とある夏の日の朝8時前、私こと
守宮は息を切らしながら、ネットフレンド兼今回のサバイバルゲーム案内人であるヨッシー(仮名)の家の前に集合していた。
「なんで出発してないのに息が切れてんだ!!」
ヨッシーの的確な突っ込みである。しかしこれは仕方のないことなのだ。
「私の家からココまで自転車で30分……ゼェゼェ、張り切った結果がこれです。ゲホゲホ」
「車使えや!!」
汗だくの私を見てヨッシーさんが半ば半ギレで口を挟む。
「はっ、この家のどこに駐車場が? なんですか、私に街中の有料駐車場の鴨になれと?」
1時間150円? ヘヘッなめてやがるぜ。
「じゃあ原付は?」
「何それ、おいしいの?」
原付買う金なんて無いんだぜ、ヘヘッ。
「これじゃあ先が思いやられる……」
ヨッシーさんにやれやれと呆れられてしまったようだ。許せ、私は貧乏なのだ。しかしそれにしてもどうやら彼は私を完全になめきってるご様子……。仕方がないが本気を見せるしかないようだ。ちょっと昔のヤバイ経歴でも引張りだしてきてビビらせてやるぜ。
「おい、6年間帰宅部の俺を……あまり……なめるなよ?」
「なめる以外の要素がみあたらねな」
くそ、だまされなかったか。そんな下らない会話をしている間にもう一人の参加者、ジャックさん(仮名)が到着した。
「おはよー……って、やもりん何してんの?」
「ちょっと息切れのため深呼吸を、ゼエゼエ」
「そ、そうなんや……」
そう言いながら苦笑いのジャックさんは担いできたギターケースを地面に下ろした。今からサバイバルゲームに行こうというのに明らかに不釣合いな荷物、怪しすぎるので。
「何故ギターなんかもってきたんです?」
と、いかにも興味津々と言った様子で聞いてみた。
「開けてみ」
そう快く許可を得たので中身を拝見。すると中には70cmほどの黒光りする銃がはいっていた。それを見た私は衝撃をうけた。いままで目にした事のあるエアガンはすべて祭りの夜店によくある拳銃型の小型のものばかりだった。しかし今、目の前にあるのはアクション映画などでよく見る巨大な銃だ。
「エアガン?」
「うん、正確には電動ガン【①】、バッテリーが中に入っててモータ駆動で連射ができるんや」
興奮した私にジャックのやさいしい説明は耳に入らず、思わず持ってもいいですか? という質問をする。すると快く承諾をもらえたのでさっそく持足せていただくことになった。
「重い!!」
それが初めて持った時の感想でだった。所詮おもちゃと思っていたが、この重量感、質感ともにただ一括りに、おもちゃの銃で表される代物ではない。私は銃についているグリップを握り、アクション映画をまねて電動ガンを壁に向け構えてみた。
「ジャックさん、この銃はアメリカのM4アサルトライフル【②】ですよね?」
少しドヤッという顔をしながらジャックさんに質問してみる。私は戦争のゲームをよくプレイするので、この銃の名前には心当たりがあったのだ。
「それ、シグ【SIG SG 552】【③】っていう銃なんやけど……」
少し困った顔をしてこちらを見るジャックさん、許してください。
私には同じにみえました。ジャックさんとそんなやりとりをする中でふと疑問が1つ。
「なんでこんな電動ガンを所持してるんです?」
借りた電動ガンをギターケースに戻しながら聞いてみる。するとジャックさんは少し驚いた様子で。
「あれ、やもりん知らんかった? 僕、ヨッシーと1年前からサバゲーやってるんや」
これは初耳だった。こんなおっとりした性格のジャックさんがサバイバルゲームをやっているなんて考えたこともなかったのだ。
「と言う事は、ヨッシーさんもこんな電動ガンを?」
流れで聞いてみると。
「もちろん」
と言って、こちらはエアガン専用のケースを車から引っ張り出してきて、手馴れた手つきでエアガンを取り出した。形はジャックさんのエアガンと少し似ていて、黒い色で大きさもほぼ同じです。私は戦争のゲームをよくプレイするのでこの銃の名前には今度こそ心当たりがありました。
