保育園に入れない、母親たちの悲鳴 申し込みの3割以上が落選、足立区の厳しい現実

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保育園に入れない、母親たちの悲鳴 申し込みの3割以上が落選、足立区の厳しい現実
保育園に入れない、母親たちの悲鳴

認可保育園への子どもの入園が認められなかった母親たちが、地方自治体に集団で「異議申し立て」に踏み切る動きが起きている。

東京・杉並区での母親たちの動きに続いて、2月28日には足立区に住む甲斐ゆきさん(33)ら十数人の母親が子ども連れで区役所を訪れ、入園不承諾の行政処分の取り消しを求め20通の異議申立書を提出した。

共働き世帯が増える中で、保育施設の整備は急務だ。しかし、大規模なマンション建設が続く足立区では、保育を必要とする子どもの急増に施設の整備が追いついていない。フルタイムの共働き家庭ですら、子どもを認可保育園に預けることができない事態が日常化している。

足立区の保育事情は厳しい。今年4月の認可保育園入園申し込みが3740人に達したのに対して、1次募集での「不承諾」(落選)の通知は1278人にも上っている。申込人数が5年前と比べて7割近くも増えるとともに、不承諾も8割近く増加している。

甲斐さんが住む梅田地区も事態は深刻だ。優先的に入園が認められる共働き世帯ですら、多くが不承諾通知を受け取った。母親がパートタイマーだったり、職探し中の家庭では、認可保育園への入園は絶望的だ。

厚生労働省の基準を満たす認可保育園に入れない場合でも、東京都独自の制度である認証保育園や保育ママ(家庭保育員)、認可外施設に預ける方法がある。その場合、厚労省が定めた「待機児童」にはカウントされない。とりわけ認証保育園は認可園と比べて保育士の資格を持つ職員が少なくて済むことや園庭が不要で面積が狭くてもいいことから、保育需要の急増に直面した足立区は、認証保育園を積極的に誘致してきた。ただ、認証保育園では、アレルギーを持つ子どもや幼児教育が必要な3歳児以上の受け入れ態勢が整っていない施設が多い。

育児休業中の甲斐さんは4月からフルタイムでの職場復帰を計画している。ところが、申し込んだ認可保育園は第1希望から第3希望まで軒並み落選。万が一に備えて予約していた認可外保育施設に預けて急場をしのぐ考えだが、「保育料が高いうえに、今後、幼児教育が必要な年齢になったときに、認可保育園に転園できるのか不安が尽きない」(甲斐さん)という。

■シングルマザーも落選

シングルマザーでも、1次募集で不承諾になった人もいる。同じ梅田地区に住む仙石カヨさん(45)は女手一つで4歳の長男を育てている。転入して日が浅いことから、NPO法人に子どもを見てもらって働きに出ているが、5歳児になるのを機に認可保育園の入園を申し込んだところ、不承諾の通知が送られてきた。

「このままでは、幼児教育を受けさせることもできず、子どもの成長に深刻な影響が生じかねない」

区に何度も掛け合った末に2次募集で内定を得られたが、該当する保育園は自宅から遠い場所にある。

今まで無職で子どもを預けて仕事を探そうとする場合、認可保育園のハードルはさらに上がる。地域によっては認証保育園すら空きがない。

大規模開発で高層住宅が林立する新田地区に住む川島美香さん(仮名、39)は、退職後に産まれた1歳の長女の預け先を見つけたうえで、新たな仕事を探そうとしている。だが、「地域では認可保育園どころか認証保育園もほかの施設も満杯。仕事に就くメドすら立たない」と語る。

甲斐さんらは異議申し立てに先駆けて、近隣の都営住宅跡地に認可保育園の新設を求める陳情を区議会に提出しているが、区は「(今までの対策で)保育需要は吸収できる」(鳥山高章保育計画課長)との姿勢を崩していない。そのうえで、「これまでの待機児童対策で問題はない」(鳥山氏)という。悲鳴を上げる母親との距離は縮まらない。

(撮影:尾形文繁) 

(週刊東洋経済2013年3月16日号)

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