TPP首相判断 見切り発車は背信行為
(2013年03月15日)
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政権公約とはこれほど軽いものなのか。公約を守る明確な担保も保証も示さず、納得できる説明もない。十分な情報開示も国民的議論もない。それでも安倍晋三首相は15日に、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加を表明するのか。交渉参加表明は、命や暮らし、国家主権が脅かされるとして断固反対を訴えてきた多くの国民を欺く背信行為であり、断じて許されない。
2月22日の日米首脳会談後、何度も繰り返された安倍首相の説明は全く説得力を持たない。共同声明で「聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明らかになった」と言う首相の解釈には、国民を納得させる論拠は何もない。共同声明に明記されたのは「全ての物品が交渉の対象にされる」「全ては交渉の中で決まる」ということだ。決して「聖域」を確保したわけではない。
「聖域」問題だけでない。国民皆保険制度や食の安全・安心基準を守り、企業の利益が最優先し国家主権を脅かす投資家・国家訴訟(ISD)条項についても、公約を守る明確な担保も保証も全く示していない。納得できる保証を示さずに公約違反ではないとするのは、まさに詭弁(きべん)である。
自民党のTPP対策委員会は14日、前日に取りまとめた決議を安倍首相に提出。決議は「農林水産分野の重要5品目等や国民皆保険制度などの聖域の確保を最優先」するとともに、確保できないと判断した場合は「脱退も辞さないものとする」ことを政府に求めた。しかし、交渉参加の是非は、党内の賛成と反対・慎重の両論を併記し、判断を安倍首相に委ねた形だ。自民党公約についても「国民との直接の約束であり、必ず守らなければならない」としているが、公約を守れる担保も保証もない。自ら掲げた公約を守るとするならば、党の責任において政府の参加判断にくぎを刺すのが政権与党の役目だろう。
シンガポールで13日まで開かれたTPP第16回全体交渉会合終了後の記者会見で、議長を務めたシンガポールの首席交渉官は日本の交渉参加に触れ「年内妥結という目標を共有しなければならない」とけん制した。会合では、高いレベルの協定を求めており、日本が交渉に参加しても、聖域を確保することは極めて難しい現実を示した。
昨年12月から参加したカナダとメキシコは、参加に当たって(1)(先に交渉参加した)9カ国が既に合意した事項を変更できない(2)9カ国が合意したことに拒否権を発動できない――などの極めて不利な参加条件をのまされた。日本が交渉参加する場合も同様の条件が突き付けられることは明白だ。
政府与党はこうした冷徹で厳しいTPP交渉の現実を直視すべきだ。影響試算に基づく国民的議論もなく、6項目の政権公約を順守する明確な保証すら示さない中で、交渉参加に見切り発車することは許されない。