シリーズでお伝えしている「東日本大震災から2年」。今回のテーマは「燃料の確保」です。
東日本大震災では、首都圏でも深刻な燃料不足が発生しました。
ガソリンスタンドでは、燃料を買い求める車の行列ができ、売り切れが相次ぎました。
燃料を供給するはずの製油所も被災。
地震によって一時、操業が停止するなど供給力は大幅に低下し、燃料不足に拍車をかけました。
こうした事態に備えて、自治体は、震災の以前から石油製品の販売業者で作る団体と協定を結び、災害時に燃料の供給を優先的に受けられるよう対策を講じてきました。
しかし、この協定に頼ることの危険性が、震災をきっかけに明らかになってきました。
本格的な災害協定を全国で最も早く結んだ東京都を取材しました。
東京都から災害時に拠点となる医療機関に指定されている東村山市の多摩北部医療センターです。
震災のあったおととし3月、病院は燃料の確保に危機感を募らせていました。
計画停電の対象地域に指定され、停電が予告されていたためです。
病院では、災害に備えて自家発電機を設置していますが、当時、専用のタンクには、わずか1日分の燃料しかありませんでした。
多摩北部医療センターの打田武彦事務長は「燃料がどんどん無くなっていくので、このままだと病院の機能を維持できないんじゃないかと心配して焦っていた」と話しています。
同じころ、災害拠点病院を支援する立場の東京都は、思わぬ事態に直面していました。
当時、総合防災部の特命担当課長だった猪口太一さんは、病院や水道設備など機能を維持しなければならない施設に燃料を補給するため、調達に当たっていました。
すぐに補給しなければならない施設は都内9か所。
合わせて11万700リットル。
一刻を争う事態に、猪口さんが頼ったのが、災害時に燃料の供給を優先的に受けられる協定でした。
しかし、すぐに調達することはできませんでした。
当時を振り返って猪口さんは「これはまずいなと。とにかくきょう、あしたの計画停電に備えるための燃料でしたので、どうすればいいんだろうという気持ちでしたね」と振り返ります。
調達できなかったのは深刻な燃料不足を受け、協定を結んでいた業者側に、在庫がなかったためでした。
その後、計画停電は縮小され、大事に至らなかったものの、燃料確保を災害協定に頼ることの危うさが浮き彫りになりました。
猪口さんは「協定の限界を痛切に感じました。先方も一生懸命やっていただいたが、優先的な協定だけでは、実際に大規模な災害が起きると、やはり限界があるのかなと」と話しています。
燃料をどう確保するのか。
災害協定に頼らない新たな動きが自治体で始まっています。
神奈川県海老名市です。
燃料を確保するため着目したのが、休業中だったガソリンスタンドです。
海老名市は、およそ1億7000万円をかけ、休業中だった市内のガソリンスタンドを買収。
3月から、ガソリンや軽油など合わせて8万リットルの備蓄を始めました。
備蓄は145台ある緊急車両の18日分、病院など市内の50の施設で使う発電機の4日分の燃料に相当します。
燃料はふだん、公用車の給油に使い長期保管による劣化を防いでいます。
東京都も新たな対策に乗り出しています。
2月から、都内の油槽所やガソリンスタンドに保管料を支払って、事前に購入した燃料を備蓄する取り組みを始めました。
こうした備蓄先は都内6つの油槽所やガソリンスタンド120か所余り。
70ある災害拠点病院で使う3日分の燃料、それに緊急車両6500台の3日分のガソリンなどを確保する計画です。
東京都総合防災部の高塚邦夫担当課長は「3・11を踏まえて、いままでの受身の態勢でなくて、能動的に積極的に体制を構築していこうとの教訓を得たので、そういう姿勢で東京都の災害対策に取り組んでいきたい」と話しています。
震災をきっかけに、課題が浮き彫りになった燃料の確保。
首都直下地震が予測されるなか、より確かな対策を求める動きが加速しています。
自治体がガソリンスタンドを買収したり、業者に備蓄を委託したりするのは、いずれも全国で初めてのケースです。
ガソリンスタンドの活用は有効といえますが、海老名市の場合、ガソリンスタンド1か所を買収すれば市が必要とする燃料を確保できるのに対し、人口が多い東京都、特に23区では複数の買収が必要になり、土地の値段も高くなるため、容易ではありません。
自治体の間では震災を機に、日ごろから燃料そのものをいかに確保しておくかに対策の重点が移りつつあるといえます。
ポイントは、事前に確保した燃料を災害が起きた時に、病院や水道設備などの現場に確実に送り届けられるかどうかという点です。
このため各自治体などには今後、燃料を運ぶルートを事前に確認しておいたり、運ぶのに使う車両を用意しておいたりするなど燃料を送り届けるための体制を構築していくことが求められているといえます。