全国的に警報が続くインフルエンザ。今年第7週だけでも受診者は百万人規模と推計されているから、まだまだ油断できない。
もし疫病がひろまったら、無事でいられるのだろうか?医者も知らないウイルスや動植物が媒介する病原体が知らぬまに襲ってくる。なすすべもなく、ひたすら耐えるだけの生活になりそうだ。
■気長な細菌
病原体となる真(しん)菌や細菌は、似た名前だが構造も人間への影響も違う。真菌はカビで、伸ばした菌糸を枝分かれさせながら成長する。水虫や歯周病など身体の外側に住み着くのが一般的だが、内部に達すると内臓真菌症などの深刻な病気に発展する。
細菌は分裂して自己増殖するのが真菌との違いで、細胞に侵入したり吐き出す毒素で人体にダメージを与える。身近な例では中耳炎やものもらいも細菌が原因だ。
細菌による古典的な疫病は天然痘(とう)だ。紀元前エジプトのミイラにも跡が見られ、15世紀には50年間で7千万人の犠牲者を出した。その後は予防接種のおかげで激減し、1980年には世界保健機関が根絶を宣言している。
アメリカでは1972年、日本では1976年を境に予防接種がおこなわれなくなったのも根絶宣言の成果だ。
すごいぞ人間。動植物だけでなく細菌まで根絶するなんて!
世界一多くの被害者を出したのはペストで、統計が定かでない14世紀につき推定値だが、わずか5年間でヨーロッパに2,500万人、世界で1億人が犠牲となった。現在も毎年千~3千人が感染しているので、天然痘のように過去の話として片付けてはいけない。
感染経路をさかのぼるとネズミにたどり着き、触れる・食べる以外に、ノミを媒介にするのが大はやりした要因だ。感染すると2~5日に発症し、40℃を超える発熱や悪寒を訴える。菌が血液に入れば敗血症を起こし、全身に黒い斑点ができるのが黒死病と呼ばれるゆえんだ。
ペストは人から人にも感染する。菌が肺に入る肺ペストでは、空気を介して伝染するので看病する人まで危険にさらされる。隔離すれば被害も減るが、医学的な知識不足が被害に拍車をかけたのだろう。
日本では江戸時代にコレラが流行し、文政5年(1822年)から慶応3年(1867年)まで、およそ50年に渡り脅威となった。中でも安政5年(1858年)は日本全国で100万人、江戸だけでも28万人超の被害者が出たと記されている。
ごく近い1846年の日本の人口は約2,700万人だから、この年だけで4%近くの人口が失われたことになる。
ブラジルの教師・ジュセリーノ・ノーブレガ・ダ・ルース氏は、著書で日本にコレラが再来すると記している。当時、感染者の排泄(はいせつ)物がきちんと消毒されずに流され、いまの東京湾には休眠状態のコレラ菌が潜んでいるのが理由という。
海水からコレラ菌が検出されるのは珍しいことではないが、200年前の理由を持ち出されてもドン引きだ。
■移り気なウイルス
インフルエンザの原因であるウイルスは、細菌や真菌よりも簡素な構造で、増殖する機能を自ら持たない。そのため動植物の細胞に入り込み、タンパク質合成や代謝のシステムを乗っ取って自分を複製するのだ。侵入された細胞は本来の機能を果たせないだけでなく、細胞死か不死化してガン細胞へと変わってしまう。
他人の家で食事を取り、子をもうけ、あげく家まで破壊するのだから、盗人(ぬすっと)たけだしいとはこのことだ。
遺伝情報を持つ物質はDNAが有名だが、その代わりにRNAを持つのもウイルスのやっかいな点だ。どちらも自分を増やす時の図面となるのだが、RNAは不安定でコピーミスが起きやすい。過去のワクチンが効かなくなるのは、完ぺきに複製できず少し違ったマイナーチェンジ版を作ってしまうからだ。
たとえ性質が変わっても、ほぼ同じならすぐにワクチンを作り直せるだろうが、「少し違う」を何十年も重ねると、フルモデルチェンジが起き別物が生まれてしまう。インフルエンザの祖先は1918年のスペインかぜ(H1N1型)で、その後に香港かぜ・H3N2型に変異し、現在の新型インフルエンザ(A/H1N1型)に至る。
およそ100年間で3回のフルモデルチェンジを経て、まったく別と呼べるウイルスに生まれ変わっているのだ。
いまのインフルエンザもノロウィルスも、どのように変異するのか誰も予測できず、ワクチンが効かない日がいつかやってくる。「未知のウイルス」と表現されるが、未知こそウイルスの真の姿と呼ぶべきだろう。
■まとめ
西暦540年ごろに東ローマ帝国でペストが流行した直前に、隕石(いんせき)が落ちた記録がある。この2つを結びつけ、疫病の原因は地球外生命と唱(とな)える説も根強い。
ロシアの隕石(いんせき)は大丈夫だろうか?被害にあった方々にお見舞い申し上げ、疫病が流行しないことを祈る。
(関口 寿/ガリレオワークス)