リーダーになるべく生まれた男
『世界の子供たちに夢を タツノコプロ創始者 天才・吉田竜夫の軌跡』 (但馬オサム 著)
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十年ほど前に輸入雑貨屋で購入したブリキのランチボックスを、コンタクトレンズや髭剃りの道具入れにして重宝しているのだが、これには『マッハGoGoGo』のキャラクターがプリントされている。アンティークといえば聞こえはいいが、あちこち錆の浮いた古いもので、しかもキャラクターと共にプリントされたロゴは『Speed Racer』。実はアメリカ製なのだ。
タツノコプロ制作の『マッハGoGoGo』はアメリカでも『Speed Racer』のタイトルで放映され、大人気を博した(四十年後の〇八年に実写映画版が公開されたことからも、アメリカでの根強い人気ぶりが窺える)。『マッハGoGoGo』に限らず、タツノコプロというと多くの人が思い浮かべるのが、まつ毛の長いバタ臭い顔の少年ヒーローが登場するアニメーションだろう。その創始者、吉田竜夫の評伝である本書には、タツノコ作品のポップでハイカラな絵柄のルーツが、終戦後「なだれのように流入してきた」アメリカ文化、特に竜夫(と弟たち)がむさぼるように読みふけったアメリカンコミックにあった事実が明かされている。後の作品がアメリカ人受けするのも当然だ。
タツノコプロ創立に至るまでの前半は、紙芝居の下絵描きから挿絵画家、漫画家、アニメーター、そして総合プロデューサーとめまぐるしく肩書が変わっていく竜夫の背景に、漫画文化の隆盛が重なるスペクタクルな実録もの。後半は『ハクション大魔王』『いなかっぺ大将』『みなしごハッチ』『科学忍者隊ガッチャマン』など、有名作品の制作秘話が次々明かされる贅沢な構成で、共通して描かれるのは竜夫の器の大きさとおおらかな包容力。リーダーになるべく生まれた「常に方向を示し続ける」人となりが魅力的だが、分業システムの徹底など革新者としての側面も印象的。梶原一騎から阿部定(!)まで、多彩な登場人物も楽しい。