「今度こそアメリカのM4アサルトライフルだな」
ドヤッと言う顔でヨッシーさんの顔を見た。今度こそ間違いありません。ゲームで見たのと同じ形をしていますから。
「これはG36【H&K G36】【④】ドイツのアサルトライフル……」
違いがわかりません。
「全部同じエアガンにみえます」
つい本音を言ってみると、ヨッシーは少しむっとした顔になり。
「お前な!! それの言葉はシャア専用ザク【⑤】とザク【⑥】を一緒と言ってるのと同じだぞ」
ヨッシーさんの一言でことの重大さに気づいた。全世界のガンマニアの皆様申し訳ありません。だって素人からみたら同じに見えるんです。
それから少し雑談をした私たちは、ヨッシーさんの車に荷物を積み、出発の準備をすることに。その時私は2人の荷物を積むのを手伝いながら、だんだん本当に私のような新参者がサバイバルゲームに参加してもいいのかと心配になってきた。私以外の2人はかなり本格的な装備をして経験もあるのに、私ときたらエアガンどころかまともな知識さえないのだ。一応装備はヨッシーさんが貸してくれる約束なのですが。初心者が一人というのは寂しいものだ。
「ほんとに大丈夫でしょうか……」
ため息混じりにそんなことを呟くと。
「心配するな
守宮、実は今日もう一人初心者が来る」
「本当ですか!!」
そう言ったヨッシーさんの言葉に驚いて思わず大きな声を出す私。
「ああ、高校時代の友人が前から参加したいと言っててな、ちょうどいい機会だと思って」
それは嬉しい知らせだ。何事も初心者1人は寂しいですから。私たちが車に荷物を積み終わったちょうどその時、原付に乗ってめがねをかけた細身の男性がやってきた。彼はまずヨッシーさんと挨拶を交わすとこちらを向いて「どうも」と頭を下げた。
「
吉本の同級生で
山田っていいます。よろしく!!」
「こんにちはジャックです」
「始めまして、守宮です」
私とジャックさんは挨拶を交わし、山田さんと少しの間談笑。その後4人でヨッシーさんの車に乗り込んだ。山田さんとジャックさんは後部座席に私は助手席に座る。するとどうだろう私の目のガラスには若葉マークが貼ってあった。
「あれ、ヨッシーさん免許取ったの最近ですか?」
まあ大丈夫だと思いますが少し心配になってきた。
「ああ、1週間前だ」
「「「えっ……」」」
3人が一斉ににヨッシーさんの方を見ます。
「えっと……今からいくとこどこでした?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「高速乗って30分。隣の××市の北にある山の中の私有地だぜ」
「「「高速……だと……」」」
私たち3人の声が重なった。免許所得1週間の人間が運転する車で、高速ドライブはスリル満点だ。
「なんだお前ら、大丈夫だって、俺の運転にかかればイチコロだぜ」
「ヨッシー、それ死んでるから……」
ジャックさんのツッコミを無視して自慢げにシートベルトを締めるヨッシーさん。不安ので震える我々。
「心配するなって、カーナビあるから道には迷わない」
陽気に笑うヨッシーさん。私たちが心配してるのは、そこじゃありません。
「全員シートベルト締めたか?」
ヨッシーさんの質問に元気なく返事する我々、後ろを見てみるとジャックさんは不安そうな顔をしている。一方山田さんの方は死にそうな顔をしている。
「じゃあ行くぞ、発進!!」
ヨッシーさんの掛け声とともに----全力で後退する車。
「おっと、ギアをミスった。」
「「馬鹿野郎!!こんな車乗ってられるか!!」」
我慢の限界だ。この若さで死にたくない、私と山田さんはシートベルトを外し、緊急脱出の準備をした。
「やもりん、山田さん、落ち着いて!!」
緩やかに前進を始めた車から飛び降りようとする私と山田さんを押さえつけるジャックさん、一生のお願いです放してください。
そんな騒ぎの中、私たち3人のデスドライブが幕を開けたのだった。