ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第5章 ジェバラナの町
第27話 アスタナ共和国へ
○49日目

 雄介とカサンドラはスラティナ王国とアスタナ共和国の国境上空にいた。
アスタナ共和国にはやせこけた大地が広がっていた。

「むう、スラティナよりも土地がやせておるな」

「以前は豊かな大地だったそうだ。
悪魔がやってきてから悪化したのかもしれない。
だとするなら、竜脈から魔力を吸い上げているのかもしれないな」

「竜脈って何ですか?」

「生命の満ちた豊かな大地には地中に魔力の流れが出来ているんだ。
それを竜脈と呼ばれる。
それを吸い上げて自分達のエネルギー源にしているのだろう」

「じゃあ、そのうちに人が住めない大地になるかもしれないってことですか」

「吸い上げる量にもよるがあり得る話だな」

「人間だけの話じゃないですよね。この国の生き物全体に悪影響があるはず」

「そういうことだね。さて、まずはマジックサーチで魔物を調べつつ、小さな村に行ってみよう。
アスタナの人たちの話を聞きたい。
アスタナからスラティナに避難してきた人はごく少数だという。
よほど巧妙に侵略されたのだろう」

「そんな…酷いですね」

「獣型の魔物は腹一杯になれば態々人間を襲ったりしないんだ。
まあ、自然に住んでいるんだから腹一杯というのが滅多にないが。
だが、悪魔は違う。
知能が高く、欲望を持っている。
快楽の限りを尽したり、遊びで人を弄んだりするそうだ」

「ふむ、ただの魔物以上に危険なのだな」

「そういうことだね。
あ、あの村の近くに下りよう」


 雄介たちは住民数百人程度と思われる小さな村の近くに着地した。
勿論、ブラインドハイディングは使用している。
雄介はマジックサーチを使うと、村の中に魔力の反応はないことを確認した。
外には魔物がいるが、Bクラス以下であったため問題はないと思われた。

「魔力の反応がないから魔物も魔法使いも居ないみたいだ。
黒王、偵察に行ってくれ。
安全だとは思うが、注意してな」

「うむ」

 ダークテンペストが黒鷲になって飛び出した。
だが、数分で戻ってきてしまった。

「中には誰もおらんぞ。子供1人見付からぬ」

「分かった。入ってみよう。
人が居ないならいつ居なくなったのか、その原因はなにか調べよう」

 雄介たちは村に入ると、寂れた廃村であることが分かった。
木造平屋の家が立ち並びボロボロに壊されていて、どの家にも誰も居なかった。
牛や馬などの家畜も見当たらなかった。

「どの家も壊れていて、魔物の襲撃が有ったんでしょうか」

「ああ、火事とかそういうのじゃない。
暴力的な方法で壊されてる」

「井戸水が残っておるな。まだ住めるだろうに、全滅したのかもしれん」

「持ち運びできる道具類も残っておるから、ある日突然襲われた様子だのう」

「悪魔のために他国に逃げたということは無いでしょうか?」

「スラティナに逃げた人の話は聞いたことないな。
スラティナ以外の国なら有るかもしれないが」

「しかし、この村の位置だとスラティナが一番近い国のはずだが」

「う~ん、他の村もいくつか回ってみよう」


 雄介たちが村の外に出ると、Bクラスの魔物・デスタランチュラ4匹が現れた。
大きさ2mほどの蜘蛛であるが、雄介たちの敵ではなかった。
カサンドラがファイアーバーストを放つとたやすく灰燼に帰したのだった。

「マジックサーチ使って思ったけど、やっぱり魔物が多いな。
悪魔以外の魔物がどうして多いのだろう」

「酷く危険な国ですね。
普通の冒険者程度なら歩き回るのも厳しいと思います」

 その後いくつかの村を回ってみたが、やはりどこもゴーストタウンになっていた。

「この辺一帯の村は全滅だな。
大きめの町に行こう」

「そうですね。これだけの村が廃村になってるなんて、不気味です」

「うむ、何が起きるか分からんからの」


 雄介たちは数千人規模の人が住んでいると思われる町を見つけた。
城壁もしっかりしている。
門の前で数十人の兵士たちが立っているのが上空からも見えた。

「あ、あそこ人が居ますよ」

「うむ、ようやく見つけたのう」

「見付からないよう、少し離れた場所に下りるぞ」

 雄介たちは降りるといつも通りダークテンペストを偵察に出した。

「戻ったぞ。
ジェバラナという町だ。
約2平方kmで浮浪者が酷く多い。人口は6000人ほどだろう。
治安もかなり悪く、カサンドラは襲われないよう気をつけよ。
領主の館が中心部にあり冒険者ギルドは南西にある。
兵士たちはひどく緊張して警戒をしておった。
簡単にはいれないだろうが、雄介たちなら問題なかろう」

