問題ないです」という意見が多数でた(残念ながら現在は削除されている)。
私は「嘘でもイイ話だから問題ない」という回答が信じられない。
また、この記事への補足と位置づけられる記事には、以下のようにも書かれている。
私が繰り返して主張したいのは、
- ウソのエピソードを事実として偽るのはやめてほしい
- 何も考えずに情報を受け取るのは危険
の2点です。
上の2点のうち、後者には全く異論がない。しかし、前者には疑問がある。
Hagexさんは、2chから登用してFacebookに嘘の「イイ話」を投稿する行為が悪い理由は、嘘のエピソードを事実と偽っているという点にある、と主張されているように思える。しかし、話はそう単純には進まないのではないだろうか。
Hagexさんは上の主張を牛肉と偽って犬肉を売られた場合との類比を用いて正当化しようとしている。
例を出して考えてみよう。
アナタはお肉屋さんに行って、500グラムの牛挽肉を注文する。自宅でハンバーグを作って食べると、それはそれは大変おいしかった。
翌日、お隣さんから「アナタが行ったお肉屋さんは、牛肉と偽って犬の肉を販売していたわよ」と教えられたら、「え、犬の肉だったの!? でも美味しいから別に問題ないわ…」と答えるだろうか? 多くの人は怒ってお肉屋さんに文句を言いに行くだろう。
しかし、これが「肉の話」ではなく「情報の話」になると、全く同じ構造なのに反応が変わってくる。「本当の話ですよ」と言われて信じて、後で「実は嘘でした」と種明かしをしても「イイ話だから問題ない」という人が出てくる。
しかし、この類比はあまりうまくいっていないように思える。2つの話は、「全く同じ構造」だとされているが、構造が同じなのは、牛肉だと「偽られていた」という点と、実話だと「偽られていた」という点である。しかし、肉のたとえで犬肉が嫌悪されているのは、牛肉だと偽って売られていたからではない。それは犬肉であるがゆえに嫌悪されているのだ。それゆえ、両者の構造が似ていることは、嘘を嫌悪する理由にはならない。
また私は、別の理由からも、事実と偽っているところに問題の本質を見るのは難しいのではないかと思う。その理由とは、元の2chの書き込みについても、事実でないことを事実であるかのように書いているということが十分疑われる、ということだ(参考:元トピ職人の釣り解説 • [コラム]Facebookで大人気”バスの中で言葉の暴力を喰らった”の釣り解説)。そうだとすれば、HagexさんがFacebookのパクリ記事にのみ批判の矛先を向け、元の2chの真実性が疑わしい書き込みにも批判を加えるべきだということになるのではないだろうか。付け加えるならば、Hagexさんのブログのメインコンテンツは、2chからの、究極的には真偽不明の書き込みのコピペである。本当に「嘘を真実であるかのように述べている」ことがFacebookのパクリ記事を非難する理由なのだとすれば、これはダブルスタンダードなのではないか。
なお、Hagexさんはある種の批判を封じるために、以下のようにも述べている。
この手の日記を書くと「ハゲックスはフィクションの世界を認めないのか?」とよくいわれますが、最初から「フィクション」とわかるようにしていれば、問題ありません。むしろフィクション大好きですし。
しかし、念の為に書き添えておけば、上の私の批判は、この反論には当たらない。私の批判は、Hagexさんがフィクション一般を認めていないとするものではないからだ。私が言いたいのは、2chの書き込みも、「最初から「フィクション」とわかるようにして」いるフィクションではない、という点で、facebookの記事と同じではないか、ということだ。
なぜ『ほんとうにあった怖い話』という嘘は受け入れられるのか
ところで、フィクションだということを明示しないフィクションのなかで最もメジャーなものとして、『本当にあった怖い話』の類を挙げることができるだろう。それらはおそらくはほとんどが嘘か誇張である。しかし、デマだと糾弾されることもなく、受け入れられている。
その理由は、「怖い話」がエンターテイメントを主眼とするものだ、というところにあろう。稲川淳二は、危険な場所についての情報を伝えようとしているのではない。聞き手も、情報を得ようとは初めから思っていない。恐怖感を楽しむために、「事実として語られる嘘」を聞くのである。
「嘘だけどイイ話だから問題ない」と言う人の主張は、この「怖い話」の場合と同じように理解できそうである。つまり、「イイ話だから」といわれるときの意味は、「エンターテイメントであってニュースではないから」と理解できるのではないだろうか。そうだとすると、それほど突飛な主張がなされていることにはならないのではないかと思う。
「そもそもイイ話ではない」は理由として十分か?
