中央アルプス山ろくにある伊那市小出三区の細ケ谷地区に、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画が浮上し、住民が困惑している。国が推進する再生可能エネルギーの普及に貢献したいという企業側と、山林伐採による災害や景観、健康への影響を心配する住民側。東日本大震災で発生した原発事故を契機にクリーンエネルギーとして脚光を浴びる太陽光発電だが、全国的に広がりをみせる一方で、課題も浮き彫りになってきた。
「ここは2006年の豪雨で山から多くの水や土砂が流れ出た土地。木を伐採すると保水力が落ちるのでは」「木々に囲まれた豊かな自然を気に入って移り住んだのに、太陽光パネルに囲まれて暮らすのは耐えられない」―。
13日夜、小出三区集落センターで開かれた住民説明会。メガソーラーの建設を予定する市内の建設会社は再生可能エネルギー普及や土地の有効活用などの面から事業への理解を求めたが、集まった約30人の住民からは、建設計画に対する不安や反対の声が相次いだ。
同社の説明だと、メガソーラーは地区内の農地や原野など約1.3ヘクタールに、4200枚の太陽光パネルを設置する。出力は1000キロワットで、全量を中部電力に売電する。総事業費は約4億円。年内の着工、稼動を目指す。
細ケ谷地区は伊那スキーリゾートを背に、眼下に天竜川や市街地、東に南アルプスを望む傾斜地に広がる約20戸の集落。自然環境や眺望に魅かれ都市部から移り住んだ住民も多い。今回の計画では、敷地の2方向に2メートルまで建設地が迫る住宅もある。同地区では「太陽光発電を否定はしないが、生活環境が一変する建設計画には賛成できない」などとして、今回の計画には全戸が反対している状況だ。
同社では「一定の範囲内であれば計画の変更はあり得る。話し合いの中で地元の意見を聞き、対策を考えていきたい」としている。
細ケ谷地区の住民らは、再生可能エネルギー推進の陰で、住民生活や環境、景観を守る視点が置き去りにされていると感じている。メーカーの担当者から「生活への影響は非常に少ない」と説明を受けても、パネルの反射光や周辺の温度上昇、電磁波など、心配も尽きない。
市は「現状では市にメガソーラーに関する許認可権限はない」とした上で、「開発行為では影響を受ける地域や住民との十分な合意形成が図られるべき。市は双方の協議による解決を求める立場」とする。
全国の太陽光発電システム設置者らでつくるNPO法人「太陽光発電所ネットワーク」(東京都)の都筑建事務局長は「今は再生可能エネルギーの普及にばかり目が向いているが、地域に及ぼす影響を放置すると必ず社会問題化する。法や条例の整備が必要だ」と指摘している。
■参入増加でトラブルも
国は太陽光や水力、風力などの再生可能エネルギーの普及を目指し、売電の事業参入を後押しする狙いで昨年7月に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」を導入。このほかにも工事計画の届け出・審査の不要範囲を500キロワットから2000キロワットまで拡大したり、農地法や森林法に関する許可手続きを一本化するなど、さまざまな規制緩和を進めている。
これに伴い全国的に自治体や事業者の参入が増加。経済産業省によると、今年度だけで昨年12月末までに、全国で742カ所・計217万5923キロワット、県内でも9カ所・計1万8858キロワットのメガソーラーが新たに整備認定を受けた。
参入が増えるとともに、住民トラブルも増加傾向に。静岡県藤枝市や兵庫県猪名川町でも、住宅地へのメガソーラー建設計画をめぐり、周辺住民らが反対運動を起こした。