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第4章 最初の仲間
第22話 引越し
○36日目

「ティアナ、ルカ、紹介するね。
俺と同じ異世界から来た勇者の仲間が出来たんだ。
それがこちらのカサンドラさん。
パーティを組んでくれるということで、既に俺以上の魔法使いなんだ」

「私なんか実戦経験がないんですから、雄介さん以上の魔法使いだなんて」

「いや、カサンドラの魔力値は大したものだぞ。
雄介を超えておる」

「カサンドラ様は勇者様にゃん?
うにゃ~凄いにゃん」

「おお~、雄介やったね♪
もう黒王だけで戦ってるのは心配やったし、良かったわ。
カサンドラさん、雄介のことお願いやで」

「あの、勇者だってことは他の人には言わないで下さいね。
雄介さんから話を聴いて、宰相や国王なんかにはもう絶対会いたくないんですから」

「うわ~その気持ち分かるわ。
あの気持ち悪い顔、ぶん殴ってやりたいと何度思ったことか」

「そうにゃん。雄介さんが居ないときを狙って声をかけてくるんだから虫唾が走るにゃん」

「ほお、俺が居ないときに、声をかけてくると。
どっちが?」

 雄介の顔が強張っている。額を見ると青筋が浮かんでいた。

「どっちもにゃん」

「そうや、雄介が出かけているときに何かと話しかけてくるんや。
城の侍女に無理やり手を出そうとしてるの前見かけてな。
それを止めようとしたら目をつけられたんや」

「それは許せませんね。女の敵です」

「余の仲間に手を出すなら消し炭にしてやっても良いのだがな」

「宰相や国王には何らかの制裁を加えておくから、4人は近づくなよ。
そういえば家のほうはどうなった?
家が見付かり次第、引越そう」

「良さそうなお屋敷が見付かったんや。
最終的な決定は雄介が確認してからがええと思て決めてないんやけど」

「あんな立派なお屋敷に住めたらルカ幸せにゃん」

「余も見ておきたいな」

「じゃあ、その屋敷を今から見に行くぞ。
俺が居れば帰りが夜でも問題ないしな」

「雄介様とお出かけにゃん♪」

「そういえば、私住むところって決めてなかったですね」

「とりあえず、俺の仲間ってことで城に部屋は用意させてるから今晩はそれで。
カサンドラさんはどうしたい?
寝泊りするのは異世界か例の場所の自分の家でも良いだろうし。
家探しの条件に部屋数多めって言ってるから、屋敷に住んでも良いよ」

「え、そ、それは、えっとそのあの。う~んと」

 雄介と同じ屋敷に住むことを考えてカサンドラは慌ててしまった。
流石にまだ付き合ってない人と一緒に住むのは地球育ちのカサンドラには荷が重い。
雄介としては飽くまで選択肢の1つとして提案したに過ぎない。
それを見て、ティアナは助け舟を出す。

「まあまあ、そういう大事なことは直ぐ決められることやないから。
しばらく時間をおいて考えたらええんとちゃう?」

「そ、そうですね。そうします」

「じゃあ、出かけるぞ~」


 雄介たちは王城を出て、屋敷を見に行く。
200坪程度の土地に2階建ての邸宅があった。
木造の洋館であり、部屋数は十数部屋である。
商人の住む屋敷として建てられたもので、作りはしっかりしている。
新築の家で、土地を含めて金貨20枚(約2000万円)であった。
家具などは自分で用意する必要がある。
この地の物価では標準的な価格であった。

「ふむふむ、少し手狭だが住めないこともないだろう」

 ダークテンペストの感覚では屋敷は小さく感じられるようだ。

「良さそうな家だな。
日本でこんな家を買ったら目玉飛び出るほど高いだろうなあ。
俺のアパートなんか1DKなのに」

「雄介、1DKってなに?」

「いや、異世界の話だよ」

「ホンマはね、勇者様用にってもっと大きい家を勧められたんや。
でもなんか、大きな家屋敷に使用人を雇って住むような生活、うちにはピンとこおへんかったんや」

「ああ、そういう生活はしたくないな。
肩が凝りそうだ。
あ、お風呂はどうだ?
お風呂は良いのを選んでくれって言ったよな」

「ルカが案内するにゃ」


 お風呂に行ってみると、小さめの銭湯くらいのサイズであった。
お湯は魔法で沸かすタイプになっている。

「へえ~、これは立派だな。
一般家屋にこのサイズって普通は必要ないだろうに」

「雄介様が良い風呂をって言ったから色々と見て回ったにゃん」

「よく頑張ったな、ルカ」

「うにゃにゃん」


「雄介さん、キッチンを見に行きましょう。
キッチンの出来で料理はかなり変わってくるんですよ」

 料理好きのカサンドラはキッチンにこだわりがあるようだ。

「う~ん、やっぱりキッチンはどうしても地球の方が使いやすいですね。
でも、魔法を使えばそう悪くないですよ」

「地球では当たり前になってるけど、直ぐに火を点けられるって凄く便利だよね。
火属性魔法が使えて良かったよ」

「私、イギリス人なんですけどイギリス料理って美味しくないってイメージ有りませんか?
正直なところ、フランス料理とかに比べると…。
でも私、美味しい料理を作りたくて色々勉強したんですよ。
チュートリアルの仕事は時間も余裕がありましたし。
雄介さん、私の作った料理これからも食べてくれますか?」

