途方もない規模だが、数字にとらわれてもしかたがない。家庭や地域で、とりあえず最初の数日間をしのぐ蓄えから考え始めてはどうだろう。南海トラフの巨大地[記事全文]
南海トラフ巨大地震などの大きな災害がおきると、企業の力もきわめて重要になる。東日本大震災では、広い範囲で物資が不足した。被災地で生産や物流、通信がとまり、影響が各地に広[記事全文]
途方もない規模だが、数字にとらわれてもしかたがない。
家庭や地域で、とりあえず最初の数日間をしのぐ蓄えから考え始めてはどうだろう。
南海トラフの巨大地震がおきた場合の、経済被害の想定が出た。最悪は200兆円を超す。国の一般会計の倍以上だ。
額だけでは実感がわかないがインフラや流通、交通網の復旧にかかる時間のシナリオも示された。これは対策に生かせる。
たとえば、被害の大きな地域では、当日は電気も電話も水道も9割が使えない。1週間後には停電はほぼ解消するものの、固定電話は2割、水道は7割が使えないままだという。
被害をうけるのは経済の中心であり、人口の半分が集中する太平洋側の地域だ。そのため、物資や人の支援が被災地に届くまで、東日本大震災と比べても時間がかかるかもしれない。
家庭の自力の備蓄は、3日分が目安になるだろう。東京都が首都直下地震の帰宅困難者対策として企業に求めているのも、3日分だ。水は1人9リットル、食料はアルファ米やカップ麺など9食分と例を示している。連絡や情報集めができるよう、携帯電話を充電する電池も要る。
一人ひとりが日ごろから備えていればその分、買い占めによる混乱も和らげられる。
自治体は、蓄えを小分けにしておくことで倉庫が被災するリスクを軽くできる。避難ビルや地区ごとの備えもあれば、孤立したとき役に立つ。
相互支援の網も要る。東日本大震災で岩手県の遠野市がはたした役割は記憶にあたらしい。
「必ず津波は来る」と考え、市は07年から沿岸の市町と後方支援の協定を結んでいた。これが生き、全国からの人と物の結節点として機能した。NPOとも連携し、人口3万弱の市からおにぎり14万個、衣類や寝具12万枚などが被災地に送られた。
ほとんどの自治体はすでにほかの自治体と協定を結んでいるが、県内の内陸と沿岸、隣県どうし、太平洋側と日本海側、と何重にも網を張ろう。
自治体の備蓄だけでは間に合わない。今月、遠野市や東京都はそれぞれ、災害のとき物資を供給してもらう協定を流通業界などと結んだ。こうした流通在庫の備蓄協定をもつ自治体は昨春の段階で全国の3割になる。スピードアップが求められる。
備蓄や地域の連携だけで乗り切れはしないが、できることから始めることに意味がある。
これはあくまで「最悪」の想定だ。むやみに恐れず、しかし怠らずを心がけたい。
南海トラフ巨大地震などの大きな災害がおきると、企業の力もきわめて重要になる。
東日本大震災では、広い範囲で物資が不足した。被災地で生産や物流、通信がとまり、影響が各地に広がった。
さらに大きな被害のときは、食料や燃料、薬といった人命にかかわる物資まで長く不足しかねない。日ごろ企業が担っている役割を何もかも国や自治体が代わることはできない。
企業には、社会的な責任を果たすためにも重要な活動をとめない、あるいはできるだけ早く再開する強さが求められる。
そこで、本社が被災した場合の代わりの拠点を決めるなど、事業継続計画(BCP)をつくる企業が増えている。
もっと加速したい。
NTTデータ経営研究所の調査では、東日本大震災前後を比べられる586社で、BCPがある企業は震災前の25%から今年1月は37%と約1・5倍にふえた。従業員500〜5千人未満の企業で進み、5千人以上の企業の震災前水準に達した。
ただ、課題も多い。
東日本に比べ西日本で率が低い「東高西低」傾向は、震災後により顕著になった。
BCPがあると答えた企業でも、事業を続ける復旧の手順や代替策まで決めている企業は半数に満たない。取引先など外部との連携まで対策をとっているのは3割を切っている。
いざというときに使えるBCPになっているか。心配だ。
実際、策定済み・策定中の企業の過半数が「内容が不十分」「策定が思うように進まない」と課題を認識している。
BCP専門家が、電機メーカーの部品調達先1千社以上を対象に震災で同じ程度の被害を受けた企業を比べ、事業再開の時期を左右した要因を調べた。
驚いたことに、BCPの有無による差はなかった。震災時に早く再開できた企業には「3カ月以内に訓練をしていた」「実際的な訓練だった」「3カ月以内に経営陣が事業継続の観点から現状を点検していた」などの特徴があった。
「有効な訓練を通して、非常事態に対応できる能力を高めることこそが重要」だそうだ。
グローバル化でテロや感染症の危険も軽視できない。いろいろな「防災」が破れたときにおきそうなことを調べ、備えておく。そのBCPの考え方は、役所や病院なども応用できる。
取引先や地域といった互いに依存する相手先とも活動継続の目標を共有し、社会全体の復元力を高めておく必要がある。