「高校生のコメロンパン」
食農教育(食育) アグリビジネス
熊本県
2011年1月28日(金)
コンビニエンスストアのお弁当やおにぎりの具材を企業と高校生が一緒に開発した商品をよく見かけます。大手コンビニチェーンの調べによると、コンビニを最も多く利用するのは高校生で、そのため、消費者の声を効果的に反映させるため、高校生に商品開発に参加してもらっているわけです。今回の取材も高校生が開発した食品の話です。熊本にある農業高校の生徒の素朴な疑問から始まった菓子パンづくり。年間の売上個数が25万個以上という大ヒット商品への道のりをたどります。
「希都菜の感想」
「メロンの歴史、メロンパンの歴史」
メロンパンにはなぜメロンが入っていないの?メロンが入っているメロンパンを食べたいから作る - とてもシンプルな動機で、高校生らしいなと思いました。消費者のニーズに自ら応えた商品ですね。メロンパンは表面の網目模様がメロンの網目を表わしていることからその名がついたという説が主流だそうです。メロンエッセンスで香りをつけているものがあることや、京都のメロンパンは白あん入りなど、メロンパンの歴史や文化についても、鹿本農業高校の生徒がしっかりと調べていることに驚きました。
「希都菜のギモン?」~なぜコメロンパン?~
平成20年度と21年度の熊本県立鹿本農業高校の食品加工部の取り組みは、米粉を使った食品開発で、農林水産省の『食料自給率向上に向けた国民運動フードアクションニッポン』に賛同するかたちで始まりました。ピザ、ケーキ、麺類などを米粉で作ることは多くの食品メーカー、ベーカリー、婦人団体などが取り組んでいますが、鹿本農業高校も、メロンが入っているメロンパンを食べたい!という望みをかなえる際に、米粉を選びました。これは、熊本がメロン以外に米の産地でもあるからなんです。そういった高校生の想いから、農家との交流も含めた2年間に渡る商品開発が始まったのです。“コメロンパン”開発のスタートです。
「希都菜の発見」~カギは発酵~
おいしいパンになるかどうかのカギを握っているのは“発酵”です。ここからは高校化学の世界。ブドウ糖(小麦や米)や果糖(中に入れる果物)に酵母(イースト)を加えると、二酸化炭素が発生します。この二酸化炭素でパンは膨らむのです。これが“発酵”の原理です。通常、パンを作るときは、第一次発酵、第二次発酵の2段階で発酵をさせるのですが、米粉の場合は、工程が異なります。第一次発酵をさせないのがポイントだそうです。パン生地をこねてから一気に形を整えます。その間の手早さが重要で、プロではない生徒が学校の調理実習室でそれを実現させるのはかなりの熟練が必要だそうです。
「生地のふくらみの実験」
鹿本農業高校の生徒が挑戦したコメロンパンの開発は、メロンの味と香りをいかにして実現させるかということに加えて、パンづくりとしても、とてもハードルの高いものだったのですね。高校生の研究資料は、厚さ10センチのファイル2冊分にも及びます。米粉、糖度が極めて高く水分が多いメロン、小麦の配合のバランスを変えながら5回、10回と実験しました。メロン果汁を入れるのか、果肉を入れるのかによって、水分量が変わるため、小麦粉、米粉、砂糖、その他の材料の配合も変わるからです。気の遠くなる研究だったのだろうなと、資料を見せて頂いて思いました。
「メロンクリームに包まれたメロン果汁入りの白玉」
さすが、女子部員がいるだけあって、色にもこだわりました。メロンのきれいな色が出ていないと意味がないと考えたのです。これはヒット商品につながる大事なポイントだと思いました。半分に切ってみると、赤肉のメロンの色と、青肉のメロンの色がついています。何より、切った瞬間にふわっと広がるメロンの香りは、「あ!本物のメロンの香り!」と思わせるだけのインパクトがあります。
「きょうのキズナ」~企業の協力~
ようやく完成したコメロンパンは、全国大会で2度も優勝しました。1位になったことで、周囲から注目されました。高校生の努力でヒット商品が生まれ、世の中に出て行ったのです。その陰には、学校の先生はもちろん、企業、職人、家族の力強い協力がありました。
「パン職人 古木大次郎さん」
パン職人の古木大次郎さんは、職人ならではのアイディアと技を伝授して下さいました。メロン果汁を含んだ白玉を、メロンカスタードクリームで包むことで、水分の蒸発と熱の伝わり方をコントロールするというアイディアです。白玉は高温になると硬くなる性質があるので、果汁、白玉、焼き加減の3つのちょうど良いバランスを見つけるのに苦労されたそうです。また、古木さんは、阿蘇の湧き水を使ってパンづくりに取り組んでおられます。それも地域を大切にするパンづくりに生きていると思いました。
「高校生のコメロンパン」
阿蘇デリシャスの野田謙ニさんから頂いたアドバイスの中に、パッケージのデザインに関するものがありました。パンはそもそも原価率が高いと言われているのですが、メロンや米粉を使うことで、さらに材料費がかさみます。最終的に落ち着いた価格は1個180円。コンビニエンスストアやスーパーで売っている菓子パンの中ではかなり高い方です。その価格を消費者に納得してもらうためには“差別化”が必要です。当初、高校生が考えた商品の名前は「コメロンパン」。しかし、“高校生の”と付け加えるだけで、他のメロンパンとの差別化ができ、そこに価値が生み出されるとアドバイスされたそうです。更に、テレビでも人気のチンパンジーのパンくんをデザインすることで、興味をもってもらえるというアイディアも提案をされたそうです。
商品化までの間、生徒はしばしば試作品を家に持って帰って家族に食べてもらいました。一般消費者の感想は商品開発において、大事な参考となります。
こうして、多くの人に支えられてでき上がった高校生のコメロンパンは、農家のモチベーションを上げました。うちのメロンが使われている、うちで育てた米の粉なんだと、近所のお店で、自分が作った農作物が商品になっているのを見られるのは嬉しいし、もっと多くの人に食べてほしいという意欲につながっているのです。生徒は、ものづくりの楽しさ以外に、支え合いや気持ちがつながる喜びを、食品開発から学んだのではないでしょうか。ヒット商品を生み出すだけの取り組みではなく、町全体の活気にもつながる取り組みだなと思いました。
希都菜のつぶやき
映像を編集していると、編集の方やエンジニアの方から、「希都菜さん、このメロンパン、どこで買えるの?」と何度も聞かれました。すみません!コメロンパンは、通常は熊本県内でしか買えないのです。熊本に旅行に行かれた際には、ぜひ、スーパーやコンビニエンスストアをのぞいてみて下さい。秋に開かれる鹿農祭(文化祭)でも販売されます。ビデオにもあったように、東京など都会の九州物産店に出店されることがあります。コメロンパンの取扱店舗は、阿蘇デリシャスのホームページで紹介されています。
※現在、鹿本農業高校のウェブサイトに掲載されている東京での販売日程は、過去のものですのでご注意下さい。
今回の取材協力先
熊本県立鹿本農業高校
(㈱)古木屋 TEL:0967-22-0364 Email:info@furukiya.com
(㈱)阿蘇デリシャス
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