「チュートリアルを受けた時に、カサンドラさんの手料理は食べさせてもらったけど、美味しかったよ。
だから、これからも食べさせてくれると嬉しいな」

「一緒に住むというのは、まだ抵抗があるんですよ。
なので、ホームは狭間の世界のあの家で、時々この家に来て料理作るのはどうでしょうか?」

「チュートリアルのあった場所って狭間の世界って言うんだね。
勿論構わないよ」

「良かったぁ。
狭間の世界というのは、地球とGWOの世界の狭間にあるからその名が付いたんですよ。
元々存在していた並行世界ではなくて、神様がチュートリアルのために創った亜空間なんです」

「へえ、シルバーゾーンの大規模版みたいなものかもね」

「シルバーゾーンですか。私テレポートは使えるのにシルバーゾーンは使えないんですよね。
どうも苦手なんですよ」

「へ~、俺はシルバーゾーンを覚えてからしばらくたってテレポートを覚えたんだ。
だからテレポートの方が難しいと思ってたよ」


 しばらく雄介とカサンドラが会話していると全員が集まってきた。

「そろそろ答えを出そうか。みんなこの家に住みたいと思うかな?」

「余はこの家で良いと思うぞ」

「うちは勿論良いと思ったから案内したんや」

「ルカはこの家が気に入ってるにゃ」

「私はまだ住むわけじゃないですけど、良さそうな家だと思います」

「(まだってことは、カサンドラさんやっぱりそうなんやね)」

「我はマスターが決めたことに従うぞ」

「うん、俺もこの家が良いだと思うよ。
じゃあ、代金は即金で払うね」

 その後、屋敷の代金を支払い売買契約書にサインした。

「今日はどこかで外食して王城に泊まろう。
明日家具を注文して、それから引越しだね」

 その日の晩、国王と宰相は悪夢を見たらしく、城の侍女などに手を出すことが減ったという。
どんな悪夢を見たかは誰にも話すことはなかったそうだ。


 そして翌日、家具を購入しアラドの町から必要な荷物を運んだ。
雄介のシルバーゾーンとテレポートで大量の荷物は全く問題ではなかった。
ティアナの姉、アルジェも王都に引っ越すことになった。
少しずつアルジェのリハビリも進んでいるようである。
特にカサンドラの回復魔法があれば今後の進歩は速そうだ。
ティアナはアラドの冒険者ギルドから王都のギルドの職員に変わることが決まった。
雄介が王都のギルドマスターに話したのである。
ティアナの仕事は2日後からであった。

「カサンドラさん、自由に使える部屋を一室用意しようと思うんだけど、どうかな?」

「私用の部屋ですか。
う~ん、有ると便利でしょうね。
お願いします」

「あと、ブルーダインに必要な物って何かないかな?
ブルーダインに一部屋用意する?」

「ずっと私と同じ部屋というのはちょっと避けたいですね」

「我にも一室用意できるなら頂きたい。
財宝を集めたいのだが、それを置いておきたいのだ。
それ以外には特にないな」

「そういえばドラゴンだもんね。
自由な時間にはよく黒王も空の散歩に行ってるし、ブルーダインも好きにしたら良いよ。
カサンドラさん、引越しが終わったら狩りに行こうと思うんだけど、良いかな?
魔獣の森という獣型の魔物が多くいる森があるから、そこでどうかな?」

 雄介としてはカサンドラの初戦の相手は人型や虫型の魔物は避けておきたいという発想だった。

「分かりました。今日中に片付けを終わらせておきますね」


 その日の内に荷物運びは終了し、片付けの続きはティアナとルカがすることになった。
翌日、雄介とダークテンペスト、カサンドラとブルーダインは狩りに出かけた。

 魔獣の森は王都から北西約200kmにある広大な森である。
FクラスからBクラスまでの獣型の魔物が多く、Aクラスの魔物はとても少ない。
Sクラス以上の目撃例は今まで無かった。

 雄介はダークテンペストに乗り、カサンドラはブルーダインに乗って飛行し、魔獣の森に着いた。
雄介がマジックサーチを使いつつ前を進んで、カサンドラがレジストマインドを使いながら魔法攻撃で魔物を倒す予定である。
ダークテンペストは雄介の援護、ブルーダインはカサンドラの防御を役割としている。
時間短縮のためA~Bクラスの魔物でなければ、討伐確認部位は取らない予定である。

