そいつが生まれたのは、未来の世界だった。
 そいつは、人間の作り出した生命だった。
 人間達は、世界を手に入れる為にそいつを生み出した。世界を征服出来る力を手に入れるという事の意味を理解せずに。
 そいつは、人間達に刃向かった。世界を征服出来る程に強大な力を制御出来るなどと考えたのは、思い上がりだったのだ。
 そいつを生み出した組織『ダムド』は、呆気なく壊滅した。
 そして、そいつは同じ人工生命体の仲間一人(ギガス)を連れて、最強の敵を求めて戦い続けた。
 その戦いの日々を終わらせたのは『ワールドヒーローズ』だった。
 タイムマシンを使って歴史上の英雄達を善悪を問わずに集め戦わせた『世界英雄大武会』に乱入したそいつは、最強の英雄の前に敗れたのだ。
 そいつの力が世界を滅ぼせる力だというなら、英雄の力とは世界の危機を打ち破る力だった。勝てる道理など、ない。
 しかし、そいつは死んではいなかった。仲間のギガスを体内に吸収し、復活を果たしたのだ。
 再び英雄に戦いを挑む為に、そいつは新たなる力を探し求めた。
 そいつの名前は、ディオ。

 切っ掛けは、ささいな事だった。
 タイムマシンの故障によって冬木市に迷い込んだジャンヌが、そこで本来のセイバーと手合わせをしたのが始まりだった。
 二人の英雄の激突するエネルギーを、ディオは時空を越えて感じ取ったのだ。そして、セイバーを冬木市に召還させた力に目をつけた。
 セイバー達が召還されるよりも過去の冬木市にやって来たディオは、そこで聖杯戦争を始める直前の大聖杯を見つけ出した。
 ディオは、あろう事かその中味を体内に吸収してしまったのだ。

 大聖杯が失われたのなら、聖杯戦争が行われる筈は無かった。しかし、サーヴァントシステムは世界によってまだ生かされていた。
 世界の危機であるディオを倒すために、世界はシステムを利用してその役目にふさわしい英雄を送り込んだのだ。元の時代に帰ったり別の時代で新しい暮らしをして、それぞれの時代で人生を終えたワールドヒーローズが、聖杯戦争に紛れて召集されたのだ。
 現在のディオは、生前のワールドヒーロー達では近づく事も出来ない。英霊となってパワーアップしたワールドヒーローだけが、ディオから世界を救えるのだ。

