中国:命むしばむ緑の川 「がんの村」
毎日新聞 2013年03月18日 15時00分(最終更新 03月18日 15時19分)
【上海・隅俊之】大気汚染による健康被害が続く中国で水質汚染も深刻化している。環境保護省は2月、有害物質を含む井戸水を飲むなどでがん患者が多発する「がんの村」の存在を認め、中国紙は全国に200カ所以上あると伝えた。その「がんの村」を歩いた。全国人民代表大会(全人代=国会)で環境対策が論議された一方、地方政府は経済発展を優先させ水質汚染に目をつぶる。中国社会のひずみが見えてきた。
「『貧乏で死ぬより毒で死んだ方がまし』。ここの(地方政府の)指導者の“名言”だ」。山東省荏平(じんへい)県で、緑色に濁った川べりを歩く農民工(出稼ぎ労働者)がこう吐き捨てるように言った。アルミ精錬などの巨大工場の廃水が地下水を汚染している。近辺の村の家畜はその地下水を飲み、妊娠しなくなったと伝えられる。
◇基準の250倍の有機物
中国浙江省杭州(こうしゅう)郊外にある塢里(おり)村。村民の死因の8割以上が「がん」だったとする調査がある。近くには農薬工場など26企業が操業し、川に汚水を垂れ流していた。中央政府は「がんの村」の存在を認めるが、地方政府は実態を公表しようとしない。付近住民の不安は増幅する一方だ。
「あの家の主人は50歳でがんで死んだ。そっちの家も」。地元の無職、姚鳳英(ようほうえい)さん(68)は、台所で野菜を水道水で何度も洗いながら言った。自身も10年ほど前に子宮がんを患った。「工場近くで取れた野菜を井戸水で洗っていた。汚染されていたなんて」
数百世帯が住む村に水道が敷かれたのは約10年前。それまでは汚染された井戸水が頼りだった。工場の汚水処理施設はコスト負担を嫌いほとんど未稼働。排水から生活飲用水の基準の約250倍の有機物が検出されたこともあったという。
違法工場には停止命令が出ているが、一部は操業を続ける。「地元政府は税収を当て込み工場の罪を問わない」。住民女性(40)は怒りをあらわにした。
人口約4600人の江西省楽平(らくへい)市戴(たい)村。川の上流にある徳興(とくこう)市には銅山と製錬工場がある。工場が川に垂れ流した汚染水が原因と見られるがん患者がこの村でも多い。
村の共産党支部書記の金泉氏は「診療所しかないから、がんが見つかった時は末期だ」と訴える。さらに話を聞こうとすると楽平市当局者が「取材は認めない」と制止した。