【特別寄稿】転載禁止騒動と「まとめサイト」の未来 - 小寺信良

BLOGOS編集部

2012年06月06日 15:09



 匿名掲示板「2ちゃんねる」がまとめサイト5つに対し、2chの著作物の利用を禁止する警告文を掲載した。事実上転載行為を禁止するものである。

 今回の警告の特徴は、具体的にURLを掲載したばかりでなく、本人および関係者による類似サイトへの利用も禁止したことだ。通常著作物の利用ルールは、条件を提示してそれ以外はどの利用者に対しても同じルールを適用するものだが、今回は特定の5サイトというだけでなく、「本人及び関係者による類似サイトへの著作物の利用も同様に禁止」という文面も添えて、サイト運営者およびその一味という「人」に対して名指しで利用を禁止するという、珍しい事例と言えるだろう。

 この5者に限定した理由としては、警告文にあるように「第3者に迷惑をかけ謝罪しない人物に2chの著作物を使われることは、不利益が大きい」ということのようだ。具体的には、発言を恣意的に編集して事実ではない方向へ読み手を誘導した結果、無関係な人が炎上に巻き込まれるなどの被害が出たが、サイト運営者は謝罪するでもなく、風向きが悪くなると黙って記事を削除して沈静化を図るといったことが繰り返されたことに対し、2ちゃんねる管理者が「しおどき」と判断したということである。

 2ちゃんねるが抱える問題の全容は、複数の事案が複雑に絡み合っており、とても一傍観者たる筆者の手に負えるものではない。そこで今回の事案に限り、普通の人から見たらこういう風に見える、という視点でまとめて見ようと思う。

1. ひろゆき氏はやっぱり未だに管理人なのか

 まずこの決定を下した2ちゃんねるの管理者であるが、これは今も西村ひろゆき氏ということでいいのだろうか。ひろゆき氏は以前から、シンガポールの企業に運営権限を委譲し、2ちゃんねるの運営からは手を引いたことになっていた。

 しかし今年5月には、薬物取引をほう助したという疑いでホットラインセンターからの削除依頼を無視したと言われている件で、ひろゆき氏本人が警察からの削除依頼について、自身のブログで発言している。これは、自ら未だ管理運営に関わっていることを認めたと見なすことができるだろう。

 今回の警告文も、ひろゆき氏自身が掲載したものだと言われており、過去あるスレッドでこの5者に絞り込んだ経緯もまとめられている。やはり同氏が2ちゃんねるの運営方針について、決定権を持っているという理解でいいのだろうか。

2. なぜこのタイミングなのか

 薬物取引の一件では、削除人と言われるボランティア宅への家宅捜索なども行なわれており、警察もこのまま手ぶらで引き下がるとも思えない。2ちゃんねるの構造解析も進み、管理責任を誰に問えばいいのかが焦点になる。あの一件から1ヶ月程度しか経過していない今、なぜひろゆき氏が管理人権限を使ってここで動きを見せたのか、その経緯がよく分からない。

 しかも、こう言っては被害者の方には大変申し訳ないが、名誉毀損や炎上などは所詮民事であり、薬物取引のような犯罪からすれば程度の軽い問題である。なぜこれを今処理する必要があったのか。

3. 「著作物の利用禁止」は妥当か

 2ちゃんねるの掲示板ログは、一般的な著作物という概念ではなかなか理解し辛いものである。例えば2ちゃんねるの発言がすべてオリジナルか、元々2ちゃんねる内で発祥した言い回しのコピペであれば、そのログも著作物と言えるが、実際にはログ内にも他者の著作物である文章が引用の形式を取られることもなく使用されている。

 他者の著作物の無断利用が大量に含まれたログの著作権を主張するのは、無理があるのではないか。もちろん、2ちゃんねるのスレッドには様々な形があり、中にはオリジナルと呼んでいいものも存在するはずなので、一概には言えないところではある。

