もしも科学シリーズ(38):もしも太陽系を脱出したら

  [2013/01/27]

2012年12月、ボイジャー1号が太陽系の外縁に到達した。脱出したと見込まれていたが、太陽系は予想よりも大きく、外に出るにはもう少し時間がかかるらしい。

人類は太陽系を脱出できるのか?銀河からの高エネルギー電子、太陽とつながる磁気ハイウェー、約5,700℃の局所恒星間雲など、生命を拒むかのようにそろえられた悪条件を克服し、有人探査ができるようになるのは少し先の話になりそうだ。



■1.5億kmの泡

太陽系とは、太陽から放たれる太陽風が届く範囲を指す。高温のプラズマである太陽風は時速150万kmで球状に広がり太陽圏(ヘリオスフィア)を成しているが、銀河からの恒星風に流されて細長い卵型に変形している。恒星風が吹き付ける側は太陽風が減速し短く、下流側は勢いが増すので長く伸びているのだ。太陽風が減速し始める地点を末端衝撃波面と呼び、これよりも外側に進むほどに減速する。やがて速度がゼロになった地点が銀河と太陽系の境界で、太陽圏界面(ヘリオポーズ)と呼ばれている。

太陽系には水星から海王星までの8の惑星があり、中心の太陽から火星までを内太陽系、木星より遠い範囲を外太陽系と呼び、火星と木星の間には小惑星が密集したアステロイドベルトがある。さらに海王星の外側には微惑星が円盤状に集まったエッジワース・カイパーベルト、太陽系の外側には多数の彗(すい)星があるオールトの雲があると予想されている。太陽から地球の距離・約1億5,000万kmを1天文単位(AU)と呼び、現在分かっている天体をおよその距離順に並べると、

 ・内太陽系(火星まで) … 2億2,700万km(1.5AU)
 ・木星まで … 7億8,000万km(5.2AU)
 ・海王星 … 45億km(30AU)
 ・エッジワース・カイパーベルト … 45億~75億km(30~50AU)
 ・末端衝撃波面 … 135億km(90AU)
 ・ヘリオポーズ … 195億~225億km(130~150AU)
 ・オールトの雲 … 7.5兆~15兆km(5万~10万AU)

となる。1977年に打ち上げられたボイジャー1号は2004年12月に末端衝撃波面を通過し、現在は太陽から約180億km離れた場所にいるため、光速=およそ10億8,000km/時で伝わる電波でも片道17時間かかる。もし管制センターが呼びかけても、返事が来るのは1日半後だから、まさに手探り状態での運用だ。

ボイジャー1号の調査で、末端衝撃波面の外側は予測とはかなり違うことが分かった。まずは磁気バブルだ。ヘリオポーズの内側には、直径1.5億kmもの巨大な磁気の泡が多数存在するのだ。ボイジャー1号が通過するのに100日かかるこの泡は、太陽の磁力と自転から生み出され、太陽系外からの宇宙線や星間分子に作用していると考えられているが、非常に弱い磁場のため、詳しいことが分かるにはまだ時間がかかるそうだ。

■よどんだ宇宙

さらに外側に進むと、太陽から発せられた太陽風と、太陽系外から吹き込む恒星風が入り交じった「よどみ領域」になる。太陽からおよそ170億km以遠のよどみ領域では、磁場が2倍、高エネルギー電子は100倍に急増する。地球近傍でさえ生命を脅かす宇宙線が100倍にもなれば人体への悪影響は避けられない。

太陽と星間磁場を結ぶ「磁気ハイウェー」も発見された。磁気ハイウェーは太陽系外から高エネルギー電子が流れ込む経路で、ほかの領域ではあらゆる方向に拡散していた荷電粒子が、整然と流れ込む様子が名前の由来だ。もしこの環境にさらされれば確実に危険だが、地球まで届かないのは太陽風のおかげだ。ありがとう太陽風。明日も元気に過ごせそうだ。

ヘリオポーズを超えると、そこには局所恒星間雲が待ち受けている。局所恒星間雲は直径およそ30光年で、太陽の表面温度に匹敵する5,700℃の水素とヘリウム原子で成り立つ高温で高密度の雲だ。予想よりも強い磁場を持つことが分かり、さらに磁場が強まると太陽圏が圧縮される。太陽系が小さくなれば惑星間も狭まるので、天王星や海王星も探査しやすくなるメリットがあるものの、地球に到達する宇宙線が増加するというから穏やかではない。

太陽系がこの雲を通過し終わるのは2万年ほど先というから、ヘリオポーズを超えたボイジャー1号が影響を受けるのは確実だ。探査を終えた後は太陽系を離れ、恒星間空間に地球のメッセージを運ぶのもボイジャーのミッションだが、5,700℃の高密度空間で燃え尽きてしまわないのか、興味深いところである。

■まとめ

ボイジャー1号の設計寿命は4~5年だったと聞く。20年以上前に寿命を迎えているはずだから何が起きても不思議ではないのだが、耐久性は予想をはるかに超えたため探査が継続している。電源に使われているのは原子力電池で、出力が低下しながらも2020年まで稼働し、約224億4,000km先まで飛行すると見込まれている。1970年代の技術や恐るべしだ。

その後も宇宙を飛び続けるボイジャーが旅を終えるのは、知的生命に出会った時だ。地球の情報と異星人へのメッセージが収められた「ゴールドディスク」が役立つことを期待しよう。

(関口 寿/ガリレオワークス)

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