イラク戦争の開戦から、きょうで10年になる。「ついに戦争が始まった」そう書き出した当時の社説で、私たちは「この戦争を支持しない」と書いた。[記事全文]
2%のインフレ目標を2年で達成するために「できることは何でもやる」という黒田東彦(はるひこ)総裁の下、きょうから日銀の新体制がスタートする。金融政策の大転換を求める安倍[記事全文]
イラク戦争の開戦から、きょうで10年になる。
「ついに戦争が始まった」
そう書き出した当時の社説で、私たちは「この戦争を支持しない」と書いた。
実際、米政府が開戦の「大義」とした大量破壊兵器は発見されなかった。武力行使を明確に容認する国連安保理決議はなく、国際法上の根拠を欠いていたことも明らかだ。
「大義なき戦争」を、日本政府は支持し、自衛隊を後方支援や人道復興支援に派遣した。
当時の小泉首相はどのような根拠で米国支持に踏み切ったのか。海外での武力行使を禁じた憲法に抵触するような自衛隊の活動がなかったか。当然、国民には知る権利がある。
ところが、この10年、政府も国会も、ほとんど検証らしい検証をしてこなかった。その結果、誤った戦争に加担することになった経緯も責任の所在もあいまいなままだ。
とても、まともな国のありようとはいえない。
そのことの異様さは、各国の対応と比べても際だつ。
米英やオランダでは、政府が独立調査委員会を設置し、徹底した検証をした。
英国ではブレア元首相らが喚問され、オランダでも、イラク戦争は国際法違反だった、と断じた。
米国ではブッシュ前大統領が批判にさらされた。オバマ大統領はイラクから米軍を撤退させたが、「負の遺産」である財政負担にいまも苦しむ。
足かけ9年の戦闘で、死亡した米兵は4500人近く、イラク民間人の犠牲者は12万人以上にのぼるともいう。
戦争とは、かくも重く、悲惨なものである。
日本では、衆院特別委員会が07年に「政府はイラク戦争を支持した政府判断を検証する」という付帯決議を可決したが、放置されたままだ。
開戦時、小泉首相は「米国による武力行使の開始を理解し、支持する」と言い切った。米国の情報をうのみにして、追従したというのが実情ではないのか。その真相は小泉氏に聞くしかない。
政府や国会は、いまからでも第三者による独立の検証委員会を立ち上げ、小泉氏からの聴取もふくめ、調査に乗り出すべきではないか。
安倍首相は、集団的自衛権の行使容認や、国防軍の創設に意欲を示す。
イラク戦争の反省もないままに、である。あまりにも無責任ではないか。
2%のインフレ目標を2年で達成するために「できることは何でもやる」という黒田東彦(はるひこ)総裁の下、きょうから日銀の新体制がスタートする。
金融政策の大転換を求める安倍首相の意を受け、就任早々から大型の追加緩和に踏み切り、デフレファイターぶりを市場に見せつける構えのようだ。
「2年で2%」は、相当に高い目標である。黒田日銀は「とにかく緩和」という押しの一手で、株や不動産など新たな資産バブルが生じることも辞さないように見受けられる。
だが、行き過ぎの反動が出れば、経済は深刻な打撃を受け、高齢化が進む中で再起が一段と難しくなる。
インフレ目標政策には、中央銀行が物価の動きにとらわれ、バブルへの警戒を怠らせる欠点がある。リーマン危機が重大な教訓を残したことを、黒田総裁は百も承知のはずだ。
市場との対話は重要だが、緩和の催促に応えるばかりでは、「市場の奴隷」にすぎない。必要な時には過剰な期待を突き放し、適切な距離を保つことこそ対話の眼目だ。
賃金・雇用の改善と歩調を合わせた「良いインフレ」が実現される環境を見定め、財政の尻ぬぐいという疑念を招かない形で慎重に政策を進めるよう改めて求めたい。
日本は、経済規模の2倍に及ぶ政府債務を抱える。すでにバブル状態にある国債相場が下落すると、銀行の経営を圧迫し、金融システムを動揺させる。
そこで日銀が国債の買い支えを強いられれば、政府と日銀の信用がセットで悪化する恐れがある。
白川方明・前総裁はこのリスクを意識して「君子危うきに近寄らず」の面があったかも知れない。黒田新総裁はこれを否定し、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」なのだろう。
だが、それはより大きなリスクに国民経済をさらすことになるのだから、細心の注意と周到な備えが必要なはずだ。
黒田日銀には、赤字財政の下支えはしないという明確な姿勢が求められる。緩和の終了や中止をどう考えるか、という「出口」戦略も不可欠だ。
経済は有為転変する。自らを総裁に就かせた政治や市場の力学に、あえて抗すべき時も来るだろう。その時、黒田氏は逃げてはならない。
思い通りの総裁を日銀に送り込んだ安倍政権にとっても、財政規律を守り、構造改革を進める責任が極めて重くなることはいうまでもない。