 そもそも著作物と見なせるものであれば、普通は二次利用に関してのガイドラインがあるものだ。2ちゃんねるのログの情報検索に関しては、2003年に株式会社ガーラが独占商用利用許諾を取得している。一方でこれまで2ちゃんねるまとめサイトが多数存在してきたことからわかるように、2ちゃんねるはそれ以外の者がログを二次利用する際のガイドラインがないか、あっても外部からは参照できず、事実上機能していないのではないか。

■「編集する」という行為の責任

 まあ一般的には、著作物の無断転載をよしとするのであれば、クリエイティブ・コモンズによる意志表示を掲載するなどの行為が必要で、それがない場合は無断転載はNGと考えるのが普通である。

 今回の騒動以前にも、まとめサイトがアフィリエイトで膨大な利益を得ていることが問題となり、書き手が自主的に転載禁止板へ移動したり、アフィリエイトフリーのまとめサイトを運営したりといった対抗策がとられたことがある。しかし、現在も500を越えるまとめサイトが無断転載をベースにしており、2ちゃんねる側がこれを放置、あるいは知っていて見逃すという行為により、独自の著作物エコシステムを構築してきたとも言える。

 おそらくこのシステムは、そう簡単にはなくならないだろう。そしてこのエコシステムの中から、他人に迷惑をかける常習であるという理由から、5者がはじき出されたというように見える。

 対象の5者でまとめサイトシェアはおよそ20%程度と言われており、有象無象のサイトの中では比較的大手と言っていい。これらのサイトが事実上2ちゃんねるまとめサイトとしては消えることになれば、またそれなりの地殻変動は起きるだろう。

 そもそも嫌儲騒動の時も、他人の発言で利益を得ることに不快感は示しつつも、実際まとめられると2ちゃんねる利用者側も便利だ、として、まとめサイトの有用性自体は認める者もいた。2ちゃんねるのログは日々成長して流れていくものであり、一晩見なかったらスレッドが過去ログ倉庫入りして話が分からなくなるケースもある。これに対して、ログを固定し、整理するという編集行為そのものは、必要の中から産まれたものである。

 今回の騒動でわかったことは、これらまとめサイトのほうが、2ちゃんねる本体よりも、ソーシャルネットワークの中で影響力を持ち始めたという事である。多くの人は、2ちゃんねるの生ログを見るよりも、まとめられたものを好む。従って、恣意的な編集やねつ造、デマがまとめサイトに上がっても、それを検証するというプロセスを誰もがめんどくさがってやらなくなった。

 さらに物販サイトのユーザーレビューなどで皆さんも経験済みだと思うが、多くの人が同じ方向を示している場合、人はそれが真理だと思ってしまう。まとめサイトで語られていることもその性質上、同じ効果が現われる。従ってデマであっても安易にツイッターなどで拡散し、炎上被害がより増大したと考えられる。

 実は多くの人の意見を編集するという行為は、非常にデリケートな作業なのだ。だがそれがエンタテイメント性を追求するあまり、ないものをあるように作り上げてしまう。その方が面白いからだ。ウケさえすればビューが伸びて儲かるという収益構造も、それを助長させる。

 筆者はテレビ番組の編集を過去18年ほど生業としてきたが、常にこの感情との葛藤があったので、よくわかる。テレビも定期的にヤラセ、ねつ造問題が発覚するが、編集とは理念がブレると、簡単にダークサイドに転んでしまう作業なのである。

 まとめサイトの管理人に、プロ意識を求めるのは無理だろう。彼らは一般人であり、訓練を受けた編集者ではない。また複数人が内容をチェックするような体勢でもない。

 結局、2ちゃんねるからも切られるような「人」の問題なのだとすれば、これらの5サイトはまた別の問題を引き起こすのではないかという懸念もある。特に著作権や運用規定に対してルーズな方法が染みついてしまっているとあっては、おそらく2ちゃんねる以外のメディアに対しても同じような騒動を起こすかもしれない。

 現在各サイトは、大人しくこの禁止措置を受け入れているようである。裁判沙汰になることなく、たった一言で静粛が完了するあたりは、さすが2ちゃんねるといったところである。

 なお筆者の次号のメルマガで、この問題をもう少し細かく検証してみる予定だ。

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