くらし☆解説 「増える国際離婚 子供を守るには」2012年05月09日 (水)

出石 直  解説委員

Q1、くらし☆解説、岩渕梢です。きょうのテーマは「増える国際離婚 子供を守るには」担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

kk120509_00.jpg

 

 

 

 

 

 

「国際結婚」というのは良く耳にしますが、「国際離婚」という言葉もあるのですね。

A1、国際結婚した夫婦の離婚を「国際離婚」と呼んでいます。ちょっとショッキングなデータをご紹介したいと思います。
【国際結婚3万207件、国際離婚1万8968件 人口動態調査2010】

kk120509_01.jpg

 

 

 

 

 

 

 

Q2、3万組が結婚して2万組近くが離婚、3組に2組ということですか?

A2、これはその年に結婚したカップルと離婚したカップルの数ですので、単純に3組に2組とは言えませんが、それでもかなりの率です。国際化に伴ってどちらかが日本人という国際結婚のカップルはこの30年間で4倍に増えました。最近はちょっと減ってきていますが、一方、国際離婚の件数は年々増えています。
 
Q3、これだけ離婚が多いというのはショックですね。

A3、もちろん幸せな結婚生活を送っているカップルも大勢います。ただ、国際結婚が破綻して離婚した場合、どこの国の法律が適用されるのか、どこで離婚手続きをするのかなど、日本人どうしの離婚にはない複雑な問題が出てきます。
きょう私が強調したいのは、そんな時「どうすれば子供を守れるか」ということです。
岩渕さん。例えばアメリカ人男性と結婚してアメリカに住んでいる日本人女性が離婚した場合、子供はどちらの国でどちらの親が育てるべきだと思いますか?

kk120509_02_01.jpg

 

 

 

 

 

 

Q4、自分が親ならば日本に引き取って日本で育てたいですね。

A4、アメリカ人の父親がそれを認めてくれれば良いですが、「いや駄目だ。子供はアメリカ人としてアメリカで育てる」と主張されたら、どうしますか?

Q5、アメリカに残れれば良いけれど身内もいないし・・・

A5、実際、そうしたトラブルがたくさん起きているのです。前の夫の了解を得ないで子供を勝手に日本に連れ帰ってしまうと、「母親が子供を誘拐した」と罪に問われる可能性もあるのです。

kk120509_02_02.jpg

 

 

 

 

 

 

Q6、親子なのに誘拐ですか?

A6、実際に誘拐罪で起訴されたケースもあります。子供を連れて日本に戻ってはきたけれども、アメリカで逮捕状が出されているので、アメリカに行くことができないという例も起きています。
逆の場合もあります。例えば日本に住んでいたカップルが離婚して、アメリカ人の夫が子供を連れてアメリカに帰ってしまう。日本に残った母親は我が子と引き離され簡単に会うことができません。子供を連れ戻そうと日本にやって来て日本の警察に逮捕されたという事案も起きています。

kk120509_02_04.jpg

 

 

 

 

 

 

Q7、どちらの親にとっても、自分の子供と引き離されるというのは耐えられない辛さでしょうね。

A7、国際離婚の悲劇と言って良いと思います。でも考えて欲しいのは、もっともかわいそうなのは、親の間で板挟みになってしまう子供だということです。
夫婦は離婚すれば夫婦ではなくなりますが、親が離婚しても親子であることには変わりありません。親どうしが子供の奪い合いから子供を守ってあげる必要があります。
 
Q8、離婚する前に話し合ったり、裁判で決めたりはできないのでしょうか。

A8、そうすべきなのですが、実際には話がこじれたり、そもそも話もできないような状況で離婚してしまったりすることも少なくないのです。そんな時に、子供が板挟みになって苦しまないようにしようという目的で作られたのが、「ハーグ条約」という国際的な取り決めです。

kk120509_03_02.jpg

 

 

 

 

 

 

Q9、最近良く耳にするようになりましたが、どんな取り決めなのですか?

