2013.03.19元新聞記者が挑戦!公募校長への道
この春から、大阪市の民間人校長第1号となる北角裕樹さん、37歳。以前は日本経済新聞の記者をしていました。
4月の着任に向け、目下、研修中の身です。大阪市では去年7月、橋下市長の肝いりで学校活性化条例が成立。この春から着任する小中学校の校長は原則全員公募となりました。1300人もの応募から選ばれた民間出身者は11人。会社役員に塾講師、TVディレクターなど、ユニークな人材が集まりました。最年少の北角さんを含め、皆、橋下改革で生み出された「校長」なわけですが・・・
北角さん
「橋下市長にも言うべきことは言っていきたいと思います。是々非々でやっていきたいと思います」
独身。A型。教員免許は持っていません。そんな北角さんのご自宅へお邪魔すると、玄関にはなぜか大量の靴が・・・。北角さんは現在、シェアハウス暮らし。同世代の男女11人とひとつ屋根の下で生活しています。
同居人たち
「同居人が校長先生になるのは、あまりイメージがないですね」
「今、ネタにさせてもらっています」
北角さん
「自称、日本初のシェアハウス校長」
記者のときには、府知事時代の橋下さんを追いかけていたこともある北角さん。
北角さん
「そのときは教育委員会と橋下さんが非常に対立していたときで、いろんなことがありました。非常に忙しい日々でしたが、楽しかったです」
取材活動を通じて、いつしか「自分も教育の世界に飛び込んでみたい」と考えるようになった北角さん。「校長」という形での挑戦を決意し、去年の暮れ、12年間の記者生活にピリオドを打ちました。
2月、大阪市立高倉中学校。中学校での校長実習は、全校生徒への挨拶からスタートです。
北角さん
「壇上に上がるときに何か作法ある?」
校長先生
「ないです。そのまま上がっていただいて」
校長先生のアドバイスを受け、壇上に上がった北角さん。かなり緊張している様子です。
北角さん
「みなさんこんにちは!きょうから一週間、みんなと一緒に勉強させてもらう北角裕樹といいます。皆さんに負けないくらいたくさんのことを5日間で学んで、4月から立派な校長になりたいと思います」
何とか挨拶を終え、ほっとしたのも束の間。その後は、校長の心得から実務までみっちり研修が続きます。着任までの研修期間は、わずか3ヵ月。限られた時間で、少しでも吸収しなければなりません。北角さんの目は真剣そのものです。実際に現場で働く先生たちは、「公募校長」をどう受け止めているのでしょうか。
女性教師
「私自身、すごいいろんなことが吸収できるかなと思って、すごい楽しみです。やっぱり教師って世界が限られているから」
男性教師
「なんでそんなことするのかなって。今いる学校内部の人でやっていけるのではと」
今回、北角さんの指導に当たった現職の校長からは・・・
校長先生
「私は授業通じて子どもとの関り方は経験してきましたし、正直失敗もたくさん重ねてきました。専門家でない方がおいでになられて、ましてやトップに立たれる。正直、前半苦労されると思います」
民間から校長を登用するということは、「教育の素人」が「教育現場のトップ」に立つということ。期待の反面、経験不足を懸念する声があるのも仕方ありません。北角さん自身も実習を通してそれを痛感していました。
北角さん
「やっぱり『深さ』が違うんですよね。たとえば柔道の授業とかも、教育的な配慮がたくさんあるんですね。受身という技だけじゃなく、礼であったり、身を守る手段だったり。外から来た人間だと、『技術は技術、身につければいいでしょ』という、どっちかというとそういう世界ですよね」
教育者としての経験がない自分がどうやって、教育のプロを束ね、チームにしていくのか・・・。描いた理想と、直面する現実のギャップに北角さんも戸惑っていました。
民間人校長の登用は、2000年の法律改正を機に全国の多くの自治体が導入しています。しかしその数は、近年ほぼ横ばいで、広がりを見せていないのが実情です。
この日、校長研修の講師として招かれた藤原和博さん。2003年、リクルートから転身し、東京都立の中学校で初めての民間人校長を務めました。同じ組織のトップでも、民間企業と教育現場には決定的な違いがあると藤原さんは厳しい口調で指摘します。
藤原さん
「なぜ失敗するか。民間企業でそういう仕事をやる場合、『人事権』と『予算権』を持ってやるわけです。『あなたは偉くなりたいんでしょ?』といって、『あとこれやったら5万のボーナス、あるいは10万円の社長賞』、こういう感じで釣るんです。校長はそれがないんです。人事権、予算権がない中で、どうやって自分をリスペクトさせるのか」
北角さん
「4月に赴任すると、もう予算とか人事とかカリキュラムとか結構決まっていて、そこから自分が何が出来るのかなって色々考えてたりしますね」
限られた条件の中でも、「自分に出来ること」を探していきたいという北角さん。その第一歩は、自分が挑戦している姿を子どもたちに伝えることだといいます。
北角さん
「チャレンジすることの楽しさとか、世界の広さとか、そういうのを教えたい。でも、そういうのは教えるというよりは、やっぱり感じてもらうことだと思うので、自分の人生で伝える人間になりたいと思います。楽しいよと、僕、楽しそうでしょということを言えれば最高だと思います」