HxHSS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[2208] 微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2007/03/17 01:30







注意






これはオリキャラ主人公のH×Hのトリップ物です。

最初はオリキャラがぐだぐだやってるだけで本編キャラはそんなに関わりません。それが嫌な人は第二部から読む方が良いかと。それでも本編キャラ殆ど出ませんが。

それと、H×Hとは無関係なマニアックなネタが多めになっております。特に麻生俊平という作家を知らない人には大分ついてこれないネタが多いのでご注意を。






























正直、その時の事は良く覚えていない。


横転した車が迫ってきて、目の前が真っ白になって…。


気がついたら、心地よいまどろみの中にいた。


暗い暗い、でも安らげる場所でただジッとしていた。




そしてある日、声が聞こえた。


おいでおいでと導く声。


その声に従わなくてはならない様な気がして、少しずつ進みだした。


その先は広い、眩しい場所。


ずっと暗闇にいたせいだろうか、ただ眩しい光がとても尊く感じていた。




――おめでとう、そしてようこそ。


そんな声が聞こえた。


いや、正確にはよく分からない何かが伝わってきて、そんな意味がこもっているんじゃないかと思っただけ。


周りに誰かがいる。


そして、祝福してくれている。


きっとそうだ、それだけは分かる。


俺は泣き出していた。


それは悲しみじゃない。




ただ、自分はここにいると伝えたかったんだ…。




俺は、産声を上げた。






微妙に憂鬱な日々


第一話






「お願いします、ししょー」


そう言って俺、リュークは土下座した。

それはもう強く強く床に額をこすりつけた。


「そこまでするか…」


ししょーの呆れ…いや、むしろ哀れみがこもった声が頭上から聞こえる。

ちなみに、ここは人里から微妙に離れた山にあるししょーの家。

そんな木製の簡素な一階建てで結構広い家は、業者の手抜き工事のせいか最近土台が傾いてきています。ビー玉置くとすぐさま転がり出すんだよ。

ちなみにその業者はすでに、手抜き工事の多さでスッパ抜かれて潰れてます。やり場のない怒りと共にししょーは現在建て直しを検討中。

そんな話はさておき、俺は傾き始めた床に額をゴーリゴリ。


「どうか、手っ取り早く精孔開けちまって下さい」


そう、精孔。

あれだよ、念。

『念能力者に、俺はなる!』みたいな感じ?


まあ、ぶっちゃけ言うと俺ってばトリップ物の主人公ポジションにいます。

以前はちょっぴりオタクな高校生やってました。

そん時の名前は田中浩二。

んで、塾帰りに傍で車がスリップ。気づいたら赤ん坊やってました。

ここどこだろと思いつつもスクスク育ってたら、世界地図で地名とか見てびっくらこいた。

もしかして、ここってばハンターの世界じゃねーかと。

それだったら、からくりサーカスの世界でしろがねになりたかったとか思ったのは秘密だ。ギィ並な超美形最強オリキャラなら文句なし。言うまでもないがエレオノール嬢にあらず。

後、VSに入ってアウトフロー犯罪に立ち向かいたいなんて思ってないぞ。…セイヴァーシリーズかヴァンガードシリーズならばセイヴァーが良い。飛べるし。…高所恐怖症だが。

現在は十一歳。家は八百屋で、でも昔とーさんがハンターだったとか。だから九歳の時に言ったのさ。


――とーさん、俺ハンターになりたいんだ!


――いきなり何を言い出すんだリューク。


――かーさんから聞いたんだけど、とーさんハンターだったんだろ?


――でも、かーさんと結婚して俺が生まれるから危険なことは止めようって引退して…。


――だから俺、代わりにハンターになってとーさんの行けなかった所(主に富とか名誉とかのランク)まで昇りたい…。


――リューク…。


そんな感じで半泣きなとーさんと感動的な親子の抱擁。とーさんの腕の中で、俺は新世界の神を目指す人ばりの邪悪スマイルをしていたとかしていなかったとか。

そっからとーさんにしばらく鍛えられ、まだライセンスは持ってるが引退した自分よりも現役のハンターに学んだ方が良いだろうという事で、ちっと遠くに住む、昔とーさんの弟子だったらしいししょーに預けられた。


ししょーは三十台半ばの、無精ひげの似合う渋いナイスガイ。決して年齢より老けて見えたりはしないよ、うん。

…せめて、最近増えてきた白髪染めたらどうですか? 服装にも気を使うべきかと。ジャージがユニフォームになりつつある俺の言えた義理じゃありませんが。

いや、それより精孔だよ精孔。手っ取り早く強引に俺を念能力者にして下さい。

最近念について習った…つっても以前から知ってましたが。そんなの在るわけ無いだろと白い部屋にぶち込まれるのが恐ろしく、在るのか確かめ辛かったんだよ。

そんで、強引に精孔開けるのは危険だからゆっくりで、毎日ゆったり瞑想なんぞしてますが…。


「もう、一ヶ月も経つのに何の成果も出ないんですよ?」


はい、オーラのオの字も分かりやせん。そんなん本当にあるのかって疑いたくなります。

…大掛かりなドッキリだったらどうしようかと戦々恐々っス。念弾と思しきもので木をなぎ倒すのを見たが、正直未だに半信半疑。


「そんなんは普通だっつったろ。才能のある奴でも二、三ヶ月以上は覚悟するもんだとも言ったぞ」


「じゃあ、昨日で纏を覚えたとか言うアイツは――」


「ただいま帰りました」


そのアイツ、両手に膨らんだビニール袋を持ったノエルが戻ってきた。


「おう、お使いご苦労」


「ただいまリューク」


やめろやめろ、貴様のそのさわやかスマイルは俺にとって有害な物でしかない。

俺は黒髪黒目の特徴無し地味地味ボーイだというのに、なんでお前は金髪碧眼超絶美少年なんだ!?

特に取り柄の無い俺と違ってお前は勉強すれば成績優秀、格闘も俺より上で、それと料理上手。

しかも、ゆっくり精孔開くのにたった一ヶ月だぞ!? それどこの主人公最強物だと言いたくなるっつの!

ノエルは家の近所に住んでいたやつなんだが、まあいろいろあって友達になって現在一緒に弟子入り中。

幼馴染が美少年ってむかつくね。こんな天才がいるせいで、俺のポジションは引立て役さっ!


「お願いします、これ以上惨めになりたくないんです!」


ノエルに視線をやり上げていた頭を、再び床にこすり付ける。


「…どうなっても知らんぞ?」


ししょーはしぶしぶ了承してくれた。


…だが、この時の選択を俺は後悔する。

そう、少なくとも、今日頼むべきではなかった。




…その日たまたま、ししょーが以前振られた彼女の事を思い出して悲しみとかでオーラの量が増えていたという事に思い至るのは結構後だったりする。






続く?






あとがき


ども、圭亮と申します。

最近、ハンターの二次創作が増えてきたので妄想が膨らんでつい書き始めてしまいました。

もう一つの連載を弟に嘲笑われてやる気が削がれたわけでは、きっとありません。

知らない人多そうなので一応言っておくと、とらハ掲示板の方で、本編キャラが誰一人登場していないアニメ版なのはの二次創作を微好評連載停止中とさり気にアピールしておきます。

後、私の文章力向上のための意見やネタがありましたら、こちらもどうか願いします。

では今回はこれにて。





[2208] Re:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/05/03 13:10

――タッタッ


走っている。


力いっぱい足を前に出して走っている。


俺は何故走っているんだ?


分からない。


でも、何故か走らなくてはならない気がする。


走った、転んだ、既に満身創痍さー♪


――って、馬鹿なことを考えているうちに足が止まった。


目の前には本屋。


何故?


そして、本屋の中を進み、そこにあったのは――。


…VS六巻。


五巻で打ち切られたと思ったのに…。


また次郎と蒼の物語の続きが見れるとは、夢みたいだ…。


――ん、夢?


あーはいはい、先が読めました。




微妙に憂鬱な日々


第二話




「やはり夢オチか」


目を開けばそこは知ってる天井。


ししょー宅の、俺が使用している広さ約六畳の部屋の天井。


決して『知らない天井だ』とかありがちな台詞は言わない。


チラッと傍の壁に掛けてある時計を見れば、もう夜の十時、さっきのアレが三時くらいだったかな。


まあ、現在私ベッドに寝ているわけですよ。


つか、やっぱり俺ってまだVSが打ち切り喰らったこと引きずってるんだなぁ…。


あの世界にトリップ出来るなら、虫改造人間の一人だったとしても悔いは無かった。


いっそ、ゼロナイザーに斬られる人でも…やっぱり嫌だな。


次郎みたいにV1ユニット移植されてVS入るのがベストだろうし。


V1候補の親族ってことでさ。


だいたい、ハンターは休載率高いから見放したとこだったんだぞ。


俺の中でジャンプ漫画といえば『私のカエル様』なんだからな。


「起きたみたいだね」


何時の間にやらノエルが入ってきていた。


「大丈夫、起き上がれる?」


「あ、ああ…」


うう、体が重い…。


力が入りにくいがなんとか体を起こす。


やっぱり、無理に精孔開けないほうが良かったかも…。


ええ、ししょーに開けてもらいました精孔。


え、纏はどうしたって?


知るかボケ!




数時間前




「よし、いくぞ」


「は、はい」


リビングで身構える俺と、コォーと息吹で呼吸を整えるししょー。


これから俺の念能力者ライフが始まるのか…。


そしていつか、グリードアイランドの恋愛都市アイアイに行くんだ!


…ギャルゲー大好きですが何か?


でもジョイステのギャルゲーのグラフィックってばかなり古くて、とてもとてもやってられんのですよ。


なら新機種買えとか言うな。


高くてなかなか手が届かんのですよ。


まだガキの身分なわけだし。


それによさげなの無いしね。


その上、エロゲーの方も碌なの無い。


鍵ゲーに匹敵する泣き話出してみやがれってんだ。


ししょーの手が俺の胸の前にかざされる。


何かモワモワしてる物が胸を撫でる感覚がする。


ああ、オーラ出し切って倒れたりしたらどうしようと今更ながら不安になる俺。


「は!」


ドンと衝撃が体に駆け巡る。


「ゴフッ!」


奇声を上げ、ぶっ倒れて転げまわる俺。


痛い!


滅茶苦茶痛い!


「ゲフッ、ゴフッ!」


「あーすまん、加減間違えた」


間違えたって、ししょー!


「リュ、リューク、大丈夫!?」


俺の叫びを聞いたのか、部屋に入ってきたノエルが慌てて駆け寄ってくる。


「正直…むりぽ……」


痛いし体から何か抜けてく気がするし…これがオーラ?


モヤモヤしたものが凄い勢いで体から溢れて来ている。


「それでな、纏のコツは――」


そんなんやってる余裕ありません!


あ、目の前が真っ暗に…。




………。


以上が、事の顛末だ。


体に来た衝撃とオーラが抜ける疲労のコンビネーションで気絶したわけだ。


とりあえず、ししょーの馬鹿野郎と心の中で思っておく。


どうなっても知らんとは言ってたけど、これは百パーあなたのせいですよ?


こうなったら、ししょーのゲームのセーブデータ事故に見せかけて消去してやる。


アクションに混じってギャルゲーもやってるの、知ってるんだからな!


おねーさんキャラ好きなの知ってるんだからな!


「ご飯、食べられる?

いちおう、スープくらいなら作ってあるんだけど…」


そう言うノエルの手には皿の載ったお盆がある。


燃え盛るししょーへの憎悪の念を一時消火してお盆を受け取った。


膝の辺りにお盆を載せ、皿を持ってその緑色のスープをすする。


――ズビビー。


「もうちょっと静かに飲みなよ…」


うむ、美味い。


ほうれん草をベースに様々な野菜が口の中で奏でるハーモニー…だったよね?


前に同じの飲んだ事あるし。


冷めかけだがそれでも美味い。


「いいお嫁さんになれるな、ノエル」


「褒め言葉と思っておくよ」


さらっと流された。


ここは、『俺は女じゃねぇ』と不思議な力に目覚めるとこだろうが…まったく。


…あ、いやもう念は使えるか。


俺も、さっきほどはっきりとはしてないが、オーラが見えるようになった。


ノエルが纏をしてオーラが周りに留まっているのも、今はハッキリと分かる。


つか、もうアンタは常時纏の維持可能ですかい。


そのオーラも、なんか質っつーかなんつーか、俺のそれより何かが違うように感じられる。


なんか凄いとしか言えない俺の語彙の乏しさに、二つの意味で惨めになった。


だって半端にオーラが見えるようになったら、もうそれだけで格の違いを思い知らせれんだよ?


それとも、ただ単に俺に負け犬根性染み付いてるだけ?


「纏は完璧か?」


とりあえずどんな具合か尋ねてみる。


「うーん、今日眼が覚めた時も出来てたし、とりあえずは完璧かな」


事も無げに言ったノエルの台詞は、俺にコーザノストラに匹敵する衝撃を与えた。


うらやましいっすねぇ!


「絶はまだ一分くらいしか維持できないんだよね。

思ったより難しいよ」


…あ、もう絶の修行初めてんの。


早いねー……。




そして、俺が纏をマスターするのは五日後になる。


その頃ノエルは練が形になっていました。


本人はまだまだだと言ってましたが、俺を凹ませるには充分な練でした。


ちなみに俺ってば絶はすぐさま、大体一時間くらいでマスターしました。


これは、俺が天才の影に埋もれて蝶地味キャラになるって事でしょうか…?


それと絶を会得した後、ししょーへの復讐を実行したら恐ろしい事になって三日ほど動けなくなりました。


ししょーの練は凄かったです。




続く?




あとがき


はい、おバカなだらだら話でした。

もうちょっとテンポよく行くはずが予想以上にうまくいかず、最後の方はちょっと巻いていってしまいました。

ですが、この馬鹿話にいきなり感想が四件も着たことに激しく驚きました。

すっげー有難いです。

一話書いただけでもう『ヒーローに憧れて』に並んでしまった…。

増えてきてるせいか、やはりハンターSSは微妙に注目されてる模様…。

もっとマシなの書けるように頑張らばくてはいけませんね。


ではお返事させていただきます。


>つ様

しばらくはコメディで行くので、危機一髪になってもノリで助かります(笑)

からくり云々は憧れで言っているだけで深く考えて言った訳ではないんです。

後、リュークのとーさんはライセンスは手放していません。

思い出にと厳重に金庫に預けてあります。

ノエルは百パーオリキャラのつもりで作ったんですが、もしかして、そんな名前がどこかで出てました?


>hiro様

主人公はヘタレ一直線で行きますので、よかったらこれからもよろしくお願いします。


>・おめが・様

ししょーが老け顔というのは念能力者が年を取りにくいという設定をど忘れして、書いた後でまあいっかとそのまま投稿したというアホエピソードがあったんです(笑)

ちなみに、リュークの名前は某海の大陸の主人公から取りました。

某死神の事は言われるまで気づきませんでしたよ。


>ニック様

アドバイス有難う御座いました。

ここまで真剣な物が来るとは思っていなかったので驚きです。

確かにその通りと頷ける部分が多かったのですが、書き直そうとしても上手くできない自分が情けないです…。

もっと書いて、腕を上げてからおいおい手直しする事にします。


皆さん、感想有難う御座いましたー。




[2208] Re[2]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/05/13 16:31




トリップ物でいくつか疑問に思う事がある。


まず、なんで出会った人物がそのキャラだってすぐ分かるんだ?


その世界に飛ぶってことは、そこが現実、つまり、二次元が三次元になるんだぞ?


それなのに、いきなり分かるのはかなりおかしいよな。


いや、ゴンとかならまだ分かるよ?


髪型かなり特徴的だし。


でも、トリップしていきなりクラピカやらレオリオ会ってもきっと、おんなじ名前だなで済ませてしまうぞ。


あと、グリードアイランドのスペルカードで元の世界に帰るみたいなの見るが、アレってあくまでゲームの中で会った人のとこにしか行けないんじゃないか?


それとも、クリアしてスペルカードを外に持ってけば一度行ったどんな場所にでも行けんのか?


俺は多分無理だと思うが。


え、お前は帰るのかって?


いやいや、俺はあっちで既にデスしたんで。


こっちにはこっちの家族がいるし、俺はこの世界に骨を埋めます。






微妙に憂鬱な日々


第三話






「来い、特質来い!!」


叫びながら俺は葉っぱの浮いた水の入ったコップに手をかざす。


そして練。


ま、つまり、水見式です。


そう、MI・ZU・MI・SI・KI。


念能力者にとって重要なターニングポイントってやつ。


え、練はいつ覚えたんだって?


もうあれから三ヶ月経ってますが何か?


最近ようやく練覚えましたが何か?


もうノエルの奴は堅が四十分出来ますが何か?


…どーせ俺は二分しか持たないよ!


まあ、二人共練が出来る様になったんでそろそろ水見式すっかと川原でバーベキューついでに食後の水見式。


バーベキュー前に魚でも取るべと調子こいて川に飛び込んだら、思ったよか水温低くて半寒中水泳でかなりきつかったです。


あーそれと、ノエルが野菜も食べろってうるさくてなぁ…。


貴様は世話焼き幼馴染かっつの。


んで、コップに川の水入れてそこらの木から葉っぱとって、まずは師匠が水見式。


結構前から気になってはいたんですが、ししょーは強化系でした。


もう水がドバーっとね。


コップ置いた折りたたみ式のテーブルが水浸し。


んで、次は俺の番。


ここは特質であって欲しいと思うのは漢として当然だろ。


プレステの幻のグリードアイランドの最初の判定で、主人公が特質になるまでやり直しまくったからな。


やってみたらかなり使い勝手悪かったが。


でも、スキルハンターとかエンペラータイムみたいな能力欲しいと思うのはいけませんか?


そして練やったが…。


「水が減った!?」


コップの水の水位が二ミリほど下がりました。


すげーすげー、これってば特質系!?


やったね、俺ってば今輝いてる!


これぞトリップ物主人公!




「お前も同じ強化系か」


…いや、分かってましたよ。


強化系は『水の量が変わる』だもんね。


減る事もありえるよね。


でもさ、夢見たっていいじゃないですか!


「次は僕の番だね」


コップに水と葉っぱを入れ直してノエルが練をする。


ああ、相変わらずノエルの練は凄いな…。


出てくるオーラの量が半端じゃない。


パッと見のオーラの量だけなら、二、三ヶ月もすればししょー超えられるんじゃないか?


……こいつ、特質系かもしかして?


ああそうだ、そんな感じがしてきた。


主人公最強主義を地で行くこいつならありえる。


特質なんて許さないからな!


あ!?


妬んで悪いか?


「あれ、何も変わらない?」


ノエルの呟き。


…これはもしかして、変化系?


ヤッホーィ!!


これで貴様の最強神話は終わりだZE!


「こ、これってどういうことですか?」


若干パニクリながらししょーに問うノエル。


「指つっこんで舐めてみな」


「は、はい」


そうそう、味変わってるよ。


…けど、変化系の水って中身の成分変わってるのか?


変わってないなら、味次第で水をノンシュガーノンカロリーの飲料水として売り出せるな…。


とまあ、アホな事考えながらノエルと一緒にコップに指つっこんでみた。




…え、ちょっとまて!?


「「温度変わってる!?」」


はい、冷たいはずの川の水が微妙に温かくなってました。


結局特質ですかー!


「ちっくしょー!!」


俺は妬みと悔しさのあまりに絶叫した。




続く?




あとがき


はい、リュークは強化系でした。

強化系なら能力考えるのに頭悩ませる必要が――っと、つい本音が。

まあ、一応他バージョンも考えてあったんですけどね。

放出とか。

まあ、強化系でも特別な能力考えるのも楽しそうですが。

後、予想した人多そうですがノエルの方は特質です。

こっちは能力考えてあります。

そのうち出しますよ。

最初の疑問や今回短い事については流していただけると幸いです。


ではお返事を


>点Ω点様

ギャルゲー趣味については、実を言うとリュークとししょーの間には友情が芽生えてます。

一緒にギャルゲーの未来を憂いていたりするので止めません。

リュークにはまったくの才無しでは可哀想なのでそこそこの才能は持たせました。

まあ、まったくの才無しってのも面白そうですが、作るの難しそうなので諦めました。


>アクセル様

どうでしょうか、期待を裏切り過ぎない作品が出来ているでしょうか?

いつ叩かれるかという不安があるチキン野郎です私は。

主人公がV1になるという設定も考えはしましたが、この世界でV1ってそれほど強くなさそうと思ったので変えました。


>a様

VSというのは、富士見ファンタジア文庫から出ている全五巻の小説です。

作者は挿絵に恵まれない、逆風吹き付ける作家、麻生俊平先生です。

ちなみに、この作品が打ち切られたときにこのレーベルの小説を二度と買わないと決意しました(笑)


では、読んでくれて有難う御座いました。

続きを期待してくれれば狂喜乱舞します。







[2208] Re[3]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/06/04 02:37




ボクらの出会いは、そんな大した事じゃなかった。


それはボクが七歳のときのことだった。


――ピンポーン


家のチャイムが鳴る。


「はーい」


そのときお母さんが掃除中で手が離せなかったから僕が出た。


「ちわーっす!

レイオット青果店ですが、野菜のお届けにあがりやしたー!」


そう言って元気な声を響かせた僕と同じくらいの年齢の男の子。


自分の家の八百屋で野菜の宅配サービスを始めたんで、その手伝いをしていたとか。


まあ、そんな風にあっさりボク、ノエル・フライガとリューク・レイオットは出会った。






微妙に憂鬱な日々


第四話






「うわっ、たっ!」


襲い来る蹴りやら拳やらの乱舞。俺は懸命にそれらを捌いていく。

流での攻防力移動が追いつかなかったりワケ分からんとこにオーラ集中しちまったりするがそれはご愛嬌…とはいかない。


「かぁ!」


側頭部に蹴りを喰らい、微妙な声を上げて俺はぶっ倒れました。

…ししょーつえー。


「オーラの攻防力移動がまるでなっちゃいないな。

後、フェイントに大げさに反応しすぎだ。もっと相手の動きをよく見て動きは最小限にだ」


「ぜー、はー」


ありがたいししょーの指導の言葉は、半ばグロッキーな今の俺の耳を華麗にスルー。意味ねーっす。

マジ疲れました。もう堅は出来なさそうです。

まあ、今家の前でししょー直々に指導してくれてるわけです。そんな感じの昼下がりで、つまりさっき食った昼飯のノエル特製チャーハンを吐きそうって事です。

普段はししょーの作ったメニューをこなしたり、偶に動きを直されたりする程度でししょーが相手になることはそんなに無かったんだが、最近は結構ししょーが組み手の相手をしてくれてる。

練を覚えてから二ヶ月経って、堅の維持も四十五分出来るようになったが、ししょーと組み手したら五分が限界。

つーか流が難しい。慌ててつい見当違いのところに凝する癖がなかなか直らない。


「次、ノエル来い」


「はい!」


次はノエルの番で、ノエルが俺より強いのは生まれた時から決まっている覆らない絶対的な事なので、もちろんノエルは俺より上手く戦ってる。

ノエルの流は滑らかで、動きについていけないところは攻防力の調節で上手く補っている。

攻撃の当たりそうな箇所に広い面にオーラを持っていって、微妙に攻撃のポイントをずらされてもすばやく対応している。

…俺はフェイントに簡単に引っかかって、微妙にポイントをずらすとかそれ以前の問題だけど。いや、マジで自信なくすね。

とは言っても、流石にししょーを相手にしてはノエルも防戦一方で追い詰められていってる。お、今危なかった。おっおっ!




…そんな感じでノエルは結局七分耐えました。


「防御に関しては及第点だが、攻撃に移る際のオーラのぎこちなさはリュークより酷い。

それと、攻撃を当てる箇所を考えろ。ただでさえ特質は肉体強化に向いていないんだからな、技で補え」


「ぜー、ぜー、は、はい…!」


…それは組み手で急所狙えって言ってるのでしょうか?

それで被害受けるのは俺なのですが。それに、ノエルはオーラの量凄いんで身体能力互角なのですが。


「じゃあ、今回はこれくらいしといてやる。後は適当にやってろ」


そう言ってししょーは家に入っていった。適当にやってろって言っても、ししょーがいくつか組んだメニューから自分がやるべきものを選べって事で、決してししょーはいい加減な指導者ではない…と思う。

一日の最後にしっかり悪い点を分かりやすく噛み砕いて教えてくれるしねー。こんな俺でもしっかり成長していますよ。


「ふー、きっつー」


「最近師匠の組み手厳しくなってくよね」


地べたに腰を下ろして休憩しながらノエルと軽く雑談。ノエル特製スポーツドリンクも忘れない。

ノエル、あんた冗談抜きで良いお嫁さんになるよ。

…実は俺のことを想って男装して一緒にいる的なフラグまだー? そろそろ風呂覗くぞー?

――なんて本人に言ったら三日飯ほど抜きになりそうだから決して口には出さないが。

ですが、いつになったらハンター試験に出してもらえるんでしょう? あ、いやさ、こないだハンター試験近いから受験しますって言ったらさ…。


『お前ら、いくら念を覚えたっつってもまだひょろひょろのガキだぞ?

それに、確かに念を使えるってのは大きなアドバンテージだが、覚えたてがハンター試験なんて何が起こるか分からない長丁場でしっかり出来るのか?

だからお前らはまだ受験禁止だ。今は実戦を積め。もうしばらくしたら俺の仕事を手伝わせるからな』


――とのお言葉。厳しいっす。

でも確かに念覚えたからって十一歳のガキが易々受かるワケないのでしばらく受験は断念。

ちなみに、ししょーの仕事は結構幅広いらしく、護衛やら賞金稼ぎやらで二十代の頃は結構稼いでいたらしい。

まあ、俺らの実力に合わせたそこそこの難易度の仕事になるのだろう。実は不謹慎ながらちっと楽しみにしています。

…まあ、何にせよ今は強くならないとな。


「そういやノエルー。お前、自分の能力何か分かったか?」


そして、コイツに引き離されすぎて惨めにならないようにしないと。

ノエルは特質系だが、どんな能力かはまだ不明。つか、世の特質さんたちはどうやって自分の能力調べるんでしょうね?

ししょーは強化系で、そのししょーだったとーさんは放出系ならしく、特質の事なんざさっぱりらしい。

もっと良いところで学べば違うかも知れんぞとししょーが別の人探してくれると言ったが、『リュークと一緒がいいんで』とか微妙にBLスメルな事を言ってそのままです。

まあまだ十一だし、俺の考えが穿ちすぎなんだろうが。

だがBLはマジ勘弁な。その昔純な小学生の頃に興味本位で呼んだアンソロジーでトラウマなんで。

…ちょっと開いてみたら、いきなりヒソカとクラピカがムフフト-ンで甘いキスはきつかったです。つか何あのカップリング。

まあ、俺は枯れない桜の島の金髪従妹を愛してますから。こらそこ、ロリコンとか言うな。

そういや二作目がもう少ししたら出るはずだったんだよな。

――と脱線しすぎた思考を元に戻してノエルに視線を向ける。


「まだ分からないんだよね。でも、なんとなくヒントは掴んだんだ」


「ヒント?」


「うん、最近目に凝をすると違和感を感じるんだよ。

だから、なにか視覚に特別な力が加わるんじゃないかと思う」


視覚…ねぇ。


「――幽霊が見える能力だったりしてな」


「うわ、ボクそーいうの苦手なんだけど…」


それだったらやだなぁ呟くノエルを引っ張り起こして、とりあえず修行を再開した。




その夜、俺は床に付き一日を終えようとしている。普段だったらここでジョイステやるか、ししょーのもう一世代新しいジョイステ2をやらせてもらうとこだが…やる気が出ない。

バサッとベッドに勢いよく倒れこむ。


「やっぱ、能力要るかもな…」


強化系である俺が特質のノエルにガチンコで殴り合って押されてんのはなぁ…。

しかも、ノエルが滅茶苦茶凄い能力に目覚めたら物理的にも精神的にもへこむ自信あります。

ここで何か特殊なオリジナリティーあふれる能力を開発しズバッときめないと。…ああ無理。

俺にそんなん考える知恵はありませんな。いっそ漫画とかから持ってくるか?

俺は強化系だし、その気になれば放出と変化も併用できない事もないし。原作の煙操ってたグラサンのおっさんも多分強化っぽいし。

でもあんま複雑なのはメモリの問題あるか。そうだな…マテリアルパズルとかなら良いかも。

合成魔法拳とかスパイシードロップとか…後は覚えてねぇな。よさげなネタが思い浮かびません。

VSとかから持ってきたいんだけど、再現するには微妙なもの多すぎるんだよな…。いっそRタイプになるか? いやハズい。

V1とかS1は……あ、Vツール。




続く?




あとがき

ども、やや久々な更新です。

結局主人公は能力開発することにしました。しかしVツールを再現てもろ変化の領域。

それ何って人は次回を読むかVSを読んで下さい。大したものじゃありません。

――と言うと苦情出そうなので、腕から出る伸縮自在の鞭みたいな物と簡単な説明をしておきます。

もっと強化の特性生かした能力にしたほうが…と自分で止めたくなる感じですが、主人公がVS好き(私もですが)なのでこのまま突っ走らせます。

ノエルの能力はもちっと先に明らかになります。微妙な能力ですが。

後、展開がかなり遅いですが、このまましばらく修行編やるかささっと飛ばしてハンター試験受けさせるのと、どっちが良いんでしょうね?

意見、お聞かせ願えますか?


では返信を


>ふる様

はい、VSでヴァーサスと読みます。

警視庁超科学特捜班、通称ヴァーサスなのですよ。


>・Ω・様

今回は文章を空けすぎないで少し詰めてみましたが、いかがでしょうか?

ですが、詰めると文量の少なさが浮き彫りになりますな(笑)


ではこれにて~。






[2208] Re[4]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/06/21 03:27




「なーに寝ちゃってんだか…」


午後の訓練が終了し、日が暮れてきた時だった。


森の中、木にもたれかかってノエルは寝ていた。


木々の隙間から差し込んだ光がその静かな寝顔を紅く染めている。


「ホント女みてぇな顔してんな、こいつ」


そう呟いて撫でた頬はスベスベしてやわらかい。


触った事ないけど、女の子の肌はこんな感じなんじゃないかと思う。


…なんか変な気分になってくるな、イカンイカン。


BL反対BL反対!


ああ…でも、本当に…綺麗だ……。


吸い寄せられるように顔を近づけていく。


その柔らかそうな唇に自分のそれを重ね――。




――ガバッ!


「はあ、はぁ…」


…よかった、夢オチだ。


「よかった、夢オチでホントよかった…」


その日、俺は人は喜びでも涙を流せるのだと初めて知った。






微妙に憂鬱な日々


第五話






「…0、1――!」


指先に集めたオーラの形を数字に変えていく。あれだ、系統別能力修行。

Vツールを作るためにも変化を極めないと。と言っても、変化系はこれしか知らんが。

後は放出と強化の修行しか知らない。他の系統はどんな修行するのか非常に気になる。

一ヶ月ほど放出、強化、変化のローテーションでやってるが、どうやら俺は変化寄りの強化系らしい。

放出は未だになかなか上手くいかないが、変化は…まあ放出よりはまし。

今では一分三十秒ほどで0~9までに形を変化させる事が可能になった。ちなみに石割りは現在二百個を超えたところ。

ノエルと一緒に石割りしたら、ノエルが初回で普通に百個超えてたのが妬ましかった。

なんか強化系の癖に先に変化をクリアしてしまいそうだ。まあ、Vツール再現のためにモチベーションが上がってるからとかだろう。

Vツール、それはVSでV1が使っていた多機能ツール。腕からみょいーんと鞭みたいのが出て自在に操れる。硬くして警棒としても使えます。

微妙だがやり方しだいでかなり使える能力になるはずだ。ほら、どこぞの暗殺一家のおじいさんもなんか凄いの出してたじゃん?

あれ、体から離してなかったから多分変化系だろうし、頑張ればそんな風に威力も上がるはずだ。

…いや、お前があんなに強くなれるのかって言われたら不可能としか言えんが。


「ふうっ」


うっすら額に浮かんだ汗をぬぐい、時計を見ればそろそろ夜の十二時。いつもの就寝時刻だ。

昔はこんな早くに寝るなんてありえなかったんだが、こっちの世界じゃろくな深夜アニメが無い。

…あっても、この辺微妙に田舎だから見れないんだよね(泣) ケーブルテレビとかもなんか引けないらしいし。

さて、最後に…。


「Vツール!」


声をあげ棒状に練り上げたオーラを右腕から出す。叫ぶ理由はって、もちろん次郎が叫んでたからだよ。

でもなんか、オーラが搾り出したマヨネーズみたいな感じだな。マヨツール…かなり嫌だな。

うむ、今日はいつもより調子がいいな。いい感じに伸びる。

そしてそのオーラを伸ばして前方一メートルのテレビにめがけて…さあ、スイッチオン!


――ウネウネ…ヘニョ


……駄目駄目だー!! なんだよ、ヘニョって!? テレビのスイッチも入れられないのかよ! めちゃくちゃつかえねーよ!!


「もういいや、寝よ」


不貞寝ですが何か? んで、そのまま一分経たずに寝入ってしまった。






「ふんっ、はっ…こなくそ!」


現在修行午前の部、ノエルと組み手中。そして圧されているのは俺。

オーラによる補正が同程度なため、筋力で若干勝る俺の方が力は上。

だけどノエルの方が流上手いし、防御となるとあっちが二枚三枚も上手。

いや、俺だって成長してますよ? 向こうがそれ以上に成長速度上なだけ。

最近、殴り合いでも徐々に引き離されてるなーってのが分かる。すっげー惨めです。

ここらで新しい弟子入ってくれないかな。もちろん才能は俺≧そいつな感じ。

たまには他者を見下さないとやってらんねっつの! …悪いですか!? 仕方ねーじゃん、凡人なんだから!


「――ゴフッ!」


レバーに入った拳で俺はダウンしました。う、吐きそー。

加減する優しさを覚えてくれよ、俺ら、友達だろ…? ほらそこ、トモダチって言葉が薄っぺらく感じたとか言うな。

あれは、檻だ――。そう思ったって、なにVSネタに走ってんだろ。いや、椋尾若葉大好きでしたよ、蒼が一番でしたが。

実はV1よりもS1が好きだったりする私です。ああ憧れの~、改造人間に~♪ なりたいな~ならなくちゃ~、絶対…なれるわけねぇ!!

でも、なるなら断然セイヴァーシリーズですね! お空を飛びたいんだよ! ああそれと、ゼロナイザーにも憧れます。


「未来創造研究所…略してミソウケン……」


「なに言ってるの…?」


へたり込みながら呟く俺に怪訝そうな顔をするノエル。…イヤ、オカシクナンテナッテマセンヨ?

ザンヤルマよりVS派なのはおかしいとか言うな。コマンダーが微妙に使い回しっぽいとか言うな。


――グギュルル…


そして腹の奥で鳴り響く鼓動。飢えを知らせる肉体の叫び。

そろそろお昼時か…。うーん、なんか無性にチャーシュー食いたくなった。


「ノエル、たまには下の町で飯食わないか? ラーメンとかラーメンとかラーメンとか」


「あくまでラーメンオンリーなんだね…」


「今の俺はチャーシュー魔神だ。それと餃子魔神も兼用」


餃子は肉がたっぷり詰まったやつじゃないと認めんけどな! 安い定食屋だと殆ど皮だけとか、食べてて微妙に惨めになるんだよ。

まあ、ししょーはこんなトコでケチる人じゃないし、頼めばちゃんと美味い飯屋につれてってくれる。

三日前、つまみが上手い夜の居酒屋でただグラフィックのみ追及する昨今のギャルゲーの未来について語りあったしな!

いやいや、俺は酒なんて飲んでませんよ? 酒のつまみは大好きですが。

そして、名作が無ければ俺たちで作るしかないという結論になり、俺がハンターになったら同士を集い、いつか名作を作り上げようという話になった。

まあまず、絵の上手い奴を探さないとな…。俺は美術で三以上とった事がない程度だし。…筆記は良かったんだけどなぁ。

ししょーも、それどこの車田正美みたいな絵柄なんでギャルゲーの作画は無理。いや、上手かったんですけどね。

シナリオライターにはかならず俺がなってやるからな!


「リューク、ちょっと悪いけど、もう一回組み手やってくれない」


そんなひと言が俺の思考を中断した。


「えー、マジだるいんですけどー?」


この極限の空腹状態でもう一度組み手なんてやったら死ねますって。


「ごめん。でも、もう少しで何かつかめそうなんだ」


「はいはい…」


まあ、実際死ぬわけでもないのでしぶしぶ了承。そして再び殴り合い。だるいんでおもっくそ受け手に回ってますが。

俺の流も防御のみに集中すれば捨てたもんでもないんだけどねぇ。攻撃もしようとするとトチりやすくなるんだよな。

右肩に掴みかかってくる――。左手で逸らして回避。今度はそうして突き出た左肩に掴みかかってくる。

肩にオーラを集中して、先ほど左手を出した勢いを殺さないうちにそれを利用して回転、弾き飛ばす。

なんかやたらと掴もうとするな…。もしかして、俺を押し倒すつもりじゃあ…。――って、なに考えてんだ。

まだこないだの夢引きずってんのか俺。早々に忘れないと、今の俺は工藤が女だと分かる前の朝倉状態じゃないか。

…ノエル、マジで実は女の子でしたパターンになってくれ。そしたら結婚を前提に付き合ってもいいから。

とまあ、キ○ガイじみた妄言をのたまっていたその時だった。ノエルの手が俺の右腕をかすめ――。


そして、そこのオーラが消えていた。


な!? 今、何しやがった…!? もしかして、これがノエルの能力だってんのか?

そして、ノエルは動きを止めて自分の左の掌を見つめている。その手は相変わらず凄い量のオーラがあふれていて、でも違和感があった。

…少し膨れている? でも、何か違う。表面のオーラだけずれていると言うか、馴染んでいないと言うか。

そう、アレはノエルのオーラじゃない。多分…俺のだ。あいつ、俺のオーラを取りやがったんだ。

そして、ノエルは右手でそのオーラを撫でる。違和感は消えていた――。

俺は自分の右腕を再び見る。何の問題も無く、オーラがしっかりとそこを覆っている。


「ようやく分かったよ、ボクの能力…」


ポツリと呟くノエル。


「人とか物とか関係なしにオーラを見る度に違和感があったんだ。

それが何なのか確信したときにはっきり見えるようになった」


「見えるって?」


「ボクの能力は、オーラの構成を見て分解、それか自分に組み込む事が出来るみたいなんだ」


な、なんだってー!?

…じゃなくて、なんだよそのあからさまに特別な主人公っぽい能力!?




続く?




あとがき

はい、ノエルの能力が明らかになりました~。

『微妙に憂鬱な日々』はノエル君最強主義で行きます。

でも、今更だけどなんとなく儲かるからという理由でハンター目指す主人公は駄目駄目だと思いました。

…今回、麻生さん作品を読んでいないとワケ分からんネタを増やしすぎた感じですね。次から気をつけます。

次の更新は今よりもっと遅くなる予定です。

なぜなら、今までサボりまくっていたとらハ掲示板のなのは小説『ヒーローに憧れて』の更新を再開するからです。

相変わらず、そっちもこれみたいに本編ネタ分からないと微妙に話についていけないのに、本編キャラが全く出ない仕様。

私ってこういうのが書きやすいみたいです。

そんなわけなので今まで以上に鈍行ペースな感じになります…。

そっちと共々、たまにで良いんで気が向いたら読んでやってくれると嬉しいです。


では返信


>イース様

試しに二メートルくらい突っ走ってみました。

これ以上は無理です。このまま安易にノエル、実は女の子な感じでフラグ立ててしまいそうです。

リュークの能力ですが、Vツールだけでなく何か武器を持たせて強化する方向も考えてます。

それ以上は考えてません。


では、これにて~。





[2208] Re[5]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/07/03 02:09




なんか普通に生活していますが、俺って実はトリッパーとかいうかなり貴重なポジションなんだよな…。


いや、この年から念修行してハンター目指すのは普通じゃないとか言わないでくれ。


だが最近、ふと思うことがある。




……ここって本当にハンターの世界なんかね、と。


いや、ヨークシンとか東ゴルドー共和国とかありますよ。


東ゴルドーの悪い評判はよくテレビのニュースで見ます。


あと、ヨークシンの食べ歩きマップも読んだ事あります。


それにハンター文字も全く同じです。(前の世界で小学校高学年の時に、ハンター文字で手紙のやり取りが流行ってたんで少し覚えてた)


でも、それだけで全てが同じだと言い切るのは馬鹿っぽくねとか思うわけですよ。


つまり、ここは地名とかが同じなだけで本編キャラのいない世界ではないのかと言いたい訳ですよ。


平行宇宙ってやつですな。


世のトリッパーたちはそれを考えなさ過ぎです。


それ言ったらトリップ物の意味が無くなるとか言わないで…。


俺が言いたいのはつまり、これからも本編キャラに関わる可能性は低そうだなーってこと。


時代が少しずれてる可能性もあるしね。


つーか出来れば関わりたくありません、平穏な生活のために。


え、主人公補正? 何それ?


ハンターになるのはあくまで老後の貯蓄のためです。


金を貯めたら、とーさんの八百屋手伝います。


まあ、そんな感じの現在十二歳になった私です…。


精神年齢はプラス十七歳。


見た目は子供、頭脳も子供!


人の精神って簡単に成長しないみたいなんです。


昔より精神的なタフネスは上がった気はするけどね。


――とまあ年月の積み重ねで慣れきってますが…向こうのギャルゲーが恋しいな。


麻生先生の行く末とか、憧れの人の恋人守るために痛覚捨てた少年の話の続きとか、トライガンでリィナは生きてるのかとかも気になって眠くなったときにしか眠れません。






微妙に憂鬱な日々


第六話






「やっぱり麻生さんは編集に嫌われてんじゃね?」


「いや、VSが打ち切られたのは内容のせいもあるかと思うぞ?」


「確かに全面否定は出来ん! だが三巻からあんなに面白かったじゃないか!?」


「ごめん、こっちザンヤルマ派だから」


「なんだ、貴様も次郎へタレとか言うのか?」


「正直ちょっと…」


「まあ良いや、次郎そこまで好きじゃないし」


「脇役のキャラ立ちすぎてるからなぁ…」


「地味だから読者視点で読みやすいってのもあったんじゃないか?」


「確かにそんな面もあったかもしれんがね」


「だが何より許せんのは挿絵だ! つーか五巻の表紙!!」


「うん、アレはプロとして取り返しの付かない事やったな。あと、ミュートスで七瀬さんは…」


「ごめん、そのおかげで手に取って麻生さん知ったからアレを否定する事はできない」


「確かに挿絵で興味持った人多いけどさぁ、ライダーはライダーでも真みたいな改造人間の話ではちょっと…なぁ?」


熱く語らう二人。つまり俺プラスワン。

誰と話してるのとかは後で説明します。


「あの…二人共、麺延びるよ?」


そしてその場を盛り下げるノエルの発言、俺らの手元には伸びかけのラーメン。


「…とっとと胃に収めてお代わり頼むか」


「そだな」


呟く俺と同意するニューフレンド。分かると思うがコイツもトリッパー。

ちなみに、さっきの会話は「」の奇数が俺だと思え。

では回想と行こう。




***




「じゃあ昼飯食いに行くか」


「そうだね」


ノエルの能力にある程度驚いた後、何も無かったかのように家に戻る俺達。

もう予想してたんでちょっとやそっとの能力で切れたり妬んだりしませんて。


「ししょー、昼飯どこかに食いに行きましょー!」


「なんだいきなり…。悪いがこれから客人が来る予定でな、金はやるからお前らだけで行っとけ」


そんな具合で二人で街にレッツラゴーだ。…デートとか冗談でも言わんといて。

走ればすぐ着きますが、かったるいんでやや早足の徒歩三十分ほどで街に到着。その時には飢餓感が倍増。


「うう、もっと早く出発してれば良かった…」


「それは僕を責めてるのかな…?」


腹を抱える俺。苦笑いするノエル。


「んなつもりはちょっとしかないけどさ…」


「ちょっとはあるんだ…」


何所で食うかな…。もちろんラーメン屋が良いのだが、この街には美味いラーメン屋が二件あるんだよ。

向かい合うそのラーメン屋二件はライバル同士で、切磋琢磨し技量を磨き続けている。

競い合う友がいるって素晴らしいねっ。…俺はノエルより圧倒的格下だけどな! 競うとかマジ無理!


「こないだ海嶺で新しいラーメン出たみたいだけど?」


ノエルが片方のラーメン屋の名を挙げる。両方とも普段は既存のメニューの質を上げることに必死なのに珍しい。


「いや、チャーシューな気分だから泰峰で」


俺はもう一方のラーメン屋の名を挙げる。

ちなみに海嶺は海の幸中心で泰峰は山の幸中心のラーメン屋だ。


「あっちのはコッテリしててちょっと苦手なんだけどな…」


「なら二手に分かれれば良いじゃんか」


簡単なことだ。俺は変える気無いぞ?


「やっぱいいや、ボクも泰峰にするよ」


無理して合わせる必要ないのにねぇ。

…なんか今、愛とかいつも一緒とか不穏当な単語が脳を過ぎった気がするが……気のせいだきっと。

微妙にどんよりしながら活気のある市を通りかかったときだった――。


「ふざけんなテメェ!!」


近くで怒声が鳴り響いた。つーか五メートル前方で繰り広げられる光景。

そこには赤だったり右片方だけ茶色に染めた頭とか、あからさまに不良な方々約三名とそいつらにガン付けられてる人一名。

その人は金の長髪に緑の眼、覗かせる耳元にはキラリと輝くピアス。

そして極めつけは最近暑くなってきたのに平気かと心配させる灰色のロングコートな美形さんだ。多分女性か? 美少年でも通じそうだが。

ジャージ基本な俺や半そでとジーンズに薄手のジャケットなノエルと違い立派な物語の主人公っぽい。年齢は…多分俺らより二、三歳年上。


「ふざけてなんていませんて。女性取り囲んで無理やり引っ張るのはいけませんって言っただけじゃないですか」


どんな理由でこの状況になったか予想がついた。

その発言は正しいが、それはレベルEでもあったようにお前ら馬鹿ですって言ったようなもんだから。

つーかその女の人は何処に? …まあ、逃げたか。


「ぶっ飛ばすぞコラァ!!」


すごむ不良A。…駄目だ、典型的なやられ役だ。

あ、殴りかかった――。避けられたうえに足引っ掛けられてこけた。

それを見て他二名はナイフ取り出しやがった。


「チョーシこいてんじゃねぇぞ!」


「あんまいい気になってんなよ…?」


二人とも言ってる事はおんなじような意味。そして俺らから見れば隙だらけの構え。

にらまれてる人はそれを見てフッと軽く嘲るように笑う。


「おい」


「うん」


目配せしノエルはそれに答えた。…このままじゃ、あの二人がヤバイ。

…あの人、念使いだ。纏の状態だし、身のこなしも相当なもんだ。

向こうがナイフなんて取り出した時点で容赦する必要なんて無くなってんだから、死ぬぞ。

この世界に生きてりゃ人死にの二回や三回は見てんだから。

修行と称してこの辺の義をわきまえないチンピラ掃討をししょーに手伝わされたんだから。俺は殺してなかったけど、ししょーは何人か…。アレは受け入れるのに時間がかかった。


――ドン!


そう少し焦った時だった、轟音が響いたのは。


――あの人、銃なんて持ってたのか。

そう、その人のだらりと下げた右手にはリボルバーの拳銃。眼にも留まらぬ早撃ちだった。

不良BCのナイフの刀身は根元から無くなっている。拳銃から放たれた…おそらく念弾に折られていた。放出系?


「な、今何しやがった…!?」


でも、あまりの速さに二人は気づいていない。

そして、その人は懐から色眼鏡を取り出して装着しながら言った。


「別に、ただの抜き打ちさ」




……あれ、もしかしてこの人。


「あんた何処の人間災害じゃい!!」


ツイツッコンデシマイマシタ。だってあの人、絶対トライガンの読者だよ!

よく見れば、コートが赤で髪の毛とんがってたら完璧ヴァッシュさんじゃないですか、あのスタイル!


「分かるのか君!?」


そう言って瞬時に目標をスイッチして此方の手をとるその人。


「ええ分かりますとも。なかなか単行本の出ない、関西弁牧師が十字架マシンガン振り回したりヘタレどじっこ二重人格が串刺しにされたりする漫画ですね」


この世界に似たような漫画は俺の知る限り無い。


「…友と呼んでも?」


「OK、フレンド」


「はっはっは、君は何処のアンダードッグだい?」


「仙台生まれ横浜育ちの負け犬です」


「負け犬を否定しないのかい!?」


負け犬街道爆走中ですから。


「まあ、立ち話はなんですから、店入りません? うまいラーメン屋知ってますよ」


「そいつは良いな」


「え、え?」


ラーメン屋に向かわんとする俺達と分けわかんなくなって混乱するノエルと不良さんたち。


「シカトこいてんじゃねぇ!」


そう言って殴りかかってきますが、俺が引き受け顎と鳩尾に軽いパンチ入れて意識飛ばしました。

…こんなに俺って強かったんだ。

ししょーとノエルに囲まれると自分が雑魚に感じるからなぁ…。


「じゃあ、行きましょう」


「ああ」


促し、この場を去る。


「そういえば、名前は? 俺はリューク・レイオットもしくは田中浩二」


「カロ・ウラージェロ」


「ザンヤルマの剣下さい」


「このネタにもついてくるか。君とは仲良くなれそうだ」


「で、名前は?」


「クリス・バーネットもしくは山口葵だ」


「どっちも男か女かややこしい名前ですな。性別は?」


「その辺は後で背中の流しっこでもしながら確認を…」


「襲うなよ?」


「そっちこそ」


うん、性別関係なしにこの人とは友になれる。間違いない。立ち止まり、向き合って腕を交差させる。友情パワー全開。


「バローム――」


「フュージョンはしないぞ」


……ぜひとも語り合おう。

ちなみに、後ろから付いて来るノエルは最後まで分けわかんないって顔してた。




続く?




あとがき

色々馬鹿な真似しました。

そんなこんなで主人公はもう一人のトリッパーと出会いが終わりです。

性別? ノエルと一緒で今は不詳ということで。

性別分からない人たちに囲まれて悶々とするリューク…良いですね。

なんかベクトルがおかしくなってきましたが、そろそろハンター試験受けさせようかな…。

いい加減ハンターの二次創作っぽくしなくては。

ですが本編キャラとの絡みは期待しないで下さい。

きっとノエルは仲良くなってリュークはハブられるとかにしそうです。


とりあえず、返信を


>カモを背負ったネギ様

やっぱりそう思われますよね?

漫画絵なんてかなりデフォルメされてますし。

漫画のキャラは皆、ある程度ランク高い顔なんでうらやましいっすよ。


>蛙神様

ち、ちょっと、なんですかその滅茶苦茶面白そうなネタは!?

使っていいですか?

挙式は雪山でビバークしながらはどうでしょう?


>kp様

絶対絶対、俺のほうが彼女を愛しているもんねっ!

――って、リュークが言ってました。


ではこれにて





[2208] 微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/07/16 03:00

ある日、俺――田中浩二は眼が覚めたら知らない世界。


そこでの出会い、どこか見覚えのある容姿に名前。


ここってまさかハンターの世界!?


よし、本編に介入してやるぜ!


そして念の師匠との出会い。


精孔? そんなもん、すぐさま開けてもらってあっさり纏なんてマスター。


系統? もちろん特質系さっ。


そして一年経つ頃には旅団クラスの念使い。


トリップ時に容姿も極上に変わってモッテモテ。


アイツもコイツも俺のもんだ。


ピンチ? そんなもんあるわけ無い。


どんな奴も知恵と勇気で瞬殺さっ。




――という夢を見たことがある。


どうだい? 最悪だろ?


少なくとも俺は好きじゃない。


皆、等価交換って言葉を知らんのかねぇ…?


まぁ、それがテーマっつー某漫画はエネルギー保存則とか手作業だとそれにかかる時間とか無視してるから、あんま説得力無いと思うよ。


…ファンタジーにそれ言ったらおしまいだけど。


いや、俺にご都合主義が全く働いてないとは言わないよ。


親父がハンターですぐにししょーに会えたのは出来すぎだし、何か反動があるかも知れんし。


まあ、それに備えて強くなっとこうってのもあるんだけどさ…。


ちなみに錬金術師で最初に思い浮かべるのは某顔無しな司令だったりします。




微妙に憂鬱な日々


第七話




「まず、セイバーは誰がいいと思う?」


そんなクリスの問いかけ。ちなみに現在ラーメン屋を出た直後。

クリスも泰峰の味がお気に召したらしい。ちなみに両方の店が無意識のうちにラーメンに念を込めてる位だったりする。

そしてブラブラ歩きながらFateの異英霊ネタで盛り上がらんとする。

セイバーか…。主人公が剣持ってる漫画つったらクレイモアとか、からくりサーカスとか思い浮かぶ。

普通に神話とか考えろとか言うな。その手の知識は殆ど無いんだよ。

つーか両方ともインパクト弱いというかなんというか…。ぶっちゃけカエルとかの方が強そうだ。

剣…剣……。


「――ラッキーマンとか?」


…自分で言っといてなんだけど、かなりしょぼいな。


「おいおい、それって宝具は湯飲みサーベルか? 強引過ぎるぞ」


だろうね。それに宝具は幸運の星か。


「それに、強すぎるぞアイツ」


「…確かに」


幸運だけで宇宙救うような奴だ。簡単に勝ち抜いてしまいそうだな。

いや、魔力不足で洋一に戻るとかすれば緊迫感出そうだけど。

ラッキーマンの時はゲイボルグは絶対当たらず、洋一の時は狙ってもいないのに真名開放と同時にそっち目掛けて飛んで行きそうな感じ?

…ちょっと見てぇな。誰か作って…つってももう見れねぇか。アニメも途中までしか見れんかったし。

つーかよく色々覚えてるなぁ俺。


「なら、アーチャーは?」


アーチャー…それなら、アイツしかいねぇ!


「はい! 修羅の刻のアズマが良いと思います!

セイバーシナリオ準拠でやったら最高だと思いますっ!」


こうね、雹で戦ったり、でもランサーには効かなくて接近戦で戦って互角だったりとかしたら嬉しいなぁ。

そんでバーサーカーとの戦いでカッコよく散っていくんだよ、騎兵隊にぶつかって行った時みたいに。


「…弱くないか?」


「いや、無手最強の格闘技がそう簡単に敗れるかっての」


アーチャーとしては三流以下だろうけど、陸奥圓明流は英霊とも戦える事を証明してくれるはずさ。

ちなみに俺の好きな陸奥のランクは一位アズマ、二位笑穂、三位九十九だ。

え、姓は陸奥だけど陸奥じゃない奴が混じってるって? アズマは陸奥の名を継承してないって? 気にしないアルヨ~。


「バーサーカーどうやって数回殺すんだ?」


「最初は普通に戦って、最後には四門開放してそこで力尽きる」


後、凛に宝石を貰っておいてそれを投擲するとか。下手な宝具より威力出そうじゃん?


「それなら、アサシンに虎彦はどうだ?」


おお、そいつぁ良いじゃねぇか。


「そんで、不破対陸奥の夢の対決がもう一つか」


「かなり読みたい内容だな」


それ言うな。それに俺らが作ろうとしても、Fate本編は内容うろ覚えだしなぁ…。


「あの…二人とも……一体何の話してるの?」


恐る恐る尋ねる、俺らのテンションについて行けずにとぼとぼ後ろから着いて来るノエル。


「ふっ、子供にゃ分からない話さ」


原作は十八禁ゲームだからな。ならなんでテメェも知ってんだとか言うのは禁則事項です。


「同い年でしょ…」


呆れ顔のノエル君。確かにその通りです。…ちなみに、こっちの十八禁ゲームは質が悪いんだよ~。


「あの…そういえば、クリスさんは何のようでここに来たんですか?」


いい加減に話題を変えたかったのだろうノエルがクリスにそう尋ねる。


…ちっとノエルを邪険にしすぎたな。反省反省。


「べつに、さんはつけなくていいぞ? それとここに来た理由は、私の念の師匠がある人物に会うと言ってつれてきたんだ。お恥ずかしい事に途中あった人ごみではぐれてしまったんだがな」


「「ある人物?」」


「なんでも、昔の仲間で一緒に修行した友人だとか。名前は…アルバート・リンクスって確か師匠が言ってたかな」


ん、誰だそれ? この辺に住む念使いなら俺が知っててもおかしくないんだがな。ししょーのほかに二人ほどいるし…。(ラーメン屋除く)

そんな風に首をひねっていたら、ノエルが先ほどより三割増量した感じの呆れ顔でこっちに目をやった。


「…リューク、アルバート・リンクスって、師匠の名前だよ」


おお! そういやそんな名前だったな。




***




「ただいま帰りましたー」


そう言って我等が住まい、ししょーの家に帰り着く。

そして居間でししょーとテーブルを挟んで湯飲みをすするマッチョなおっさん。そう、マッチョ。

ししょーの体格がイグナシオ・ダ・シルバならば、マッチョさんはジョニー・ハリス。容姿もそんな感じ。

そう、魔術師の弟子と破壊王が茶をすすっていた!…ちっとふざけ過ぎましたな。この人がクリスの師匠か。


「ちょっと師匠、置いてくなんて酷いじゃないですか」


「ははは、露店を見ながら歩いているお前が悪い」


クリスの非難を笑い飛ばすマッチョさん。そしてワシワシとクリスの頭を撫でる。


「うわ止めて下さい親父臭くなるー」


「細かい事気にすんな、男だろ」


「これでも一応十五歳の思春期まっしぐらの乙女だと主張しておきますよはい」


「女だったの!?」


何が背中流ししながらじっくりだ。あっさりばらすなよ! もっと皆が驚くタイミングで言わなきゃつまんないだろ!?

そう言って叱り付けました。


「…すまない」


「次から気をつけたまえよチミィ」


ペチペチとクリスの頬を叩く。…何やってんだ俺。


「お前がバークの兄貴のガキか。おもしれぇなぁ」


今度は俺の頭を撫でてくる。あ、バークは俺のとーさんね。


「ま、大体分かったろうが、こいつはガロン・ハーネス。俺と一緒にバークさん――お前の親父さんに弟子入りしていたハンター仲間だ」


「そんで、三十六のむさいおっさんの癖に現在十九歳の結構美人な妻を持つ勝ち組」


ししょーの紹介にそう付け加えるクリス。


「「…えーーー!!?」」


今まで口を挟めずにいたノエル共々俺は絶叫した。後、心なしかししょーが悔しがっているように見えた。

…ししょーきっといい人見つかりますって。ししょーの外見ではなくその心を愛してくれる人はきっといます。

あ、いや、別にぶっちゃけいまいちでちょっとふけた顔だから嫁さん探しが絶望的とか思ってませんからね?

だから、そんな俺の思考を見透かして殺気ぶつけてくるの止めて下さい。マジちびりそうです。


――バン!


ししょーがテーブルを叩き大きな音を立てる。壊すのが勿体無いと思ったのかわざわざ絶をして。

纏の状態で叩いたら、いくら結構丈夫な木を使っているからといっても簡単に壊れていただろう。


「なあガロン、弟子たちも来たし、そろそろ始めないか?」


「おう、かまわねぇぜ」


そういってお二方は出て行く。


「始めるって、何すんだ?」


「知らないのか?」


「クリスさんは知ってるの?」


「――あの二人はライバル同士だったらしいぞ」




***




「すっげー…」


目の前で繰り広げられる光景に思わず感嘆の呟きをもらす。

ししょーとガロンさんの攻防は俺とは次元が違っていた。

ノエルならオーラの量でししょー簡単に超えそうだとか思ってたけど、今のししょーのオーラは普段と桁が違う。

ガロンさんのオーラも相当なもんだ。一見したオーラの量はどっちかといえばししょーの方が凄い。

ガロンさんは大柄な体躯に似合わない、鋭い無駄の無い動きでその強化した肉体を振るう。多分この人も強化系。

対してししょーは普段見ない細い鉄の棒を強化し振るい、鋭く、時にゆったり舞うような見事としか言いようの無い棒術で攻撃を払い流している。

そして俺らはグラスに注いだコーラ片手に家の壁に寄りかかり優雅に観戦中。


「うちの師匠がこれほどとはな…」


クリスもこの光景に感動しているようだ。まあ分かる。ここまで強そうに見えないもんな、二人とも。

つーかこの二人の師匠をやっていたとーさんはどれだけ凄いんだか。

あ、でもなんだかししょーがだんだん圧してきた。小さくだけど確実にししょーの攻撃が当たっている。

どうなるどうなると固唾を呑んで見守っていましたが、そのままししょーの隙を突いた一撃が顎を叩き、ガロンさんはダウンした。

一撃一撃に妬みとかいろいろ混じった禍々しいオーラが籠められていたけど…気にしない方向で行こう。

ししょーは勝った筈なのに全く嬉しそうな顔をしていなかった。戦いとはかくも空しい物なのか…。


「…ほれ見てみ」


突然そう言ってクリスは俺たちにそのグラスを見せつけるように持ち上げる。そして練。

…おお! コーラがたちまちブルーハワイみたいな色に!

でもなんでいきなり?


「いや、なんとなく。二人はどうなんだ?」


「ボクはコーラが煮立っちゃうから…」


苦い顔をするノエル。


「俺も、コーラの量が減っちまうしなぁ…」


どうせ強化系なら増えろっつの! ノエルは生きた瞬間湯沸かし器になってかなり重宝しているというのに、俺ってば役立たずっ。


「二人とも特質系? ずいぶんと珍しいな…」


驚愕と呆れ五:五な感じの微妙な表情なクリス。


「おいおい、俺は強化系だぞ?」


水量変わってんだから。


「いや、何を言っているんだ? 強化系は水の量が増えるだけだろ。減ったら特質だろ?」


へ? はい? 俺って特質? でもおかしくね?

オーラの量でノエルに一回り負けてんのに、なんで組み手で身体能力互角なんだ?

ノエルに目をやる。もしかして、手ぇ抜いてるのかこいつ?


…一体、どういうこと?




続く?




あとがき

リューク、特質疑惑?の巻き~ってな感じでした。

感想でなんか強化は水増えるだけとかいう指摘があったんで急遽こんなオチにしてしまいました。

このまま、強化ということにしておくか、それとも特質にするか悩み中。

ちなみにどっちになっても物語は変わりません。殆ど変わりません。

ですのでどっちが良いと思うか気軽に言ってくれれば嬉しいです。ひとりじゃ決められません。

ぶっちゃけどっちでもいいことですから…。


では返信を


>Iris様

指摘有難う御座います。

とりあえずこんな展開入れてみました。

これからもよろしくお願いします。


ではこれにて




[2208] Re:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/07/16 03:01




あ、え~と、山口葵ことクリス・バーネットです。


ややオタク寄り平凡な高校生やってたんですが、ある日いつの間にか赤ん坊やってた、おそらく転生トリッパーな感じです。


なんでこんな見知らぬ土地で生きてんだろとか思いつつ成長してたら、聞き覚えのある地名がいくつかあったり。


そして大胆な仮説に至った。


…ここ、もしかしてハンター世界?


そういや文字もどことなくそれっぽいし、ハンターって職業もあるようだしと多分そうだと思った。


あんまし嬉しくなかったですが。


私は腐のつく女子じゃありませんしー。


私の所属していた漫研には結構いましたが、私はこんな体験しても本編キャラとお近づきとかしたくありません。


からくりやトライガン、果ては仮面ライダースピリッツでやおいはイヤだったなぁ…。


というか、どうせならザンヤルマの剣士の世界に行きたかった。


あの世界なら、オーキスムーブメントに洗脳される人でも悔いは無かったのに…。


とりあえず平凡な生活をしていて、大きくなったら親の経営している古書店の後でも継ごうかなでもあんま儲からないんだよなと考えていたら、ある日姉が近くに引っ越してきたハンターと電撃結婚。


驚いた、めっさ驚いた。ちなみにその時私は十二歳。


三十代で十六の女と電撃結婚するおっさんのロリコンっぷりにめっさ驚いた。


これで一生安泰だとほくそ笑んでいた姉の黒さには…あんまり驚かなかった。


そう、ハンターは基本的に儲かるのだ。


だから、ハンターになりたいんです弟子にして下さいお願いしますお兄ちゃんと頼んだら即OK。


ロリコンだし、おそらく妹属性も効くだろうと思えば予想通り。


決め手は上目使い。


前世のギャルゲー好きが功を奏した。


そんなこんなで弟子入りし、一年基礎体力作りに費やし、次に念の修行をスタートし後に放出系と判明したりして、月日は流れた。


そして、トリッパー仲間の同志リュークとの出会い。


一緒に同人で世界征服目指そうとかネタに走りたくなったら、先に言ってくれた位の波長の合いっぷりだ。


今はこの友との出会いを神に感謝しよう。






微妙に憂鬱な日々


第八話






「あーすまん、そういやそうだったな」


改めてししょーに尋ねれば、強化系は増えるだけ。俺様リューク・レイオットは特質系だと判明。

ちなみにその時ししょーはガロンさんを家に運び込み、顔に落書きしている最中でした。

いや、そういやそうだったってね、系統の判別は念使いの修行の方向性を決める大事な要素でしょう?

