映画「プロメテウス」では、人類の祖先を彷彿(ほうふつ)させる宇宙人が描かれていた。圧倒的な科学力を持つ宇宙人が祖先なら、原始時代は何のためだったかなど、想像がふくらむ。
地球の生命は宇宙から来たのだろうか?もしそうなら、水も空気もなく、有害な放射線に満たされた宇宙を超えて来た彼らは、人間とかけ離れたバクテリアや微生物のような姿だったに違いない。
■20万分の1の出会い
地球の誕生は約46億年前。38~40億年前に生命が誕生し、人間の祖先となる霊長類は6,500万年前ごろに登場したと考えられている。
生物にとって欠かせないアミノ酸が窒素やメタンから作られたのは確かだが、生命がどのように誕生したのかは決定的な証拠がない。そのため、地球以外の天体からやって来たと考えるパンスペルミア説も根強い。
地球起源と考えるなら、それは現在の尺度とはかけ離れた生物だ。初期の地球の大気は水素やヘリウムが主成分で、その後の原始大気も二酸化炭素やアンモニアが多く、酸素はわずかしかなかった。
そのため当時のバクテリアや微生物は、人間には有毒な硫化水素やアンモニアを食料とし、なかには猛毒で知られるヒ素を取り込むバクテリアも存在したほどである。
対してパンスペルミア説は空想に聞こえるが、当時の地球環境の過酷さを考慮すれば、さほど荒唐無稽(むけい)な話ではない。現時点では地球以外の生命体は確認されていないが、とは言え地球にしか存在しない理由にはならない。
そのため、他の生命体からのメッセージを電波望遠鏡で観測し続けるSETI(地球外知的生命体探査)プロジェクトや、文明を持つ惑星数を計算するドレイク方程式など、真剣に取り組んでいる科学者も多い。
ドレイク方程式は、1年間に銀河系で生まれる恒星の数や、その恒星が惑星を持つ確率など7つの要素をかけ合わせて求める。
SF作家であり天文学者の故・カール・セーガン博士の計算では、銀河系には100万ほどの文明惑星が存在する。銀河系にはおよそ2,000億個の恒星があるのだから、確率20万分の1は、現実的な数値と言えるだろう。
もしも生命の起源が地球外なら、どのようにして地球に来たのだろうか?
もっとも有力なのは彗星(すいせい)の氷や隕石(いんせき)に付着して来たという説で、地表に落下する際に高温になる隕石(いんせき)からもアミノ酸が検出された例があるほど現実的だ。
ただし乾燥、温度、圧力、放射線に強い生物、すなわち細菌やバクテリア/ウイルスなどに限定される。紫外線にさらされ希薄な空気しかない高度50kmの成層圏にも存在するほど、細菌やバクテリアの生命力は強いからだ。
有力候補はデイノコックス・ラディオデュランスだ。これは放射線耐性の高い細菌で、人間の致死量の3,000倍のガンマ線にも耐えられる。
生物はガンマ線を浴びるとDNAにダメージを受けるが、この細菌はDNAを自己修復する機能を持つため、致命傷にならない。もっとも放射線耐性の高い生物としてギネス世界記録に登録され、放射性廃棄物の処理に期待が持たれている。
頼むぞデイノコックス・ラディオデュランス。地球の未来は任せた。
■果報は寝て待て
さらに強力なのはクマムシだ。大きくても体長1ミリ程度の緩歩(かんぽ)動物で、イモムシに8本の足を付けたような風ぼうをしている。
ユニークな姿とは裏腹に、人間の致死量の1,000倍を超えるx線、絶対零度(=約-273℃)から150℃ほどの高温、真空から6,000気圧、80%の体内水分が1~3%に減少するような乾燥にも耐えられるのだ。
過酷な状況になると仮死状態となるのがポイントで、寒いときは凍眠、水分がないと樽(たる)型に丸まって乾眠、酸素がなければ窒息仮死でやり過ごす。
9年間の乾眠後でも、水分を与えれば活動再開する「種」のような性質も持っている。液体窒素で凍らせても、電子レンジで3分ほどチンしても死なない、2007年にギネス世界記録に登録された最強サバイバーだ。
もしクマムシを彗星(すいせい)の氷に閉じ込めれば、他の惑星に到達する可能性は高い。
逆に、他の天体から地球にやって来た生物がいるなら、最有力候補はクマムシだろう。
自分の起源がゲテモノ食いのバクテリアか、宇宙から来た菌やクマムシかもしれないと思うと、パンドラの函(はこ)を開けた気分だ。
■まとめ
雪や氷に紫外線を当てると、過酸化水素水が発生する。殺菌性の強い物質ながら、熱エネルギーに頼れない地域では、これをエネルギーにする生物がいると考えられている。
極寒の星、木星のエウロパ、土星のタイタンにも生命が存在する可能性が高い。そう遠くない未来に、そう遠くない場所から、人類の起源が明かされるのかもしれない。
(関口 寿/ガリレオワークス)