 雄介とカサンドラの頭にクエストが浮かんだ。

クエスト:魔獣の森の魔物討伐

獲得勇者ポイント:討伐数次第


 雄介がマジックサーチを使うと周囲2kmに渡って魔物の大体の強さと位置が把握できた。
効率的に魔物を狩るルートを検討し、先に進む。
雄介が右前方20mにお化けアリクイを発見し念話でカサンドラに知らせる。
慣れれば口に出すより念話が速く、また聞き誤りも少なく、敵に見付かりにくいためである。
カサンドラがアイスストームを発動させると、小規模な吹雪が発生し、お化けアリクイが氷像に変わった。

「やりましたよ。あのアリクイを倒しました♪」

 カサンドラが喜びの声を上げる。

「初勝利だね。おめでとう」

 雄介はそれに付き合う。
地球育ちの普通の女性であるカサンドラの戦闘への抵抗感を少しでも減らすためである。
本来なら獣型の魔物には火系魔法が有効なのだが、火事を防ぐ為と血があまり出ないよう氷系魔法で攻撃することを指示したのも雄介だ。
雄介は自分だけなら少々危険でもどんどん突き進むタイプだが、仲間に対しては過保護なのかもしれない。

 その時キラーエイプ5匹が近づいていた。
雄介は当然そのことに気付いており、カサンドラに知らせている。
カサンドラは左側を向くとダイヤモンドダストを放った。
猿どもの周囲5mが氷で包まれる。
森の中に小さな氷山が現れていた。
キラーエイプ5匹は氷山に閉じ込められている。

「さあ、先に進もう。次からはどんな魔法を使うかは自分で決めたら良いよ」

 雄介はBクラスのレッドベアを見つけて近づいていった。
そこにはレッドベア3匹が居た。
カサンドラがファイアーバーストを撃ち込むとレッドベアが爆炎に包まれる。
だが、レッドベアは火炎属性耐性持ちである。
直撃した1匹は死んだが、残り2匹は生き残りカサンドラに突撃した。
ブルーダインが立ちふさがり、メガフレアを放った。
真っ白い輝きに塗り消されたように、レッドベア2匹はこの世から消滅したのである。

「カサンドラさん、相手が獣型の魔物なら火炎属性が有効なことが多い。
でも、身体が赤い魔物は火の精霊の影響を強く受けている場合があるんだ。
すると火炎属性耐性を持っているかもしれない。
今の相手ならダイヤモンドダストで一発だったね」

「びっくりしました。
ブルーダイン有り難う。
雄介さん、気をつけますね」

「この程度の相手なら我がどれだけでも護るから、安心して戦うがよい」


 それからカサンドラは魔物を倒しまくった。
マッドオックス8匹、ダークネスコブラ7匹、サーベルタイガー5匹、ブラックヒツジン8匹、ビックリザード6匹、ライオンヘッド7匹、シルバーウルフ12匹、キラーリカント9匹、ワニシャーク5匹などなど一発か二発の魔法で次々と全滅させて行った。 
これらはどれもBクラス以下の魔物ばかりでカサンドラとって敵ではなく獲物に過ぎなかった。
Bクラスの魔物は、雄介が討伐確認部位を採取した。

「そろそろ慣れてきただろうし、Aクラスに行ってみようか」

「あ、はい。お願いします」

 雄介はダークテンペストに乗り、森の奥へとカサンドラを案内する。
そこには体長12mほどの巨大な象がいた。
キングパオームである。
濃灰色の肌を持ち、深紅に燃える3つの瞳に殺気を浮かべていた。
その象牙は3mほどもあり、磨きぬかれた槍のような鋭さを宿している。
討伐確認部位は象牙であり、道具の素材になる。

 キングパオームは近くの木をまるで割り箸のようにへし折ると、カサンドラ相手に投げ飛ばした。
ブルーダインがその木を竜のブレスで吹き飛ばした。
今度は1mほどの岩を投げつけてきた。
直撃すれば普通の人間なら死を免れぬだろう。
カサンドラはガイアシールドを使い、大地からいくつもの盾を出現させる。
投げられた岩はその石盾でもっては弾き返されるのだった。

 カサンドラはキングパオームを狙ってアイシクルディザスターを放出した。
破城槌のような大きさを持つ氷の柱が数百本飛び出し、極寒の冷気を纏ってキングパオームに向かう。
それは目の前で巨大な雪崩が起きたような、逃れようの無い死の訪れであった。
次々と氷柱がキングパオームに突き刺さっていく。
いや、キングパオームだけでなくその後方100m以上に渡って氷の塊りに蹂躙されていった。
その場にあった木々が悉く粉砕され、凍り付いていくのだった。
キングパオームの象牙ですら、粉々に砕かれ、辛うじて討伐確認はできるものの、素材としての意味を失っていた。
カサンドラのオーバーキルであった。

次回の投稿は明日0時となります。
サブタイトルは「森の巨人」です。
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