にっけい 記事つづき
話をB課長に戻そう。
B課長の部下たちに、「Bさんは、ひょっとしてバカ上司ですか?」と確かめたわけではない。だが、A部長によれば、B課長の部下には、彼への不満を漏らす人が多く、中には「B課長の下では働きたくありません」と断言する者さえいたという。
裁量権を持たない上司は、部下の目には何も決められない上司と映る。上司(=課長)の上司(=部長)から直接指示が来るようであれば、部下たちは「課長は無能だ」と思うだろう。いったん決定したことを、上司(=部長)にダメ出しされて頻繁に変えるようであれば、部下たちは「課長には決断力がない」と判断するはずだ。
もちろん優秀な人であれば、スーパーマンが口を出さなくても済むような働きぶりを示すかもしれない。しかし、どんなに優秀な人でも、上司から常に攻撃的に早口でまくし立てられると、次第に何も言えなくなってしまうこともあるのではないか。
自分の上司をデキル人と認めれば認めるほど、「この人が望む答えが出せなかった自分」にますます自信をなくし、簡単にできたことまで失敗してしまうこともあるかもしれない。
下からバカ上司呼ばわりされる部下を作り出しているのは、もしかしたら、ものすごくデキル上司かもしれない。そう思えてならないのだ。
「いやぁ、それは単にB課長に能力がなかったからでしょ?」と結論づけるのは簡単だろう。でも、B課長のような立場に置かれれば、よほどの人じゃない限り、同じようになるのではないか。人間の行動は環境に左右される。環境に流されずに打ち破ることができる人は、恐らくスーパーマンと周囲からも言われるようなごく一部の人たちだ。
ならば、やはりB課長を批判するだけでなく、彼のようにちょっと情けなくて、部下からバカ上司と冷やかされるような上司は、その上のデキル上司が量産している可能性も受け入れるべきではないだろか。
大体にしてこの世の中、そんなに優秀な人ばかりじゃない。そもそも優秀といわれる人がどのような人なのかさえ、私にはいま一つよく分からなかったりもする。
それに優秀の対極が必ずしもバカとは限らない。その人がバカかどうかを判定するのは、結局のところ、部下たちの主観でしかないのだ。
部下を持たせる限りは、裁量権を保証せよ
だからこそ、課長であれ何であれ、部下を持たせて仕事を任せる限りは、その人に裁量権を与えるべきだ。いったん任せたら、自分の意見と違うからといって簡単にダメ出しすべきじゃない。
自分の思い通りに行動することだけしか求めないのであれば、いっそのこと、次のようにスタッフ全員に宣言して、課長の役割を明確にした方がましだろう。
「彼に課長という肩書きはついていますが、皆さんの直属の上司は私です。ただ、私は仕事が多くて、いつも皆さんの話を聞けるわけではない。ですから、私がいない時は課長に伝言してください」と。
そうすれば、部下たちはスーパーマンである部長を本当の上司だと思うので、課長をバカ上司呼ばわりしてストレスをため込むこともなくなるはずだ。
裁量権を持たないことは、それだけでストレスの雨をもたらす。現に50にもなる男が大泣きするほどB課長は、強いストレスを感じていた。 裁量権あるいは裁量度(job control)がない仕事とは、
・仕事上の意思決定を任されていない
・発言権がない
・自己の能力を発揮できない
・自己の能力を向上する機会がない
・自分のペースで仕事ができない
などを指す。
裁量度のない仕事は、やりがいのない退屈な仕事だ。裁量度がないうえに、仕事の要求度が高いと、ストレスを強く感じるようになる。B課長のケースでは、A部長の行動パターンから想像するに、要求度はかなり高かっただろう。
B課長の涙の理由は、高すぎる要求? それとも裁量度の欠如? 恐らくは両方なのだろう。
そこで、だ。
自分はデキル、と思っているアナタ。部下を抱える部下(ややこしい言い回しだなぁ)に対して裁量権を与えていますか?
どのような裁量権を与えているのかを明確にしていますか?
ついついせっかちになっていませんか?
自分の思い通りに動いていないと、相手を頭ごなしに否定してはいませんか?
これらの問いかけに対して、自分はどうかを振り返ってみてほしい。少なくとも「自分の後継者を育てたい」、「強い組織を作りたい」などと思っているのであれば、是非とも自問自答してほしい。
もしも、本当にもしも、自分の権限を維持したいがゆえにわざと無能な人を課長に任命していたりしたら……。そんなことをしているアナタ自身が無能なバカ上司だと思うが、それは言い過ぎだろうか?
本当に困るのは、仕事に対する意識が低い人
一方、もしアナタが部下で、直属の上司に対して「うちの上司は本当にバカ上司で……」と嘆いているならば、なぜそう思うのか、上司の何に対してそう思うのかを明確にした方がいい。
自分の思い通りにやってくれないから、バカ上司だと思うであれば、バカなのは、上司ではなくアナタかもしれない。
いや、バカとは言い過ぎだろう。だが、人間は自分の思い通りに動いてくれない人を、時にバカと思うことがある。そして、一度でもそう思い込むと、どんな行動を相手が取ろうと、相手が何を言おうと、公正な判断を下せなくなってしまう。バカと思う部分にしか意識が向かなくなってしまうからだ。
自分の問題なのか? それとも上司の問題なのか? この点をはっきりとさせないで、ただ上司に対する批判ばかりを繰り返していると、自分もそのうちバカになっていくことだろう。
私が思うに、本当に困った人とは、仕事に対する意識が低い人だ。
平気で営業先のアポの日付を間違える。平気でクレームを無視する。平気で締め切りを守らない。
どこの国のカレンダーを使っているのだか知らないが、日付と曜日の間違った書類をクライアントに提出したり、正式な書類の文字を間違えたりする。「そんなこと、小学生でも気をつけるでしょ」と思うようなミスを何度も繰り返す人はいるものだ。
そう、何度でも繰り返す。そういう人は何度でも、懲りることなく繰り返す。間違っているという意識がないから、無意識に平気でバカなミスを繰り返すのである。
小さなことを大切にしない人が、大きなことなどできるわけがない。こんな当然のことすら分からない人は、本当にバカだ。
そんな人がどんなに大きな案件を取ってこようと、どんなに良い企画を考えようと、バカは治らない。わずかなミスから、台無しになるかもしれない。わずかなミスであるがゆえに、かえって大切なクライアントがあきれて去っていくこともある。
で? そういうホンマモンのバカ上司にはどう対応すればいいのか?
う〜む。これはかなり難しい。もう少し考察を重ねる必要があるので、それがまとまった時に改めて書きたいと思う。
はい、中途半端に書いて、「まったく河合薫はバカだ」と読者の方々に必要以上にがっかりされないためにも、もう少し、ホンマモンのバカの実態調査を行いたい。しばしお待ちを。 |