それを勘違いってねぇ…。

そう思いっきり怒ってやりたいが、ししょーには強く言えないので不貞腐れます。

強化だと思ってその方向の修行しまくっちまったけど…大丈夫かねぇ?

つかさ…。


「ノエルめ、貴様やはり手を抜いていたんだな…」


なんかふつふつとこみ上げる怒り。イジケながら家の傍のボーボーの草むらでしゃがみ込みのの字を書く

別に全力でぶつからないなんて男じゃねぇとか言う気はありませんが、惨めさ当社比二倍にアップ。

つかどーせ手ぇ抜くなら負けててくれよとか思うんだけどどーよ?


「だーかーらー、手抜きなんてしてないよ」


背後から聞こえる半泣きなノエルの声。

フン、信用できるか。物語の主人公はいつもそんな偽りの優しさでモテモテなんだ。

IZUMO2もそんな感じだったな…体験版しかやってないが、アニメは見た。

俺の立場はそんな感じ。え、テメェあんなに美形じゃないだろって? …惨めさ五倍だやっぱ。


「あーちょっと確認したいんだが…」


「…何だい、フレンド?」


恐る恐るといった感じで声をかけてくるクリス。

何だ? 惨めな俺を嘲笑いに来たのか?


「お前とノエルは両方特質系で、オーラの量はノエルのほうが上。それなのに普段の組み手は互角だったと」


「互角じゃねぇ、いつも俺の負けだった」


身体能力は微妙に俺のが上だったが、技量が違いすぎるんだよ。


「…とりあえず、身体能力に大きな差異は無かったんだろう?」


「とりあえずはそうだった…」


「なら、お前はそういう能力なんじゃないのか?」


「あ…」


確かに、俺の能力はどんなんだか未だに不明だったんだよな。

俺の能力って、もしかして全ての系統が使えるとかそんな感じ?

ならばオッケー!!


「ということはアレか? ようやく俺にも主人公最強的な役が回ってきたのか?」


「多分それは無理だろう」


復活して立ち上がった直後に再び打ちのめされる。今度はクリスにやられた。


「畜生…」


わかってたさ、俺の能力がどんなのだろうとノエルを上回る事は一生無いと。

もう既に負け犬確定な俺。でもそんなあっさり言い切るなよ!?


「少々飛躍した仮説かも知れんが…お前の能力は、系統を変えられる事じゃないのか?」


「系統を変える?」


「そうだ。今まで強化と思い込んでいたために無意識のうちに自分を強化に切り替えていたと考えれば、筋は通るだろう?」


ちぃと強引ではないですか? …でも、Vツールの修行していた時も案外スムーズに行ってたし、その時変化が良いなぁと思わなかったわけでもないし……。

もしかして、あの時変化系になってた? そう考えれば辻褄が合わんわけでもないな…。


「まあ適当に言っただけだし、そこまで考え込まれても困る」


「いや、試してみる価値あるかもしれん。――ノエル」


「な、何?」


「腕相撲だ」


とりあえずテーブルのある室内にゴー。




***




「さあ、二人とも準備はいいか?」


「おう」


「うん、いいよ」


居間のテーブルを挟んで向かい合い手を握る。俺らの体には少し大きいんでやや乗り出す感じで。

腕相撲の審判はクリス。ついでにテーブルが壊れないように強化してくれている。

さっきチラッと見せてくれたクリスのオーラ量は俺以上ノエル以下だし、元々丈夫らしいからテーブルに攻防力百割り振ってくれれば壊れる心配は無い。

…ノエルが嘘をついていなかったらの話だが。

思い込め、俺は強化強化強化…今日か今日か…教会に行くのは今日かい…?

…俺の脳が狂化してる気がするがキニシナイ!


「はい、いっせーの――」


よし、練。


「「「――せっ!」」」


――ドン!


………瞬殺でした。




「…ふふふ、どうせ俺なんて俺なんて……」


イジケながら部屋の隅っこでザ・体育座り。…長時間すると尻が痛くなりますよね。


「え、え!? ぼ、ボクちゃんといつも通りにやったよ? なのになんで!?」


「ちゃんと切り替えが出来てなかったのかも知れないな」


クリスが仕方ないと言いつつごそごそと自分の服から何かを出す音が聞こえた。


「ほれ、これを見ろ」


そう言われ振り向けば、そこには五ジェニー玉…言いづらいな。

その硬貨を俺の目の前でユラユラと揺らす。


「あなたはだんだん眠くなるー」


「…おい」


催眠術ですかい。そんなもん効く訳……あれ、意識が…。


「クリスさん、今オーラ飛ばしてました…?」


「ああそうだ。――ではリュークさん、あなたは今落ち込んでいる…そうですね?」


「はい…」


「でも、これから私が手を叩く度にだんだんと元気になってきます。三回も叩けばいつも通り。――はい」


――パン、パン、パン


…あれ、なんだか気持ちよく……。


――パン、パン、パン


「…え、ちょっとクリスさん!?」


――パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン


「ちょ、なんでそんなに叩いてるんですか!? リュークが元気通り越して恍惚状態になってますよ!?」


「――すまん、前に師匠にやった時のノリでつい三三七拍子を…」


「うふ、えへへ…オクレ兄さぁん……」


「誰それ!?」


「懐かしいネタだ…」


「アホな事言ってないでちゃんとやって下さい!」


「分かった分かった…。では気を取り直して、リュークさん、あなたは今とても元気です。ですが手を叩くとだんだん今度は落ち込んできます。三回叩けばいつも通り。――はい」


――パン、パン、パン




「…ノエル、そんなに強く腕を掴まないでくれ」


「ごめんなさい、またやりそうな気がしたんで…」


「鋭いな」


「――っておい!」


「すまんすまん…。リュークさん、あなたは特質系で、自分の系統を自在に変えることが出来ます。次に手を叩いたら、あなたは強化系に自分を切り替えます。いいですね?」


「はい…」


――パン


「はい、これであなたは強化系に切り替わりました」


「はい…」


「では、そのままさっきしたようにノエルと腕相撲をして下さい。力とオーラはさっきと同じ量で…いいですか?」


「はい…」


「じゃあノエル、やってみろ」


「あ、はい」




「はい、ではいっせーのーせっ!」


「う、さっきより強くなって…」


――バン!


「はい、リュークの勝ち。仮説は正しかったな。――ではリュークさん、次に私が手を三つ叩いたらあなたは催眠状態から戻り、眼が覚めて普段通りになっています。眠っていた時ノエルと腕相撲をして勝った記憶だけはしっかり残って、後は忘れてしまっています。――いいですね?」


「はい…」


――パン、パン、パン


そこで薄れていた意識が覚醒した。


「今俺…」


「ノエルと腕相撲して勝ったけど?」


「…覚えてる」


俺の能力は系統を切り替えられる事か…。微妙だな。


「良いな、お前の能力。やり方次第じゃ最強じゃないのか?」


「…つっても、ただ複数の能力を覚えてもただの器用貧乏で終わりそうだな」


「それは自分で考えろ」


「そだな。…あ、ノエル、さっきは言いがかりつけてすまんかった」


今考えるとかなり滅茶苦茶な事言ってたな。


「…いいよ、もう」


苦笑いしながらノエルは許してくれた。




ちなみにその後、ガロンさんは目覚めて顔の落書きに気付き、ししょーとの第二ラウンドが始まった。

なんでも、最近鍛錬サボりがちだったせいで鈍った勘が戻ってきたとかで、さっきよりもすさまじい接戦だった。

そのまま夜中まで続いていたが家の前でドカドカうるさくて、クリスが戦いで弱った二人に念弾打ち込んで黙らせました。

ちなみにそのまま一晩放置。クリスには俺の部屋を貸し、俺は予備の布団敷いてノエルの部屋で寝ました。

翌朝目覚めたししょーたちは昨日の記憶が飛んでいて、そのまま引き分けだったとごまかして一件落着。

後、何故か知らんがノエルは夜によく眠れなかったらしく、俺は自分の貞操に微妙に危機感を抱いた。




続く?




あとがき

はい、強引な展開だとか自分でも思いつつ終了。

リュークの能力は系統を切り替えるで決定。

つーか予定より話がぜんぜん進んでねぇー!

このままだと、ハンター試験受けるの十話くらい先になっちまいます。

つーわけでこのままダラダラでいくか、やや縮めてダイジェストチックにやるか、全部すっ飛ばしてハンター試験受けさせるの、どれがいいでしょうか?

意見お願いします。ですが、何度も言ってますが本編キャラとそんなに仲良くなる予定はありません。

あと、クリスの能力を簡単に説明しておきます。


自動装填される敵意(クイックローダー)

愛用の拳銃に周をして腰のホルスターに収めると念弾が装填される。

念弾は一回だけ弾道を曲げる事が可能。

射程、威力は念弾装填時に割り振ったオーラの量で決まる。

まだ完成度はそれほど高くなく、現時点では全オーラを割り振っても威力は狙撃用のライフルをようやく超えられる程度で、熟練の能力者には全く通用しない。

拳銃から念弾を放つという設定にしたため精度は飛躍的に上がったが、おかげで威力を上昇させるイメージが阻害された結果である。


押し付けがましい催眠術(スリープコイン)

これまた愛用の五ジェニー硬貨に念を籠め、そこから対象に放出しながら催眠術をするとややかかり易くなる、それだけの念。

TVの特集を見て試しにやってみたら出来た能力。

それほど劇的な効果は無く、あまり役に立たない。

ガロンやリュークには効果が抜群だったらしいが、それは二人が元々単純で影響を受けやすかっただけの事。


――こんな感じでいかがでしょう? ちなみにどっちにも誓約とかはありません。

だからあんまし強くない能力にしたつもりなんですが、指摘あったらお願いします。


では返信を


>烏竜茶様

鬼一ですか、どんなクラスにすればいいか悩みますな。

ですが、バーサーカーに弁慶持ってきて『まさかこんなところで続きが出来るとはな…』展開とかよさげです。

後、デモンベインは分かりますがワイルドアームズは分からないんですよ、すいません。


>名無しの権三郎様

陸奥の技はちょっとだけ一発ネタとして使うくらいなら考えてありますが、ずっと前に読んだ漫画の技を実戦で再現はちっと無理あるだろと思い、実戦では使わせる予定は今の所ありません。


>kp様

リュークの能力はこんな感じです。

自分で言うのもなんですが、案外まともな能力ではないかと思っています。

あと、ラッキーマンを英霊で出したら最強男爵も必須だと思うのは私だけでしょうか?

三角関係になるかは…これからの意見次第という事で……。


>蛙神様

能力の系統は、強化は強化、特質は特質できっちり区分けされてると思います。

パームもおそらく占いの強化という曖昧な物ですがコーヒー増えてましたし。


>Iris様

ふふふ、行き当たりばったりなこの話ではこんなイレギュラー、むしろネタとして大歓迎ですよ。

…ゴメンナサイ嘘です。今回たまたま思いついただけで次は上手くいく可能性低いです。

ちなみにペプシブルーと化したコーラはクリス本人がちゃんと飲みました。


>sin様

お目が高い。リュークの駄目ぷりがこの作品最大の目玉…のつもりです。

とりあえず頑張るんで何卒よろしくお願いします。


>syun様

お気に召したようで何よりです。原作キャラ出しても欠片程度で終わりそうです。

リュークの能力はこんな感じでしたが、虚しくなるかはこれからの彼次第という事で…。


>古様

ほら、Fateは人気でしたから……駄目ですか?

トリップ物書いて本編ネタ全く出さないのは私くらいでしょうね。


>さるびす様

此方からもとりあえずひと言。

面白いって言ってくれて有難う御座います。

期待に沿えるようこのまま突っ走りますんでヨロシク。




…しかし感想がこんなに来るとはびっくらこきました。

本編よりも返信で悩みましたよ…は大げさですな。

蝶嬉しかったです、有難う御座いました。




あと、心底どうでもいい事なのですが、ゼロの使い魔で召喚されたのが老人だったらどうなったろうとか、これ書きながら妄想してました。

平民ならばと年寄りを労わりも尊敬もしないルイズにこき使われて『最近の若いもんは…』等と愚痴ったり、ギーシュさんも労わるどころか決闘を仕掛ける始末。

力に目覚めて勝利するが、その代償はぎっくり腰というあまりに大きなものだった…!

そしてキュルケも流石に老人はスルーで、唯一労わるのはシエスタのみ。

元の世界でもリアル孫には会うたびに金寄越せしか言われていない老人はシエスタと仲良くなり、異世界で真の安らぎを得るのだった…。


…どうでもいいですねゴメンナサイ。

万が一このネタを使いたいって人がいたら、使いますって書き込みしてくれればオッケーです。

では、一巻しか持ってない、最近いばら姫のおやつが好きな圭亮でした~。





[2208] Re[2]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/07/25 01:34

――ピキピキ


この身の奥に刻まれた呪いが壊されていく、そんな音が聞こえた。




「――あなたなんかを愛している存在なんて私以外有り得ないの、解る?」


目の前の魔女はそう言いながら足元のそれを踏みつける。


――止めろ! それ以上お前がそれに触れるな!!


「だってそうでしょう? あなたを愛してるなんてほざいたこの人形はもう動かない」


――止めろ! そいつは人形なんかじゃない!! …誰より人である事を望まれた、僕の…大事な人だ!


――人として笑わせるって約束を託された、大事な友達との絆なんだ!


あの子は守るって約束したのに、もう動かない。


動きたいのに動けないで、ただ這いつくばるだけ。


「私が憎い? そうでしょうね。でも、あなたがいけないのよ? あなたのその想い、愛も憎悪も全部私だけに向けられるべきものなんだから」


――うるさい!


「何故解らないの? 前にもあなたの周りを這い回っていたメス豚を処分した時に、ちゃんと教えてあげたじゃない!」


――うるさい!


「今度はこれを人間にしてあげるなんて馬鹿な約束をしていたらしいけど、そんな瑣末なものに捕らわれないで。その心をただ私にだけ向けていればいいの」


――……うるさいよ。


ふつふつとこみ上げてくる、憎しみが。


そして…それと同じくらい、哀れみが。


――結局、コイツはこんな方法で僕の目を向ける事しか出来ないんだから。


だからこそ…腹が立つ。


『アイツに笑って欲しかった…それだけなのに……』


『なぁ…頼む、いつかアイツを笑わせてやって……。アイツを、守ってやってくれ…』


――こんな女に、約束が汚された。


「…駄目だよ、ゲス女」


でも…。


でも一つだけ、約束守ったよ、昴。


「あの子はね…最後に笑ってた」


搾り出すように、


「あの子は最後に、僕に笑いかけてくれた」


忘れないように、


「それでね…僕に、愛してるって言ってくれた」


それはこの身に刻まれた呪いだったけど、


「僕に…生きててくれって言ってくれた…!」


――僕はそれを絶対離さない。




一つ目の呪いは、母親に刻まれた。


――僕は必要ない人間だという言霊。


二つ目の呪いは、自分で刻み込んだ。


――達也と翼の二人の邪魔者だったという事実。


三つ目の呪いは、この女に刻まれた。


――僕を愛してくれる人なんていやしないという狂気。


そして……今刻まれた想い。


もう動かない小夜が、僕に残した呪い。


『海様…あなたを愛しています』


『貴方はきっと信じてくれないけど、誰よりも貴方を愛しています』


『ですから…どうか、どうか生きていて下さい。貴方だけは…貴方には、生きていて欲しい……』


それは、他の全ての呪いを消し去って更新された新たな言葉。


僕の心の深くまで突き刺さった優しい刃。


――生きる、ただそれだけ。


僕は…生きよう。


それが貴女の望みなら。


僕は、笑ってそれを受け入れた。


あの魔女を殺すためではなく、小夜の言葉を忘れないために生きる。


呪いは、完全に僕の中に溶け込んだ。




「――こんな感じの展開なんだけど、どうよ?」


「微妙に重い、却下」


「MA・JI・DE!?」


俺、リューク・レイオットが長年温めていたノベルゲー用長編ファンタジー(舞台は前世に居た現代日本)がクリスにあっさり没にされた日のこと…。


そんな日のこと…。




微妙に憂鬱な日々


第九話




「第一にラブ臭が薄いんだ。それに、萌えキャラが少なさ過ぎる」


「いや、基本まじめな話だから、下手に狙ったキャラ入れると話作り難くて…」


「だからって、主人公に近づく女をひたすら妬む魔女やら、主人公がアウトオブ眼中なゾンビ幼馴染は絶対駄目だと思うぞ。というか、こんな話をギャルゲーにしようと考えるな」


「べ、別にギャルゲーに限らなくても、ノベルゲームとして…」


「ただでさえノベルゲームが少なめで勢力の小さいこの世界で勝ち抜くには、ある程度は狙ったギャルゲーにしないと無理だろう? 実績を積み上げずにそんなもの作ってもおそらく無駄。酷い言い様だが、売れなくては伝説には残らないのだよ」


「…ちくしょー! 駄目駄目か!? 俺クズか!?」


「あ、いや、全体暗めだったが、そこまで悪い話じゃなかったし、もう少しテンポのいい感じにしたら次の次の作品位に採用してもいいぞ?」


いじける俺に微妙なフォローを入れるクリス。まあつまり、クリスも勿論参加するわけですよ、ししょーと結成したギャルゲー作るぞ同盟に。

で、クリスはかなりの画力を持っているので我等の要になるであろう。普通にスクールデイズからクレイモア風の絵まで修めている。

あと、背に鬼の顔を持つ地上最強の親父の絵も上手かった。


「…だがクリス、君がいてくれてマジ最高だよ…」


これで、VSのような悲劇は免れる。アレはいくらなんでも酷かったよ…。

ただでさえ地味な展開の多めで微妙な改造人間の話に、どちらかと言えば美少女物に向いてるBL同人作家を起用だなんて…。

全部絵のせいなわけではないけど、『よく見ると最終巻の表紙で次郎の指が…』の時は沈んだよ。

…やばい、余計に落ち込んでいくよこのままじゃ。


「まぁ、時間はあったしかなり練習したしな、これくらいは何てことない」


と言いつつどこか誇らしげになっている。

とりあえず、話は脳内ストックからコメディタッチのを引き出して、それをベースに作る方向で。

あと、ししょーも参加できるようにある程度余地を残しておかないとな。

え、ししょーはって? なんか長期の仕事があるとか言ってガロンさんと旅立ちました。

ガロンさんは請け負った仕事が思ったよりムズそうなんでししょーに応援を頼みに来たとかで。

どんな内容かは知らんが、結構かかるとかで、既に一ヶ月は経過しています。

それでようやく会議開始は遅いとか言わんで。いままで俺の部屋貸してノエルの部屋使ってたけど、クリスと一緒の部屋で寝た方が俺の精神衛生上いいって気付いたのは数日前なんで。

そんなわけで今は俺の部屋でクリスと一緒に夜少し話した後寝てる感じ。床で寝るのとベッドで寝るのは一日交代。

昼間は普通に皆で修行だしね。ちなみに今日は俺が床に布団敷いて寝る。この家が土足OKじゃなくて良かったよ。


「…なんか眠くなってきたし、そろそろ寝るべ」


「ああ、お休みリューク」


「おやすみ~」


「……でもリューク…」


「ん? 何だ?」


「一人称ボクの老婆はいくらなんでも無しだと思う」


えー! アレお気に入りのキャラなのにー。




***




「Vツール!」


そう言って腕からミョイーンと伸びる細い棒状のオーラ。それは螺旋の起動を描きながら進み、俺の五メートルほど前の地べたにおいてある空き缶に突き刺さる。


「おおー」


パチパチと手を叩くノエル。ふ、つまらぬものを刺してしまった。

まあ、現在家の傍の森で自分たちの能力品評会みたいなものをやっているわけです。


「次は私だな」


身構えるクリス。その前には六つ並べて置いてある空き缶。

そして次の瞬間轟音が響き、六つの空き缶は同時に舞い上がっていた。

いや、ちゃんと俺たちの目はクリスが銃を抜いて連射するのを捉えてたよ?

一般人はおそらくそんな風に見えると解説してみましたな感じ。でも凄いね~。

銃からオーラを放つイメージを定着させるために実弾でかなり練習したって言うし。

そのくせ精度だけで威力がいまいち上がらないって話だけど。

確かにこの世界じゃ拳銃っていまいちなイメージがある。

どこぞの盗賊団のマッチョは普通に無傷で済んでるし…いや、あれはいくらなんでも極端か。

でも、トリッパー達はよくもまああんな大量殺人鬼の集団とお近づきになりたいなんて言うよな…。


「見事だクリス。お前はきっとのび太クラスの銃使いだ」


「…もうちょっとカッコいい褒め言葉は無いのか?」


何故? この上ない褒め言葉だと思うのだが…?


「…のび太って誰?」


ノーコメントだよ、ノエル。


「だが、お前のVツールもだいぶ仕上がってきたな」


「んーにゃ、まだ駄目駄目」


「どうして? だいぶスムーズに動いてたのに」


いやいやノエル君、それだけじゃ駄目なのだよ。

俺は何も言わずに傍に落ちている直径十センチほどのちょい大きめな石に右腕を向ける。


「Vツール!」


腕から伸びるオーラがその石に巻きつき持ち上がる。

――が、一瞬でオーラはグンニャリと曲がりそのまま石は地に着く。


「重いもの、全然持てないんだよ…」


「それはキツイな」


こんなんじゃ多機能ツール語れないよ。三巻でS1を引っ張ってたのに…。

原作のVツールが何キロ支えられるのか分からないけど、最低でも人一人持ち上げるくらい余裕で出来ないとただのロープだっつの。

それに…。


「見てみ」


オーラを硬質化させるイメージ。そのままVツールを真っ直ぐ伸ばして簡易な警棒に変化させる。

そしてそれで近くの細い幹の木をぶっ叩く――。




「……頑張れ」


「ああ…」


微妙に哀れむようなクリスの声。

叩いた木には傷一つ出来ず、警棒モードのVツールは中頃から折れ曲がっていた。

変化系に切り替えてても、普通に棒を強化して殴った方が強いし…今度、ししょーに棒術教えてもらうかね。

あ、系統の切り替えは結構簡単に出来るようになれました。まだ強化と変化のみですが…。

もしかしたら、それ以上の切り替えが出来ない能力かもしれないし…。まだいまいちつかめないな。


「――そういえば、ノエルの能力はどんな感じなんだ?」


そう尋ねるクリス。ノエルは俺と同じ特質系。

確か、相手のオーラを分解して自分に取り込む事が出来るとか…だっけ?


「あ、うん。ボクも大体形になってきたよ」


そう言ったノエルの手は、いつの間にか指先の部分の無い艶のある黒い皮手袋に覆われていた。


「ねぇリューク、ちょっと練をしてみてくれない?」


「うぃ、了解」


ノエルに言われるまま練をする。そしてノエルがその膨れ上がったオーラを掴むように触れる。

触れた部分のオーラはそのまま綿菓子のように掴み取られた。

うん、前に見たのと同じような感じ。…でも、そうするとあの手袋の意味が分からん。

単に能力発動のキーか?


「ほう…」


初見のクリスは感嘆の声を上げる。ま、そうだろな。


「確かにオーラを掴める能力は凄いが、いまいち使い勝手悪そうだな」


そういやそうだ。ダメージとか与えられる能力じゃないしなぁ。


「いいや、違うよ。オーラを掴むだけじゃない」


やや得意そうに言ってノエルは手に握っていた俺のオーラをこね始めた。

そして、それを細い棒状に伸ばし、自分の腕にくっつけた。


「…うん、こんな感じかな」


だらりとノエルの腕にぶら下がるひも状のオーラ。

Vツールに似てる気がするな……まさかね…。


「よし、伸びろ!」


掛け声と共にその垂れていたオーラに活が入りウネウネと動き出す。

だが、五メートルほど伸びたところで力尽きたようにボタっと落ちた。


「うーん、やっぱ変化系の真似は無理があったかな。構成も少し荒くなっちゃったし…」


…え、やっぱ今のって、Vツールですか? あ、えあ、えっと、どういうことですか!?


「…今のは一体どういうことなんだ?」


やや錯乱気味な俺の代わりにクリスが挙手して質問した。


「ボクの能力は、オーラの構成を見て分解できる事だったんだけど、並べ替えて自分に組み込めたし、もしかしたら組み立て方しだいで他の能力とか再現できないかなってちょっと色々試してみたんだ」


おいおい、ちょっとまて…。


「師匠がオーラで肉体強化するときも、オーラの隙が無いって言うか、うまく鎧みたいに編みこまれてて、ちょっと真似してみたら少しだけ体が軽くなったし」


いやいや、だからさ…。


「一度構成を見た能力なら、誓約とかが無い限りはちょっとした真似出来る自信あるよ。リュークのアレは変化だから相性悪くていまいちスムーズに行かなかったけど」


……ははは、何それ? じゃあ、今即興でVツール真似られたわけ!?

いい加減にして下さいよこの主人公最強主義野郎!


「……うわーーーん!!」


なんか居たたまれなくなって俺は森の奥へ走り出した。


「ノエルのバーカ! お前なんてBLで団長に尻から犯されちゃえばいいんだーーー!!」


嫌な捨て台詞も忘れずに吐く。


「ちょ、何ワケ分からない事言ってるの!?」


「ああ、お前は受けっぽいしな」


「いやだからアンタも何言ってんの!?」


はるか後方でアホな漫才を繰り広げるノエル&クリス。

クリスが相手だとノエルの突っ込みがどことなく乱暴になるなぁ。

というかさ…。


「…追っかけてきてくれてもいいじゃないかーー!」


惨めさアップじゃこんちくしょー!!

俺こんなんばっかりか? 毎回こんなお決まりパターンか!?


数時間後、俺は森の深くで木に寄りかかって体育座りしながらドナドナ歌ってるところをノエルに発見されて家に帰った。

自分のホームグラウンドのはずなのに、迷って途方にくれていたところでした。

ちなみにクリスはその頃家で緑茶をすすってやがりましたよおい。

とりあえず、そんなぶっちゃけいつも通りの日でしたよ。




続く?




あとがき

はい、『いい加減いじける以外のリアクション取れよリューク君』の巻でした~。

最初のアレはオリジナルでだいぶ前に妄想していたやつから持ってきたんだったりします。

ノエルの能力は使い方しだいで反則もんだよなぁと自分でもなんとなく思ってみたり。

ちなみにクリスの『自動装填される敵意』はノエルじゃ真似るのはちょっと難しいです。

放出とも相性が悪いですし、使い込んだ愛用の銃を使っているのでその補正によって精度が上がっているところがあるので。

それを考えると、操作系の能力は相性よくてもあんまし真似られませんね。

他の特質も能力が複雑で真似できないと言う感じの設定です。

それと、ノエルには大したものじゃありませんがもう一つ能力を考えてあります。

まあ次辺りから、そろそろハンター試験に向けてリュークたちを少しづつ動かそうと思います。

相変わらずオリジナル満載ですがよろしかったら読んでやって下さい。

次は腐女子トリッパーとか出したら面白そうだなぁとか思っている圭亮でした。


では返信を


>烏竜茶様

ようやくライフル超えられる程度でそれは難易度高すぎですって!

ちっと特殊な効果が付加された弾程度はこれから使わせる予定ですが。


>ge-saku三昧様

とりあえず、今はVツールだけです。

これから少しずつ増やしていく予定ですが、あんまし思い浮かばないんで三つくらいで終わりそうな気配です。

あと、天にひとしいの如意棒は万能すぎると思います。


>あろんα様

えー、貴方様の仰るとおり、「個性的で面白い」=「変でどこか頭おかしい」になっているのは否定できません。

ですがこのまま突っ走る予定なので、そこまでお気に召さなかったのなら、もうこの作品を記憶から削除する事をオススメします。


>糸杉様

ええ、好きなだけニヤリってして下さい。

分からないネタは言ってくれれば解説もしますよ。

これからの展開は他の方もこのままで良いと言う意見がありますし、しばらくこのままでいきます。


>さるびす様

クリスの姉さん…出した方がいいでしょうか?

実はまだ名前も考えていなかったりします。

…リュークは、一度に一つの能力でアップアップな感じですかね。

これからの展開は上にも書いた通り、ハンター試験までもうしばらくダラダラやっていきます。


>しばかり様

ども、楽しんで頂けているようで幸いです。

え、ですがクリスの性別読まれて――ゲフンゲフン!

口調についてはキャラを立たせるためにやったんであんまし深く考えてません。

ギャルゲーの名作を作る会は未だにサークル名も考えないまま迷走中。

この先どうなるかは作者も分かりません…いや、アホですね。


>至玖様

いやいや、これでも筋書きをちゃんと考えてから書き始めてるんですよ?

ただ、それ以上にその場のノリでネタに走る事が多いだけです。

…ごめんなさい、そこが行き当たりバッタリなんですよね。


ではこれにて~。




[2208] Re[3]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/08/16 03:36






「そういやクリスー」


「何だ?」


「いやさ、初めてやったギャルゲーって何?」


現在わたくしリュークはクリスと部屋で夜会話中。気分はサモンナイトの主人公。

確か、アレがきっかけでギャルゲーに興味持ったんだよな…。一周目はクラレットエンドだったな。

しばらくしてある意味覚醒後、再びやって今度はラミでひたすら夜会話してたな…。

…え、俺ってこのままだとクリスエンド?


「え、サモンナイトってギャルゲーじゃなかったのか?」


おいおい、確かに近いものがあったけどよ…。新しいのが出るたびに近づいて言ってる気もするし…。


「初めてやったのはサクラ大戦だな。その後Kanonで本格的にはまった。中三の初め辺りだったかな…」


ふむサクラか…。俺は広井王子ではそっちより火星物語が好きだったんだがな。


「ああ、あのヌルゲーか」


いや、そう言うなよ。確かに分岐全く無くて、戦闘も殆ど避けられないものだけでレベル上げすら必要なかったけどさ。


「で、そっちが初めてやったギャルゲーは?」


「ん、メモオフセカンド」


「無難な所だな。…で、やったのはいつ頃だ?」


「中二のクリスマスイブ」


「………」


「いやいや、そんな哀れむような顔は止めてよ~」


いやはや懐かしい。友達と一緒に過ごす予定が、奴ってばいきなり彼女こさえてドタキャンしやがったんだよねー。

その夜は親戚に貰った藁納豆が大活躍したよ。なんに使ったかは秘密さっ!




…そういやここ数日、ギャルゲー制作の話ぜんぜんしてねぇな。






微妙に憂鬱な日々


第十話






「そうだよ、こんなとこで立ち止まってちゃいけねぇだろ!!」


「リューク、いきなりどうした?」


「だって俺ら最近ギャルゲー作成ぜんぜん進んでねぇじゃん!」


「なら、話の基礎は出来たのか?」


う…それを言われるとキツイ。

コメディタッチの話のアイデアは無いわけじゃないけどさ…。そんなに練りこんでないんだよ。


「そ、それにししょーが帰ってこないうちから話し進めるのやっぱ抵抗あってさ…」


「なら帰ってくるまで待つしかないだろう」


だがな…何もしないでいるってのも……。


「それなら、内容以外のことを話し合うとするか」


「内容以外?」


「そう、具体的にどうやってギャルゲーを作るかだ」


「あ、そんなら大丈夫」


ギャルゲーを作る事を決めた時にししょーと話し合い、様々なサイトやギャルゲーを調べた結果、最適なソフトを見つけたのだよ。

そもそもちょっと前に流行ったミステリとかのノベルゲーム用に作られたソフトなんだけどよ、いくつかのギャルゲーメーカーも使ってるし。

有料だがそこまで値が張るわけでもないので、これで行こうということになったのさ。


「音楽は?」


「ふっ……ごめんなさい」


てへ、土下座しちゃった♪ …いやキモイね俺。


「言っておくが私に期待するなよ」


ええそりゃ分かってます。しばらく一緒に暮らしてたらイヤでもわかりますよ、鼻歌とかで。


「ま、全く当てが無いわけじゃないんだ」


「と言うと?」


実はお世話になってるサイトの管理人さんが結構いい曲作るんだよ。

以前チラッとチャットで話したとき、二、三曲位作ってくれるとか言ってました。


「…それ、社交辞令じゃないのか?」


「え…!?」


音楽の件は白紙に戻りました。




***




「ところでクリスさんや」


「何だリューク?」


「いや、暑くないの?」


只今、街に下りて食料やらの買出し中で、昼下がりの市場をクリスと一緒に歩いています。ノエルは家で夕食のシチューを作リ中。

今は三月なんですが、この辺は今が暑さのピーク。なのにクリスはコートです。暑苦しいです。流石に修行の時は脱いでますが。

つーか下に半そで黒Tシャツとか着るならコートなんぞ羽織るな。あんたはどこぞの高校生私立探偵か?

ちなみにヴァッシュのアレみたいな色眼鏡は戦闘時にのみ着用するらしいです。


「そんな感じだ。これは私のポリシーみたいなもんだな」


「見てるこっちが暑いから脱げ」


「女に向かって脱げとはいやらしい奴だな…」


「今更だな。もう既にゲームで抱いた女の数知れずって感じさ」


「ある意味女の敵め」


そんな感じで和やかな会話をしながら肉屋やら八百屋を巡ります。




「おやクリスちゃんにリューク君」


「おばちゃ-ん、今日は牛肉安いんでしょ?」


「はいはい、ちゃんとあるから、たんと食べて大きくなりな」


「はっはっはっ、いろんな意味でビッグになってみせますよ」




「おじさん、キャベツくれキャベツ。他はどうでもいい」


「おいリューク、他にも買う物あるだろ」


「夏はキャベツなんだよ! ものみんたも言ってたんだよ!」


「みのさんの名前間違えるな!」


「は、昴も知らない愚か者め!!」


「仲がいいなぁ、お二人さん!」




小一時間ほど経過した後、持ってきていた二つの布製手提げ袋がいっぱいになりました。

クリスが袋を両手に持ち、米袋を俺が両肩に担ぐ。…じゃんけんで負けたんだよ!


「ところで、潮はサーヴァントだとするとライダーだと思うんだがどうだ?」


「それは同意する」


そんなこんなで獣の槍のランクをどの位にするかで話し合っているうちに家に着く。

…ペガサスととら、どっちが強いのだろうと思ったがそれは言わない事にした。




「おかえり二人とも」


家に帰れば、振り返りつつシチューを煮込んでいる、相も変わらず妬ましい美形っぷりなノエル。

しかしその光景はなんか主婦(主夫にあらず)って感じだ。醸し出すオーラも完璧にギャルゲーの奥さんのそれだし。

なんか、コイツの将来の予想がつかない。ハーレムを築いてそうだし、普通に主夫と化してるかもしれないし…。

…いや、ノエルってばマジもてるんだよモテ王ですよ。町を歩いていたら突然告白されるイベントもたまにあったし。

それもなんか年上のお姉さんから同年代まで選り取り見取り。流石に年下からは告白はされていないが。

今のところ全部断ってるが、ノエルの本命誰なんかなぁ…? ――俺じゃありませんように!!


「あ、そういえば、さっき師匠から電話があったよ」


居間のテーブルに伏して席に着いてダラリって感じに脱力していた時、そんなノエルの声が聞こえた。

クリスはたぶん部屋でジョイステ。


「へぇ、何だって?」


ししょー、無事なんかねぇ…?


「夕飯時には帰ってくるって」


あ、そいつはよかった。


もうすぐ帰ってくるのか…。


…ししょーが帰ってくる!


ししょーが帰ってくる!!


    完


――って分かりにくいというか古いネタをやってしまったな。しかもなんかうろ覚えだし。

なんかもう、がんばれリュークというか俺。とーさんはボクサーじゃなくて八百屋ですが。

きっと今頃ししょーはランニングしながらこっちに向かってきている筈だ。




***




「おーい、帰ったぞー」


夜、ししょーたちが帰ってきてから食べようとお預け喰らってテーブルでクリスと飢えていた時の事だった。


「お帰りなさいませー」


お迎えに出ますよ勿論。ノエルはシチューよそってます。


「可愛いメイドさんじゃないのが残念だが、まあただいま」


ししょー…いきなり弟子に向かってそれですか。

そんな具合で帰ってきたししょー&ガロンさん。…ジャックとかつけていいっすか?




「――おい、うめぇじゃねぇか!」


ノエルのシチューはガロンさんもお気に召した様子。涙を流してます。


「いやな、姉さんの料理って正直微妙で…」


と、クリス談。決して不味くはないが美味くもないらしい。

それでも夫婦仲は良好…に見えるらしい。妻はおもっくそ金目当てらしいですが。

女って恐ろしい! 


「そんで、仕事はどうだったんですか?」


とりあえずししょーたちにそんな話題を振ってみる。


「ああ、時間は掛かったが無事成功だ」


「それは何より」


「…あの結局、今回の仕事って何をやったんですか?」


これはノエル。ああ確かに知らないまんまですな。


「発掘中の遺跡のトラップ解除だ」


「いやぁ、かなり苦戦しちまってなあ。一回ミリアの姉さんを頼りたくなったぜ」


「出来るだけ遺跡は破壊しないでというお達しだったからな…」


ミリアさん? 集団戦では№1以上の働きをするといわれる№6か切り裂きジャックの事件を追うギャルゲーに出てきた未亡人が思い浮かびますが…。

いやいや、ふざけるのは止そう。その名前を聞いて最初に思い浮かべたのは――。


「あの、なんでそこでかーさんの名前が出てくるんですか、ししょー?」


ミリア・レイオット、マイマザーの名前です。


「ん? ああ、その遺跡は神殿だったようなんだが、念のトラップだったのかそこの神官らしき人物のミイラが動き出してな」


「しかも増えやがってなー、難儀したぜ。死者が残した念ってのはしぶといからなぁ。もしアレがすげぇ達人の残した物だったらと思うとゾッとするぜ」


「…で、なぜかーさん?」


「知らないのか? ミリアさんは除念師だったんだぞ」


「えっと、死者の残した念を解除できるほどの?」


「ああそうだ」




……えええーーーー!!!???

かーさんがそんなに凄い除念師なの!? マジ!?

あー、分からない人に説明すると、他人が掛けた念を解除できる能力者――除念師は少なくて、優秀な除念師は雪男より見つけるのが難しいとされる。

死者が強い意志とともに残した念はダイヤモンドのごとく永遠の輝きで残り続けるらしい。

その強くしぶとい念を解除できる能力者となるともう、世界除念師ランキングベスト10入り確実なほど貴重とのこと。

…つまり、俺のかーさんベスト10だってさ。


「すごいな、お前の家」


クリスは感心するが、なんか駄目な感じがする。だって、八百屋の夫婦がハンターに除念師ですよ!?

まあ、俺が特質系な理由もなんとなく分かった気がする。結構優秀な血のおかげだね。

…でもとーさん、かーさんに負けてんじゃね? よく結婚できたね。


「おばさんってそんなにすごかったんだ…」


テメェが言うなこの突然変異。ちなみにノエル君の父親サラリーマンです。




「ところでクリス」


「なんですか師匠?」


食後に皆でバラエティー番組を見ながらダラダラしている時、唐突にガロンさんが口を開いた。


「明日帰るぞ」


「一人で帰って下さい」


「…まあ、かまわんが、どうした?」


「仲間と楽しく修行していきたいので」


よく言ったクリス! 俺も貴重な話の合う仲間から離れたくないしな。


「ということでアルバートさん、よろしくお願いします。師匠より強いみたいですし」


「…わかった。今更一人増えようが同じだからな」


さっすがししょー! 太い腹です。


「――そんなわけで改めてよろしく、リューク、ノエル」


「おうよ!」


「うん、よろしくね!」


なんか爽やかに手を重ねたりする。うん、青春だな。


「そんじゃ、ユーリィにはしばらく帰ってこないって伝えとくぜ」


「はい」


「――ショタたちと修行するために残ったってな」


「おい待てやジジイ!!」


静寂に包まれた森の中、それを引き裂くクリスの咆哮。

――まあ、こんな具合であっさりとクリスが正式な修行メイツになりましたとさ。

ハンター試験まで、後約十ヶ月。それまでに参加できる強さになるか…は分からんが、とにかく頑張ろう!!




続く?




あとがき

やっぱり展開滅茶苦茶遅いですがこれから色々動かす予定。

クリスとノエルはともかく、リュークは現段階じゃ一発合格無理っぽいので色々経験させなくてはなりません。

今のところ全員無事合格させる予定なので。

リュークのかーさんとかクリスの姉さんはもう少ししたら出演させるかもしれません。

死者が残した念のネタなのですが、死者の思念体に取り付かれるリュークとかそんなネタやったら楽しそうです。

あと、ゲーム作りであと一人くらい出演させたいんですが…ミルキとか出したら面白そうですが、いまいちキャラつかめないんですよね。

このまま音楽についてがうやむやになったらどうしましょう…。

ちなみにストーリーについては微妙であれな感じですが、ファンタジックなコメディなんかを考えてたりします。

いつかオリジナルでそれを投稿したりしようかなぁとか思ってたり思ってなかったり。

そういえば、ヴァッシュの台詞が単行本でかなり変わってましたね。


では返信を


>烏竜茶様

クリスやリュークは好きなラノベなどは好きすぎてパクれないんですよ。

でも、ところどころ無意識にパクってたりします。

クリスの特殊弾ですが、某黒猫みたいなのはやりません。

もう少し地味な物になる予定です。


ではこれにて


十七日で十八禁の壁を越える圭亮でした~(笑)





[2208] Re[4]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/09/12 02:03






俺はアルバート・リンクス。ハンターの端くれだ。


十八の時にバークさんに弟子入りして、ハンターになったのは二十の時。


もう三十代になるが、強さとしては…まあハンター全体の中間かそこらだろうな。


賞金首を狩る事を中心にそこそこの仕事を数多くこなしているうちに、気が付けば結構な金持ちになっていた。


しばらく休養ということで主に一緒に仕事していたガロンと別れ、前々から目をつけていた土地を買い取って家を建てた。


一人で住むには広すぎたが、まあこれから俺も家庭を築くかもしれないしな。


――今無理だと思った奴は前に出ろ。


…そこに住んでから全く仕事をしていなかったわけではないが、以前と比べると頻度はかなり落ちていたな。


というより、俺とガロンは二十二でバークさんのとこを離れたが、そこから少し無茶をし過ぎていた気がする。


そのおかげで、申請すればブラックリストハンターとしてはシングルになれる程度の功績があるが。


俺でさえそうなんだから、まあバークさんなら、その気になればおそらく既にダブルになれるだろうな。


あの人は俺とは格の違う人だった。


知識も幅広く、その強さは身体能力、オーラの総量どれをとっても追いつける気がしないほどだ。


…まあ、そのくせミリアさんの尻に敷かれている辺りあの人らしいが。


しばしば連絡は取っていたが、直接話すことは殆ど無かった。


そんなバークさんが久々に俺と会ったのは、俺が一人で暮らし始めてから三年ほど経ったある日だった。


何の連絡も無しに、いきなり人の家の居間で茶をすすっていた時は驚いた。


用件は、自分の息子とその友人を鍛えて欲しいとのこと。


バークさんなら俺より上手くやれるだろうに、何故俺にお鉢が回ってきたかは分からない。


――が、引きうけようか迷っていた時に、既にバークさんは前金として三千万を俺の口座に振り込んでいた為に断る事は出来なかった。


半ば強制的に教師をやることになったが、意外と性に合っていた事に驚いた。


教え子になったノエル、リュークは両方とも才能に恵まれていて、きっちり指導すればその分伸びることに達成感を感じつつ時は流れる。


当初はハンターになれるまで最短で四、五年はかかるだろうと思っていたが、この調子なら教え始めて三年目の今年でいける。


最近ガロンの弟子も引き受ける事になったが、アイツは大体完成されているから、合格は現時点でほぼ確実だろう。


だがもう試験までそれほど余裕は無い。


後は、これから俺がアイツらをどう仕上げていくか次第だな。






微妙に憂鬱な日々


十一話






――移ろう信念(スピリットシフト)、変化系!


頭の中でそう念じ、何かがカチリと切り替わる音が聞こえた。

腕にオーラを攻防力七十ほど割り振る。そしてそれを細く伸ばすイメージ。

そして――伸ばす!


――Vツール


伸びたオーラは少し前とは比べ物にならない速度で眼前の密集した木々の隙間を縫って行く。

さてさてししょーはいるかな~っと。

円の機能を追加したそれは周囲を知覚しながら進み、そう遠くない距離にあっさりとそれを捉えた。


――ししょー発見!!


瞬時に絶の状態になり身を伏せる。…大丈夫、陰使ってたし見つかってない、多分。

このまま見つからないように静かに行こう。円使われてるっぽいからから奇襲の効果薄いけど。

…大体五、六メートルってとこかな、円の半径。前に調子いい時は三十近くいけるとか言ってたっけな。

まあ、訓練で全力出されても俺らが困りますが。

つまり、現在は山奥でししょーVS俺ら三人でも模擬戦闘中な訳です。

ししょーはゆっくりと足音殺して歩いてた。近づき過ぎないように行こう。

えっと、ししょーの現在位置はあっちで、進行方向があっち方向だから…。よし、行こう。

今はつかず離れずで回り込みながら…。

身を屈めたまま、隠れて進む。慎重に慎重に。




「――馬鹿か? 陰を使ってようが、そっちが知覚できて円を展開した俺が気付かないと思ったのか、お前は」


……アンギャー!!


山奥の惨劇、第一の被害者はリューク・レイオット。死因は背後からの延髄チョップで瞬・殺。


バラけるんじゃなかった…。


***


――カン! カン!


ししょーの鉄棍が様々な角度から俺目掛けて打ち付けられる中、こっちも手持ちの鉄棍でかろうじてそれらを受け止める。

受けるたびに腕に強い衝撃が走り


「まともに受けてばかりいるなと言ったろ!」


ししょーがそう言った直後、跳ね上がる様な一撃が俺の棍を空高く弾き飛ばした。

それは高く舞い上がり、一瞬間を置いて、派手な音を立て俺の背後に落ちた。


「分かるな? 棒術ってのは、使いこなすのにかなりの技術が要る。受けるだけでなく、払い流してその勢いを利用し反撃に転じられるよう、今回は徹底的に防御を反復するぞ」


「…うぃ」


棒術教えてってお願いしたのは俺だけど…。もっと優しくして欲しいなぁ。


「何を言うかと思えば。…俺がミリアさんに棒術教わった時はこんなもんじゃなかったぞ」


あ、かーさん直伝なんですか…。




「…いいとこ無しやなぁ、俺」


どうも、リュークです。最近涼しく過ごしやすい気候になってきましたね。

ししょーが帰ってきてからは修行がさらに厳しくなり、俺の駄目っぷりが際立ちます。

クリスも結構凄くてねぇ、今俺らの中で一番強いんだよ。

つまり俺が最下層。つまり雑魚。自然と体育座りin草むらになります。


「おいおい、どうした、そんな暗い顔をして?」


放って置いてくれクリス! 今の俺は恒例のTHEいじけモードなんだ。


「…自分でそれが恒例とか言ってて悲しくないか?」


「少し」


自分の弱さを認めることで人は強くなるんだよ! …きっと。

俺は全く強くなってませんが。


「だいたい、お前は相当才能があると思うぞ?」


はっ、何を言い出すかと思えば。


「お前、念を覚えてから一年経ってないんだろう? 私は一応二年ほど修行しているからな。こっちに言わせれば、お前達二人の成長速度は異常だ」


自身…持って良いのかね?


「自惚れないように程々にな」


…さて、修行しますか。


――やる気が三割増えた。






「カフッ…!」


…それでも、組み手で二人に負けるのは変わらないけどね。


――やる気が元に戻った。




***




そんなこんなで日々は瞬く間に流れ、ハンター試験申し込み締め切りまで、後半年。

おかげ様でそこそこ強くなりましたよ、はい。皆強くなってるんで実際のところ分かりませんが。

その修行の厳しさたるや、夜にギャルゲーについて話す余裕が無くなる位です。

まあ、クリスと組み手して五回に一回は勝てるようになったから強くなったんだろう。

なんでもありになったら勝てる気がしないけど。

だって聞いてよ!? クリスの銃の威力が最近半端じゃないのよ?

試し撃ち様にししょーが用意した直径一センチの鉄板二枚重ねで貫通軽々出来るし。でもししょーはそれを軽々受け止めるし。

後、『有象無象の区別無く私の弾頭は許しはしないわ』とか、微妙にネタに走ってグネグネ曲がる弾開発したし。


――ノエルはって? いやいや、言わなくても分かるでしょうに。

あいつは最近ひたすら地味な基礎でオーラの量を高め、化け物度を増していってる。

…とは言っても、最近はオーラの量がそんなに増えてこなくなった。

きっとアレだ。レベルが上がりすぎてちょっとやそっとの経験値じゃ無意味に近いですよ状態だ。

ま、地道にこつこつ行きましょーや。


そしてある日の、朝食後の時だった。


「…仕事ですか?」


「ああ」


そう言い首を傾げるノエルが最近可愛く感じた自分が末期症状だなと感じ焦りつつ、頷いたししょーに先を促す。


「そろそろハンター試験も近くなってきたしな。前言ったと思うが、俺の仕事を手伝ってもらう」


うんうん、ちょっとワクワクしてきたねぇ。


「いくつかこなして、働きが悪かったら今回のハンター試験は見送らせるからな」


うへぇ…。


「がんばろ、リューク」


「あんまり不安になるなよ」


テンションダウンしたところで、ノエルとクリスに肩を叩かれる。見透かされてんな…。


「――おうよ!」


ちっと気合入れて、二人に親指立てて見せた。


でもアレですね、ハンターの仕事のお手伝いが始まるし、ここらで一発やる気の出る言葉を言おう。




「さあ、ビジネスの始まりだ!」


「…ヤシガニ?」


それは言うなクリス!




続く?




あとがき

ちょっと久々でいまいちテンション低めですが今回はこれで終了~。

リュークの特質能力の名前は『移ろう信念(スピリットシフト)』という感じでいつの間にか決定。

今度は早くノエルのほうを考えないといけませんな…。

…でも皆さん、そんなにミルキ出して欲しいですか?

ちょっと言っただけなのに結構期待されてるみたいなんですが…どうしましょう。

まあ、出演したとしてもハンター試験以降になるでしょうが。


では返信を


>kp様

今回触れてるように、リューク君も決して弱い訳ではないんです。

がんばれば、将来的に両親に追いつく事も不可能じゃないんですよ。


>こめこめ様

ちょっと古すぎたかなと思いましたが、気付いてくれた人が居て良かったです。

これで喧嘩商売とか言われたら悲しくなるところでした。


>vaka様

な…なんだってー!!? とか言いたくなる心境ですが、もう少しの間、胸を張って近くのビデオ屋の十八禁ゾーンに入れる日を待つ事にします。

いや、実はもう既にFateと銀色はプレイ済――いや、何でもありませんですよ!?


>至玖様

…ミルキ、出演させられるよう検討しておきます。

サクラ大戦は一般人にとってのギャルゲーの代名詞だと思いますよ?


>さるびす様

そりゃ、このメンバーにミルキ入れたらある意味もの凄いことになりそうですねー。

皆がゾルディック家の威光に怯え、リュークたちのギャルゲーがミルキ主導の物になってしまうとか(笑)


ではこれにて~。






[2208] Re[5]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/09/20 22:19




――ダン!


強く、だが軽やかに踏み切って俺は跳んだ。目標は俺の居るこのビルの屋上から少し離れたビルの屋上。


「…っと!」


多少危うげに、その十二、三メートルほどの一般人にはおよそ不可能な距離を越えて着地。冷や汗が流れると共に頬に当たる夜の冷たい風を一層冷たく感じる。

四階程度のビルから落ちてもどうと言う事も無いが、ここで目立つわけには行かない。


――…これで振り切っただろう。


傍に積み上げてあった角材やらの山に身を寄せて周囲を警戒しながら一息吐く。


「はぁ、はぁ…ちくしょう、何だってんだよ、あいつ等は……!」


忌々しい…。今回の仕事は完全に失敗だ…!


…俺はしばらく前失業してから今まで、自慢だった足の速さでこそこそと盗みを重ねて生きてきた。

思いのほか簡単に上手く行く事で達成感に酔っていき、初めあった罪悪感はすぐ消え失せた。

そして、調子に乗って身の丈に合わない大きなヤマに挑んで失敗…死に掛けた。


「でも、今の俺は、昔の俺とは違うんだ…!」


悔しさとともに吐き出すように呟く。

そう、俺は死に掛けたあの一件を生き延びてから変わった。『力』が手に入った。

あれ以来、体を何かが覆っている感覚を抱き、はっきりと自覚してからそれは目に見える靄になった。

体からあふれ出るようなそれに、何の気なしに止まれと念じたらその流れが止まった。

初めは一分もその状態を保って居られなかったのだが、だんだんと時間は増えていき、そして知った。

靄を止めている時だけ俺は力が強くなっている事を。

そして訓練を積み、今の俺にとっては簡単な仕事を幾つかこなした後に、俺は再びちょいと難しいヤマに手を出す事にした。

大手デパートのワンフロアを借り切って一時的に行われている美術展、そこに展示されている宝石。

以前行った似たようなイベントで窃盗未遂があり、同じ轍は踏むまいと大げさな警備が敷かれていた。

宝石自体には、希少価値はあれどそれほど高値で売れるものではない。そのくせ入手難易度は無駄に高い。

普通は手を出さないが、失いかけていた自信を取り戻すには丁度良かった。…もう俺には、この『手段』こそが生きがいと化していたのだから。

こちらも以前の轍は踏むまいと、状況に応じた進入経路から逃走経路の調査、確保。雇っている警備会社に交代のローテーションまで綿密に行った。


――だが、それもあっさりと徒労に終わった。


靄を押し込めるように消せば気配断ちがしやすいことを最近知り、それを実行。潜入は問題なく成功。

事前に調べた方法でセンサーの探知をわずかに遅らせ、宝石も入手…出来るはずだった。


「…いやー、アンタ凄いね。そこまで見事に気配断ち出来るなんてつーか絶使ってんなおい」


――気付かれた!?


「いやはや、でも警護の仕事請けた傍からあんたみたいなの来るって、あれ? 主人公補正っての?」


振り向けば背後にいたのはガキ一人、でも俺には分かった。そのガキはとんでもなく強い事が。


――ジリリリーーー!!!


ヤバイ、警報が鳴り出した。ちっ、逃げるしかないか。

押し込めた靄を開放、体に留める。そして美術展の出口に向けて走り出した。

この場合はあらかじめ想定していた、窓から壁を伝って逃げる方法が一番早い。


「…ちぃっ!」


――退路が塞がれてる!?


走り出そうとした先に、後二人居た。どいつもこいつも俺より強い。

分かる。体を覆っている靄の量が俺よりずっと多い。まともにやり合ったら逃げる事すら困難…!

とっさに方向転換し、逆方向の非常用階段に走り出す。扉を蹴破り、やかましい音を立て一気に駆け上がる。

出来れば使いたくなかった、屋上から屋上を行くルート。

これは相手が追いかけ難い利点があるが、ここの屋上から飛び移れる建物が限られていて道が特定されやすいという難点もある。

それに、出来る限り速度を落とさないで移動しなければならず、体力の消耗が激しい。

だがそんな事も言っている余裕も無く、想定していた三つのルートの内、一番移動が困難なルートを選択した。

あらかじめ大体の道順を把握しておかないと危険、故に追跡も困難。


――…だが、それでもまだ追いかけてくる。


追いかけてくるのは一人。おそらく最初に見たガキ。一瞬だけ目をやれば、さして息が上がっている様子も無い。

そして捕捉されている。体力の限界も近く、このままただ走っても、逃げ切れる可能性は低いだろう。

懐に仕込んだ閃光弾に手をやり、ピンを引き抜きそのまま手に保持する。

ギリギリまでそのまま。何度か反復し練習したタイミングを体はしっかりと覚えていた。


そして、後ろに放る。


次の瞬間、辺りが真昼のように明るくなる。閃光弾が生み出した光。

背を向けていても周囲に反射した光が目に突き刺さる。それに顔をしかめる。

下からの街灯があるとはいえ、周囲は薄暗い。相手は俺を凝視して追跡していたはずだ。

そこに閃光弾の強烈な発光。しばらく目は見えないだろう。

こっちの目も少々痛いが、あらかじめ片目を瞑りその後開ける目を切り替えたので、なんとか移動できた。


――そしてそのまま引き離しにかかり、数分後俺はここにたどり着いた。

既に体力は限界に近く、このまま走っても転落しかねない。

だが振り切る事には成功した。また失敗したのは悔しいが、これをバネにまた――。






「ったく、リュークめ。この程度の奴を取り逃がすなんて、まだまだ未熟だな」


「…なっ!?」


――いつの間に…!!


気付けば、俺の隣には見知らぬ男が立っている。


「…さて、今からお前さんを捕らえさせてもらう。特別サービスで普通より厳重な牢屋が待っているから、楽しみにしとけ」


駄目だ、身がすくむ。どうあがいてもコイツからは逃げられないと、俺は瞬時に理解した。


「ちくしょう…!」


最後にそう呟いた後に、俺の意識は暗転した。






微妙に憂鬱な日々


十二話






――ゴス!


「痛てっ!」


「今回はこれで勘弁してやる。次は気をつけろ」


「うー、すんませんでしたー」


どーも、リューク・レイオットです。

只今、朝日がまぶしいデパートの入り口で、ししょーにお叱りを受けさらに拳骨を喰らいました。

最初に非常階段を塞いで逃げ道を無くしておかなかった罰だそうです。

…いや厳しいね。


開催中の美術展の警護の仕事請けて、今回は俺達主導とししょーが言ってまして、絶やりながら張り込んでおったわけです。

そしたら泥棒さんが来て、声かけたら逃げました。最初三人で追いかけようとしましたが、仕事はあくまで警護。

ノエルとクリスに後任せて追跡。途中で閃光弾使われて逃げられました。

あの泥棒、纏しか使ってなかったのにやたら足速かったんですよ、はい。

ですが、我らがししょーはそいつを簡単に捕まえてしまったわけですよ、いや凄い。


「ちょっとヘマもする~♪ でーもー、だからどうした、それがどうした~♪」


…はあ、何がなんとやら。


「いきなり古い曲だな…」


ま、元気出せやって感じで俺の肩を叩くクリス。

はいはい元気ですよ。べんべらぼうですよ。CV桑島法子ですよ。

…次はがんばりますとも。


「…元気、出してね」


分かってますって、ノエル。




「…あの泥棒だが、地味に賞金掛かってやがってな」


こっちに背を向けたまま言うししょー。


「小金も入ったし、なんか上手いもん食いに行くか」


「「はい!」」


何故か同時に敬礼する俺とクリスのシンクロ率九十五パーセント。


「調子良いね…」


ノエル君、苦笑して大人ぶるな!!


「ししょー、回らない寿司食べたいです!」


「アホ、こんな時間にやってるかっつの」


そう言いつつ俺にまた拳骨。さっきの十分の一程度の威力しかなかった。

その顔にはさっきの厳しさはもう無い。

…切り替え早すぎるというか、甘いというか。


そして、ちょっと割高な二十四時間営業のファミレスに歩を進める俺達だった。




***




「ゼロの使い魔に士郎の出るSSがあるならば、次郎を出しても構わない。そう思っていた時期が、俺にもありました」


「士郎の異世界トリップ物は、半分くらいパワーバランス滅茶苦茶でつまらなくなるけどな。つーか駄洒落か」


いえすおふこーす。次郎が出ても微妙だし、あれ。

まあ、あの小説の原作は正直好きじゃないし出て欲しくないけど。

ヒロイン…ルイズだっけ? そいつがむかついて一巻の途中で読むの止めたし。

やっぱり、俺にとっては麻生俊平作品が神だな。VS打ち切られた時、マジ泣きました。

つばさは…一巻時点ではなんとも。一巻読み終わった次の日くらいにトリップしたんだよな、俺。

MF文庫、VSの新装版出すとかやってくれてたら嬉しいなぁ。もち、挿絵はイラストレーター代えて。

…駄目だ、こういう妄想しだすと後で空しくなるだけだ。もう止めておこう…。

気を取り直して目の前に並ぶ料理に集中する。…まあ、美味いんじゃない?

一口大に切ったステーキを咀嚼する。ソースが米に合うね。

このファミレスいいっす。ノエルも、チョコパフェを美味しそうに頬張ってます。

きっと、全国のショタ好きはこの仕草で萌え狂うでしょうね。性別を知らなければおそらくロリ好きも。


「…ああそうだ、この後お前達全員の実家に向かうぞ」


唐突に思い出したかのように告げるししょー。


「何でですか?」


三者面談でもするんですか?


「似たようなもんだ。ハンター試験の申込が始まってるだろう?」


あ、そういえば、試験までもう一ヶ月切ってる。


「未成年は親の許可なしに受験できないからな、申込書にサインを貰いに行く。ついでに、お前らの生活態度などについて話す」


学校の先生みたいだな…。


「じゃあ、まずは私の家ですか?」


パスタを箸で啜るクリスが手を止めて言う。

…なんでクリスん家?


「いや、私の実家ここからそう遠くないんだ」


電車で二時間くらいとの事。


「ああそうだな。ガロンには既に連絡を入れてある。さっさとホテルに戻ってチェックアウト済ますぞ」


「「「はーい」」」


ホテルっつっても、ベッドがあるだけのボロイとこ。仕事やってる間の拠点だった。

俺ししょー、ノエルクリスで分けて一部屋づつ取っても一日一万しない安さが自慢。

でも、もしも愛用の低反発枕を持ってきていなければ、きっと寝付けなかっただろう。

あんな硬い枕で眠れません。ししょーは、どんな状況でも休める時は必要なだけ眠れるようにならないと駄目だとか言ってたけど…難しいね。

とりあえず、ファミレスを後にしながら、ハンター試験に備えて寝袋か何か用意した方がいいかなとか思った。




続く?




あとがき

はいはい、短いなぁとか思われそうですが今回もこれで終了。

次はクリスの実家に向かいます。

そこでリュークを待ち受ける試練…!

乞うご期待とかはいえませんが、ここからそこそこ気合入れます。

ちょっと展開速いなぁとか思うけど、もうすぐハンター試験です。

でもリュークたちは相変わらずマイペースで行きますねきっと。


ではこれにて。




…どうでもいいかもしれませんが、ザンヤルマの剣士がちょく読みで配信スタート。

携帯でいつでもあの名作が読めるようになりました。

興味ある人は購入してみましょう!! ――と、布教してみる。

絵柄でラノベ選ぶ人には…無理にオススメできませんね、多分。






[2208] Re[6]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/10/02 21:34





――ドォォォン!!!


鳴り響く轟音が夜の森の静寂を破る。


――バキバキ…ドォン!!


一拍おいて再び轟音。ふわりと土煙が舞い上がるが、すぐさま風にかき消される。


「ふふ…」


風と、それにより揺れる葉の音で俺のかすかな笑い声はかき消される。


「ふふっ、完成だ」


だが、もう一度笑い、達成感を噛み締める。

目の前には直径一メートル強はありそうな大木の成れの果て。

根元に近い部分が半分ほど抉れていて、近くの細い木を巻き込んで倒れている。


「木すらなぎ倒す俺の新必殺技――」


月を見上げガッツポーズをし、


「雷獣シュートの完成だ!!」


俺は高らかに宣言した。


「馬鹿言ってんじゃない、リューク」


…後ろからベシっとクリスに叩かれました。


ゴメンナサイ、雷獣シュートってのは嘘です。


「ま、これで明日はなんとか…なると良いな」


「…リューク。お前の新しい能力、二つとも見せてもらったが、正直どちらも微妙な気がしてならない」


まぁ、確かにそれほど強力じゃないけど、なんとかするさ。


「――つーかさ、今回の一件は、クリス君が元凶では?」


「それを言われると痛いな。まぁ、頑張れとしか言えんが」


はいはい、頑張りますよ。…ガンバルガーが見たくなったな。






微妙に憂鬱な日々


十三話






そう、今回の出来事は朝と昼の中間くらいの微妙な時間帯、電車を降りたところから始まったんだ。


「うーん…」


軽く伸びをしながら駅を後にする。

ここがクリスの故郷か…。見渡せば広がる町並みは石造りの街道に、建物はふつーのコンクリート製と石造りのものが混在している。

噴水とかあって、なんか和む。西洋風って感じ?