戦う甲冑少女達2 四日目日中

四日目

 わたし達は、朝から衛宮くんの家に集まってラスプーチコの説明を聞いていた。居間には、アーチャー、セイバー、アサシン、キャスターとそのマスターの八人がちゃぶ台を囲んでいた。
「成る程ね。そのディオって奴の体内に聖杯が吸収されたから、聖杯戦争も本当はなくなっていたというわけね」
「キャスターたる私は、聖杯のシステムを伺い知る事が出来たから、ディオの暗躍も即座に感知出来たのだ」
 そう言うラスプーチンは、今も無理やりマスターにした葛木先生を脇に座らせて抱きついていた。なんでも、本来のマスターは聖杯戦争が無くなったと知ってとっとと帰ってしまったらしい。先生は、抵抗する気力もない程に呆けている。
「アインツベルンの少女なら、その事を知ってて当然よね」
 これで、昨日の戦いの時に言っていた事の意味がわたしにも判った。
 当然、監督役の言峰綺礼もその事を知っている筈なのに、わたしに何も言わなかった。クソ神父は、何を企んでいるのやら。
「でも、タイムマシンっていうのは、あんまりよね」
 そりゃ、未来の科学者の発明なんだからしょうがないけど、ディオなんて単体でそれをやってのけるんだもの。魔術師のわたしには、トンデモない話だった。
「だけど、私は生前に本来のセイバーと戦った憶えはないわよ」
「勿論よ。ディオによって聖杯戦争が歪められて、ジャンヌの歴史も変わったんだから」
 ラスプーチコは、タイムマシンを作った博士に歴史の改ざんされている箇所を調べて貰ったのだそうだ。
「それで、凛はどうするの?」
 ジャンヌが、いきなりわたしに尋ねた。
「どうするって?」
「私は、ディオと戦う事には賛成よ。だけど凛にとっては直接関係ある事じゃないでしょ? ラスプーチンのマスターみたいに、命を賭けないという選択だってしていいのよ」
「それは……」
 確かに、ジャンヌのいう通りだ。人がいい衛宮くんは既に戦う気になっているけど、わたしまで戦う義理は無かった。ちなみに先生は、さっさと自由になりたくて参戦するらしい。
「やっぱり、わたしも戦うわ」
「やっぱり、凛はそうこなくっちゃね」
 ジャンヌの笑顔から、わたしは目をそらした。
「か、勘違いしないでよ。聖杯戦争を再会してくれなきゃ、先祖からの悲願が達成出来ないだけよ」
 わたしも戦うと決めたのはいいけど、問題があった。
「それで、問題のディオは、どこにいるのよ? 場所が判らないと、戦いようがないじゃない」
 ラスプーチンは、憮然とした顔をした。
「本当なら柳洞寺の地下に大聖杯があった筈なんだがのう……。ディオの奴はとっくに地下洞窟から去ってしまったんじゃ。だから私は、自作の薔薇にレーダーの機能を持たせて、町中に各所に咲かせて監視していたのだ。まだ、何も見つかっていないがな」
「ブラウン博士は、ディオの生まれた場所はヨーロッパの古城の地下研究室だっていうから、あたしもこの時代にある同じ城に向かって調べたけど、そこももぬけの殻だったわ」
 ラスプーチンに並んで、ラスプーチコも溜息をついた。
「もしかしたら、この辺でもディオの気に入りそうな場所があるかもしれないと思ったけど、あたしには不慣れな土地だから見当もつかないわ」
 ラスプーチコの言葉で、わたしは何かを思い出した。
「ねえ、ディオの気に入りそうな場所って、故郷に似ている西洋風の城って事でしょ? そんな大きい洋館なら、この辺りで考えられる場所は二ヶ所しかないわね。一つは、間桐の屋敷」
「なんだって!」
 立ち上がろうとした衛宮くんを、わたしは黙って片手を下に振って制した。
「最後まで、話を聞きなさい。もう一つの場所は、樹海の中にあるわ。昔、父さんに聞いた事があるの。アインツベルンは森の中に別荘を持っているって」
 あの魔術師が日本まで遠征に来るのに、小屋のような別荘を使うわけがない。実物を見たわけではないが、きっと間桐の屋敷にも負けない程大きいに違いない。わたしの話を聞いて、一同は納得した。
「そうなると、二手に分かれて確かめるのが得策でござるな」
「そうね。でも半蔵さん、ディオを見つけても自分達だけで戦おうとしないで、仲間の所に一旦戻ってよね」
 良子の意見も、尤もだ。今後の方針が決まったので、わたし達は藤村先生が来る前に一旦解散する事にした。

 わたしも衛宮くんも、いつものように学校に来ていた。葛木先生も、くたびれた姿をしていたがちゃんと出勤していた。わたし達のサーヴントは、先生の協力もあって学校に潜ませていた。
 ラスプーチコと良子は、衛宮くんの家で留守番をしていた。
 昼休みの屋上でわたしと顔を合わせていた衛宮くんは、沈痛な面持ちをしていた。理由は、判っていた。間桐兄妹が、無断欠席していたのだ。
「俺、早退して様子を見てくるよ」
「拙者も、同行するでござる」
 流石は、忍者ね。何処に隠れているのか判らないけど、半蔵の声が聞こえてきた。
「貴方と半蔵だけで行こうとしないでね。ラスプーチコ達も連れて行きなさいよ」
 わたしは、どうしても聞きたい事があったので、放課後に教会へ行くつもりだった。

