渡部真【勝手気ままに】vol.9「隣りの記者が不当に排除されている」(3/3)
2012/09/27 Thu. 20:02 [edit]
週刊 石のスープ
定期号[2012年9月26日号/通巻No.42]
今号の執筆担当:渡部真
「隣りの記者が不当に排除されている」(3/3)
■別の記者が不当に排除されても、知らん顔の記者達
民主党政権発足、政府主導による会見開放、それに反発した記者クラブによる不当な取材規制、陸山会事件と検察庁の不当捜査発覚と震災などによる大手メディへの不信の蔓延、それに反してフリージャーナリスト達への関心の高まり、会見開放を求める会、自由報道協会、さらに一度は開放された会見開放の機運の逆行……そんな事があったこの3年間だ。
僕は民主党政権なんてちっとも評価していないが、この政権の数少ない成果の一つは、多くの官庁の記者会見を不十分ながら開放した事だ。
でもよく考えてほしい。報道に関するルールに関して、記者や報道機関自らが解決すべき問題であるのに、権力機構側が調整する形で解決してしまったのだ。
いくつかの会見現場で開放に関する交渉があると、熱くなったフリーと冷ややかな幹事社が揉め、その間に入った官僚や政治家が「こいつら、しょうがねえなぁ〜。学級崩壊の教室かっ!」って顔をして、調整役をしていた(もちろん、中には積極的に開放したクラブもあったが)。昨日の原子力規制委員会でも、委員長も広報担当者も「むしろ皆さんが考えて……」という主旨の発言をし、少し呆れたような顔になる。
こんな時、僕は、いつも悔しい思いをする。自分では解決できず、権力に調整させている自分自身の力のなさに。それでも知らんぷりして他人事の記者達に。
フリーランスの記者仲間からは「渡部さんは、記者クラブメディアの人達に媚びている」と批判される。それでも、僕は権力側に頼るくらいなら、記者クラブの人達を頼りたい。彼らは、ある意味では商売敵だけども、権力を監視するという立場からすれば、同じ方向を向いているはずだからだ。
記者クラブにもっとも影響力のある日本新聞協会は、2002年に発表した「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(2006年改訂)のなかで、こう示している。
「新たなメディアからの記者クラブへの加盟申請や記者会見への出席要請に対して、報道という公共的な目的を共有し、報道倫理を堅持する報道機関、記者クラブの意義・役割を理解・尊重し、運営に責任を負う報道機関には、クラブは『開かれた存在』であり続ける」
要するに、記者クラブそのものをオープン化するべきだという見解だ。
[参考]記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解
http://www.pressnet.or.jp/statement/report/060309_15.html
また、新聞記者の多くが所属している新聞労連は、2010年に「記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜」という声明を発表した。
「まず、記者クラブに所属していない取材者にとってニーズが強く、記者クラブ側にとっても取り組みやすいと思われる記者会見の全面開放をただちに進めることから始めましょう」
「そもそも報道の自由は知る権利に奉仕するためにあり、市民の信頼があって初めて成り立ちます。市民の信頼がなければ、公権力による報道規制や表現の自由を制約する動きに対抗することもできません」
「私たち新聞人一人ひとりがジャーナリスト個人としてのあり方を見つめ直すことが重要であることを確認したうえで、確実に記者クラブ改革を実行するための手引きを提示します」
そして、「実行のための手引き」をこう示している。(項目のみ)
(1)記者会見への参加を拒んでいませんか?
(2)記者会見の開放に抵抗していませんか?
(3)記者クラブ員以外の質問を阻んでいませんか?
(4)記者クラブへの加入を阻んでいませんか?
(5)記者クラブ内で不当な制裁を科していませんか?
(6)取材センターに開放スペースがありますか?
(7)取材センターの経費負担に努めていますか?
(8)まずは規約を読み、議論してみませんか?
