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優秀な若手がJリーグに来なくなる? TC請求権とは何か?

フットボールチャンネル 3月18日(月)12時10分配信

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優秀な若手がJリーグに来なくなる? TC請求権とは何か?

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優秀な若手がJリーグに来なくなる? TC請求権とは何か?
中京大中京から直接アーセナルへ加入した宮市亮

■興味深い東京Vの育成費による収益構造

 高橋祥平(→大宮)、和田拓也(→仙台)、梶川諒太(→湘南)、阿部拓馬(→アーレン/ドイツ2部)ら主力の若手を大量に放出した東京ヴェルディ。ユースから選手を昇格させることに留まらず、若手を積極起用し、選手としての価値を高めた上で移籍金(違約金)ないし育成費(トレーニングコンペンセーション)で数千万円の収入を得る考え方と手法は真の“育成型クラブ”になりえる存在だ。

 ある代理人は、開幕前に東京∨のフロントから「5名ほどの選手を売って最低このくらいの利益を上げたい。それがうちのスタイル」という話を聞かされたという。

 東京∨の手法で興味深いのは、「トレーニングコンペンセーション(以下、TC)」と呼ばれる育成費による収益構造を計算している点。2011年に高木善朗がオランダのユトレヒトに移籍した際、報道では「移籍金5000万円」という数字が出ていたが、当時の年齢と実力、そして金額を見ればその大半がTCによる金額あったと推測される。

 FIFAでは移籍規則において、23歳以下の選手が移籍する際、その選手が12歳から21歳までプレーしたクラブ、選手を育成したクラブに対して、移籍先クラブが育成金としてTCを支払うことを義務付けている。

 ジュニアユースから東京∨でプレーしている高木の場合、19歳でオランダ1部のユトレヒトに移籍したことで12歳から19歳までの7年分のTCを請求できる。詳しい計算式は省略するが、算出すると39万ユーロ(約4800万円)のTCとなる。

 当然ながら日本国内の移籍においてもTCは発生するが、移籍金制度が2009年シーズンからFIFAルールに移行したのに対して、TC制度は選手会の反対を押し切って日本サッカー協会とJリーグが日本独自、Jクラブを過剰に守るようなローカルルールを作った。

 そのため日本には、アマチュア選手がプロ選手として移籍する場合の「トレーニング費用」とプロ選手がプロ選手として移籍する場合の「トレーニングコンペンセーション」という2つの育成補償金制度が存在する。

■直接海外クラブに加入した宮市亮の例

 15歳から22歳までの間プレーした団体に支払われるトレーニング費用は、プロ入り直前の在籍団体には上限30万円×在籍年数(※ただし5年目以降は年15万円)、2つ前以前の在籍団体には上限15万円×在籍年数という計算式で算出する。一方のトレーニングコンペンセーションの計算式は、J1への移籍で年800万円。J2で年400万円、JFLで年100万円となっている。

 新卒選手として開幕スタメン出場を果たした名古屋のDF牟田雄祐を例にとると、名古屋入団によって直前の在籍団体である福岡大学には30万円×4年の120万円が上限として、2つ前の在籍団体である筑陽高校には15万円×3年の45万円が上限として支払われる。

 しかし、名古屋のような予算規模の大きなJ1クラブに入団する一部選手を除き、少なくないJクラブがC契約の年俸上限である480万円の中にトレーニング費用を組み込み、選手年俸からトレーニング費用を差し引くような契約形態を採り始めている。

 しかし、23歳以下のアマチュア選手がいきなり欧州クラブとプロ契約した場合、FIFAの移籍規則におけるTCが適用される。わかりやすい例として、高卒でアーセナルに入団した宮市亮の事例を用いよう。

 イングランド1部のアーセナルはFIFAのTC基準額において「UEFA1」にランク付けされるため、ユース時代の年掛け単価は「9万ユーロ」。

 よって、中京大中京高校は「9万ユーロ×3年」で27万ユーロ(約3300万円)のTCを請求できる権利を持っていた。もし宮市がJクラブに入団していれば、高校が得られるトレーニング費用は上限で90万円。この違いは明らかというよりも驚愕のレベルだ。

■中京大中京はTCを得ていない

 ただし、宮市のアーセナル入りにおいて、中京大中京高校は27万ユーロのTCを得ていない。この背景について、当時中京大中京高校で監督を務めていた道家歩氏をよく知る代理人はこのように説明する。

「欧州クラブは、日本の学校を『育成機関』と認識していませんから、高校や大学にTCを払う気がない、払わないというのが基本的なスタンスです。私も中京大中京の関係者から『TCはもらえなかった』と聞いています。ただ、そこは仕方なくて、日本の学校というのはそこまでしてお金を獲ろうと思っていません」

 とはいえ、実質的に「プロ育成機関」として機能する高校、大学がある以上、今後Jリーグではなくダイレクトに海外クラブに選手を送り込んだ上で、FIFAルール上のTCを請求するような学校が現れないとは限らない。

 というよりも、すでに一部の大学ではJクラブに選手を送って「120万円」のトレーニング費用を得るより、ダイレクトに欧州に選手を送って「36万ユーロ(約4500万円)」のTCを得ようと考え始めている。

 今後も宮市亮や今年ドイツに渡った木下康介(横浜FCユース→フライブルク)のように高卒でJリーグを経由することなく海外移籍に踏み切る若手も増加するはずで、Jリーグの年俸上限(C契約で480万円上限)のみならず、アマチュアとプロの移籍におけるTC格差もJクラブにとっての足かせとなりかねない。

記事提供:サッカーを読む! Jマガ

小澤一郎

最終更新:3月18日(月)12時10分

フットボールチャンネル

 
 

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