「日本キラピカ大作戦」

柱に巻くだけで巨大地震から日本を守る「包帯」

短工期、低価格、省エネを実現する耐震補強

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2013年3月21日(木)

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 加えて、鉄板の場合、溶接など特殊な技術が必要で、工事に手間がかかる上、重量も大きさもあるので運搬が大変だ。一方、包帯補強であればそういった心配が不要だ。実際、五十嵐氏は製造を委託している国内のベルトメーカーの工場から直接、補強工事の現場に、ベルトを宅配便で送ってもらっている。

 以上のような理由から、包帯補強は従来の約10分の1の工期、従来の5割から8割程度のコストを実現している。

 また、他の耐震補強工事とは異なり、工事期間中でも建物を利用できるというメリットもある。商業施設であれば営業を続けながら、オフィスビルであれば業務を続けながら耐震補強ができるのだ。鉄骨ブレースのように新たな構造物を設けるわけではないので、建物の空間が狭くなったり、今まで通れていた場所が通れなくなるといったこともない。

鉄筋コンクリートの安全神話が崩壊

 そもそも五十嵐氏が包帯補強を開発するきっかけとなったのが、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災だった。

 当時、大手建設会社の設計部・耐震課に在籍していた五十嵐氏は被害状況を調査するため、震災発生の翌日に神戸に入った。そして目の前の光景に自分が長年信じて疑わなかったものが音を立てて崩れていくのを感じた。

 「カルチャーショックだった。高速道路の高架橋脚やビルが倒壊し、崩れた鉄筋コンクリートの柱からグニャリと折れ曲がった無数の鉄骨がむき出しになり、無残な姿をさらしていたからだ。これまで強靭で、ちょっとやそっとの地震ではビクともしないと信じて疑わなかった鉄筋コンクリートの安全神話が崩壊した瞬間だった」と五十嵐氏は振り返る。

 阪神・淡路大震災は五十嵐氏にとって人生の大きな転機となった。

 1000枚以上にも及ぶ写真を撮り、東京に戻った五十嵐氏は、鉄筋コンクリートの建物が倒壊した原因を解明すべく分析を進めた。ところが3カ月後、会社は調査・分析の打ち切りを下した。

 「建設会社というのは、言ってみれば建物を建てたり壊したりするのが仕事だ。そもそもなぜ壊れるのかといったことにはあまり興味がないということが、その時よくわかった。しかし私は、今後同じような悲劇を繰り返さないためには、耐震研究を続けるべきだと強く感じた」と五十嵐氏。

 実際、既存の鉄筋コンクリート製の建物や道路、橋、トンネルなどの多くは、旧耐震基準に基づき高度経済成長期に建設されたもので、関東大震災などの巨大地震を経験していないし、想定もしていない。

 建物の耐震性能について、ゼロから見直す必要があると考えた五十嵐氏は1997年6月、大手建設会社を退職した。そして、トルコのイスタンブール工科大学の客員教授となり、現地で日本の耐震技術を教えながら、耐震研究を続けた。そして2年後の1999年4月に帰国。同年7月30日に建物の防災コンサルティング会社として、構造品質保証研究所を設立し、耐震研究に本腰を入れ始めた。


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山田 久美(やまだ・くみ)

 科学技術ジャーナリスト。都市銀行システム開発部を経てフリーに転身。月刊誌やウェブサイトでハードウエア、ソフトウエアのレビュー、IT関連の記事を多数執筆。2005年3月に技術経営(MOT)修士取得。現在はサイエンス&テクノロジー関連、技術経営関連の記事を中心に、執筆活動を行っている。研究者の研究内容を聞くのが最もワクワクする時間。希望ある未来社会を実現するためのサイエンス&テクノロジーの追求をライフワークにしている。Twitterアカウントはこちら

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