「株価上昇で日本の富はなんと3ヶ月で100兆円以上も増えている。これは国家予算を超える凄い額だ」
これは昨日のテレビ東京・ワールドビジネスサテライトで、コメンテーターの一人がアベノミクスの政策を評価しながら発言した内容だ。こういった話を聞くと何か良い事が起きているような気分になってしまうが、半分は正解で半分は間違っている。
●株価上昇の要因は円安。
上記の図は池田信夫氏のブログからの引用だが、それぞれ日経平均とドル・ユーロの動きを重ねたものだ(赤線が日経平均、青線が為替)。グラフからも見て取れるように、これまでの株価上昇は円安が急激に進行した事による影響でほとんど説明出来る。ドル建て・ユーロ建てで見れば従来より割安水準になったから買われたという事だ。企業業績は回復傾向にあるが、それを考慮しても株価水準は新興国並みに高い。
円安が急激に進めば食料からエネルギーまで輸入に頼っている日本には大打撃だ。つまり円安によって日本全体の購買力は確実に落ちている。簡単に言えば日本は円安で貧乏になっているので、先ほどのコメンテーターの発言は購買力の観点から言えば間違いだ。
原発事故によって火力発電所で使う天然ガスの輸入が飛躍的に増え、かつてと違って円安なら何でもいいという状況ではない。年明けに自民党の石破茂幹事長が「一方的な円安は好ましくない」と語ったように、経済的な構造は従来と大きく変わっている。
したがって、急激な円安は従来よりもマイナスの効果が大きく、日本全体が貧乏になっているので、タイトルに書いたとおりアベノミクスは少なくとも今のところは失敗している。
●インフレ本当には良い事なのか?
例えば円安によって小麦や砂糖などの材料価格が上がっているケーキ屋は利益が圧迫され、値上げを検討しているお店は多いと聞く。円安によって輸入品が値上がりし、それによって物価が上がり、株高によるメリットは庶民にはあまり影響がない。果たしてこれが本当に良い状況なのか、ぜひ冷静に考えるべきだ。
消費意欲が上がって需要が増え、それによって仕事が増え、徐々に給料も上がって、物価も上がる・・・このように「需要が増える事」がスタート地点のインフレならば問題は無いだろう。需要の増加をもう一段階さかのぼるならば、魅力的な商品・サービスを提供する企業が増えなければ需要は増えない。つまり企業のイノベーション次第という事だ。
一方、円安で輸入物価が上がる事がスタート地点のインフレは、因果関係をどういじっても景気が良くなるという話にはならない。なぜなら国外に富が流出するだけだからだ。株やリート(REIT・上場不動産投信)を沢山持っている金持ち層は購買力を維持出来ているだろうが、円安は消費者にマイナスだ。
●アベノミクスに騙された!と怒る人が1年もしないで出てくるかもしれない。
現在の急激な円安がさらに進行すれば株価もそれにつられて上がるだろう。結果としてお金持ちや金融業界の人は大喜びだろうが、庶民の暮らしは電気料金の急騰で圧迫される。それを避けるために安倍総理は原発再稼動を急ぐかもしれない。電気料金の急騰を受け入れるか、早期の原発再稼動を受け入れるか、この流れでいけば早晩安倍政権は国民にとって「嫌な選択」を迫る事になる。
ネズミの感電で原発復旧設備が停電するなど、再稼動のハードルはさらに上がった。先日執筆した「池上彰さんが心配して、総理大臣が否定するハイパーインフレについて。」では「民主党に騙されたと言って今自民党を支持してる人は、また騙される可能性がある」と書いたが、嫌な選択が迫られる事で早くもそうなりそうな兆しが見えている。そしてこの単純な事実に多くの人は気づいていない。これは安倍総理が悪いのではなく、どちらかを選ばざるを得ない政策を支持した国民のせいだ。少なくとも安倍総理は選挙前から円安政策を取ると明言していたし、円安が進めばエネルギー価格が上がって電気料金が上がるのは当たり前だからだ。
小泉政権時代は好景気を実感できないと繰り返し報じられたが、今度は株価が上昇しても生活は苦しくなるばかり、と似たような話が報じられるようになるだろう。近い将来、電気料金が1.5倍とか2倍まで上がってしまい、その結果支持率が急落して安倍さんに騙された、と批判する人が増えたら「みんな分かってて支持したんだから自業自得じゃないか」とその時は逆に擁護したいと思う。
●風が吹いても桶屋は儲からない。
昨日の報道ステーションでは不動産価格が上昇傾向にある、つまりバブルの懸念がある、といった報道もなされていた。実際には一部人気地域が少し上がっている程度で首都圏でも全国的にも地価は下落傾向にある。まだバブルにはほど遠い状況だが、番組で語られていた話をシンプルに説明すると、資産価格が上がれば物価があがる、という事だ。そしてアベノミクスを支持する人はそれによって経済が成長するという。
資産価格・物価・経済成長という3つの要素の関連性はもっともらしく1つの流れとして語られる。しかし、実際には資産価格が上がっても物価は上がらず、物価が上がっても景気は良くならない。ハッキリ言って因果が滅茶苦茶だ。
あわせて読みたい記事
話題の記事をみる - livedoor トップページ