「うん、この空気。帰ってきたって感じだ」


クリスも俺の横で軽く伸びをする。


「…えと、なんか面白い所とかある?」


と、興味津々に辺りを見回していたノエルが此方を向く。


「ああ、ちょっと行くと観光地があってな――」


「ほら、お前ら。観光は後にして、とっととクリスの家に行くぞ」


さっさとししょーに促され、その場を後にする。




そして、我ら一行はバスに乗り換えて三十分ほど揺られ、駅の傍より大分古めかしいレンガの町並みに降り立つ。

そこからは徒歩。そしてバスを降りてから二、三分歩道を歩いた時、いきなり元気な声が響く。


「おかえりー!」


見れば前方から小走りで寄って来る、ブラウンのショートヘアに白いワンピースの少女。


「リプレか、ただいま」


応えるように手を上げて、ようと挨拶するクリス。


「…友達?」


結構可愛い子だな。


「ああ、家が近くでな。幼馴染って奴だ」


幼馴染ねぇ…。俺はその単語を聞くと、思考がツンデレに直結してしまうんだよな。


「そうじゃないのも多いだろ」




「久しぶりだねぇクリス。急に帰ってくるって聞いたけど、連絡くれたら迎えに行ったのにー」


「わざわざ来る必要も無いさ。用事を済ませたら長居もしないしな」


「えー、ゆっくりしていきなよ。話聞きたいし、兄さんもクリスのこと待ってたんだよ?」


その言葉を聴いて、クリスは突然硬直した。


「…アルバートさん、早いとこ用事済ませて、さっさと次に行きましょう!」


そして一拍おいて、少し慌てたように言い出した。


「どうしたの、クリス?」


そうだよ、突然に。

そう思いノエルと首を傾げる。


「いいから早く!」


狼狽するクリスを見て、リプレとやらはニヤリとほくそ笑んでいた。

あ…なんとなく読めた。




***




「待っていたよクリス!!」


クリスの実家、『古書店バーネット』の前でそいつは待ち構えていた。

その家は普通に他の家に紛れていて、しょぼい看板があるだけの一見普通の二階建て。

その前で此方を向いて両手を広げて経っている。カモンって感じに。

そいつは男の敵、美男子。ノエルクラス。

爽やかそうな、でも、俺に言わせればどこかうざい雰囲気を漂わせている。


「ルシア…」


うんざりした顔のクリス。やっぱりと言ったところか。


「ああ、愛しのクリス。君と再び合える日をどれだけ待ちわびていた事か…」


「私は全く待っていなかった」


「ああそうか。離れていても僕らの愛が揺らぐ事などありえないからね」


「私とお前の間にそんな物があったことは一時も無いぞ」


「ははは、そんなに照れないでくれたまえ」


…激ウザー!! 何あの予想を上回る勘違い野郎!?

クリスが嫌がるわけだよあれは。って言うかイタ過ぎる。

待ち構えられていたようだが…そこで予定通りといった感じに微笑んでいる、リプレさんの指示ですね?

というか、クリスって意外と弄られ属性?


「ガロンさんが、クリスは年下の少年と居る為に残ったとかふざけた事を言っていたが…」


そいつ――ルシアとかクリスが言ってた――が一瞬こちらを見てフッと笑い…最悪だなコイツ。

そしてその後、俺の後ろに居たノエルに視線をやり、表情を一変させた。


「貴様だな!? 貴様が僕のクリスを誑かしたんだな!!?」


「え、え!?」


目を吊り上げ、憤怒の表情としか言いようの無い形相でルシアはノエルに詰め寄る。

…うーわ、今度は言いがかりつけてきましたよ。しかも『僕の』とか言って…。


「止めるんだルシア。ノエルはそんなんじゃない」


割って入るクリス。だが意に介さないルシア。


「分かってくれクリス。僕には君の目を覚まさせる義務がある」


「はいはい、黙りなさい。目を覚ますのはお前だ、THE勘違いマン」


「な、なんでボクがいきなり怒鳴られないといけないの!?」


そしてクリスは埒が明かないと思ったのかやれやれと肩を竦め、


「待ってルシア!」


声のトーンをいつもより高くして、


「私はこの人とお付き合いしてるの!」


俺の右腕を引き寄せた。


……なんでここでそんなややこしくなる様な真似をーーー!!!???


(いいから、話を合わせろ)


「な…!? そんな……! よりにもよってそんなダッサイ男となんて…」


ルシアに戦慄が走る。

おいおい、正直が美徳なんて嘘っぱちなんだからね。

そうやってはっきり言われたら……泣いて良いですか?


(いいからほら、見ろ)


「フフ、フフフ…」


クリスに言われ再び目をやると、ルシアはまさに放心状態。

いや、むしろ封神されそうな勢いで凹んでいる。――これが狙いか!?

自分の好きな女が、黒ジャージ着装なダッサイガキに奪われたとなったらそりゃ再起不能なほど凹むよ!

…いや、だから……泣いて良いですか?


「ミトメナイ…。ゼッタイ……ミトメナイ!」


…あれ?


なんか、ルシアから凄い量のオーラと殺気がほとばしっている気がするんですが…?

つーか念使いだったんですか。凄いなぁ、パッと見、俺の一、五倍くらいあるよ…。


「クリス、たしゅけて…」


「すまん、アイツが念使いなんて知らなかった」


「実はガロンさんにこっそり教えてもらってたのよね、兄さん。完璧になってからクリスに見せるとか言ってたけど」


あーそうですかリプレさん。


「兄さんは強化系だから気をつけて」


そう言われ肩を叩かれる。ははは、気をつける前に死んじゃうよ!

あ、そういえばいつの間にかししょーがいないなぁ。助けて欲しいんですけど。


「――お前、名前は?」


俺を見て口を開くルシア。


「えっと…イーズ・ジェオ」


「…名前は?」


無言の圧力。くっ、このプレッシャーは!?


「…ごめんなさい、リューク・レイオットです」


オーラ量の違いのせいか、自然と頭を下げてしまう。

自分の負け犬根性が情けないデス…。


「そうか。僕の名前はルシア・オルレインだ。――リューク・レイオット、お前に決闘を申し込む!」


「えっと…拒否権は……?」


「無い」


横暴だなぁ…。


「どちらがクリスに相応しい男か白黒はっきり付けようじゃないか!」


そんなん、決闘なんかしないでオサバキーナにでも決めてもらえばいいんだよ。

つーか、まず本人の気持ちが大事とかそういう常識的な思考は無いの?


「残念だけど、兄さんにそういった物は期待しないで」


さいでっかリプレさん。後、顔がにやけてますよ。

クリスはもう諦め入った表情してる。


「久々にあった反動か、いつもよりしつこさとウザさが上がってるようだ」


まあ、いつもあんなんだったら警察呼びたくなるよな。

それで、結局俺はどうすりゃ良いんだ、クリス?


「すまないが…頑張ってくれ」


そりゃ無いぜハニー…。




「こんなところで、何時まで何をやっているんだ」


古書店のドアが開き、そこに付けられていた鈴がチャリンと音を立てた。

そこから出てきたのは、緑のエプロンを着けた眼鏡の似合う知的な雰囲気を漂わせる渋いおじさん。

クリスと同じ髪の色をしているので、おそらくはクリスのお父さんかと思われる。


「あ、父さん」


やはりそうか。


「クリス、お帰り」


クリスに微笑して迎えるクリス父。カッコいいお父さんですね。

ほんと、家のとーさんとはビジュアルが違いすぎますよ……。

…実は父親似だったりする私です。


「それで、そちらの子達が…」


「あ、クリスさんと一緒に修行してました、ノエル・フライガって言います」


此方に目をやるクリス父に慌てたように応えるノエル。

うむ、俺も挨拶をきちんとしておかねば。クリスとは長い付き合いになりそうだからな。

…早くギャルゲーのシナリオ考えないとなぁ。


「俺は――」


「クリスの彼氏のリューク君!」


俺の言葉に割り込んだリプレの発言に一瞬、場が硬直した。


…リプレさーーん!! あんた何場を引っ掻き回すような事をーーー!!?


あんた、絶対分かってたろ!? クリスと俺が付き合ってるとか嘘だって!

俺を見るクリス父の表情は固く、そこからは何を考えているのか分からない。


「安心して下さい、お養父さん! この男は今すぐこの場で討ち果たして見せましょう!!」


ルシア、あんたはもう黙ってろ!


「止めたまえルシア君、こんな所で」


と、クリス父。

ああ良かった。止めに入ってくれるようだ。


「――明朝七時、町外れの広場でキックオフだ」


そう言って、クリス父はルシアの肩をポンと叩いた。

チョットマテ。あの…貴方はテイオーですか?

なに煽ってるんでしょうか…。


「家のクリスに言い寄る害虫は、全て駆除しなくてはならないからな」


はは、怖いなぁ。


「はい、任せて下さいお養父さ――」

「それとルシア君」


「…何でしょう?」


「私は君を、息子と認めた覚えは、無い!」


はは、マジで怖いなぁ。――逃げて良いですか?

と、言いたいけど……バッチリこっちも見てますよ、あの人。


随分面倒な展開になっちまったなぁ…。




続く




あとがき

クリスの実家編、前編終了。

後二、三話でとうとうリューク達はハンター試験を受ける事になるでしょう…多分。

前々からしつこく言ってますが、本編キャラとの絡みには期待しないで下さいね?

間は空けても、完結させられるように頑張ります。

ハンター試験の後、どういう風にオチをつければ良いのか現在構想中~。

行き当たりばったりな展開はまだまだ続きます。


では返信を


>影mk=2様

はい、ノエルは自分のオーラを組み替えて相手に補充する事も可能です。

応用技として考えに入れていますが、ノエルがこれを使うかはまだ未定です。


>MONE2nd様

海斬剣は無理です! それやるにはオーラを電気に変えるとかキルアみたいな真似をしなくてはならなくなりますし…。

つーわけで、円舞光輪脚かゴッドファーザーボムを使わせます。


ではこれにて~。



…どうでもいいですが、私の高校の図書室でゼロの使い魔を見つけてしまいました。
そんなものよりザンヤルマを…。
いや、借りちゃいましたけどね。



[2208] 微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/10/11 03:41






「「「いただきます」」」


「はい、召し上がれ」


促され、クリス姉、ユーリィさん作のシチューを食う。

今晩、俺とノエルはガロンさんの家でお世話になる事になった訳です。

……微妙。決して不味くはない、でも微妙。

一度ノエルの料理という甘い果実を食らってしまったら、もう下手な料理じゃ満足出来やしないんですよ。

俺は料理なんぞさっぱり出来ないし、お世話になっているからとやかく言う筋合い無いけどね。ノエルも普通に食ってるしな。

そんな俺の得意料理は納豆卵ご飯さ。タレはかつおだしの汁が基本ね。

目玉焼きにも麺汁かける俺の嗜好は他の人には全く理解されません。分かり合えないって悲しいね…。


「どうしたの、浮かない顔して?」


ユーリィさんがこちらを見ていた。ああ、クリスの姉だけあって結構な美人さんだ。

クリスが落ち着いたらこんな感じの雰囲気になるんだろうな…。でも腹黒系なんだよなこの人。


「いえ、明日のことを考えるとちょっと…」


そうなんです、明日の決闘のせいなんです。決して貴方の料理でこんな顔になっているわけでは無いんです…多分。


「面倒な事になっちまったなぁ、おい!」


楽しそうっすね、ガロンさん…。そのガハハ笑いは止めて下さい。


「リュークなら大丈夫だよ」


根拠無い発言はやめておくれノエル。


…後で特訓しよう。二つほど能力が完成間近だし。






微妙に憂鬱な日々


十四話






「え~、お茶にポップコーン、おつまみはいかがですか~」


商魂たくましいリプレの元気な声が響き渡る。何人か買ってるし。

ここはちょっと町外れの広場の一角。野球とかに使われるっぽいグラウンドです。

端の方でビニールシート敷いたり、ベンチに座って観戦モードな人が、大人から子供まで合計二十名ちょい。

リプレさんが呼んだらしい。みんな娯楽に飢えてるとかなんとかクリスがぼやいてた。

あんたはどこぞの忍術学園一年生かと言いたくなるが、とりあえずそれは置いておこう。

ししょーは今回静観の方針らしく、さっき『がんばれ』と俺の肩を叩いただけで終わりました。

まともに心配してくれてるのはノエルくらいか…。ま、そこまで危険ではないだろうけど。


「よく逃げなかったな」


目の前で嘲笑うようなルシア。

ヘタレビビリモード全開な俺を前に強気になるのは分かりますがねぇ…。

けど――。


「あまり、調子に乗るなよ」


こっちには天才ノエル君がいるんだからな! 俺をぼこぼこにしたら次はお前がやられる番だぞ!!


「へえ、言ってくれるじゃないか」


少し目を細めて俺をにらむルシアさん。…すんません、調子こいてました。

土下座かまして逃げ出したい衝動を抑え、鉄棍――本当はカーボンの芯を特殊な錆び難い金属で覆ったものらしいけどいちいち長いので省略――を構える。

ししょーに買って貰った、無駄にハイテク応用なこれはちょっとやそっとじゃ壊れないぜ!


――移ろう信念(スピリットシフト)、強化系


強化系に自分を切り替えた。準備は万端――。


「まて、こっちは丸腰だぞ。武器は無しだ」


…えー、今更言うのかよー。仕方な――。


「ちょっ…!?」


鉄棍を放った直後に突然ルシアは此方に突っ込んできた。不意打ちですかこの卑怯者!

その鋭い動きは俺より速い。でも、それくらいであっさりやられるような鍛え方はしていない。

速やかに練。向かってくる右の手刀を左に跳んで回避。そのままバックステップで距離を取る。

頬を掠めそうになったが問題無し…と思った時だった、頬に違和感を感じたのは。

…頬、切れてます。撫でると薄っすら傷があり、血が滲んでいる。

向こうの方が背の高さ上だし、リーチの差を読み違えたか?

…いや、違う。


――オーラを刃状に変えてるな…。


こちらを見ているルシアの手を覆っているオーラは尖った形状をしている。多分当たりだ。

武器は無しって、それは使ってるようなもんじゃないんですか!?

つーか避け切れてなかったら死んでましたよ!! テメエの血は何味だ!?


「よく回避した」


「…武器無しとかほざいて、不意打ちにオーラの刃な合わせ技で攻撃してきた事について釈明は?」


「真剣勝負でそんな言葉に耳を貸した方が悪い」


言い切りやがった…。年下(生きた年月の合計はこっちが上)にそこまで容赦ないってどーかと思う。

そして、ギャラリーからはもっとやれとかルシアを煽る言動が聞こえてくる。

…テメェら還れ!


「リューク、頑張って!」

「とりあえずがんばれー」


俺に送られる声援はノエルと元凶――しかもやる気無い――の二人からのみ。…すっげぇムカついて来た。

再び向かってくるルシアにより、そんな思考は中断させられる。

強烈な右ストレートが来る――。これはフェイント、本命はおそらく左の蹴り。オーラがやや左脚に寄っている。

その大きなオーラの動きが次の動きを、そのタイミングを教えてくれる。右――つまり相手の左側に回避。

しめたとばかりにハイキックが飛んでくる。だが、ここで不利だったリーチの差がここで逆に有利に働く。

向こうに比べて小柄な体を活かし、蹴りの下をくぐるように跳ぶ。そのまま前転一回転。走り、さっき放った鉄棍を手に取る。

すぐ振り向けば、速やかに体勢を立て直し此方に駆けて来るルシア。

オーラの刃を纏った手刀を此方もオーラを籠めた鉄棍で受け流す。


「ちぃっ…!」


舌打ちしながらもルシアは再び攻撃を開始し、幾度と無く手刀を見舞ってくる。

だが、単調なそれを防御しきれないほど俺は間抜けじゃない。

そして、突く流す突く流すの作業化した動きが続く。


――何かある…。


ルシアのその動きは我武者羅なそれではなく、非常に読みやすい単調な動きではあるが、隙の無い物。

おそらく何かを狙っている。でなければこんなに意味の無い事はおそらくしない。

その何かで隙を作るつもりだろう。…来た!

ルシアは突如両手で鉄棍を押さえ、右のミドルキックを飛ばしてくる。

俺は鉄棍を離し、内に踏み込んで左肘でその蹴りを受けた。


――がら空きだぜ!


そしてそのまま右肩でタックルを食らわせる――。


「カハッ…!」


それは胸部に当たり、ルシアは後方にぶっ飛んだ。


――手ごたえあり!


おそらくだが、自ら後ろに跳んで衝撃を抑えるなどの行為はしていない。

それに足と腕にオーラを集中していたため、胸部は俺の纏うそれよりいくらか薄くなっていた。

勝負あり…か?


「ゲホッ、ゴホッ…!」


ルシアは咳き込みながら、仰向けだった状態から起き上がろうしていた。

降参してくれよー。あんまり、格下をいたぶる様な真似はしたくないからさ。

…そう、はっきりと言える。ルシアは俺より弱いです。

体裁きやオーラの動きがぎこちなく、次の動きが簡単に読める。そして、こっちの動きは読めていない。

後、不意を打ったつもりの攻撃に対応された後、動揺の為か簡単に隙が出来る。

確かにオーラの量は、今まで仕事などでたまに戦う事になった念能力者達とは段違い。だが――。


「あんた、これまで何回くらい、念能力者と戦った?」


ようやく身を起こしたルシアに訊く。


「ひょっとして、ここで俺と戦ったのが最初なんじゃないのか?」


返事はない。


「図星かよ。じゃあ、あんたは何のために――」

「リューク、その発言はそこでストップだ」


VS五巻のお気に入りシーンをパクった台詞は、いつの間にか隣に立っていたクリスに中断させられる。

まあ良いや。これ以上やったらVSファンに怒られる。…むしろ、怒る人が一人もいない状況だったら泣く。


「ルシア、今のお前じゃあ、もうリュークには勝てないぞ。この辺で止めておけ」


クリスがルシアに降伏を促した。ギャラリーが続けろとかほざいてますが無視。

あ、今のうちに鉄棍拾っておこう。ルシアの傍に落ちていた鉄棍を再び装備。


「く、クリス…」


「それが分からないほど馬鹿ではないだろう?」


「けど、僕は…」


「まだ負けを認めないんだったら良いさ。やろうか」


クリスとルシアの間に割って入った。


「さあ、来いよ」


手招きなんぞしてみる。雑魚には強気の典型的な小物ですよ俺は。


「ああ、やってや――。く、動けない…!?」


体を硬直させるルシア。


「リューク、お前…」


そして呆れ口調で俺を見るクリス。


「先にやったのはそっちだからな。文句は言わせない」


ふんぞり返る。ルシアの体には、陰で見えなくしたVツールが絡み付いている。

ルシアがクリスと話してるときにこっそり仕掛けました。絶は得意だからな、絶は!

オーラの見えないギャラリーのなんで硬直してんだという声はやはり無視。


「はい、負けを認めてください」


きっと今の俺は満面の笑顔なんだろう。久々に見せ場が来た喜びで。


「くそっ…!」


吐き出すように毒づくルシア。そして――。


「負けるか!!」


オーラの刃で絡み付いていたVツールを細切れにした。


「あれま…」


ポカーンとする俺。

そう簡単には切れないはずなんだけどなぁ…。

だが負けませんよ! 身構える。だが、ルシアはバックステップで距離を取った。


「ナンデ…?」


ついカタカナで呟く。

そしてルシアは手のひらをこっちに向けて、


「――喰らえ!」


拳大の念弾を飛ばしてきた。


「うぉっ!?」


驚いたが、鉄棍で弾き飛ばす。さっきの刃より完成度は低いなこれ。

ドン、ドンと一定のゆったりしたリズムで念弾は飛んでくる。

弾く度に大きな石を叩いたような重さを感じるが、スピードは大した事ない。

これなら、強化した鉄棍で軌道をずらすくらいは造作も無い。

けど、このままじゃ埒が明かないな。いや、持久戦に持ち込めば多分先に終わるのはあっちだろうけど。

…あの技試したいしね。

鉄棍の端の方を持ち、バッティングの構え。そして…打つ。


――ゴン!


まるで本編の主人公の名のような鈍い擬音ではじき返された念弾。

そして俺は同時に勢いのまま鉄棍を離す。


――これぞ、必殺のノックアウト打法!


まずルシアは念弾を横に跳んで回避する。

続けて来る、オーラを纏った鉄棍をまともに受けるのは困難。今度は転がるように回避、体制が崩れた。


――移ろう信念(スピリットシフト)、放出系!


俺は即座に系統を切り替える。

腰を落とし、バスケットボールでも持つように手のひらと手のひらの間を空ける。

そこにオーラを集中。球状に形成する。


「させるか!」


ルシアが俺の作業を中断させようと体勢を立て直し、念弾を放ってくる。

だが…遅い!


「ゴッドファーザーボム!!」


技は完成した。球状のオーラは俺の手から放たれる。

…そう、ゴッドファーザーボム。海の大陸NOAに出て来た、海親父ことリューヤの必殺技。

一気に場が白けた気がするがキニシナイ!!

俺の全オーラを結集して放つそれはルシアの念弾をいともたやすく飲み込み、そして直撃した――。


――ドォォォン!!!


…なんか爆発とかしてるけど、死んでないよね? 最大出力は、やりすぎたかなぁ…。

ギャラリーの火薬か卑怯者って声はスルー。

もうもうと上がっていた煙はすぐに風にかき消され、そこからルシアは姿を現す。


「ぜぇ、ぜぇ…はぁはぁ……」


直撃寸前に最大出力の練で堪えたらしい。所々焦げてるけど生きてる模様。

まだこっちも完成度が低いな…。つーか大丈夫でしょうか? 息、大分上がってますよ。


「おーい、死んだりしないよねぇ…?」


近づいて軽くゆすってみる。あ、こっち見た。


「キサマ……!」


そんな呟きが聞こえる。えーと、もしかして怒った? そんなに睨まないでよ。


「…ぶっ殺す!」


ルシアが掴みかかってくる。バックステップで回避――。


「あ…!?」


そこでつまずいたーー!! タイミング悪ー!!!

さらにルシアもつまずいて倒れ掛かってくる。なんでさー!?

そして…。




――ズキューン!!






……何があったのかは察してくれ。言いたくないから、男にファーストキ――ゲフンゲフン!

だから…あの、俺とルシアのとある部分がゴッツンコってね……。


「「A、A、A、あ゛あ゛あ゛あぁぁぁーーーーー!!!!」」


俺とルシアは共にのた打ち回り絶叫した。その衝撃は、痛みはあまりに大きかった…。




続く?




あとがき

ファーストキスからーはーじーまるー♪ ふーたりの恋の…なんて展開にはなりませんよ?

アホみたいなオチで今回は終了。次はリュークとノエルの実家に向かいます。

そこで繰り広げられる…まだ何も考えてません! 今から考えますよ、駄目駄目ですね。

とりあえず、VSは最高ってことで。最近普通に読むだけでなく知ってる声優さんで脳内アフレコしてます。

さあ、VS好きな人は一緒に最適なキャストを考えましょう!

私が適当に考えたのは

鷹匠次郎:鈴村健一 

水城蒼:後藤沙緒里 

竜胆寺那智:山口眞弓 

三輪要:小林早苗 

水島苑子:浅川悠 ――って感じです。

はい馬鹿な真似しましたごめんなさい。でももし一緒に考えてくれる人いたらお願いします。

後、ハンター試験編入ったら軍艦島はやるべきでしょうか? 正直あの辺でリューク達を活躍させられる自信ないですが。


では返信を


>あき様

ええウザいでしょう。所詮サブキャラだしそんなもんでいいかと適当にキャラ付けした結果です。 


>さるびす様

ほんと、アレは懐かしいですね。五ヶ月に一度休む事になると書いてあったと思ったら、軽く五年以上間空けて復活ですからね。

期待に添える可能性は低いですががんばります。


>烏竜茶様

リュークはがんばりましたよ…。多分今の心境は『もう、ゴールしてもいいよね?』だと思います。


それではこれにて~。





[2208] Re:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/10/22 23:51



――何だコイツは!?


目の前に立つそいつの弱弱しい印象は消えてなくなった。

立ち上るオーラは凄まじく、自分のそれが酷くちっぽけに感じた。

……駄目だ、震えが止まらない。


「あ、さっきのは失言だったな…」


横に立っていたクリスがそう呟き、


「すまんルシア。私にこいつは止められそうにない」


顔に傷が残る事は無いと思うから――。

僕にそう言ってから目を逸らす。そして、そいつは一歩一歩踏みしめるように向かってきた。


……化け物。そう形容するに相応しい存在だった、そいつは。

近づいてくる、そのおぞましいほど美しい微笑を浮かべて。


――それからの事は、はっきり覚えていない。

ただ、気が付くと体が動かなくなり、そいつの腕に煌めいていた淡い銀のガントレットだけがいつまでも目に焼きついていた。






微妙に憂鬱な日々


十五話






――目を開いた時、その視線の先には青空が在った。


「あーあ…とんびよう、おまえはよかねぇ、空ばそぎゃん気持ち良う飛べて……」


視線の先を横切る鳥に向かって呟く。それがとんびかは不明。


「あら、主さんも」


声が聞こえる。身を起こし――どうやら広場のベンチで眠っていたようだ――声の主に目を向ける。


「飛ぼうと思えば飛べるでありんすよ……」


「アンジェ――クリス!」


そのまま元ネタ言ってしまうとこだった…。ここ、あの世じゃないよな!?


「まあ、ネタに走るのはこのくらいにして、気分はどうだ?」


「うーん…」


背筋を伸ばし、勢いをつけて起き上がる。腰を回したり屈伸して、軽く自己点検。

…うん、問題なし。


「大丈夫のようだな」


此方の様子を見て、クリスはそう判断した。


…だが、何があったんだ? 確か、あの…ルのつく人に俺のアレが奪われて――。


「ルシアって女だったんだよな?」


クリスが俺にそう言って、だから安心しろと慰めたのは覚えている。


「ああ、安心しろ。ネタじゃなくマジだ」


9歳までよく一緒に入浴していたと付け加えた。

…ショックは減ったが、喜べない。


「でもリプレも男だったとはなぁ…」


驚いたよ。凄まじく愉快な兄妹、いや姉弟だ。つーかルシアは同性愛者な訳ですか。

アレですか、そんでリプレさんは性別偽って女学校にでも通ってんですか?


「ちなみにリプレの本名はリカルドだ」


「それ、なんてマルチネス?」


「すまんが、一歩にはあまり詳しくなくてな…」


いや、分かるなら良いです。――って、話ずれてるな。


「どうして俺、気絶してたんだ?」


本題に入る。俺がそう言うと、クリスは言いにくそうに口をつぐんだ。


「いや、それはだな…」


「リュークーー!」


そこに割って入る声。見れば、駆け寄ってくるノエルの姿があった。

そしてノエルから目を逸らすクリス。…なんとなく分かったような気がしないでもない。


「よかった、気が付いたんだね」


そう言って缶ジュースを差し出してくる。スポーツドリンクだった。

クリスがノエルになんとも言えない視線を送っていたがそこはスルー。


「ああ、ありがと」


とりあえず礼を言って缶を受け取る。開けて一口。少しのどが渇いていたので、かなり旨く感じた。


「大丈夫? いきなり気絶しちゃったから心配したんだよ?」


「いきなりって、お前が――。…いや、なんでもない」


ノエルの言葉に何か言おうとしたクリスは、その視線を受け黙る。

老若男女問わず陥落させそうなノエルの微笑が、逆に怖い。


ああ思い出した。アレの後、ルシアがキレてこっちに向かってきそうな時、ノエルが声かけてきて、そっから記憶が無いんだ。

……俺を気絶させたの、ノエル?


「な、なぁ、そういやルシアはどうしたんだ…?」


もしかして、死んでないよな…? 


「なんか、疲れちゃったみたいで眠ってるよ」


そ、そうですかノエルさん。だからその笑み怖いって。


「オーラ極限まで搾り取られたら、動けなくなって当然だ…。当分目覚めないだろうよ……」


搾り取るって、まさか…。


「何か言ったクリス?」


クリスに目を向けるノエル。


「いや、何も」


黙るクリス。


…だから怖いですぜノエルさん。その態度だけじゃなく、BとかLとかつく単語が頭を過ぎるから。

あ、アレですか嫉妬とか言うやつですか? 違うよね、ルシアの態度に怒っただけだよね? だから俺の代わりに戦ってくれたんだよね?

……うん、友達万歳!

自己解決し、この話に触れるのは止めると決定。いつまでも過去は引きずるもんじゃないよね。




「…あ、そうだ。これからどうすんだ?」


話題転換しようと切り出してみる。


「リュークも起きたし、次はボク達の親に会いに行くよ、もちろん」


「…クリスの親、許可してくれたのか?」


あの父親が、時には死人さえも出るハンター試験の受験許可を出すとは思えないのだが…。


「私の父は母が説得してくれた。今頃は家で簀巻きになっているはずだ」


「…オーケイ、ならば俺は何も言わない」


人の家庭に口出しはしないさ、うん。例え、説得に拘束ってルビが振ってあろうと。

では、実家に帰らせてもらいます! …でも実はちょっと観光したかった。




***




「――あがりだ」


ししょーがスペードとダイヤのエースを出す。俺の手にはクラブの10が一枚。


「また俺がビリですか…」


ま、つまりアレだ、じじ抜き。クリスとノエルが速攻であがり、俺とししょーが接戦。

最後にししょーが、俺がカードを引く瞬間に手札を動かして誘導するという素敵フォースで俺がビリとなりました。


「次は大貧民でもしねぇ?」


流石に五連続負けはつらい。他のがやりたい。


「そうだね、同じのばっかりやっても飽きちゃうしね」


ノエルの同意は得られたので、他は無視して手札を再び配り始める。

…だが、ノエルがいなかったら濃いギャルゲー談義になってたんだろうなぁ俺ら。

いっそのこと、ノエルも入れるか、メンバーに? ――いや、止めておこう。

ちなみにここは飛行船の中だったりする。

いやさ、電車だと普通に時間係りまくるし、ししょーのハンターライセンスのおかげで安く個室も取れるんですよ。

豪華な作りではないけど、ちょっと良いホテルの一室って感じ。


「よし始めるか――」


クリスの宣言と共に微妙に気合を入れる。大貧民開始――。




……そして、俺は七連続で大貧民な結果に泣きたくなった。


まあ、それは置いといて、三時間ほどで空港に到着。そこから電車に乗り換え約一時間半ほど揺られ、実家の最寄り駅に付いた。


「とうちゃーく…」


やる気無い声な俺。ヤベえっす。移動だけでなんか疲れました。電車の中では殆ど寝てたのにねぇ。

それにもう夕方やん。何も出来ねぇ。


「普通だな」


ポツリと言うクリス。駅から出たら、バス停とタクシー乗り場がある普通の光景。

さらにその先に広がるのはコンクリートが中心の雑多な町並み。その大半の窓からは明かりが漏れていた。


「ま、ふつーだな。観光地なんて無いし。――そんじゃ、バスに乗り換えようぜ」


早く帰って寝たい。実家のベッドが恋しくなった。


「いや、ちょっと待ってろ」


バス停に向かおうとしていた俺達をししょーが制する。


「おーい、こっちだ」


そしてそこに聞こえる声。見れば少し離れたところに白いワゴン車。


「とーさんか」


その運転席からは俺の父親、バーク・レイオットが顔を出していた。


「どうも、バークさん」


「ああ、ご苦労さんだな、アル」


そちらに向かい、とーさんに一礼するししょー。


「とーさんおひさー!」


そして、声を掛けた直後に土下座する俺。そう、DO・GE・ZAだ。


「ちょっ、いきなり何してるのリューク!?」


困惑するノエル。


……貴様には理解できまい!! その、強者の放つプレッシャーに土下座せざるを得ない俺の魂の叫びが!!


「何、やってるんだ…?」


とーさんもあきれ返っている模様。まあ、実の父親にいきなりこんな真似するのは俺くらいだね。


「いや、その気持ちは分かるぞ…」


そう言うクリスの声もなんとなく気おされているように感じる。

俺らにわか念使いに、このプレッシャーは毒だって。

…まあ、ノエルは別格ですから。


「馬鹿なことやってないで、早く乗っちまいな」


「ほら立って、リューク」


「あ、ああ…」


ノエルに立たされ、俺はワゴンに乗り込んだ。




「――それで、そっちの子が…?」


「どうも、クリス・バーネットです」


「はは、固くならなくていいよ。リュークがいつも世話になってるね」


「いえいえ、ノエルの世話っぷりには負けますよ」


ワゴンの中、ししょーが助手席で、右からクリス、ノエル、俺の順でその後ろに座っている。荷物はさらに後ろの席。

とーさんに話しかけられ、クリスは微妙に固くなっている。今のところ、好印象っぽいけど。


「ははは、リュークはやっぱりノエル君がいないと駄目なんだなぁ。いっそ、家の八百屋、ノエル君に継がせようか?」


「ちょ、それは待ってよとーさん!?」


それ洒落にならないから!


「それなら、一緒に八百屋経営しようよ」


「待ちなさいノエル。なんで、君が家の八百屋継ぐの前提みたいになってるの!?」


「じょーだんだよ」


珍しいいたずらっぽい笑み。街中でこれやったら、きっとニコポ現象が発生しまくっていたところだ。

つーかどんな顔してても、冗談抜きで老若男女簡単に落とせるな、コイツ…。




「い、イヒャいよリューク~」


「あ、わりい」


妬みのせいか、ついノエルの両頬をつねっていた。

…やわらかいホッペですこと。


他三人はそんな俺らを見て、ただ笑っていた。

はいはい、俺は情けねぇ男ですよーだ。




続く?




あとがき

ノエル嫉妬編?が終了~。いつもと同じワンパターンになりつつ、微妙にノエルが怖い一面を見せたりしましたね。

…いい加減、ノエルの性別ハッキリさせた方が良いと思うのですが、読んでいる方々の意見をお願いします。

多数決ではないので、お気軽に書き込んでみて下さい。

ですが、もしノエルが女の子だとしても、私にいい感じのキャラが書けるかはまた別問題ですので、今までのノエルを女の子だと想定して、萌えの燐片を垣間見れる強者な方々以外はスルーしたほうが賢明かと。

ハンター試験編まで後二話位の予定です。そこまでいつも通りダラダラな感じですが、どうかお付き合い願います。


では返信を


>ガイ様

此方こそ初めまして。お気に召してくれているようで嬉しいです。

まだノエルは男だと確定してません。あとがきにも書いたように、どっちが良いか意見募集中ですので、よろしくお願いします。


>あき様

まあ、出番が無いなーって無理やり出した感じですからね。ノエルがもっと出番無かったですけど…。


>烏竜茶様

ルシアは女の子でした。いっそ男なら無事だったのに…。

ですが、まだ生きていますよ…。これから出番は殆ど無さそうなのである意味死にましたが。

この作品の声を考えるとは…グッジョブです。ですが、まだ現在十三歳のリュークにキョンボイスは渋すぎるかと。


>noeru様

確かに最近ノエルの出番かなり少なかったですね。今回ちょっと焦点当ててみましたが、いかがでしょう?


>しばかり様

ルシアの名前に関してですが、こんなアホなオチになってしまいました。どう見ても後付けです。

いや、最初からネタの一つに考えてはいたんですよ? ただ、描写を忘れていただけで。…すみません、駄目駄目ですね。

ザンヤルマのイラストの件は、以前あとがきで書いた、絵柄で選ぶ人にはオススメ出来ない発言についてですよね?

その件に関してですが、弁解させていただくと、昨今の、どちらかと言えば可愛い系のイラストのラノベに慣れている人には取っ付き難いんじゃないかと思い、そう書いたのですが、アレでは勘違いさせるのも無理は無いですね。

私もザンヤルマの絵は大好きです。ミュートスやヴァーサスと違って、作品の雰囲気にぴったりでしたし。

言葉足らずで不快にさせてしまい、申し訳在りませんでした。


>さるびす様

あの終わりはありがちだなぁと思いながら書いていたのですが、私がずれてるんでしょうかね?

笑っていただけたなら結果オーライですが。


ではこれにて





[2208] Re[2]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/11/14 17:31





「おー、着いたぞ我が家に!」


家の隣のガレージに停められたワゴンを降り、そこから広い道の真ん中に立つ。

少し見上げる形で我が家に目をやった。白い壁で二階建ての、左右に並ぶ肉屋や本屋よりもやや大きいそれ。

レイオット青果店、建物の入り口と成っている自動ドアの上にはそんな看板がある。

ちなみに二階は居住スペースとなっています。結構金を掛けたらしく、かなり頑丈な家らしい。


「看板、新しいのに変わってるね」


いつの間にやら隣に立っていたノエルが呟く。確かに、以前見たときより綺麗になっている。

最後に帰省したのって、半年以上前だったかな。…実は、ノエルの両親が結構心配しているので、たまに帰省してたりする。

まあ、家の両親も帰ったときは必ず一回は豪勢な食事出したりするし、俺の事、結構案じてくれるんだろうと思われる。

その帰省も二、三日帰ってきて、ちょっとダラダラして家の仕事手伝ってたらあっという間ですが。

ちなみにクリスはししょーの家に来てからは一回も帰省していない。解る気がするが。


「でも、何故に震えが止まらんのだろう…?」


呟く。そう、俺の足はガクガクブルブル元気に振動中。声も微妙に震えている。

見慣れたはずの我が家が魔窟に感じるですよ~!?


「それだけお前も成長したんだ」


後ろに立っていたししょーがそう言って俺の肩を叩く。


「強くなって、初めて解る強さもあるって事だ」


にしても、その怯え方は異常だとししょーは続けた。…いや、まぁ確かに。

つーか、このままだとかーさんに会ったら気絶しそうな――。


「家の前で何やってるの? 早く入ってきなさいよ」


「ヒィィィッッ!!?」






……気絶はしませんでしたけど、一瞬ハートブレイクショットで時が止まりました。






微妙に憂鬱な日々


十六話






「たっ、た、たただいま、かーさん!!?」


「どうしてそんなに慌ててるの?」


「絶やっておいて、それは無いですよ」


ただでさえビビリモードに入ってたのに、それに加えて絶で声掛けてくるとか、心臓に悪すぎです。

かーさんはにこやかに半分は成功、もう半分は驚き方が異常だろってなんか形容しづらい表情になっている。

そう、我が母親ミリア・レイオット。長く、若干ウェーブのかかった亜麻色の髪をサラリと揺らしている結構な美人さん。

今年で39歳になるはずだが、念の恩恵のためか、30代前半…いや、20代後半にも見える。

わずかでもこの人に似れば、俺は美形に生まれる事が出来たのだろうに思うと、酷く損した気分になる。

黒髪黒目は父親ゆずりさー。


「こんにちは、おばさん」


「あらあらノエル君、元気だった」


「はい、そちらも変わってない様で」


「あらあらあら、そんなに他人行儀にならないで、お義母さんと呼んでもいいのよ?」


和やかに会話してる二人。ノエルとかーさんは結構仲良かったりする。

…微妙に不吉な単語が聞こえたような気がするが、無視しておこう。我が子のようにノエルを可愛がってるって事だよね? そうに決まってる。




……いちいち気にするのは止めよう、うん。キリ無いし。


「えーと、暗くなってきたしボクは一旦家に帰るけど、クリスはどうするの?」


確かに、もうすぐ夕飯時だしなぁ。ノエルは既に親に連絡入れてあるから帰って飯かっ食らって寝るんだろうけど。

ししょーと話は明日だろうしな。


「ふむ…。と言っても、リュークかノエルの家に泊まるしかないわけだが」


「それなら家に来なよ。実は、もうお母さんに連絡入れて許可貰ってるんだ」


おやおや、そんなにクリスと一夜を過ごしたいのかい、ノエル?

まあ、早く決まるならそれに越した事無いし、別に良いか。

女の子に執着するノエル見たら、別の意味でも安心するし。


「用意がいいな。だったらお言葉に甘えると――」


「あら、家に泊まらないの?」


そこに口を挟むかーさん。別にいいじゃないっすかー、んなことせんでも。


「いや、私はどっちでも良いんだがな」


「い、いや、いきなりだし、やっぱり迷惑だと思うから家に来なよ!」


「そんな事無いわよ~。今夜のご飯はカレーだから、人数が少しくらい増えても大丈夫」


あ、あれ…? なんか険悪な雰囲気が漂ってきたような気がする。

いや、いちいち気にしてたらキリ無いってさっき思ったばっかだろ。

き、木の精、いや、気のせいさ。


「あ、そ、それより、店番はしなくていいんですか?」


ノエルのあからさまな話題逸らし。


「店の前なんだし、お客さんが来たらすぐに分かるわよ」


さらりと流す。流石は年の功。

なんか知らんが、ノエルが遊ばれてるっぽい。


「――ねえ、いっその事、ノエル君も泊まる?」


まさに、妖艶と言った形容の似合う笑みでかーさんが言った。

この一言で、皆が我が家に宿泊する事が決定。後で聞いた事だが、ノエルの両親は半泣きしたらしい。

ご馳走作って待ってたんだろうなぁ…。




***




「こーいうとこ、半端に和風やなぁ…」


ぼやきつつ、抱えていた布団を下ろす。名前や容姿は和風とはかけ離れているのに、この辺の商店街感じとか、微妙に和風だ。

そして、布団もベッドがメインだが、たまにやっぱり床に敷くこともある。…不思議だ。

ここは六畳位の空き部屋でっす。板の床ですがさっと拭いて布団敷いて、ノエルやクリスと一緒に寝るのですよ。

川の字に並べられる布団。並びは俺、クリス、ノエルだな。…別に、クリスの隣になって卑猥な妄想したいってワケじゃないからね!?

ま、今更か。クリスと一緒の部屋なんていつもの事だしな。ノエルと一緒だと背後が過剰に気になって眠れないんですよ。…深くは聞くな。


「リューク」


湯上りで水色一色のパジャマ着装のクリスが現れた。

いつも思うが、どうしてこうも、この時のこいつは可愛いんだ!?

濡れた髪と少し紅くなった頬にトキメキますよ!

……ノエルの湯上りスタイルの方が可愛いなんてことはナイデスヨ?


「湯加減はどうだった、クリス?」


「普段とそう変わらないさ」


ま、そだな。別に特別な風呂のわけでもないし。


「それよりリューク、ちょっと話がある」


「何?」


「…ハンター試験の事を話し合いたい」


クリスは声を潜めて言った。


「ここでか?」


その様子からすると、人に聞かれたくない話じゃないのか?


「ノエルは今風呂に入ってる。大人三人は酒盛りの最中だ。――とは言っても、長くなったらまずいな…」


そして一拍置き、


「今日、お前が気絶している時に申込み済ませたんだがな。…今回の試験、会場はザバン市だ」


「…そうか」


原作通りってことか。…なんか気持ち悪いな。


「トリップして、都合よく念能力者になれて、受験しようと思ったら、その年はたまたま原作と同じ。――気持ち悪いな」


クリスも俺と同じような事を考えていたらしい。その言葉に頷いて応える。


「少し二人で今後の方針について話したい。構わないか?」


「こっちもそう思ったところだ。夜中にでも、近くの公園で」


俺の返答に、クリスは頷いて了承した。


「――んじゃ、今はこの辺にして、からくりサーカスの声優について話し合うとするか」


「…今更だが、その手の話も、ここでするとノエルが不審がるんじゃ無いか?」


「なぁに、足音聞こえたら打ち切ればいいさ」


ジャージのポケットに忍ばせておいたトランプを取り出し、敷いた布団の上に座り込む。

そして適当にシャッフルした後、トランプの束を二つに分けた。


「ババ抜きでもしながら話そうや」


「二人でババ抜きはどうかと」


「フェイスレスは小野坂昌也が良いと思うんだが…」


「マジで話すのか…」


その後、声優ネタで雑談しながらババ抜き3敗、インディアンポーカー17敗、ダウト6敗したところでノエルが加わった。

……勝に水樹奈々は、やっぱり駄目かねぇ…? というか、声優の声をこうも鮮明に思い出せる自分に驚いた。




***




「待った?」


「五分ほど」


「そこで冷静に返すなよ…」


ノリが悪いよクリス。


「ノエルには気づかれてないな?」


「ふ、問題無い。…俺の特技を忘れたのか?」


絶プラス影薄いで、俺の気配立ちは完璧さっ!

…まあ、かーさんには気付かれましたが。家を出る俺に向かって『おかーさん、野外プレーはどうかと思うのよ』とか、ふざけた事をほざきやがりました。


「ならいいさ」


そう言いクリスは傍のベンチに座り込む。

ここは家から大通りに沿って徒歩二分ほどの公園。

トランプしていた時にこの場所を教えておいて、夜更けに時間差で布団を出て集合という流れ。現在2時。

周囲は暗く、照らしてくれるのはベンチの横にある街灯のみ。そこには蛾が2、3羽舞っている。


「それで、まずは何を話す?」


クリスの隣りに座って言った。


「まずはお互いの事を。『前世』――実際そうなのか疑わしいが、今はそう呼んで置こう。で、その『前世』なんだが――」


「ちょい待ちちょい待ち」


クリスの言葉に待ったを掛ける。


「…何だ?」


「前世か疑わしいって、どういう事?」


俺は事故にあってから記憶が途切れてるし、転生トリップで確定じゃないの!?

その時の状況を語る俺の言葉に耳を傾けた後、クリスはため息を吐く。


「――ああくそっ、もっと早くこの事について話すべきだったな」


そして頭を掻きながら呟いた。


「…私もいわゆる転生トリッパーのようだが、どうしてこうなったか解らないんだ」


原因? 転生の原因なんて、俺にもさっぱり解らんよ。


「そうじゃなくてだな。――私は、お前で言えば事故の様な、トリップの『切欠』が解らないんだ」


つまり何? と、そんな風に首を傾げる俺。


「学校帰りに友達とカラオケに行って、帰ってきた後にそのまま寝入ったら、そこから記憶が途切れてる」


…へ!? どゆこと?


「眠っている私が突然死した為にトリップしたということも、無論有り得る。だが、一応中学で皆勤賞とった健康優良児だったからな。その可能性は低いと見てる」


つまり…。


「トリップの原因に事故などは関係ないんじゃないかという事だ。もっと言えば、お前がその事故で本当に死んだのかも怪しい」


そう言われると確かにそうだ。


「さらにもっと言えば――」


「これが異世界トリップなんかじゃなく、夢オチなんて可能性もあるわけだ」


クリスの言葉を遮って言う。


「誰の夢かは知らないがな」


それにクリスは続けて言った。

…疑いだすとキリが無いな。俺らがそもそも別世界の人間だった事さえ疑わしくなる。


「その通りだな。とりあえずは、私達がトリッパーだという前提で話を進めよう」


そして、お互いについて情報交換。

そして解った事は、クリスは俺と高校が違うが、住んでいた場所が意外と近かった事。

トリップした日にちは、おそらく同じ『つばさ』の発売日の翌日だという事。

そして、俺が事故にあったのはクリスの家からそう遠くない場所…かもしれないという事。


「これだけ取り上げて考えると、結構怪しいな」


確かに、微妙な共通点が幾つかある。だけど――。


「私達二人だけなら、偶然という可能性もあるわけだ。どんな偶然かは知らんがな」


知らない事ばっかりだな…。というか、今までそれについて全く考えなかった俺って……。


「ん? お前も情報収集の為にハンター目指すんじゃなかったのか?」


「金のことしか考えてなかった…」


「…まあ、私もそれが主な目的だったがな」


「「……はぁ」」


お互い、俗な人間やのう…。

まあ、解った。ハンターになれば行動範囲が広がるし、もしかしたら何か解るかも知れないしな。


「いや、それもあるが、もっと別の目的もある」


そこでクリスは右手の人差し指をピンと立てる。


「トリッパーは、別に私達だけとは限らないだろう?」


情報収集って、そういう事か。自分以外のトリッパーに会って状況を聞くことが出来れば――。


「もしかしたら、何か解るかもしれないだろう?」


もし、『何か』があれば協力できるかもしれないしな。

トリッパーが皆、『原作』を知っているとは限らないが、知っているならば、何人かはハンター試験を受ける可能性がある。

そこで見つからなくても、やっぱり人探しにはハンターライセンスを取っといて損は無い。


「でも、俺らと同じ転生トリッパーだったらどうすんだ?」


俺ら二人ともそうなんだし、トリッパー皆がもしそうだったら簡単に分からんぞ?


「…リューク、お前と私の出会いを覚えているか?」


「ん? …ああ、覚えてる」


クリスが銃撃って、ヴァッシュさんみたいな決め台詞かまして――。


「そうやってネタ振りに反応した人に接触すればいいと、そういう事?」


「その通り。アニメのだけじゃなくて、有名な歌とか結構歌いながら移動してるしな」


ふむふむ…。でも、1つ問題が。


「お前の歌じゃ、気付く人少ないと思う」


実はクリスって結構歌を歌う。

よく聞くけど、あれは歌が別物に昇華してる。トリッパーがいたとしても、多分気付いてない。

いや、ジャイアンほど酷いわけではない。でも音程が外れまくってる。

というかアレにあんな意味が…。


「なら次からお前がやれ」


「へいへい、りょーかい。でもさ――」


「何だ?」


「このご都合主義が怪しいって思うのは分かるけど、もし、調べても何も出なかったら?」


わざわざハンター試験受けて、それでも何も無かったら骨折り損じゃ…?


「その時は、ライセンス売るなりして楽しく暮らせばいい。…それにお前達とも会えたしな。骨折り損ではないさ」


「クリス…」


お前、真顔で何を恥ずかしい事言ってるんだよ!? というか、俺が恥ずかしくなってきた…。


「まあ、とりあえずこの話は止めて、次はハンター試験の対策について話そう」


クリスは顔を紅くするこっちを見て、クスと笑っていた。うぅ…。


「――試験を受けるに当たって、念の使用は極力控えたいと思うが意見は?」


「…いや、それには同意する」


もし『原作通り』なら、ヤバイ奴がいるわけだ。具体的に言えばヒソカとかヒソカとかヒソカとか。

…懐かしいな、密・リターンズ。それは置いといて、後、イルミも安全牌ではない。

そんで俺らのメンバーには、一人天才がいるわけで。…下手なことしたら、絶対目をつけられる。


「後、携帯食を幾つか用意しておいたほうが良いな」


「枕も要るな」


アレがなきゃ眠れん。


「駄目とは言わないが、かさ張る物を持つのはどうかと思うぞ」


まあ、枕がそう使える状況になるとは思えないしな。仕方ない、諦めよう。


「――だけど、防寒具くらいは用意しといた方がいいよな?」


「その辺は、保温性の高いアルミシート辺りを用意すればいいと思う」


「ああ、そういやそんなんがあったな」


そしてそんな感じで数分ほど話し合い、後にノエルを加えて改めて話し合うことにして今夜の会議は終了した。

これから先、何かあるかもしれないし、何も無いかもしれない。

…まあ、気を引き締めるに越した事はないわな。




続く?




あとがき

どうも、お久しぶりです。ちょいと間が空いてしまいましたが、圭亮は死んでいません

なんか微シリアスな感じになりました。おもっくそこじ付けっぽいけど、気にしないでいてくれるなら幸いです。

このままシリアスを入れつつ行くか、お気楽らくしょーいってみよーで行くか悩み中。いえ、おそらくアホネタ小説で在り続けるかと。

ただ、こんな小説でこんな事をいきなり話し合うなんて、独創的でしょう? …アホアホですな、スイマセン。

それと、ノエルの性別ですが、アレだけ意見貰っておきながらなんですが、もう少し保留という事にします。またもやスイマセン。

いやぁ、あんなに来るとは予想外ですよ、はい。それだけ注目されていると思うとプレッシャーが…。

下手な展開に出来ませんな。下手な展開になるんでしょうけど。


では返信を


>123様

そ、そういう気持ちになるって…。

もしかしたら、私にBLの小説のサイダネがあるのかもしれませんね。ノエルが男だとしても、絶対書きませんが。


>ガイ様

もう少し性別不明のままで行きます。もしかしたら、そのままな可能性も無きにしも非ずですが。

クラピカの性別は気になりますな。軍艦島で生娘のような感じを醸し出していましたし。

…ノエルの容姿のイメージですか。悠久のクリスをベースに改造しまくった感じ…って何か分かりにくい上に違いますな。

えーと、オーフェンのマジクベースにブラックラグーンのヘンゼルをちょっと混ぜた感じですか…ね。

はい、声優つながりですスイマセン。


>Sakaki様

性別が定まらないですか…。

一応その場合も考えてありますが、私には扱いきれなさそうなんで、すみませんが、そうなる可能性は低いと考えて下さい。


>Σ(゚д゚ )様

率直な意見をどうも。実は、どっちかというと女子な方に傾いてる気がします。


>る~と様

両性具有。やはり私には、そんな新庄運切なキャラは無理っぽいかと…。


>Iris様

そう言われると、男にして欲しいんじゃないかと誤解しますよ~?

いやまあ、結局はもう少し保留ですが。

ちなみに、ノエルのガントレットは形状的にFateのセイバーがつけてるのっぽいのを漠然とイメージしていただければ良いかと。


>・・・様

このグダグダっぷりをお気に召してくれるとは、嬉しいです。

次に1話のんびり話をやった後にハンター試験編に入る予定です。

かといって、そこでテンポ良くなるかは不明ですが。

私は大富豪とか、その手のゲームは大人数でやると強いですが、少人数でやると、もの凄く弱いです。


>ryo様

なんか、微妙に怨念じみたものを感じますな…。まあ、今は保留という事で(逃げ)


>TOM様

クリスといざこざ…。ノエルが一方的にクリスにライバル宣言するくらいですな、きっと。


>GYUSYA様

ノエルが女でも、あの3人が三角関係は無理っぽく、仰る通り三角関係?な意味不明トライアングルができそうですな。

期待に沿えるかは微妙ですが、頑張りますんでそん時は勘弁して下さい。


>しばかり様

えーと、モロに言い訳ですが、ルシアは自然と振舞っていたらああなってしまっているので性別とかは関係なくて、名前はそのまんま。

一方リプレは女装は趣味で、男と女の自分を切り替えるのがなんか好いので、なりきるために名前を変えているという設定です。

…分かりにくいですね。

誤解は解けたようでホッとしました。

それと、性同一性障害とか、その手の題材は私には難しいかなと思います。

ノリでやっちゃえばいいんでしょうけど、何故かストップがかかるんですよ。

昔くだらんギャグ小説でネタに使った事あるんですが、それで激しく後悔したんで。


>烏竜茶様

周りが気付いてて…な展開は、ノエルが女だった場合きっとそうなります。ノエルが男でも、BでLは私も勘弁です。

母親と会ったとき、逃げはしなかったけど、かなりビビッてました。すぐ慣れたようですが。

…うーむ、やはりキョンの声は何か違うと思います。自分的にリュークはテンション高めな少年ボイスって感じなんで。

作者と受け手の認識の違いでしょうか…? 私が自分の脳内のキャラを上手く投影出来てないと言う事ですな。


ではこれにて。




どうでもいいでしょうが、祝クレイモアアニメ化!!

イレーネは沢海陽子が良いと思います!





[2208] Re[3]:微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター)
Name: 圭亮
Date: 2006/12/11 15:29




「はぁ…、はぁ…」


光の無い真っ暗な部屋、俺は床に膝を着き息を荒げる。オーラを削られた疲労、暗闇の恐怖が重なり俺の精神を蝕むのが解る。

ここに閉じ込められてからどれだけ経過したのだろう…? 時間の感覚が掴めない。

辺りを見回しても、ここがどれほどの広さを持った空間かすら見当がつかない。時々自分が体を動かせているのかも疑わしくなる。

そして、俺をこの部屋から出さないように、右手は手錠で何かにつながれている。

今の、常人にも劣るであろう俺はその状況に何の手立ても打つことが出来ず、絶叫し発狂しそうな自分を抑える事で精一杯だった。

いっそ、そうなってしまった方が楽なのに、俺の精神は半端に強靭らしい。

…体が震える。胃は空の筈なのに吐き気がこみ上げる。冷たい床に奪われる体温、それなのに汗は噴出し、渇きが喉を締め付ける。

それに耐え、ただひたすら縮こまっていた。


――キィ…


扉の開く音、差し込む光に顔をしかめる。そしてコツコツと足音が響いた。

俯き、体を震わせ目を固く瞑る。その人物が誰かなんて想像がついていたし、今は恐怖の対象でしかなかった。


「リューク、ご飯の時間だよ…」


耳元で囁く声。澄んだ、綺麗なはずのそれは、今の俺にはただおぞましく、体の震えはより酷くなっていった。


「ほら…」


必死に俯こうとしていたが顎を掴まれ、強引に顔は上げられる。抵抗をする余力は無かった。


――そして口内を蹂躙される屈辱的な快感と、そこに流し込まれる唾液交じりのドロドロとした甘い何か。


クチャリと聞こえる水音、絡み合う舌、隙間からこぼれ顎を伝う唾液。

始めは怖気がしたそれも、今は快感が占めていた。――何も考えられなくなるほどに。


「…ああ、大好きだよ、リューク」


口を離し、耳元で囁く声。


「だったら、ここから出してほしいんだけどな…」


かろうじて繋がっている意識で搾り出す精一杯の軽口。

目を開けば、そこには満面の笑顔を浮かべるそいつ――ノエル。


「だぁめ、まだ治療は終わってないんだからね…?」


治療? …頭なら余計に悪化しそうだがな。


「病気なんだよ、リュークは。ボクというものがありながら、あんなメス猫といちゃいちゃいちゃいちゃ…」


「いちゃついてなんて――」


搾り出そうとした弁解の言葉は最後まで口にすることが出来なかった。

首を絞められたから。


「あ、あ、か…っ……!」


「ねぇどうしてかなボクはこんなにリュークのことが好きなのにリュークはボクに見向きもしないであんなメス猫とばっかり楽しそうに話しているんだろうね騙されちゃ駄目だよあんな奴所詮リュークの体しか狙ってないただの淫乱などーぶつなんだからね変な性病移されちゃたまんないけど残念ながらもう病気みたいだねあんなのばっかり見てボクのこと見てくれないんだもの」


息継ぎ無しで延々と語るノエルの言葉は、首を絞められ息の出来ない俺には認識不能の奇声にしか聞こえない。


「ねぇ、何か言ってよ!!?」


そして怒声。その表情はまさに悪鬼と言わんばかりに憤怒に歪んでいた。


――…駄目だ、意識が……。


そしてそこで、ノエルは自分の手が俺の喉にあるのに今更気付いたかの様に、


「あ、ごめんね」


そう言いようやく首が開放された。


「――ゲホッ、ゲホッ…。ぜぇ、ぜぇ…」


呼吸し、薄れかけていた視界がクリアになる。


「苦しかった? そうだよね。…でも、ボクの方がもっと苦しかったんだよ?」


「なん…で……」


「リュークのこと好きだった、大好きだった。だから一緒に修行したし、家事をやっててもぜんぜん辛くなかった。知ってた、ボク女の子だったんだよ? リューク以外は皆知ってたよ。…それでも、いつかはきっと気付いてボクを受け入れてくれると思ってた」


そして一拍置き、


「でも、クリスが来てから、二人共あっさり仲良くなっちゃった」


はははと力無い笑みを浮かべノエルは俯いた。


「ねぇ…ボクが今までしてきた事って何だったのかな……?」


悲痛な声、流れる涙。どうして、俺はノエルがこんなに追い詰められるまで気付けなかったんだろう……。

俺は、その濡れる頬に手を伸ばし――。


――ゴンッ!


俺の視線の先、ノエルの背後に迫る何か、殴打され鈍い音を立てるノエルの頭蓋。

伸ばした手に触れないまま、ノエルは俺の胸に倒れこんだ。

慌ててその後頭部を撫でるが、外傷らしき物は無い。練の状態ではなかったが、とっさに少ないオーラを集めて防いだのだろう。

顔を見ればその眼は閉じていて、意識を失っているようだ。

そして今更ながら眼前を見上げると、


「大丈夫だったか、リューク?」


鉄パイプを両手で握り、にこやかな笑みを浮かべるクリスが立っていた。絶をしていたらしく、その体にオーラは見えていない。

背後から忍び寄って鉄パイプでノエルを殴った…ワケだよな……? 助けに来てくれたわけだ、なのに――。


――…ドウシテ、コンナニ、フルエガトマラナインダロウ……?


…クリスが、どうしようもなく恐い。微笑むクリスが、どこかおかしいと感じる。


「立てるか?」


差し出されるクリスの右手。恐る恐るといった感じでそれを取り立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。

俺の体はそこまで弱っているようだ。ゆっくりとノエルを仰向けに寝かせ、クリスに引っ張られ立ち上がる。


「…すまないな、助けに来るのが遅れて」


「あ、ああ…いいさ、助かったよ…」


かすれた声で言いながら、俺は倒れているノエルを見下ろす。落ち着いて見ると、その頬は少し痩せこけて、息も荒い。


「なぁクリス…。ノエルなんだけど――」


弱ってるみたいだし、頭も打たれたし、病院にでも行かせた方が良いと思うんだけど、と言おうとしたが、


「ああ、そうだな」


クリスは俺の考えを汲み取ってくれたらしく、口に出すより早く頷いてくれた。




「――処理しなくちゃな、この泥棒猫を」


クリスはニヤリと笑って、その鉄パイプを両手に握りなおし、振り下ろした、ノエルに。


「え…!?」


振り下ろす、振り上げる、振り下ろす。何度も何度も振り上げ振り下ろす。

聞こえる鈍い音、ガツガツグシャグシャと喧しい。

どうしてそうなるのが解らなくて、ただそれを唖然と見つめて――。


「…お、おい、何してんだよ!? 止めろよ!!」


我に返り、止めようと後ろからしがみつく。けど弱ったこの体は一瞬その動きを硬直させるだけで、そのまま構わずクリスは振り下ろす、その鉄パイプを。


「は、あはははは! 調子にっ! 乗っているからっ! こうなるんだよっ! メス豚がっっ!!」


高らかな笑い、続いて怒気を孕んだ咆哮。その間も止まない断続的に振り下ろされる鉄パイプの音。

それはナニカで紅く染まっていて、それが何か、なんて考えたくもなくて、振り下ろされる先に在るモノがどうなっているかなんて考えたくもなくて――。


「頼むから…、止めてくれ……!」


呟いても何も変わらない。俺に出来たのは、ギュッと目を閉じてその光景から逃げ、クリスが止まってくれるように祈りながら、しがみつく腕を強くするぐらいだった。


…そして、そのままブツンと意識は途切れた。




……

………

…………




「…ま、そりゃ夢でしょーね」


呟き起き上がる。当然、俺がいるのはレイオット青果店、居住スペースの空き部屋。そう、夢オチ。

あったらものっそい嫌な未来予想図だ。すげーリアルだったなぁ…。


「だ、大丈夫、リューク? うなされていたみたいだけど…」


四つん這いで覗き込んでくるノエル。その横で眠るクリスは上下逆さまになって枕を足に載せている。

その光景を目にしてほっと一息吐き、ノエルの頭に手を載せる。


「――なぁノエル、何かあったらさ、言ってくれよ?」


手遅れにならないうちに、さ。 俺ら、トモダチだから…な?


「え……!? う、うん…」




……状況が飲み込めずただ頷くノエルの顔が紅くなっていたのは気のせいだと信じたい。






微妙に憂鬱な日々


十七話






「――では、色々と買出しに行きたいと思うが、いいかね?」


「いや、それはいいけど…どこに買いに行くの?」


只今、昨晩の大人たちの酒盛りによって発生したゴミなどの片づけ中。ノエルがキッチンで食器を洗い、俺は台布巾でその傍にある十人は余裕でくつろげる無駄に大きなテーブルをフキフキと。

クリスはつまみやらのゴミを袋に詰め、ゴミ捨て場に捨てに行ってる。場所は公園の傍だからクリスでも分かる。

ちなみに騒いだ当の本人達は別室で死屍累々…かと思いきや、かーさんは店の開店準備中。称号『くいーん・おぶ・うわばみ』は当分剥奪される事はないだろう。一番あの人が呑んでやがったのに。


「…まあ、特別なものが必要なわけでもないし、ホームセンターやらデパートにある災害対策コーナーとかそんなんで充分だろ」


「何があるかわからないけど、あんまり荷物がかさばらないようにしたいよね」


「だな。荷物のせいでへばって不合格なんてみっともない事出来ないしなー」


第一次試験が予想通りなら、なおさら気を付けたい所だ。リュックサック一つくらいにまとめたいとこだな。

食器を洗うノエルに一言掛け、割り込んで布巾を濡らし絞る。


「それと、申込しとかないとね」


あー、ノエルが言うまですっかり忘れてた。申込しとかないとハンター試験受けらんねぇじゃねぇか。

とーさんのパソコン使わせてもらお。受験料振込みは…かーさんに言わないといけないな。我が家の家計はあの人の手に委ねられている。


「んじゃ、次は食器洗い手伝うわ」




…掃除が終わった後、とーさんのパソコン起動させたら約50ギガのフルインストされた十八禁ゲーム達を発見したのは俺ととーさんの秘密。

ばっちり、こないだ買ってもらったばかりのノートパソコン(無論クリスとの共用)に幾つか入れてもらったが。パソコンの中の半分がハーレム物は、純愛シチュを愛する俺には受け入れがたい事だった。…だった、ワケでも…ない。




***




「もう買い物に行くのか? 邪魔にならないか?」


「もう移動たるいし、ここで用意済ませてそのまま行こうぜ。ちょっと日にち空くけど、いいじゃん」


「…まぁ、別に反対するわけではないがな」


こんなに早く行くとはなと言うクリスを押しつつ買い物へ。目指すはホームセンターにあるアウトドアとかの製品売り場。




「つーワケで、さぁ乗れクリス!」


徒歩で行くと時間がかかるので愛用の自転車(ぶっちゃけママチャリ)に乗り、後方の荷台を指し示す。ノエルも自転車を用意している。

でも、なんで俺のは普通の安いママチャリなのに、ノエルのはいかにも高そうなロードバイク的な自転車なの? なんで、ここでも格の違いが現れてるの? ……いや、今更か。

だがこれでは、買った物が俺の自転車の籠以外に入りきらんぞ、おい。ハンドルに提げれば済む事だが。


クリスの重みを感じ、乗ったことを確認した後に漕ぎ出す。微妙に重い一漕ぎ目を終えれば後はこちらのもの。続いてノエルも並んで走り出した。


「――お前に魂があるなら、応えろ!!」


「私はどちらかというとARMSの方が好きだったな」


なんとなくノリでほざいた言葉に乗ってくれるクリス。ああ、俺もどっちかといえばそっちが好きだ。

だが、斑鳩は自転車に乗るとどんな感じなんだろう? 一応これも乗り物だよな。

アホな事を考えながら緩やかに漕ぎ、頬を撫でる風に心地よさを覚えつつ横を見れば、同じように感じたのか、目を細めるノエルの横顔。


――プシュー…


そして微妙に和やかな雰囲気を微妙に嫌な感じにしてくれる音。タイヤの後輪から地面の振動を感じ、ガタガタと鳴っている。

それがお前の魂だというのか!? …頼むから、こんなところで俺らしさを発揮するな。




――プシュー


さっきの気の抜けた音より力強い音、それは扉の開く音。ノンステップなバスに俺達は乗り込んだ。自転車パンクしたし。

後部座席が空いていたので右後方の窓際からクリス、俺、ノエルの順に座る。こういう時、必ずこの順番になるのは俺の気のせいだろうか…?




