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千歳香奈子(ちとせ・かなこ) 1972年、札幌生まれ。92年に渡米。96年に日刊スポーツ新聞社アトランタ支局でアトランタ五輪取材をアシスタント。99年6月から、ロサンゼルスを拠点にハリウッドスターのインタビューや映画情報を取材中。2008年1月末に学研より新書「ハリウッド・セレブ」を出版。

NHK堀潤アナが原発映画を制作

13年3月19日 [08:39]

 昨年6月から米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)に留学していたNHKアナウンサーの堀潤さんが、東京電力福島原発とアメリカで過去に起きた2つの原発事故の現状を取材したドキュメンタリー映画「変身」を制作し、先月末にUCLAで上映会を行いました。

hariuddo.jpg UCLAでネットを使った次世代メディアやドキュメンタリー制作を学んでいた堀さんは、震災や原発事故の際にインターネット上で人々がやりとりした様々なデータを視覚化して検証する研究を行っているチームと共同で映画の骨格となるシーン作りやメッセージを考え、UCLAでの研究成果を論文の変わりに映像にして発表したもの。

 「大前提として、原発事故から2年が経ち、事故の記憶が人々の日常に回収されてしまい、共有されなければいけない課題や教訓までもが忘却へと追いやられてしまっている危機感が映画製作のきっかけとなりました」と堀さん。

 スリーマイル(1979年ペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所で起きた事故)と50年以上も機密にされてきたロサンゼルス郊外のシミバレーにあるサンタスザーナ野外実験所で59年に起きたとされるメルトダウン事故の現状を自ら取材したものと、堀さんが個人的に支援する市民メディア「8bitNews」に投稿された市民取材による原発事故に関する動画を組み合わせるという新たな試みにも挑戦。市民とジャーナリストの協業を実現させました。

 タイトルの「変身」は、ある日突然、毒虫になってしまった男性が家族から疎まれ死んでいく姿を描いたカフカの小説「変身」から取ったものであると堀さん。原発事故後、時が経つにつれて忘れられていく被災者の姿が毒虫となった男性と重なって見えたと言います。そして、楽曲は個人の活動の中で知り合った音楽家の坂本龍一さんが提供しています。

 「テレビではやらないことをやりたかった」と言う堀さんは、地元の住民も何が起きているのか良く分からないというサンタスザーナの取材では、EPA・米国環境保護庁による公聴会での住民との細かなやりとりを盛り込み、スリーマイル島では様々な対策を市民グループや大学などが講じている現状などを丁寧に取材。放送時間に制約のあるテレビ報道では伝えることが難しい細部にも焦点を当てています。

 「今や、ネットからの発信が革命にまで繋がる時代。メディアも新しい情報発信のあり方を完成させなくてはいけません」との言葉通り、次世代ジャーナリズムの新しい在り方を提起した作品となっています。

※写真は、「僕のような職業ジャーナリストが、一つ一つの映像を繋ぎ合わせることで原発事故の検証や影響、そして課題が浮かび上がるのではと思いました」と上映会に集まった学生らを前に語る堀さん(撮影:千歳香奈子)

(このコラムの更新は毎週火曜日です)

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