「マジックサーチでも魔物の反応はなく、魔力の強い人間は居るがAクラス程度までだな。
万一敵対することがあっても何とかなるだろう」

「人の魔力も判るんですね」

「ああ、魔力が弱い人は居るかどうか分からないが、ある程度以上なら判別できるようになったんだ」

「マジックサーチは便利ですね。私もサーチ系を身に付けたいです」

「暗黒属性魔法が使えないなら、自分で開発するのはどうかな?」

「なるほど、その手がありましたね」

「風系魔法がやりやすいかもね。
じゃあ、ジェバラナの町に行こう」


 雄介たちがジェバラナに近づくと、兵士達が警戒心をむき出しで槍を構えた。
その中から1人が出てきて声をかけてきた。
警備隊の隊長のようだ。

「おい、貴様ら何者だ!どこから来た」

「俺達は他国から来たSクラス冒険者です。
悪魔どもを倒すためにこの国に来ました」

「他国からだと?
一体どこの国からだ?」

「国に累を及ぼさないため、国名は出す気はありません」

「む、そうか。
冒険者証明書は?」

 雄介が冒険者証明書を見せる。

「本物のようだな。
それにSクラスというのは本当のようだ。
…雄介殿、悪魔どもを倒すために来られたというのはまことですか?」

「そうです。
町の中に入れてもらえませんか?」

「まあ、良いでしょう。
そうですな、宿屋が決まったら教えて下さい」

「分かりました」

 雄介たちが町中に入ると、避難民らしいボロボロの人たちが何人も見られた。
着の身着のまま逃げ出したらしく、碌にお金もない様子が伺えた。
その人たちに声をかけてみる。

「あの~すみません。
どういったことが有ったのか聞かせてほしいのだけど」

 40代ほどの男が返事をした。

「ああ?一体なんのつもりだ?」

「近くの村から避難してこられた人たちだよね?
詳しい話を聞きたいんだ」

 雄介は銀貨1枚を差し出す。

「おお、銀貨じゃねえか。
ああ良いぜ。何でも聞きな」

「村で有った話を聞かせてほしい」

「どこの村でも同じような話だぜ。そんな話を聞いてどうするんだか。
…うちの村は5日ほど前のことだ。
その日の晩、村が襲われたんだ、アンデットどもにな。
気が付いたときはもう警備の奴らも殺されててな、見渡す限りゾンビどもで一杯だったぜ。
命からがら逃げ出したんだが、うちのかかあや娘たちも喰われちまった。
この辺で1番でかいのがジェバラナだからここに来たんだ。
うちの村で助かったのは2~30人ってとこだな。
こんな話で良いのか?」

 男の目にはアンデットへの怒りと憎しみ、肉親を失った哀しみが溢れていた。
カサンドラはその話を聞いて息をのんだ。

「アンデットの数と強さのクラスは分からないかな?」

「数百かそれくらいじゃねえかな。
強さのクラスなんて分かるわけねえだろ。
ゾンビ以外にも変わったアンデットが居たみたいだが、よく分からねえよ」

「そうなんだ。
あと、アンデット以外の魔物は居なかった?」

「アンデット以外といえば、悪魔を見たって言ってた奴がいるぜ」

「…その悪魔の話を聞かせてくれないか?」

「4mくらいの馬鹿でかい奴だったそうだ。
角が何本も生えてて、翼が有ったらしいぜ」

下級悪魔(レッサーデーモン)じゃなさそうだな。
分かったよ。ありがとう」

「あんたら冒険者みてえだな。
アンデットどもを何としても倒してくれ。
でなけりゃ俺たちゃ、死んでも死にきれねえ」

「ああ、何とかやってみるよ」


「カサンドラさん、領主に会いに行こうと思うんだが、どう思う?」

「あの、どうして領主なんです?」

「情報はトップに集まるものだし、この町の防衛に協力しようと思うんだ。
長期間は無理だけど、見捨てるわけには行かないからね」

「防衛に協力ですか。
そうですね。やりましょう」


 歩いて15分ほどで領主の館に着いた。
日干し煉瓦で出来た貴族風の2階建ての屋敷だった。
スラティナでは日干し煉瓦は見なかったが、アスタナではそれなりに使われているようだ。
門番が居たが、他国から来たSクラス冒険者でこの町の防衛に協力したいので領主に会いたいというと謁見の許可が取れた。

 応接室は10人程度まで入れる部屋だった。
趣味の良い調度品があり、上等そうな絨毯が敷かれていた。
雄介たちが座って待っていると、60代程度の男が2人入ってきた。
領主と執事のようだ。
領主は最近の寝不足が顔に現れていた。
領主が対面に座り、執事はその後ろに立っていた。

