2012年8月5日、探査機キュリオシティーが火星に着陸した。それに呼応するかのように、オランダのベンチャー企業が人類火星移住計画「マーズワン」プロジェクトを明らかにした。およそ7カ月かけて火星に移り、着陸船風のシェルターで生活する。
その様子をTV番組化して費用をひねり出すという荒唐無稽(むけい)なプロジェクトだが、webに打ち出された「人類が火星で学び成長し反映し永住する基盤を確立」の言葉から、大まじめなことは確かだ。
移住の言葉から宇宙服なしで歩き回る姿をイメージするが、火星は第二の地球になりえるのか? 夢と希望に満ちたプロジェクトではあるが、残念ながら、人類にとって住みやすい環境とはいえなさそうだ。
■火星の大気を改造する
太陽系4番目の惑星である火星の自転周期は、約1.026日と地球に近い。地軸は25.2度傾き、楕円(だえん)軌道で公転しているので、季節の変化も楽しめる。直径は約半分、質量は10分の1とコンパクトながら、海がないので地球の陸地とほぼ同じ表面積を持つ。
しかし大気は地球の約160分の1しかなく、大半は二酸化炭素(約95%)が占め、人間に必要な酸素(0.13%)と水蒸気(0.03%)はごく微量で、水に必要な水素はほとんどない。温室効果ガスとも呼ばれる二酸化炭素が多いのに、平均気温が約-40℃と低いのも大気の薄さが原因だ。
もし地球と同じように暮らすなら、
・水
・大気を増やす
・二酸化炭素を減らす
が必要だ。
そのためにはまず大量の水素を持ち込み、燃焼して水蒸気の発生から始めるのが良いだろう。雲が発生すれば気温上昇にも役立つ。つぎにわずかな酸素をかき集めて植物を育てる。二酸化炭素は豊富にあるから、あとは光合成に任せることにしよう。
しかしながらこの方法では、二酸化炭素と酸素の比率が変わるだけで、持ち込んだ水素以上に大気が増えることはない。水素の燃焼に酸素を使うので、残念ながら気圧は下がる一方である。
希薄な大気と水素の少なさは、元をたどれば重力の小ささが原因だ。それでは重力を増やすためにはどうするか? 手っ取り早いのは火星の質量を増やすことだろう。幸いにして火星にはフォボスとダイモスの2つの衛星があるので、これらを合体させると火星の質量は約0.000002%増加する。
誤差とも呼べる増量だが、隕石(いんせき)や小惑星を引き寄せる確率は上がるだろうから、それまで見守ることにしよう。労力と、自転や軌道への影響を考えれば、やらないほうがマシかもしれないが。
■人工地磁気で太陽風と戦う
宇宙服なしで火星の大地を闊歩(かっぽ)するには太陽風対策が必要だ。太陽から放出されるプラズマは、磁気圏に守られた地球では意識せずにいられたが、火星の磁力はわずかでこれを防ぐことができない。プラズマの正体は秒速300~500kmで降り注ぐ荷電粒子で、電子機器を故障させることもある。
太陽風が激化した太陽嵐では、地球で10億人規模の死者が出ると予測されているぐらいだから、地磁気の弱い火星ではひとたまりもない。
地球と同じぐらいの地磁気を作るには何が必要か? もっとも現実的な方法は、火星にコイルをめぐらせ巨大な電磁石を作ることだ。核融合科学研究所の資料によると、地球なら直径約12,600kmの赤道に巻いたコイルに4,000万A(アンペア)、北極/南極の両方に直径6,000kmのコイルを作って6,000万Aずつ流せば、現在の地磁気の「10%程度」を発生できるという。
合わせて1億6千万アンペア!! 100%補うには16億A必要だから、単純計算で30A契約5,333万世帯の「電気なし生活」に相当する。節電どころの話ではない。
コイルのつぎは電力の確保だ。これも現実的に太陽光発電を使うことにしよう。昼夜を問わず発電するには、ソーラーパネルを赤道方向にぐるりと設置する。故障や隕石(いんせき)による破壊は命取りとなるので、日夜パネルのチェックに追われることになる。
ここまでして火星で暮らす理由があるのだろうか?地球の地磁気もあと1,000年ほどでなくなる説もあるので、太陽から離れた火星のほうが、少しだけ長生きできるだろう。
■まとめ
現在の調査では、火星には水の痕跡、生命の可能性が報じられている。生命起源説もあるぐらいだから、地球とは深い因縁があるのは間違いないだろう。
キュリオシティーは目的地まで1年ほど、マーズワン計画も11年後だから、真実はすぐ目の前にある。火星探査にかかわる携わる諸氏の勇気をたたえここに捧(ささ)ぐ。
(関口 寿/ガリレオワークス)