そして買い物を終えて帰路に着く。…え、買い物シーンはって? 俺がどうでもいい手回しラジオやらの災害グッズに心引かれて、後ろ髪引かれる思いでクリスに引きずられてホームセンターを去った情けない光景を再現しろと?




***




「うー、よく眠れんかった…」


目蓋を擦り起き上がる。もう他の布団は既に畳んであった。クリスは起きたようだ。ノエルは、昨日は流石に家で過ごしたし。


「……弱いな…俺」


緊張のせいかよく眠れなかったわけだ。

そう、今日は出発の日。既に申し込みも済ませ、準備は整えてある。荷物も昨晩のうちにまとめた。


――パンッ!


少し強く頬を叩き、まだ少し霧がかかっていた意識を強引に覚醒させた。

立ち上がり、枕元に用意してあった新しい服を手に取る。白いTシャツ、ミリタリー嗜好の入った深緑のベストにズボン。

心機一転ということで、普段の黒ジャージからもう少しカッコいいのに変えることを決め、無難そうなこれに決めた。

袖を通すと慣れないせいか固く感じるが、ジャージと違って丈夫なものをセレクトしてあるので文句は言えない。


「――よし!」


掛け声一つで気合をいれ、部屋を後にした…が、布団をたたむのを忘れ部屋に戻り、その後、脱ぎっぱなしのジャージを放置していてはいけないと思い、さらに再び部屋に戻った。

ジャージを洗面所にある洗濯籠に突っ込んだときには、掛け声一つ分の気合など既に霧散していた。…先が思いやられる。




「そんじゃ、行ってきます」


「行ってきます」


家の前、俺とクリスは見送りに立つとーさん、かーさん、ししょーに告げる。


「おはようリューク、クリス」


そしてそこでノエルも合流した。忘れ物も無い…筈。財布とハンカチとちり紙と食料など詰めたリュックサック…よし、全部ある。

そして俺達を軽く呼び止める大人たち。


「…まだ問題無いとは言わないが、お前たちならきっと受かるだろう。何があるか分からないからな、気を抜くなよ?」


と、ししょー。


「これから皆はハンター試験に向かうわけだが、そこをゴールにしないで欲しいと思う。あくまでハンター試験合格はスタートラインに過ぎないんだから」


これはとーさん。

そしてかーさんは俺のそばに歩み寄って、


「貴方に、立派になって帰ってきて欲しいとは思うけど、それ以上に元気でいて欲しいの。冒険できない人はハンターには向かない。でも、危ないと思ったらすぐ逃げなさい。受験のチャンスは今年だけじゃないから」


そう言い、俺の頬を撫で微笑一つ。


「ありがと、かーさん。――改めて、行ってきます」


もう振り返らない、三人で歩き出す、ハンター試験への道を。後ろには視線を感じ、なんだか感慨深くなる。…必ず、無事に帰ってこよう。




「頼みも~しないの~に、朝は~やってく~る~♪」


なんとなく口ずさんだ『おはよう』。クリスも微笑を浮かべ合わせて歌う。

ノエルは知らない歌に疑問符を浮かべ、でも笑っている。いつも通りの光景がそこにあった。




第一部完




あとがき

最初のネタで燃えつきかけました、圭亮です。GU・DA・GU・DAな修行編は終わり、次回からはハンター試験編。

本編キャラを全く絡ませずやったら、ある意味面白そうとかあほな事を考えつつ、第三次試験のネタを考えてます。

サクサク更新と行きたい所ですが、実は圭亮は受験生なのでこれから忙しくなったりするわけで…。

というわけで、しばらくは更新が出来ません。こっちはハンター試験ならぬセンター試験に備えなくてはいけませんから。

…昔、ハンターハンターRにそんなネタあったなぁ。

それはさておき…では、また数ヵ月後にお会いしましょう!




……これが圭亮の最後の言葉だった、なんて事にならないように気をつけますから。


あ、それと返信は指摘がありましたし、これからは感想のとこでしますんで。







[2208] 番外編 SpecialとSearchは要らないらしい
Name: 圭亮
Date: 2007/02/22 02:00



ノリで書いた番外編です。


時間軸はハンター試験への出発前日となっております。






ハンター試験が近づき、明日はいよいよ出発の日。

そして、もう時刻は午後10時。良い子はもう眠ってる時間ですね。


勿論良い子なワケがない私リューク・レイオットは――。




「こ、怖いよ…。怖いよ……!」


寝室で布団被って震えてました。






微妙に憂鬱な日々 番外編


SpecialとSearchは要らないらしい






「試験が近づいてプレッシャーを感じるのは分かるが、それは大げさじゃないか?」


傍に座り、呆れた声を出すクリス。彼女の今日の寝巻きは、かーさんに弄ばれ着装を義務付けられたネグリジェ! とってもキュートですねーはい。

後よく考えると、ノエルは今日は自分の家で寝るし、二人っきりなんだよね。――別に何かあるわけでもないが。

どきどきして眠れないとか、そんなラブコメスメルは俺らの間に存在しない。

別の意味でドッキンバクバクですが。


「クリス、俺は試験自体にそれほど不安になっているわけではないんだ」


「なら何が不安なんだ?」


そう言いクリスが首を傾げる様は、現在普段の三割増の魅力を放つ。首の動きと共に揺れるサラサラした金髪が傍に垂れ下がり、かーさんに薦められたらしいリンスの香りが――あーもう最高ですよ!!

…冗談はさておき。ほんとに冗談よ? 俺の愛しの君は、ツインテールの似合うロリィな魔女っ娘だと以前にも告げたはずだからな。

――じゃなくて、俺が不安な理由は、


「…変なフラグ立ったらどうしよう………?」


俺的に、ある意味死より怖いアホな理由だったりする。


「はい?」


唖然とした表情を浮かべるクリス。何言ってるんだお前は、と言わんばかりの視線がチクチク。

布団から顔を出してクリスを見やり、俺は続ける。


「いやさ、ハンター試験でもしも本編キャラに会って変なフラグ立ったら…」


マジ怖い。


「まぁ、ヒソカとかに会って死亡フラグでも発生したら眼も当てられないが…」


「それも怖いが、違う」


「なら何だ?」


…けど、よく考えたら、何も今年受ける必要はなかったよなと思い至る。今年の受験止めようかな、マジで…。


「――死亡フラグじゃなくてさ、BとかLとかつく感じのフラグ立ったら…」


「それは怖いな」


口では賛同するような事を言ってるが、クリスのこちらを見る眼は微妙に冷ややかだった。

怖いじゃん! もの凄く怖いよ俺は!!


「それだけじゃなく、ノリで言っただけの言葉をやけに重く取られて、勘違い物に突入したり、重要な場面で大役担う羽目になったら…」


「もし居ても、そんな連中に関わらなければ良いだけだろう。その方向で行くと打ち合わせした筈だが?」


いや、確かに仰る通りです。俺から関わるつもりなんて、これっぽっちもありません。

だけど、『もしも』ってのが無きにしも非ずだから怖い。


「確かに不可抗力でそうなる可能性もあるが、そんな事をいちいち気にしていても仕方ないだろう?」


「確かにそうなんだが…」


たとえ分かっていても、不安になってしまうんだから仕方ないだろう?


「はぁ…」


ため息を吐くクリス。呆れている様子だ。


「仕方ない。何か気分転換できそうな…そうだな、アレだ」


アレ? 何ですか?


「私達のグループの名前を考えよう」


「どゆこと?」


「どうせ眠れないんだ。今のうちに、将来活動をはじめることになる私達のギャルゲー開発団体の名前を――」


「VSが良い」


考える間も無く、俺は反射で答えた。


「予想はしていたが、即答か」


予想されてましたか。


「まあ、別にそれで構わないが」


良いの? てっきりZAMZAかFINALが良いと言うと思ったが。

そう尋ねたら、


「どっちも敵の組織だろう? だったらVSで良いさ」


――とのお言葉。そんな訳で、あっさりVSに決定。となると、次の問題は――。


「五つのSはどうするか、だな」


俺の思考に応える様にクリスが言った。

VSとはそもそも、警視庁超科学特殊捜査班の事で、Superior Scientific Special Search Squadの略である。

何故それがVSになるのかと言えば、頭文字にSがつく単語が五つ並び5S。5をローマ字表記にするとⅤになる。

これを強引にアルファベットのVと読み、VS―ヴァーサス―と読むわけだ。我ら麻生ファンとしては、しっかり五つのSを考えねばならないわけだが…。

そうだなぁ…。急に言われても良さげのが思いつかんな。適当で良いならいくらでも言えるが。例えば――。


「S:世界が

 S:凄く盛り上がったら良いなぁと

 S:想像する

 S:涼宮ハルヒが

 S:好きと言うわけではない団体

――略してVS団とか…」


「団っておいおい…。というか、好きじゃないんだ、アレ」


ええ、あまり。


「――ただの人間に興味ありません。イェマド人に負けないヒッキー、ZAMZA的思考の2ちゃんねらー、祖国を救えるのは自分だと思い込んでる勘違い野郎は私のところに来なさい、以上」


「それ、全員ただの人間じゃないか!? それに正直、関わりたくないぞそんな連中」


「――それもまたZAMZA的思考!」


「あー、テンション上がるのはかまわないが……少し黙れ」


…スミマセンデシタ。




気を取り直して考える。

VS、VS、ヴァーサス、ヴァーサス………。


「――S:蒼と次郎の

   S:その後が

   S:凄く気になる

   S:硝お「はい却下却下ーー!」おいまて、まだ全部言い終わってないぞ!」


「言わんでも大体想像がつく。禍々しいオーラ出てたぞ…」


ホントだ。何か普段より凄いのがもやもや出てる。こんな時は、深呼吸して苛立ちを沈めましょう。


「…ヒッ、ヒッ、フー」


「それはラマーズ法だ」


ごめん、ベタベタでしたね。




考えるのがもう面倒になってきた。


「S:擦過傷は

 S:正直

 S:凄く痛いんだよと

 S:正味一時間ほど

 S:喋る

――とか?」


「まじめに考える気があるのか?」


そう言われても、良いの思い浮かばないし…。




「――ああもう、笹瀬川佐々美でいいや」「マテアホ」


良いじゃないか、S五つあるし~。…いや、すんません。


…眠くなってきたな。


「うむ、そうだな! 眠いし、今日は此処まで! VSについては保留にして寝ましょー」


「おいまて、なにあっさり布団被ってるんだ!? 何か釈然としないものを感じるぞ」


「あ、そだ。明かりはクリスが消してね~」


「だから…まあ良いか。お休み、リューク」


クリスがカチカチと明かりから垂れ下がる紐を二回引き、部屋は小さな淡い明かりにのみ包まれた。

もそもそとクリスは布団にもぐり、そのまま部屋はシンと静まり返る。






「……クリス、もう寝たか?」


「………」


呟くが、反応は無い。


「ま、どっちでも良いや。ありがとう」


お前が付き合ってくれたおかげで、幾らか気が紛れたしな。


「…別に、気にするな」


そんな言葉が聞こえた後、しばらくしたら静かな寝息が聞こえてくる。そして俺も気が付けばまどろみに落ち、そのままに任せゆっくりと寝入った。




終わり?




あとがき

どうもお久しぶりです。志望校に受かったので再び舞い戻って来ました。

第二部を書かずに突発的に思いついたアホネタでというのがアレですが。まあ、これから暇なんでそっちの方も早めに更新できるかと、多分。

それとVSの方ですが、実はまだ良いのが思いついていないんで、一緒に考えていただけたら嬉しいです。

では今回はこれにて。

実は今回する筈のレス返しをかなり前にしていた馬鹿、圭亮でした。





[2208] 微妙に憂鬱な日々(現実→ハンター) 第二部 一話
Name: 圭亮
Date: 2007/03/17 01:43



おっす、おらトリッパー!

ハンターハンターの世界に転生トリップった男さっ!

今の名前はリューク・レイオット。某死神とか言わないで。

父親がハンターという比較的恵まれたポジションのおかげで、秘匿性が高い念をハンター試験の前に習得する事が出来たラッキーボーイ。

唯一の悩みは、主人公最強主義を体現したかのような天才美少年が俺の幼馴染だという事。妬ましいねっ。

もう俺は一生をノエルの引き立て役で終えるんだよふんと負け犬根性入ってるのは、それもまたZAMZA的思考なんじゃないかと思いつつ、麻生俊平の作品はVSが一番好きというマイノリティーな俺はザンヤルマが好きという、金髪美少女に転生トリップしたクリスを一行に加えハンターへの道を行くのだった。

詳しくは第一部読め。だらだらぐだぐだしてる俺たちが描かれてるから。

では第二部スタート!






微妙に憂鬱な日々


第二部 一話






「ステーキ定食、弱火でじっくりお願いします」


こじんまりとした街角の定食屋。俺はそう言って店員さんに割引券――ナビゲーターに渡された――と書かれた紙を三枚差し出す。後ろには無論我が友クリスとノエルが立っている。

店員さんに促され、俺は偉ぶった感じで身長ほどの棍を杖にして奥の部屋へと進む。

その際に、


「ちょっと、ステーキ定食って言ってんじゃない!」


「お客様、真に申し訳ありませんが本日、ステーキ定食は終了させていただいているので…」


「ふざけんじゃないわよ!! …ああ、ゴン、キル、クラピー~~!!」


――というやり取りが聞こえたがスルー。アレは恐らくトリッパーだろうが、接触する必要は…別にいっか、あんなお間抜けさん。つーか生脚とか危険な単語が聞こえたからスルー。悪いか?


「来る途中ではじかれたんだろうな」


クリスの呟き。ま、そうだろうよ。もしくは途中の試験全部スルーして来たとかだな。ハンター試験はそんなにあまかないって事さ。






「――だけど、ナビゲーターがししょーの元カノで良かったな」


鉄板の載ったテーブルのみがある一室。滓かな振動と音を感じる中、肉を貪り舌鼓を打ちつつ言う。

ナビゲーターがししょーの元カノ、マリエル・アトレーさん(25)だと判明し、尋ねればししょーの事を本当は今も愛しているだの、今までの恋人と違ってあまりに誠実で逆に不安になったとか、私には相応しくないとか長々と語っていた。

散々貢いだ挙句にそんな理由で振られたししょーは堪ったもんじゃないだろうに。いくらししょーが金持ちで金銭的なダメージは少なかったとはいえ、もてなかったししょーは彼女に振られたショックで一週間塞ぎこんでたぞ。

よくよく考えると、ししょーが二次元に走ったのってその後だ、切ない。後、俺が精孔開いてもらった日も恐らくあの人のこと思い出してた、写真見てたし。オーラの調節間違ったのは、負の感情で普段より増量中だったんだ、きっと。


「うまくいくといいがな」


そう言うのはクリス・バーネット。百七十ほどの長身に長いストレートの金髪、灰色のロングコートが特徴のカッコいい系の十六歳。前世は俺と同じ世界のトリッパーだ。

既に肉を完食して水を飲んでいる。まあ、微妙なとこだが二人が上手く進めばいいとは思う。

ししょーは現在家を建て替えているので俺の家に居ると伝え、まだししょーは結婚してないからアタックあるのみだとかなだめたら、結構あっさりその気になって俺に合格の証の割引券を押し付けて、彼女はナビゲーターの仕事投げ出して去ってしまったのだ。


「…でも良く分かんないね、大人って」


「まーまー、外野がこれ以上あーだこーだ言うのは野暮ってもんだ」


どこと無く釈然としない表情を浮かべるノエルに俺は言う。こいつ、ノエル・フライガは俺の幼馴染的存在。年齢は俺と同じ十三。

金髪碧眼の線の細い印象を持つ中性的な美少年。世話焼き幼馴染なのに男という、生まれてくる性別を間違えたとしか思えない奴。そう思う俺の頭が間違ってるとか言うな。

たまに、俺に惚れてるんじゃね的な仕草を見せる。その度に俺は自分の背後を警戒する日々だ。実は男装してんだよって早く言え。

ああ、それと滅茶苦茶強い。しかも特質系だ、俺もだが。テメェも最強系かとか言うな。俺はノエルの足元にも及ばない。

現在の俺らの強さ的には多分、ノエル>>>(越えられない壁)>>>クリス≧俺と思われる。

と、こんな具合につらつらと思考しつつ肉を貪り、食べ終わった頃に到着を知らせる音がチンと鳴り、扉は開く。


――扉の向こうに踏み入れば、そこはまるで異世界の様だった。


そこは巨大な空間。薄暗く広大なトンネルが延々と続き、大小様々なパイプが壁を伝っていた。

なんつーか、凄くむさ苦しい…。後、ゴツくて顔が怖い人が多すぎる。一瞬たくさんの人にジロって見られました。…隅っこで震えてたいんですが、構いませんか?

丸顔の、人としてちょっとありえない位マジで丸い頭蓋骨の人に番号札を受け取る。

ノエルは331番で、クリスは332番、俺は333番の札を貰った。3、3、3…。さわやかな三組か?


「やあ、君達新人だね?」


「あ、はい」


俺のアホな思考を中断する男の声に、若干緊張した風にノエルが答えた。

声の聞こえた方を向けば、太った中年の男がこちらに歩み寄ってきる。此処はハンター試験会場で、俺らは新人。

とすると、漫画を読んだ奴なら自然とそいつが誰だか予想がつくはずだ。


「オレはトンパ、よろしく」


はい、予想通り、新人つぶしのトンパさんでしたー。トンパの差し出して来る手をノエルが握る。クリスはあさっての方向を向いていた。

それからは勿論、お約束のように自分はハンター試験のベテランだの今回で三十五回目の受験なんだとか得意げに言うのを聞き流したり、好々爺然として危なさそうな受験者について注意するのを聞き漏らさぬようにする。ノエルはどれも真剣に聞き入ってるようだった。

いつまで受けるんだろう…? コイツ多分、ハンター試験で死ぬな。おまえくらいの能力があれば、民間にいくらでも活躍の場はあるだろうがよって感じだ。


「はいこれ、お近づきのしるし。お互いの成功を祈って乾杯だ」


ハイ来た、下剤入りジュース。缶ジュースを三本差し出してきた。

ノエルがそれを受け取ると、トンパはもう一本取り出し開ける。だが、ノエルはそのまま持っていた。


「あの、すみません。さっき水飲んだばかりですし、トイレが近くなっちゃうとアレなんで…」


ナイスだノエル。ここは警戒していると思わせないほうが後々やり易い。と言っても、ノエルは知らないけどね、トンパの事。


「ああそうだね、気が付かなかった。まぁいいさ、喉がかわいたら飲んでくれよ」


そう言い、困った事があったらオレに聞いてくれと付け加えてトンパは俺たちから離れていった。




「…なあノエル、そのジュースだが――」


「分かってる、捨てるよ」


ようやく口を開いたクリスが言い終わるよりも早く、ノエルは言った。

なーんだ、気付いてたのか。


「知ってたのか? 新人つぶしのトンパを」


「へぇ、そう言われてるんだ? …ただ、なんとなく怪しいなって思っただけ。ジュースなんていちいち用意してる辺りで確信したけど」


クリスの問いにノエルはそう答えた。まぁ確かに。でも、不安な状態の新人さんは結構コロッと騙されちゃうかもよ?


「そう言うクリスはどうして知ってたの? リュークも、最初から警戒してるみたいだったけど…」


「ああ、私の師匠が一回騙されて落ちてるんだ」


「ししょーが前に酔った勢いで話してたんだよな、爆笑しながら」


俺が知っている事にも不自然が無い様に、ノエルに答えるクリスの言葉にそう続ける。

ちなみに事実だ。ガロンさんの名誉の為にも、その事については詳しく語らない事にする。


「知ってたんなら、教えてくれてもいいじゃないか。僕だけ仲間はずれ?」


「ワリーワリー、言うのすっかり忘れてたわ」


「私もだ、すまないな」


いや、本気で。ボケたね俺等も。


「まったく、他の事はあーだこーだ言ってたくせに…」


ああ、念の事とかな。あんまり目立つと大変だからさ。居るじゃん、ヒソカとか。ついでにギタラクル――イルミ。

つーワケで、今俺等は纏を解除してオーラを垂れ流しの状態にしてる。この程度の迷彩なんて気休めだがな。試験が進めば自然と目立ってしまうだろう、ノエルとかノエルとかノエルとかが。

それに当然、いざとなったら使うけどな。…よくよく考えると、念を習得してからハンター試験受けるって結構な反則技っぽいなぁ。今更だが。

とーさんがハンターでよかったよ、うん。

当分は暇なので、端に立ってダラダラと三人で雑談。その際にさっき貰ったジュースは傍に置き放置。

ざっと周囲を見渡してみたが念使いらしい人は見当たらなかった。まあ、この密集具合じゃよく分からないか。念使いが居たら大体トリッパーと思っていいだろう、多分。

今回の受験は、他のトリッパーをもし見つけたら接触するというのも目的の一つだ。さっき一人いきなりスルーしたじゃんと突っ込まれそうな勢いだが待ってくれ。

接触すると言っても、いざと言う時に話が通じ協力できる、まともな思考を持った人だ。それ以外と関わって厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。

例えば、幻影旅団とお近づきになりたいとか言う人は論外。べ、別に、単に腐女子に関わりたくないだけとか、そんなんじゃないんだからねっ! …ゴメン、キモかったね。






「――とまぁ、こんな感じなんだけどどう?」


「うーん、主人公が大きな流れの中で脇役に徹するって言うのは新鮮だけど、他の登場人物の中に埋没してると思う…」


「後、必殺技の『蜜月を引き裂く誓い』をBroken engagement ringと読ませるアレは少々イタイと思うぞ?」


うーん、手厳しい。…まあアレだ、ギャルゲーのストーリー語ったんだがな。Fate的なシリアスストーリーなのでノエルに語っても問題ないですタイ。

主人公が最後に、《勇者》と《姫君》の時間を守るためにライバルの前に立ちふさがる辺りは自分でも気に入ってるんだがな。つーかライバルが女な上に必殺技が熱操作でロケットダッシュ突進パンチにはツッコミ無いのな。

…どんなストーリーかは勝手に想像してくれ。色々とパクった設定のごった煮で説明がめんどくさい。




「ぎゃあぁあ~~~!!!」


突然響き渡る絶叫が、会話で落ち着きつつあった俺の心を再び掻き乱した。

人ごみのせいで、何が起こっているか此処からでは見る事ができない。だが、想像はつく。

おそらく、今回の受験生中最強で最悪の男。


――おい、さっきの叫び声…アイツだぞ。


――あのヒソカが、今年も受験してやがる…!


――自分にぶつかった男の腕を切り落としたらしいぞ…。


――アブねぇよ、あの44番。関わらない方が身のためだな。


少し間を置けば、ひそひそと噂する声が聞こえてくる。それらは想像が真実だと教えてくれた。奇術師ヒソカが居る事を。


「44番が危ないらしいな。気をつけておこう」


今知ったかの様に演技しクリスが言った。確認という事だろう。


「うん、そうだね」


ノエルが応える。俺も頷いた。


――ジリリリリリリリリ~~!!


そして今度響き渡ったのは、目覚まし時計の定番を思わせる大音量のベル音。音源は高さ四、五メートルほどの少し高い位置にある太いパイプの上、そこに立つカールした髭を生やした紳士風の男が持っていた。


「ただ今をもって、受付時間を終了いたします」


全員の視線が集中したのを感じたのか、音を止め、場がシンと静まり返ったところで男は言う。


…おおう、生サトツさんだ。トンパの時はそうでもなかったが、少し感動。でもこれからの試験を思うと、少し殺意が芽生える。


「では、これよりハンター試験を開始いたします」


若干張り上げた声で続けて宣言し、跳ぶ。ふわりと言った具合に音も無く人ごみから外れた位置――トンネルの奥の方に着地した。

――うむ、第一次試験スタート、だな。

緊張で汗ばんだ手を、シャツのすそでぬぐった。




続く?




あとがき

はい、ようやくハンター試験の始まり始まりー。本編キャラも初登場!

…遅いなぁおい!

しかも登場させたとは言っても原作コピペったようなモンですし。これからも大体こんな感じになってしまうでしょう。

その辺には期待せずに、リュークたちのやり取りを楽しんでいただけたらなぁと思います。

他のトリッパーをどんなの出すか、試験はどんな感じで進めればいいかなどの意見募集中。あとVSの件も。

いや、考えていないわけではなく、自分で考えたのが微妙な気がして、もう一ひねり欲しいんですよ。…VSの件は全く思いついていませんが。

ではこれからもダラダラ書いていくのでよろしくお願いします。

…それと、圭亮は腐女子ではありません、念のため。





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 二話
Name: 圭亮◆7bb16b7a
Date: 2011/08/13 16:03

「僕、この試験に受かったらエリーにプロポーズするんだ」


「そうか……」


微妙な振動と浮遊感を感じる狭い室内で肉を切りつつ、俯き、気恥ずかしそうにガド――ガドラン・エリックは言った。そのゴツイ体で工場の作業服的なスタイルに似合わない仕草がなんだかなぁと思わせる。

言わずともお前さんがその気だったのは分かっていたさ。ちなみにエリーってのはコイツの幼馴染でちょっぴりツンデレ入ってて、こいつのことを憎からず想っているがなかなか言い出せない女だ。

――だが、その前に俺は声を大にして言ってやりたい。


……死亡フラグ立ててやがる、と。


「……男なら、そういう大事な事は胸に秘めてペラペラ語らないもんだぜ」


とりあえずそう言ってそれ以上言わないように止めておく。全く、お約束を知らん奴だなおい。


「カズヤ……」


微妙に羨望入った視線を感じる。いや待て違うんだ。俺はただ縁起が悪いから言わないでいてくれと思っただけなんだ。


「ありがとう、カズヤ」


ん、何だ突然?


「カズヤがいなかったら、きっと此処に来れなかったから」


そんな事全くこれっぽっちも無かったがな。むしろ、俺がいないほうがスムーズに来れたはずだ。それに…。


「カズヤのおかげで、勇気出たから」


……出来る事なら、俺は今すぐコイツに言ってやりたい。必要なのは、たかが告白の為の景気づけで命を懸ける勇気などではない。幼馴染との関係を壊してしまうかもしれない告白の為に踏み出す勇気なんだと。

あと、土下座して謝りたい。利用しようとしてすまないと。それとエリーにも、コイツを危険な目にあわせようとしてゴメンと言いたい。


だが、それ以上に『帰りたい』んだ、俺は。


「別に、気にすんな」


罪悪感にのた打ち回りそうになりながらも、お気楽に聞こえるよう努めてそう言う。

今回の目的は、ゴンやキルアとのコネクションを持つこと。そして、出来る事なら『話の通じる』念使いと接触し、きちんとした師の下で念を修得する機会を得る事。最終的にグリードアイランドをクリアし、『同行』で元の世界に帰る事。

正直、望みの低い賭けだというのは分かっている。もしグリードアイランドをクリアできても、帰れるか分からない。

それでも、やれることをしておかないと諦めきれないんだ。


一瞬部屋全体が大きく揺れる。その後チンと到着を知らせる音が鳴り、扉が開く。


「さ、行くぞ」


まだ肉を半分残しているガドを少し強引に促して共に席を立つ。先に見える、人の群れと広大なトンネルの異様な光景に顔をしかめながらも、俺は一歩踏み出した。






微妙に憂鬱な日々


第二部 二話






「ううむ…」


走り進む人の群れ。もう80kmは走っただろうか。息が荒くなる。よく保つな俺の肺とか脚。

道のりは既に階段に差し掛かっていた。そんな不揃いな足音が響き渡る中、流されながらひとりごちる。

……えーと、なんつーか、二人とはぐれた? むしろ逃げたというか何と言うか。どーしよ。


「おい、聞いてんのか?」


横から聞こえる声。それが思考を中断させる。というか、それから目を逸らすために思考中というか。


「あんたの名前はって聞いてんだよ」


うん、何て言うか……すごく…キルアです。だからさ、名乗られちゃったんだよ、オレキルアって!

髪真っ白だよ! 声リコだよ! 強そうだよ! 足音殆ど聞こえねぇよ!


「ボクノナマエハ、ジャック・マーテル。ヨロシクネ」


「おい、それウソだろ? 片言になってるし」


「……ちっ。はいはい、言えばいいんだろ? 俺様はリュークだよ文句あっか?」


自然と口調がやさぐれてしまうのは仕方ないことだろう、うん。


「何キレてんだよ。ワケわかんね」


分かるわけもないだろうよ。君らに合いたくなかったなんてさ。……どちくしょー!!


「オレはゴン。よろしくリューク」


そう、当然コイツもいる。頭ツンツンしてるよ……。声メタビーだよ……。コイツも素で才能ありそうなオーラ出してるよ……。

チクショウ! あの時、端を走ってなかったら! ドデカイ鼠が出なかったら! ノエルがキャッとか、やけに可愛らしい悲鳴上げながらオレにしがみついてこなかったら……!

これはアレか? 何か運命的なものが働いているのだろうか……。まあ、年そんなに変わらんし、目に入ったら話しかけてくるよな、うん。

要するにオレが馬鹿だったって事だよ悪いかコラ?


「それに、しても、大分、脱落して、きてるな……」


かく言う俺もそろそろヤバイ。階段をこんなハイペースで走るってマジ無理。此処まで保っただけ奇跡だって。

え、ちょいまち、何ペース上げてんのお二方? そして開く距離。……どうするよ。

落ち着け、素数だ、素数を数えるんだ…。1、3、5、7、11、13、15……って15は違うだろ! 大分テンパってきてるな、俺。

……纏を使えば、まだまだ行ける。周囲に、俺の警戒に引っかかる奴はいない。このまま二人に付いていけば、恐らくだが第一次試験の安全は保障される。途中でヒソカの試験管ごっこがあるが、ゴンに付いて行かなければ大丈夫の筈だ。……多分。

後はヌメーレ湿原に入った際に纏を解けば、行けるか?

今の状態じゃ、これがベストに思える。


「……よし。おーい、待ってくれよお二人さん!」


言いながら垂れ流しにしていたオーラを止め、纏う。それだけで体が随分と軽くなった。

まだ息はキツイが、これならまだ走れるだろう。ペースを上げ、開いた二人との差を詰める。

その際に、俺は脱落者を五人ほど跨ぎ越した。


「へぇ、そろそろ駄目かと思ったら、持ち直したんだ?」


二人に並んだら、キルアはどこと無く投げやりにそう言い放った。……なんか、俺はそれほどこいつらに興味を持たれてなかったみたいだ。

どうしてだかは何となく分かる。……そうだろうよ。主要キャラ達とヘタレ最上級ヘタレストな俺とじゃあ、輝きが違うだろうよ。

あまり深く係わり合いになりたくないし、好都合と言えば好都合なんだが……ちっと悔しい。

そう考えてる時、既に俺ら三人は先頭に出ていた。俺らの前、膝の関節を曲げずに優雅に走る素敵なおじ様。


「いつの間にか、一番前に来ちゃったね」


「うん、だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ、逆に疲れちゃうよなー」


思いのほか楽だったのだろうか、戸惑った風に言うゴン。それでも息は若干荒い。

それに退屈そうに答えるキルアは顔色一つ変えず、息を切らした様子もなかった。

うっわームカつく。さっすがゾルディック。余裕ですなー。……いや、ふつーに羨ましくないけどね、アンタん家の環境。

その後は当然キルアがハンター試験楽しそうで受けたとか、ゴンが会った事の無い親父に妄想膨らませる所とか、やっぱりおおむね原作通りだった。


「――それで、リュークはどうしてハンターになりたいの?」


ゴンが俺にも話が振るが、明らかについで臭い。ま、隠すことでもないし構わないか。


「……俺のとーさんもさ、ハンターなんだ」


「じゃあ、リュークも親に憧れて?」


同じ動機と言う期待が仲間意識を生んだのだろうか、ゴンは目に若干の輝きを見せる。


「――そう言って親に許可貰ったけど、違う。単に金が欲しいから」


「うっわ、夢がねーの」


「その通りだと思うけど、キルア、お前に言われたくない」


「なーんだ……」


呟きに反応してゴンの方に視線をやれば、その顔をつまらなさそうにしかめていた。





「行っちゃった……」


加速していなくなったリュークを、唖然とした表情で見送るノエルの呟きが別の意味での失望を含んでいたと思えるのは、私の気のせいなのだろうか?

ノエルが鼠を見た際に、リュークにしがみ付くまで若干の間があったのは、私の気のせいなのだろうか? 

未だノエルの性別がハッキリしないと言うリュークは、嬉しさ二割で残りは恐怖ぐらいの割合で走り去って言ったと思われる。

片手で臀部を押さえて、周りの迷惑考えずに棒を振り回し奇声と共に走り去るその後姿は、笑いを通り越して哀愁を誘うものだった……。

疑問とか期待とか恐怖とか、色々溜まっていた物が一気に爆発したのだろうな。

そろそろ、ノエルの性別を言ってやるべきなのだろうか。知らないのはリュークのみだし。と言うか、いい加減に気付いてもおかしくないと思われるが。

まあ、リュークの前でノエルは半分演技している様だが。それに私は出会った初日で既に、『お風呂でバッタリは済ませた』からなぁ……。


「追いかけないと」


「いや待て。ここはリュークが落ち着くのを少し待ったほうが良い」


逸るノエルを押さえ、今後を思案する。

……リューク、頼むから、くれぐれも面倒な真似を起こさないでくれよ。




続く?





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:97c88f32
Date: 2007/07/31 19:59



唐突だが、ハンター世界で寿司は非常にマイナーだ。

発祥の地とされる国自体が積極的に他国と関わろうとしない島国なせいでもあり、生魚を食べるという他国には受け入れにくい特殊な食文化のせいでもある。

そのためか、寿司という料理は一部の食通を唸らせつつも、どうも知名度が低い。

ししょーも、そんな一部の食通だったりする。一時期グルメハンターを志した時もあったらしい。

そのおかげで俺、クリス、ノエルはトリッパーという立場にありながらも、何度か寿司を食す機会があった。




「へいらっしゃい!」


からりと木の戸を開けて入れば、威勢のいい声で迎え入れる初老の店主。その頭部は、照明の光に照らされ煌めいていた。


「久しぶりだな、ゲンさん」


俺らを促しつつ、軽く会釈し調理台をはさんで店主と向かい合う席に座るししょーは慣れた風だ。


「バークさんじゃねぇか。どうした、こんなに引き連れて? アンタは独身の筈だったが」


「それを言うな。…弟子だよ、弟子」


常連だったのだろう、会話もフランクだ。二人の視線がこちらに向くのを感じ、どうもと軽く頭を下げる。


「そうかいそうかい、じゃあ未来のハンター候補って訳だ。――贔屓にしてもらえるよう、気合入れねぇといけねぇなぁ!」


頭に巻いていたねじり鉢巻きに手をやり、ぐっと閉めてそばに添えつけられている水道の蛇口をひねり、ジャボジャボと音を立てて豪快に手を洗う様は、気合の入れ所を間違ってる気がしないでもない。


「まずは、こっちに任せてくれていいかい?」


俺たちのほうを向き、寿司のことを知らないだろうと思ったのか店主は言う。が、俺とクリスは初めてではない。クリスはガロンさんに、俺はとーさんに食わせてもらったことがある。


「そうですね――」


迷った風に言うも、とりあえずは食っておきたいネタがあった。


「「アジをお願いしたいんですけど…」」


クリスと一字一句違わず重なる声。シンクロ率が限りなく100パーに近づいた瞬間だった。


「ゲンさん、俺もアジだ」


次いで言うししょー。光物大好きサンバルカンが結成された瞬間だった。


(店主の頭とネタが)眩しかった日のこと、そんな日のこと…。




「えっと、僕は…」


ノエルは微妙にハブられて、居心地が悪そうにしていた。






微妙に憂鬱な日々


第二部 三話






「二次試験後半、あたしのメニューは――スシよ!!」


髪が五本に束ねられ、扇状に広がる、珍妙としか言いようのない髪形の女性――試験管メンチは高らかに言い放つ。

聞きなれない料理名に、受験生達は首を傾げ、怪訝な顔でざわめいた。

知っているという優越感から思わず顔が緩みそうになるのを押さえ、周りを見渡す。似たような反応をしている人を見つければいい。


……見なかったことにしよう。


視線の先で禿が噴出していたところを黙殺し、さらに視線をずらした先に見えた人物を見て、結局無視する事にした。

…銀髪で赤と蒼のオッドアイの美形なんて、俺は見ていない。見ていないったら見ていない。あんなのと関わったら余計に危険なフラグ立ちそうだとか、これっぽっちも思っていない。


「どうしたのリューク?」


どことなく心配そうに顔を覗き込んでくるノエル。触れそうな距離を自覚すると顔が上気するのを感じる。

一次試験中にノエルがしがみついてきた時、感触とかはよく分からんがいい匂いがしたなぁ……超絶自己嫌悪。そばに壁があれば頭を叩きつけていることだろう。

うん、ほんと、勘弁して。BとLだけは勘弁して。


「大丈夫。ああ大丈夫だとも」


口を突いて出た言葉は半ば自分に言い聞かせるようなものだった。


「ところでノエル、聞きたい事があるんだけど…」


話題転換。先ほどから気に掛かっている事を尋ねる事にする。


「…俺、どうして一次試験途中から豚焼くまでの記憶無いの?」


後、クリスが微妙に不機嫌な顔でこっちを見てますが。




***




「もう、ゼヒ、ゼヒ、ゴールしても、ゼヒ、いいよね……?」


消え入りそうな掠れ声に入り混じる、それとは逆に激しい呼吸音。息を切らせて俯くリュークは、比喩抜きで今にも死にそうな顔色だった。


階段を上りきったところでトンネルは終わり、外に出た。遠くを見渡すのを拒絶するような靄のかかった湿原が広がっている。湿った冷たい空気が熱くなってきた頬を冷やすのに心地よさを感じた。

先を走っていたらしい人たちは此処で止まり、人込みを作っている。僕とクリスはその中でリュークを認め、傍に寄ればそんな具合。


「そこでネタに走れるなら、まだ大丈夫だろうよ」


大分荒くなった息を整えつつ嘆息しながらそう言うクリスも、大分辛そうだった。

おぼつかない足取りでふらふらとリュークはこちらに近づいてくる。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。

支えようと僕は歩み寄る。僕がリュークの目の前に来た時、そこでリューク素早く強引に方向転換。僕の右斜め後方にいたクリスに近づき、倒れこむ音が聞こえた。


――どうしてさ…。


歯軋りしそうになるのを押さえ、振り向く。クリスは若干驚いた風に、でもリュークをその胸元に抱きとめていた。


「お、おい…」


戸惑った声でリュークに呼びかける。そこには僅かばかりの羞恥心が見え隠れしていた。


「クリス…」


うめくようなリュークの呟き。息は整ってきたようだ。


「大丈夫かリューク?」


呼びかけるクリス。そこには心配と呆れが入り混じっていた。


「…クリス、お前胸無いな」


「な…!?」


「いやいや、俺は、乳の大きさで、差別などしない。小さなものから、大きなものまで等しく愛して――」


まだ荒い息で途切れつつも、さっきより饒舌なリュークの台詞は、しかし最後まで続かなかった。

なぜなら次の瞬間、顔を真っ赤にしたクリスのアッパーがリュークの顎を跳ね上げたから。

僕は、そのまま仰け反り、後ろに倒れこんだリュークの背を抱きとめるも、既にその意識は無かった。


――気にしてたんだ……。


普段の態度から、その手のことには無頓着なんだろうかとも思っていた僕からしてみれば、軽い驚きだった。


「あ、あー…」


機嫌悪そうに、しかしどことなく、ばつが悪そうにやってしまったと言う様な顔になるクリス。


「…どうするの?」


僕の腕の中で潰れる、リュークの背負ったリュックサック、そして手から零れ落ちて転がっている棍に目をやりつつ、呟くように言った。




***




「――とまぁ、こういう具合だったんだけど…」


俺の疑問におずおずと答えるノエル。その後方二メートルほどの位置でそっぽを向いているクリス。


「俺を運んだのは?」


「それは僕。クリスは荷物を運んだ。体力の関係で纏を使わなきゃいけない羽目になったけど、何人か居た念使いには見られないように気をつけたから、多分大丈夫」


「そっか…」


変なフラグは立っていないようだ。安心…していいのか?

目をやれば、設けられた巨大な厨房が傍にある。厨房にも、周囲の木々生い茂る中を見渡しても、人影は厨房奥の開いた空間にテーブルを用意して陣取る試験官の他には居ない。…あ、皆行ってる。


「ホラ、アンタ達、早く行きなさいよ! 失格になりたいの!?」


今更な感じがあるが、気付いたと同時に奥から試験官の急かす声が聞こえる。俺達は慌てて小走りで森の中に歩を進めた。




「――それで、寿司はどうする?」


森の中に入ったはいいが、方針も何もあったもんじゃないので結局はゆったりとした足取りにシフトして進む。その中で微妙な沈黙が続き、最初に口を開いたのはクリスだった。


「うーん、そうだな……」


顎に手を当て、若干俯きつつ考えるポーズをするも、寿司という一種の職人芸を再現するなんて、経験の無い凡人には土台無理な話――。


……凡人?


ふと、ある考えが頭を過ぎり、顔を上げる。そしてクリスと視線が重なった。互いに何かを閃いたと言わんばかりのしたり顔。

そして、そろってノエルに向き直り、


「「任せた」」


必殺、他力本願が炸裂。俺がノエルの右肩を、クリスが左肩を同時に叩いた。


「…おい」


ノエルは、それに半ば諦めの入った力無いツッコミで答えた。


「というか二人とも、さっきまで微妙に険悪だったのにもう復活?」


呟く呆れ顔のノエルに、コレでもかと言わんばかりに、にこやかに握手する様子を見せ付けた。クリスの手に若干強い力が篭っていたのは、この際許容しよう。


「はいはい分かったよ。でも、上手く行かなくても恨まないでよね」


まあ、お前に無理だったら多分全員失格だから、問題ないだろう。肩をすくめて苦笑するノエルにそう言うと、慰めになってないよと更に呆れた声で呟いた。




「――とりあえず出来たけど?」


厨房内、多くの受験生が各々の調理台で毒々しいグロテスクな外見の魚を捌く中、ノエルは三皿に二貫づつ盛り付けた。

しかも一皿ごとに違うネタを使って、繊細かつスピーディに。同じのばっかりじゃ失格にされちゃうかも知れないでしょと言いつつ、何でも無いかの様に。


「提出前に、味見してみてくれない? ネタはまだ余裕あるから」


見事な出来栄えの寿司に生唾を飲み込む俺とクリスを見て、ノエルはにこやかに言った。

改心の出来といわんばかりに自信に満ちた笑みだったので、俺らに気を使ったのだろう。さり気にオーラが薄っすらと篭っていたし。用意されていたバケツ内で泳ぐ魚達を見つつ、そう思う。


「…んじゃ、お言葉に甘えて」


水道で、魚捕獲の為に奔走し汚れた手を洗い、口に一つ放り込む。クリスも続いた。


………。


少々お待ち下さい。


少々お待ち下さい。


少々お待ち下さい。


あー、もちっと待ってくんね?


…………。


「え、あの、二人とも!? もしかして、不味かった?」


慌てふためくノエルに固まった表情のまま、二人そろって首を振る。そして――。




「「うーまーいーぞぉーー!!」」


両手を高く突き上げ特大の咆哮を以って、俺達はミスター?味っ子、ノエル・フライガを讃えた。続けて口の中に放り込んでいき、すぐに無くなった。

ありえねぇ!! 店で食ったときより美味いぞ!! 飯食って固まるなんて、ノエル特製のシチュー初めて食ったとき以来だ!

って、あの時もノエルの料理だったな、うん。でもありえねぇだろ!? 飯炊き三年握り八年とか言うぐらい、寿司の修行は困難を極めるもんじゃなかったのかよ!!


「え、えと、上手く出来たんだよね? …いつか家で食べさせてあげられるように、練習しておいてよかったよ」


そう言いノエルはホッと一息吐いた。

練習!? そんなんで此処までの寿司を作れるようになったの!? 神童ってレベルじゃねーぞ!!


「今凄い声したけど、どうしたの?」


先ほどの声に反応したのか、傍によってくるのは天を突かんばかりの剛毛少年。まあ、つまりゴンだ。後ろにはどことなくだるそうな顔をした白髪の少年。当然キルアだ。


「あ、キルキルにゴンじゃないか」


「なんだよキルキルって!?」


俺の挨拶に噛み付いたのはキルアだった。


「いや、フレンドリーにあだ名などを使ってみようかなと」


「ダサいし。つか、何でゴンは普通なんだよ」


「思いつかなくてさ…。すまない」


「いや、何本気ですまないって顔してんの? ワケわかんね」


「ゴン蔵とか、どうだろう?」


アフロと剣山、変な髪形つながりで。


「うーん…」


何か考え込むような顔つきで唸るゴン。


「悩むなよ!」


……キルアって、こんなにハイテンションな突っ込み師だったっけ?


「…おい」


クリスが低い声で呟きつつ、横合いから手を伸ばし、俺の胸倉を引き寄せた。


(…どういうことだ?)


耳元で囁かれるドスの効いた声。


(いやーん、ドキドキしちゃうー。…いやスマン、マジで。超絶に滅茶苦茶悪いと思ってる。だから喉にオーラの篭った指グリグリするのやめて。ほんっとごめんなさい)


イタいっす、冗談抜きで。本編キャラと関わってしまったのは俺の落ち度ではありますが、ハイ。


「リューク、その二人、知り合いなの? 紹介してよ」


妙に力の篭った手で俺とクリスを引き剥がし、かつにこやかにノエルは言った。

いつぞやの微笑モード入ってる? 微笑のノエル? 疾風じゃなくて!? …これ以上微妙なボケは止めておこう。微笑ならぬ微妙のリュークだな、俺。


「えーっと、一次試験中に知合ったゴンとキルアな。あ、それでこの二人は俺の仲間のクリスとノエルだ」


ノエルにゴンとキルアを。ゴンとキルアにクリスとノエルを紹介する。

ま、纏を使ってもすぐに限界が来て引き離されたし、それほど話してはいなかったんだけどな。

ノエルとクリスは二人に会釈して、ゴンと握手を交わした。…その時、ノエルとキルアが一瞬、どことなく冷たい目線を重ね合わせたのは気のせいだろうか……? どこか警戒するような…まさか!?


――フォモ同士のシンパシーか!!


「…何か変な事を考えてるだろう?」


良くぞ見破った、クリス!




「――メシを一口サイズの長方形に握って、その上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!! こんなもん、誰が作ったって味に大差ねーーべ!?」


料理を舐めてるとしか言いようのない怒声が、厨房内全体に響き渡った。おーい、何作り方バラしてんのさハゲさーーん!


「ざけんなてめー!!! 鮨をマトモに握れるようになるには、十年の修行が必要だって言われてんだ!! キサマら素人がいくらカタチだけマネたって、天と地ほど味は違うんだよ!! ボゲ!!!」


売り言葉に買い言葉。それよりもさらに大きな試験官の罵声が耳に突き刺さる。いや、ここにいるけどね、美味いの作る奴。…って、マズイ!?

作り方を聞いた受験生達が何人か動き出していた。


「――ノエル!」


慌てて振り向いて呼びかけた時、既にノエルは魚を捌き始めていた。

だが、三人分を、しかも何か工夫をしているらしい。握り終えた時、試験官の座す所には人だかりが出来ていた。


――間に合うか!?


それぞれ皿を持ち、素早く、しかし落とさないように気を付けながら並ぶ。三人の中でいち早く並んだ俺でも試験官まで結構な人数を挟んでいる。微妙なところだ。

焦る中、視線の先の試験官は食しつつ、それぞれに辛らつな批評をしている。コレなら美味いはずだから!

この際綺麗事は言ってられない。慎重に、だが少しづつ人を押しのけつつ近づいていく。――よっしゃ、次俺ーー!!

そして俺が皿をテーブルに置いたところで、試験官は傍に置かれた湯飲みを啜り、一息吐いた。……アレ?


「ワリ!! おなかいっぱいになっちった」


……ええええぇぇぇーーーー!!!??? そりゃないよぉーー!!




続く




あとがき

あと一息でというところでリューク君には落ちてもらいました。

他のトリッパーたちはどうだったか、今は秘密ということで。

オッドアイを出すと言いましたが、よく考えたら、そんなある意味美味しすぎるキャラに積極的にからむリュークじゃなかったよなと思い、此処は避ける方向で。

…まあ、不可抗力って言葉が世にはありますがね。ヒッヒッヒ。

ではコレにて。ゼロの使い魔の小説を書きたいとか、ただでさえ火星物語があるのにほざきたくなった馬鹿、圭亮でした。





[2208] Re:微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:97c88f32
Date: 2007/08/24 11:03



「いや、これは無理だっつの…」


 足元に目線を落とせば、すぐ傍に地べたは無く、横を見ても下を見てもどこまで続くか見当のつかない谷間が広がる。青年はその絶景を一通り堪能した後に、手の甲で額を伝う冷や汗を拭いつつ震える声でそう呟いた。

 此処から飛び降りて鳥の卵とってこいだ? 何か恨みでもあんのか? つーか豚ステーキ寿司普通に不味いとかそりゃねえよ。そんな愚痴は小さな呟きとなり、誰に届く事も無く谷から吹き上がる風がかき消す。

 その体格はスラリとした長身に、無駄の無い引き締まった筋肉。長袖白地のTシャツと、右膝の辺りが擦り切れて透けて見えるジーパンのラフな格好が覆うそれは貧相にも見て取れた。

 その容姿は淡く銀色に輝く、そのセットに適当さの漂うクセっ毛の短髪に、引き込まれそうな、鮮やかな色彩放つその眼が、これまた不似合いなサングラスの奥で輝いていた。それは左右で色の違う奇異なものだった。右目は赤く、左は青い。目元が隠されていても、穏やかで線の細い印象を感じさせる整った顔立ちは、しかし近寄りがたい神聖な雰囲気を漂わせている。それは比喩抜きで、完成された芸術のような美しさ。だがどこか不自然さ漂う、作り物特有の無機質な趣を同時に醸し出していた。

 青年の名は武藤浩平。今年で十八歳になる。そして、『今の姿』になってから、加えて『この世界』にやって来てから、まもなく一年になる。

 彼は生まれつきこのような容姿を持ち合わせて生まれたわけではない。以前の彼は決して醜くは無いが、一言で表すならば地味なそれでしかなく、そこに劣等感を抱いてさえいた。

 約一年前、彼は何の前触れも無く、此処ではないどこかから突然現れた。異国などという小さな括りの話ではない。此処は、もはや生まれ育った星ですらなかった。

 学生であった浩平は、とある休日の昼下がりに行く当てもなく、ブラブラと街を散策していた。そして、ガラリと唐突に景色が変わった。編集されたビデオか何かのようにパッと、コンクリートとアスファルトで構成された雑多な町並みの繁華街が、大樹ひしめく森林に入れ替わったのだ。

 容姿の変化に気付いたのは、そのまま森を彷徨い夜も更けてきた頃。運の良い事に猛獣の類にも出くわすこと無く、時期的に凍える事も無く、その時点で一番の問題だった渇ききった喉を潤そうと小川を認め、覗き込んだときだった。穏やかな清流が微妙に歪みながらも煌々とした半月を、そして覗き込む人の像を映し出していた。

 まず自分の目を疑い、頭を疑い、川を疑い、一回りして自分の目を疑う不毛な自問自答は数分続いた。少なくとも、既にその時に浩平は、自分の故郷日本ではまずありえない、その異常で神秘的な容姿に成り変っていた。

 その後、浩平は数日彷徨った後に偶然プロハンターと出会い弟子入りに成功。情報を得て、そこが自分の知っている漫画のような世界であることを知り、さらに漫画にあったような念という特殊技能を習得するまでに至る。何もかもがトントン拍子に進み、調子に乗っていた。…それも、練をマスターするまでだったが。


 四大行の最終段階『発』。水見式によって念の系統を調べた結果、浩平は特質系だった。その特質能力はこう名づけられている。『嘘で塗り固められた無敵超人(アルティメットフェイカー)』と。

 そして、その効果は唯一つ。強そうに見える、それだけだった。ただ纏をしているだけでも、周囲に強烈な威圧感を与える。練をすれば、それはより強くなる。

 はっきり言って、相手を威嚇して戦闘を避ける事ができるという点以外では役に立たない上に、応用の効かない能力である。さらにそれは、一部の例外的な人物、俗に言う戦闘狂の前では逆効果ですらあった。加えて言えば、浩平自信の戦闘能力は念使いの中でも並みの域を出るものではない。


 自分の能力が場合によって非常に危ういものとなることを自覚した浩平に、相談を受けた師は二つの選択肢を提示した。念を封印して一切の荒事に関わらないようにするか、早急に帰るための手段を探すか。

 帰還の手段を探すのは、博打の割合が高いように思えた。探し物が探し物だ、荒事に関わる危険性は高く、その際に彼の能力が引き付ける危険な人物は、決して少なくないだろう。

 しかし浩平は、本腰を入れて故郷に帰る為の手段を探す事を決めた。ある単語が頭を過ぎったのが決め手だった。

『キメラアント』

 もしかしたら、この世界にもあの漫画で在ったような大災害が起きるかもしれない。そんな不安がジワジワと心を蝕み、加えて望郷の念が毎夜浩平を苛んだ。

 ハンターになることが出来れば、情報収集の難易度が格段に低くなる。そこで師にそう薦められたし、まずはグリードアイランドに当たろうと思っていた浩平は上手く漫画のキャラクターとの関わりを持てたらと、年代を考慮せず受験を決めた結果冒頭に戻り、浩平はハンター試験二次試験会場のマフタツ山にいる。

 年代は主人公達の受験と重なった。そして、同時に関わりたくない『一部の例外的な人物』も受験していた。

 現在、浩平のオーラは垂れ流しの状態になっている。しかし、一次試験中には体力が続かなかった為、纏を使用していた。そしてそれは、『一部の例外的な人物』の眼に止まっていたようだ。

 ――見られている。そう感じたのは豚の丸焼きを制作している時。確信したのは、寿司を握っていた時。

 他の受験生が皆魚類の調達に向かって走り去っていく中、自分はただ一人残って丸焼きにする前に取り出しておいた豚肉で寿司を握ろうとした。コレを使えば、恐らくキワモノを求めているであろう試験官を満足させる事が出来るのではないかと。

 その時に浩平は見てしまったのだ。微笑を湛えつつこちらを一瞥し、集団からワンテンポ遅れてマイペースな走りでゆったりと去っていく人物を。

 後方に流すような髪は整髪料か何かで固められていた。怪しい微笑を形作っていた目は細く線のようで、口元にはかすかに舌なめずりするような動きが見えた。


 その人物の名は、ヒソカ。最も関わりたくなかった戦闘狂である。


 見られただけでも震えが走った。その力量の差は、絶望的などという言葉でも表せないほどに大きなものだという確信が、それと同時に体を駆け巡っていた。

 主人公達と近づくきっかけが掴めなかった上にこの展開。まさに踏んだり蹴ったりだ。

 そして、二次試験で作った寿司も自分の力量不足からか合格出来ず、谷に飛び降りる羽目になったが、浩平にそんな度胸は無い。次々に飛び降りていく受験生達を見送るばかりだった。


「…うん、棄権しよう」


 このまま続けていてもヒソカに目をつけられた以上、危険性は格段に上がっただろう。そう決まればもう早い。諦めた受験生達の中に混ざり、愚痴の言い合いで数名と意気投合してホームコードを交換するまでに至った。

 この時点で、ヒソカは浩平をそれほど重要視していなかった。遠目に纏を見たのみで、そこまで執着するほどのものではないと思っていた。そして、ゴンという原石の観察を優先したのだ。もしも練を展開する所を見られでもしたら、遠からず浩平は死んでいただろう。一人の奇術師に落胆という名の置き土産を残して。


 …彼が無事故郷に帰れたかどうかは、本編とはまた無縁の挿話であり、これ以上の説明もまた無意味であろう。

 こうして一人、リュークらの同類は消えた。

 なお、無縁とか言うなら初めから語るんじゃねぇよなどの突っ込みは受け付けないので悪しからず。




微妙に憂鬱な日々


第二部 四話




「…ねぇ、クリスさんや」


「何だ?」


「俺、ハンターにならなくていいや」


「…気持ちは痛いほどによく分かる」


 互いに頷きつつ、眼下の光景に目を落とす。足元から広がる深く広大な谷間、その底には川が流れているとの事だが、細い線状のアレがそうなのだろうか。川幅がどれほどかは分からないので、正確なところはハッキリしないが、谷がどれほど深いかそれとなく伺える。

 例え水であっても、高速でぶつかればその際に発生する衝撃は半端なものじゃない。この深さなら川に落ちた場合、重力加速度×落下に要した時間の二乗で、人体を砕くに事足りるいい具合の速度になってくれるだろう。空気抵抗? そんな計算できんよ。

 …まあつまり、落ちる=死ぬっぽいという、シンプルかつオイラーの等式もびっくりの美しい方程式が成り立つわけだ。

 念があるから、よほど下手を打たない限りは死ぬ事も無いだろう、多分。しかしあの試験官も、ここから飛び降りて、紐状で谷に張り巡らされている鳥の巣から卵強奪してこいと、念の使えない連中が普通に死ねる試験を提示するとは、一次試験官のあれといい、やはりハンターに常識人はいないのだろうか。

 そして、シンプルで分かりやすい等と言い放ち、嬉々として飛び降りていった受験生達も正気の沙汰じゃない。荷物と棍下ろして、さあ行こうかと谷の前に立ったけど、やっぱり俺には無理だ。さっきから脚の震えが止まらないし。後ろに下がりたいのに、震える足が前に出ないようにするので精一杯で、ちょっとした弾みで谷底に吸い込まれるように落ちてしまいそうだ。そんなビジョンを想像しただけで震えは加速し、ますます俺は何時落ちてもおかしくない状態になる負のスパイラルが形成されていた。

 恐怖でいい感じにとろけた思考はいつもよりも長々と、くだらないことをつらつらのたまっている。もう駄目かもしれない。


「二人とも、そこでボケっと突っ立ってないで、行くよ」


「ちょっ、まっ!?」


 並び立つ俺達の間に割って入ったノエルは、そのまま何でも無いように制止の叫びを無視し、あっさり俺達を谷底に引きずり込んだ。

 ふわりと一瞬の浮遊感。その後、重力に内臓が引っ張られているのが感じられる。下方のベクトルが俺をどんどん加速させ、頬に当たる風も徐々に強まり、豪風にその姿を変えて耳を、流れる音が侵食していく。


「…ギニャーーーー!!!」


 そこで俺はようやく叫びを上げる。意識が暗転しかける先から自身の叫びで呼び戻され、恐怖はより鮮明なものになっていった。

 半ば錯乱しつつ、今更ながらノエルとクリスの位置を確かめようとキョロキョロと周囲を見回す。そして横を向いた時、ばたばたと音を立ててはためくロングコートのすそが視界の端に現れた。もっと視線を動かした先には――。




「うわ…」


 思わず顔をしかめ呟く。そこには白目をむいて、口元から涎を撒き散らしているあられもないクリスの姿があった。脱力して見事なえびぞりの姿勢、風にゆらゆらと煽られるがままの体と天に昇るようなその長い頭髪。散った涎はその半開きの唇から引き離されて、見る見るうちに視界から消えて頭上彼方だ。


「おーーいーー!!」


 豪風に晒される中、空を掻き分けて泳ぐようにジリジリと近寄り、クリスの肩を掴み揺さぶる。しかし目覚める兆候は無い。そうしている内にも底に見える川幅は太くなり、視線の先で縦横無尽に張り巡らされた線が薄っすらと見えてくる。

 もう間に合わない。思うよりも早くクリスを抱き寄せて脇に抱えていた。気付くと、ノエルも逆からクリスを抱え込んいる。そして、手近に見えた紐――いや、むしろ縄状のそれを余った手でノエルと同時にぐっと掴む。だが当然、落下は簡単に止まらない。蓄えられた運動エネルギーは、尚も俺達を谷底に引きずろうと下向きに加えられ、体に掛かる強烈な負荷と成り変り大きく『縄』がたわむ。それは引き絞られる弓のようで、三人分の重量は、元の位置から俺の身長よりも大きな幅でたわませる。

 その間に俺らの合わせて二本の腕に掛かるのは、三人分の落下によって、殺人的に高められたとてつもない重量。歯を食いしばって、うめき声を出しつつ耐える。加えて、腕の中でぐったりと動かないクリスはそれに逆らえる訳がなく、落ちないようにがっちりと支えるも、やはりそこから無視できない負荷が強く下向きに働いていた。

 ようやく停止。ぶるぶると震えるほどに力を籠めた手を少し緩め、ホッと一息吐こうとする。


 それがいけなかった。


 さっき、俺はこう例えた筈だ。『引き絞られる弓のよう』と。引き絞られた弓、その弦を開放すれば当然――。


 思い至った時には手遅れ。俺達は、『開放されて元に戻ろうとする弦のよう』に跳ね上がった。

 その速度も、その際に発生する負荷も、先ほどに比べれば大した事はない。だが、俺の不注意の為に半ば不意を突かれた形で、しかも落下に耐え切った腕は筋断裂と思わせるほどの痛みがほとばしっていた。さらに致命的な事に、俺はその時点で念を使うという考えをすっかり失していた。


 そして気付いた時には、俺の手にさっきまで必死になって掴んでいた物の、思ったよりも硬質だったその感触が消える。その手は開いていた。


 一瞬の落下は、クリスを抱えていたもう一方の腕に力を籠める事で無事に終わる。『縄』を掴んでいた腕と共に半身は脱力し垂れ下がる。その振動は徐々に小さくなるも、やはり無視できない大きさで十秒近く続いた。

 三人分の重さを支えているのはノエルの腕一本となる訳だが、心配は無用だった。見上げた先には、オーラを纏っているその腕があったからだ。全力を出す必要が無いと判断したのだろう。その量は普段の膨大なそれよりも、半分以下に抑えられていた。


「…大丈夫か?」


 少しばかり苦しそうな声が、すぐ頭上から降ってきた。クリスだ。それは先ほどの負荷のせいだろうか。


「お前こそ、チビってないだろうな?」


 腕の痛みに顔を引きつらせつつも、軽口を返す。視線を重ね合わせ、俺達は同時に苦笑した。




「二人とも、早く上がって」


 抑揚のない、しかしやたらと迫力のある声が、さらに上から降ってきた。


「「あ、すみません…」」


 つい、敬語になってしまった返事は重なる。

 痛みの為、卵を回収した後の上りは、ノエルに掴まって補助してもらいながらだった。その間、ノエルにしがみ付いた途端に冷たい声音が氷解したのはきっと気のせいだと自分に言い聞かせる、小さな死闘が俺の脳内世界で繰り広げられていた。


 …意外に柔らかかったなど微塵も思っていない。ああ、思っていないとも。




続く




あとがき

初めてコミケに行きました(挨拶)

入場だけで疲労困憊な上に、お目当てのものが全く手に入らなくて泣くばかりでした。

欲しかったなぁ、やんデレ。

大学で私の所属しているサークルも参加し、無事に完売できて一安心。コピー本の製本作業を手伝ったぐらいですが。

…え、オッドアイをあっさり退場させた理由ですか?

