愛する家族が、はたまた自分自身がこんな目に遭ったなら、とてもあきらめ切れない…そんな悲劇がまた起きた。埼玉県久喜市で1月、呼吸困難で救急搬送された同市内の男性(75)がなんと25病院から計36回も受け入れを断られ、死亡する衝撃的な出来事が起きていた。断った病院は「医者不足」「ベッドが満床」と説明していた。25もの病院が同時に同じ状況になることがあり得るのか? 専門家に聞いてみると――。
男性は1月6日午後11時25分ごろ、「呼吸が苦しい」と自ら119番に通報。救急隊員が搬送先を探したが、25の病院に断られ、翌7日の午前1時半頃に茨城県内の病院に搬送が決定。しかし、到着した病院で死亡が確認された。受け入れ先を探している間に症状が悪化したとみられている。
いつ自分の身に起こっても不思議ではないだけに、誰もが不安を覚えるだろう。医学ジャーナリスト松井宏夫氏(61)は「約30年前から起きていることです」と日本の医療業界が抱える慢性的な問題だと話す。
「どの病院も患者を助けたいという思いを持っているのは間違いありません。しかし、手術室も治療室も空いていないときというのはある。それで患者を受け入れても治療できないじゃないですか。医者を増やすべきと言っても国はなかなかやらない。よくあることなんです」
25病院は受け入れを拒否したというより、受け入れ不可能な状態にあったと指摘する。
「驚かれるかもしれませんが、埼玉、千葉、神奈川といった東京周辺の首都圏では病院が足りません。特に埼玉は全国でも下から数えた方がいいほどで、最悪と表現できるほど人口に対して病院も医者も足りません。今回のケースが東京ならばありえなかったでしょう」
東京周辺の県は近年、ベッドタウンができるなど急激に人口を増やしてきた。ところが、その人口上昇に病院と医者の数が追いついていないのが現状なのだ。実際、都内で埼玉県ナンバーの救急車を目撃するケースは多い。
「病院が必要でも次から次へと建てられるわけでもありません。それでも埼玉県内の病院で『絶対に受け入れるぞ』と気概を持って頑張っているところもあります」
病院のたらい回しが有名になったのは2006年に奈良県で起きた妊婦のケースだ。一度入院したものの、より医療態勢の整った病院への搬送が必要となったが、計19病院に受け入れ不可能と断られていたことが明らかになると、病院バッシングが続いた。
「マスコミが叩きすぎて現場が萎縮してしまった面がありました。人を救いたいけど、できないという事情もあり得る」と松井氏は振り返る。
また、都内の大病院関係者は深夜の救急に関してこう語る。
「当直の大半は技術も経験も少ない研修医で、ナースよりも医療知識や経験に乏しい医師も多く、実質としては人員不足の病院もあります。技術力がない医師が対応するなら断ってしまおうという具合で受け入れないケースもあるんです。たらい回しを避けるには、いざというときのために、地域の救急病院の中で権力のある医師か、つてのある有力者に根回ししておくしかないでしょう」
慢性的な医師不足では、病院同士の救急ネットワークを構築するのも困難なようだ。自分がたらい回しにされないためには、普段から健康に気をつけるしかなさそう。
松井氏は「きちんと検査を受け、自分の身体を知っておくべき。健康維持に取り組み、急患が減れば、今の病院数でも間に合います」と語る。やれることをやっておくしかないわけだ。
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