シリーズでお伝えしている「東日本大震災から2年」。
今回は首都圏で大きな被害が出た「液状化」についてです。
地図で赤く示した部分は液状化の影響で建物に被害が出た自治体です。
72の自治体の2万5千棟が被害をうけました。
赤い部分すべてで液状化が起きたわけではありませんが、東京湾の沿岸をはじめ、茨城県と千葉県にまたがる利根川流域など広い範囲で起きました。
世界でも過去最悪の規模の液状化被害とされていますが、なかでも被害が大きかったのが千葉県浦安市です。
浦安市は市の面積のおよそ85%が液状化。
住宅など9,154棟が傾くなどの被害を受けました。道路や下水道などインフラの被害も広がりました。
震災から2年。
浦安市は、再び液状化しないよう対策を検討しています。
しかし地盤を改良する具体的な工事方法がまだ決まらず、抜本的な対策がなかなか進まないのが現状です。
住民は「メインの通りもまだ整備されていませんよね。もう2年経つのに、遅いと思う」とか、「全体的に復興が終わるまでにはもう少し時間がかかるのではないか」と話しています。
首都圏の液状化は、沿岸部の埋め立て地だけでなく、内陸部でも川や沼を埋め立てた場所や、土を盛って造成した住宅地など、広い範囲で起きました。
地元の自治体でさえ液状化の危険を十分に把握していなかったケースも少なくありませんでした。
対策が進まなかった理由は、やはりお金がかかるからです。
家の傾きを直すだけでも数百万円の費用が必要です。
これとは別に地盤を改良する工事費も住宅地だと住民が負担を求められます。
こうしたなか、茨城県神栖市が全国に先駆けて住民の負担を大幅に少なくする対策を地域一体で始めようとしています。
周りを太平洋と利根川に囲まれた茨城県神栖市は、震災で地盤が液状化し、1700棟余りの住宅に被害が出ました。
2年がたった今も道路は波打ち、住宅のブロック塀は大きく傾いたままです。
畳店も液状化の被害を受け、出入り口が地面より低くなってしまったため、雨が降ると作業場や住宅が浸水してしまいます。
畳がぬれないように細心の注意が必要です。
畳店の中村弘さんは「いまは雨が恐怖ですよ。それこそ、ここは住むところではないよね、あの液状化を見たら」と言います。
金属加工会社では、2棟の工場のうち1棟が傾き、使えない状態が続いています。
工場の床は60センチも沈み込んでしまいました。
建て替えのメドは立たず、会社の売り上げも半分以下に落ち込んでいます。
この会社の木滝一郎さんは「1年あれば何とかなるかなと思ったが、結局は仕事が激減して、どうしても復旧の方まで手が回らない。あきらめが半分以上ある」と話しています。
液状化を何とか克服したいと神栖市が2年間かけて調査した結果、ことし1月、ようやく1つの工法にたどり着きました。
その工法のカギとなるのが、穴だらけのパイプです。
道路の下に張り巡らせます。
液状化は地震の大きな揺れで地下水が上昇し、地上にあふれてくる現象です。
地下水の水位が高いほど、液状化のリスクは高くなります。
そこでこのパイプを道路に埋めて、地下水を流れ込ませ、外部に排出します。
地区全体の地下水の水位を低くすることで、液状化しにくくするのです。
市は震災で液状化した地区で実験していますが、地下水がパイプを通って排出され続けています。
水位は実験の前より下がっていて、液状化しにくいところで保たれています。
地盤コンサルタントは「水位は、施工する前は地表面から60センチから1メートル。それが今は2.5メートルまで下がっている」と話しています。
地下水を抜くため、地盤沈下が懸念されましたが、実験では1センチ未満の沈下に抑えることができました。実際に効果が確認されたのです。
この工法を液状化対策として取り入れようと、市は今月、地区の代表を集めて説明会を開きました。
住民は施設の維持管理にかかる費用を負担しなければいけませんが、市が独自の補助制度を設けるため住民の多くは無料になる見込みです。
地区代表の住民は「私が一番気にしていた点が、ほとんどもう負担がないということで、よかったんじゃないですか。皆さん好意的に捉えて同意する方も多いと思います」と話しています。
神栖市は今後、地区の全世帯を回って同意をもらい、早急に工事に着手したいとしています。
都市計画課の竹内弘人課長補佐は「長い2年だったが、私たちの液状化対策としては、やっとこれからスタートの時期かなと。液状化対策をしないと、地域が安全性を保てないんだという部分を理解していただいて、私たち行政と住民が一体になって対策を進めていきたい」と話しています。
液状化対策は民間の住宅地で行う場合、住民が負担する費用の割合が増えますが、神栖市の場合、公共の土地である道路の下で行うため、費用を安く抑えられるのです。
この工法、浦安市などほかの自治体も関心を寄せていますが、地域によって地盤の特徴が違うため、すぐに採用するのは難しいということです。
液状化の被災地では、この2年間の様々な調査を生かして、その地域にあった方法を粘り強く調整していく取り組みが今後も続きます。