テロの捜査を日本の警察が行う?
今週の話題 ~法律はこう斬る! 2013年1月30日 更新
アルジェリアで起きたイスラム武装勢力による人質事件では、10人の日本人が死亡するという残念な結果となりました。1月25日の朝に生存者と遺体を乗せた政府専用機が空港に到着した映像をご覧になった方も多かったのではないでしょうか。遺体は到着後、司法解剖を行い、死因などを調べると報道されていましたが、なぜこのようなことを行うのでしょうか。今回はこの話題に法律の観点から斬りこんでみたいと思います。
刑法3条の2は、殺人等の重大犯罪について、日本国外において日本国民に対して罪を犯した日本国民以外の者にも日本の刑法を適用すると定めています。この条文は、2003年(平成15年)に追加された比較的新しい条文で、2002年にパナマ船籍のタンカーで日本人が台湾沖の公海上で外国人船員に殺害された事件をきっかけに加えられたものです。
上記の条文に基づいて、今回のテロ事件でも日本の刑法が適用されるのですが、次に問題となるのが、どこの警察署が捜査を行うのか、という点です。
この点について、一般的には事件が起きた場所を管轄する警察署が事件の捜査を行うことになりますが(例:大阪府警察捜査本部運営規程)、今回のように、海外で起きたテロ事件の場合、この基準で決めることはできません。国外犯処罰規定ができて以降、海外で日本人が死亡した事件では、被害者の住所地や実家を管轄する警察が捜査を担当することが多かったようですが、今回は被害者が複数ということもあり、被害者が所属していた日揮の本社を管轄する神奈川県警が捜査を担当することになったようです。
今回のようなテロ事件では、捜査員を現地に派遣しても犯行グループの特定は難しいでしょうし、仮に特定できたとしても、犯人たちを日本に連れてくることは、まず不可能でしょう。その意味で、国外犯処罰規定があっても、日本の警察にできることは限られていますが、テロの被害状況を正確に把握し、各国の関係機関と情報を共有することで、全世界的なテロ抑止につながることが期待されます。
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