3月4日から13日までの間、シンガポールで開催されていたTPP交渉会合の中で飛び出した、米国側の驚くべき発言が明らかになった。
14日、この会合に米国NGO「Public Citizen(http://www.citizen.org/)」のメンバーの1人として参加した内田聖子氏(アジア太平洋資料センター 事務局長)が岩上安見の緊急インタビューに答えて、その内幕を赤裸々に語った。
※NPO法人 アジア太平洋資料センター(PARC)http://www.parc-jp.org/
TPPの問題に関しては、IWJはこれまで、数多くのインタビューや院内集会、抗議行動などを取材してきている。【特集ページ:IWJが追ったTPP問題】(http://iwj.co.jp/wj/open/tpp)
明日15日にも、安部晋三総理がTPP交渉参加を発表すると報道されている今だからこそ、この内田氏へのインタビューを通して、米国側の意志とそれに迎合する日本政府との異常な構図をはっきりと再確認してもらいたい。
※掲載期間終了後は、会員限定記事となります。
■ 以下、インタビュー実況ツイートのまとめに加筆・訂正をしたものを掲載します。
◇ 完全に秘密裏に行われる第16回TPP交渉会議
内田聖子事務局長(以下、敬称略)「TPP交渉は、今回で16回目です。私は今回初めて参加したので、これ以前の会合は見ていません。開催は、シンガポールの超高層高級ホテルで、参加者は11カ国の交渉担当官と、企業やNGOなどのステークホルダー、総勢約600名。
米国やカナダ、オーストラリアなどの国は参加人数が多いが、ベトナムやブルネイは少ない。この時点で力の差がついています。
会期は3月4日~13日。私は『Public Citizen』のメンバーとして入りました。交渉は全部秘密で、これがTPPの一番の問題だと思います。企業やNGOは、会議間の休み時間に交渉官とどれだけ接触できるかが勝負。
交渉内容で重要なものは、1.知財、2.環境、3.法的・制度的課題、4.金融サービス、5.投資、6.労働、7.市場アクセスなどです。しかし、知財に関しては今回あまり議論ができていないと聞いています。
マレーシアなどは、エイズ患者が比較的多い国です。日本でいう厚労相の立場の方が、公式上で、米国の知財に関しての提案を痛烈に批判している」
岩上安身「日本でも、実質の保険医療の縮小が始まりますね」
内田「ステークホルダー会議が、3月6日の1日だけ行われ、ここには、約70社・団体がブースを出展しました。出展した団体は、例えば、ナイキ、アディダス、米国商工会議所、TPPを推進する米国企業連合、カーギル、ウォールマート、Google、FedEx、タイム・ワーナー、Visaなどの多国籍大企業です。約70団体のうち、3分の2が企業で、残りがNGOです。
3月8日にレセプションがあり、私も参加しました。これは、なぜか米国の商工会議所が主催者で、完全に米国が好きにやっているという印象がありました。正直、NGOとしては居心地が悪かったです」
◇ TPPを白日の下にさらすドラキュラ作戦
内田「3月4日、米国研究製薬工業協会(PhRMA)が、各国交渉担当官宛に、「知財所有権のさらなる強い保護を求める要望書」を出しました。協会の加盟企業は、ファイザーやジョンソン&ジョンソンなどで、そこに、日本のエーザイや第一三共薬品などの在米日本企業支社も名を連ねています。大抵の日本企業は入っていたと思います。
日本は、まだTPP交渉に入っていないが、業界団体を通じて、間接的に自分たちの利益を伝えています。国民は何の情報も得ることができないのに。しかし、企業は違うのです」
岩上「特権的な一部の大企業だけがその内側を知っている、というおかしなことが起こっている」
内田「一方、NGOや市民団体は国際ロビーチームを形成し、常に定期的に会議を持ち、情報共有と戦略を議論しています。これは、日本のNGOが見習うべきところ。この人たちは、大変優れた方々で、例えば、行く前から、すべての交渉官の名前とメアドと専門分野を記載したリストが駆け巡る。事前にコンタクトもとるし、会議中は個別にアタックする。
すでにTPPに入ってしまった国のNGOも、日本のTPP参加を阻止することに非常に協力的でした。すごく心強かった。TPPの大問題は秘密であること。ですから、リークをバンバンする(=ドラキュラ作戦)。
私は、ステークホルダー会議後のカンファレンスで質問をしました。
『日本の参加を各国は受け入れるか?どんな影響があるか?』
『米国は日本に何を要求しているか?』と。
回答は『特別扱いはない』『参加表明をしたいかなる国に対しても、手続きを従うだけ』といったあまりにも建前的な回答でがっかりしました」
◇ 日本は韓米FTAを見習うべき
内田「交渉会合の中で、日本の参加は、米国企業側からさまざまな場面で触れられ、参加が前提になっている。日本の交渉官などいないのに。かなり屈辱的なことです。
『米国貿易緊急会議』のCalman Cohen氏は『日本が例外なしの関税撤廃に合意するなら参加指示』と言っている」
岩上「『例外なし』というのは、安部総理が言っている『聖域』のこと。安部総理は、国内と国外に対して違うレトリックを使っている。安部総理は、国民に対して明らかな嘘をついている!」
内田「もし安部総理が、こうした企業の発言を知らないのなら、相当な阿呆ですし、不見識です」
岩上「ですが、それは1000%ありえない。政府が知らないわけがない。しかし、国内に向けては甘いことを言っている」
内田「フォード社のプレゼンでは、トヨタ、ホンダ、日産などの名前をパワポに入れ、名指しで批判していた。米国自動車業界の発展にとって『日本は課題』と指摘している」
岩上「自由貿易ではなく、米国車の買い取りを要求している」
内田「レセプションを主催した米国商工会議所のTami Overby副会長は『日本は米国との間に、自動車、牛肉、保健分野での成果を見せなければならない』『日本はすでに牛肉については成果を達成してくれた』『韓米FTAを見習うべき』と述べました」
岩上「こういう公式の場においてしゃべるということは、もう常識になっているということ。いま米国の企業は、腹が減っている状態。韓国の富が食べられているが、次は日本」