ここまで読んで、コイツはfacebookに嘘かつ盗用の話を投稿する行為を擁護するのか、と思った方もいるかもしれない。しかし、初めに書いたとおり、私もこの行為はほめられたものではないと考えている。そして、これも初めに書いたように、私が問題にしたいのは、それが悪いとされる理由だ。
その理由の一つとして、増田で指摘された、「正義を押し付ける勧善懲悪話が「いい話」とされている」というものがある(「感動のバス話」が批判されるのは嘘だからではない)。それだけが理由であるとは考えないが、少なくともこれがfacebookの記事が嫌悪感を催させる理由の一つであるという指摘は妥当だろう。ちなみにHagexさんは、この指摘の妥当性を認めた上で、それでも上に引用した2点を強調したい、と述べている。
しかし、この理由も、もとの2chにもあてはまってしまう。増田なら、2chで見てもこの話は嫌いだ、と言うだろう。しかし、私には、facebookでこの話を見た時の嫌悪感は、2chで見た時を上回るものがあるように思える。この話自体お筋の悪さに問題点を集約させることは、この「なぜfacebookの方が2chより悪く思われるのか?」とう点を説明できないために、不十分である。
同調圧力という問題
「2chで同じ話を目にした時以上に胡散臭く感じられる」ということをうまく説明する理由は、私が思いつく限りでは2つある。第一に、facebookで働く独特の同調圧力という問題である。これは、上のHagexさんの記事への、id:d_lifeさんのブコメで指摘されている。
リアルでの知り合いが多いFacebookで「感動話」を隠れ蓑に一概に否定しづらい社会の道義的規範という同調圧力を用いて集団からの排斥恐怖を煽り「いいね」を稼ごうとする捻くれた承認欲求が垣間見えてポカポカする
(はてなブックマーク - Facebookで大人気の「感動のバス話」は2ちゃんねるのパクリ改竄されたもの - Hagex-day info)
私の実感としてお、facebookでこのような話を目にすると、言い知れぬ同調圧力によって感動を強要されているかのような感覚を覚える。「バス話」の場合にはこれと、増田で指摘されていたような、勧善懲悪話それ自体が持つ「正義」への同調圧力が化学反応を起こし、なんとも言えない嫌悪感を生じさせているように思える。
どの嘘が問題なのか
もう一つの理由は、「嘘」という論点に戻ってくる。ただし、話そのものが嘘であることが問題なのではない。facebookのバス話には、嘘が2つあり、そのもう一つが問題なのである。id:eirunさんのブコメは、この点を明確に指摘している。
「その話が嘘である(創作である)」ってのと「わたしが創作しました(という嘘)」ってのはまったくべつのことだろうよ。前者よりも後者の方がはるかに悪質だし、後者の指摘を前者でごまかすのが問題なんだ。
これはつまり、盗用である点にこそ問題がある、という指摘だ。大きなお世話になることを恐れずに言えば、Hagexさんも、話の真偽ではなく、この点を責めるべきであったように思う。話それ自体の真偽は、エンターテイメントでは問題にならないかもしれない。しかし、盗作はエンターテイメントであっても問題である。これを切り口に、自分の創作だという偽りに気付けない、というメディアリテラシーを攻撃する、という道はあったのではないか。
なお、この「盗用」というところに着目するならば、バス話の事案は、Twitterにおけるパクツイやコピペbotの事案と全く同じ構造をしているように思える。人の褌で相撲を取り、自分に注目を集める行為が嫌われていると考えられるからだ。
ちなみに、この場合に盗用が問題視される理由は、著作権的なことにとどまらない。これについては、既にかなりの長文になっていることに加え、Twitterでのコピペに関して3年前に既に様々に考察されているのを発見したので、参考リンクを示しておくにとどめる。
まとめ
長くなってしまったので、論点をもう一度まとめておく。
- 「嘘を本当のように書いているから」という理由は、facebookのバス話が2chでの同じ話以上に嫌われるという事実を説明できない。
- 「話の筋自体が不快だから」という理由も、同様に説明できないところが残る。
- 理由の一つは、facebook独特の同調圧力に求められる。
- もう一つの理由は、盗用であるということに求められる。