上手く動かす自信がなかった、それだけです。リュークたちにとって、ああいったキャラクターは地雷もいいところ。関わると冗談抜きでやばい展開。それを上手くコメディにする自身はありませんでしたというわけです。

あんまりキャラクターを増やすとそれだけで動かしにくくなりそうという、ヘタレな理由もありましたが。

あ、感想掲示板にスレ立てたんで、物申したい人はHOMEの所から飛んで下さい。意見感想お待ちしております。

次の更新は火星物語の三話更新以降となります。ではこれにて。





[2208] Re[2]:微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:97c88f32
Date: 2007/10/01 01:35


「ぜぇ、ぜぇ…」


 息を荒げながら、俺は床に伏した。あふれる汗が髪やまつげを伝って、ポタポタと何滴か落ちるその不快感に顔をしかめつつ再び立ち上がり、ノロノロとした歩みで今いる広間の壁際を目指す。


「もう駄目だー」


「おま、降参するの早すぎだろ! とっとと立てっつの」


 半ば投げ出すように壁に背を預けて腰を下ろす俺に、キルアは目標に向かうその動きは止めないまま怒鳴りつける。


「ばーか! この様で俺が役に立つわけないだろうが!!」


「開き直るな! ほんっと、使えねぇなお前」


「ほっとけ…」


「キルア、こっちに集中してよ!」


「あ、わりぃ」


 俺との言い合いに熱が篭り始めたキルアにゴンが呼びかけて、キルアは再び目標に目を向ける。


「ふぉ、ふぉ、ふぉ」


 その目標、ネテロ会長は俺らのやり取りを細目で見やりつつも愉快気に笑んでいる。

 その隙にと、会長が手に持ったボールを奪おうと鋭く伸びる手はゴンのものだった。


「甘い」


 しわだらけの笑みを崩さないまま言い放ち、横に跳んで回避。予測して待ち伏せていたのだろう。絶妙のタイミングで立ちはだかるキルアはしたり顔だった。

 そして、そこでネテロ会長は強く地を蹴った。止まる為ではない。跳躍の勢いはそのままに、上向きのベクトルが追加されたのだ。

 つまり、高く跳ね上がる。それも、キルアの頭を軽々飛び越すほどに。


「このっ…!」


 キルアは頭上を通り抜けようとするその脚を掴もうとするも、その膝が曲げられるだけでそれはあっさりと射程範囲から外れた。

 着地の隙を突いてまたゴンが――。


「信じらんねぇ…」


 この人たち、現在誰一人として念を使ってない垂れ流し状態なのに、ここまで凄まじいビックリ人間ショーを繰り広げるとは。俺じゃあ、とても着いていけない。

 

「おつかれ」


 嘆息交じりの声と共に、何かがこっちに放られる。掴めば、それはペットボトルのスポーツドリンクで、投げよこしたのはクリス。向けられる目は若干睨み付けるようだった。

 少し遅れてノエルがやってきて、0円のまぶしい微笑と共にタオルを差し出してくる。あ、いや、拭こうとしなくていいから。


「何やってんだか…」


 クリスの呆れ声は、叱責も多分に含んでいるんだろう。俺は苦笑するしかなかった。


 いや、ゴンのあんなに弾んだ声で一緒にやろうって誘われたら、メンドイからって理由じゃ断りづらくて…。






微妙に憂鬱な日々


第二部 五話






「また高いっすね、クリスさん…」


「そーだな…」


 クリスと並んで、しゃがみ縮こまりながら眼下に目を落とす。ここはトリックタワーの天辺。視線の先にはどこまでも続くような広大な自然が、しかし豆粒よりも小さい。

 つまり、とてつもなく高い。なんとかと煙は高い所が好きと聞くが、俺は好きじゃないので馬鹿じゃないんだろう。


「いちいちそんな事を考えている所が馬鹿だと思うが」


 クリスの言葉は胸にチクリと突き刺さる。…別に、悲しくなんかないやい!


「それでどうするの? もう何人かは下に向かってるみたいだけど」


 声を潜めて俺の耳元にそっと屈み込むノエル。あ、息が――。


「リューク、『アレ』は使えるか?」


 未知の領域に飛翔しかけた意思はクリスの言葉によって引き戻される。『アレ』か…。


「わりぃ、『アレ』はまだ完成度低いから下までオーラが保つか怪しい」


 『アレ』は最近使えるようになったばかりだし、ここんとこ使い勝手のいいVツールに焦点当てて修行してたしな。


「僕のオーラを使えばなんとかなるんじゃない?」


 確かにノエルの能力を使えば、RPGの回復役よろしくオーラを俺に分け与える事ができるが…。


「いや、もしもミスしたら死にかねないし、やめとこう」


「決まりだな。それじゃあ、隠し扉を探そうか」


 そう言ってクリスが立ち上がったときだった。


「うわあぁぁぁぁ!!!」


 高らかに鳴り響く悲鳴が耳朶を打つ。声の発生源は下方数十メートル。見れば数メートルはありそうなの巨大な鳥が四羽ほど、悲鳴の主であろう外壁にしがみついている人物を取り囲んで、パックリとその人間すら一飲みにしてしまいそうな顎門を開いている。

 僅かな逡巡の後に、クリスは無言で腰に手をやった。


「――止めはしないが、実弾でやれよ?」


「当然だ」


 クリスは俺の言葉に頷き、その右手で腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。ロングコートのすそがはためく。

 そして銃口を下に向けて一発目。間髪いれずに左手で撃鉄を起こし、リボルバーの弾倉が回る。続いて二発目、三発目、四発目――。

 鳥の数だけ放たれた弾丸は、一発一発がその翼を貫く。怪鳥らは甲高い奇声を上げながらよろめき飛び周り、ゆっくりと降下していく。

 先ほどの悲鳴の主が慌てた様子で上ってくるのを見た後でクリスは背を向け、脚先でそこらの床を突くとそこには隠し扉があり、呼び止める間も無く飛び降りていた。


「…照れてるのかな?」


「それもあるだろうけど、注目されるのが嫌だったんだろうな」


 ノエルの呟きに答える。

 一瞬の事で何が何だか分からなかった奴が多いけど、こっちを見てた奴らもいたしな。残念な事に、その中にヒソカもいた。その興味心がどれほどの物かは、崩れないその微笑からは判別できない。

 身の安全だけを考えるなら、見過ごすのが賢い選択だったんだろうけどな…。

 でも、俺はクリスを褒めてやりたいね。


「さて、俺らも行こうぜ」


「うん」


 隠し扉の捜索を始め、程なくしてそれは見つかる。二つ並んだ隠し扉の傍に並び立ち、顔を見合わせる。


「そんじゃ――」


「下で会おうね」


 そして同時にそれぞれの扉に飛び込んだ。




「「…あれ?」」


 五メートル四方ほどの薄暗い照明の部屋だった。同時に着地する音に反応し、横を向けば同じように首を傾げながらこちらを向いているノエル。

 同じ部屋に行き着く扉だったのか…。並んでたし、予想できなかったわけじゃないよな。

 顔を正面に戻すと、鉄の扉、その横にパネル。さらにその下には、台座に設置された手錠がある。

 パネルにはこう書かれていた。


 絆の道

 君達二人は、ここから下までの道のりを手錠で互いの体を繋いだまま乗り越えなくてはならない。




続く?




あとがき

執筆中の火星物語のデータを間違って消してしまいました(泣)

つーワケでやる気なくしてこっちを書きました。文量が少なくてゴメンナサイ。次は早めに更新するように頑張るのでご勘弁を。


http://mai-net.ath.cx/bbs/ss_t_bbs/imp.php?bbs=default&all=2738


感想はこちらにお願いします。ではこれにて。




[2208] Re[3]:微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:97c88f32
Date: 2007/10/09 01:11


「この鎖、プラスチックで出来てるみたい」


 そう言いながら、台座に設置されていた手錠の輪を両方右手に持ち、左手で垂れ下がる鎖を弄ぶノエル。


「千切れないように気を使わないといけないな」


 パネルには互いを繋いだままとある。きっと、そういう方向の妨害もあるんだろうと辺りをつける。


『その通りだ』


 唐突に響いた声は、ドアの上方に設置されたスピーカーからの物。落ち着いた、しかしどこか愉快気な含みを持った男性の声だった。


『こちらからの指示の無い限り、手錠を外す、もしくは手錠の鎖が千切れるなどして互いが切り離された時は失格となる』


 指示の無い限り、ね…。その言葉に何か含みを感じ、反芻する。


『君達の目の前にある扉は、手錠で互いが繋がれた事を確認した後に開く。この場での伝達事項は以上だ』


 ブツンとひときわ大きな音の後、部屋の中はシンと静まり返る。


「それじゃあ、どこを繋ぐか決めようか」


「…やっぱ、無難に手首じゃね?」


 ノエルの言葉に半ば投げやりで答える。脚とかじゃ当然移動が難しくなるし、片腕制限されるのは痛いけど他に繋げそうな場所なんて無い。


「いや、腕と脚繋いで肩車とかおんぶでいくとかさ」


「却下。何時間もずっとそのまんまとかありえないし」


 何時間もずっと密着とか耐えられないし。


「冗談だって。…チッ」


「…今、舌打ちする音が聞こえたんだけど」


「気のせいだよ」


 いや、この距離で気のせいとか、んなワケないだろ。


「気のせいだよ」


 俺の胡乱気な目に、ノエルはきっぱりと、やたら迫力を帯びた微笑を湛えつつ答えた。


「いや「気のせいだよ」…はい」


 まだ何も言ってないのに。

 そして圧倒されたまま、俺の左手首はノエルの右手首と繋がれた。直後に扉はゆっくりと横にスライドしていく。


「行こうか」


「ちょ、何か距離近いんですけど…!?」


 歩き出す中、そんな俺の狼狽した声は当然無視された。






微妙に憂鬱な日々


第二部 六話 






「あ、そこ罠っぽい」


 言いながらノエルの足元を指差す。ノエルはそこをヒョイと避けて、軽く跳び越した。

 カチリ。今度は俺の踏んだ床が軽く凹みつつそんな音を立てる。自分の足元の警戒が疎かになっていた様だ。

 そして小さな風切り音。反応し、即座にノエルが左手を横に振る。見れば、その指の間に挟まれた鉛製と思しき鈍い光沢を放つ、直径五ミリ程度の球体が二つほど。

 並んで歩き出して大体二時間弱。手錠に設置された、残り時間を示すデジタルウォッチが教えてくれる。

 そろそろノエルとの、腕の軽く触れ合う距離にも慣れてきた。思考が麻痺してきたとも言える。

 見渡せば、レンガの壁に淡い照明が薄暗い通路は、大人二人が両手を広げて並んだ程度の幅で、曲がったり下ったりする事はあれども、分かれ道の類は無く、その代わりといわんばかりに罠を大盛りサービスしてくれているようだ。

 それは当たれば即アウトのような物ではなく、一つ一つは大した事のない、結構痛い程度の罠が無数に設置されていた。しかも、罠を作動させた本人ではなく、パートナー目掛けて発動するようだった。

 自分は悪くないのにこいつのせいで――。そんな苛立ちを募らせ、仲間割れを誘発する為なのだろう。そのコンセプトはえげつないの一言に尽きる。


「やっぱり、円を使った方が良いんじゃない?」


「体力続かなくなるだろうが」


 ノエルの提案を切り捨てる。お前と違って円は苦手だしな。長時間保たない。


「でも、いつ大きな罠が来るとも限らないし…」


 確かに。小さな罠ばかりだと思わせておいて、油断した頃にでかいのでガツンと。ありがちだがそこそこに効果的だ。


「警戒しすぎてヘロヘロになったら、それこそ本末転倒だ。それに、大抵の罠はお前なら平気だろ?」


 嘆息しつつ言う。

 そう、コイツは先ほどから俺が引っかかった罠の数々を、事も無げにあしらっている。俺に向けて発動した罠は最初の一つのみで、ノエルがその後作動させた罠は無い。

 その罠自体、足元に輪っかが出現して脚を引っ掛ける程度の物だった。

 崩れかけたバランスは右手の棍ですぐに立て直す事ができ、結果何の被害も無い。


「それならリュークも気をつけてよね。僕だって疲れるんだから」


「耳が痛いねぇ…」


 若干咎める様な物言いと共に肩をすくめるノエル。俺は苦笑一つ返す事しかできなかった。

 しかし、罠には慣れてきて精神的疲労も軽減しているが…暇だ。


「歌でも歌うかねぇ」


 とりあえず、やる気の出るような熱血系統を。特撮とかいいかもしれない。




――数十分後




 どれほど悔やんでも、どれほど嘆いても、時計の針は戻らない。割れたハンプティー・ダンプティーも戻らない。

 それでも…いや、だからこそ、尚更なのだろう。人は取り返しのつかないことをした時、願ってしまう。やり直したいと。

 ……何が言いたいのかといいますと。


――歌うんじゃなかった。


 歌う行為自体は、別に悪くなかったのかもしれない。暇つぶしには丁度いい。

 ノエルの、俺と共に最近のヒットチャートを歌いながらも周囲への警戒は怠っていない様と、その透き通った美声に感心しつつ、次にノエルの着いていけない、ソルブレインやらエクシードラフトやらの特撮のOPを熱唱し始めたのが間違いだったのだろうか。いや違う。

 Vガンダムを歌いだした辺りで、結局種死は何を訴えようとする話だったのだろうと思い、クリスの言葉を思い出したのも、別になんてことない。

 ちなみにどうでもいいっちゃいいが、クリスとその言葉とは以下のとおりだ。


『あの作品のテーマ? 弱肉強食以外にあるのか? あの作品、結果的に誰も彼も弱者なんて知ったこっちゃないような行動ばかり執ってるじゃないか。まあ、人という字は強者が弱者を踏みにじる事によって成り立っているからな。アレはアレで間違いじゃないんだろう』


 こともなげに言い放つクリス。そこまで言い切られると、本当にそんな作品だったかのように聞こえる。


『麻生信者としては、そんなZAMZA的思考は許容できないからな。個人的に種死は嫌いだと言っておく』


 そうも付け加えていたが、解釈が偏りすぎなんじゃないかと思った。ちなみに、大昔(前世)でミリオタな友人に種系ガンダムの駄目駄目っぷりを軍事的見解から長々語られたりしたことを何故か思い出した。

 アレはアレで、もう一種のスーパーロボットとしてみりゃいいじゃんと割り切っていた俺からしてみれば、そこまで熱心に叩く必要もあるのだろうかと思ったが。クソならクソで切ればいいじゃないかと。

 まあ、ガンダム信者は切れるか。俺も麻生作品を汚す奴は許さないからな。指六本とか。

 ――っと、その辺は置いといて。アニメ版レッドバロンやら鉄人二十八号FXやらマイナー系ロボットアニメで攻め、締めにゴーダンナーを歌ってしまった事は、間違いだろう。


 そう、神魂合体ゴーダンナー。パイロットの夫婦が新婚で、新婚合体GO旦那! それに気付いた時でした。


 …こう頭をね、ふと過ぎったんですよ。


 『ウェディングドレスを身に纏ったノエル』の像が。


 一瞬にして全身の肌が粟立ちましたよ。


 いえ、恐ろしかったのは、違和感が全くなかったとか、ついそのビジョンに見惚れそうになったとか、その腹が何故かポッコリ膨らんでたとか……充分過ぎるくらいに恐ろしいですけど、一番恐ろしかったのは他にあるんですよ。


 それは、ノエルの背後に写っていました。


 それは、私もよく知る人物でした。


 その相貌は狂気にまみれた笑みに染まっていて、それだけで撃ち抜かれたように恐怖が前進を駆け抜けました。


 そう、何より恐ろしかったのは、それです。


 その、『白無垢着たクリス』が包丁持って、今にもノエルに突進しそうな前傾姿勢だったんですよ。


 …ええ、笑いたくばどうぞ、ご勝手に。

 マジで怖かったんだよー!! 自分の妄想に怯えるとかアホ臭いけどさー!

 何このヤンデレ展開とか悶えて、ノエルが心配そうに背中をさすってきたのが恐怖を助長したりしなかったり。

 以前の夢(第一部十七話参照)をまだ引きずっているのかね、俺は。あー歌うんじゃなかった。


「だ、大丈夫なのリューク…?」


「大丈夫だ。大丈夫過ぎて、綺麗な花で彩られたブーケすら見えそうな勢いだ」


 そのブーケにはちょっぴり紅い染みが出来ていたりするが、俺は大丈夫だとも。


「えっと…あんまり大丈夫に聞こえないんだけど」


「なあに、モーマンタイさ。おっと、何かあるようだぜ」


 俯きがちでノエルに背中をさすられながら、しかし無駄に気取った口調で先を見る。間抜けっぷりが際立つようだが気にしない方向で。

 通路のずっと先で、この淡い照明を打ち消すひときわ強い光が差していた。

 そこへ向かって、歩みがやや早足になる。


――カチリ


 足元でそんな音がした。

 次の瞬間、ノエルがオーラを纏わせた左腕を握り拳で外側へ振り、直後轟音一つ。

 壁が爆ぜ砕け、飛散する礫が二つ三つと頬を叩く。そこには、直径十センチほどありそうな、重量感あふれる鈍い光沢の金属球体。その体積を半分ほどまで、ノエルの左にある壁面へめり込ませていた。


「油断大敵だよ、リューク」


「…ごもっとも」






「な、なあ兄貴。あいつら、やっつけるんだろ? あいつらやっつけたら、『おんしゃ』ってのがもらえるんだろ? うまいのか?」


「喧しいぞ。恩赦は食い物じゃねぇって何度言ったら理解すん…するわけねぇか」


 開けた明るい空間、天井は高く、広さも二十メートル四方はありそうだ。足を踏み入れると、その中心にいる二メートルはあるだろう大柄な男と、俺達ほどの背丈しかない小柄な男の二人組が、待ち構えていたのだろう、こちらを見据えている。

 微妙に滑舌の悪い大柄なスキンヘッドは、子供のようにはしゃいでこちらを指差し、もう一方の小柄なモヒカンは、それを呆れた口調で窘め肩をすくめている。

 どちらも身に纏っているのは無地の囚人服に、腕は拘束具が固めている。恐らくは超長期刑囚。俺達の妨害し、長く足止めすることによって刑期が短縮される契約のはず。

 ここで何をするのだろうか? そう思った直後、小柄な男が口を開く。


「俺達は審査委員会に雇われたもんだ。此処から先に進みたくば、今から俺達とのゲームに勝つことだ」


「で、ルールは?」


 頷き、先を促す。


「なぁに、簡単なもんだ。俺ら二人がそれぞれ一本ずつ鍵を持ってる。その鍵を二本とも手に入れて、それで後ろの扉を開けるってだけだ」


 確かに、二人の首には紐を通した鉄製らしい鍵が下げられている。それを強奪しろということか。


――ゴトリ


 二人の拘束具が外れて床に落ちる。


「んじゃ、スタートだ!!」


 宣言し、二人は左右に別れ跳んだ。ある程度間合いを取ると、その場に立ち構えている。近づかないようにして、時間を稼ぐ気なのだろうか。

 ――と思った瞬間、回り込むように双方向から跳び掛かってきた。


「前だ!」

「うん!」


 短く早口で告げ、ノエルが頷くと同時に前に跳躍。後に、ノエルを軸にして回るように、二人のいる方へ向く。

 こっちを行動不能にする気か…。積極的だな。ま、鎖を千切られてもアウトっての変わんねぇから手っ取り早いしな。

 それは、こっちにも言えることだが。


「ノエル、使うぞ。攻防力の調節、気をつけろよ」


 オーラの密度が高い攻撃を加えて、犯罪者を念に目覚めさせちゃった。そんなふざけたマネは出来ないからな。


「分かってるよ、当然」


 垂れ流しにしていたオーラを留め、纏う。それだけでグンと全身の力が高まるのを感じられる。


「小柄な方からだ」


「わかった」


 纏うオーラの領域を杖のようにしていた棍に広げる。体に纏う分が薄くなるが、得られる棍との一体感は、それを補って余りある程に自信を与えてくれる。

 再度囲むように左右から襲い掛かってくるその動きは洗練されていて、ずば抜けた素早さは感じないが無駄がない流麗な物だ。

 俺を避けるように回り込み、その動きの先はノエルだ。こっちのように一人ずつ狙いを絞る気か。武器を持っていないノエルを狙いやすいと思ったか。

 

「ごふっ…!?」


 ノエルは、棍持った俺より強いんだけどな。

 ノエルの左側から前からスキンヘッドが、後ろからモヒカンが、前後包むように襲い掛かる。だが、ノエルは躊躇なく背を向けたまま後方へ軽く踏み出し、首筋を狙った手刀はしゃがみ込みつつ回避。そのまま鳩尾を狙って肘で突き上げるカウンター。驚愕と苦悶の表情と共に、モヒカンは宙を舞う。

 前方からの攻撃は、その大柄な肉体が災いし、しゃがみ込んだノエルの頭上を空打った。直後、俺はノエルの頭上、スキンヘッドの顎に向けて棍を突き出す。

 片腕で若干力が入りにくいが、的確なポイントにさえ当たれば問題ない。


「いてぇ!」


 ――が、顎を打たれたスキンヘッドは、目に涙をためながらも、よろけた足取りで後退する。数歩分間合いを置いたら、口から血の混じった唾を吐き出した。


「く、こいつら、思ったよりやりやがる…。作戦変更! 逃げに徹するぞ!」


 モヒカンは呻きながらも、スキンヘッドに半ば怒鳴るような指示を出す。


「…じゃあ、僕たちは、『もう一つ』を狙うとしようか」


 そう告げるノエルの手には、鍵。その紐は千切れていて、ノエルの指に巻きつけられていた。

 それは、モヒカンの首に下げられていた物だった。今気付いたのだろう、モヒカンは首元に手をやりつつ慌てふためいている。

 ノエルがそれを取ったのは男が宙を舞う瞬間。突き出した肘を戻すことなく、そのまま手の甲を相手の胸に貼り付けるように腕を伸ばし、紐に手をかけて千切り取っていた。


「紐、もっと丈夫なのにしておくべきでしたね」


 そう言うノエルは少しばかり得意げだった。


「おい、パズー! ぜってぇそれを渡さないように気をつけろ! 俺の鍵を奪い返すぞ!」


 言いながらモヒカンは立ち上がり、構える。スキンヘッドも呼応するように前傾姿勢になっていた。


「いや、まずあっちを黙らせよう」


「うん」


 俺が親指で示す先にはモヒカン。ノエルが頷いた直後、向きを変え、踏み出した――。






「聞こえてないだろうけど、じゃあねぇー」


 手をひらひらと振りつつ、得意げに笑んで部屋を後にし薄暗い通路へ。モヒカンはうつ伏せで気絶。スキンヘッドは、大の字で仰向けに気絶。

 結局、念という反則技と、ノエルという反則キャラの前に、奴らは十分しないうちにノックアウト。俺は殆ど役に立ってないがな!

 ここまであっさり終わると拍子抜けだね。もう、このまま余裕でクリアできそうだ。




――カチリ


 そして、スイッチを踏む音。


「うをっ!?」


 飛来する何かを察知し、声を上げながらもそれを薙ぐように棍を振る。鈍い音、硬い手ごたえ。

 そして直後、轟音。そこには先ほどと同じように、しかし今度は俺の右側の壁面へめり込んでいた。

 今度は踏んだ本人に向けてか。纏を解除していたら危なかった。


「油断大敵って、さっき言ったばかりだよ、リューク」


「お恥ずかしい限りで…」




続く?




あとがき


ハンターハンター連載再開万歳(挨拶)

このところ下火のハンターSSも、これから増えるかもしれませんね。

すんげぇ作品も完結したばかりですし、これからバシバシと盛り上がったら楽しそうです。

微妙に憂鬱な日々も、一応は完結させる予定なので、よろしければこれからもお付き合いのほどを。

前回早めに更新といいましたが…微妙っすね、すんません。

ではこれにて。国会図書館にVS短編探しに行こうと最近考えている圭亮でした。

感想はHOMEの所から感想掲示板にお願いします。




[2208] Re[4]:微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆97c88f32
Date: 2007/10/23 00:49



「精孔は開いてやる。……だが、そこまでだ」


 そう言うと、クリスは俺に背を向けて歩き出した。

 精孔だけか…。いや、そこまでの譲歩を引き出せただけでも良しとしよう。


 それを見かけたのは偶然だった。普段の俺なら、きっと見逃していただろう。

 コートの女性が銃を抜き、受験生を襲う怪鳥目掛けて発砲。怪鳥は銃を喰らいながらも、降下していく速度はゆっくりとした物だった。

 それは『原作』に無い光景。だからといって、必ずしも彼女が『そう』だとは限らない。

 でももしかしたら――。そんな思考で、半ば縋る様に慌てて後を追う。その女性の降りていった傍の隠し扉を開けば、当たりだった。

 扉の行き着く先は同じ。二人で協力してゴールまで向かう道。

 問い詰める。そして彼女――クリスは俺の同類と判明。頼み込んだ結果、精孔を開いてもらえる事となった。


「何をしている。まずは下まで行くのが先だぞ。指示が無い限り、どちらかが行動不能になった時点で失格だ」


 クリスの背中を見やって突っ立っていた俺。振り向いて無愛想な口調で声を掛けると、クリスは再び背を向け、薄暗い通路を先へと進んでいった。

 俺も踏み出す。それだけで、まるで世界が変わったように希望が広がっていくのを感じた。合格の可能性も、元の世界へ返れる可能性も上がったのだから。

 でも――。


「なあ、アンタはそれでいいのか?」


 そう、クリスは言ったのだ。

 もう、帰るつもりは無いと。

 もう、疾うに諦めていると。

 もう、未練は無いのだ、と。


「嘘だろ? 未練が無い、なんて」


 なら、なんでハンター試験なんて受けた?

 そこまでして叶えたい目標なんて、無かったんだろう?

 忘れたく、なかったんだろう?

 未練が無いなんて、嘘だ。

 さっきの表情、強がってる時のガドに少し似ていた。どこか疲れたような、やや引きつった笑み。

 未練があるから、参加者のクセに傍観するような、そんな軽い気持ちで受験できるんだろうが。

 自分はこっちの人間じゃないんだっていう自覚があるから。


「痛い所を突くなぁ……」


 俺の問いかけに、クリスは口元に手を当てて、小さく苦笑する。

 若干俯きがちになるその背中に、頼りない雰囲気を帯びていくのが感じられた。


「確かに……きっと私は、いや、私とあいつは、『そう』だったのかな……」


 小さな呟きは儚げで、消え入りそうだった。

 クリスは足を止める。


「ああ。きっと、その通りだ」


 そう言いながら、振り向いて微笑。

 その笑みは、何処か晴れやかな、何処か悲しい物だった。


「始めは、真っ暗だった」


 クリスは表情を崩さないままに、ポツリポツリと語りだす。

 

「その後は、光が眩しかった」


 そう愛おしげな笑みで語るも、じわじわと滲み出る憂いは消えない。


「その後は、知らない天井だった」


 憂いの色が僅かに濃くなった。


「体は碌に動かない。出来るのは、泣き叫ぶだけ」


 さらに、それは色濃くなる。


「それを聞いてやって来るのは、知らない人。もっと悲しくなって、もっと強く泣き叫んでも、ずっと変わらない」


 そこで言葉は一旦途切れた。クリスの表情を占めるのは、憂いと慈しみと……僅かばかりの未練。


「――知らない人、知らない天井、知らない世界。受け入れまいと必死で抵抗しても、何も変わらない。受け入れたら、もう諦めるしかない」


「……悪ぃ」


 そう返すしかなかった。

 そうだ。もう、コイツはこっちの生活があるんだ。未練を煽るような事を言っても、苦しいだけじゃないか。

 はしゃいでて、そこまで気が回らなかった、なんて言い訳か。


「いや、こっちも、会って間もない人間に話すことじゃなかった」


 クリスはそう言って苦笑する。

 俺は、それを見て首を振った。


「会って間もないからこそ、話せるってのもあるんじゃないか?」


 俺はそう思う。

 生まれ変わりで、前世に未練がある。こっちの親しい誰かにそう言えば、少なからず衝撃を与えるだろう。その方向性が負と正、どちらの物であろうと。

 俺はどうでもいい奴だから、吐き出しても、そんな事を不安に感じる必要は無い。

 しかも俺は、僅かばかりその立場を解ってやれる。だから洩らしてしまったんだろう、胸の内を。


「さあ、気を取り直して、行こうか」


 少しすっきりした表情で、行く先を指差すクリス。俺はそれに頷いて応えた。

 そして、並んで歩き出す。


 俺は、諦めない。

 試験合格も、帰ることも。

 俺が登るのを手助けしていたせいで、川に落ちちまったガド。

 でも、きっとそれで良かった。

 アイツはきっと生きてるし、もう死ぬ恐れは無い。

 でも、少しくらい悔しさは残るはずだ。

 だから、俺は合格してやる。

 お前のおかげで受かったんだって、言ってやる。

 お前はスゲェヤツなんだって、言ってやる。


 ……それと、告白の後押しも要るだろうしな。






微妙に憂鬱な日々


第二部 七話






「それで、全部?」


 そう言い微笑むノエル。

 しかし、その声音は硬く、全身から放たれる強大かつ不可視の圧力は、俺を精神的に追い詰める。

 背中に冷や汗を流しながらも、俺はその問いかけに何度も頷くしかない。体と思考が硬直して、まともに動かない。


 ……うん、なんつーか、俺やクリスがトリッパーだとかその辺の事を洗いざらい吐かされた。


 いや、いつか聞かれるとは思っていたよ。むこうのアニメやらのネタを頻繁に使って、ノエルに不審がられてたし。

 出口直前らしいここで、二人っきりの状況。ここでいつぞやの微笑と共に問い詰められるとは思わなかった。

 ああ、みなもなんて目じゃないくらいの問い詰めっぷりだった。あまりに凄まじかったんで、もう少しで尿を漏らすところだった。……スマン嘘だ。実はちょっぴり漏れた。


「……自分で言うのもなんだが、これ、信じられるか?」


 胡散臭いオカルト雑誌にでも掲載できそうな、電波チックな身の上話だったわけだが。

 前世が異世界人です。しかも、この世界のことが漫画になってました。

 ……うん、俺だったらそんなことマジで言う奴は、即座に精神病院に叩き込むな。それも暴力的に。


「信じるよ」


 ノエルの硬質の微笑が、柔らかい雰囲気のソレに変わる。


「リュークの言う事だから、信じるよ」


 おおぅ。ノエルの笑顔がいつもより眩しく感じるぜ……。

 友情って奴だな、うん。


「それに……」


 瞬間、ノエルの表情が艶を帯びる。その唇を、綺麗な指先がなぞった。


「僕があそこまでやったんだから、嘘なんて吐ける筈が無いじゃないの……」


 背筋が、震えた。

 もの凄く、震えた。


***


「俺は太田一哉。よろしくな」


 差し出される手を握る。

 コイツは転生じゃないトリッパーらしい。確かに顔立ちは久しく拝んでいなかった日系のソレだ。

 顔立ちはそこそこに整っていて、そこはかとなく爽やかさが漂っている。…けっ!

 まあ、それほど強そうではないというのが第一印象だった。プレートも397番だったし。


 トリックタワー1階の広間。俺らがたどり着いた時には結構な人数がたむろしていた。

 そして、こちらに手を振ってくるクリスを認めて合流すれば、こいつ、一哉が一緒にいたわけだ。


(クリス、どういうことだ?)


(すまん。関わってもメリットが無いと思われるトリッパーは極力避ける予定だったな)


(で、ならどうして精孔を開けてやるなんて言ったんだ?)


 互いに顔を寄せて声を潜めつつの会話。一哉とノエルは訝しげにこちらを見る。


(……すまん、はっきり言ってただの同情だ。見捨てられなかった)


(まあ、別にかまわないけどな)


 精孔開けるくらいなら大した労もない。それに、多分俺が同じ立場ならやっぱり見捨てられなかっただろう。

 それは三次試験開始時にあれをやったし、想像できた事だ。


「二人とも。もう、隠し事は無しだよ」


 割って入ったノエルがそう言って俺らを引き剥がす。


「リューク、お前もしかして――」


 クリスはノエルを怪訝な目で見て、その後こちらに目を向ける。


「……とりあえず、別の場所で落ち着いて話し合おうや」


 それだけ、呻くように言った。


***


「じゃあ、もし漫画の通りだったら、プレートは今から隠しておいたほうがいいね」


 地べたに座り込んでいる俺達。ノエルはただ一人立ち上がっていて腕を組みつつそう言った。

 合格者は外に出ても大丈夫なようで、何人か外の空気を吸っていた。

 俺らも屋外へ出て、森の中へ少し行った適度に開けた場所で、傍に誰もいないことを確認した後に話し合い。

 まず互いの立場。それから俺らが原作について知りうる事を並べて、情報を整理する。

 出し尽くしたら、もうノエルが場の主導権を握っていた。


「アニメだったら、次はホテル軍艦島だがな」


「試験挟んでくれた方が、番号忘れてくれる人が増えるよ。むしろその方が良い」


「確かに」


 クリスの言葉に、ノエルは間髪入れずに答える。


「プレート外したら外したらで、目立って標的にされそうだけどな」


「どうせ、ルールが説明されたら皆プレート隠すんだし、番号さえ覚えられなかったらそれで良いよ。ここまでそれほど目立たないように来れたし、多分大丈夫」


 俺の疑問にも、打てば響くようだった。どうやっても、所詮は気休めだけどね、と付け加えてもいたが。

 そして皆そろってプレートを取り外し、服のポケットにしまい込む。




「……なんつーか、すげぇ」


「ん?」


 話し合いから微妙に仲間はずれになっていた一哉が、ポツリと漏らす。

 目を向けると、苦笑が返ってきた。


「いやさ、俺がここまで来れただけでも奇跡みたいなもんでさ。なんか、ホント、一気に希望が広がったみたいな感じがしてな」


「あんまり頼られても困る。過度の期待はするな。それに、お前はゴンたちとのコネを作るんじゃなかったのか?」


 クリスの言うとおりだ。酷いようだが、場合によっては見捨てる事も視野に入れている。

 勿論、よほどの事が無い限り、出来る限りの協力はするつもりだ。


「とりあえず、知り合いくらいにはなれてんだよ。後は、キルアを迎えに行くのに着いていければな……」


「その前に、最終試験まで残らないとな。精孔、もう開くか?」


「……制限時間は?」


 クリスの問いかけに、一哉は僅かな逡巡を見せ、その後に問い返す。


「三次試験終了まで、残り十二時間弱だね」


 答えたのはノエルだった。

 携帯を取り出し、時間を見れば確かにそれくらい。

 ノエルは時計か何か見ることもせずに即答だった。体内時計ってやつか? 無駄にすげぇな……。


「――まあ、ぶっ倒れても起き上がれるようになるくらいには回復できるな」


 引き継いで答える。既に実証済みだ、俺の手によって。


「じゃあ、頼む」


 一哉は神妙な面持ちで立ち上がり、俺達に向かって深々と一礼した。




続く




後書き

微妙にシリアスっぽいのを挟んでみましたが…微妙ですな。

これからシリアスが増えるかもしれません。

皆さんの反応しだいで軌道修正したりするつもりなので、物申したい方はよろしくお願いします。


それと、ブログ始めてみました。

とはいっても、まだ微妙に憂鬱な日々の掲載というか、コピーが終わったくらいですが。

興味のある方は、HOMEのところからどうぞ。


http://mai-net.ath.cx/bbs/ss_t_bbs/imp/imp.php?bbs=default&all=2738


感想掲示板にはこちらから上記のアドレスから飛んで下さい。

ではコレにて。





[2208] Re[5]:微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆97c88f32
Date: 2007/11/12 01:02



 ――第4次試験が始まった。


 ターゲットの番号は333番。コレは誰だろう。覚えが無い。

 適当に番号札を奪っていくしかないだろうと思いながら、彼は茂みを掻き分けて進む。

 円を使って周囲を警戒しながら進んでいくが、長時間維持できるほど修行は積んでいない。それにせいぜいが半径7~8メートルだから、それよりも遠くから観察されていたら気付く事はできない。

 どこか、落ちつける場所を探さないと。開けた場所が良いと思う。警戒がしやすい。洞窟などは、原作にあったように薬を使われたら逃げ場が無いし駄目だ。


 ……やっぱり、一人じゃ不安だな。


 内心独りごちる。

 これから7日間、襲撃を警戒しつつ、ターゲットを探し出してプレートを奪い守り通さなければならない。

 正直に言ってしまえば、彼は独力でそれを成し遂げる自信が無かった。


「なあ、そこの人」


 突然後ろから呼びかける声。その主が円の警戒範囲に入り込んでくる。

 驚いて肩を竦ませながらも振り向いた。視線の先には、13~14くらいの自分より幾らか年下であろう黒い髪の少年が、人懐っこい笑みを浮かべて立っていた。

 そして、その体を覆うオーラは纏の状態になっている。念使い。もしかして――。


「あんた、トリッパーだろ?」


 口に出そうとした内容を、逆に少年から問いかけられた。


「じゃあ、もしかしてキミも?」


「ああ」


 若干驚愕の混じった問いかけに、少年は頷いた。

 同胞との接触。それは彼の心にわずかばかりの歓喜と、そして期待を与える。

 そう、わざわざ接触してきたという事は、もしかして――。


「なあ、頼みがあるんだけどさ。俺と、組んでくれないか?」


 返ってきたのは期待通りの言葉。単独よりも組んだ方が、当然合格の確率が上がる。すぐさまイエスと返答した。

 一歩前に出て手を差し出す。向こうもそれに応じ、握手した。


「じゃあさ、まずは――」


 自己紹介だろうか。

 向こうからばかりでもなんだ。自分から自己紹介しよう。そう思い、彼は口を開こうとした。


「プレートよこせ」


「え……?」


 突然、少年の声色が硬質のそれに変わった。加えて、気付けば至近距離に踏み込んできている。

 そして腹を突き抜ける衝撃。腹部に拳を喰らったと気付いた時には、既に意識は飛びかけていた。

 倒れ伏し、暗転していく意識。その中で、彼は少年の爆発するような哄笑を、しっかりと聞き取っていた。




微妙に憂鬱な日々


第二部 八話




「安心しろよ。俺のターゲットはゴンじゃない」


「俺もキルアじゃないよ」


「ごめん。俺のターゲット、キルアだわ」


「「……」」


 俺の言動が場に沈黙を呼び起こす。

 そう、俺のターゲットは99番。キルアだった。


「ははは……」


「リューク、お前さ、もっとこう……場の空気読むとかしろよ」


 4次試験会場に向かう船内。甲板で座り込んでいる俺達。

 それぞれが異様なまでに警戒しながらじっとしている中、俺達は比較的和やかな雰囲気だった。

 そして、それぞれのターゲットが誰かという話題になった。

 正直に言ったというのに。何故か、ゴンは苦笑しながら、キルアは呆れ交じりの半眼で俺を見つめてくる。

 空気読むとか言われても、くじの結果なのだから仕方が無いだろう。


「安心しろ。俺ごときがお前に敵うわけないだろ? 適当に3人狩るよ」


 安心させるように言い聞かせて、キルアの肩を叩く。満面の笑みもサービスだ。


「……お前、ほんっと情けないよな。ま、確かにお前なんて余裕で返り討ちだけど」


 言いながら、キルアは口元に手を当てて喉の奥で笑っている。


「ほっとけ。で、お前らはどうよ?」


 俺の問いに、2人は頷いて番号札を取り出した。

 ゴンは44番。キルアは199番。原作と同じだった。

 こいつら自身の番号も原作と変わらない。そこそこいるであろうトリッパー介入によって発生する人数の変化は、何故か無い。

 『この世界』ではそれを抜いた人数が正史なのか、はたまた世界の修正力でも働いているのか、ただ単に偶然なのか。……どうでもいいことではあるが。

 まあ、4次試験に残った人数は若干多めな気がしないでもない。トリッパーらしき連中がそこそこ目立つようになってきた。

 念使いの可能性もあるから、下手に突っついて返り討ちなんて自体は出来る限り避けたい。まあ、天才ノエルくんと共に行動していればその可能性はグンと減るだろうが。

 だが、それは別の意味での危険も孕んでいる事を忘れてはならない。

 ……初めては野外プレーでした。とっても痛かったです。そんな自体はご免被る。本当にご免っす。いやマジで。


「――リューク、どうしてお前まで震えてるんだよ?」


 怪訝なキルアの声。隣を見ると、ゴンが武者震いだろう、手を強く組んで肩をかすかに震わせていた。その眼光は鋭く、やる気に満ち溢れている。

 そして、俺の体も遠くないうちに襲い掛かるかも知れない未来に、膝を抱えてゴンのそれよりもはるかに激しく全身を震わせていた。そして、その眼差しは自然と遠く虚空、あらぬ方へ向かっている。


「……気にするな」


 うん、触れないで、ホント。


「あ、そうそう。キルアのターゲットって、確か……名前は忘れたけど、3兄弟っぽい連中誰かだったかと」


 アモリ、イモリ、ウモリだっけ?

 親の適当さが滲み出てくるような名前だね。一郎、次郎、三郎とか、そんなレベルじゃないか。


「あいつら?」


 若干声を潜めつつキルアが親指で示す先、顔を向けないように視線だけ送る。それぞれが帽子を被った3人組が固まって座り込んでいた。


「大した事なさそうだな。つまんねーの」


「あ、それとゴン。お前さっきから見られてるぞ」


 言って、向こうからはばれない様に3兄弟とは反対方向を指し示す。そっちにいるのは帽子にもじゃもじゃヘアーが特徴的な黒人が壁に寄りかかって座り込んでいる。

 サングラスで目線が消されているし、パッと見、ただ手元の文庫本を読んでいるようにしか見えない。

 もしもアイツだと見当つけていなかったら、俺には分からなかったぐらいだ。


「アイツはそこそこやりそうだ。気をつけとけ」


 ゴンに注意を促しとく。確か、ヒソカのプレート奪った所を狙われるんだったな。獲物を捕らえた瞬間を狙う。皮肉にもたどり着いた答えを、身をもって味わう羽目になったわけだ。


「うん、ありがと」


 ゴンは満面の笑みで頷いた。


「キルアも、3人のうち1人捕まえて、芋づる式に3人ふんづかまえてやりゃあいい」


「言われなくても分かってるよ。……って、何だよその手は?」


「情報料に、他2人のプレートよろしくー」


 等価交換は世界の常識なのさ。


「ちゃっかりしてんな。――で、連絡どうすんだよ。俺今、金無くて携帯止められてんだけど」


 そもそもここで通じるか怪しいしとも付け加えるキルア。


「……最終日前日の昼ごろに、出発地点辺りで待ち合わせな」




***




「練のコツ?」


「ああ」


「……精孔を開くまでと言わなかったか?」


 肩をすくめて溜め息交じりに言う。

 第4次試験会場に向かう船の甲板。乗り込んでしばらくして、プレート余ったら貰える様に頼んでくると、リュークはゴンやキルアの所に駆けて行った。

 ノエルはリュークがいなくなった途端に口数が減り、今は手元の本に目を落としてる。コレが詩集か何かだったら、その容姿とあいまって知的で神秘的な雰囲気を放つのだろうが、今ノエルが読みふけっているのは先ほど船内の売店で買った雑誌の料理コーナーだ。

 経済的な家庭料理コーナーと大きく印刷された見出し。その下部に記載されている材料や調理法を眺めて、ぶつぶつ改良点を述べている光景は中々にシュールだ。

 そして、そんな微妙な沈黙の中、一哉が拝みつつ頭を下げてきた。練を教えろと。

 3次試験終了時刻まで残り11時間半ほどの時、オーラ量の調節が一番上手いノエルの手によって一哉の精孔を開き、数分後に纏を習得できたはいいが直後倒れた。

 たっぷり九時間は眠ったあとは纏の特訓。まだ数分程度しか維持できないらしい。気を抜くといつの間にか解けているとのことだ。


「ちょっとコツを教えてくれるだけでいいんだ。後は自分で何とかするから」


 そう言い、再び頭を下げる一哉。

 ……何とかしてやりたいとも思う。自分が疾うに諦めてしまった故郷への帰還を。同情心もあってか、少しばかり心が揺らぐ。

 だが正直、コイツが還れる可能性はゼロに等しいと踏んでいる。異世界にわたるには一番可能性が高い手段は念。異世界へと飛べるほどの念など、不可能に近い。

 あまり親切にしすぎると期待され、そんな無謀に挑むのを手助けさせられる羽目になるかもしれない。それは困る。こっちにもこっちの生活があるのだし。

 そういうわけで、過度の協力は、お互い今後の為にならないだろう。

 だが、教えるまで付きまとってやると粘着質な意気込みを感じる。……一言くらいは構わないか。


「クリリンのことかー、だ」


「はい?」


 淡々と告げると、返ってくるのは疑問符。

 もう一度、分かりやすく言う。


「ドラゴンボールのスーパーサイヤ人。アレをイメージすると、やりやすい」


 原作にあったような細胞の一つ一つ云々よりも、簡単かつイメージが浮かびやすい。


「……それ、本当か?」


「馬鹿らしい話だが、本当だ。大分違ってくるぞ」


 練を習得する際に行き詰って、ふと思い浮かんだそれを試しにやってみると、案外やりやすかった。リュークも同じような事をやっていたらしい。


「まあ、試してみるとするか。ありがとう」


「……出来るなら、これ以上頼らないようにしてくれ」


「そうだな、悪い。……ところでさ」


「何だ?」


「そのしゃべり方、どうも違和感があるんだが……」


「あら、似合わないかしら? こっちに変えたほうが良い?」


「「え!?」」


 頬に手を当てて、少し女のシナを作ってみると、一哉だけではなくノエルまで驚愕に目を見開いていた。


「か、変わりすぎだろ……」


 半眼になって唖然とする一哉。


「……いつもの通りでいいと思うよ」


 そして逡巡の後に、すっかり平静を取り戻して言うノエルは、無言の圧力を帯びていた。

 なるほど、『万が一』は避けたいか。


「分かった。まあ、こちらの方が話し易いしな」


 実は、半分はネタのつもりでやっていた口調だが、今はすっかり定着してしまっている。

 今更変えるのは少しばかり難しい。


「……あ、もうすぐみたいだね」


 視線を海原に向けるノエル。それに従って同じ方向に顔を向けると、木々の生い茂る島が見えてきた。

 そして十数分後、船は4次試験会場、ゼビル島にたどり着いた。




 ……リュークに似たような事を尋ねた時、素直クールとか好きだからその口調のままでいてくれと親指立てて言われたのは、やはりノエルに言っておくべきだっただろうか?




続く




あとがき

PS2版いつ空の愛々々ルートは、正直要らないと思います(挨拶)

ようやく4次試験か……ここまで随分と時間が掛かりましたな。

実は、コレ始めた時点では『清杉の最終回』みたいにハンター試験キングクリムゾンする気でした。

いくらなんでも駄目だろと思って踏みとどまりましたが……それでもよかったかも。

ハンター試験終了後、リュークをゴンたちに同行させてキルア迎えに行かせるか、ハンターライセンスをサークルチケット代わりに同人誌即売会へ参加するリュークたちを書くか悩んでいます。

あ、シリアスに入るかもしれないと前書きましたが、やっぱり無理そうです。

つーわけでこのままのノリで行きますのでよろしく。


http://mai-net.ath.cx/bbs/ss_t_bbs/imp/imp.php?bbs=default&all=2738


意見、感想は感想掲示板のほうへお願いします。

ではこれにて。





[2208] Re[6]:微妙に憂鬱な日々 第二部
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:97c88f32
Date: 2007/11/19 08:54


 ハンター試験4次試験二日目。

 時は夕刻、日が傾き、空に朱が差し込んでいる。試験会場であるゼビル島、木々のひしめく森の中は、既に夜闇の趣きをその風景に織り交ぜつつあった。

 獣達の甲高い鳴き声も際立ち始め、しかしそれは、森の静寂を強調している。

 そして、木々の少し開けた空間。西日になりつつある為に、木々が日光を遮断し薄っすらと暗いそこに陣取り、腰を下ろしている三人の姿があった。


「――ほら、見ろよコレ」


 そう言って、そのうちの、胡坐をかいていた黒髪の少年は得意げに笑んでプレートを掲げる。


「なんだよ、まだ一つか? こっちは三つ手に入れたぜ」


 傍の木に寄りかかり足を伸ばす茶の長髪の青年はそれを一笑に付し、扇のように三枚のプレートを広げた。


「はん、何無駄な事やってんだ。ターゲットの一枚あれば充分だろっつの」


「うるせーよ。いちいち探すとかめんどくさい事やってられっか」


 少年は鼻を鳴らし、表情を嘲りの透けて見える笑みへと変えた。青年はそれにムッとして軽く唇を尖らせる。


「なあ……」


 二人から若干距離を置いて胡坐をかいていた男が口を開く。年のころは青年だろうその人物は、頭部から目元を覆い隠す、バイザーと一体になった黒いヘルメットを装着していた。

 二人はその青年に向き直り、何処となく下卑た笑みで顎をしゃくり、先を促した。


「面白そうなヤツら見つけたんだが、どうする?」


 その唇の端を吊り上げて、ヘルメットの青年は続ける。


「どんなのよ?」


「3次試験で銃撃ってたヤツがいた」


「他には?」


「弱そうなガキ二人」


 少年、青年の問いにそれぞれ答え、再び問い返す。


「――で、どうする?」


 二人は笑みの色を濃くして、顔を見合わせる。


「マンガに、そんな奴らいなかったよな?」


「そうそう」


「そーいうのって、やっぱいけないよな?」


「そうそう」


 笑いを含んだ少年の問いに、茶髪の青年は愉快気に大きく何度も頷いてみせる。


「じゃあ、決まりだ」


 楽しそうに告げるヘルメットの青年。二人は頷いて応え、三人はそろって立ち上がった。




微妙に憂鬱な日々


第二部 九話




「ノエル、お、お前、なんて事を……!」


 俺は思わず口元に手をやりながら、息を呑んだ後に呟く。


「何言ってるのさ……リューク」


 自分の行為になんら悪びれた様子も無く、どこかうんざりした風に応えるノエル。


 そして……。


 その右手には……。


 刃先に紅の塗りたくられたナイフが、握られていた。


 そして刃先と同じ色彩が、点々と地べたにシミを作っている。


 そして左手には……ポタポタと紅い液体を滴らせた――。


「お前、殺しちまったんだぞ……!?」


 その光景に、俺は掠れた声で絶叫するしかなかった。




「――ウサちゃんを!! 可愛かったのに!」




 ……そう、ノエルの左手は、動脈を切り裂いて血抜き真っ最中のウサギを、逆さ吊りにしていたのだった。

 今夜のご飯は、ノエル特製ウサギ汁。傍の倒木には、それに加えられるであろうししょーに教わった食べられる草たちが並べられている。

 よく覚えているな。俺なんて二~三種類しか覚えてないぞ。


「……ウサギ、食べないの?」


 ノエルの首を傾げる様が可愛かったり、そんなことは断じて無い。無いったら無い。

 むしろ左手のスプラッタな光景とのアンバランスが恐怖を醸し出すくらいだ。だが――。


「すんません。めっちゃ食べたいです」


 たんぱく質を求める欲求に、俺はあっさりと屈した。深々と腰を折る俺を、情けないと罵るならば好きにするがいい。


「でも、目の前で捌かれるのはちょっぴりトラウマなんで、あっち行ってるわ」


 身を翻し、小走りで駆けて行く。


「あ、そっちの川から、鍋に水汲んできてー」


「あ……うん」


 すぐさま引き返し、三つ並んで地べたに置かれたリュックサック、ノエルのそれの底からステンレスの小さな鍋を取り出して、俺は今度こそ場を後にした。


***


「おーい、クリスやーい」


「……ん?」


 地べたの砂利を踏みしめ、歩いて一分掛からない川のほとりに向かうと、そこでクリスが点在する岩の一つに腰を下ろしている後姿が見えた。

 瞑想でもしていたのだろうか。流れ出るオーラが、いつもより幾分穏やかに感じる。

 俺は、ひっくり返した鍋を棍に引っ掛けてクルクルさせながら傍に駆け寄った。


「修行中か? ご苦労なこって」


「修行といえば修行だな……。正確には、これにオーラを籠めていた」


 そう言って、クリスは手元に目を落とす。俺もそこに視線を向けた。


「こ、これはまさか……!?」


「分かるだろう?」


 驚愕に見開かれる目。そしてほくそ笑むクリス。

 クリスが膝においているそれは、銃だった。普段使っているのそれよりも一回り、いや二回りはありそうな、つや消しシルヴァーの巨大な銃身のリボルバー。

 銃口の下部には銃身と一体化したレーザーサイト。銃身横の洋ナシ形のつまみ。引き金の所からさらに指を伸ばせば届く位置にあるスイッチ。

 それらを見た直後にピンと来た。


「スレッジ・ハンマー・マークⅢ……!?」


「当たりだ。デザインして、特注した」


「何時の間に……」


「ハンター試験直前に届いた」


 スレッジ・ハンマー・マークⅢ、VSでV1こと次郎が主に使っていた、対アウトフロー犯罪用の武器だ。五十口径の大型な弾頭はそれだけに留まらず、銃身からプログラムを送り込む事によって形状を自在に変化する事が可能。つまり、弾を入れ替える必要が無い。

 改良前のマークⅡは、銃本体にプログラムユニットを繋ぐ事によって弾頭の形状を変更できたが、マークⅢは銃のスイッチによって、鉄鋼弾や散弾に素早く形状変更の選択が可能となったのである。

 マークⅢの改良点は他にも、銃身横のつまみを前方に押し出せば、弾倉の軸が連動して突き出て、弾倉が外れる。弾倉ごと交換するによって、いちいち銃弾を籠めなおすことが無くなり、連射速度が向上したのだ。

 後は、内蔵のモーターによって撃鉄を自動で上げる機能が作品内で言及されていた。

 VS本編では、S1こと蒼は訓練でこそ新型のマークⅢを使用していたが、実戦ではマークⅡの使用を継続し、マークⅢは使おうとしなかった。そこにはマークⅡへの愛着やら、何かしらの思い出でもあったのだろうが、不明瞭のまま打ち切られたのでその辺は分からん。


「――弾頭形状は変更できないぞ」


「駄目じゃん!」


 即座に突っ込んだ。コレじゃあ、ただの男の浪漫な大口径拳銃じゃないか。

 弾頭の形状変更は、スレッジ・ハンマー最大の特徴だというのに。震えそうになるほどの感動を返せ!


「おいおい、私がどうしてわざわざ特注したか、分からないのか?」


 たしなめるようなクリスの言葉に、少し考えてみる。

 そして数秒ほどして、答えにたどり着いた。


「念か!」


 クリスの系統は放出系。開発した能力は、自動装填される敵意(クイックローダー)という、拳銃に念弾を装填する能力だ。

 つまり、念弾によってマークⅢの機能を再現しようと、そういうことか。でも――。


「弾倉交換、意味無いよな……?」


 自動装填される敵意は、銃にオーラを籠めながら腰のホルスターに収める事によって念弾が装填される。弾倉交換は、むしろ隙が出来るんじゃないか?


「私の系統は操作系が近い。弾倉交換が素早くなるように、弾倉排出の速度向上操作を考えている。弾倉をホルスターに装着した際に、念弾を自動装填できるようになれば、排出と共に弾倉交換。銃口を下げることなく交換が可能となって、隙は減るはずだ」


 えーと、つまり、弾が切れたらすぐさま弾倉を排出して交換。撃っている間に、排出した弾倉へと念弾を装填。そして再び弾倉交換と、そういうことか?

 確かに銃口を敵から下げるって、隙ができる上に、相手に落ち着きを与えてしまう事がある。それよか幾分マシか……?


「なるほどなるほど。考えてんだな」


「コレぐらいは考えておかないとな。ネタに走ってまで利を捨てるマネはしないさ」


 言って肩をすくめるクリス。


「じゃあ、そのコートに意味はあるのか?」


 俺が言ってはなんだが、お前の存在自体が既にネタだぞ。


「……一応、これも特注の防弾コートだぞ。師匠に買ってもらったヤツなんだが」


「あ、そうなのか。……それとどうでもいいけどさ、この銃、一巻のデザインだよな?」


 スレッジ・ハンマー・マークⅢが挿絵で描かれたのは一巻、二巻それぞれ一枚で二回。出るたびにデザインが変わっている。しかも、そのうち一巻での挿絵は、編集のミスでマークⅡと間違えて描かれているという駄目っぷりだ。

 改造人間物で、ここまで武器等がまともに描かれない挿絵はどうなのだろうか。他にも校正ミスが修正はされないままだったり……というか印刷の冊数も少なかった辺り、麻生先生の立場の悪さが伺える。


「一巻と二巻でデザインが違うのは、間違えて登場させてしまったから違う銃という事にしようとする、苦肉の策だと思うのだが……」


 そうかなるほど。だが、三巻以降に銃器が殆ど挿絵に出ないのは、やはりどうかと思う。他にも、カラーと白黒で気合の入れようが段違いだったせいで、本編読了後少し騙された気分になった。

 後気になるのだが、文中で言及されなかった蒼の頭のアレは何なんだろうな。メモオフでいのりがつけてたみたいなアレ。


「単なる髪飾りじゃないのか? もしくは脳に変身方法をプログラミングする際に使った電極か何か」


「蒼へのプログラミングは、心理学的な処置でされているとか、言ってなかったか?」


 それだったら、脳に電極打ち込むようなマネはしないだろうし。


「……知らん。というか、お前は気にしすぎだ」


 まあ、好きだったもんで。




「リュークー! そろそろ鍋使うから持ってきてー」


 遠くからノエルが呼びかけてくる。俺はそれに応じ、川から鍋の中ほどまで水を入れてノエルの元まで小走りで向う。

 何気なく空を仰げば、赤らんだ光が遠くに見える。もう日が暮れるようだ。そう思ったら、胃が微かに鳴るのが分かった。




続く




あとがき

つばさ2のあとがきにあった『他社の原稿』とやらはいつですか?(挨拶)

最近VSネタにいまいち欠けるなと思い、出してみました。

アホ余計じゃとか思われましたら、すみません。

幻影旅団とか、ZAMZA的思考そのものだよなーと考えつつも、リューク君たちは立ち向かったりしないんでしょう。

ノエルのアレも、最近ヤンデレネタ希望の方がちらほらいるので、やってみました。

期待していた方は、さぞや肩透かしを食らったことでしょう。


http://mai-net.ath.cx/bbs/ss_t_bbs/imp/imp.php?bbs=default&all=2738


感想は上記から、感想掲示板にてどうぞ。

では、これにて。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ec958254
Date: 2007/12/02 21:34



 唐突だが、俺は特質系だ。能力名は移ろう信念(スピリットシフト)。

 系統を自在に切り替えることが出来るという、主人公最強物紙一重な能力だ。

 元々は水見式の際の勘違いと、同じく特質系であるノエルと、オーラ量の差が激しいというのに身体能力で拮抗できる事実から、強化系だとすっかり思い込んでいた。

 無意識下で強化系に切り替えていただけと気付いたのは、クリスの、今にして思えば適当その物な発言から。しかし、本当にそうなのかという疑問が生まれる事はなかった。

 確信があったのだ。自分の能力はそうなのだと。

 そして確信と同時に、どう進むべきなのかという指針が、頭の中に根付いた。後は、それに沿って進めばいいと理解できたのだ。

 それによって、俺は迷うことなく自分の能力を磨く事ができた。

 指針は、時計にも似た系統の六角図が描かれた円形のボードと、円の中心から円周に伸びる一本の針。そんなイメージが頭の中に生まれ、靄がかかってハッキリしないそれを鮮明化させる事によって、系統の切り替えがより容易になっていった。

 ノエルも、似たような物だったらしい。指針となるイメージは、大小様々なピースで構成された、継ぎ目のくっきりした雲に掛かるほどの巨塔。能力は、ノエルにしか見えないオーラの構成によって、能力の分析および簡単な模写。加えてオーラの継ぎ目――当然ノエルにしか見えない――を突いて、相手のオーラを奪い取る事も可能。

 世の特質系能力者は皆、似たような感覚によって自分の念を磨く事が出来たのではないのだろうかと思う。もしくは、才能による突発的な覚醒。

 そうでなければ、他人とはかけ離れすぎている自らの特性にさえ気付けない。それとも俺が知らないだけで、自分の能力に気付けない特質系能力者は、案外多かったりするのだろうか。

 ……まあ、そんな考察はさておいて。特質系は、水見式でもその異質さが如実に現れるわけだ。俺の場合は、コップの水量が減る。

 そしてノエルの場合は――。




「そろそろかな……」


 夕日に赤く色づいた、地べたに腰を下ろしているノエルの満足げな笑み。その両手は、小さな鍋の取っ手を握っていた。そして、その手を伝って緩やかに流れ込むノエルのオーラ。

 神々しくさえあるオーラに満ちた鍋からは、薄く湯気が立ち上る。香草を加えたらしいその香りは鼻腔を刺激し、胃腸は活発に動いてそれを消化させろと激しく唸っている。

 鍋の中では沸騰した薄く色づくスープに、緑や赤などの野草が浮かんで漂っている。メインのウサギ肉も一口サイズに分けられて、鍋のそこでゴロゴロしているのが見える。

 俺とクリスは、正座した状態でノエルの前に並び、溢れ出る唾を何度も飲み込みながら、それを覗き込んでいた。


「いいよ、二人とも。お皿出して」


 ノエルが口を開いた直後、膝の上で待機させていた白いプラスチック製の器を、俺達は同時にノエル目掛けて突き出していた。


「焦らない焦らない。お肉も、まだ追加あるからね」


 鍋を組み立て式の台座の上に置き、押し留めるように両の手のひらを前に向けながら、ノエルは苦笑する。

 そして、練の状態だったオーラを通常の垂れ流しへと切り替えて、お玉を取り出した。

 

 ――そう、ノエルの場合は、水の温度が上昇するのだ。

 オーラの量を調節することで温度の微調整が出来ると、嬉々として語っていたのを覚えている。

 ああなんと無駄に高度な攻防力の微調整。この愛情とオーラ、様々な技巧に満ちた鍋は、いつもと変わらず極上の美味に違いない。




「……なあノエル」


「何、クリス?」


「肉、もう少し増やしてほしいんだが。いくらなんでも、コレは少なすぎる……」


「……クリス、前にダイエット中だとか言ってなかったっけ?」


「そんな事言った覚えは……ああ、ありますあります」


「ノエル、俺の分の肉少なくしていいから……」


「うん、わかった」


「変わり身早いな!?」




微妙に憂鬱な日々


第二部 十話




 ――移ろう信念(スピリットシフト)、強化系!


