TPP交渉参加:首相、調整役に反対派 したたか布石
毎日新聞 2013年03月17日 08時00分
自民党の石破茂幹事長は16日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加に備え、コメや麦など農林水産分野の重要5品目の聖域化を7月の参院選公約に盛り込む考えを記者団に表明した。「聖域が確保できない場合は脱退も辞さない」と決議し党内を収めたのに続き、公約に掲げることで農協などに理解を求める。だが、安倍晋三首相が交渉参加を表明するまでの経緯をたどると、参加に向け着々と布石を打ってきた自民党のしたたかさが浮かぶ。
自民党は昨年の衆院選で「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り、TPP交渉参加に反対」を公約に掲げた。文言は、茂木敏充(もてぎ・としみつ)政調会長(現経済産業相)、林芳正政調会長代理(現農相)、高村(こうむら)正彦党外交・経済連携調査会長(現党副総裁)が考案した。
原案は「聖域なき関税撤廃を前提にしないなら、TPP交渉参加に賛成」だったが、衆院選への影響を考慮し「反対」を前面に押し出した文面に書き換えた。だが、メンバーの一人が「政権与党への復帰をにらんで作った」と語るように、裏返せば聖域が確保されれば交渉に参加するのが真意だった。
昨年12月の衆院選勝利後、安倍氏はさっそく反対派対策に動く。JA全中の万歳章(ばんざい・あきら)会長と会談した際には、「また民主党に投票するんですか」とけん制。首相就任後の1月1日には、東京・富ケ谷の私邸に塩崎恭久政調会長代理を招き、交渉参加に向けた党の体制を話し合った。党内や農業団体を説得するため、キーマンに選んだのは反対論者の江藤拓副農相と西川公也元副内閣相だった。
ワシントンで2月23日(現地時間同22日)に行われたオバマ米大統領との首脳会談で、「一方的にすべての関税撤廃をあらかじめ約束することを求められない」と確認した首相は帰国後の25日、江藤氏をひそかに首相官邸に呼び、「農協への根回しをするように」と指示した。江藤氏も「首相の決意は固い」と受けざるを得なかった。
安倍氏周辺は訪米前、首脳会談の結果によっては2月28日の施政方針演説で参加表明することを検討した。だが、政府関係者によると、米側から「しばらく待ってほしい」と要請され、2週間程度、間をおくことになったという。これで党内対策に時間的な余裕ができた面もある。