首都圏ネットワーク

3月13日放送
震災から2年 燃料確保“協定頼り”からの脱却

首都圏放送センター 津武 圭介
首都圏放送センター
津武 圭介

シリーズでお伝えしている「東日本大震災から2年」。今回のテーマは「燃料の確保」です。
東日本大震災では、首都圏でも深刻な燃料不足が発生しました。
ガソリンスタンドでは、燃料を買い求める車の行列ができ、売り切れが相次ぎました。
燃料を供給するはずの製油所も被災。
地震によって一時、操業が停止するなど供給力は大幅に低下し、燃料不足に拍車をかけました。

写真

こうした事態に備えて、自治体は、震災の以前から石油製品の販売業者で作る団体と協定を結び、災害時に燃料の供給を優先的に受けられるよう対策を講じてきました。
しかし、この協定に頼ることの危険性が、震災をきっかけに明らかになってきました。
本格的な災害協定を全国で最も早く結んだ東京都を取材しました。

写真

東京都から災害時に拠点となる医療機関に指定されている東村山市の多摩北部医療センターです。
震災のあったおととし3月、病院は燃料の確保に危機感を募らせていました。
計画停電の対象地域に指定され、停電が予告されていたためです。
病院では、災害に備えて自家発電機を設置していますが、当時、専用のタンクには、わずか1日分の燃料しかありませんでした。

写真

多摩北部医療センターの打田武彦事務長は「燃料がどんどん無くなっていくので、このままだと病院の機能を維持できないんじゃないかと心配して焦っていた」と話しています。

写真

同じころ、災害拠点病院を支援する立場の東京都は、思わぬ事態に直面していました。
当時、総合防災部の特命担当課長だった猪口太一さんは、病院や水道設備など機能を維持しなければならない施設に燃料を補給するため、調達に当たっていました。
すぐに補給しなければならない施設は都内9か所。
合わせて11万700リットル。

写真

一刻を争う事態に、猪口さんが頼ったのが、災害時に燃料の供給を優先的に受けられる協定でした。
しかし、すぐに調達することはできませんでした。
当時を振り返って猪口さんは「これはまずいなと。とにかくきょう、あしたの計画停電に備えるための燃料でしたので、どうすればいいんだろうという気持ちでしたね」と振り返ります。

写真

調達できなかったのは深刻な燃料不足を受け、協定を結んでいた業者側に、在庫がなかったためでした。
その後、計画停電は縮小され、大事に至らなかったものの、燃料確保を災害協定に頼ることの危うさが浮き彫りになりました。

写真

猪口さんは「協定の限界を痛切に感じました。先方も一生懸命やっていただいたが、優先的な協定だけでは、実際に大規模な災害が起きると、やはり限界があるのかなと」と話しています。

写真

燃料をどう確保するのか。
災害協定に頼らない新たな動きが自治体で始まっています。
神奈川県海老名市です。
燃料を確保するため着目したのが、休業中だったガソリンスタンドです。
海老名市は、およそ1億7000万円をかけ、休業中だった市内のガソリンスタンドを買収。

写真

3月から、ガソリンや軽油など合わせて8万リットルの備蓄を始めました。
備蓄は145台ある緊急車両の18日分、病院など市内の50の施設で使う発電機の4日分の燃料に相当します。
燃料はふだん、公用車の給油に使い長期保管による劣化を防いでいます。

写真

東京都も新たな対策に乗り出しています。
2月から、都内の油槽所やガソリンスタンドに保管料を支払って、事前に購入した燃料を備蓄する取り組みを始めました。
こうした備蓄先は都内6つの油槽所やガソリンスタンド120か所余り。
70ある災害拠点病院で使う3日分の燃料、それに緊急車両6500台の3日分のガソリンなどを確保する計画です。

写真

東京都総合防災部の高塚邦夫担当課長は「3・11を踏まえて、いままでの受身の態勢でなくて、能動的に積極的に体制を構築していこうとの教訓を得たので、そういう姿勢で東京都の災害対策に取り組んでいきたい」と話しています。
震災をきっかけに、課題が浮き彫りになった燃料の確保。
首都直下地震が予測されるなか、より確かな対策を求める動きが加速しています。

自治体がガソリンスタンドを買収したり、業者に備蓄を委託したりするのは、いずれも全国で初めてのケースです。
ガソリンスタンドの活用は有効といえますが、海老名市の場合、ガソリンスタンド1か所を買収すれば市が必要とする燃料を確保できるのに対し、人口が多い東京都、特に23区では複数の買収が必要になり、土地の値段も高くなるため、容易ではありません。
自治体の間では震災を機に、日ごろから燃料そのものをいかに確保しておくかに対策の重点が移りつつあるといえます。
ポイントは、事前に確保した燃料を災害が起きた時に、病院や水道設備などの現場に確実に送り届けられるかどうかという点です。
このため各自治体などには今後、燃料を運ぶルートを事前に確認しておいたり、運ぶのに使う車両を用意しておいたりするなど燃料を送り届けるための体制を構築していくことが求められているといえます。