 胸の内で叫ぶと同時に、脳内の、系統の六角図が描かれた円形のボード、その針がカチリと音を立てて強化の位置に止まった。

 リュークは戦闘の際、強化系へと系統を切り替える。変化系能力のVツール、放出系のゴッドファーザーボムも、その系統時ほどの威力は無いものの使用が可能であり、また肉体の強化は必須と感じているからだ。

 そう、今は戦闘中。肌を刺すような、這い回るような何かが、嫌でもそれを教えてくれる。

 端的に表現するなら、それは殺気という言葉がしっくりくるだろう。

 湿ったぬるい風に混じる臭気。遠方から耳朶を打つ獣の遠吠えと虫達の合唱。そして陽光が空の端に追いやられた夕闇の視界を埋め尽くす木々。それらにリュークは微かな違和感を覚える。

 いるのだ、敵が。そして、眼前に広がる木の群れの何処かに身を潜めて、自分を倒す為に体勢を、呼吸を、オーラを研ぎ澄ましていると、リュークは理解した。

 オーラによって高められた五感が感じ取るその微かな違和感が統合され、何とも言い難い怖気が、高揚が、緊張が呼び起こされる。

 鼓動が耳に纏わりつくかのように喧しく、呼吸によってその身に取り込まれる空気が肺の中でその存在を強く主張していた。


 ――分断されて、仲間はいない、一対一。敵は前方のどこか。敵に援軍は多分いない。


 状況を再確認すると同時に、リュークは纏うオーラの領域を広げていく。それを知覚できる物は、オーラの形状がリュークを中心に半球状に広がっていくのを見て取れるだろう。

 『円』。纏と練の応用技。見えずとも、障害物があろうと、広がっていくオーラに触れる物は明確に知覚する事が可能だ。

 リュークが伸ばせる円の半径は、好調時で十メートル前後。今は連日の疲労も無視できない程度に溜まっており、それの影響で半径七、八メートルほどだろうか。

 知覚範囲の中に、人はいない。オーラの中にいるのは、風に揺られざわめく無数の枝葉、そこに止まる虫や小動物。前後左右上下、何処にも殺気の主は感じ取れなかった。

 リュークの円の半径程度、熟練の能力者にとっては一足一刀にも満たない距離。しかも能力次第では、そんなもの無視できる。何処から襲い掛かられても対応できるよう身構えるも、敵の技量しだいでは、焼け石に水にもなりはしない。

 

 ――多分、俺とそう変わらないと思ったんだけど。


 頭の中で膨れ上がる不安をどうにかして追い払おうと、先ほど一瞥した敵の力量を推察する。無論その最中にも警戒は緩めない。

 リュークの考えが正しければ、力量はそう変わらない筈だ。その推論も、勘と経験則から導き出した、頼りない説得力に欠けるものではあるが。

 だが、リュークは身近で強者の醸し出す雰囲気という物を常に目にしている。今潜んでいる相手には、それが無い。断片すら、感じ取れない。

 もしも、相手がそれすら感じさせないほど次元の違う相手ならば、身を潜める事も無く、リュークは刹那の内にその生を絶たれている筈だ。


 ――そういや初めてだ。一人でこういう状況になるの。


 いつも、仲間がいた。いつも、手助けしてくれた。決して自分ひとりの力だけで渡ってきたわけではない。

 頭では理解していたつもりだった。だが、どこかで軽く考えていたのだろう、命のやり取りという物を。勘違いで調子に乗って、仕舞いにはコレぐらいで神経をすり減らす有様だ。

 ノエルやクリスが勝つことは疑っていないが、きっとすぐには来れないだろう。対峙していた相手は、それぞれリュークよりも幾らか上のレベルだろうとなんとなく感じ取れていたから。

 分断されたのは、やはり痛かったと思う。食後の片づけを始めようと、ばらけようとしたところを狙われたからなんて言い訳は、声高に叫ぼうが無意味極まりない。

 

 ……両手にしっかりと保持した棍が、やけに重く感じられた。リュークの手に汗が滲んで、内心の不快を煽るのが分かる。


 恐らくは数十秒にも満たない、重苦しい逡巡を纏った思考。体感的には数倍にも思えたそれは、リュークの背後で何かの爆ぜる音が打ち破った。


 円の範囲内に入り込み、リューク目掛けて飛来する何か。即座に答えは出ていた。拳大の、オーラを纏った石。覆うオーラが石を強化すると同時に、弾けて推進剤の役割も果たしている。

 それはおとりの可能性が濃厚と判断し、リュークは一瞥もくれず横に小さくステップして回避。体勢を整える間に、石はリュークの横を通り抜けて前方にある大木の幹にめり込んだ。

 次は、その木の陰から。先ほどよりも一回り大きな石を棍で逸らせば、枝葉を巻き込んで後方の遥かへ飛び去っていく。


 ――オーラによって物体を加速させる能力。放出系か操作系。恐らくは前者。威力重視で、細かな操作は出来ない、多分。


 得た情報から、頭の中で推論を組み立てていく。無論、リュークはそれを過信するつもりも無い。

 そして、次いで飛び来るのは直径一メートル弱ほどの巨石。速度も大きさも、そこに籠められたオーラも今までとは段違い。前方から、眼前を埋め尽くす勢いで迫り来る。

 広げていたオーラを集約させ、密度を高める。同時に棍へとオーラを纏わせ、構える。


「――破ッッ!!」


 直後、巨石の後方から響く怒声。そしてその石が、纏うオーラが、爆裂した。


「――ぐぅっ……!」


 爆音と大小様々な破片が、周囲に撒き散らされる。

 至近距離でのそれを、リュークは回避する事も叶わない。咄嗟に顔面への直撃コースのみ選んで棍でなぎ払い、他は練を限界まで高めて乗り切った。

 破片の一つ一つは微々たる威力だった。しかし、数が数だ。リュークの全身に、無視できない痛みが奔る。チクリとした痛みが大量に体表を這い回り、仰け反りそうになるのを、歯を食いしばって踏みとどまった。

 だが、その怯みは、隙というに事足りた。


 眼前五メートルほど先で前傾姿勢をとる、自分と同じ年のころであろう黒い短髪の少年。

 釣り上がる、その唇の端。全身から脚部へ集中していくオーラは、やはりリュークと同程度だ。

 そして、それは弾けた。


 爆ぜ、舞い散る地面の土砂。

 オーラを撒き散らしながらの跳躍は、勢い凄まじい。

 近づいてくる、勝利を確信した会心の笑みを顔に塗りたくって。

 大きく振り上げられたその拳が加速を纏い、リューク目掛けて振り下ろされる――!

 とっさに上方へ跳んで回避。直後に、拳は地を抉った。

 弾け飛ぶ土砂の一部が頬を掠めるが、目を逸らすわけには行かない。今は絶好の好機。

 そう、少年は拳を、足を地に着けて下を向いている。その無防備な頭目掛けて、棍を振り下ろす。


 だが、それは空打った。

 少年は素早く回避行動を取っていたのだ。


「かふっ」


 リュークの内懐に飛び込んで。そしてその腹部に頭頂部を叩きつけていた。

 地に着きかけたリュークの足は、再び浮き上がった。

 威力は耐えられるレベル、軽く咳き込む程度。オーラによる加速が、少年を覆うそれを薄くしていた為だろう。

 反撃は可能――。


 ――あ……!


 そこで、着地しようとしたリュークの体が再び浮き上がる。今度は跳ね上がるような勢いで。

 能力で、リュークの体が上方へ加速させられた。その答えに気付くのに、一瞬の間を要した。


 十メートルほどだろうか、大木とは言い難い周囲の木々を見下ろすカタチになった所で、加速は止まる。

 そして、一瞬の停滞。足場は無い。中空に投げ出された無防備な状態。身動きは取れない。

 リュークは、地べたで身構え、こちらに再度飛びかかろうと脚部のオーラを厚くしている少年の姿を見出した。

 

 弾けるオーラ。弾丸の様に一直線に跳ね上がる体躯。猛烈な勢いの突進――。


 だが、それは空打った。

 リュークは横に小さくステップし、回避していた。足場の無い中空で。


 ――歩行者天空(スカイウォーカー)。


 その能力に、リュークはそう名づけている。自らの肉体を操作し、宙を歩くように飛行する、操作系能力。

 系統の切り替えを忘れた為に、強化系では相性が悪く、一歩移動しただけで、疲労感が肉体にのしかかるのが解った。

 落下が始まる。体を強引に捻って上方を見やると、少年はリュークがいた位置を通り過ぎ、さらに三メートルほど上昇した位置で停止していた。

 無防備かつ、加速の為に肉体を覆うオーラが減少している。リュークはそれを見逃さなかった。


 ――ゴッドファーザーボム!!


 球状に形成されるオーラ。棍を股に挟み、それを両の手のひらで包み込むように持ち、射出する。

 それは少年に直撃し、爆ぜた。

 見届けた後に棍を持ち直し、リュークは多少危うげに着地。よろけるも、すぐさま体勢を整え構える。臨戦態勢を崩すつもりは無い。

 少年は体制を崩して、枝葉を巻き込みつつ、頭からリュークの目の前に落下。脳天を、地面から盛り上がる木の根へ強かに打ちつけた。

 受身も取らずに一回バウンド。転がり、うつ伏せの状態で止まった。

 リュークは罠の可能性を考慮して、Vツールで四肢を縛り付けた後に歩み寄る。

 首筋に指を押し当て、脈拍の確認。生きている。外傷も、それほど深くは無い。軽く肩を揺さぶっても、反応は無い。目蓋を手で開き、眼球運動も確認する。

 結論、ただ気絶しているだけのようだ。


「……はぁー」


 勝利の確信からか、リュークは大きく安堵の溜め息を吐いた。




続く







[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十一話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/02/11 23:59



「だからな、Rタイプは宇宙での活動を想定しているんじゃないかと思うわけよ、俺は」


「それは突飛だと思うぞ……」


「そうか? 最大でサイクロトロンに匹敵するとか言う膨大なエネルギーは、地上の新人類には過ぎた力だ。きっと宇宙開拓の先駆けになるはずだったんだよ」


「……なら、Gタイプは?」


「それは、単純に人としてのポテンシャルを高める事で、苛酷な環境にも耐えられるように、だと思う」


「獣のように暴れた事に関しては?」


「多分に想像が入ってるんだけど、もしかしたら、蒼は『指導者』だったのかもしれない」


「獣達を統率する役割を持っていた?」


「そう。言い方がアレだけど、愚かな人間が多い世の中を変えようと思ったら、そいつらを失くすのが手っ取り早い。けど、ただ殺すんじゃなくて、従えて、優れた人間の為に有効活用すべき――。そんな感じなんじゃないかと、Gタイプのアレは」


「まあ、全部とは行かないが納得できる部分もあるな」


「ま、どんなに考えても所詮は作者のみぞ知る、なんだがな」


 ルシアとの決闘前夜。ゴッドファーザーボム習得に成功した俺は、そのまま夜の森でクリスとの会話に興じていた。

 会話の内容についていけないとか言う人は、今すぐVSを全巻読め。登場する改造人間達の考察だ。


「ところでリューク」


「何さ?」


「お前は今の所、放出、変化、操作と複数の能力を習得しているが、具現化はあるのか?」


「いい質問だ」


 実はあります、具現化能力。ある朝、目覚めた時自然と発現していた能力が。


「見るがいい!」


 手のひらを上に拳を強く握り、そして開く。


「それは……」


 半眼で呆れた風になるクリス。

 その視線の先には、俺の手に乗った大福。

 そう、コレが俺の具現化能力です。


「ちなみに中身はずんだです」


「これまた微妙な……」


 微妙? その気になれば、生どら焼きに萩の月もいけるぜ!


「だから、それが微妙だと……」


「すばらしい能力だと思うんだがなぁ」


 言って、大福をかじる。口内に広がる甘み。中から緑の餡が顔を出した。


「全く、お前は朝倉純一か?」


「クックック……」


 嘆息するクリスに、俺は喉の奥から笑い声を漏らす。


「ああそうですか違うんですか。気になるから教えて下さい」


 クリスの口調は投げやりだった。


「俺の和菓子具現化は、本当の能力の副産物に過ぎない」


「和菓子の固有結界とか言うなよ」


 ………。


「――何故分かった!?」


「当たりかよ!」


 クリスの夜気を切り裂くツッコミ。その咆哮は高らかに響き渡った。




微妙に憂鬱な日々


第二部 十一話 

 


 バイザーに映される視界が暗黒に染まり、直後にそれはヘルメット共々消え去った。


 ――気が付くと、青年は駆け出していた。


 纏わり着く草木の葉を掻き分ける事もせずに、ただ駆ける。

 既に陽光は消え去った。周囲を照らすのは、小さな無数の星々の瞬きと、淡い月光。どれも夜闇を打ち払うには心許ない。

 慣れない濃厚な黒の視界、おぼつかない足取りでひた走るその様は、恐怖を抱えて絶望から逃げ延びようとする敗残兵のそれだ。

 息を切らし、その為か散漫になった注意力によって木々に体を何度も打ちつけ、木の根に根に足を引っ掛け、または群生する苔に足を滑らせ転倒し、全身に苦痛を抱えながらもフラフラと駆ける。その進みは幼子にも追い抜かれそうな、滑稽なほどに遅々としたものだった。

 けれど止まることは無い。その身に重くのしかかるのは恐怖。痛苦と疲弊纏わり着く体を強く後押しするのも恐怖。


 少し開けた場所へ出た。木々の無い、草花の目立つ空間。

 枝葉に妨げられる事も無く地に差す月光が、やけに明るく感じられた。

 此処まで来れば大丈夫だろう。足を止め、膝を着き、伏した。荒くなった息に揺れる体は、遠目には痙攣でもしているかのようにも見て取れる。

 そして少し置き、呼吸が整い始めた頃にふと思い至った。ここは、夕暮れ時に三人でいた場所だ。

 同じ場所。でも、違う時間、三人ではなく一人。そして、今の自分は惨めな敗者。無様に逃げ延びてここにいる。


 ……ゾクリと、背筋が大きく震え、静まりかけた心拍数が跳ね上がった。思わず自分の身を抱える。火照る体が冷めたせいではない。呼び起こされる恐怖によってだ。


 鮮明に脳髄へ焼き付けられた。もう一人の自分がいとも容易く砕かれていくのを。それを俯瞰していただけだというのに、どうしようもなく恐ろしい。

 だというのに、それに見惚れてしまう自分もいるという事実。悔しさに歯噛みする。地べたに手を着いて、強く掴む。


「……具現化したもう一人の自分を操る能力。操作は恐らく格闘ゲームの要領。上を飛び回っていた鳥、アレの視点で戦いを俯瞰できる。――そんなところですか?」


 淡々とした声が、唐突に降ってきた。気付けば青年の身に影が落とされている。前に、誰か、立っている。

 唇が戦慄く。見上げる事ができない。その声に、聞き覚えがあった。間違うはずも無い。今まで聞いた中でも一番透き通った声。それはさらに続けて言う。


「下手な構成で、所々に歪みがあったのに壊しにくかった。それに、五十メートル以上離れての操作。補強材に相当重い制約でも掛けたんでしょうね」


 何故? どうして、自分の能力がそこまで見透かされている? どうして、自分をこうも容易く見つけ出せる!?

 膨れ上がる疑問が恐怖を助長する。地べたに着く手が力無く震えていた。そして激しく脈打つ心臓。思考が定まらない。


「そう、例えば……負けると強制的に絶になるとか?」


 ……思わず目を大きく見開き、顔を上げていた。視線の先、からかうような微笑を湛えるその人物。

 この場にそぐわない、穏やかな笑みだった。だからこそ、恐ろしいと青年は思った。


「それで、いつまで絶でいるつもりですか? この状況では無意味なのに」


 その笑い混じりの言葉には、ふんだんに嘲りの含みを感じ取れた。

 分かっているのだ。今、青年がそのオーラを絶っているのは隠れ潜む為ではないということを。その言葉が核心をついているということを。

 何もかもお見通し。穏やかさの奥、その瞳に嗜虐的な恍惚の光を湛えていた。


「――っといけない。早く済ませないと」


 自らを咎めるように軽く頭を振るとしゃがみ込み、青年の歪んだ相貌へと手を伸ばす。

 眼前に突きつけられる、綺麗な手のひら。それをボンヤリと見つめていた。

 人は助からない事を確信すると、逆に平静な状態になるらしい。青年はどこかでそう聞いたのを思い出した。

 きっと、これがそうなのだ。これから訪れるであろう確定した未来。それをすんなりと受け入れようとしている自分。足掻く事が馬鹿馬鹿しく思える。


「大丈夫。殺したりなんてしませんよ」


 こちらの考えを見透かしているのか、優しく言い聞かせるような声。

 視界いっぱいの手のひら。広げられる長い指の隙間からも、先ほどよりも優しげで穏やかな微笑が見て取れた。

 心の隅、わずかばかりの安堵が生まれる。 




「――ただ、二度と僕らに関わろうなんて思わないようにするだけですから」


 途端、冷え冷えとした、鋭利で硬質の刺し貫くような声音へと変貌を遂げた。

 その笑みは崩れない。けれど、空気が凍りつくのを感じた。

 目の前に見えるオーラ、穏やかな筈のそれから濃厚な闇色を感じ取れる。思わず息を呑んだ。

 先ほどのそれとの、凄まじいほどの落差が収まりかけた震えを呼び起こし、青年をより強く揺さぶる。


 それは、意図した振る舞いなのだろうか?

 穏やかな振る舞いで、絶望を塗りたくられた心に生まれる間隙。

 そして、そこを突く。

 僅かなやり取りで強く恐怖を植えつけ、開花させる。

 話術、演技などというレベルではない。それらとは一線を画した、脳髄に恐怖を叩き込む禍々しいそのオーラ。

 湧き上がる恐怖、悲哀、生への渇望。それらが絡みあい何とも取れない混沌を作り出す思考。


 ――魔女。

 ふと、浮かんだ言葉。目の前の存在を表すのに、これ以上相応しい物が見つからなかった。

 どうしてだろうか。目の前に移っているのは中性的な、それでも少年よりの雰囲気を放っているのに――。


 そして、その手が触れた。






「……正解」


 魔女。小さな悲鳴と共に漏れた、呻くような言葉。

 目の前の人物に、意識は既に無い。届くはずも無いのに、ノエルは思わず呟きを返していた。

 その称号に執着する気は微塵も無い。しかし、自分がそう在ることを強く望まれているのは、紛れもない事実なのだから。

 しゃがみ込んだ姿勢のまま、青年の着ていたジャケットの内ポケットを漁る。プレートが一枚あった。番号を確認。287番。クリスのターゲットだった。


「そうだ。『これ』やり直しておかないと」


 ズボンのポケットから手のひらに収まる程度の小瓶を取り出す。中には赤い染料が注がれていた。

 シャツの袖をまくり、右腕をあらわにする。ビンを地べたに置き、キャップを取り外して裏側から伸びるストロー、その先端の刷毛で神字を書き込む。

 神字。それは、念使いが物体に念を込める際に補助として用いる特殊な文字。念を込める為だけにそれを使う。その事実が一種の制約と誓約の役割を果たし、念の精度を上昇させる。

 ノエルのそれは、よく知る人物の使う、神字の使用に特化した能力を模倣した物だ。


『大特価、戦力50%OFF』


 それがオーラと共に書き込んだ文字の意味。ふざけたニュアンスを感じ取れるのは、それが誓約だからいたしかたないことだ。

 つい先ほどまでも、この文字の力によってノエルは実力を隠蔽し、戦闘狂を刺激するのを避けていた。今回はそれが裏目に出て襲撃されたようだが。


「便利ではあるんだけど――ねっ」


 袖を戻して、手を膝に着いて言いながら立ち上がり、倒れ伏した人物にはもう目もくれずに歩き出す。

 文字が服に隠れた腕を一瞥して顔を微かにしかめる。

 そう、この能力は便利だと思う。だがしかし、この能力によってノエルは枷がはめられている。

 人によってはなんとも思わないかもしれない。だが、ノエルにはとてもとても致命的な枷。


「あの婆……!」


 思わず口を突いて出る毒づく言葉。その柳眉も釣り上がっている。

 だが、それも一瞬のこと。すぐさま嘆息に取って代わられた。


「……まだまだだね、僕も」


 言葉と共に零れる自嘲の笑み。

 ――激情はこの上無い成長の糧。しかし、それを無闇に表に晒すのはこの上無い愚行。

 頭を過ぎる、この世で最も嫌悪する人物の言。反発心が無いとは言わない。しかし、その内容には同意できる。

 それに、どれだけ嫌悪する言葉であっても、能力であっても、全て飲み干して強くならなければならないのだから――。


「さて、リュークを探さないと」


 表情を柔らかな笑みへと変えて、ノエルは風にざわめく木々の中へ歩を進めていった。




続く




あとがき

圭亮に三人称の文体は十年早いようです(挨拶)

具現化能力は一発ネタで終わらせました。これ以上戦闘用の能力を生み出しても、きっとリュークは扱いきれないですし。

ちょいと伏線みたいな物も張ってみましたが、それを上手く書ききる自信も余りありません。

文章って、書けば書くほど行き詰りますね。私がアレなのかもしれませんが。

いつかすんなり文章が書ける日が来るのでしょうか……。

ではコレにて。最近肩こりが酷く、整形外科の先生にも「首、肩こりしやすい骨格してるね」などと言われた圭亮でした。






[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十二話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/02/12 00:00



 その空間は、中心の柔らかな、薄く赤を帯びた光だけが照らす。外部の光は一切届かず、その光がただ映えていた。

 十メートル四方ほどの、広い空間。壁、床、天井に隙間無くびっしりと刻まれた神字。黒に、空白の白が点々と浮いていた。

 調度品らしき物は、部屋の中心に白い丸テーブル。それを挟む二つのスツールを、同じ人数があぶれることなく埋めていた。そしてテーブルの上、木製と思しき台座に設置された、光源となっている人の頭ほどありそうな球体。


「なるほどのぉ、コレは恐ろしい……」


 囁くような、幼さが感じ取れる高い声は不相応な落ち着きを含んでいた。

 それは座す一人の少女の声だった。小柄な、十歳を過ぎたくらいだろうその体躯は、フリルをふんだんにあしらった白いドレスに包まれている。腰に届くほどに長いハニーブロンドは、頭の後ろで二本にまとめられている。

 少女は己が身を抱え、小さく身震いした。しかし、その小さな唇の端は持ち上がり、大きな青い瞳は愉悦に細められた。

 その視線は光を放つ球体、その表面に映し出される丸みを帯びた映像に向けられていた。


 映し出されているのは、湧き立つ怒涛のようなオーラを身に纏った、ノエル。

 少し高い位置から俯瞰するその映像の中で、ノエルは念で生み出されたと思しき人型へと流麗な疾駆で間合いを詰める。障害となる木々の根の不安定な足場をものともせず、相手の牽制の拳打も潜り抜け、その懐に降り立った。

 ――そして、拳が奔る。空手の正拳にも似た、右の引き手に連動して繰り出される左の拳打。纏う銀色の手甲が月明かりに煌めき、閃光の軌跡を生み出す。淀み無い『流』によってオーラの凝縮された拳は生ぬるい夜気を穿ち通り、そして人型の脇腹へと翔ける。

 それは打ち抜いた。抉りこむような一撃。いや、文字通りに拳に打ち抜かれたその箇所は抉り取られ、脇腹だったオーラは拳に喰われたのだ。

 オーラで形作られた体躯は血を吐き出すことも無い。抉り取られた空白を起点に、その黒い衣服には不自然なひび割れが見て取れた。そこからはもう早い。形成のバランスが崩れたオーラの固まりはその強度を加速度的に失っていく。

 銀の拳が逆の脇腹を抉った。そこからもひび割れが広がっていく。腹部の中心だけで支えられている上半身がぐらぐらと揺れた。さらに広がっていく左右の亀裂は繋がり、そして上半身と下半身は分かたれた。

 下半身の後ろに仰向けで落ちた上半身は、その衝撃だけで表面のひび割れを全体に広げていく。

 人型は色を失った。人のカタチを作る単なるオーラへ変わり、そのカタチも数秒と維持できずに霧散していく。

 ノエルは、そこに軽く拳を振り下ろした。まずは下半身、次は上半身。風に溶けて消えゆくはずのオーラは、ノエルの拳へと集約していった。

 ノエルのオーラに溶け込んだその量は、全身を覆うそれと比べると微々たるものだった。先ほどまで崩れる事がなかった冷淡なその相貌に、嘲る笑みが微かに浮かぶ。




「……これがあんたの言う最高傑作とやらか、ソフィアさん」


 拡大され映し出される笑み、背筋を震わせそれから目を逸らすように、少女は対面の老婆へ向き直った。


「ええ、素晴らしいでしょう、カレンちゃん」


 ピンと背筋の張った老婆は、誇らしげに小さく笑んで言った。

 その老婆は美しかった。その纏うオーラによって老化が僅かに押さえられたのだろうが、それでも六十に届くくらいに皺のある穏やかな笑み。結って頭の上で纏め上げている金髪は艶に欠けていた。しかし、若かりし頃にそれは美しかったのだろうとその残滓を感じさせる。

 そして、見るものが見れば分かるだろう。その青の瞳が、狂気の濁りを孕んでいることに。


「あんたの前では、ワシは田中権太郎。権太郎と呼んで欲しい――。そう言わんかったか?」


「あら、嫌よそんなの。可愛くないんですもの。カレンちゃんはカレンちゃんよ」


 切り捨てるその言葉に、カレンであり権太郎である少女は肩をすくめた。


「それで、アレがワシの従姉にあたるわけか」


 カレンは再び視線を球体に戻す。映像の中、ノエルはどこかを目指して駆け出す後姿が見て取れた。


「そして、私の後継者」


 カレンの言葉に頷いた老婆――ソフィアは、喉の奥から笑い声を漏らしながら告げた。


「『魔女』の、か?」


「そう、魔女の」


「本人は、嫌がっているのではないのか?」


「問題は無いわ。……枷を与えたから」


 カレンの問いに応えるソフィアの笑みに、先ほどの穏やかさはもう無い。

 大きく見開かれる目。唇の端は大きく釣り上がっている。そして、唇の間から笑い声を漏らす、特に欠けた様子も無い清潔な歯がよく見えた。

 壮絶な笑みを湛えながら球体に食い入るような目で見入る様は、魔女という形容に相応しい醜悪さだった。カレンはそれを見て、顔をしかめながら横に逸らす。


 ――やはり、お前さんが一番怖いよ……。


 カレンの軽く嫌悪の混ざった呟きは、ソフィアに届いていただろう。しかし彼女にとって、そんな事はどうでもよかった。 




微妙に憂鬱な日々


第二部 十二話




 夜闇の中、その大きな銃口の割りには小さく不釣合いな破裂音は、ほぼ同時に響く爆音にかき消された。次いで、いくつもの枝葉の折れる音を伴った大きな落下音。


 私の手の中にある大口径拳銃、スレッジ・ハンマー・マークⅢ。以前使っていた銃とは比べ物にならない重量、そして反動の痺れは微かに手に残る。

 吐き出した衝撃に、硝煙の香りは伴わない。そこから打ち出されたのは念弾だ。そして、生み出された眼前の破壊は、拳銃によるそれを凌駕していた。

 五メートルほど先の、直径が私の肩幅ほどにありそうな幹は、下半分しかない。上部は離れ、奥へと倒れた。そこには折れたのとは違う、不自然な抉れがあった。


 ――やはり、以前とは比べ物にならないな。


 その威力、そして扱いにくさも。念弾によって撃ち抜かれ、上下に分かたれた木を見て思う。新しい念弾は、少々極端すぎるようだ。

 弾頭形状の変更で、私はHP――ホローポイントを選択した。その際のイメージは、先端に凹みのある銃弾。内包するエネルギーを衝撃へと変換し大穴を穿つようにと。

 そして、放った念弾は着弾時に、そのエネルギーを全て破壊へと変換した。事前の試射である程度の感覚は掴んだつもりだが細かな制御が効かず、やはり行き過ぎる。改善の余地があるな。 

 倒木の横で息を呑む青年を注視すれば、驚愕によって硬直し、目を見開いている。一拍置いてからようやく強張った体でこちらを警戒し構えるその様子は、情けなく思うほどに隙だらけだった。

 『凝』で注意深く見つめるも、その筋肉、体勢、オーラの全てにおいて私を脅かすほどの要素が見当たらない。実力を隠せるほどの達人だとしても、凝で見れば格上か否か位の判別をつける自信はある。

 数瞬熟考したのちに結論。断定は出来ないが、こいつは私よりも弱い。

 慢心するつもりも無い。が――。


「実験に使えるか……」


 スレッジ・ハンマー・マークⅢが、実戦でどれだけ使えるか。そう思い銃口を向ければ、青年は慌てて身を翻し、木々の群れへ身を投じていった。それを打ち抜くことも可能だったが……。


 ――HPのままでは殺しかねない。


 スイッチ切り替えたほうがいいだろう。SP――散弾辺りが妥当だろうか。銃身のスイッチをSPに切り替える。

 そこで思い至った。もしも相手が逆境を条件に発動する能力の持ち主だったらどうするべきだろうか。某スーパーピンチクラッシャーのように。


 ――いや、そういう能力の持ち主だったら、自分から格上に攻め込むようなリスクの高い真似はしないだろう、多分。


 基本的に受けへ回るはずだ。私などお呼びのつかない達人であっても、隠しているならば、出来る限り自分の情報を晒さぬよう顔を見せずに瞬殺する方が良い筈。それとも相手に優越感を与えた後にいたぶるか、なのか。だが、どう見てもそのような雰囲気は無い。

 つまりは、遠目から私を見ても力量差が分からない程度の使い手、のはずだ。語尾に自分の推察への不安さがにじみ出ているが、大丈夫だろう。


「……実験するにしても、手早く片付けた方が良いか」


 私の精神衛生のためにも。それとプレートも手に入れたい。逃げ延びられて対策を練られても厄介。行動不能にすべき。

 コートの内ポケットからレンズが薄く着色された眼鏡を取り出し装着。直後、かすかに色づいた視界は装着以前よりも格段に明瞭化された。

 凝をさらに発展させた視力強化。眼鏡はそのスイッチだ。

 人一人隠すくらいに太い幹、地べた覆う茂みが大半を占める視界、その片隅に遠ざかっていく人影を捉えた。


 ――見つけた。


 そして間合いを詰めるべく駆け出す。銃はしっかりと両手で保持し、即座に対応できるように。

 装弾数は以前よりも一発少ない五発。弾倉に残るのは四発。誤って隙を作るようなマネはしないよう、そこを留意しておかなくてはいけない。

 視界の違いも影響しているのだろうが、足の速さも私の方が上。ジリジリと距離が詰まっていく。二人の間が十メートル強ほどになったあたりだろう。そこで青年は足を止め、振り向き様に手のひらをそろえて此方に掲げた。

 念弾――。そう思い至るよりも速く、反射的に傍の木の影に跳んでいた。急制動によって太ももに負荷が掛かる。

 直後、私の駆けていたコースの延直線上の地が爆ぜ、土煙が舞い上がった。それに隠れるようにして私は顔を出し、銃身を青年のいた方へ向ける。風に流され霧散していく煙の中、強化された視覚は続いて念弾を撃とうとする姿を鮮明に捉えた。

 そして、狙い撃つ。

 青年を中心に広範囲で木々や地べたに着弾の穴が穿たれた。放たれた念弾は九つほどに分かたれ放射状に散らばったと、オーラを感覚で捉えて知った。

 これも広範囲に広がりすぎる。本来の目標にあたった数は二つほど。腹部と胸部を念弾に強打され、うめき声と共にたたらを踏んでいた。

 これは威力の減衰が激しいのだろうか。加えてオーラ量のわりにダメージが少ないことから鑑みるに、相手は強化系もしくはダメージを抑える能力の持ち主と推測。行動不能には至らない。

 続けて撃つ。両手で保持しないと照準がぶれる為にファニング――片手でトリガーを引きながら、もう片方の手で撃鉄を起こす早撃ちの技術――は出来ないが、内蔵モーターの自動コッキングは正常に働いている。

 そして残弾三発を吐き出した。散弾は、その幾つかが青年の体に撃ち付けられる。青年は顔を腕で覆いながら恐らくは全開の『練』で防御。だが、防ぎ切れなかっただろう衝撃で蓄積したダメージによって身をふらつかせていた。


 ――意外に打たれ強いな……。


 それほどオーラが篭っていたわけでもないが、こいつには充分脅威だろうに。

 そう思いながら弾倉排出。銃握傍のスイッチによって弾倉の軸が前方にスライドし、直後排出される弾倉を手に取った。


「くっ――あああぁぁぁ!!」


 それを好機と取ったのか、青年は雄たけびと共にこちらへ駆け出す。先ほどと遜色ない中々のオーラを身にまとっての突進。

 火事場の馬鹿力か、走る速さは先ほどより上。瞬時に間合いは詰められる。そして高々とその拳は振り上げられて――。




「なっ……!」


 そのがら空きの鳩尾に、私のつま先はめり込んだ。


「隙だらけと思ったか?」


 ――その気の緩みが、隙だ。


 後半は言葉に出さず、胸の内で嗤う。

 足を引き、もう一方の足で突き放すように蹴り、その反動で後方へ跳躍。青年はよろめき尻餅をついた。

 空の弾倉を腰のホルスターに引っ掛け、既に念弾を装填済みのもう一方をそこから取り、銃本体へ装着。

 銃のスイッチをAP――徹甲弾に切り替える。イメージするのは、貫通に特化した先端の尖った銃弾。

 そこから射出されるのは、針のように細く研ぎ澄まされたオーラ。立ち上がろうとするその足にダメ押しの一撃。ふくらはぎの辺りを貫き、微かに舞う鮮血。そのまま針は地べたに深く突き刺さり埋もれていった。

 そして青年の四肢からは力が抜け、だらしなく地に投げ出される。そのままピクリとも動く様子もなかった。

 私は警戒を解かず、数秒凝視。呼吸で胸元が微かに上下するのみで、奇襲をかけようとする不自然な筋肉の強張りは無かった。


「ふぅ……」


 安堵の溜め息を漏らし、額の汗を手の甲でぬぐう。


「さて、二人のほうはどうなったかな」


 リュークは大丈夫だろうか。リュークの相手が一番弱そうだったから、多分平気だろうが。

 それと、リュークを襲おうとしてノエルの標的となった一番強そうなあの人は、果たして生きているのだろうか……? いや、アレは多分念の人形のようだったが、中の人、というか本体は。

 ノエルならば簡単に見つけ出して始末しそうだからなぁ。


「リュークが絡むと怖いからな、色々……」


 さすが恋する乙女というべきか。

 そう、ノエルの性別は女。

 私は以前お風呂でバッタリしてその体を見てしまったのだ。

 そして、その体にかけられたという念も。

 膨らみかけの胸元からなだらかな腹部までかけて、縦に大きく神字で一言書いてあった。

 その文字を見て、素っ頓狂な声を上げて硬直してしまったのを覚えている。


「……プレート、回収するか」


 思考を中断し、青年の傍に近づきしゃがみ込む。

 青年の衣服を探り、プレートを四枚も見つけ出す。しかも運の良い事に、その一枚はノエルのターゲットだった。

 自分のプレートと同様にコートの内へしまいこみ、先ほど三人でいた場所目指して歩き出した。






 ……ちなみに、太筆を使ったと思しき、ノエルに書き込まれた文字はこうだった。


 『漢らしく』




続く





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十三話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/02/12 00:01



『面白いことを思いついたから、明日あの部屋までおいで』


 買って間もない携帯電話にそんなメールが届いたのは、リュークと今の師匠の下へ修行に出る数日前。携帯電話を購入したのは、僕が物心つく前に病弱だったらしい為か、若干過保護な両親にこまめな連絡を義務付けられていたから。

 見慣れないアドレスで困惑したのだが、忘れたくとも向こうが忘れさせてくれないであろう、僕をいつも憂鬱にいざなう人物の名が末尾に記載させていた。それを見たと同時に嫌悪感と共に盛大な溜め息をついたのを覚えている。

 そして翌日、僕は『あの部屋』のある屋敷に向かった。壁の蔦の這い回る郊外の屋敷に至る道のり、屋敷内の廊下は実際の距離よりもやけに長く、部屋の分厚い鉄の扉は実際の重量よりもやけに重く感じられるのはいつもの事だった。そうであったのだが、その日は普段よりも一層それが酷く感じられた。恐らくは、過去の経験から練磨された僕自慢の危機察知能力が警鐘を鳴らしていたのだろうと思われる。

 実を言えば、その時も薄々そうなのではないかと感づいていたのだが、既に諦めの境地に至っていた。ここで逃げ出したとしても、後にお仕置きと称して理不尽かつ困難極まりない課題を押し付けるに違いない。

 具体的に言うならば、天空闘技場で200階まで登ってかつそこで最低二勝して来いやら、ゾルディック家の試しの門を開けて来いなど。付け加えると、こちらの事情に通じていない両親に悟られぬよう、先祖代々受け継がれる怨『念』の篭った道具――例を挙げるならば、オーラを注ぎ込む事によってその人物の身代わりを果たす人形と、これまたオーラを注ぎ込む事によって亜音速での飛行を可能にする箒だろうか――を使用し隠蔽に細心の注意を払わなくてはならない。そのような事態になるのならばせめて、覚悟が萎えてしまわない内にと思ってしまうのも致し方ないことだと思う。


「いらっしゃい、ノエル。よく来たね」


 壁床天井、余すことなく神字がびっしり刻まれた部屋に踏み入る。中央の丸テーブルに置かれたスタンドライトが、窓も無い室内を蛍光灯の白い輝きでそれなりに明るく照らしていた。

 そして座して待ち受けるは件の人物――僕の祖母。僕から見れば酷く白々しい、好々爺然とした笑みで迎え入れた。


「今日も随分と元気そうだねぇ。赤ん坊の頃にしょっちゅう死に掛けていたとは思えないよ」


「まあ、元気ですね。これで、いくら才能がありそうだからって生後間もない赤子の精孔開いて半死半生の目にあわせる非常識極まりない魔女さえいなければ、もっと元気になりますよ」


 しみじみとした祖母の言葉に、皮肉を以って返す。が、当の本人は涼しい顔だった。

 にじみ出る嫌悪を隠すことなく、顔をしかめつつ向かい合う席に着いた。その際、微笑ましげに感情を隠すことを覚えるよう諭されたことに苛立ち、余計に顔をしかめてしまった。

 ちなみに先の台詞は事実である。出産に立会い僕を産湯に浸けた祖母は僕に自身を遥かに上回る才能を見出し、精孔を開いたらしい。そして先ほどの言葉の通りに、僕は死に掛けた。

 オーラとは生命エネルギーであり、当然ながら生命維持に少なからぬ影響を持つ。生後間もないその体は弱く、その生命エネルギーの枯渇は冗談抜きで命に関わるのだ。なので、先祖代々念能力者という家系でも、いや、そうであれば尚更大事な跡継ぎに余計な危険を与えることは無く、ある程度体が出来上がってから念の修行に入る。だというのに、先祖代々念使いらしい我が祖母はその場のノリで大事な後継者候補――いや、僕にそんなつもりは毛頭無いのだが――を殺しかけたのだ。非常識極まりない。

 『いやねぇ、お前の母さんはこれっぽっちも才能無くて、教える気にもならなかったから。……その反動ってヤツかな?』とは祖母の言である。ちなみにその際、祖母は心底楽しそうな顔をしており、僕は怒りや呆れなんて通り越して、並んで爆笑してしまった。僕が幼少時に病弱だったのがそのせいなのは、無論言うまでもない。

 念なぞこれっぽっちも知らない両親は、病弱に生まれついた我が子に気が気じゃなかったらしい。五歳の冬、半笑いでそう告げる祖母に始めて覚えた殺意は、次の日には母親の作る雪ウサギのおかげで霧散したのを覚えている。我ながら安い精神構造をしていたと思う。

 まあ、その時からだろう。祖母の在り様に嫌悪を感じるようになったのは。『魔女』。それが祖母の望む在り様にして、十数代ほど受け継がれてきた、外道を地で行くものに与えられる称号である。

 自分を満たす為に、必要とあらば権謀術策を以って他者を傷つけ落としいれ、その過程にすら薄暗い歓喜を得る。それが僕の知る祖母だ。祖母を見習ってそれを受け継げ。それに返す言葉は当然Noだ。

 僕は、自分が場合によっては平然と他者を蹴落とせる冷酷な人種だと理解している。理解しているからこそ、これ以上非道な人間にはなりたくない。そんな人間になってしまえばリュークに嫌われる。価値観が狭量な恋する乙女に、悪辣な魔女なんぞ理解してやる余裕は微塵も無いのだ。

 そんなわけで、僕は祖母への反逆に備えて力を蓄えていた。無論見透かされていただろうが、祖母の言動からはそれを楽しんで煽る節がある。それに警戒しつつも、現役ハンターの下での指導にもきっと少なからぬ収穫があるだろうと若干期待し、しかし心の大部分はリュークと一つ屋根の下での生活に思いを馳せていた。


「――で、最近どうだい? 低脳な餓鬼共と遊び呆けているそうだけど、さぞかし退屈だろうに」


 気の毒がるような視線と言葉。事実そう思っているのだろう。

 低脳な餓鬼、つまりは僕が同年代の子供と一緒に――主にリュークと――行動している事を指している。


「そうでもありませんよ。どんな環境でも、馴染めばそれなりに楽しい物です」


 確かに精神年齢に若干の開きがあるのは否めない。けれど、その場その場である程度適応する自信はあるし、周りを見下して鼻にかけるほど捻じ曲がった精神ではないつもりだ。 

 まあ、不満が無いというわけでもない。最たるものを上げるとすれば、リュークに男と思われていることだろうか。

 この年頃の男子と女子が基本的に対立構造だった為、男子らしく振舞わないとリュークのいる男子グループに加われなかったのだ。加えて家はそう離れていないのだが、学区が違うので義務教育の初等学校は別々。それが半ば狙っていたことではあり、自業自得なのだが、誤解を助長させてもいた。

 もっと早く言うべきだったと思う。しかし、今更言いづらい。信じられずにドン引きされたら困るし、拒絶されるのはもっと嫌だ。男子だと誤解しつつも告白してくる奇特な友人も一部いるのだが、リュークはそれには当てはまらない。というか、いい加減気付かないリュークの鈍感さが憎い。それに、知っているのに面白がって、リュークに伝えようとしないミリアさんもミリアさんだ。

 ちなみに、これからしばらくは通信講座で義務教育内容を消化する事になるだろう。僕もリュークも、成績に関しては問題は無い。


「基本的な能力にも違いがありすぎるだろうに……」


「身体能力に制限をつければ、どうという事もありませんよ」


 どのタイミングでどの部位にどれだけ力を込めれば、より効率的に体を動かす事ができるか――。動作の効率化を訓練する際に習得した、身体能力のセルフコントロール。それによって自分で制限を設ければ良い。今の所は変にぼろを出す事も無く、周囲に馴染んでいるはずだ。


「やっぱり、恋は盲目という奴なのかい? 愛しい人の下ならば何処でも楽園だと」


「……否定はしませんよ」


 それもあるといえばある。弱みは出来る限り見せたくは無かったが、下手に取り繕っても徒労に終わるのは目に見えている。事実、これより過去にもリュークを巻き込まないためにも接触を避けようとした時期があったが、すぐさま挙動の不審さを指摘された。なので渋々ながら認めることにした。

 まあ、リュークの両親は二人揃えば祖母とも対等以上に渡り合えるくらいの実力があるので、リュークに危害が及ぶ事はまず無いだろう。祖母だってあの二人を敵に回したくはないはずだ。


「そう、それなんだよ!」


 僕の返答に軽く頷いたと思えば突然語気を荒げ、こちらをピッと指差す祖母。


「色恋沙汰は激情の起爆剤。激情はこの上ない糧。肯定こそすれ否定する気はさらさら無いさ。――しかし、それに現を抜かしすぎても困るんだよ」


 苛立ちを押さえるように、しかしそれをあえて隠さないやや高ぶった口調。叱責を込めたであろうキツイ眼差しでこちらをねめつける。

 何時見ても、感じてもこの視線には慣れない。背に冷汗を滲ませつつも、表面上は平静を取り繕い無表情を保った。せめてもの抵抗という奴だ。


「見立て通りなら、お前さんは後十年と少しで私を超え、過去最高の魔女として完成する」


 穏やかに告げる、誇らしげな声。僕にそのつもりは微塵も無いというのに、押し付けがましい情愛を感じ取れる。

 そして祖母は歯軋りし、盛大に顔をしかめた後に口を開けばつばが飛んだ。


「――だというのに、なんだい、今の脆弱な在り様は! 愛しい人が気になって課題にも身が入らない? 縛り付ける方法なんてごまんとあるだろう! それくらい出来ずして何が魔女か! まずはお友達からなんて生温い真似、反吐が出る!」


 それは爆発と表現するのが相応しかった。

 噴き出す、僕を飲み込んでしまうかのような強大で禍々しいオーラ。皺のある手が強くテーブルに叩きつけられ、その大きな音には軋みが生み出すそれが混じっていた。今までに無いほどに荒々しくまくし立てるその声は、いつもの静かなそれとは違い空回りするような見苦しい気勢を感じ、恐ろしさが半減していた。

 ……無論それでも、僕を圧倒するには充分すぎたのだが。どちらかと言えば、そこまで僕に執着していたのかと場違いな驚きに目を丸くしそうになっていた。

 そして、思う。やはり僕はこの人を受け入れられない。受け入れたくない。

 戦う事、日常に溶け込み擬態する事、全てが鍛錬だと祖母は言う。けれど僕はこう言いたい。日常は僕の大事な一部だ、鍛錬なんて言葉で片付けて否定するなと。力を得てもマイナスにはならない。訓練を強いられても許容しよう。しかし、それこそが自分の世界の全てと祖母は認識している。そんなもの知った事か。


「そんなもの知った事か――。そんな顔をしているねぇ……」


 気付かぬうちに祖母を睨み付ける形になっていたらしい。先ほどより大分落ち着いたらしい、それでも不快だと雄弁に語る視線が僕を射抜く。

 今更ごまかしても無駄だ。僕はそのまま目を逸らさぬよう、歯を食いしばりながら眼前の魔女を見据えた。そして祖母は続ける。


「まあ構わないさ。それを利用させてもらうからね……」


 何時の間にやら祖母の手に収まっているガラスの小瓶。それの半分ほど濃厚な紅い液体が満たしていた。

 そして一瞬置いて気づく。そこに凝縮された凄まじいまでのオーラ。生者には到底生み出す事が叶わないほどの、祖母よりも一段上をいく禍々しいオーラ。押し込められた激情は揺れ、渦を巻く。それは死者の怨『念』だ――。


「私達は後の子の為に、死に際に怨『念』を残す。より優れた魔女を生み出す為に、その礎とならんが為に――」


 朗々とした、どこか感慨深げな祖母の言葉。

 知っている。何度も何度も、煩わしいと思うほどに教えられた。さらに言うと、意図して生み出そうとした怨『念』が正常に機能を果たさないこともままあり、無事受け継がれた道具は数少ないらしい。


「そしてこれは、私の母が残した血の染料」


 コルクの蓋が小気味良い音と共に外された。直後に広がる、むせ返るような鉄の臭い。見た目以上の血液がそこに凝縮しているのだと解った。

 そしてテーブルの上に置かれたそれの開かれた口に、しわがれた手に摘まれた細い絵筆が下りた。ちょんとその毛先が紅い水面に触れ、離れる。

 その直後だ。絵筆が凄まじいオーラを帯び、肥大化した。柄の先を摘むように持たれていたそれは太く長く変わり、箒でも持つかのように握られて床に向く毛先は束ねた藁か何かのようだ。

 部屋に入る前から頭の隅で鳴っていた警鐘の音が、過去最高を記録した。これはマズイ。ここにいてはいけない。逃げなくては。そう、今すぐに遠くへ――。


「動くな」


 無表情で告げられる低く呻くような、怒気を内包した声。圧倒され、立ち上がろうと足に込めた力が、膝の上で拳を握ろうとした手が、弛緩した。気付けば全身からは汗が滴り、体の節々が強張り微かに震えている。

 押さえきれない湧き上がる恐怖。平静を取り繕う事すらできない。歯の根が震えた。それほどにおぞましい。眼前の、研ぎ澄まされた静かに揺れる膨大なオーラ。その大半が『筆』へと集約していく。

 祖母は立ち上がり、投げ槍でも構えるように毛先を僕に向ける。そして紅い滴りを帯びたそれが、僕の胸元に触れた。オーラが肌に染みていくのを感じ取れた。






 そして、僕に枷がはめられた。

 死者の残した道具を用い、なおかつ神字で埋め尽くされた部屋は念を増幅する役割を果たす。その条件の下で祖母が全霊を以って刻み込んだその文字は、トップレベルの除念師であるミリアさんをして解除できないと言わしめた。

 それを取り払う方法は一つ。魔女を受け継ぎ、祖母を納得させる事。祖母の意によってしか解除できないのだから。

 その文字が僕に及ぼした変化は、きっと人によっては酷く些細な物なのだろう。だからこそ強固な物となった。けれど僕のなけなしの自尊心は、その変化を自覚するたびにキリキリと痛むのだ。

 そして今日も溜め息をつく。決められたレールに乗せられた事実を思うたび、鏡の向こうに少しばかり『漢らしく』なってしまった自分の顔を認めるたびに――。




微妙に憂鬱な日々


第二部 十三話




「無事だったようだな」


「なんとかな」


 俺はクリスの言葉に頷きながら、二人が陣取る焚き火の傍に腰を下ろし、軽く肩をすくめた。

 幸い怪我は一つも無いのだが、思いのほか手間取ってしまった。いつもより流もキレがいまいちだった気がする。夕飯ゾーンにたどり着いて合流したのも俺が最後だしな。


「はい、お疲れ様」


 鍋で何かを煮込んでいたらしいノエル。鍋を持ち、アルミ製のカップにその中身を注ぎ込んだ後にカップを俺へ差し出した。中に入っているのは緑色のお茶……だろうか。受け取りその臭いを嗅いでみると、なんとなく湯気が薬臭い。


「薬草を煮込んで作ったお茶だよ。臭いはちょっとアレだけど、味はそんなに悪くないよ」


 それに疲労回復の効能もあるからと付け加えるノエル。促されるままに啜ってみると、味はそれほど悪くない。緑茶に少し近いだろうか。


「……そして例のごとく、私の分は無いのか」


「あ……。ああ、うん、ちゃんとあるから」


「どうでもよさ気だなおい」


「クリス、落ち着くんだ」


「いや、まあ今更だし……別にどうという事はないが」




「「「……ほう」」」


 焚き火を囲って地べたに座る三人、揃ってお茶を飲み干し一息つく。若干緊張を帯びていた空気はすっかり和みムードのそれに成り代わり、全体的に緩みまくっていた。


「そういや、情報の方は何かあった?」


 忘れる所だった。内心慌てながら話を振る。

 そう、情報。メリットのありそうなトリッパーに接触して事情を質し、情報収集。有益な人材と会えれば、いざという時に手を組めるようにしておく。それが今回の受験目的だったのだが。

 まあ今回は向こうからの襲撃だったわけだが、試験内容が試験内容だし、状況によっては手を組む事を考えていたのだが……。

 うん、なんだ、縛り上げた後に少し話しただけで、こいつらとは関わりたくないと嫌悪感が先にたった。つーワケで、どういう経緯でトリップしたかだけ問いただすのみに留めた。

 ちなみにその経緯は他に組んでいた二人とアングラ系のサイトで知合い、一緒に殺人が起こったと噂の山奥にある廃屋に踏み入り探検し、外に出たらなんでか異世界だったとのこと。その廃屋は俺の事故現場らしい辺りから片道最低三時間は掛かるほどに離れている。これといった共通点は無い。

 三人セットだった為に、情報は俺の持つそれと大差ないだろうなと思いつつも、一応確認してみる。


「一応軽くごうも――いや、問いただしてみたけど、有益な情報は無かったよ」


 今、拷問って言いかけたろノエル!?


「何のこと?」


 だから、その眩しいまでの微笑が不自然だっつうの!


「……まあ、いいとしよう」


 うん、先ほどのクリスじゃないがなんていうか……今更だ。胸の前で十字を切り、ノエルに色々されちゃったらしい哀れな子羊に哀悼の意を表しつつ、クリスに目を向けそっちはどうだと促す。

 そうするとクリスは視線を逸らし、居心地悪そうに唸りつつ軽く頭をかいた。


「……すまん」


「忘れた、か」


 おいおい、そもそもお前さんの提案だろうに。


「――てへっ♪」


「激しく似合わん」


「そうだな。やって後悔した」






「おーい、キルアー!」


「ったく、おせーよ」


 特に大きな問題も無く時は流れ、既に試験終了の前日に差し掛かっている。

 余ったプレートを分けろ。キルアに情報提供した際にそんな感じのことを告げていたので、待ち合わせを約束した出発地点である海岸へと皆でやって来た。そこかしこから集まり始めている様子見の連中の視線を感じるが、害意は無いようなので無視している。

 ぶっちゃけると、プレートは既に余っているくらいなのでいらんのだが。襲撃者達から分捕り、俺が二枚ゲット。クリスが四枚で、ノエルが一枚。合計七枚のうち二枚が都合よく俺以外のターゲットだったわけだ。

 俺のターゲットはキルア。今更原作遵守とか、そんな事はこれっぽっちも考えてなどいないのだが、練でも使わないと勝てないような相手に態々突っかかりたくない。なので必要になるプレートは三枚。つまり、七-二-三=二枚余るわけだ。一哉がプレートを手に入れられなかったら、適当な条件つけてくれてやってもいいかなと思っている。調子に乗られても困るので、無料でくれてやるつもりは無い。


「よう、三人とも」


 当の一哉本人がキルアの横におったとさ。一緒に行動していたのか。確かにキルアの傍は安全地帯ともいえるのだが。それくらいには深い仲になれているわけか。


「キルアと組んでいたのか?」


「まあ、そんな感じだ」


 クリスの言葉に頷く一哉。その言葉に、キルアは微かに顔をしかめた。


「ちげーだろ。お前が助けてくれって勝手に付きまとってんじゃねぇか」


「いや、感謝してるって。試験が終わったら何か奢るからさ。それに、お前のせいで死に掛けたんだから、おあいこってことで?」


「死に掛けた?」


 なにやら物騒な言葉に、俺は眉をひそめた。


「いやさ、キルアが食えるって勧めてきたきのこがワライダケで……」


 そう言い一哉は苦笑する。


「俺、大抵の毒じゃ死なないからさ。いちいちドレにどういう毒があるかとか覚えてねーんだよ」


 キルアが付け加えた。

 ああなるほど。それは一哉の落ち度だな。キルアがトンパのジュースをがぶ飲みしていたエピソードは知らんはずないだろうに。きのこなんて特に素人じゃ選別ミスする事が多い食材で、警戒を怠って食ったこいつが馬鹿なんだろ。


「うわー、厳しいお言葉……」


 俺の一哉馬鹿発言に、本人は軽くうなだれる。


「お前も飯に入れる薬草、間違えて毒草積んできただろうが」


 クリスのでこピン。俺は精神的に十五のダメージ。状態異常『恥ずかしい』になった。


「よ、同類!」


 おどけた風な一哉の言葉に、一同は噴出す。俺は軽く俯いた。


 その後話を逸らすように本題に入ると、一哉はキルアの活躍によってターゲットよりプレートの奪取に成功していたために必要なし。そしてキルアより余ったプレート一枚を受け取った。

 何故一枚なのか問うと、キルア曰く『ハゲが付け回してきてウザかったから』との事。そういやいたな、ハンゾー。


「余ったプレート、どうするよ?」


「うーん、誰か適当な奴に売るか?」


「そんときゃ分け前寄越せよ」


 俺の言葉にクリスは唸り、キルアはしっかり分け前を要求してきた。そのまま数秒思考していると、森の方から元気な声が呼びかけくるのが聞こえた。


「……おーい!」


「これ、ゴンだよね」


 若干空気じみていたノエルがようやく口を開いた。いや、それは置いといて。確かにこの竹内ボイスはゴンだ。相変わらず十本刀でオカマやってそうな声だな。……うん、すまない。声ネタなんだ。

 手を振りながらゴンは森から出て来た。後ろにはクラピカとレオリオが続いている。


「みんなー、ちょっと聴きたい事があるんだけど」


 ああ、ポンズか。レオリオのプレートゲットはギリギリだったしな。

 ……レオリオに売るか?


「レオリオのターゲットの、ポンズって人を探してるんだけど」


 やはりそうか。こいつらのターゲットは変化無しか。


「ああ、それなんだけどさ」


 ゴンを押し留めるように俺は不要のプレート三枚を扇状に広げ、前方に掲げた。


「プレート三枚余ってんだけど、要るか?」


「ホント?」


 ゴンの声に喜色がにじみ出る。


「一枚一万ジェニーな」


「えー、お金とるのー?」


 ゴンの不満気な声を無視し、レオリオの方へプレートを持った手を向ける。


「どうする、レオリオ?」


「……一枚五千で頼む」


 値切る気か。いきなり半額とは強気だな。


「一万でも安い方だと思うんだがなぁ……」


「しゃあねえ、分かった。五千五百だ」


 五百円値上げか。レオリオにしては譲ってくれてる方か? いや、でも安すぎるだろ。


「じゃあ、九千五百」


「五千五百!」


「……分かった、九千」


「五千五百」


「……他の奴に売るぞ。九千」


 これから五分ほどの舌戦の後、一枚八千四百五十ジェニーでレオリオが買い取る事になった。あまり無理な要求をすれば、本当に他の受験生に売られそうだと思ったのだろう。渋々ながらといった風に妥協の意を示していた。

 当然、一枚分はキルアの方に渡った。もっと高く売れよとぼやいてはいたが、その頬は微かに緩んでいた。

 そして、それから滞りなく第四次試験は終了。

 後は残す所、最終試験のみ。ヒソカとかに当たっても大丈夫なように、速攻で降参する練習はバッチリだぜ!




続く




あとがき

ちょwwwノエルハイスペック杉だろwwwww

――とか呆れられても私は謝らない(挨拶)

この作品はノエル君最強主義だと最初の方で説明してましたしね。

ノエルの『漢らしく』は外見に作用していたという事で、どうかひとつお願いします。

そしてもうひとつ。文中で『念字』という単語を使用していたのですが、『それ神字じゃね?』と指摘がありました。

もの凄く間抜けな勘違いをしていました。修正させていただきます。

ではこれにて。

最近、邪鬼眼チックなオリジナル小説を構想中。内容がVSと世○ノ断○を足して百で割ったような話になってしまうのが困りものな圭亮でした。





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十四話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/02/25 05:14


 ――どうして?


 左手首の内側、時計の文字盤を見つめる。洞窟の入り口から微かに差す月明かりは頼りない。それでも時計に内蔵されたライトが針を淡く煌めかせていたので不都合は無かった。

 現在時刻は深夜三時。四次試験終了まで間もない。だというのに。だというのに。


 ――どーしてゴンもクラピカも来ないのよーーー!!??


 胸の内で絶叫しつつ、頭をかきむしりながら軽く唸る。

 傍に並んで座っていたポンズが怪訝な顔をこちらに向けるのに気付く。軽く咳払いしてごまかした。


「不安になるのも分かるけど、今は大人しく待つしかないわよ」


 優しく言い聞かせるような声。その表情は漫画のそれよりも大分険がない。女同士だからだろうか。だからといって嬉しくもなんとも無いのだが。

 ターゲットのプレートも手に入れていないし、これでは合格は先ず無理だろう。念という強力な武器があっても、相手を見つけられなくては意味が無い。

 ポンズの後ろに見える人影に、顔をしかめた。視線を逸らし、洞窟の出口兼入り口に目を向ける。それほど長い洞窟でもないが、なだらかに下る形になっているために現在居る奥まった空間からでは外が見えない。だが、この天井の高い空間から一歩でも足を踏み出そうとすれば……。


 ――爬虫類とか、大っ嫌いなのよね。


 蛇使いバーボンの置き土産。部屋を出ようとすればそこらの岩の隙間から大量の蛇が顔を出して襲い掛かる。しかも毒蛇。毒への耐性なんて当然身についているはずもない。

 バーボンの懐を探れば解毒剤があるのは知っているが、実行に移せばそれも蛇の襲撃対象だ。そんな危険は冒したくない。待っていればゴンがやってくれる。そう、思っていた。

 しかし、もうすでに深夜の三時。いくらなんでも遅すぎはしないだろうか。

 洞窟に入って、そこには死体とポンズ。けれど待っていれば、今までキッカケが掴めなかったゴンやクラピカとの会話という願いが叶う。そして助けてくれる。そんな、軽く囚われのお姫様なシチュエーションに浸っていたのだが、既にそんな妄想も霧散しつつある。

 現状を改めて鑑みると、自分より幾らか年上であろう女性と死体のある洞窟に閉じ込められている。吐き気のする状況だ。


 そしてそのまま、半ば睨むように出口を見つめるが、白んだ光が差しこむまで待っても何も起こらなかった。




微妙に憂鬱な日々


第二部 十四話




 第四次試験が終了し、最終試験前の面接。ノエル、クリスに続いて俺の番が来た。

 畳部屋、ちゃぶ台を挟んで会長と向かい合って座す。最初は正座だったが、楽にしてくれと促され、胡坐を組んだ。そして会長は咳払いし口を開いた。


「何故ハンターになりたいのかな?」


「老後の貯蓄の為です」


 嘘ではない。他にも、とあるシングルハンターが運営している同人誌即売会にサークル入場できるとかもあるが、やはりおもな理由はそれだ。

 ちなみにそのシングルハンターは、勿論その方面で評価されて称号を得ている。俺もさり気に目指していたりいなかったり。


「簡単に言い切りおったな……。親子揃ってこれか」


 会長は呆れた溜め息とともに肩をすくめた。とーさんの事も覚えているのか。


「あ、それ聞いてます」


「……じゃったら、一度ライセンスを手に入れるとそれだけで厄介事に巻き込まれることもあると、教わらなかったのか?」


「……まあ、色々大変だったらしいですね」


 俺は苦笑で答えた。確かに教わっている。

 八百屋を始めるとき、ライセンス狙いの子悪党に襲撃されないように色々と工作活動で忙しかったらしいな、とーさん。今後の参考の為に、詳細を尋ねるべきだろうか。


「まあよい。では、おぬし以外の十人で一番注目しているのは」


 原作で最終試験に残ったのは九人。だが、この最終試験では十一人だ。俺、クリス、ノエル、一哉が追加で、ポドロとポックルがいない。モブっぽいし別にいいやとか考えている。

 他のトリッパーは皆落ちたようだ。もしかしたら主要キャラに憑依ってる奴とかいるかもしれないが、それは置いておこう。


「そんならまあ、やっぱし44番ですかね」


 遠巻きに見ただけだが、それだけで絶対的な差が解る。アレに関わろうなどという気は微塵もない。向こうさんも、俺のような念と味方のおかげでここまできた弱者に興味など示さないだろう。きっとそうだ。そのはずだ。念の使用は極力控えているし。三次試験のアレは……まあ多分平気だ!


「そうか。では、十人の中で一番戦いたくないのは?」


「そうですねー。44は当然として、他にも294と99と301とかとは戦いたくありませんね」


 ギタラクルも死ねそうだし、キルアやハンゾーも、肉体的なスペックが違いすぎるから仮に当たっても速攻降参する。

 最悪落ちたとしても念は使わんつもりだ。万が一にも注目されたらイヤだ。我らが天才ノエルにも、その辺は言い聞かせている。


「ふーむ……」


 会長は眉根を寄せて腕を組み、数秒ほど考え込む仕草をとり、


「これで終わりじゃ。下がっていいぞ」


 その姿勢のまま、俺に退席を促した。


「すいません。その前にお耳に入れておきたい事が――」






「例のアレ、言ったぞ」


「感触はどうだった」


「ぶっちゃけびみょー」


 クリスの問いに答えつつ、俺は盛大に溜め息を吐いた。

 面接終了後、他の受験生達のいない待合室に集まり、事情に通じているヤツだけで集まって会長との会話内容を報告をした。

 その内容とは巨大キメラアントについて。どのようなことを話すか予め軽く相談した後、じゃんけんの結果により俺が代表して知りうる事を説明したわけだ。情報の出所をぼかしつつの説明だった為に一信九疑といった感じの反応だった。

 むしろ、こんな誇大妄想じみた話を最後まで聞いてくれただけで儲けものと思えた。情報の出所については適当な嘘八百でそれらしい作り話をしてもいいのだが、少しでも信じてもらえた場合どうせ裏を取るに決まっているだろうし、下手なごまかしがバレて怪しまれるような事はしないほうが良いと判断した。その結果なんとも胡散臭い話になってしまったのだが。若干本末転倒気味である。


「リュークの親とか、師匠にも協力してもらって僕たちで捜索するのを視野に入れておいたほうがいいね」


「だな。どっからNGLに流れ着いたかも調べにゃならんかもな」


 ノエルの言葉に再び嘆息する。

 どうやったらあんなドデカイ蟻が誕生するんだか。突然変異よか、どっかのマッドサイエンティストが遺伝子組み換えどーたらこーたらで人為的に作ったとか言う方がまだ信じられる。


「……なあ、俺らだけでやんなきゃいけないのか?」


 一哉の不安げな声。その言葉に俺は肩をすくめた。


「俺だって嫌さ。こんな与太話を信じてくれる、俺らよりも頼もしい人たちがいたら迷わずそっちに頼む」


 そういうトリッパーを見つけ出して手を組めたら言いなーとか考えていたんだが、とんだ期待はずれだったな。後はハンターライセンスを最大限利用して有用な人脈を作るしかないか。どうでもいい事だが、こういった物の発案は当然ながら俺ではなくノエルやクリスが殆どを占めている。

 ……だから、その辺はノエルとかに何とかしてもらおう。ノエルなら不合格は無いだろうし。

 他力本願と嗤われそうだが、俺は最悪の事態に備えて試験終了後は自分を鍛える事に専念する。今まで目を逸らしていたが、これを乗り切らなくてはギャルゲー制作も何もあったもんじゃない。


「だが、これだけあれこれ考えて、結局キメラアントは出ませんでした。とかなったら笑い話だな」


 クリスの苦笑交じりの言葉に、皆そろって渇いた笑い声を漏らした。クリスも、自分の言葉に呆れたように揃って笑う。

 ……むしろそうなって欲しいよ。




 そして最終試験は始まる――。


「まさか、お前が相手とはな……」


「いやまあ、クリス当たりたくないって言わなかったし」


「では……」


 借り切ったホテルの何も無い広間で、俺とクリスは向かい合う。

 互いにいつでも動き出せるような軽い前傾姿勢に、硬く握られる拳。


「「行くぞ!」」


 気合の雄たけびは重なり、同時に駆け出して間合いを詰めた。

 瞬時に互いの一足一刀の距離となる。そして、掛け声と共にその拳は繰り出される――。


「「さいしょはグー!!」」




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十五話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/03/11 19:23



 ハンター試験。ハンターの証であるライセンスを得る為には、ハンター協会の主催する試験に合格しなくてはならない。

 ハンター試験には、毎年様々な猛者が現れる。ある者は富を求め、ある者は名誉を求め、またある者は未知を求め集う。時には協力し、時には蹴落としあい、その中から一握りの者が、冨を与え、名誉を与え、未知への道標となる力を持つハンターライセンスを入手できるのだ。

 今年のハンター試験は、既に最終段階を迎えている。最終試験、その内容は負け残りトーナメント。敗者が残っていき、最後の一人のみが不合格。勝利条件は相手の降伏。死者を出すなどの失格者が出れば、その時点で全員が合格。

 今までの死者の続出するような試験を思えば、なんとも易い試験だろうか。傍から見ればそう思うものも出るだろう。だが、ぶつかり合う者達は常人ではなく、数々の困難を乗り越えた強者。戦いにおいてそれぞれの自負が、誇りが、意地が敗北を受け入れる自分を許さず、引き際を誤らせる。

 そして、残っていく敗者達はその体に疲労や負傷を蓄積させ、死に至る可能性も決して低くないだろう。ここまで残った者達だからこそ、この試験は酷く凶悪で意地の悪いものとなるのだ。

 受験生の一部もその恐ろしさを理解している。だから、いやそうでなくともハンターへの道が開けている状況。その空気は緊張を孕んでいる。


「「さいしょはグー!」」


 酷く凶悪で……。


「「まったまったグー!」」


 酷く意地の悪い……。


「「いっかりーやちょーすけ、あったまーはパー!」」


 空気が緊張を孕んで……。


「「せーいぎーは勝つ! ――とはかーぎらーない!」」


 訂正しよう。この試合において、そんなシリアスな要素は全く無い。当事者達は白熱の眼差しでじゃんけん――しかもローカルな掛け声で――をし、周囲の者はそれを呆れた眼差しで見つめていた。

 じゃんけんか、じゃんけんなのかとそのアホさ加減に憤り、顔を引きつらせている者もいる。


「「じゃーんけーんポン!」」


 クリス=グー

 リューク=チョキ


「よーし、これで一対一! 次も勝つ」


「小癪なぁ! 調子に乗るなよ小童ぁ」


「おいおい、自分から敗北フラグおっ立ててどうするよ、リューク?」


「アッチャー、イッケネー」


「「HAHAHAHAHAー!」」


「お前らー! 真面目にやれー!」


 リューク、クリスは多分におふざけムード。レオリオの怒声に大体の者が首肯していた。




微妙に憂鬱な日々


第二部 十五話




「私の、負けだ……」


「――おとん! おかん! ワイはやったでーー!!」


 インチキ臭い関西弁を張り上げて、俺は高々と拳を突き上げた。

 クリスとのじゃんけん五本勝負。三対二で俺が勝ち、クリスは負けました。つまり、この時点で俺がハンター決定!