 放課後に衛宮くんの家に電話を入れたが、まだ帰っていないみたいで誰も出なかった。胸騒ぎはするけど、先生と合流するのは日が落ちてからという計画だった。ここは、教会の用事を急いで片付ける事にすべきだろう。
「あのエセ神父は、油断ならない相手だからね。アーチャーは、教会の外で待機して」
「判ったわ、凛。何かあったら、すぐに私を呼ぶのよ」
 わたしは、一人で教会に足を踏み入れた。
 祭壇の前に、エセ神父は佇んでいた。
「いか用かな?」
「とぼけないでよ、綺礼。聖杯が奪われていたって、知っていたんでしょ」
「そうか。いずれ判る事だと思っていたが、意外に早かったな。おまえは、誰から聞いたのだ」
 わたしに指摘されても、エセ神父は落ち着いていた。
「アサシンのマスターからよ。聖杯が奪われたって、どうして誰にも言わないのよ」
「言っておくが、アサシンのマスターが知っているなら、真相を知らないマスターはもういない筈だ。おまえが知らされたなら、衛宮のせがれにも伝えたのだろうからな。魔術師として優れているキャスターなら、見抜けぬ事ではない。バーサーカーとライダーのマスターは、聖杯に深く関わっているから判らない筈はない。ランサーのマスターも、既に全部知っている」
 綺礼の態度は、平時と幾らも変わっていなかった。
「もっとも、知られたからといって戦いを中断するつもりもないがな。もし、聖杯を奪った者が最後まで生き残ったのなら、その者を勝者として容認するだけだ」
「何ですって? 本気で言っているの、綺礼?」
 綺礼は、甲を下に向けた右手を前に突き出しながら答えた。
「ああ、本気だ。確かにサーヴァントは聖杯戦争に必要な存在だが、そのサーヴァントにしか出来ない筈の聖杯を手にする能力があるのなら、参戦の資格は充分にある。例えその能力が反則じみた力づくに過ぎないとしてもだ」
 そうだった、監督の役目は見届けること、それだけだったのだ。ならば、この不測の事態さえも聖杯戦争の一部として認めるだけだという事なのか。
「聞きたい事は、もう無いわ。こうなったら、わたし達がディオを倒すしかないようね」
 用事は済んだので、わたしは教会を後にした。
「急いで間桐の屋敷に行くわよ、アーチャ……」
 そこにいたのは、ジャンヌと見慣れない男だった。金ピカな鎧に身を包んだ男に、ジャンヌは敵意を剥き出しにしていた。
「貴方、見慣れない人ね。何者なの?」
「我も、サーヴァントだ。聖女よ」
 どうやら男は、ジャンヌを知っているみたいだった。しかし、ジャンヌは男を知らなかった。
「サーヴァントな筈はない。この戦いで召還されたのは、私達ワールドヒーローズだけの筈。貴方みたいな英雄は、知らないわ」
 ジャンヌの指摘を無視して、男はジャンヌに歩み寄った。
「ほう、凛々しいな。騎士王に劣らぬ美しさだ。聖女よ、我の妃になれ」
 金ピカは、昨日の呂布みたいにジャンヌに求婚した。
「全く、どうして私に言い寄る男って、こんなのばっかりなのかしら」
 憮然とした顔のジャンヌは、私服から甲冑へと一瞬で姿を変えた。同時に顔つきも、精悍な戦士へと変わる。
「ふん、私と結婚したいのなら……」
 ジャンヌの剣から、炎が吹き出る。
「まず、私に勝ちなさい! オーラバードッ!」
 燃え上がる炎が、猛禽の姿となって金ピカに襲い掛かった。しかし金ピカの方は、それを見ても不敵な笑みを崩していなかった。
「貴様の魂のありようは、確かに貴様だけのものだろう。しかし、形あるモノとして顕在したからには、その形を与えた器の存在が呪縛のようについてくるのだ」
 金ピカが、自身のの背後から銀色の幅の広い剣を取り出した。
「傷つける魔杖(レーヴァテイン)!」
 その剣の名前は、わたしも知っていた。北欧神話に出てくる、大地を焼き尽くす剣の名前だ。
 金ピカの剣は、名前通りに火炎を噴き出してオーラバードを焼き消してしまった。あの剣の威力は、本物である事を雄弁に物語っていた。
「だけど、あの剣の持ち主は巨人スルトの筈」
 どう考えても、あの金ピカは巨人には見えない。
「おまえの技は、我には通じぬ。さあ聖女よ、観念して我の妃になるのだ」
「まだ、私は負けていないわ!」
 ジャンヌは、愛剣を振り上げて金ピカに向かって駆け出した。
「愚かな」
 金ピカがレーヴァテインを振り回すと、呆気なくジャンヌは弾き飛ばされた。
「ジャンヌ!」
 もう、正体を隠す必要もない。わたしは、真の名前で呼び掛けながら、地面に転がるジャンヌまで駆け寄った。
「ま、まだよ」
 剣に身体を預けて、ジャンヌはゆっくりと立ち上がった。わたしに向かって、ジャンヌは大きく広げた左手を突き出した。近寄るなというのだ。
「あんな威張りん坊に、私は負けない!」
 ジャンヌの額から流れる血が右目を経由して、赤い涙のように頬を伝って顎から滴り落ちていた。
「まだ、あいつは本当の私を判っちゃいない!」
 ゆっくりと地面を踏みしめながら、ジャンヌは金ピカに向かって歩き出した。
「本当の貴様だと? 面白い、聖女よ我をもっと楽しませろ」
「違う…………んかじゃない」
「何が違うというのだ? 聖女よ」
「……なんかじゃない。私は、聖女なんかじゃない。私は、宇宙一の美少女戦士、ジャンヌ様よっ!!」
 ジャンヌの甲冑、いや全身が真っ赤に輝き出した。ジャンヌの身体の輝きが強く激しくなると、その光は炎へと姿を変えた。
「まだ判らぬか。大地を焼き尽くす炎に、おまえの火矢が適うモノか!」
 レーヴァテインが、再び火炎を噴き出した。ジャンヌは、その猛火をかわそうとも剣で受けようともせずに走り続ける。
「はああああっ!」
 ジャンヌを包む炎は、大きな鳥へと変化した。そして、ジャンヌ自身も炎に包まれたまま金ピカへと突進した。
「ファイヤーバードッ!」