まぁ、この手引きもある意味すごい。「他記者の質問を拒んでないか?」「クラブ内で不当な制裁を科していないか?」とあるが、そういう実態があるからこそ、この手引きを示しているわけだ。事実、「記者クラブの出入り禁止」という事態は、過去、色んな記者クラブで行なわれてきた「不当な制裁」だ。恐ろしい負の歴史と認識した方がいい。
[参考][参考]記者会見の全面開放宣言〜記者クラブ改革へ踏み出そう〜
http://www.shinbunroren.or.jp/seimei/100304.htm
新聞労連の宣言と同じ年の5月、「記者会見・記者室の完全開放を求める会」は、新聞協会と民放連に加盟するすべての報道機関に、会見開放に関する申し入れを行なった。報道局長、制作局長などから得たそれらの回答によると、回答した多くの新聞社、テレビ局の責任者は、会見開放に前向きな立場である。
[参考]記者会見・記者室の開放に関する報道各社への申し入れ結果について
http://kaikennow.blog110.fc2.com/blog-entry-16.html
ところが、未だに記者会見は不十分にしか開放されていない。
新聞協会が、新聞労連が、報道機関の責任者が、それぞれ会見開放に前向きな見解を示していても、取材現場では、不当に排除されている記者がいて、それに対して知らん顔をして、会社の業務をこなしている記者達ばかりだ。
僕は、民主主義を冒涜するような権力機構の行為を絶対に許したくない。
僕とは関係ない記者会見で、僕とは関係ない記者が、僕とは関係ない理由で排除さえていたとしても、見て見ぬ振りをする気になんて絶対になれない。
ましてや、隣りにいる記者が不当な扱いを受けていて、どうして黙っていられようか。
でも、椅子以下の存在の記者達が、どんなに怒りをぶちまけても、まったく気がつかない記者達がいる。
■一緒に行動を起こしましょう
2011年1月、畠山さんが総務省記者クラブから不当な取材規制を受けたことがあった。それを受けて、高田昌幸さん(現在・高知新聞記者)が、こんなブログを書いた。
「おそらく、あちこちの記者クラブでこんな言葉が交わされているのだと思う。そういう人に言いたい。新聞協会の『見解』に基づくなら、記者クラブは記者の「個人組織」である。記者個人としての意見・態度を表明できないのなら、そんな商売、やめてしまえ。『やらない理由』を一生懸命に述べるのは、保守化・官僚化が極まった組織の常ではあるが、それにしても、ひどすぎないか。
(中略)
本気でそれを成す為に行動すべきだ。『考えている』という言葉を弄び、良心派を装うことの罪の重さを思うべきだ。最近は何も活動できていないので申し訳ない限りだが、会見開放の会を立ち上げる時、それへの賛同を呼び掛けると、「この人なら」と思った既存メディアの『良心派』の記者たちが何人も、『行動はできない』『陰で応援する』といってきた。『陰で』など、応援にならない」
[参考]ニュースの現場で考えること
http://newsnews.exblog.jp/15717971/
今回、原子力規制委員会が「しんぶん赤旗」の会見参加を拒否した問題で、毎日新聞の斗ヶ沢秀俊記者や、東京新聞の佐藤圭記者が、こんなつぶやきをしている。
〈斗ヶ沢記者のTwitterより〉
出席を認めるべきだと考えます。情報公開に積極的でない規制委員会の姿勢を変えるべく、組織、フリーランスを問わず、ジャーナリストが一致して追及すべきだと思います。
https://twitter.com/hidetoga/status/251225345297100800
〈佐藤記者のTwitterより〉
私は保安院の会見に出たことがないので分からないが、知り合いの記者によれば、赤旗記者も参加していたとのこと。保安院時代と対応を変えたのであれば、問答無用で「けしからん」だ。もし赤旗が保安院時代、会見に参加していなかったとしても、規制委が前例踏襲でいいのか。赤旗は原発事故報道などで、それこそ十二分の実績がある。
https://twitter.com/tokyo_satokei/status/250896912088190976
高田さんを含め、大手新聞のベテラン記者のなかで、ハッキリと行政の間違いを指摘する人たちはいる。
しかし、残念ながら、現場の若い記者からは、ほとんど意見が聞こえてこない。
一部の会見開放に消極的な報道機関の記者なら、組織のしがらみで自由に発言できないのかもしれないが、「会見開放の会」の申し入れに回答してきた社の記者なら、もう少し自由に発言できる環境にあるだろう。
全国の新聞、テレビ、雑誌の社員記者の、とくに記者クラブに常駐している記者の皆さんーー
そろそろ、一緒になって、もっと積極的に具体的に行動しませんか?
前述したように、「政党機関紙だから」「実績がないから」「雑協に入ってないから」と、権力機構が勝手に判断し、不当に排除される。こんな事が、同じ取材現場でずっと起き続けてるんです。
これが日本の民主主義の実態です。
民主主義国家の報道機関が、あるいは報道に携わる人間が、本来、果たすべき役割とは何なんでしょうか?
組織から与えられた業務だけで、後は知らんぷりで、いいんでしょうか?
僕は違うと思います。
一人ひとりが積極的に行動すべきだと思います。
ぜひ、よろしくお願いします。
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渋井哲也、渡部真と、ジャーナリストの村上和巳さんの3人が、これまで東日本大震災で未だに記事に出来なかった様々なルポを約35篇書き下ろしました!
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渡部真 わたべ・まこと
1967年、東京都生まれ。広告制作会社を経て、フリーランス編集者・ライターとなる。下町文化、映画、教育問題など、幅広い分野で取材を続け、編集中心に、執筆、撮影、デザインとプリプレス全般において様々な活動を展開。東日本大震災以降、東北各地で取材活動を続けている。
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