「くっ……!」


 うなだれて悔しさに顔を歪ませるクリス。

 悪いな。勝負とは非常な物なのだよ。最初に負けて、三本先取にしようとそちらが言い出したんだ。文句は言わせん。


「おいおい、こんなんで決まっちまっていいのかよ……」


「落ち着けレオリオ。当事者達が互いに納得づくなんだ。ルール上の問題は無い」


「つってもよクラピカ……」


「まあ、気持ちは分からないでもないが……」


 外野がうるさい気がしますが、BLで真っ先に組まされそうな二人組なんて無視無視。

 そして、次の試合の邪魔にならないようにクリスと壁際に寄った。


「……お前、いくらなんでもアレはねーだろ」


「僕も、正直どうかと……」


 こちらに近寄り、溜め息と共に呆れた声を漏らすキルアと、渇いた笑い声のノエル。

 うるさい。最も安全かつ穏便な方法を選択したまでだ。そりゃ、ある程度仲が良くないとこんな方法で納得なんぞしちゃくれないがな。


「先のことを考えるなら、悪くない選択と言えると思うが」


「そうだそうだ!」


 クリスの言葉に激しく頷いて俺は言う。 

 正直なんかノリで始めた感があるが、仲間同士ならばそう悪くないと思う。体力は温存しておいて損はない。


「さっきのゴンといい、お前らといい……」


 ああ、さっきのゴンVSハンゾーな。……ああ、VSって響きに反応してしまう自分がいる。Superior Scientific Special Search Squadを略してVS。ぶっちゃけSpecialとSearchは省いて問題ないと二巻の後書きで書かれていたが、世界第二位の天才様の言うとおりその方がカッコいい。ZAMZAやTSUBASAの正式名称を忘れても、これだけは忘れないぜ!

 それはさて置き対戦の組み合わせについてだが、ゴンなどがいるブロックはポックルのポジションにノエルがいるだけで、そう変わりは無い。もう一つのブロックだが、まずクリスと俺で、負けたほうが一哉と。クラピカとヒソカで、負けたほうがレオリオと。さらにそこから残った二人で、最終試合に残るメンバーを決める。

 正直、ヒソカとはもう少し後に当たりたい所だが。一哉も、ヒソカと戦う事になったらどうしようと隅っこで怯えているし。恐らくだが、その辺は成績や資質などで優先順位を決められたのではと思っている。


「一哉には悪いが、私は負けたくない」


 そうだな。まかり間違って念を使うなどボロを出したら目をつけられそうだ。

 もしもヒソカと当たったら即座に降参すると皆言っているが、万が一ヒソカに面白がられてそれを阻止されたらマズイ。

 お、次はヒソカ対クラピカだ。お二人の腕前の程を見せて貰おうか。


『分かっているだろうが、キルアから目を離すなよ』


 ノエルとクリスにだけ分かるよう唇の動きだけで言い、顎でキルアを指し示す。ある程度距離を置くと自信がないが、修行時代に読唇術は習得済みだ。そして先ほどと打って変わった緊張の面持ちで二人は頷く。当のキルアは俺らより数歩離れてこちらに背を向け、ようやくシリアスさを帯びた空気で向かい合うヒソカとクラピカに目を向けていた。

 漫画の最終試験では、キルアはギタラクル――イルミに精神的に追い詰められ、ポドロを殺す。恐らくは頭に埋め込まれているらしい念の篭った針も手伝ってのことなのだろうが、俺らにはどうしようもない。ノエルも、流石に自分よりも遥かに格上だろう人物の能力は破壊出来ないと言っていた。

 『今』は、その殺されるはずのポドロがいない。そうなると代わりに誰が殺されてもおかしくない。俺達が襲われる可能性も充分にありえる。

 そのときには俺ら三人がかりで押さえるつもりだが、無理かもしれない。流石に命に関わりそうな時は念の制限を解除するつもりだが、下手を打てば死ぬ。そうでなくとも死亡フラグが立ちかねない。ま、そういうわけでキルアからは目を離せないな。




 ……クラピカ対ヒソカは、クラピカの勝利で終わった。

 漫画にあったとおりに、ヒソカがクラピカに囁きかけた後に降参。クラピカはそれを受け入れ、表情を少しばかり不満そうに歪めていた。


 次はハンゾー対ノエル。素の身体能力では圧倒的にハンゾーの方が上回っているはず。ここは程々で降参すべき――。ノエルにはそう言い含めている。

 広間の中央で距離を置き、向かい合う二人。ハンゾーはどこか殺気立っているようにも感じられる。俺はノエルの身を案じて微かに息を飲んだ。


「第四試合ハンゾー対ノエル、始め!」


 審判の号令。同時にハンゾーは床を蹴った。加速に要する時は一瞬。その疾駆は目にも止まらぬ程に達する。

 詰まる間合い。既にそこはハンゾーの射程距離。ノエルは特に身構える事も無く自然体で立ち尽くすのみ。

 そしてハンゾーは素早く進行方向をずらし、ノエルの左斜め後方へ跳ぶ。眼前で突然の死角への移動。それはノエルの目に消えたように映るはず。その驚愕が一瞬の隙を作るのだ。

 さらにそこから、ハンゾーは即座に身を翻しノエルの背後へと張り付くように接近。がら空きの延髄目掛けて手刀を落とす――。


「降参します」


 それが当たるよりも早く、ノエルは自分の敗北を宣言した。

 手刀はノエルの首筋ギリギリで停止。そしてその手は打ち据えられることなく下ろされた。


「……賢い選択だな」


 先ほどのゴンとの試合を考えているのだろうか。ハンゾーの言葉には当てつけのような、どこか釈然としないような含みを感じられた。


「それはどうも」


 ノエルは特に気にした風も無く答え、俺らの方へ寄ってきた。

 次は一哉対クリス。クリスは前に出た。一拍遅れて中央へ向かう一哉は、後にヒソカと対峙する事を考えたのだろう。緊張に強張った表情だった。


「第五試合クリス対カズヤ、始め!」


 号令。同時に身構える一哉。攻める気なのか守りに回る気なのか分からない、中途半端な構え。それだけで力量の差は明らかだ。

 クリスはコレといった構えを取らずに、それを見て嘆息する。……正直、俺も一哉がここまで酷いとは思わなかった。念を使わない俺でも余裕で倒せそうだ。そういえば念を教える以外は特に何もしなかったな。三次試験までこれたのは、例の相棒のおかげか。


「……あー、私の負けでいい」


 そして、クリスは呆れた様子で投げやりに言い放った。


「い、いいのか?」


「ああ、このままだとお前死にそうだ」


 戸惑った声を上げる一哉にそう言う。

 恐らくは、後でキルアに試合中背後から襲われる可能性を言っているのだろう。確かに一哉じゃ、纏の状態でもなす術も無くやられそうだ。

 ……この後、避難するように言っておくべきだな。


続く




あとがき

スレッジ・ハンマー・マークⅡ、マークⅢがリボルヴァなのは機密保持の為に薬莢を回収しやすくするためらしいが、撃った弾を回収しやすくする工夫はあるのだろうか。それは置いといて国会図書館でVSの幻(笑)の短編をコピーしてきたが、時系列が本編終了後なのに次郎の成長具合がむしろ退化しているくらいで泣いた(挨拶)

そろそろハンター試験も終了が見えてきました。

これからもリュークたちを本編に関わらせるべきか。正直、関わらないままだと、もうあんまり長くありません。

本編に関わるとしても、リュークだけが天空闘技場くらいまで着いて行くとかそんな具合になりそうですが。

私には大人数を一度に動かすスキルはありませんので。

意見などは随時募集中なので、何かありましたらよろしくお願いします。

ではコレにて。麻生先生の新刊が出る様子も無く、切られたのかと不安になる圭亮でした。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第二部 十六話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/03/11 19:38


 その瞬間、リュークは空気に微かな驚愕の雰囲気が混じるのを感じた。

 闘技場と化した広間の中心に集中する視線。皆が息を呑み目を見張る。

 顔中に針を突き刺した男、ギタラクルがそれを全て抜き取った。その瞬間にその痩せこけた様な頬は膨らみ、無駄の無いシャープなラインを描く。少し歪だった鼻はすっきりと、細い目は大きな童顔になる。

 全身に変化が浸透していく。体形に大きな変化は無い。しかし、それを動かすソフトを替えた。そんな印象を感じさせるほどに、一挙一動、その微かな身じろぎさえもを一変させていたのだ。

 常人が見れば微かな違和でしかないそれ。しかし、ある程度武術に身を置く物ならば思うだろう。本当にこれは同一人物か、と。加えて言うならばその微かな違和は、そこから推察させる技量を倍するほどに跳ね上げていた。

 だが、変わらない特徴もあった。どちらの顔も、何を考えているのかを表に出さない無表情。その眼窩に深遠を覗かせた。

 そしてその変貌に誰よりも衝撃を受けたのは、対峙するキルアのようだ。


「兄…貴!!」


 大きく目を見開き、全身を硬直させる。強張った表情でかろうじてそれだけ吐き出した。

 キルアは一歩後ずさった。その後、驚いたように自らの足元へ視線を落とす。

 ――既に、呑まれている。

 リュークの体が、微かに震えた。それは恐怖か、緊張か、高揚か――。




微妙に憂鬱な日々


第二部 十六話




「ゴンと…友達になりたい」


 腹の底から絞り出すような、けれど消え入りそうなキルアの声。シンと静まり返った室内に、それは確かに響いた。


「もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと……それと、リュークと友達になって、普通に遊びたい」


 自分に言い聞かせるような、普段の自信に満ちた態度とはかけ離れた頼りない小さな震えを、それは纏っていた。




 ……今、何と仰いましたキルちゃん?


『もう人殺しなんてうんざりだ。普通に、ゴンと……それと、リュークと友達になって、普通に遊びたい』


 ……も一回、脳内再生。


『普通に、ゴンと……それと、リュークと友達になって、普通に遊びたい』


 ……リピート。


『ゴンと……それと、リュークと友達になって』


 …………。


『リュークと友達になって』




 ……死亡フラグキターー!!


「――ゴンたちと友達になりたいだと? 寝ぼけんな! お前らとっくにダチ同士だろーがよ!」


 レオリオがキルアを指差して、威勢よく声を張り上げた。


「ほらリューク、お前も何か言ってやんな!」


 こっちに振らないでー!

 イルミの若干不快気な、射抜くような視線に気おされて顔が引きつる。これだけで死ねそうだ。コレがホントの目で殺すって奴だね♪

 ……無視してしまいたいのは山々だが、キルアの縋るような視線を邪険にする度胸も無い。


「ウン、ボクタチ、トモダチダヨ」


 片言なのは気にするな。緊張の所為だ。白々しく聞こえるのも気のせいだ!

 キルア、安心しろ。お前とゴンならホモだちにだってなれるさ!


 …………。


 ……。




「――はっ!」


 被せられていたらしい布を押しのけ、俺は跳ねるように身を起こした。


「あ、気が付いた」


 横からノエルの安堵する声。目をやると、椅子に座るノエルとクリス、一哉の姿。クリスと一哉は腕を組んでこっくりこっくりと頭を上下させて舟をこいでいる。

 あたりを見渡せば、清潔感溢れる淡いベージュの壁紙の一室。医務室のような無機質のそれではない。俺がいるのはベッドの上。ここは控え室だろうか。窓の向こうは暗く、街の明かりが見える。時刻は既に夜のようだ。


「あれ、どうなった。キルアは? 死亡フラグは!?」


 記憶が飛んでいる。聞こうにも、何から言えばいいか混乱して上手く言葉が出ない。


「落ち着いてリューク。大体丸く収まったから」


 ノエルは俺の肩に手を置いて、労わるように優しく言う。


「結果から言うと、キルアは誰も殺してないよ。……思い出した?」


 柔和な笑みで言った後、おずおずと確認してくるノエル。

 その言葉の直後、シーツの上に置かれた手にずっしりと手ごたえが蘇ってくるのを感じた。それに重ねて、微かな痺れが手の表面を走った。

 俺は、キルアをぶっ飛ばしたのだ。




 ノエルと会話をしながら、順に思い出していく。

 クリス対一哉の後、一哉は俺達の勧めにしたがって控え室に引っ込んだ。役に立てないことを申しわけなさそうにしていた。

 レオリオ対ヒソカはヒソカの勝利で終わった。いたぶるような一方的な試合展開。特に大きな負傷が無かった事は幸いだった。いや、違うか。ヒソカの『意図的に芯を外した』攻撃は、レオリオに大きな精神的ダメージを与えたらしい。床に大の字になって敗北を認めるその声は、苦渋に満ちていた。

 そして、イルミ対キルア。コレも言うまでもない。キルアがその言葉に追い詰められて敗北を宣言した。


「俺と、友達になりたいとか言ってたような……」


「気持ちは察するけど、現実だから目を逸らすようなマネはやめよう?」


 諭すようなその穏やか声は、とても辛い現実を思い出させた。


「死亡フラグ……」


 ノエルは椅子を立ち、悲嘆に暮れて俯く俺の頭を優しく撫でた。

 こちらを心配そうに覗き込む憂いを帯びた微笑に見惚れ――ゲフンゲフン!


「安心しろ」


 横合いから聞こえる声。視線をずらすとそれはクリスだった。何時の間に目覚めていたんだ。

 ノエルは俺から離れて椅子に座りなおした。耳元で舌打ちが聞こえた気がするが、気のせいさ! クリスが酷く恐縮している気もするが、気のせいさ!?


「……いや、安心できないっつの!」


 とりあえず色々と黙殺して、話を戻した。

 キルアを止める時に念も使っちまったし、死亡フラグ立ちまくりですよ俺。


「オタクだってカミングアウトしてしまえば良いだけの事だろう?」


「その手があったか!」


 思わず大きく手を打っていた。

 オタクに対する世間の認知度は、言ってはアレだが日本にいたときのそれよりもずっと酷い。しかも、キルアの下の兄貴はアレだ。俺のオタク度をぶっちゃければ、きっと距離を置くはず……!

 ……ゴンは気にせずにいそうだが、まあその辺は何とかしよう。友好度もそれほど高くないはずだから、大丈夫な気がしてきた。


「――で、結局不合格者は誰?」


「キルアだ。最終試合の前にいなくなって、試合放棄とみなされた」


 尋ねると、間髪いれずにクリスが返す。ちなみにレオリオとの試合は私が勝った――。そう付け加えていた。


「そっか……」


 手のひらを見つめ、改めて思い出す。


 部屋の隅、キルアが憔悴した様子でうなだれていた。少し距離を置き、棍を持ちながら警戒を交えた視線を送る。

 その渇いた唇に小さな動きがあった。呟きを繰り返していた。『殺さなきゃ』。俺の読唇術が間違っていなければ、それだ。

 そして号令。試合が始まった。レオリオ対クリス。

 キルアはそこへ駆け出していた。静かな、躍動感とは無縁でいて、疾い。瞳は虚ろ。その手には、魔獣を思わせる鋭利な爪先を携えていた。

 気配が希薄だった。念を知らないだろうに、絶の状態。その為、認識が僅かに遅れていた。キルアが一直線に向かう先はクリスの背後――。

 即座に練。足の裏にオーラを集中して床を強く蹴る。キルアの背中を追う。踏み出すたびに足元が砕け爆ぜる感触。

 その音に反応したのか、クリスはようやく気付いたと慌てた様子で身を翻す。キルアはその目の前。同時に、キルアは俺の間合いの内。

 腕にオーラを集中。棍には纏わせず、そのままフルスイング。手刀を繰り出そうとするキルア、その脇腹へ棍を強かに打ち据えた。

 硬い筋肉の手ごたえ。抵抗を感じたが、体勢が悪い。踏みとどまる事はなく、その足は床から離れる。キルアは宙を舞った。

 そして俺は――。


「腕にオーラを集中させた過ぎたのか、踏ん張りが利かずに足を滑らせて頭を打った」


「俺ダセー……」


 呆れたようなクリスの言葉に、がっくりと大きくうなだれて溜め息をつく。


「クリス。それで、リュークに言う事はないの?」


 ノエルは苦笑するクリスを軽くねめつけ、その眼前に人差し指を突きつける。

 『親しき仲にも礼儀あり』でしょう――。ノエルはそう続けた。


「……そうだな。リューク、おかげで助かった。ありがとう」


 クリスは真摯な表情で深々と頭を下げた。


「別に、気にすんな」


 俺は照れくさくなってそっぽを向いた。


「……そういや、ゴンいないのな」


 そして、あからさまに話題を逸らす。


「ゴンは別の控え室だよ。全員分の部屋は用意してあるって」


 そんな俺を見て、微かな笑いを噛み殺しながら答えるノエル。

 ……ああ、そういや講習会とかは翌日だったもんな。全員が泊まれる部屋は当然用意してあるか。

 あ、ゴンって言ったら思い出しちまった。


「……俺、やっぱゴンについていくべきか?」


 キルアを迎えに、行くべきだろうか。けれど、そのままなし崩し的に原作に関わって死にかねないのはヤダ。しかし、このまま逃げるとキルアを見捨てたようで後味が悪い。

 そんな思考の堂々巡りを、クリスが遮った。


「リューク、さっき三人で今後について軽く相談したんだがな……」


「何さ?」


「天空闘技場まででいい。お前はゴンたちと行動を共にしろ」


「なして?」


 眉をひそめて怪訝な声をあげる俺。


「私達は今後、ハンターライセンスを最大限利用してキメラアント対策の為に動き出す」


 具体的に言えば、協力者の確保や情報網の構築――。頭の中で、前話し合った内容を反芻した。


「それで、だ。お前には協力者の候補――具体的に言うと、話が通じそうなトリッパーないし能力者を探してもらいたい」


「だから、天空闘技場?」


「そうだ」


 頷くクリス。

 確かに天空闘技場になら原作を知っている奴らがいそうだ。念能力者もそこそこにいるだろう。

 しかし、協力者の確保は難しいのではなかろうか。キメラアントだぜ、キメラアント。……それはクリス、ノエル両名も分かっているようで、表情にはいまいち自信が欠けていた。


「……分かった」


 けれど、他に当てもないのは確か。やるだけやるしかないか。

 両の拳を、強く握った。


「……そういや、今何時?」


「今は夜中の一時を少し過ぎた所。講習会は明日の十時から」


 俺の問いに、ノエルが即答した。

 そしてクリスは欠伸をしながら立ち上がり、横の椅子で寝こけている一哉の肩を揺する。一哉は頭を上げ、若干錯乱気味に覚醒。俺に軽く頭を下げて、クリスと部屋を後にした。


「あれ、ノエル、お前は?」


 ノエルは椅子から立ち上がらずに、そのまま微笑し俺を見つめている。


「今からじゃどうせ眠れないだろうし、一人じゃ退屈でしょう? もう少し付き合うよ」


 それからしばらく、作りたいと思っているギャルゲーの構想について、好きな作品について、熱く語る。夢中でいると時が経つのは早い。気が付くと六時を過ぎていた。その間中、ノエルはついていけないだろう話にイヤな顔一つせず相槌を打って、時には上手くこちらの話を促す話題を振ってくれた。

 好き勝手語ったおかげで、何かすっきりした。先行きの不安とか、思ったよりもストレスが溜まっていたようだ。ノエルに感謝だな。 




 ……そんで、一晩たって晴れやかな顔になった俺にクリスは言った。


「昨晩はお楽しみでしたね」


 それは止めてくれ……。




第二部 ハンター試験編完


第三部へ続く
















「やあ」


「ああ、昨夜はどうも」


「……やっぱり気付いてた?」


「ええ。少し殺気立っていたようですが」


「――キルに、あの二人は邪魔だ」


「貴方が決めることでもないでしょうに……」


「ゴンはヒソカが先に目をつけていたからね。せめて、もう片方だけでもと思ったんだけど……」


「僕を敵に回したくなければ、止めることです。あ、そうそう。試験中に『お預かり』した針、お返しします」


「……別にいいよ。何したか知らないけど、もう使い物にならない」


「コレは失敬。僕の大事な人が狙われて、つい少しばかり力が入ってしまって……」


「謝らないよ。キルに危害を加えるなら、どんな手を使っても排除するだけだ」


「いいじゃないですか。致命傷は無かったんですから。……でも、もう少しそれを表に出してあげたら、貴方の『お人形さん』も喜ぶのではありませんか?」


「……少し、言葉が過ぎるんじゃないかな」


「こちらの台詞だゴミが」


「そっちも穏やかじゃないな」


「リュークに何かしてみろ。大事なお人形さん諸共、地の底へピクニックだ」


「チープな演技だね」


「――あ、ばれました? まあ、嘘じゃないので肝に銘じておいて下さいね」


「何処へ行くんだい?」


「ちょっと節操無しの道化の所まで、話をつけに。あっちも変な目でリュークを見ているので釘を刺しておかないと」


「言って聞く相手じゃないよ、ヒソカは」


「その時は潰すまで、です。それでは」




「……ヒソカ相手に随分な自信だな。けれど、ハッタリでもなさそうだ」








あとがき

ちょwwwノエルハイスペック杉wwwww

――と言われても私は謝(ry(挨拶)

はい、これでやはりグダグダだったハンター試験編は終了。

次からはキルアに会いに言ったり、ミトさんとの出会いで年上の良さに気付くリューク君の愛憎入り混じる物語がうわ待て何をする。……んなこたぁありません、当然ながら。

まあ、その辺はスパッと終わらせてギャルゲー作って大団円、といきたいところです。

そして、次はオリジナルの邪気眼物語――を脇役から見た視点でお送りするという画期的な物語をって、これハルヒじゃねぇか!

……こっちに集中しましょう、余計なことは考えずに。


ではコレにて。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 一話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/04/24 03:04


「改めてよろしく!」


「うん」


「おう」


「ああ」


 俺の挨拶にゴン、レオリオ、クラピカは三者三様に頷いた。

 これより俺達はゾルディック家の住まうククルーマウンテンへと向かう。本格的にメンバー参入と相成ったわけだ。


 広々とした廊下を並んで歩く。天井も高く、装飾は質素だが清潔感漂い決して貧相には感じない。


「ククルーマウンテンか。聞いたことねぇな」


「ああ、俺知ってる」


 レオリオの呟きに反応し、俺は手を上げた。


「パドキア共和国にあるでっけー山だよ。ついでに言うと入り口の門は観光地的な扱いになってる」


「観光地ってオイ……」


「結構地元じゃ有名なんだよ。暗殺一家の住処って」


 レオリオの呆れ交じりの呟きに俺は肩をすくめて見せた。


「ちなみにオススメのみやげ物は、パドキア銘菓ゾルディックカステラ」


 毒々しい紫色の癖して味は案外まともで美味い。


「――って、行った事あるのかよ!?」


「その昔、パドキアまで父と」


 レオリオのつっこみに重々しく頷いて見せたり。


「キルアの家を見に行ったの?」


 興味深そうに目を丸くするゴン。


「いやいや、本命は当時新設のテーマパーク」


 可愛らしいぬいぐるみがマスコットなそこでは、オリジナリティ溢れたイベントが盛りだくさん。

 猫と鼠が繰り広げる愛憎サスペンス『食べちゃうくらい愛してるの』や、鼠やアヒルのカップル達から女を寝取る犬畜生の『下卑た微笑』など、一ヶ月で閉園に追い込まれるだけの事はあったな。ギリギリ間に合ってよかったよホント。

 で、それがかーさんに発覚してとーさんは『五歳児になんて物見せてんの』と逆さ吊りの計。とーさんは顔を真っ赤にして瀕死の状態に追い込まれていた。死への秒読みを数え始めたとーさんを見て、助けてあげてと絶叫したのを覚えている。


「ま、とりあえずは飛行船のチケット予約しよーぜ」


 ライセンスさえあれば、一等客室は半額。二等客室は七十パーセントオフ。三等客室にいたっては無料の素敵待遇。これを利用しない手は無い。ししょーと行動を共にしていた時もお世話になったもんだ。


「よぉ」


 そこにハンゾー乱入。自己主張の強すぎる隠密に呆れながらも、皆で名刺とホームコードを交換する。ゴンと、そして俺もホームコードを持っていなかったことに周囲の失笑を買う。

 俺専用ホームコード、手続きが面倒で用意が後回しになってました。




微妙に憂鬱な日々


第三部 一話




「……暇だ」


 ベッドに身を投げ出し、天井を仰ぎ見ながら呟く。


「さっきからそればっかり」


 皆が呆れたような視線を向け、ゴンが代表して嘆息しつつ言う。……仕方ないだろう、暇なのだから。

 現在パドキアに向かう飛行船、二等客室の四人部屋。一等客室は満席だった。

 俺もそれなりにこのメンバー打ち解けてきたのだが、俺はオタクでヤツラはパンピー……ともいえないが。まあ、アレな話題で盛り上がれないために大きな断絶を感じてしまうのだが、自意識過剰と言うやつなのだろうか。会話が詰まれば、皆は持て余した余暇を瞑想やら読書やら勉強やらに費やしている。俺は携帯のアプリにも飽き、その上この頃ギャルゲーに触れていないために禁断症状が始まりつつある。

 ギャルゲーのネタを考えておくにも、彼女(二次元という名の高次元に佇む女神)の事を思うたびに胸が苦しくなってしまう(無論禁断症状)のでいまいち集中できない。俺がヘタレだがらと言われればそのとおりなのだが。普段二次元がどれだけ俺に力を与えてくれているのか、今になって心底実感している。

 あれだ。二次元は神域って感じ。Rタイプも高次元の力学的エネルギーになんて頼らないで、二次元からエネルギーを得ればいいんだよ。……BL好きな水島苑子を想像しちまったぜクソったれ。

 あーもうこの場にクリスやししょーが居ればアレな話題で盛り上がれるのに。


『ひーまーだー』


『全く、たまには自分から積極的に暇を潰す方法を考えてみてはどうだ?』


『何かないクリス~?』


『ふむ……。それでは、富士見ミステリー文庫のどの辺りがミステリーかについて論じるか』


『その疑問がミステリーだから』


『……人が折角振った話題を速攻で終わらせるな』


『まあ、レンテンローズ辺りはそこそこ真面目にミステリーしていた気もするが』


『お前それ挿絵目当てで買ったろ?』


『それ以外に何があるというの?』


『いや、宿少読んでたとかあるだろうが……。で、シスプリでは誰派だ?』


『亞里亞は俺の妹』


『では、じいやは私のメイドということで――』


 ……ギャルゲーしてぇー。


 うん、パドキアに着いたら借金してでも俺専用のパソ買おう。エロゲも買おう。クリスたちと連絡とってサイトの開設とかしよう。

 ちなみにサイトのコンテンツは俺の書く小説(クリスの挿絵入り)や、ししょーのネタコラムが中心となる予定だ。


「到着まで、残り一日と半か……」


 テレビも空域の関係で映り悪いしなぁ。本気で暇だ。


「――じゃあさ、飛行船の中探検しようよ」


「ぶっちゃけタルいんだがなぁ」


 ゴンの提案にも、いまいち気が乗らない。

 探検とかガキくさいし。飛行船なんてドレも大体同じ構造だろうしな。それだったら寝ていたい……我ながら駄目人間な思考だ。


「そんなこと言ってないでさ。退屈なんでしょ?」


 そして、ゴンに半ば引きずられる形で部屋を出る。そんな俺達を、クラピカとレオリオは苦笑しつつ見送った。




「ま、何もしないよかマシか……」


 呟きつつ、廊下を俺の数歩前歩くゴンに続く。実際歩いているだけでも、幾らか気は紛れていた。


「あ、雲が下にあるよ。でっかい」


 ゴンは傍の大窓に駆け寄って覗き込むと、下方を指差す。

 傍に寄って指差す先に視線を落とせば、広く分厚い雲が地上を覆い隠していた。さっと見える範囲で視線を巡らせば、相当先まで白いふわふわが途切れることなく続いている。下は今頃雨で、それを避ける為に高高度まで上がったんだろう。下界と切り離された状況になんとなく優越感を覚えた。

 そして気付くと、いつの間にかゴンがこちらに視線を向けていた。


「どう? 楽しくなってきた?」


「ああ」


 ゴンの問いかけに頷く。思いの外暇が潰せそうだ、ありがとよ。

 俺の返事を聞いて、ゴンは満足そうに頷き唇の端を吊り上げた。


 その後も俺達はそれなりに広い飛行船内をぶらつく。一等客室周辺の廊下は赤い絨毯が敷いてあり、掃除も行き届いていた。身なりのいい大人達がすれ違うたび、俺達へ微笑ましそうな視線を送っていた。そしてその傍には絵が何点か飾られているロビーがあり、それを見ていた大人が絶賛しているのに揃って首を捻った。俺の芸術的な感性はゴンと同レベルらしい。ちなみに一枚オーラを帯びた絵があったように感じられたが、気のせいに違いない。貴婦人のたおやか微笑が、愉悦を帯びたいたずらっ子の笑みに変わったような気がしたが、きっと疲れていたのだろうな。

 食堂、さらにそれとは別に喫茶店なんてものもあり、そこで奢ってやると言ったら酷く喜ばれた。調子に乗って三千ジェニーもする特大パフェを頼みやがったことに呆れたが。しかも一人で全部食ったし。

 ……これからの事を考えると、所持金もそろそろ厳しいな。まあ、金に困ったら借金でもすればいい。――つーかパソコン買うために借金してやろうじゃないか。天空闘技場で稼いで返せばいい! うんそれでいこう。




「――二百五十万ジェニーになります」


 空港から徒歩十分かからないところにある、道路に面した大手のデパート。その電化製品売り場で俺はノートパソコンを購入せんと、先ほど借りたてホヤホヤな金で一括支払いする為に携帯を操作して口座のメニューを開いた。


「はい、今振り込みます」


「待ちなリューク。俺が賢い買い物の仕方ってヤツを実演してやっても――」


「店員さんの迷惑になるから、それは止めとこう」


 身を乗り出すレオリオの頭を押さえた。あなたが凄まじいということは知っているが、小市民な俺としてはそんなことで周囲の注目を集めたくない。

 得意気に張り上げられる声を無視して口座のパスワードを携帯に入力。入金完了。店員さんがレジに据え付けられた端末を操作し、確認する。


「入金、確認しました。ありがとうございました」


 サービスという事なので初期設定もその場で済ませてもらい、保証書や付属品等はリュックに押し込む。パソコンは小脇に抱え、両手がふさがるのは避けたいので棍はリュックに引っ掛け背中に括りつける。そして、『もったいない』と名残惜しそうなレオリオを押してその場を後にした。

 ……それにしても最新機種のノートパソコンが二百五十万とか、俺に言わせりゃ桁が一つ違うだろと未だに違和感が付きまとう。携帯も十万とか普通にするしな。値段に見合ったスペックと頑丈さは持ち合わせているとのことだが、銃弾にも耐える強度というのは本当なのだろうか。B4サイズのノートパソコンは折りたたんだ状態でも厚さが二センチほどで、重量は恐らく一キロに届くかどうかといった所だ。ワイドで、その割に軽すぎる。


「にしてもよ、ライセンスつかっていきなり借金するとか……」


「少し、無計画過ぎはしないか」


 ハンターライセンスは本当にすばらしかった。空港内の金融機関に入ってライセンスを提示したら、あっさりと四百万ほど振り込まれたのだ。しかも一千万以下は無利子無担保でいけるらしい。勿論ライセンスが本物かどうかの確認は念入りにされたが。

 レオリオとクラピカが呆れ交じりの視線を向けるのを華麗にスルーし、足早に歩を進める。次は列車に乗換えだ。ギャルゲーは、パッケージもかさばるしダウンロード販売で購入する事にしよう。




 そして、例によってゾルディック家では試しの門を開けるための訓練をすることに。


 あれは大変だった。纏の状態でなければ日常生活すら困難だっただろう。上下五十キロから始めようとかその時点で纏は欠かせないものになったし。

 纏の状態だと超回復も促進されるので、筋トレにはまあ必須だろう。ヤツラの適応速度はそんな俺の上を行くから驚きだった。共同生活でエロゲギャルゲは殆どできんかったのは苦痛の一言だろう。たまに某巨大掲示板サイトで発見した面白いスレをみんなで見たりは楽しかったが。

 あと、ごまかしで買ったアクションやRPGがクソゲーだったことに対する憤りは、もう言葉だけじゃ言い表せない領域に達している。いっそオープンしてしまおうと何度思ったか。だがしかし、共同生活で距離を置かれるようなことになるのは正直きつい。


 そんなこんなで苦労も多かったのだが、まあそれでも思いの外順調に月日は流れ――。


「ふんっ!」


 目の前に立ちはだかる巨大な門。声を上げて力一杯押す。

 足でしっかりと地をつかみ、全身の力を手のひらへと集めて強く押し出す!


「動いた!」


 門はじりじりと広がっていく。背後からあがるゴンの歓声。そう、俺は試しの門を皆に遅れてようやく開けられるようになったのだ――。




「片方だけ、な」


 レオリオの憐憫混じりの呟きを聴き、俺は脱力した。ゆっくりと閉じゆく門に押され、後退して元の位置に戻る。

 はいその通り。未だに一の扉すら開けられず、片方だけ開けて現実逃避ってました。それでも一トンですよ奥さん。凄くないッスか?


「――じゃあ、そろそろ行こうか」


 ゴンの声にクラピカとレオリオが頷き、二人は俺は両側面から俺の腕を抱えた。ゴンが門を開き、そして門の向こうへ後ろ向きに俺は引きずられていく。


「いやだー! 俺も開けられるようになるんだい!」


「しゃーねーだろ。観光ビザの期限も近いんだからよ」


 往生際の悪い俺へ、窘めるようなレオリオの呆れ声。視線の向こう、遠ざかっていく門とその傍で手を振るゼブロさんを見て、俺は歯噛みした。




続く




あとがき

祝・麻生先生新シリーズ発売決定!(挨拶)

トクマ・ノベルズedgeより発売の、タイトルは『ホワイト・ファング 狼よ月影に瞑れ』。

四月十八日発売だ。忘れるな! ちょっとサイズが大きめの本だから、電撃文庫とかと一緒に並んでたりはしないので気をつけろ!

人狼とか出る感じのアクションものらしい。女子高生二人が主役のようなので百合っぽい場面もあるかもしれん。

表紙のイラストをトクマの公式サイトで公開しているので興味のある人はチェックだ。挿絵の担当は山根真人という人らしい。アクションシーンでカッコいい絵が描けるか、期待したいところだ。圭亮的には萌えよりもそっちを優先して欲しい。

……ふぅ、宣伝完了。まあ、すでに似たような事をブログで書いているんですけどね。

それでは、今回はこれにて。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 二話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/06/01 17:42


「で、落ちたと」


『そうなんだよ。百階から厳しくなるってホントなんだな』


 そろそろ観光ビザの期限も近く、明日には試しの門を開けられないままに先へ進まなくてはならない。そんな夜、俺は外に出て電話で一哉と互いの近況を報告しあっていた。

 すでに深夜に近い時間帯。夜の森はそれなりに冷える。向こうは時差の関係でまだ夕方らしい。つい先ほど、天空闘技場で百階にあがった次の試合ですぐさま敗退したばかり。やはり、纏を使えても元々の実力が実力だ。正直、百階まで上がれたのも奇跡に近い――。苦笑を交えてそう語った。

 そう、一哉は現在天空闘技場にいる。当初一哉はここにも来る予定だった。が、それよりも、そのあまりにいまいちな実力を何とかする方が重要。やはり実戦がいいだろう。だが、あまりに荒療治はついて行けないだろう。だから天空闘技場の低い階層で鍛えろ。筋トレ? そんなもの重りを用意すれば何所でも出来る――。

 そんなクリスの勧めに従って、一哉は筋トレと平行して試合に参加し己を鍛えているのだ。ぶっちゃけるとそれは実質、半ばノリで結成された対キメラアント戦線からの戦力外通知で、一哉は厄介払い食らっている現状なのだが。クリスたちの見立てでは、数ヶ月で最低限求められる実力を満たすのは無理だと言うこと。ハンターとして活動するための最低限の実力も、おそらくは持ち合わせていない。となるとコネも作りづらく情報収集も厳しい。

 一哉もハッキリと言われたわけではないが、自分が役立たずだと気づいている。それにもとより、一哉はキメラアントになんぞ関わりたくはなかった。まあそんなわけで、一哉は裏の意味に気づきながらもおとなしく言うとおりにしたのだ。悔しくはあるが、コレで自分の目的に集中できると安堵した部分もあるとのこと。そちらの見通しも正直暗いが。

 後、半ばついでのように一哉にはトリッパー捜索を任されている。同じく原作に沿った行動でのトリッパー捜索なんぞを任されてはいるが、俺がここにいるのも単なる厄介払いなのではなかろうか。正直俺の実力もいまいちだ。


「こっちも、試しの門は開けられず終いで終わりそうだ」


『お互いダメダメだな……』


「練を使えば余裕でいけそうだけどな」


 念無しの状態で開けられるようにならないとダメだと思う。ゴンたちもそうなんだし。

 そういや、最近堅の訓練サボりがちだな……。まだ一時間半位しか維持できねーのに。


『あ、練なら俺もそろそろいけそうなんだけど』


「コツは、覚えてるな?」


『クリリンのことかー! ――だろ?』


 笑い含みに声を張り上げる一哉。声の調子から、苦笑している様が見える気がする。俺も併せて苦笑した。


「そうそう」


 練ったオーラを纏の状態で留めるのは中々に難しいのだが、あれをイメージするとオーラを練りやすいだけではなく、割とすんなり体の表面で止まってくれる。あの作品の偉大さを身をもって知ることが出来るわけだ。


「んじゃ、みそっかす同士お互い頑張りましょーってことで」


 悔し紛れの空笑いで告げ、そこで会話を打ち切る。


『ああ、またな』


 通話を切った。


「さて、次はノエルとクリスに近況報告を――」


 そして指を続けて動かし、携帯のアドレス帳を開く。ノエルの携帯の番号を呼び出した。

 まあ、二人への連絡は半ば義務づけられた日課だ。全世界で使える高性能な携帯電話もやはり、国を隔てると繋がるまでのタイムラグが長い。

 繋がると、ワンコールで早々とノエルの嬉々とした声が聞こえた。




微妙に憂鬱な日々


第三部 二話




「「九月一日、ヨークシンシティで!」」


 ククルーマウンテンの麓に位置する町の一角。そこで皆が声をそろえ、高らかに告げた。

 キルアを迎え入れた一行はここでいったん別れを告げ、それぞれの道を行く。俺も普通にメンバーにいるという事実に、軽く鬱になりそうなのだが仕方ない。

 ……まあ、正直キルア迎えに行く道中、俺は空気に近かったな。そう、AIRです。ゴンがぼこられていたときも、コインを持つ手を当てるときも。

 だが、素敵な包帯の貴婦人が現れたとき、その視線が俺の全身をなめ回すように感じたのは何故だろう。ゴンも見ていた気がするな、あの人。


「三人になっちゃったね。これからどーする?」


「どーするって、特訓に決まってんだろ」


「だな。今のゴンじゃヒソカに一発食らわせるなんてまず無理だぞ」


 キルアと俺の言葉に押し黙るゴン。キルアはゴンを軽く睨め付け、その頬を指先でつついた。


「ま、頑張れ」


 俺がそう言ってゴンの肩をポンと叩くと、キルアが今度はこちらにジト目を向ける。


「なーに他人事みたいに言ってんだ。当然お前も付き合うんだぞ」


「えー」


 不満げな声を上げてみるが、予想通りである。


「ところでお前ら、金はあるか?」


 キルアの質問。


「うーん、実はそろそろやばい」


 と、ゴン。


「俺なんて、やばいどころか借金持ちです」


 そして俺は胸を張った。


「借金って、何したんだお前……?」


「そうそう、聞いてよキルア。リュークってばパソコン欲しいからって、ライセンス使って借金したんだよ」


「うわ、ありえねぇ」


 どこか面白がっているゴンの言葉に呆れた声を漏らしたところで、キルアは仕切り直しとばかりに咳払い。そして改めて口を開いた。


「俺も、あんま持ってない。そこで一石二鳥の場所がある」


「もしかして、天空闘技場か?」


 疑問系の声を挟むが、すでに会話の流れからそうだと確信している。


「先に言うなよ。まあ、その通りだけどな」


 得意げだったキルアが、少しだけ面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「まま、機嫌損ねないで。案内よろしく」


 キルアの背中を押して、最寄りの駅へ向かうのだった。






「なぁ……」


「んあ? どしたキルア」


「その、言っておかないとって思って、その……」


「何、愛の告白とかはノーサンキューよ?」


「ちげーよ! そうじゃなくて、最終試験で……」


「――お前をぶっ飛ばしたことは謝らないよ。仲間を守るためにはそれしかなかった」


「俺だって、別にそれを謝ってもらおうとは思ってねーよ。むしろ、逆だろ?」


「ん」


「その、お前の仲間を殺そうとして……ホント、悪かった」


「全くだ。もう、ぜってーあんな真似するなよ?」


「……ああ、分かってる」


「よろしい」


「それと――」


「ん?」


「あの時、友達って言ってくれて、ありがとな」


「なーに、事実を言ったまでだ」


 嘯きながら、少しばかり罪悪感で心が痛んだ。






「おー景気よく飛んだなぁ……」


 簡素な長椅子の並べられた観客席から下を見下ろすと、広々としたその空間にいくつも並べられた正方形のリング。その一つから、大柄な人影が宙を舞っていく。隣のリングの上を通り越し、そのまま客席との間にあるフェンスに激突。俺はそれを見て感嘆のため息を漏らした。

 天空闘技場の一階、そこでの実力の審査。緊張気味だったゴンは、キルアに思いっきり押せばそれだけで十分だとアドバイスを受け、それを実行に移した結果がコレである。

 押す、というよりもそれは掌打と表現するのがしっくりくる。全身の力を右腕一本に無駄なく集約する、整った姿勢だった。重さ二トンの扉を押し開けるその身体能力のみにとどまらず、それを容易に使いこなす感性に恵まれた結果だろう。特に武術の訓練などはしていないはずだろうに、才能とは随分と理不尽極まりないモノだなあと再認識した。

 そして直後響き渡る、試験の順番が来たことを知らせるアナウンス。キルアは長椅子から腰を上げた。


「なーなー、俺にはアドバイス無いのー?」


「必要ないだろ、別に」


 俺の言葉を素っ気なく切り捨て、キルアはリングへ降りていく。いや、ゴンと同じようにやれば多分問題無いってことだろうが。俺は結局試しの門を開けられなかったので、正直不安ではあるのだが。ゴンであれなら、俺もリングの外に押し出すくらいはいけるか?

 キルアの試合が始まった。一瞬だった。緩急の利いた歩法で対戦相手の死角へと回り込んで、がら空きの延髄に手刀を閃かせる。相手はなすすべもなく、おそらくは何をされたかも満足に理解できずにその意識を手放し、前方に倒れ込んだ。

 そして、その隣のリングで大男を負かす小柄で白い胴着を着た少年は、おそらくズシだろう。纏だったし。なるほど隙の無い綺麗な構えだった。

 今度は俺の番が回ってきたようだ。アナウンスの指示に従って指定のリングへ向かう。


「おい、またガキだぞ」


「コイツも強いんじゃないだろうな」


「いや、さすがにそうポンポン出てくるかよ……」


 ざわつく周囲の声が耳に届く。


 ――いやー、実は結構強いんですよ、俺。


 若干の優越感を覚えつつ、前方の相手を見やる。

 身長は百八十センチほどの、痩せぎすの男。バンテージを巻いた手でボクシングのピーカブースタイルをとって、こちらを警戒しながら頭を左右に振っている。グローブ無しでピーカブーは無いだろ、常考。

 審判の号令と共に駆けだして間合いを詰める。相手の牽制のジャブ。くぐり抜けて鳩尾に掌打を放った。

 相手は宙を舞い、リングの外へ背中から落ちる。白目をむいて口からよだれが滴っていた。またガキがやりやがった――。観客が沸くのが分かった。

 なるほどなるほど、筋力はそれなりに付いてるようで。自分の掌を見つめ、軽く握って開いて。




 ――うん……手首、ちょっと痛い。


 掌打、ちょっぴりミスしました。




続く






[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 三話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/06/01 17:41


「しかし、リュークに何も話さなくて良かったのか? 私よりも才能あるわけだし、それなりの戦力になると思うんだがな」


「仕方ないよ。リーダーの決定なんだから。それに、僕にしてもそれは望むところだからね」


「そうか。……しかし驚いたな。もう既に、キメラアントに対抗する為の、世界中の閉鎖地域を中心とした監視網が十年近く前から構築されていたとは」


「別に、キメラアントだけに対抗するためだけのモノじゃないみたいだよ。閉鎖地域に放置したら世界恐慌起こせそうな生き物は、他に一ダース位いるんだから」


「とは言っても、キメラアントがその中でも群を抜いて危険なのは確かだろう?」


「まあね」


「だが、どうしてそんなモノがあるんだ? チートなトリッパーでも現れたのか?」


「ある能力者が死に際に残した予言、とは聞いてるよ。実際のところは知らないけど」


「ふむふむ。だがノエル、そんな集団といつの間にコンタクトを取ったんだ?」


「向こうから連絡が来たんだよ、使えそうだって」


「いや、だからどうして。……ま、いいさ。何にせよ、これから忙しくなりそうだな」


「だね。とは言っても、探索に役立つ能力があるわけでも無いし、まずは修行だよ」


「……お前に修行、要るのか?」


「良い機会だからね。ここらで一回、鍛錬し直すよ。一緒に頑張ろう?」


「……どうか、お手柔らかに。命だけは」


「……一回、話し合う必要がありそうだね」




微妙に憂鬱な日々


第三部 三話 




「ちょ、いきなり何さ!?」


 俺はキルアに強く両の肩を掴まれて、抗議の声を上げた。


「だから、レンが何なのか教えろ。ハンター試験で俺をぶっ飛ばしたとき、お前も使ってたんだろ? あいつの師匠が言ってた、レンってのを」


 どこか切羽詰まったような、それでも威圧的なキルアの声に気圧されつつ、俺は肩に置かれた手を押しのけた。

 想像はついていたがそれを表に出さずに詳しく話を聞くと、ズシとの試合で何度手刀を食らわせても立ち上がり続け、最後には勢い余って本気を出してしまったというのに、重傷を負うこともなく身を震わせつつ立ち上がったという。本気の拳は常人なら即死確定な一撃であり、身体的にも技術的にも未熟なズシがあれをまともに食らって立ち上がるなどおかしい。きっと何かある――。

 そして、試合後にズシの師匠が「レンはまだ使うな」とズシを叱責していたらしい。試合中、一度ズシが構えを変えたときに嫌な気配がして、後ずさった。そしてそれは間違いなく、最終試験で俺がキルアをぶっ飛ばしたときに感じたのと同質の何かだった。

 断言して詰め寄るキルアの鋭い感性に感心しつつ、俺は嘆息する。


「わーったわーった。言えば良いんだろ? 練ってのは、一言で言うと――」


「一言で言うと?」


 そこで溜めると、横合いからゴンの興味深そうな声。その表情も目を丸くし、期待が見え隠れしている。キルアも小さく喉を鳴らしていた。


「ハンドパワーです」


 両手を掲げ、念じますよといった風なポーズ。


「ふざけんなよ?」


 冷え冷えとしたキルアの突っ込みは、軽蔑のまなざしを帯びていた。……ううむ、やはりハンドパワーでなく手力にすべきだったか。


「……いや、あながち嘘って訳じゃないんだよ? 練ってのは平たく言うと、訓練次第で誰にでも使える超能力みたいなもんだから」


 才能が幅を利かせまくる嫌な技術でもあるがな。そして、ぱっと見こいつらの才能は俺を遙かに超えている。

 正直言うと教えたくないとか、子供じみた嫉妬による考えが頭をもたげたが、そうしなくとも二人なら自力で念にたどり着くのはそう遠いことでもないだろう。ならば悪戯に不興を買うこともない。


「誰にでもって事は……」


「俺たちにも、使えるのか?」


 ゴンとキルアはそれぞれに期待に満ちた眼差しを向けてきた。強くなれるヒントが傍に転がってるんだ。そうなるのも分からんでもない。


「訓練次第でな」


 頷いて答える。


「そんなら話は早いな。俺たちにその訓練ってのを、何すればいいか教えろ」


「そう言われましてもキルアさん」


「――嫌だってのか?」


 苦笑する俺に、キルアは眉をひそめた。


「ちゃうちゃう。俺みたいな半端物に教わるよりも、ちゃんとした先生に教わった方が良いって言いたいの」


 一哉には教えちまってるけどな。まあ、精孔はノエルが開けたし問題は無かったがな。

 現在一哉は、天空闘技場で修行中。後で様子見に行こうか。


「そりゃ、出来るもんならな。けど、誰に教われってんだよ」


「……ズシの師匠とか?」


「そっかぁ!」


 俺の投げやりな台詞に、ゴンは名案とばかりに感心し手を打った。

 これで、原作通りに進めばいいのだが。裏試験もあることだし、少なくともゴンはここで念を学べるはずだ。さっきの挨拶でズシの流派は心源流って言ってたし。心源流の師範代には、ハンター試験合格者に出来る限りの便宜を図るよう通達されているはずだからな。


「いや、無理だろ」


 その辺の裏事情を知らないキルアは、呆れた様子で手を振る。

 まあ、いきなり弟子にしてくれとか、断られそうな気もするが。


「頼んでみないと分かんないじゃん」


「そうそう」


 こんな時、ゴンの天然っぷりが返って羨ましい。

 正直、何も考えないというか思考が独特というかそんなゴンの言葉に、内心で呆れてはいた。が、とりあえず同意して視線をキルアへ向けた。


「……まあ、ものは試しだな」


 無理だったらお前が教えろよ――。キルアは苦笑しながらそう付け加えた。

 キルアの同意も得られた。それではズシの下へ――。


「……ズシ、今どこにいんだろ?」


「俺が知るかよ」


 盛り上がりかけた気勢を削がれたためか、キルアは嘆息と共に肩を落とした。


「あ、後、一哉も誘っておかないとな」


 やっぱ、ちゃんとした師匠に教わった方がいいだろう。『一応』ハンターな訳だし、資格はあるはずだ。


「カズヤ居るんだ?」


「おう、百階に上がっては落ちてを繰り返しているらしい」


 ゴンの問いかけに頷いて、それから歩き出す。

 うん、一哉に会いに行こう。差し入れでも持って。


「これから敗北続きの一哉に会いに行くけど、キルアとゴンはどうする?」


 足を止め、二人に振り向いて言う。

 一哉とゴン達の友好を深める切欠を作ってやらないと。内心そんな思惑で。


「いいよ」


「ま、別にいいぜ」


「はい決まり。菓子とか買ってこーぜ。宴会だ宴会!」


 そして、お菓子でパンパンにしたビニール袋を持って、一哉の宿泊している安ホテルに押しかけた。

 いきなりで驚いたようだったが、独りで退屈そうにしていた一哉は歓迎してくれた。チョコロボ君が半分を占めるお菓子の山にがっつきながら、一哉のヘタレっぷりを肴に盛り上がる。

 まあ、楽しかった。楽しかったのだが……生傷がそこかしこにあるその体を見て、一哉の先行きに大きな不安を覚えた。




 ――それは、リューク達が五十階に上がることを決めた少し後。


「ふむ……ここが天空闘技場とやらか」


 行き交う大勢の人々。幼い透き通った声に似つかわしくない、その落ち着いた口調はざわめきに埋もれた。少女が立ち止まり見上げる先に、そそり立つ天を突くような超高層ビルがあった。


「強者どもが集う、荒くれ者の聖地、か。……ま、儂にゃどうでもいいことだな」


 あごを引き、荒くれ者が集う雑踏を見回して、少女は心底どうでも良さそうに肩をすくめた。

 その所作はやはりその身形には不似合いだ。行き交う人々が時折、胡乱気な視線をチラチラと向けるのを感じる。


「やはりあれか。儂のようなロリにときめく輩は多いということか」


 得心がいったとばかりに少女は頷く。


 ――んなわきゃないでしょ。鏡見て物言いなさいよ……。


 少女の声より幾分低い、けれど女性的な呆れた声が、少女の胸元に抱えられた包みから響いた。それは細長い一メートルほどの、苔色の布にくるまれた棒状。それもまた、少女の小躯には不釣り合いだった。


「だから、こう言いたいのだろう。可愛らしさは大きいお友達を犯罪に走らせる罪深い要素、と。儂とて、出来るならば美少年になりたかった」


 ――そんなノリノリの格好で何言ってるの。浮いてんのはそのせいでしょ……。


 呆れた声が返された。

 そう、少女はその場で確実に浮いていた。十を過ぎたくらいの幼い小躯は、胸元の黒いリボンが特徴的な白のワンピースに包まれ、その髪型は腰に届きそうなハニーブロンドを頭の後ろで二本に纏めている。そして、抱くように細長い包みを抱えている。その年齢、格好は天空闘技場へ足を運ぶ者の中では確実に浮くだろう。


「いや、これはソフィアさんの趣味でな。実際、この様な動きにくいのを着るのは本意ではないよ」


 苦笑を漏らして、少女は踏み出した。人混みを避けながら、ゆっくりとした足取りで。


「そろそろ申し込みを済ませてしまおう。早い内に稼がないと、今夜は野宿だ」


 ――何その行き当たりばったり。


「さっき安そうなホテルがあったろう? そこにするか。確かクリスタルゴールドだったか?」


 ――それって、あのけばけばしい外観の……?


 包みから、訝しげな声。


「おそらくカウンターは自動化されとるしな。このナリでは、そんな所でなくては泊まりにくい」


 ――なんにせよ、今日中に宿代稼がなきゃダメでしょ。あんた、あたしを買ったせいで、すっからかんじゃない。


「うむ、良い買い物が出来た。難点を上げるなら、少々喧しいことかの」


 少女は満足そうに口元を綻ばせ、そして戯けた笑みで喉を鳴らす。


 ――言っとくけど、あたしの声念能力者にしか聞こえてないから。今のあんたは独り言で笑う変質者よ?


 笑いをかみ殺すような声が返された。


「なぁに、この年頃ならば、少々頭が弱いくらいで通る。不都合なんぞありゃせんよ。――後は、ぬいぐるみでも抱えとりゃよかったの」


 意に介した風もなく笑うその様は、老獪だった。そしてゲートをくぐり、ビル内へ。


「いきなりで悪いが、活躍して貰うぞ、鋼丸」


 ――だから、その呼び方止めなさいって。あたしには、一応遠藤紗耶香って言う名前があんのよ。


「喋るポン刀といったら鋼丸以外にあるまい。それともそーでぃあんとかの方が良かったか? 儂は嫌だぞ厨臭い」


 ――……あんた、ホントに中身老人?


「孫の影響を多分に受けちゃいるが、本当さ。田中権太郎、享年七十三才だ」


 ――まあ、どっちでも良いわ……。後言っとくけど、二百階まで武器は禁止よ。


「なんと!? 我が真影一刀流がこんな形で破られるとは……」


 ――その剣術の名前も十分厨臭いじゃないの……。




続く




あとがきの代わりに、ちょっと前にブログの拍手で使った小ネタを入れてみる




 微妙に憂鬱な日々 ウホ(嘘)次回予告


 第4次試験もそろそろ終わりに近づいてきた。


 プレートもゲットし、これなら合格間違いなし。


 でも、本当の恐怖はこれからだったんだ。


 忽然と姿を消すクリス。


 何故かツナギを着たノエルが近づいてくる。


 ノエルはツナギのジッパーをおろして、その下の素肌を晒した!




 次回、微妙に憂鬱な日々 『純潔×切れ痔×や ら な い か?』


 面白いよ!(腐女子的に)






 嘘次回予告 Ver2




 第四次試験が終了し、俺も尻が痛い以外には怪我も無い。


 クリスも、無事に戻ってきた。


 でもその様子がおかしかったんだ。


 ちょっとした事で俺にすがり付いてくる、情緒不安定なクリス。


 ノエルは、それを鼻で笑う。


 そしてクリスは、何故か空っぽの鍋をかき混ぜていたんだ。




 次回、微妙に憂鬱な日々。 『空鍋?×病み鍋?×中に誰もいませんよ』


 面白いよ!(血しぶきとか)





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 四話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/06/17 11:38


「すみません」


「何でしょう?」


 人気の無い廊下、背後からの声に、少女はゆっくりと振り返る。そこには、笑みを浮かべた自分よりもいくらか年上であろう黒髪の少年。

 跳ね上がる程の驚愕を内心に押しとどめ、こちらもにこやかな表情を作った。

 気配が、感じ取れなかった。生気を感じない、凄まじいほどの隠行。

 ただ単に優れた身のこなしというわけでもなく、存在感が希薄で周囲に溶け込むような印象。


 ――素晴らしい絶の使い手だな。


 胸中の半ば近くを占める動揺と、それに並ぶ程の賞賛を表に出さないまま、笑みを崩さず言葉を待った。


「カレンさん、ですよね?」


 言って、少年は纏の状態へ。そのオーラからも自分より数段上の力強さを感じた。

 控え室の傍で待ち伏せておきながら白々しい――。

 頬を引きつりそうになるのを堪えながら、少年の言葉に頷く。


「先ほどの試合、お見事でした。あれほどの投げ技にお目にかかる機会はそうありません。十歳というプロフィールが嘘のようです」


「それで、何のご用でしょう?」


 空々しく感じられる言葉を無視し、若干語気を強める。


「――失礼承知で単刀直入に言うけど、ぶっちゃけ何歳?」


 途端に少年は落ち着いた物腰を若干崩し、表情がどこか年相応な、気だるそうな表情に変わる。


 ――そう言うことか。


 声をかけてきた理由の一端を少女――カレンは理解した。おそらくこの少年は、自分が『同類』であるか確かめに来たのだ。

 確証はない。もし『同類』だとしても、必ずしも味方だとは限らない。警戒体制を解かぬままにカレンは問いかける。


「――人に物を尋ねる前に、まずはご自分から名乗られては?」


「あー、ごめんなさい。そちらの言うとおりですな」


 意外なほどあっさりと少年は頭を下げた。それを訝しげに見つめながら、カレンは続く言葉を待った。


「田中浩二、十七と十三歳です」


 身を起こしたかと思えば、奇妙な物言い。それならば三十歳と言えば事足りるはずだ。だからつまり、『そういうこと』だ。

 そして覚えのあるその名前に、会話を求めておきながら無駄に相手を警戒させる間抜けな行為――。


「久しぶりだな、浩二。抜けてるところは相変わらずのようだ。さっきのは人目を気にしたつもりか?」


 自然と、低く落ち着いた老人の調子が吐いて出ていた。


「――もしかしたらとは思ったけど、そうなのか?」


 恐る恐る問いかけてくる少年――おそらくは前世で自分の孫だった――の表情が、記憶のそれとどこか重なるのを感じた。


「儂の名前は田中権太郎。七十三と十だ」


 言って、ニヤリと笑って見せた。


「……久しぶり、じーちゃん」


 孫は、どこか安堵した表情で嘆息した。




微妙に憂鬱な日々


第三部 四話




 通路で人気のない場所を選んで、設置されている手頃なベンチに俺達は腰を下ろした。


「どうして儂と分かった? 表向きは普通の少女を演じとったつもりだが」


 確かにパッと見、普通の幼女だな。金髪のツインテで碧眼、白いブラウスにキュロットスカート。靴は白いスニーカー。活発な印象を漂わせている。

 まあ、天空闘技場に出現するとか、活発ってレベルじゃないけどな。それでも口調は子供っぽくしていたようだが。

 ……けど、誰かに似てる気がすんだよな。とりあえず、それは置いておこう。


「山嵐使うときの掛け声で引っかかってな。投げるときにホヤーって感じの奇声を上げる奴はそういないと思った」


 あん時は驚いた。ズシを捕まえるつもりで試合観戦してたら、その相手が山嵐などと古めかしい投げ技を使う奴で、しかも纏を習得しているツインテールなロリだ。色んな意味で食い入るように見つめてしまうのも、仕方のない事だろう。

 そして、その光景に柔道と剣道を修めていたらしい祖父を思い出した訳だ。それから熱戦の後に敗れ去ったズシについてはゴン達にまかせ、俺はすぐさま少女を追いかけてしまったということだ。

 始め、人目について目立たないように絶を使ったら警戒されてしまったなどとアホなマネをしてしまったが、こじれなくて何よりだな。


「全く。あれ程に見事な絶の使い手が接触してきたら、普通は何事だと厳戒してしまうわい」


「いや、俺の取り柄は絶だけですわ。他はいまいち」


 肩をすくめ嘆息するじーちゃんに、苦笑しながら訂正。


「あまり謙遜する物ではないぞ? パッと見、儂よりも幾らか強そうだ」


 まあ、そのナリには負けたくないな。けれどじーちゃんは何所で念を習得したのやら。


「ああ、今の祖母に当たる人が能力者でな。基礎はその人にたたき込まれた」


 半ば強制的にな――。じーちゃんは苦笑と共に付け加えた。


「基礎って事は、四大行だけ?」


「ああ、堅も未だに三十分と保たんよ。流も正直大分怪しいな。実戦では到底使えん」


「勝った。こっちは堅一時間半以上軽くいけるし、流も実戦でかろうじて」


「おいおい。こっちはまだ一年と少ししか学んどらんというに」


「俺だって二年と少しさ。差し支えなければ、系統も聞いて良いか?」


 じーちゃんは少し唸って思案した後に、周囲を見回す。人目が無いのを確認してから口を開いた。


「……まあ、お前ならばかまわんか。儂は強化系だよ」


「ふははははっ! ――俺は、特質だ」


 俺は高笑いと共に立ち上がり、指差し誇らしげに言ってやった。


「……うわ、自慢とかガキくさ」


 憐憫を感じさせる、淡々とした呟きが返ってきた。

 ……くっ、なんだか恥ずかしくなってきたじゃねぇか。そう冷静に返すなよ。


「そういや、どうしてさっきの試合で練を使わなかったんだ?」


 座り直して言う。

 そこで愉快気な笑みに喉が鳴らされた。口元に手をやるその仕草に、妙に擦れた印象を受ける。


「出たな下手な話題逸らし。……まあ、先ほど言ったとおり、まだ自信がないというのもあった。それと……練習台というのもあったな」


「練習台?」


「この所、実戦で技を使う機会もあまりなかったのでな。比較的背丈が近かったし丁度良いと思った」


 勘を取り戻す為にズシを実験台に使ったか。ズシ、哀れな……。


「ふ、真影一刀流は刀が無くとも戦えるのだよ。柔術も少々嗜んでいたしな」


 得意気に胸をそらすじーちゃん。


「……しんえい一刀流?」


 首をひねった。

 何それ? じーちゃんの脳内設定か?