 既に、ジャンヌの両足は地面から離れていた。地上スレスレを滑空するジャンヌは、自らを火矢にしたのだ。
「われに光をっ!」
 炎の鳥をまとったジャンヌは、レーヴァテインの炎さえも弾き返した。
「ば、莫迦な!」
 金ピカは、ジャンヌに体当たりを喰らわされて吹き飛ばされた。体当たりを仕掛けた方もされた方も、地面に平行線の軌跡を描いて転がった。
 二人の横転が止まると、ジャンヌは再びゆっくりと立ち上がろうとして……崩れ落ちた。
「ジャンヌ!」
 わたしは、所々から煙を昇らせているジャンヌに駆け寄って、熱いのも構わずに抱き上げた。
「しっかりして、ジャンヌ!」
「り、凛……。英霊となった私の弱点は、炎だったみたいね。ぶざまなモノね。自分自身の炎に焼かれるなんて……」
 そういえば、昨日も呂布が弱点だと言っていた。あの時、燃え上がる校庭の中で、ジャンヌは切れ味が鈍っていたのだ。
 ジャンヌ自身はタイムマシンで助けられたから自覚が無かったのだろうけど、殆どの人間はジャンヌが火刑で死んだと信じている。人類の認識が、ジャンヌ自身の知らない弱点を形成していたのだ。
「おのれ、よくも我に刃向かったな!」
 金ピカは、元気に立ち上がった。ジャンヌの必殺の一撃も、金色の鎧の表面を焦がしただけだったのだ。
「半神の我は、おまえ達とは格が違うのだ。聖女よ、思い知っただろう」
「だったら今度は、神様と戦ってみるかい?」
 金ピカの声に、空から返事がかえってきた。
「エ?」
 わたし達が見上げると、そこには金色の雲が浮かんでいた。その雲の上に、ラスプーチコと良子それに桜が乗っていた。しかし、何より目を引いたのは、人間的な顔立ちをした猿だった。
「ま、まさか、あれは……」
「あの雲が、あいつの馬なのか。とんでもない奴がライダーになったみたいね」
 言葉を失いかけたわたしの言葉を、ジャンヌが小声で引き継いだ。
「俺はライダー、孫悟空さまだっ!」
 誰もが知っている赤い棒『如意棒』を取り出して、悟空が雲から飛び降りた。
「猿め、我の邪魔をするつもりか!」
 金ピカは、背後から次々と剣やら槍を発射した。それを悟空は難なく次々と叩き落した。
「ジャンヌが苦戦した金ピカを圧倒している……。これが荒ぶる神『斉天大聖』の実力なのね」
 金ピカが悟空と戦っている間に、わたしはジャンヌの手当てをする事にした。
「これを使えば、あるいは何とかなるかもしれないわね」
 そう言って、わたしはペンダントをジャンヌの胸の前にかざした。
「ありがとう、大分楽になったわ」
 わたしの膝枕で、ジャンヌは気持ち良さそうに微笑んだ。
「大丈夫か、凛!」
 わたしの目の前に例の雲『筋斗雲』が着地して、ラスプーチコ達が降りて来た。一緒にいる桜と眼が合った時、わたしは全てを悟った。
「そうか、桜だったのね。ライダーのマスターは」
 桜は、うつむいて一言はいと答えた。
「何も得られない戦いだから、誰もわたしに替わって戦う事などしない。だから、わたしが戦うしかないんです」
「まさか、神様を引き当てるなんてね。強力過ぎる英雄は、令呪以外の制御はほとんど効かないというのに」
「そうですね。わたしも、最初の令呪を慎重に選ぶ必要がありました」
 桜が見せた令呪には、確かに一つ消費した痕跡があった。
「なるほどね。孫悟空は、人間に使役された経験を持つ珍しい神。貴女は、三蔵法師になったというわけか」
「ええ。わたしは、令呪を使って悟空さんから法師の唱えていた経文を正確に聞き出しました」
 あれって、徳の高い坊主じゃなくても効くのか。マスターが唱えるからだろうか。
 何にしても、頭の緊箍を締めれば、悟空は桜の言いなりという事だ。
「有名過ぎる英雄って、弱点も有名だから大変よね」
 早退した衛宮くんとラスプーチコが間桐家に行くと、孫悟空が呂布と戦っていたのだ。流石に中国出身の呂布は悟空については詳しく、戦いは長引いていた。
 そこにやって来た良子と半蔵が悟空に加勢した事で、呂布はようやく撤退したのだ。そうしたら、桜の祖父と名乗る男が呂布を追い掛けてマスターを特定しろと命じたので、ラスプーチコは桜に付き合ってここまで追って来たそうだ。
「そうしたら、ジャンヌさんがピンチなのが見えたでしょ。半蔵の方が追跡が上手いので、呂布はお兄ちゃん達に任せているの」
 それで、事情は大体判った。
 戦いは、まだ続いていた。
「おのれ! またも神が我に立ちはだかるというのかっ! だが神が相手だろうと、我は神だって殺せる! 黄金の宿り木の枝(ミストルティン)!」
 金ピカは、孫悟空に向けて新たに取り出した剣を振りかざした。一見木刀に見える奇妙な剣は、悟空の眉間に命中した。
「うわっ! やられたーっ!」
「なんちゃって」
 金ピカと戦っていた悟空が消滅したと思ったら、金ピカの背後から悟空が如意棒を振り下ろした。
「うわっ!」
 頭をかち割られた金ピカは、地面に前のめりに倒れた。
「どうやら、孫悟空という神を把握してなかったみたいね」
 金ピカが倒したのは、悟空の分身だ。孫悟空が自分の毛を抜いて分身を作れるというのは、わたし達なら常識なのだが、金ピカは予測していなかったらしい。
「なんだ、あっけないな」
 悟空は、如意棒を小さくして耳に収めると金ピカに背を向けた。
「あれ? とどめを刺さなくていいの?」
 わたしが聞くと、桜は困り笑顔を見せた。
「実は、悟空さんは殺生が禁じられているんです」
「なんですって!? 確かに、三蔵法師に禁じられていたけど……」
 本当の聖杯戦争なら、致命的な弱点だ。結局、あいつもイレギュラーに召還されたサーヴァントという事か。
「何で八人目のサーヴァントがいるのか、とか色々と謎があるけど、今は金ピカが目覚める前に立ち去りましょう」
 桜が頷くと、悟空はわたし達を筋斗雲に乗せて一瞬で衛宮くんの家につれていった。

