猛暑が続いたこの夏、西日本では平年の2倍の雷が観測された。空気を引き裂くようなごう音と閃光(せんこう)を見るたびに、自然の偉大さと脅威を感じる。
もしもカミナリに打たれたらどうなるか?高確率で死に至るのはご存じのとおりだが、やけど、壊死(えし)、内臓破裂で凄惨な死を遂げる。直撃を免れても、近くにいるだけで分岐雷と爆風で深刻なダメージを負うことになる。
■10兆ワットの電池
雷は上昇気流によって生じた雲から発生する。雲は、雲粒(うんりゅう)とよばれる直径0.02mmほどの水滴や氷(氷晶)が主成分で、直径2mm以上の雨やあられも混在している。暖気と冷気が入りまじる内部では、雲粒と雨/あられがぶつかり合い、摩擦で電気エネルギーが発生する。
雲粒はプラスに、雨/あられはマイナスに、逆のエネルギーを帯びる。
雲粒と雨/あられにはクーロン力が働き、磁石のN/S極のように引かれあうので、放っておけば電気エネルギーを打ち消しあいゼロになる。自演乙。しかし、軽い雲粒は上昇気流に乗って上方に、重い雨/あられは雲底(うんてい)へと分離する。
両極に分かれた雲は、巨大な電池へと生まれ変わるのだ。
電気エネルギーを蓄えた雷雲は、その矛先を地表へと向ける。まず、マイナスに帯電した雲底が、静電誘導によって直下の地表をプラスに帯電させる。次に雲底から地表に向けて電子が飛び出す。空気分子と衝突しながら電子は高温高密度のプラズマを生じ、ステップトリーダと呼ばれる光の道を作りだす。
弱い閃光(せんこう)を放ちながら地表へと向かうが、真下に向かうとは限らない。空気は電気抵抗が大きく、雷にとって非常に流れにくい場所だからだ。目安として1mm飛ぶのに3,000Vが必要となるので、温度/湿度の条件がよく流れやすい経路を選びながら進む。
場合によっては枝分かれし、どこに落ちるかは雷のみぞ知る。
ステップトリーダが地上100メートルほどに達すると、地表からプラスの電荷が飛び出しストリーマが生じる。まるでステップトリーダの到着を待ちきれず迎えにゆくように。やっと出会えた両者は雷雲と地表を結ぶ架け橋となり、強い閃光(せんこう)をともなった主雷撃を導く。
規模にもよるが、1億ボルト、10万アンペア、10兆ワットが相場だ。
手間、燃料、排気なしの三拍子そろった雷発電は、発生から百万分の1秒でピークを迎え、百万分の80秒で生涯を終える。10兆ワットの響きとは裏腹に、究極の一発屋で終わる。そのため充電には不向きで、たとえ利用できても300kwh程度、平均世帯一か月分の電力量にしかならないらしい。
そもそもどこに落ちるかわからないので利用しようがない。
■1,000アンペアの脅威
人体に与える影響はどうか?直流/交流を問わず身近なものをみてみると、市街地の電線が6,600V、静電気はおよそ10,000V、東海道新幹線が25,000V、発電所が500,000Vと、日常生活は高電圧で満ちあふれている。
昔、ガソリン車の点火回路(およそ15,000V)で感電したときはエアガンで撃たれたような痛みを感じたが、何の支障もなく過ごしている。電圧だけなら、人間は意外とタフにできているようだ。
問題は電流だ。1万ボルトに耐えられても、わずか数アンペアで死へと誘(いざな)う。ある実験によると、人体に流れる電流が0.01A(アンペア)を超えると筋肉の自由が利かなくなり、払いのけられることができないという。
映画やドラマで、けいれんしながら感電し続けるシーンを見るが、まさにその状態に陥るのだ。
人間の電気抵抗は、内部が300オーム、皮膚は1平方センチあたり1万~10万オームで、乾燥ぐあいによって大きく変わる。たとえ最大の10万オームでも、1億ボルトが加わると単純計算で1,000アンペア(=1億ボルト÷10万オーム)流れる。
0.01Aを致死量とすれば10万倍。苦しまずに済むなら感謝すべきかもしれない。
雷が直撃すると、ジュール熱によるやけどや電流斑(はん)が生じ、抵抗の大きい皮膚のまわりを伝わって植物の根のような電紋(もん)が残る。上半身に被雷すると脳/心臓にダメージを与え、致死率は一気にアップする。
からだがぬれていれば、蒸発した水分が爆風と化し、衝撃波は内臓破裂や頭がい骨骨折など体内を破壊する。
たとえ直撃しなくても、近くにいれば側撃(そくげき)は免れない。直撃した人から放たれる分岐雷に打たれ、爆風で吹き飛ばされ、踏んだりけったりの死にざまとなる。これが、人生というものであったのか?よし!それならもう一度!
■まとめ
稲妻の文字通り、古来・日本では、雷は生物の成長をうながすと考えられていた。現代ではシイタケ栽培に利用され、高電圧を与えると大きく育つという。
太古の地球では、雷がアンモニアやメタンをアミノ酸へと変え、生命を創り出した。稲妻こそが我が母となるのだが、あまり仲良くするのはやめておこう。1億ボルトの抱擁(ほうよう)で吹き飛ばされるのは、できれば避けたいものだ。
(関口 寿/ガリレオワークス)