ページ上部へ

これまでの放送内容

震災からから2年 発達障害の人が安心して避難できるために
3月14日放送
東日本大震災から2年。今回のテーマは自閉症など発達障害の人の避難です。発達障害の人は、環境の…
→続きはこちら
震災からから2年 発達障害の人が安心して避難できるために
学校給食のアレルギー事故 その対策は
3月12日放送
去年、東京・調布市の小学校でチーズなどにアレルギーのある女の子が給食を食べたあとに死亡した…
→続きはこちら
学校給食のアレルギー事故 その対策は
震災から2年 −動き出した液状化対策−
3月11日放送
シリーズでお伝えしている「東日本大震災から2年」。今回は首都圏で大きな被害が出た「液状化」に…
→続きはこちら
震災から2年 −動き出した液状化対策−
津波に備える教訓 − 警報解除までは戻らない −
3月7日放送
シリーズでお伝えしている、東日本大震災から2年。今回は、津波に備えた避難のあり方を検証します…
→続きはこちら
津波に備える教訓 − 警報解除までは戻らない −
震災から2年 −津波から車で避難 その対策は−
3月6日放送
東日本大震災からまもなく2年。
今回は、津波からの避難の際の車などの渋滞対策について…
→続きはこちら
震災から2年 津波から車で避難 その対策は
原発事故の避難者は それぞれの決断
3月5日放送
東日本大震災から2年。首都圏ネットワークでは震災からの復興や対策の課題についてシリーズで…
→続きはこちら
原発事故の避難者は それぞれの決断
全国初の「無料低額宿泊所」規制条例案
3月4日放送
生活に困っている人が入居できる「無料低額宿泊所」が、生活保護の受給者の増加とともに各地で…
→続きはこちら
全国初の「無料低額宿泊所」規制条例案
歌舞伎座開場まで1か月 地元の期待は
3月1日放送
東京・銀座に新しい歌舞伎座が開場するまで、いよいよ、あと1か月です。歌舞伎座の開場は銀座の…
→続きはこちら
歌舞伎座開場まで1か月 地元の期待は
暮らしなっとく 聞き上手になろう
2月28日放送
今回のテーマは「上手なコミュニケーション」です。まもなく進学や就職、引越しの時期を迎え新しい…
→続きはこちら
暮らしなっとく 聞き上手になろう
「赤ちゃんパンダを再び」上野動物園の挑戦
2月27日放送
上野動物園では去年、待望の赤ちゃんパンダが誕生しましたが、わずか7日間で死んでしまいました。…
→続きはこちら
「赤ちゃんパンダを再び」上野動物園の挑戦
視力維持“目が命”の仕事では
2月25日放送
パソコンや携帯電話などに囲まれ、遠くを見る機会が減った現代社会では視力の低下に悩まされている…
→続きはこちら
視力維持 目が命 の仕事では
卵子の老化を女子高生が学ぶ
2月22日放送
30代半ばを過ぎると妊娠しにくくなる「卵子の老化」。若いうちから正しい知識を身につけてもらおうと…
→続きはこちら
卵子の老化を女子高生が学ぶ
プロジェクト2030(13)
視聴者からの反響をもとに

2月22日放送
12回にわたってお伝えした「プロジェクト2030」。3人に1人が高齢者になる西暦2030年の…
→続きはこちら
プロジェクト2030(13) 視聴者からの反響をもとに
プロジェクト2030(12)
高齢化する住宅街 再生するには

2月21日放送
首都圏では、高度成長期、郊外に延びる鉄道の沿線で一戸建ての住宅地が開発され、多くの働く世代が…
→続きはこちら
プロジェクト2030(12)高齢化する住宅街 再生するには
プロジェクト2030(11)
地域再生は高齢者の力で

2月20日放送
2030年には、東京のベッドタウンとして発展してきた都市の近郊で、高齢者が大幅に増えると予想…
→続きはこちら
プロジェクト2030(11) 地域再生は高齢者の力で
プロジェクト2030(10)
“日本一の大家”団地再生事業

2月19日放送
2030年、人口が減り借り手のいない「空き家」は、現在の13%から倍近くに増えるという試算も…
→続きはこちら
プロジェクト2030(10)“日本一の大家”団地再生事業
プロジェクト2030(9)老朽化インフラ 存続の危機に
2月18日放送
今回は、私たちの身近にあるインフラや公共施設の老朽化についてです。高度経済成長の時代などに…
→続きはこちら
プロジェクト2030(9)老朽化インフラ 存続の危機に