A9、親の了解なしに子供が一方的に連れ去られてしまった時、互いの国が協力して、まずは子供が元々住んでいた場所に戻し、解決を図りましょうという取り決めです。
例えば、アメリカに住む親から日本政府に「子供を連れ戻して欲しい」という要請があった場合、日本政府が子供の所在を確認してその親に連絡します。この時点で、両方の親が話し合って解決すれば良いのですが、話がまとまらなかった場合には、日本の家庭裁判所で返還命令が出れば、子供はアメリカに戻されます。

kk120509_04_01.jpgkk120509_04_02.jpg

 

 

 

 

 

逆のケースも同様です。アメリカのようにハーグ条約に加入している国であれば、連れ去られた子供の返還申請を日本政府を通じて行うことができます。相手の国、この場合はアメリカの裁判所の決定に基づいて、子供は日本に戻されます。

kkk120509_04_03.jpgkkk120509_04_04.jpg

 

 

 

 

 

正確な実態は判りませんが、外務省や日弁連などが行った調査では、日本に連れ去られたケースと、日本から連れ去られたケースはほぼ同数くらいではないかと見られています。
日本は国内法との関係もあって長くこの条約に入っておらず「子供を日本に引き取られてしまうと取り返すことができない。日本は拉致天国だ」などと欧米各国から強い批判を受けていました。しかし、この3月に条約に加盟するための法案が国会に提出され、法案が成立すれば早ければ来年にはハーグ条約に加盟する見通しです。
 
Q10、日本から連れ去られる場合は判りますが、日本に連れ帰ったケースの場合、子供をまた取られてしまうことになるのではないでしょうか。

A10、返還を拒否できる場合がいくつかあります。

kk120509_05.jpg

 

 

 

 

 

 

▽子供が16歳以上なら対象になりません。
このほか、
▽1年以上が経過して、子供が新しい環境に適応している場合、
▽返還されることで子供に害悪を及ぼす重大な危険がある場合、
などは、返還を拒否することができます。
 
Q11、外国に連れ戻されてしまうと、子供には会えなくなってしまうのでしょうか。

A11、そうではありません。この条約は、子供を一度、元々いた国に戻すことを定めているだけで、子供の養育をどうするかを決めるものではありません。子供の養育をどうするのかは、子供が元いた国に戻った後、その国の裁判所で決められることになります。
 
Q12、とは言っても、例えば外国の裁判所で子供の問題を解決するとなると、日本人は語学力のハンデもありますし、不利になってしまうのではないでしょうか。

A12、確かに相手側のペースで裁判が進められてしまう心配があるという指摘もあります。
ただ考えて頂きたいのは、どっちが有利か不利かではなく、優先されるべきは子供の利益、子供の人権だということです。

kk120509_06.jpg

 

 

 

 

 

 

 

これは日本の離婚届けです。この春、民法が改正されて、ご覧のように子供との「面会交流」と「養育費の分担」を決めているかどうかを記入する欄が新たに設けられました。国際離婚に限らず、離婚後の親子関係をどうするのか、子供が犠牲にならないよう、親として十分に話し合っておくことが重要だと思います。
 
(岩渕キャスター)

kk120509_07.jpg

 

 

 

 

 

 

 

ハーグ条約の日本国内での窓口は外務省になります。総合外交政策局人権人道課で問い合わせに応じています。電話番号は、03-5501-8466、またハーグ条約の詳しい内容などついては、ホームページにも紹介されています。

日本司法支援センター(通称、法テラス)でも、電話やメールなどで無料で問い合わせに応じたり、情報提供を行ったりしています。電話は、0570-078374(おなやみなし)、受付時間は平日の午前9時から午後9時まで、土曜日は午前9時から午後5時までです。通話料金がかかりますのでご注意ください。詳しくは、ホームページをご覧ください。