「私はジェバラナの領主、ゴンダール・ジェバラナ・ベルベラティと言います。
異国の冒険者殿、どうか力を貸して頂きたい」

「滝城雄介です。
お話を聞かせて頂けますか」

「1ヶ月ほど前のことです。
首都バーフサムが悪魔どもの攻撃によって壊滅したという話が伝わってきたのです。
その後、魔物の数が目立って増えました。
とてもじゃないが町の外には出られないのです」

「ええ、町の外にはかなりの強さの魔物がうようよ居ましたね」

「そして、近くの村々から続々と避難民が押し寄せてきたのです。
村を悪魔がアンデットの群れを率いて襲撃したそうです。
襲われた村はほとんどが皆殺しになり、その生き残りが他の村に知らせジェバラナに避難してきたのです」

「そうでしたか。
この町に来る前にいくつかの村を見ましたが、どこも人っ子一人いませんでした。
アンデットの群れはどれくらいの数なのでしょうか?」

「およそ800匹だったそうです」

「800匹!
それは村の防衛力では一溜まりもなかったでしょうね」

「ええ、問題はジェバラナでもそんな数の魔物は防ぐのは厳しいということです。
今は1人でも強い冒険者がほしいのです。
どうか力を貸して頂きたい」

「分かりました。
ずっと居るわけには行きませんが、その群れを退治するまでは協力しましょう」

「感謝致します」


「カサンドラさんは一旦スラティナに戻って今まで分かったことを報告しておいてくれる?
俺はこの町の防衛について色々やっておくから」

「はい、分かりました」

 カサンドラは王都にテレポートし、雄介は町を見て回った。
ケガ人も多く、皆暗い顔をしていた。
近くの地理を調べたところ、周囲の村は魔物の攻撃で滅びたかジェバラナに避難したかのどちらかしかなかった。
避難民は貧しいため浮浪者になっている人が多かった。
しばらくするとカサンドラが戻ってきたので、その日はジェバラナの宿屋に泊まることにした。

 宿屋に入ると女将さんと女の子が居た。
2人とも金髪をしており、顔がよく似ていて親子だとすぐ分かった。
女将さんは30代の美人で、女の子は10歳程度の可愛い子だった。

「いらっしゃい。2人かい?」

「2人で2部屋お願いしたんだけど、空きはあるかな?」

「いや~今避難してきた人たちが多いから出来れば1部屋でお願いしたいんだがね」

「雄介さん、信用してますから、1部屋でも大丈夫ですよね?」

「う~ん、じゃあ1部屋で」

「2人分で1泊銀貨1枚銅貨40枚だよ」

「じゃあ、とりあえず2泊分で」

「あいよ。
ルジェナ、お客さんの案内をしておくれ」

「はーい、お兄ちゃんお姉ちゃん、あたしについて来てね」

「ルジェナちゃんって言うのね。
私はカサンドラよ。よろしくね」

「雄介だ。よろしくな」

「うん。よろしくね」


「この部屋だよ。
夕飯は1階で食べられるから夕方になったら来てね」

「分かったよ。じゃあ、また後でね」

「ルジェナちゃん、またね」


 その晩、警報の鐘が鳴った。
雄介が居たその日に襲撃が起きたのは雄介の運のわるさのためだろうか。
雄介たちは北門に向かった。

「今の状況は?」

「アンデットの群れが確認されました。
予想数は1000匹程度です」

「1000ですか?村の襲撃より多いですね?」

「襲撃で死体が増えればアンデットは増えますからね。そのためだと思います」

「群れは今どこに?」

「12kmほど北方から向かっています。
防衛線は門前に築く予定です」

「俺たちで数を減らしますから、こぼれたものから防衛をして下さい」

「え?数を減らすって突っ込むのですか?
1000ですよ?死ぬ気ですか?」

「1000匹くらいなら何とかなります。では」


「カサンドラさん、ブルーダインに乗って空からどんどん撃ってくれ。
アンデットに空を飛べる奴は少ないはずだ」

「分かりました。雄介さんはどうします?」

「俺は魔法攻撃をしつつ、直接攻撃で削っていくから」

「…はい。無茶しないで下さいね」

 雄介がダークテンペストに、カサンドラがブルーダインに乗り飛び出す。
その姿を見て、町の兵士達は敬意を持って見送るのだった。
Fクラスのゾンビが約500匹、Eクラスのスケルトンが約300匹、Dクラスのグールが約200匹、Cクラスのアンデット・ナイトが約100匹、Bクラスのスカルドンとデュラハンが54匹、Aクラスのリッチが12匹、合計1000匹以上の大群が迫っていた。

次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「アンデットの襲撃」です。
小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。