今年1月14に発生した爆弾低気圧。積雪は首都圏を大混乱に陥れたが、竜巻が発生しなかったのは不幸中の幸いだった。
もしも竜巻に遭遇したらどうなるのか?時速100kmを超える風速、自動車も舞い上げる上昇気流は、幅数kmに渡って地上を破壊し尽す。秒速25mで移動する竜巻からは、逃げ切ることすら不可能だ。
■幅4kmのバリカン
竜巻は、地上から上空へ向かう渦巻(うずまき)状の上昇気流だ。基本構造は台風に似ているが、直径数10m、移動距離も数100m程度が標準的で、短時間に狭い範囲で活動するのが特徴だ。風速/移動速度ともに台風よりも強力なものが多く、小型というより凝縮された台風と考えるべきだろう。
発生メカニズムも台風に似て、急激な温度や気圧の変化が引き金となる。おもな原因は1.台風に伴って発生2.低気圧や前線の影響3.寒気の流入だ。日本では、北極の寒気と南方の暖気が直接衝突することは少なく、また上空を流れる偏西風に影響するほど大きな山脈がないので、強力な竜巻は発生しにくいのだが、爆弾低気圧は集中豪雨や降雪とともに、竜巻を発生するケースが多いのだ。
日本の竜巻発生数は年間およそ17個で、台風の起きやすい7~10月は月に6~8個、寒い1~2月でも約1個/月ほど発生している。対してアメリカでは年間約1,300個も発生する。北極からの寒気団とカリブ海からの暖気団が衝突するオクラホマ州付近は竜巻の頻発地帯となっているためである。17対1,300では圧倒的に少なく感じるかもしれないが、同じ面積で比べればアメリカの3分の1程度だから、日本の竜巻も決して少なくない。
日本のおもな竜巻被害を挙げると、1999年9月に愛知で起きた住宅全壊40軒、半壊309軒、負傷者415人が最大だ。Fスケール3(秒速70~92m)の風と記録されており、死者が出ても不思議ではなかった。
アメリカ最大は、2011年5月にミズーリ、イリノイ、インディアナの3州をまたがって移動した竜巻だ。352kmを移動しながら死者695人を出した。Fスケール5(秒速117~142m)と記録され、時速500km/時以上の風速では、住宅はおろか自動車や列車も宙を舞う。ギネス世界記録にも認定された世界最強の竜巻でもある。
2004年5月にネブラスカ州ハラムで起きた竜巻では、幅4kmにも及ぶ範囲が被害を受け、非常事態が宣言された。空から見れば、芝刈り機かバリカンで刈られたように見えるだろう。もし竜巻の直下にいたら2km以上逃げる必要があるが、「不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)」第15条第11号」によると、駅から○○分の表示は毎分80mを基準にしているそうだから、徒歩なら25分かかる。ゆっくりしたジョギングが時速10km程度だからこれでも12分かかり、助かるか微妙な時間だ。
竜巻の世界記録はアメリカ中西部に集中している。もしそこに住むなら、毎日ジョギングして身体を鍛えておくのが先決のようだ。
■低気圧の次は高気圧
短時間で狭い範囲に集中する竜巻は、見つけしだい逃げるしかない。前兆は、
・真っ黒い雲が近づき、急に暗くなる
・雷鳴や雷光
・冷たい風が吹く
・大粒の雨やひょうが降る
だから、察知したらすぐに建物内に逃げ込むのが賢明だ。ドアや窓が開いていると突風が吹き込み、風圧で屋根が飛ばされるから戸締まりは確実にし、地震と同様にテーブルなどの下にもぐるのが基本だ。屋外では建造物の物陰で身をひそめるしかない。物置やプレハブ、電柱や樹木の近くでは、一緒に吹き飛ばされたり下敷きになる可能性が高く、かえって身を危険にさらすことになる。
竜巻が弱まっても安心してはいけない。スーパーセルと呼ばれる積乱雲は、竜巻以外にも、ダウンバーストやガストフロントと呼ばれる現象を引き起こすからだ。
ダウンバーストは竜巻とは逆の下向きの突風で、積乱雲中の水滴によって押し出された空気の流れだ。熱エネルギーとともに上昇する力を失い、地球の引力に引かれて落ちてくるダウンバーストは局所的な高気圧となり、木々を倒し、離着陸中の航空機の墜落事故さえ起こすのだ。そのダウンバーストが地上近くで暖気と衝突すると、小さな前線・ガストフロントを発生する。そこでは再度上昇気流が発生し、局所的な低気圧が生み出される。
低気圧なのか高気圧なのか、はっきりしてもらいたい。
■まとめ
日本では年間0.58人、アメリカでは54.6人が竜巻の犠牲となっている。ほとんどは飛ばされた破片による被害という。Fスケール3なら風速は250km/時を超え、小石が凶器と化す世界ではあらがうすべもない。
なかには強運の持ち主もいて、竜巻で398m飛ばされながらも軽い傷だけで済んだ人がギネス世界記録に登録されていた。どんな様子だったのか知りたいが、意識を失っていたそうで、感想を聞けないのは残念だ。
(関口 寿/ガリレオワークス)