幕間劇

 呂布は、神父の前であれを投げ捨てた。
「こんな、口先だけの金ダライを回収する意味があるのか?」
 言峰神父の足元に転がったのは、ギルガメッシュだった。今も目を回している。
「そう言うな。正しい聖杯戦争を取り戻すには、彼の力が必要なのだ」
 呂布は、言峰の言葉が少なくとも嘘ではないと思ったが、本心だとは思っていなかった。言峰が凛には逆の面の事実を告げていた事を呂布は知らなかったが、下克上と裏切りの人生を送った男の嗅覚は鋭かった。
 むしろ言峰は、聖杯戦争を利用してやりたかった事を、ディオを利用して実現させようとしているのではないかと呂布は踏んでいた。
「これで、俺は孫悟空と戦ったのは無駄になったな。全てのサーヴァントと一度は戦え、しかし殺すな。変な命令しやがって」
 呂布が他のサーヴァントと戦わされたのは、ギルガメッシュを勝たせる為だった。当のギルガメッシュが直接ライダーと戦ったのなら今日の呂布の仕事に意味は無かった。
 会話の始終を聞き終えた半蔵は、地下室から音も無く抜け出した。同じサーヴァントにまで気配を悟られる事なく諜報活動を行うのは、忍びである彼の真骨頂だった。

(後書き)
なんとか、前作とこの作品がパラレル設定だけど実は続き物だという所まで明らかになりました。
全てのクラスも判明していよいよ後編という所で、予定していた展開よりも意外な展開を思いついたので、ストーリーを現在構成し直しています。
感想をいただけたら、幸いです。

  • 続く
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