■ 2013/02/21 「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える ~郭洋春氏(立教大学経済学部教授)緊急インタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/59749
◇ 日本は、すでに確定した項目について、いかなる修正や文言の変更も認められない
内田「3月11日、米国交渉担当官からリークした情報がシェアされた」
岩上「担当官が誰かは明かせないのですか?」
内田「はい。特定はできていますが。これは、米国の貿易担当官が、他国の交渉官に対して言ったことです。
『日本は、カナダとメキシコがTPPに参加するために強いられた、非礼であり、かつ不公正な条件と同内容を合意している』
英語の直訳なのですが、完了形の文章です。『合意している』と。続けます。
『事前に交渉テキストを見ることもできなければ、すでに確定した項目について、いかなる修正や文言の変更も認められない。新たな提案もできない』
また、9月の会合は、米国で開催され、議長国も米国になるため、異論や再交渉の要求があっても、押さえつけることが可能だ、とも言っています。9月の会合に参加したところで、日本は何が言えるのか。
今日の東京新聞を読みましたが、意見が分離している。一方では、聖域の保証なんてないと言っているが、他方では、『聖域確保決議』と書いている」
岩上「このあたりに東京新聞の腰砕けが出ている。しかし、(TPP報道において)読売、産経、日経は最悪」
◇ JAは解体してしまったほうがいい
内田「TPP問題で揺れていた間、JAには期待をしたり失望をしたりしました。JAは、表向きは反対しているが、一部は懐柔されてしまっているのではないかと思う(3月13日しんぶん赤旗の記事)。
一番胸を痛めるのは、昨日、自民党対策委員会総会が行われている自民党本部の外で、JA青年部が交渉参加反対の声を上げていた。この人たちは、何重にも裏切られている。ひどい。農家の人たちの人生がかかっているのに。
今朝の朝日新聞も見ましたが、農林水産省が、食料自給率より生産力に重点を置く、という見出しがあった(http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201303120890.html)。意味不明。日本の農水省は、農業・林業・水産業の省庁であることを放棄したと思います。
JAは、もともとは全国の一人ひとりの農業の利益を繁栄する利害組織ですが、そうではなくなっている」
岩上「解体してしまったほうがいいのではないか」
内田「これを機に、全面的に革命をしてもらいたい」
岩上「実は、JAは、我々の取材を一切受けないんです。JAの集会は、大手メディアは入れるが、IWJは排除される。この間、理解不能なことをされてきた。今まで露骨な批判をしなかったが、やはりJAはおかしい」
◇ 日米修好通商条約、日米安保条約、そしてTPPという3つの不平等条約
内田「日本政府は、ここまで言われていることをどこまで認識しているのか」
岩上「過去を振り返ってみないといけない。そうすると、日米修好通商条約という最初の不平等条約を脅されるようにして結んだときも、似たような内容があった。
まずこのときは、関税自主権を放棄させられている。しかし、向こう側には特許が認められている。と同時に、『欧州列強との間で揉めごとが起こったときは、米国が間に入ってあげるよ』と言ってきていた。つまり、この条約にはTPPの要素と安保の要素が入っていた。そして、一言の直しも認められず、サインするしかなかった。
このとき、勅許をとらなかったことが討幕派の怒りを買い、幕府を倒そうとする勢力が勢いづきます。それに対して、幕府の大老・井伊直弼が安政の大獄をやり、吉田松陰らが殺された。しかし、これがまた怒りに火をつけ、事実上内戦に突入して幕府が倒れるわけです。結局、こういうやり方を続けていたら幕府を倒すしかないのではないか、という話になる」
内田「同じことをまたやっているのですね」
岩上「2番目は日米安保です。この署名は、いつどこで行われるかという連絡が当日の正午までなく、和文もなかった。当日、いきなり陸軍施設に連れて行かれて、吉田茂ひとりでサインをさせられた。ひどい話です。国の契約としてありえない。
両国の条約であるにもかかわらず、日本文は用意されていないし、検討する時間もなかった。そして吉田は、日本国民に対して情報の共有も、公開もしないままサインを行った。米国側のアリソンは、もし安保条約が署名されたら、日本側代表団の少なくともひとりは帰国後暗殺されることは確実だと言っています。
私は、誰かを殺すべきだったとは言いませんが、吉田茂は戦後保守政治家の最大のヒーローのように扱われています。それはメディアによる洗脳です」
内田「私たちは明日14日、衆議院第2議員会館前で11時から緊急の座り込みをします。また、リーク情報を受けて、緊急声明を発表し、昨日提出しました。
自民党は『今TPPに入っても、参院選のころには国民は忘れている』と思っているでしょう。私たちは馬鹿にされている。しかし、自民党が駄目ならどこに投票したらいいのか」
岩上「笑えるのは前原誠司さん。11日の衆院予算委員会で、『我々が最後まで交渉参加表明をできなかったのはなぜかというと、米国の要求、事前協議の中身が余りにも不公平ということだった』と言った」
内田「私も、こうなったら前原さんには何でもかんでも言ってほしいと思いますね。なんとか最後まで頑張ります。明日表明をされても、もちろん反対をし続け、国際NGO団体とも協力をしていきます」 (了)
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・2013/03/13 TPPを慎重に考える会 緊急報告会
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・2013/02/23 「TPPについて、自民党が掲げた公約は守られない」 ~岩上安身×孫崎享 特別対談!
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/61170
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