欧州連合(EU、27カ国)は死刑を廃止している。廃止がEUの加盟条件で、世論も「廃止支持」が広がる傾向にある一方、「復活」を求める声も根強い。
すべてのEU加盟国が加わる欧州会議(47カ国)が採択した欧州人権条約は、付属議定書で死刑の廃止をうたう。また、EUは新規加盟国に死刑廃止を条件として要求。これに応じて加盟候補国のトルコは2002年、廃止に踏み切った。
また、外交面でもEUは死刑廃止の働きかけを重要課題として掲げており、日本が7月に死刑を執行した際、「極めて遺憾に思う」との声明を発表した。
EU加盟国の主要政党もおおむね死刑廃止を支持しており、死刑復活を掲げるのは仏右翼「国民戦線」など政権獲得の可能性が薄い党に限られる。仮に死刑を復活した場合にはEU脱退に追い込まれる恐れが強い。現実的な政治課題として復活
を討議している国はない。
フランス革命以来の伝統のギロチンによる斬首刑を執行し続けていたフランスでは、1981年に死刑を廃止。その決定翌日のフィガロ紙の世論調査では、62%が死刑存続を支持した。その後も、84年から95年までの間に死刑復活を求めて国民議会(下院)に出された法案は27に達したが、いずれも成立には至らなかった。
死刑支持の世論は仏でその後、凶悪事件発生などの際に高まるなど揺れを見せながらも、次第に下落。2006年の世論調査では反対が52%だった。ただ、死刑支持も42%あり、市民の間では死刑を支持する声は少なくない。
フランスでは06年、4歳と5歳の子どもが相次いで殺害される事件が起きたのを機に、死刑復活を求める署名活動が起きた。
英国では、凶悪犯罪が起きるたびに死刑復活の議論が起きる。
06年に5人の女性が続けて殺害された事件では、当時48歳の男が逮捕され、08年に仮釈放なしの終身刑が言い渡された。遺族からは「市民は政府に死刑復活を議論するよう促すべきだ。そうでなければ将来私たちと同様の苦しみを味わう家族が出てくる」といった声が出た。
判決3日後から大手調査会社アンガス・リードが始めた世論調査では、50%が殺人罪に対する死刑復活を支持。反対の40%を上回った。
EU内のその他の国でも、死刑への意識には差がある。
それぞれの質問方法は異なるが、チェコでは昨年の世論調査で、62%が死刑に賛成。反対は31%だった。一方、ポーランドでの07年の調査では、死刑反対は52%で、賛成は46%だった。
(国末憲人、宮地ゆう)
(文中敬称略)