社説

TPPと食の安全/基準に譲歩の余地はない

 安倍晋三首相は、高いレベルの貿易自由化を目指す環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明した。
 交渉に入れば、21の分野で域内ルールの統一を目指すことになる。関税の撤廃により貿易の自由化が進み、日本製品の輸出増大などメリットが強調されている。
 一方で、海外から安価な商品が国内に流通することに伴うデメリットも数多く指摘され、推進・反対の論点は多い。
 とりわけ食品の安全基準については、日本国内に懸念が渦巻いており、政府は慎重な対応が不可欠だ。
 なぜなら、農薬の不正使用や産地偽装など消費者の信頼を裏切る行為が相次ぎ、国内では安全基準に対し、妥協を許さない厳しい視線が注がれているからだ。
 発がん性のある無登録農薬の販売やカキの産地偽装は、豊かな食料基地である東北が舞台となった。それだけに東北の生産者は、消費地の激しい反発を肌で感じ、教訓として生かしてきた。
 農薬が混入された中国産冷凍ギョーザが国内に輸入され、広範囲で健康被害を訴える事件も起きている。厳しい安全基準は食のグローバル化の進展に伴う悪影響にさらされながら、ひずみを埋める努力を重ね、確立されてきた。
 その結果、遺伝子組み換え食品の表示や牛海綿状脳症(BSE)の検査でも、高いハードルを設けてきた。
 消費者がいま、信頼の根拠とするのは、国内のルールである。しかし、日本がTPPに参加した場合、厳しい国内基準が非関税障壁と見なされ、他の協定加盟国との平準化、すなわち基準の緩和を求められる可能性が懸念の根底にある。
 自民党は、コメ、麦、牛肉、乳製品、砂糖を重要5品目と位置づけ、従来の関税を維持すべきだとし、関税撤廃の例外扱いとするよう決議している。
 一義的には、安い外国産との価格競争に太刀打ちできないとの危機感からだが、安全基準が外圧に押されて、なし崩し的に緩められることへの不安も強いためだ。
 国内の基準は、産地表示によって消費者が選択できるようにする「予防原則」に基づいて設けられてきた経緯がある。平準化によって、消費者は従来持ち得た判断基準を失い、混乱する事態も想定される。
 安全基準に対する不安について、世界貿易機関(WTO)協定などに基づき、各国には独自に定める権利があり、TPPで緩められることはないとの反論もある。
 だが、そもそも安さと安全性が貿易交渉の同一の枠内で論じることこそ論外であろう。
 日本の生産者と消費者は連携し、「顔の見える安心できる関係」を築こうと、試行を繰り返し、信頼関係を築いてきた。食の安全を追求する長年の積み重ねと歴史的な経緯を忘れてはならない。

2013年03月18日月曜日

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