◇春場所<11日目>
東前頭7枚目の隠岐の海(27)=八角=が千代の国を寄り切り、2敗を守った。24度目の優勝を狙う単独首位の横綱白鵬(28)=宮城野=は危ない体勢から立て直して大関琴奨菊を寄り切り、11戦全勝とした。琴奨菊は4敗目。横綱日馬富士は関脇豪栄道を上手投げで下して勝ち越した。
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190センチの長身を生かし、がむしゃらに前へ出た。ただ一人2敗で白鵬を追い掛ける隠岐の海が千代の国の首投げに必死に耐え、低い重心から最後は左足をつかんで土俵の外へ。74年前の双葉山以来となる12日目での優勝を阻止した。
「危なかったぁ。気を付けないと。でも本当に体が動いてる。先手を取れればいいね。例え負けても次につながるから」と笑みがこぼれた。
八角部屋が宿舎を構えるのは大阪府羽曳野市。宿舎近くには全長420メートル、高さ36メートルの巨大な応神天皇陵がある全国有数のパワースポットだ。同市は大リーグ・レンジャーズのダルビッシュ有投手の故郷で知られ、市役所には「世界に羽ばたけ! ダルビッシュ選手」の垂れ幕がかかる。
「(ダルビッシュが羽曳野市出身であることは)もちろん、知ってます。でも戦っている世界が違いすぎますからね。恐れ多いですよ」
端正なマスクの上、154キロの恵まれた体格から将来のスター候補の呼び声が高い。今場所は11日目で早くも9勝。残り4日間の活躍次第では三賞、三役の期待もかかる。しかし、師匠の八角親方(元横綱北勝海)は「荷が重いよ。稽古しないからすぐボロが出る」と手厳しい。
叱咤(しった)激励は素質の高さを評価する期待の裏返しだ。部屋付きの谷川親方(元関脇北海力)は「土俵の外でしっかりトレーニングをやってます。体を見れば分かりますよ。普通にやっていけば三役にはすぐ上がる逸材」。今年7月に定年を迎える君ケ浜親方(元関脇北瀬海)も「欲を出すこと。力はあるんだ。気持ちひとつで三賞どころか三役だっていけます」とエールを送る。
入門以来、面倒をみてもらった君ケ浜親方へ向けて隠岐の海は「3年ほど前から『大関になる』と約束したのに果たせてない。恩返ししたいッスね。三役、三賞、全部持っていきますよ」と威勢よく話し、「かなわぬ夢だけど、千秋楽に横綱とやってみたい」と白鵬追撃へ闘志を見せた。
まだ現実味のない話だが、逆転Vを達成すれば羽曳野市役所のダルビッシュの垂れ幕の横に隠岐の海を祝福する垂れ幕もきっと並ぶことだろう。 (竹尾和久)
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