「字は、真の影と書いて真影一刀流だ。お前は知らんかったろうが、家はそういう剣術を代々伝えてきていたのだよ」


「そうなん?」


「そうなんだ」


 じーちゃんは重々しく頷いた。


「何で俺に、そんなネタ臭い事を教えてくれんかったの?」


 厨クセーって笑いものにしたのに。


「無名な古流剣術なんぞ語り継いでも、別段意味があるわけでもない世情になってしまったしな。儂の代で終わりにするつもりだった」


 確かにそうだった訳だが、少し勿体無い気がするな。


「それに、儂の身内で才能ある奴皆無だったしな。半端者に継がせる方が勿体無い」


「そういうもんか」


「もしお前に継がせたら、特に駄目な伝承者になっとったな」


「あーそーかい……」


 悪戯めかして笑うじーちゃんに、俺は苦笑を返した。


「そういや、剣といったら――。預け物、取りに行かなくてはイカンな」


「ロッカーに忘れもんでも?」


「いや違う。近くの武器市で購入した少々値が張った物で、荷物の預かりカウンターにな。――ポン刀を」


「へぇ……」


 まあ、今更驚かんよ。それくらいはな。






「私、カレンって言います。よろしくお願いします」


 じーちゃんはそう言ってお辞儀した。先ほどの口調とは打って変わった、弾むような高い声。

 俺は、変わり身早いなぁと内心で感嘆の呟きを漏らす。


「じ、自分はズシっす」


「俺はゴン」


「俺、キルア」


 先ほどの敗退が尾を引いているのか、ズシはややかしこまった様子。ゴンはいつも通り元気な声を返し、キルアはどこか素っ気ない。


 ――きゃ~~~~! あれ、本物のゴンとキルア!? 可愛い~~っ!


 そして、声を潜めつつ黄色い悲鳴を上げるという、無駄に器用なマネをする苔色の細長い包みが、一歩距離を置いた俺の腕の中にあった。

 俺が持っといて正解だったな。これがこいつらに何するか分かったもんじゃねぇ。

 しっかし、大したはしゃぎ様だねぇ。……うん、自重しろ。ポン刀に憑依った腐女子とか、微妙すぎるぞおい。

 しかも買ったのが爺幼女かよ。凄まじいカオスだな。


「そんでキルア、ズシに話は通したのか?」


 キルアの方を向く。


「ああ。とりあえず師匠には会わせてくれるってよ」


「さよか」


「私に、一体何のご用でしょう?」


 穏やかな声。


「ああ、実は念を教えて欲しくて……って、いつの間に!」


 気づくと、傍らにウイングさんその人が立っていた。


「念を? 君は使えるようだが……」


「ええ、少し。ですから燃える方のでごまかさないで、そこの二人と、この場にいないけどもう一人に教えていただけると嬉しいのですが」


 ゴンとキルアを指さしてから、頭を下げる。ちなみに一哉は現在、七十階で試合中のためここにはいない。


「お願いします。俺みたいな半端物が教えるよりも、その方がこいつらのためです」


 ほらお前らも――。そんな意志を込めてゴンとキルアに目配せする。二人は俺の目線に気づいて、それからウイングさんに頭を下げた。


「「「お願いします」」」


 声をそろえて頼み込む。

 ゴンはハンター試験合格者であるし、キルアもゴンと同等の逸材だ。そう無下には出来ないはず。


「……分かりました」


 ウイングさんは逡巡の後、嘆息混じりにそう言った。


「ところで、さっきズシと戦った……カレンさんで良いのかな? 君は、どうするつもりですか?」


「大丈夫です。私、四大行は出来ますから」


 じーちゃんはそう言ってやんわりと辞退。

 腕の中から微かに舌打ちするのが聞こえたような気もしたが、それは無視することにした。 


「じゃあ、すいません。俺はもう一人を」


 一哉も、そろそろ試合が終わる頃だろう。迎えに行こう。

 あいつを交えて、改めて挨拶をしないとな。




続く




あとがき

変換ソフトをATOKに変えたが、どうも扱いにくいのはやはり慣れの問題だろうか(挨拶)

結局原作と関わりすぎだよ面白味がねぇって感じですね。天空闘技場編なんてさっさと終わらせてしまいたいです。

なので長くても後二、三話でおわるとも思われます。そしたら、もう終わりまであまり長くありません。

ヨークシン編とか、グリードアイランド編とか、今のところやる気ナッシングですしね。

ではこれにて。ホワイトファングが七月に発売することを知って、その刊行ペースの速さに驚愕した圭亮でした。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 五話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/07/07 03:04


「これが……」


「オーラって奴か……」


 全身からゆっくりと立ち上る靄に目を向けて、ゴンとキルアはため息を漏らした。

 特に急ぐ必要も無かったので瞑想でゆっくりとオーラの流れを感じ取り、ついに二人は目の精孔を開いた。

 最初は早く念を使いたいから瞑想なんてやってられっかと不満を述べていた二人だったが、無理矢理精孔を開くのは成長期の体に負担がかかるとウイングさんに窘められ、渋々従っていた。精孔をゆっくり開いた方がオーラをより自然に感じることが出来、後のことを考えるならばゆっくり開いた方がやりやすいとも言われたのが決め手だった様に思える。実際、瞑想での精神修行は超大事だ。……俺も、真面目にゆっくり開いた方が良かったのだろうか。

 しかし、ウイングさんは二人ならば一週間でオーラを感じ取るのも不可能ではないとべた褒めしていて、俺は流石にねーよと苦笑したのを覚えていたが……。しかしまさか、たった九日でオーラ見えるようになるとかありえねえだろ……。

 天才ってのはこういう奴らを言うんだな。ノエルでさえ一ヶ月くらいかかったってのに、上には上がいるとか言うにも限度があるだろうが。横で俺や一哉と練の修行中だったズシも呆然と二人を見ているし……。分かる、分かるぞその気持ち。


「いいですか? オーラを全身にとどめようと念じながら構えて下さい」


 そして続くウイングさんの指示が飛び、二人はそれに従って自然体に構える。纏を成功させるのに数分とかからなかった。これには思わず一哉と俺も目を丸くする。ズシに関しては言わずもがな。


「自分、かなりショックっす……」


「泣くなズシ、俺達がいるだろ?」


 言って、うなだれるズシの肩を叩く。俺と一哉とお前で、名付けて凡才ヘタレーズだ。お前は一人じゃない。


「一哉さんはともかく、リュークさんは仲間じゃないっすよ……」


 自分よりもずっと凄いじゃないっすか――。そう付け加えてやさぐれモードに入るズシ。その目には陰鬱な光が宿っていた。

 いやいや、俺だってかなりダメダメだったんだぞ。練を覚えるまでそれはもう時間がかかったし。瞑想をもっとしっかりやっていればと思ったときもあった。某サイヤ人をイメージすることで、ようやくコツを掴めた訳だしな。


「だから元気出せ、な?」


「そうだよ。それに、俺の方がお前よりも下じゃないか」


 一哉も加わって情けない慰めをかける。一哉もコツは掴めたというものの、後一歩のところで練は使えない。練ったオーラを纏で留めてもすぐに散ってしまうのだ。俺もよくやった。そこまで来たら、後は回数こなすしかない。


「お二人とも……ありがとうございます」


 まだこの理不尽を受け入れられた訳じゃない。しかし、非常なまでの現実に晒されているのは自分だけじゃない。同じように嘆く仲間がいる。それは幾らか慰めになるはずだ……。

 そしてズシは、微笑んだ。


「ねー見て三人ともー。絶出来たよー!」


 ……ゴン、空気読め!!




微妙に憂鬱な日々


第三部 五話




「ちょっwwwこれ見ろwwwwww」


 ここは天空闘技場で俺に与えられた個室。じーちゃんが肩を小刻みに震わせながら俺を手招きする。俺は身を投げていたベッドから這い出し、椅子に座るじーちゃんの後ろからのぞき込む形で、テーブルの上のノートパソコンに目を向ける。

 モニターに表示されているのは某巨大掲示板のようだ。様々なスレタイが並んでいる。それらはどうやら天空闘技場関連のスレッドらしい。見覚えのある有名な選手名が幾つかあった。

 そしてその一つに俺は目を止めた。


『【最強】カレンタソハァハァ【幼女】part2』


 ……カレンってつまり、じーちゃんのことだよな。他にそんな名前の選手知らないし。スレタイに幼女とかあるし。つーかpart2って、つまり二つ目のスレって事だよな。一つ埋まっちまってるんだよな。しかも既に、ここもレスが八百件近く着いているようだし……。

 スレを開いてみる。カレンたんに踏まれたい。絞められたい。投げられたい。俺はゴンに叩かれたい。じゃあキルアは俺が貰いますね。いや、ズシだろ常考。……知り合いの名前が入っているだけで、よく見るような変態のスレがここまでおぞましく、生々しくなるとは。気持ち悪いぜ吐き気がするぜ。


「はっ! 俺の名前とか有ったりしないよな……!?」


 慌ててモニターをスクロールして上の方を表示していく。そして程なく、俺の名前を見つけてしまった。






『リューク死ね』


「なんでさーーー!?」


 予想外の展開に、思わず叫んでいた。


「どうやら、一緒にいるところを写真に撮られてしまったらしくてな」


 じーちゃんはマウスを操作し傍のリンクを開く。俺とじーちゃんが二人並んで繁華街を歩いてる画像のようだ。じーちゃんがふざけて俺の腕を抱えている所もばっちり撮られてしまっているようだ。俺達のカレンたんを独り占めにしやがって。お兄ちゃんとか呼ばせているらしいぞ羨ましい。そんなレスも着いていた。ちなみに、後者に関しては事実だ。ゴン達には親戚と言うことで通しているしな。

 未だ腹を抱えてにやけた笑みを見せるじーちゃんは、それを気にした風もなく、愉快気ですらあった。


「おいおい、正直あんまり笑えねーぞ」


 他人にここまで観察されていたなんて、気持ちが悪い。というか気持ち悪いレスの大半がお前さんを対象としたモノなのに、よくもまあそうも落ち着き払っていられるなおい。


「こいつらが儂の本性を知ったらどう思うかと考えると、笑いが止まらなくてな」


「むしろそれが良いとかほざく輩が、大量発生するかと思われ」


 リアル儂口調幼女は貴重だ。そういったギャップに妙な幻想を覚えている奴は多い。


「……いやいや、背伸びして大人っぽく見せる幼女ならともかく、儂は幼女から人妻まで健やかな暮らしを応援したい変態爺だぞ。ありえんありえん」


 呆れた風な口ぶりだが、その声音に若干の不安を帯びているように感じられる。そうだな。男に欲情されるとか、中身男なじーちゃんにはトラウマ物だな。強がっているだけですかそうですか。

 確かにあんたは生前、俺とギャルゲーについて語り合っていたような駄目爺だ。だが中身はどうあれ、今のあんたは美少女だ。変態に襲われないとも限らん。


「……一応百階以上の選手であるし、襲われるような事はそうありゃせんとは思うが」


 じーちゃんは現在無敗で百二十階を勝ったところだ。俺はゴン達と同じ百五十階。ついでに言うと一哉やズシは、百階以下で上がったり下がったりしている。最近一哉はウイングさんに簡単な手ほどきを受けているらしく、多少ではあるが強くなっている模様。

 まあ確かに、じーちゃんは強いしそこらの変態達じゃ太刀打ちできないだろうな。けれど、用心するに越したことは無いと思うぞ。


「一応、肝に銘じよう」


「出来るだけ一緒にいるようにすっか?」


 なんか不安になってきた。出来る限りじーちゃんを一人にしないようにしとこう。周囲の誤解を助長するだろうが、やむを得まいと言うことにしておく。


「変なことしないでね、お兄ちゃん」


 じーちゃんは身を抱えて警戒する様を見せるが、それはどこか戯けたようにも見えた。余裕が戻ってきたようだ。


「そんで、じーちゃんはこれから予定ある?」


「特に何も。今日は試合もないしな」


「なら、一緒にゴン達の所へ行かねぇ? 顔だそうかなと思っていたんだけど」


 様子が気になるし。纏を覚えてから二日も経ったから、今頃ゴンとキルアは練を覚えていてもおかしくないな。ズシが心配だ。


 ――あたしも連れてきなさいよ!


 部屋の隅から、喧しい声。そういやいたなポン刀。


「別に構わないが、あまりはしゃぐなよ鋼丸」


 そう言って、じーちゃんは立てかけていた刀を拾い上げて胸に抱えた。

 ちなみにコイツも一応ゴン達に、呪い刀鋼丸として紹介済みだ。ウイングさんは呪い刀ということであまりいい顔しなかったが。ゴン達の前では随分と大人しく振る舞っているので、黙認されてはいる。


「ところで、鋼丸って何から取った? 鉄機武者とか?」


「ちゃうわこのボンボン派。黒鉄だよ。覚えとらんか?」


「ああ、冬目景か」


 また微妙な作品から持ってきたな。武者ガンダムを挙げる俺も大分アレだけどな。


 ――だからあたしの名前は……。


「分かってるって紗耶香さん」


 肩をすくめつつ、続く言葉を遮った。何度も叫ばれたら嫌でも覚えますって。


「じーちゃんも、あんまからかうなよ」


「しかし紗耶香では、刀の銘としては不自然だろう?」


「分からんでもないが、人目がないときくらいはちゃんと呼んでやれよ」


 ――そうよそうよ!


 俺の同意を得たからか、紗耶香さんは言葉の調子をいつもよりも強めてじーちゃんへ非難の意を向ける。

 じーちゃんも少々おふざけが過ぎるだろ。冗談も相手を選ばないと不興を買うだけだぞ。そりゃ、事情に通じている数少ない奴が居てはっちゃけたいのも分かるが。ほどほどにしとけ。


「そうだな。……すまんかったな、紗耶香さんや」


 ――分かればいいのよ分かれば!








「ノエル、これ見てみろ」


「何これ?」


「天空闘技場関連の掲示板で見つけた、リュークのファンスレッドだ。動画とかもあるから見とけ」


「ほんとだ。リュークも頑張ってるみたいだね」


「それに、少し強くなっているようだな。――って、このリューク死ねコメントは何なんだ!?」


「画像にリンク貼られてるみたいだね。開いてみようか」


「リュークがツインテの幼女とデートしている!? とうとう犯罪に走ったのか……!? ――なんて、それはないか」


「……この二人、仲良さそうだね」


「ちょ、おまっ! うわ、マウスが瞬く間にいびつな球形へ! お前何所の花山薫だよ!?」


「ちょっと黙って」


「……ごめんなさい。で、でもノエルさん。こないだリュークが祖父と会ったって言ってたでしょう? 多分この娘はそれなんじゃないかな……」


「……そうだね。何事も決めつけは良くないよね」


「そうそう、そうです」


「それじゃあ、確かめに行こうか?」


「へ?」


「返事は?」


「了解しました!」




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 六話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/08/21 02:49


「今宵の刃は血に飢えておるわ――なんてな」


 戯けた口ぶりを演じたつもりが、昂揚が呼び起こす喜悦を隠すことは叶わなかった。喉の奥から微かに自重の笑みを漏らしてから改めて、前方で震え悲鳴混じりの鳴き声を漏らす、『的』を見据える。

 そして、裂帛の雄叫びを共にし、正眼に構えた刃を一閃。縦一文字の、閃光を纏った軌跡は刹那に消え去る。

 直後、舞う飛沫、響く絶叫。頬にべっとりと生暖かい汁が付着するのを実感し、思わず頬が緩んだ。

 全身を駆け巡る怒濤に、身を震わせた。それは他者を傷つけるという行為への興奮であり、恍惚であり、罪悪に対する背徳感で在った。だが最終的に残ったのは、満悦に浸って酔いしれ綻ぶ笑み一つ。

 ゆっくりと、下を向いていた刃の切っ先を目の高さに掲げた。反りのある片刃。夜闇の下、刀身で微かに映える、酷く暗い朱の汚泥。かつて見惚れた波打つ湾れの刃紋は、見る影も無い。

 己が、汚した。その事実に、薄汚れた歓喜を覚えた。そして再び身震いした後に、嗤った。

 視線を地べたに落とす。地を這う、ゆっくりと広がっていく紅い染み。むせ返るような鉄の死臭。先ほど『的』だったその男は、もう動かない。傷口が膿み出す紅の泉も、もう間もなく枯れ果てるだろう。


「かかっ……!」


 腹の底から漏れる声。そのまま、あふれ出す激情の流れに身を任せる。


「――かっ、くはっ、はははははははははっ!!」


 さらに声を上げて、嗤った。

 いつの間にか刃はその手からこぼれ落ち、両の腕は腹を抱えていた。身は仰け反り、僅かに雲の掛かった天を仰ぐ。

 駄目だ。やはり止められない病められる。自分は異常者だ。変質の愚者だ。自嘲が笑みを加速させる。


 空に向かって、小躯に釣り合わない哄笑は力強く、高らかに――。


 まっかなもようのおべべをきたおんなのこは、とってもとってもたのしそう。






「――どうよ?」


 俺の書き上げた長編小説のワンシーンを読んで、一息着くことにしたらしく肩を落とすじーちゃんに俺は問いかける。

 テーブルを挟んで対面に座するじーちゃんは、俺に小説の印刷された白いA4を突き返し、その後額に手を突いた。


「厨くせー」


 嘆息と共に、投げやりな一言だけ漏らす。まあ、それに関しては否定しない。

 ……けど、他にはないの?


「後か? 読みにくい。それと儂をモチーフにした臭さがプンプンして不快」


 まてまて、じーちゃんと会う前からこのキャラは決まってたんだよ。爺にダウンロード的なことされた幼女はな。


「そのチープな発想が厨だというに……」


 肩をすくめて鼻を鳴らすじーちゃん。その仕草が少々俺の不快を煽る。


「じゃああれか。あんたはチープ爺か。略してちぃとか読んでやろうか?」


「影をじっと十秒見つめて――」


「空を見上げて影送り。――って、ネタが古い! つうか教科書にあるような話をよく知ってんな」


「お前が小坊の時、宿題の音読カードに評価記入してやったの誰だか忘れたか?」


「教科書の音読とか懐かしいなおい。……それで、他に何かアドバイスとか無いのか?」


 ただつまらんと切り捨てられるだけじゃ、成長できないんだよ。

 するとじーちゃんは、どこから言えばいいのやらと困惑に少々の嘲笑が混ざった、何とも言えない複雑な表情で腕組みし唸る。


「ふーむ。……ならば、身体強化能力者のヒロイン居ったろ?」


 ああ、個人的にもっとも気に入っているキャラだ。


「自分の能力引き上げるために改造手術受けるとか、やり過ぎだ。ただでさえ強かったのに、より反則的になるじゃないか」


 いや、そこは最強クラスならではのしがらみで、本領発揮出来ないようにするから。


「お前の書く話は、強い奴ほど自分を高める努力をしていて、付け入る隙がなさ過ぎる。お陰で、中間位にいる主人公とは縁の少ない、別のコミュニティーによる流れが形成されとるじゃないか」


 いやいや、才能に胡座を掻かずに研鑽するから上の奴らは強いんだよ。強いからって相手を侮って馬鹿な真似する、下手な流れにはしたくないというか。


「考えは立派だが、お陰でカタルシスに欠けるぞ。それはもっと、主人公を生かせる展開を考えてから言わんか」


 あー聞こえない聞こえない。


「耳をふさぐな。分かっているなら改善する努力をせんか。下手なこだわりを捨てて、素直に実力上位のキャラクターを主人公に持ってきたらどうだ?」


「え~~」


「あからさまに嫌そうな顔をするな。今のままだと、単なる地味な小説で終わるぞ」


「そう言う地味なのが結構好きだったりするわけで……」


 何とは言わないけど。例えるなら、警察に所属する改造人間の主人公が捜査ではあんまり役に立たなくて、犯人取り押さえるときだけしか活躍しないような感じの話をだな……。


「その小説の末路から、お前は何を学んだんだ?」


 こちらを指差し、語気を強めるじーちゃん。

 何を学んだ、か。警察組織のしがらみなんぞも嫌っちゅうほど描写して、派手さが足りなかった全五巻の小説を想う。




「……VS最高っ!」


 微笑んで、サムアップ。


「駄目だコイツ。もう手遅れだな……」


 じーちゃんは肩を竦めて、これ見よがしにため息を吐いた。




微妙に憂鬱な日々


第三部 六話




「よう」


「よう」


 昼下がりの、天空闘技場傍のレストラン。席に着いてコーヒーを飲んでいたクリスに手を軽く掲げて挨拶。クリスもカップを置いて同じように返す。


「あっれ、ノエルいないの?」


 言いながら、俺はクリスと向かい合う形で座り、テーブルに据え付けてある注文のボタンを押した。


「寄るところがあるそうだ。来るまで待っていろとのお達しだ」


「ふーん。じーちゃんも誘ったんだけどさ、急用があるって連れて来られなかったんだよ」


「ああ、やはり例の幼女はお前の祖父か」


 得心がいったと頷くクリス。

 例の幼女? それってもしかしてあれか?


「ん、例の流出画像見たん? もしかして、わざわざそれを確かめに来たのか?」


 んなもん、電話なりなんなりでいくらでも詳細説明してやるのに。

 いきなりそっちに行くからって、ノエルが一言だけ残してブツンだからなぁ。何事かと思ったぜ。


「……まあ、そんなところだ。ノエルが、確かめる事があるって聞かなくてな」


「俺が性犯罪者になったんじゃないかって?」


 戯けた風に言ってみるも、普段の俺を見ていたらそう考えていても不思議ではないな。思わず自嘲の笑みがこぼれた。


「いや、そんな事はノエルも考えちゃいないさ……」


 苦笑してから一拍置き、俯いたクリスは自分の体を掻き抱いて、小さく身震いした。そんなロングコートして、まだ寒いのか?


「その……言うなれば、人を見たら泥棒猫と思え的な考えに基づいた行動?」


 その発言に、一瞬世界がその営みを停止したかのような錯覚を得た。

 ……ヤンデレ? BL? 何の事です? 私にはサッパリですね。


「わざとらしく明後日の方を向いて遠い目になるな」


 クリスは半眼で呆れた様子。そしてため息を一つ。


「……いい加減言っておくか? ――いや、これは本人から言うべきだろうな」


 あいつもいつまでこの状態を続けるつもりなんだか――。

 俺からすれば意味不明なクリスの言葉。何を自問自答して結論出しているのやら。

 そこで、店員がようやくオーダーを取りにやって来た。おかげで場の空気が緩んだことに感謝しつつ、俺はミルクティーとチョコケーキを注文。クリスもシフォンケーキを追加で頼んだ。

 立ち去った店員が、遠くで同僚と並んでこちらに視線を送りつつ、ヒソヒソとなにやら話していたようだった。

 ……何を噂されているのやら。こないだじーちゃんと来たんだよな、ここ。それに……。


「今更だけどさ……」


「何だ?」


 俺の呟きに反応し、クリスは首を傾げた。


「その格好、微妙に注目されてるけど、恥ずかしくない?」


 ハンター試験ではさして浮いていなかったが、こう改めて町中で見るとな……。

 パンツスーツに灰色のロングコートとか……なぁ?


「聞くな……」


 顔を背けられた。少々恥ずかしい模様です。動きやすさとか強度とか、機能性は抜群らしいですがね。


「それに、私のコレなんて可愛く見える様な連中は、山ほど居るだろう?」


「まあ……そうだな」


 普通に道ばた歩いていても、割と見かけるな。近くの天空闘技場にも、そんな連中は珍しいって程でもない。だとすると、あの店員はどうして……?


「……お前が格好いいとかか?」


「何が?」


「いや、店員さんが何かこっち見てて」


 ちょっとアレだが、クリスは格好いい感じがしないでもないお姉――まだ十七になったばかりらしいけど――だ。

 そうすっと、マイナスには見られてないか、多分。


「……思ったんだが、注目されているのはお前じゃないか?」


「何で?」


 こないだのじーちゃんとやって来たときか? じーちゃんがステーキ五人前平らげた事以外にはおかしな事なんて……無いはずだ。あの人もわりかし大人しくしていた。


「天空闘技場、今は何階だ?」


「つい先ほど、百八十階で勝ったところ。ついでに言うと、今日の夕方もう一試合ある」


「その年でそれだけ勝ってるんだ。注目されてるの、お前じゃないか?」


「それは無い」


 俺の無名っぷりはちょっと凄いぜ。

 ゴン達と同じように勝ち進んでいるのに、闘技場内で奴らのような特集ビデオを流されているわけでもなく。ギャンブルスイッチでは、俺に賭ければ常に高配当間違いなし。迫力には欠けるが押しだし一発で勝っているのに、ゴンのような通り名もつかない。

 俺の対戦相手に賭けた連中からの恨み言は割と聞く。そのせいで絡まれたことも一遍在った。ネットのスレではもうじーちゃん関係無しに、事あるごとにリューク死ねリューク死ねと祭り状態。

 ……あれ、なんだか今更ながら言ってて悲しくなってきた。つーか泣いて良いですか?


「目立たない方がいいじゃないか。過度の注目を嫌うはずだろう、お前は?」


「いや、そうなんだけどさ」


 クリスの言う通りと言えばそうなんだけど、ここまでのスルーっぷりはちょっとな……。


「あーもう、この話は止め! 他の話題にしよう、な!」


「わかったわかった」


 手を振って、この話題は除けるとジェスチャー。それを見て、肩を竦め苦笑するクリス。

 クリスの、お前が先に振った話題だろうと呟くのは無視した。


「じゃあ、何話そうか?」


「それなら、コレでも見るか?」


 クリスはニヤリと口の端をつり上げながらそう言って、コートの内側からA4程のソフトケースを取り出した。




「ふふっ、はっはっはっはっ……」


 それを読んでツボにはまった俺は、腹を抱えてテーブルに突っ伏した。

 まったく、おかげで丁度ケーキを持ってきた店員さんに余計変な目で見られてしまったじゃないか。

 いや、だってさぁ……。


「バキが、Gタイプに、ふふふっ」


 クリスが持ってきたのは十数枚の紙に描かれた、短編のパロディマンガだった。原作の画風を上手く真似ながら、若干のアレンジが上手く効いていた。

 内容は、かの有名なグラップラーが、思い込みでリアルに体が傷つくシャドーの果てに、とうとう……。


「いくら変身原理似たようなモンだからって、くくっ」


「そこまで爆笑されるとは思わなかった……」


 呆れた様子の声が降りかかる。そこでようやく俺は顔を上げた。


「バキがGタイプに変身とか、久々に笑ったわ」


 Gタイプ。VSに登場した改造人間シリーズの一つだ。

 単純に身体能力を高める事をメインに据えたらしいそれの変身原理は、脳による肉体コントロールの極限。

 バキのリアルシャドーも、脳による肉体コントロール。


 つーわけでバキをGタイプに変身させちゃいましたと、そんな内容のマンガでした。


「変身しても、勇次郎に瞬殺されてるしー」


 駄目じゃんってね。だがそれがいい。


「まあ、お気に召したようでなにより、だな」


 微笑し、クリスはケーキに手を伸ばす。さて、俺もお茶が冷めない内にと。


「ごめん、お待たせ二人共」


 そしてそれから、ノエルは間もなくやって来た。特に妙なイベントが発生することもなかったが、場の美形度が上昇した為により注目を集めるようになってしまった。まあ、それは仕方ないとしておいた。(やはり先ほどの店員も、クリスに注目していたようだ)

 談笑と共に、穏やかなティータイム。俺とクリスが主に語り合い、ノエルが合いの手を入れたり、窘めたり、さりげない話術で続きを促す。久々でつい話が弾んで、試合に遅刻しかけてしまったのは、まあ笑い話にもならない些事だな。

 試合を終えてじーちゃんに二人を紹介した時、ようやく気付いた。じーちゃん、ノエルに似てるんだ。そしてそこで、二人が従兄弟に当たることが判明。ぶっちゃけどうでも良かったが。

 ……だが、じーちゃんがノエルにかしこまった風に接していた様に思えたのは何故だろう。皆目見当もつかない、うん。


 え? 『釘を刺す』って、何の事?






「どうして、お前の様な奴がここにいる?」


「いきなり穏やかじゃ無いのぉ」


「もう一度聞く。――どうして、あの魔女の孫がここにいる?」


「……ここへ来たのは、この近くの市場に刀剣を見に来ただけだ。他意はありゃせんよ」


「リュークに何かするつもりはないと?」


「一応、それなりに可愛がっていた孫だ。アレに危害を加える様な真似、儂には出来んよ」


「身近にあんな祖母が居るからね。身内だから――。そんな言葉は信用できないんだよ」


「あの人と一緒くたにされても困る。これでも、まだまともな人間のつもりだ」


「まとも? ――そんな人殺しの目をして、よく言う」


「何の事やら」


「年食ってるって割に、腹芸は下手だね。それとも、誤魔化すつもりも無い?」


「……敵わないな」


「そう、この場でお前は何一つ抗しえない。それをちゃんと理解して。オーラの差は倍以上。そして袖に隠している暗器も、口に含んだ目つぶしも、何の役にも立たないよ」


「ついでに言うと、服に鋼線を縫い込んであるし、靴にも刃物を仕込んでいる」


「それって降伏宣言? せっかく、気付かない振りをしておいてあげたのに」


「それはそれは、意地が悪いことで」


「そう、僕は意地が悪いんだ。――だから、逆らえば碌な目に遭わないよ」


「……肝に、銘じておくとしよう」


「ならば、良し。それでは失礼するよ。また後で、会うことになるだろうけど」




「……今頃になって震えが止まらん。ありゃ間違いなく、ソフィアさんの――。いや、それ以上になるな、アレは」




続く




あとがき

ノエルは『脅しっ娘』の称号を手に入れた(挨拶)

裏で色々起こっていても、リュークは全く干渉しないので悪しからず(笑)

しっかしいい加減、そろそろギャルゲ作り編に入らねばと思いますな。そうなったらすぐに終わる予定ですが、ズルズルとヨークシン編やらに突入するのも避けたいところ……。

とりあえず、天空闘技場編はもう少し続きます。

それではコレにて。

最近ハンター×ハンターのSSが増えてる事にちょっぴり喜ぶ圭亮でした。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 七話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/09/23 21:05


「うー、トイレトイレ」


 今トイレを求めて全力疾走している俺は天空闘技場に通うごく一般的な男の子。

 強いて違うところを挙げるとすれば、二次元――特に幼女――に興味があるって事かナー。

 名前はリューク・レイオット。


 そんなわけで、帰り道にある公園のトイレにやって来たのだ。


 ふと見ると、ベンチにツナギを纏った一人の美少年が座っていた。ノエルだ。


「ウホッ! いいリューク……」


 蕩けるような甘い声と共に、こちらへ艶めかしい眼差しを向けるノエル。

 そして絡み合う視線。


 ――ハッ。


 見惚れていると突然、ノエルは俺の見ている目の前でツナギのホックをはずしはじめたのだ……!

 なんと下着も着けていない!

 滑らかな、白磁を思わせる素肌が晒される。

 そしてそのまま露わになる下半身の、線の細い体躯とは不釣り合いの逞しい、雄々しくそそり立つ、例えるならばそう――。


「そう……。そのまま飲み込んで。僕のエクスカリバー……」


「アーーーッ! ヴァーーッ! ローーン!」




「――何だよ帰り道にある公園のトイレって!? 今俺は天空闘技場内の宿泊施設利用してんだろうが!」


 目が覚めた開口一番は、何ともずれたつっこみだった。

 つまり、毎度の如く夢落ち。


「大丈夫。俺はまだ清い体だ……」


 深呼吸し荒くなった息を整え、現状確認。自分へ言い聞かせるような、頼りない、か細い声が漏れた。

 大丈夫さ。近々『そう』なりそうなんて事は断じて無い!




 ……助けて、神様。




微妙に憂鬱な日々


第三部 七話




 ――つまり、ベッドの上ではただ受け身なのね!?


 弾む声。そして下卑た薄笑いを漏らす腐刀。

 もしもそこに顔があるなら、血走った目で息を荒げたりするのだろう。目に浮かぶようだ。


「いやぁ、そう言った衆道的な妄想にはちょっとついていけんなぁ……」


 じーちゃんは苦笑し、その後素知らぬ顔で、柄を取り払った抜き身の腐刀を布で拭き始める。手入れか。随分と慣れた手つきだこと。


「妄想言うなよ」


「つっても、夢には願望とか現れるものだろう?」


 ――そうそう、嫌よ嫌よも好きの内よ。


 相談する相手超間違えたなぁ……。

 でも、一番まともに対応してくれそうなクリスは、最寄りのホテルでノエルと同じ部屋に泊まってるからここ以外に無い。相談にノエルが乱入されたら困る。一哉? あいつとはそこまでお付き合いするつもりもない。


「……夢の後、俺は吐き気を催したのですが? 嫌よ嫌よも好きの内とか、今の俺には強姦魔の理屈にしか聞こえん」


 ――知らないの? 男同士なら強姦も犯罪にはならないのよ。


「何処の世界の常識じゃボケェ!」


 今、本気で言ったろ!?


「落ち着け落ち着け。……しかし実際、そんな夢に悩まされる原因があるのでは?」


 願望とかはさておき――。がなる俺を制すように掌を掲げるじーちゃんは、そう続けて思案顔になる。


「原因ねぇ……」


 俺にそのような願望は、小指の甘皮ほども無いはずだ。とすると、行きすぎた不安や忌避感の歪んだ発露といった所が妥当に思える。


「とはいえ、わざわざ性別を変えて妄想はなぁ。そっちの気があるとしか……」


「――ん? 今何か言ったかじーちゃん?」


 何か呟いたようだったが、ボケッとしていてよく聞こえなかった。


「あーいや、聞こえとらんのだったらそれでいい」


 手をヒラヒラさせて、俺から目を反らすように刀身の手入れへと戻った。俺の話題スルースキルが低いのはじーちゃん譲りである。

 碌でもないことほざきやがった、という事だけは分かったが。


「……そういや、さっきから五月蠅かった紗耶香さんは?」


 ハァハァだったのに、なんか黙りですな。


「長いこと鞘から抜いていると、眠くなるらしい。手入れの最中は特にな。鞘に収めれば、文字通りに元通りだ」


 言って、じーちゃんは刀身を先端が綿に覆われた棒――打粉というらしい――の、綿の部分でポンポンと叩き始める。そこから僅かに舞う白い粉は研磨剤とのことだ。

 アレで優しく叩かれたら、確かに眠くなりそうだ。だが、抜くと眠くなるって、普通逆じゃね?


「儂としては、この方が有り難い」


「なして?」


「抜かねばならん時となれば、大概が荒事だろう?」


「ああ、喧しいのは居ない方が良いと」


「そう言うことだ」


 じーちゃんは大仰に頷いて見せた。






「まあ、何があったのかは想像が出来ないこともないんだが……」


「何だいクリス?」


 怪訝な表情を浮かべるクリスに、微笑んでみせる。


「どうして、妙に距離を置いてるの?」


 続くノエルの問いに、俺は沈黙を以て応じた。

 それなりに広い、闘技場内の廊下。俺は並んで歩く二人とおよそ二メートル弱の間をとっていた。


「男には、色々とあるもんさ……」


 視線を逸らして、遠くを見る目。

 ホントに色々あるんだ。妙な想像が頭を過ぎったり。だから近寄らないでくれ。


「俺の事なんて気にしないで、早くゴン達と合流しようぜ」


「答えになってないよ、リューク」


 嘆息し、一歩こちらへ踏み込むノエル。俺はそこから一歩後ずさる。詰まった間は元へと戻った。


「リューク……」


 また一歩近づく。俺も一歩下がる。


「だからどうして……」


 さらに一歩。俺も一歩。


「いい加減に……」


 一歩。一歩。

 まっくのうち! まっくのうち!

 幕之内一歩は部分的にヘビー級。そしてノエルはエクスカリバー。

 俺はアヴァロン。エクスカリバーの鞘。スッポリと収まってしまう、全て遠き理想郷である。主に腐った方々の。


 ……追い詰められた思考が至高なまで嗜好を脳内に植え付けようと試行しているその指向を歯垢の如く忌み取り払う志向を以て施行してみせる。

 うん、俺今頑張った。主に語彙の部分で。もうゴールしても良いよねと伺候することに至孝。


 ま、つまりもう限界。


「――勘弁してくださぁぁぁぁぁい!!」


 絶叫。そして俺は追いすがろうとするノエルを振り払い、先へと駆け出した。


「おい待――」


 クリスが横合いから何か言ったような気もするが、耳を貸す余裕なぞあるわけもない。

 スルーし、俺はノエルから距離を置くことのみに全霊を賭して加速。火が着いた逃走心は爆発的に勢いを増し、我が意識を埋め尽くさんばかりの勢いだ。

 そう、俺はただ逃避に暮れる一陣の風となるのだやっほーい!


 ――ドンッ!


 曲がり角で、早速人にぶつかりました。注意力不足です本当にありがとうございました。

 勢いよくぶつかってしまい、俺は尻餅をついた。ちょいと胸が痛い。強打した模様。おいおい、コレじゃぶつかった人が常人だったら大怪我モノだぞ!

 そこで慌てて、俺は俯きがちだった視線を正面に向ける。その先には同じく尻餅をついた人。


「あたた……。って、リューク?」


 ベージュのビニール袋を小脇に、そして『トーストを片手に持ったゴン』だった。もう纏は完璧なので、怪我はないようですね。むしろ、俺の方がダメージを受けているっぽいね。


 ――フラグが、フラグが立った!


 脳内で、何かが歓声を上げた。フにアクセントがついていた。

 うん、曲がり角でトースト咥えた子とぶつかっちゃうのは王道ですね。恋の始ま――。


 ……いやいやまてまて! ゴンとは既に知り合いだから、この手のフラグは無意味の筈。というかゴンにんなモン立つ筈無いんだよぉぉぉぉ!! 後どーでも良いけど、どうしてトースト持ってるんだ!?

 と、気になったので、まずそれを最初に尋ねた。


「ちょっとお腹が空いてさ。そこのパン屋で、このシュガートーストがオススメだったんだ」


 リュークの分もあるよ――。ゴンは立ち上がりながらそう言って、ビニール袋からトーストを一枚取り出し俺に差し出した。

 立ち上がりながらそれを受け取り、一口かじってみる。結構いけるな。冷めているのにサクッとした食感は残り、そして甘さに深みがあるというか……。


「――リューク!」


 ノエルが、俺の背後に立っていた。

 背筋に震えが奔った。


「あひゃぁっ!」


 思わず奇声を上げていた。

 追いついたクリスは、若干身を引いて胡乱気な眼差し。ゴンは、何があったのかと円らな瞳で小首を傾げていた。

 そして、俺の邪険な態度に双眸を潤ませて、微かに肩を震わせているノエル。

 高まる鼓動。目を奪われ――。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 直後には正気を取り戻し、身を翻してノエルに背を向けた。

 走り出すその刹那に、俺は舌打ちの音を聞いた気がした。




「――さっきまでのアレは何処へ行ったのやら」


「人は、変わるんだ。変わることが出来るんだ!」


「厨臭い物言いで誤魔化すな……」


 嘆息を含んだクリスの言葉に、胸元で拳を握って応えた。そこへ返ってきたのは、呆れた様子の声。


「ま、気持ちは分かる」


 クリスがそう言ってから目を向ける先、並び立つゴンとキルア。そして、二人に向かい合っているヒソカ。

 その禍々しい下半身とオーラに、俺は気圧されまくりです。なので――。


「あの、どうして二人とも、僕の後ろに隠れるの?」


 そう、俺達二人はノエルの後ろに電車ごっこ的連結をしている。

 ノエルの後ろに俺。俺の後ろにクリスと肩に手を置いた状態だ。

 唐突にそんな体勢を取った俺達に、ノエルが怪訝そうに問いかけるのも仕方ないことではある。


「なんでって、そりゃ……」


 そんなの簡単だ。


「怖いからに決まっているだろう?」


 先を引き継ぐクリスの言葉。そして、俺達二人はそろって頷いた。


「相っ変わらず、変な所で息が合うね二人とも……」


 肩をすくめ、首を回して半眼でこちらを睨め付けるノエル。


「いやあ、でも来るんじゃなかったね、二百階」


 大人しく百九十階で負けておけば良かった。もしくは登録取り消しになってもいいからここに来るんじゃなかった。

 俺みたいなヘボはスルーするだろうし平気か、なんて考え無しに来るんじゃなかった……。

 やっぱり怖いモノは怖いね。念を会得している二人を楽しそうに見てるヒソカ、マジ怖い。


「うん、お前が悪い」


 淡々としたクリスの声。そして俺は頬をつねられる。

 地味に痛いです。嫌なら来なきゃ良かったじゃんかー。


「……ごめんなヒィッ! 今こっち見てニヤッとした!」


 つい謝りかけたその時、俺はけったいな悲鳴を上げてしまった。

 ヒソカが、こっち見てたー!!

 ノエルだろ? ノエルなんだろ見ていたのは!?


 そう思いノエルに注意を向けると、何か知らんが頷いてその視線に応じていた。

 アイコンタクトしとるぅぅぅ!?

 一体何なのぉぉぉ!?


「別に、大したことじゃないよ」


 嘘だね、うん。絶対いつか闘ろう的な遣り取りだね。

 それとも今夜辺りどうだいとか、そんな感じのサインかい?


「冗談でも、そんな気持ち悪いこと言わないで」


 冷え冷えとした声は、途方もない圧力を帯びていた。


 その後、さして強くなさそうな三人組に見つめられながら、俺はゴン、キルアと共に登録。

 開き直って、いつでもOKと張り切るゴンに続いてしまった。キルアも、それなら俺もと流れに乗った。

 二人はつい先日にそのウザイくらいの才能を発揮し練の習得に成功してやがるし、身体能力も加味して考えれば、未熟な練でもまず死ぬことはあるまいと思い、あえて止めたりはしなかった。

 まあそれでも後で、ウイングさんに危険だろ止めろよといった趣旨のお叱りを、ゴンと一緒に受けるのだが。






「あー、少し言いにくいんだが、リュークとはもう少し距離を置いて付き合った方が良いと思うぞ」


「どういう事?」


「怖い顔をするな……。例の呪いとやらが解けないうちから目を光らせておくのはいいが、そろそろリュークがある意味ヤバイ。少し焦っていないか?」


「別にそんな事は……。――ごめん、そうかもしれない」


「リュークが傍にいないのが原因か? 仮にリュークが誰かになびくような事があっても、お前がその気になれば、今のままでも他からむしり取れるだろうに」


「そうじゃなくてさ、原因は僕の方。この体、ホントにどうにかなるのかなって」


「そうか」


「距離が近くなればなるほど、それが遠いって改めて実感してさ。それに、あの人を納得させる様な人間になったら、それこそリュークに嫌われるなって思って」


「……あー、私が言っても説得力無いと思うが」


「何?」


「女は仮面を被ってこそ、だろう。それが出来なくなったら、ある意味お終いだ」


「意外と言うね……」


「それに、無理して本性を変える必要も無いだろう?」


「仮面の方を、って事? そう簡単にいく人じゃないよ」


「やってみればいいじゃないか、最強の仮面。それが出来れば、お前は無敵の女になれるだろうさ」


「……良いね、無敵の女。悪くないよ」


「だろう?」


「うん。――あ、ごめん着信来てる」


「ああ、どうぞ」


「――もしもし。……はい。…………はい、分かりました。それでは」


「なんだ、早いな。どうした?」


「予測よりちょっと早いけど、そろそろ仕事だよ」


「そう、か……」


「二十四時間以内に、ポイント6。でも、クリスは参加しない方が良いね」


「……お前は行くのか?」


「うん。先発の調査隊に加わるよ。飛行機のチャーターもしてあるはずだから、早く行かなきゃ」


「――リュークには、何も言って行かなくて良いのか?」


「いや、もう遅いし、コレが最後って訳じゃ、だから、別に……」


「怖じ気づいて……。相変わらず、こんな時だけ妙に臆病だな。ほら、走ればすぐだろう。行くぞ!」


「あ、うんっ」


「ほら、キビキビ動く!」


「うん! ……ありがとう」


「礼は、無事に帰ってきてからにしてくれ。出来れば、金銭的な物で」


「闘技場で戦えば?」


「これは手厳しい。ま、その調子だ」




続く




あとがき

自動車免許を取りました(挨拶)

これでキメラアントフラグは潰れました。めでたしめでたし。

天空闘技場編もそろそろ終わりになります。

……ほんと、この話もいい加減早く終わらせないといけませんね。グダグダです。

早く終わらせて、オリジナルの現代邪気眼ファンタジーか、ヒーローに憧れての改訂に取りかかりたいです。

我ながら凄くダメな二択ですね。とりあえず今回はコレにて。

黒の組織的な物について考えると、麻生先生の偉大さを思い知る圭亮でした。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 八話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/10/14 22:05


「ばっ、そっちはダメだ!」



 慌てた様子で悲鳴じみた声を上げるキルア。見つめる先のゴンはその声に気付く余裕もないだろうが、歪んだ表情から自分が危機的状況に陥ったことに気付いたのだろうと分かる。

 リング上、弾き合い舞い飛ぶ、数多くのオーラを纏った独楽。絶の状態でそれを回避し続けるという、一つ間違えば死に直結する無謀。危惧した通りに、ゴンは追い詰められた。



「止めときゃよかった……」



 練を覚えている癖に、どうしてこんな命捨ててるとしか思えない愚行に走るんだよ! 確かに、覚えたての練じゃ決定力に少しばかり不足だった。防戦一方でじり貧は目に見えていた。けど……。

 ゴンに迫る一つの独楽。纏うオーラも、その速さ自体も大したことはない。しかし、縦横無尽に跳び回る独楽が回避しようにも周囲ををふさいでいる状況。

 加えて、おそらくはこれまで回避し続けた疲労のためだろう。反応が普段よりも遅れがちだった。ダメだ。避けきれない――。



「あ……」



 ゴンは脇を締め、腕を掲げて盾にし、独楽を受け止めた。直撃したその独楽は弾かれ、舞い上がった。

 一瞬浮かぶ苦悶の表情。しかし、大きなダメージ受けた様子はなかった。



 ――あの状況で、咄嗟に練を使うなんて……。



 そう、ゴンは練の状態で防御し独楽を無事防いでいた。そのオーラに力強さが欠けていたためか、衝撃をある程度軽減するのみに留まっていたが。

 練は未だ慣れない覚えたてで、一つ間違えば致死確定の嫌が応にも緊張するシチュエーション。咄嗟に集中して練なんて、そう簡単にできるもんじゃない。その勝負強さがゴンとも言える。

 俺は思わず安堵のため息をついていた。ゴンは纏をしてその前方、空いたスペースへと駆け出す。その先には、対戦相手、ギド。

 ギドは体を支えていた杖を床から離して抱えた。先端が丸い一本の鉄製義足のみの不安定な体勢。そして身を捻る。体がスピンし、ゆっくりだった回転は次第に勢いを増していく。それに比例するように纏うオーラも高まり、そして高回転へと達した。

 その体が纏うオーラは、俺から見れば大したこともない。だが、ゴンのそれよりも遙かに大きい。ぶつかり合えばゴンが押し負けるのは必死。そうなれば、ポイントが取られて試合での敗北が確定する。

 さすがにそこへ、勇気と気合い一つでぶつかっていくような真似はしないだろう。勝算があまりに低いというよりも無い。ゴンはただ、負けないためならば命が掛かっていても、そのリスクを平然と負うと言うだけで。勝算が低くてもそれをするぶっ飛んだ思考には呆れてモノも言えないが。

 ゴンは、ギドと一メートルほどの距離を置いて止まった。そしてしゃがみ込む。そこで、俺はようやくゴンが何をしようとしているのか悟った。

 そう、そこは丁度リングに敷き詰められた石版のスキマ。練による肉体強化と共に、そこへ指が差し込まれる。そして――。



『なんとぉーー! リングの石版ごとギドをひっくり返したーーーー!!』



 石版と共に、宙を舞うギド。実況の叫びと共に、歓声に沸き上がる客席。俺も思わず溜息を漏らし、興奮に汗の滲んだ拳を握った。

 石版が縦に落ちて倒れ、大きな音を立てた。続いてギドはその傍へ背中から落ちた。その足では、すぐさま立ち上がる事は出来ないだろう。にじり寄るゴンへの反応も遅れた。

 仰向けの姿勢となっているギド。見下ろす形でそばに立つゴン。そしてゴンは拳を振り上げ――。



 振り下ろされる瞬間、ギドはそこで身を捻った。オーラによる回転の増強。ゴロゴロと転がって離れていく。ゴンの拳はすんでの所で空打った。

 回転を緩めて、ギドは杖を勢いよく床へ突き立てた。反動で跳ねるように起き上がり、身構える。勝負はまだ、これからだ。



 ――そこで、弾き合った末にギド目掛けて跳ね飛ぶ独楽が一つ。

 普通に床で回転している独楽ならともかく、弾け飛ぶそれを咄嗟に操作する手段は無い筈。ならば――。



 再びギドは回転。直撃した独楽は、呆気なく明後日の方向へ弾き飛ばされた。あの技は、その為のモノでもあったのだろう。

 そしてギドは回転を止めた。そこを狙って駆け出し、間合いを詰めるゴン。一歩の度に、床の石版がひび割れるのが見えた。その足に、おそらくは無意識だろう凝によって、オーラがやや偏っていたのだ。主人公補正にも程がある。

 独楽を受けることに意識が飛んでいたのか、そこでようやく回り出すギド。オーラに焦りの揺らぎが見て取れた。そして、遅い。

 回転に勢いが乗るよりも早く、オーラが高まり安定するよりも早く、ゴンの拳がギドの腹部を直撃していた。ギドは場外まで吹っ飛び、力無い様子で床を跳ね、転がった。

 ゴンへのポイントは、クリティカルとダウンが加算された。それからギドが動き出す様子が無く、審判がそこへ駆け寄り、呼びかけている。



 そしてその数秒後、ギドの戦闘不能が確認され、審判はゴンの勝利を高らかに告げた。





微妙に憂鬱な日々



第三部 八話





「いやぁ途中まで冷や汗もんだったぜ」



 退場し控え室でベンチに座るゴンを見つけ、無事を確認し声をかけた。

 観戦中に溜まった不安やら何やらを吐き出しながら、ゴンの肩をばんばんと叩いた。ばんばんと。



「ちょっと、痛いよリューク」



 ばんばん。



「あの、もしかして……」



 ばんばん。



「リューク、怒ってる?」



「……俺だけじゃないぜ」



 叩く手を止め、後ろに控えるキルアを顎で指し示す。

 キルアがゴンの肩に手を置いた。その手にも、やたらと力が籠もっている様に思える。



「ったく、心配させやがって……」



 睨み付けるキルアの表情は、しかし先ほどの観戦中とは打って変わった安堵の緩みを見出すことが出来た。



「でも戦闘中に絶とか、お前正気だったのか?」



「ホントだっつの。洗礼を受けた連中の姿は見ただろ?」



 俺は嘆息混じりに、続くキルアは半ば叫ぶように声を荒げた。キルアのゴンを心配する様子に、依存心を感じさせるスメルがあるような気がしないでもないが、黙殺することにした。

 だがキルア、掘って良いのは掘られる覚悟のある奴だけだぞ。いかん、何か変な電波受信した。



「いや、大丈夫かなって思ったんだ。いざとなれば練もあったし、何度か受けてみた感触で絶でも急所を外せば死ぬことはないって、ちょ、あっ」



 ゴンが言い終えるよりも早く、俺はゴンの頭を強く掴んで揺さぶっていた。キルアも無言で、肩に置いた手の力を強くしていた。試合直後の疲労によってゴンは強く抵抗できないでいる。



「ゴン君」



 静かな、やたらと威圧を帯びた声が響いた。沈黙が降りる。振り向くと、後ろにウイングさんが立っていた。



「ウイングさん、あ……その、ごめんなさい」



 その迫力にゴンは気圧され、申し訳なさそうに囁くような声を上げた。

 ウイングさんはつかつかとゴンに歩み寄り、そのまま何も言わずにゴンの頬をはたいた。



「私に謝っても仕方ないでしょう! 一体何を考えてんですか!」



 口を開けば、飛び出すのは説教の怒鳴り声。長々と語りは続いた。

 ゴンは俯いて居心地悪そうにそれを聴き、俺とキルアは大声に驚き、それから同意を込めた視線をゴンに送る。

 説教が一段落したら、ウイングさんはゴンの肩や背中をさすりだす。そして腕や足も。

 それを見て俺は怪訝な視線を送りそうになったが、大きな怪我が無いのか確認しているだけだと気付き、申し訳ない気分になった。いつの間にか俺は汚れきった大人になっちまったようだ……。



「外傷は切り傷以外には無いようですね。医務室で看て貰いなさい。検査も、念のためしておいた方が良いでしょう」



「はい……。ウイングさん、本当にごめんな――」



「許しませんよ」



 咎める視線でゴンの言葉を遮った。表情は硬くなっているが、この方がむしろ怖くない。怒りが収まってきている様子だ。

 その後、今度同じような真似をするならば念を教えるのは止めると告げ、ウイングさんは踵を返して去っていった。

 原作では確か、怪我したゴンにしばらく念を学ぶことを禁じていたはずだが、結果オーライなところもあるのだろうか。こんな時こそ厳しくするべきだと思うのは、俺だけか?

 だが、どんなに厳しく言い含めても、その時になったらゴンはまた軽々しく命を賭けるだろう。確信がある。漫画を見ていたからとかではなく。実際に目の前のゴンを見て、そう思った。

 だから、結局は無駄なことだろうし良しとしよう。

 若干沈みがちな空気を払拭するために、俺は手を叩いた。



「さ、反省はこれくらいにして。今夜はゴンの勝利祝いをかねて、どっか美味いところに食いに行こう」



 まだ、五時前だけど。



「本当?」



「ま、別にいーけど、美味いとこなんて知ってんのか?」



 ちょいと二人が切り替え早すぎる気もしたが、良いとしよう。美味い店を知っているかって?



「知ってるよ。知る人ぞ知る名店って奴を、な。ちょい待って。今クリスとか誘うから」



 携帯でクリスの番号を呼び出す。クリスはすぐさま出た。



「あ、もしもしクリスー。こないだじーちゃんが見つけたって言う寿司屋行かな――」



「そんな場合じゃ無い! 大変だリューク! 今すぐ来てくれ!」



 クリスの叫びが俺の言葉を遮った。

 割と落ち着いた雰囲気が出ているっぽいクリスが、ここまで切羽詰まった様子の声を上げるのは珍しい。一体何が――? 俺の内心にも、動揺が微かに滲む。



「……とりあえず、今からそっちに行く。何処にいるんだ?」



「ホテルの部屋だ。急いで来てくれ」



 若干落ち着いたようだが、それでも上ずった声のせいで落ち着きに欠けるのが丸わかりだ。

 とりあえず、何があったのか確かめないとな。行ってみよう。



「分かった。……ごめん二人とも、ちょっと行かなきゃなんないわ。後で迎えに行くから、部屋で待っててくれ」



 了承し、電話を切る。そして二人に謝ってから、駆け足でクリスの元を目指した。







「こ、これは……!」



 そこで俺が目にしたモノは、俺のちっぽけな想像を遙かに上回っていた。

 予想だにしなかった、不条理極まりない現実。

 こんな、こんな事があっていいのか!?

 あまりに、酷い……。

 俺は目を剥き、その現実に憤り、そしてやり場の無い怒りに身を委ねるしかなかった。



「ざっけんな!!」



 白い天井を仰ぎ、絶叫する。

 乱れた心によって荒くなった息、上下する肩。

 整えて落ち着こうなんて考えることも出来なかった。





「何処の何奴だKanonとAIRパクリやがったのは!!」



 視線を落とし、再びテーブルの上に置かれたノートパソコンの画面を見つめる。



『夏……そして冬。二つの季節、二つの物語。AIR、Kanon、五月十二日同時発売決定!』



 そんな、巫山戯たキャッチコピーと共に、青と白を基調に置いた色鮮やかな公式HPが開設されていた。

 それを一通り眺めた結果、俺は先ほどの怒声を上げたのだ。



「な、むかつくだろう?」



 そう言いクリスは目を細め、画面を見つめたまま不快気に鼻を鳴らした。



「ああ、チョベリバって感じだ」



「正直突っ込む余裕もない」



 緊迫した場を和ませようとボケてみたら、帰ってきたのは嘆息混じりのつれないお言葉。

 けどスマン、自分でも今のは無いと思ったわ。

 しかしこれは……。



「確かに、向こうの著作権はこっちじゃ便所紙にもなりはしないがな……」



 クリスの呟きに、苛立ちが透けて見えた。

 そうだな。ああ、むかつくモノはむかつく。

 クリエイターを志すモノとして、許容したくない。

 確かに、俺だって書く小説の所々に、既存の作品から影響を受けたと思しき部分は少なからずあるさ。

 けれども、素材を余所から持ってこようと、試行錯誤し自分の味をつけられるよう努力するのを怠ったことはないぞ。

 もう一度HPを全体にざっと目を通す。……これは何だ!?

 登場キャラ紹介、名前は弄ってあるが、特徴とか性格とかはまんまじゃねえか。しかも原作絵とは違う、微妙に流行りの画風を取り入れた改変具合。あの絵じゃないって時点で泣きたくなる。



「この画風、ミュートスを思い出すのは気のせいか?」



「微妙にそんな気しないでもない」



 クリスの言に同意する。

 クリーチャーにあからさまな手抜きが見られたアレですね分かります。

 そして、あらすじやサンプルCGはやはり元ネタを喚起させる記述や風景があり、決定的だったのはプロモーションムービー。

 音楽とかムービーの演出が、やはりOPを劣化複製させていたのだ。特に音楽の編曲具合が最悪だった。



「俺達の、オタクの国歌が汚された……」



 もはや嘆くことしかできなかった。



 その後じーちゃんや一哉を誘って、ゴンやキルアを呼び寿司屋に向かう。

 初めて食べる寿司にゴンやキルアは舌鼓を打ち、はしゃぐ。じーちゃんや一哉も久々らしい寿司にまんざらでもなかったようだ。

 俺とクリスはというと、以前食べた寿司屋の方が安くて美味しかったなぁと落胆が先に立ったのは、やはり舌が肥えているからなのだろうか。

 付け加えるならば、先ほどのアレのせいでテンションが上がらなかったのも、素直に味を楽しめなかった原因かもしれない。



 その晩、俺はギャルゲーを早く作らねばと焦燥に駆られ、眠りが浅かった。

 明日はリールベルトと試合があるというのに……。





続く






[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 九話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/11/08 00:28


「削りの作業、思いの外早く進んでいますね」


「やっぱり、ハンター協会からの援軍は大きかったわね。対応が早くて助かったわ。――そろそろ本格的に潰しにかかるけど、ノエル君はまだいけそう?」


「はい。さっき師匠に回復してもらいましたから、九割がたの力は出せます」


「さすがに貴女をそこまで回復させたらヘトヘトなんじゃないの、アルバート?」


「はい、ガロンさんと撤退するそうです。もっとも、師匠達では蟻の本格的な対応に抗しきれないようでしたので、丁度よかったと思います」


「それ、本人の前で言っちゃだめよ? ただでさえ今回、傷薬な扱いで不満なとこあるから。足手まといとか弟子に言われたら泣くわ」


「言いませんよ。それに師匠は、僕の事情を知っても平気そうでしたよ?」


「割と意地っ張りなのよ、あの子。実は弟子が自分よりずっと強いって最近知りましたーチクショーなんて、人前じゃ言わないわ。でも、貴女なら弟子入りしたその日にボコボコにできたんじゃないの?」


「さすがにそこまでは……。それに、師匠の教えはとても為になりましたし、尊敬もしています」


「それも本人の前で言っちゃだめよ。すごいイヤミに聞こえるから」


「一応本心ですよ?」


「一応ってトコに引っ掛かるけど、まあどっちでもいいわ。じゃ、一旦別れましょう。合流時刻に遅れちゃダメよ」


「分かってますって」




微妙に憂鬱な日々


第三部 九話




『王の為に在れ』


 始まりは、全身を震わせる怒濤。

 脈動と共に身の内より出でて、広がり、染み渡っていく。

 生まれ落ちる前、殻の中で微睡む事しかできない身には、それこそが光。

 それこそが、世界の全て。


『王の為に在れ』


 それこそが自らの本能。

 生物の根本たる生存よりも、生殖よりも優先すべき、己が存在理由。

 自らを支える価値観であり、絶対の倫理。

 それこそが全て。

 身を包む波紋が止むことは無い。

 強く刻み込めと、幾度にも幾度にも。


 ――王の為に、在る。


 胸中で木霊する本能の叫びは、何時しか自らの寄って立つ決意へと変貌を遂げた。

 形成された自我は、遂には強固な物と成り果てる。

 目覚めの時は、近い。

 その時こそ、この身を王の為に――。




 殻が、割れた。

 羊水の流れに乗ってゆっくりと滑り落ち、肌に大気を感じた。

 瞳で、世界を見た。

 耳が、どこか遠くのざわめきを聞き取った。

 口から、呼吸をした。

 膝をついた状態から、恐る恐る立ち上がる。

 始めぎこちなかった動きは、自然と馴染んでいった。

 まるで、忘れかけていた物を思い出すように。

 目の前に、座して自分を見つめる存在。

 女王だ。

 その胎内に、自らが仕えるべき王を抱いている。

 立ち尽くすその身が、自然と膝を折っていた。

 そして、恭しく一礼。

 王よ、早くお目覚めに。

 この身は貴方を待ちわびております。

 未だ意志を持たない、小さく弱々しい大器に、忠誠を誓った。

 その目覚めはまだ、少し遠いだろう。


『王直属の三戦士が一よ』


 頭に響く声。

 音ではなく、脳に受ける特殊な信号が意志をダイレクトに伝えた。

 女王のお言葉だ。


『お前に、名を与えよう』


 その時だ。

 聞き入ることを本能が中断した。

 女王の言葉より優先し、その意識を遠く外界へ向ける。

 未だ違和感残る五感が、微かに覚えた寒気。

 怠惰に見過ごすことは許されない、察しろ。

 間を置かずに確信が閃いた。

 女王へ、王へ何かが近づこうとしている。

 コレは敵意だ。

 王の、危機だ――。


『お前の名は――』


「……賊です」


 初めての発する言葉で女王を遮り、その身は既に女王へ目もくれず駆け出す姿勢を取っていた。

 これこそ己が最上と言う確信と共に、四つ足の姿勢で起伏のある床を踏みしめ、掴む。

 特に力が籠もった大腿は、筋肉が異様なまでに膨れあがった。

 そして、大地を退けるが如く、強く蹴り、突き放した。

 反動により、泥と糞で固められた地は容易く爆ぜ砕け、伝わる衝撃に微震が走った。

 その速さは瞬く間に最高へと跳ね上がり、地を蹴る度に空気が重くまとわりついてのしかかる。

 それを振り払うように強く全身に力を込め、四足獣のしなやかな疾駆は風を切り裂くように。

 一蹴りの度に五感が研ぎ澄まされていく。

 そして体内で高まる熱と共に、ある種の喪失感を覚えた。

 何かが失われていく感覚。

 止まれと念じた。

 止まった。

 同時に、挙動が力強さを増すのを自覚した。

 曲がりくねった道を体重移動による最小限の軌道変更で進み、時には壁面を蹴りつける強引な方向転換。

 程なくして壁面に空いた大穴を見つける。

 その向こうには藍の広がる、遠くに夕焼けが見える空。

 眼下の森は、白い靄が被さり不鮮明だった。

 そこで一旦速度を緩め、穴の縁に手をかけた。

 見下ろす先、幾つもの危機を思わせる予兆がそこかしこで息を潜めている。

 見て取ることも出来ない靄の中、しかし極限まで研ぎ澄まされた五感、そこから導き出される微かな違和感から、六感は迷い無く答えを導き出していた。

 最も恐るべきは、最も危険なのはこの先と、視線を眼下の一点に送る。

 確信と共に、警戒する体に力が籠もる。

 同時に、内から湧き上がり全身を覆う力の激流を感じていた。

 唇の端が持ち上がるの自覚した。

 王の危機だというのに、今の状況に昂揚を、喜悦を感じている。

 だが、これは、意志はきっと力になる。

 王を護る為になるなら、楽しむのも悪くない。

 集中が刹那を引き延ばす体感時間の中、駆けた勢いを殺しきってすらいない間に、思考は完了。

 そして、跳んだ。




 煙に覆われた視界。視覚のみに頼らない、五感全てを駆使した知覚が敵を補足した。

 内に満ち溢れる程のオーラは押しとどめ、忍び寄る。自らの射程圏内で、それを開放。内より溢れる怒濤を束ね、ノエルはその拳打を以て、眼前の頭蓋を砕いた。

 首を切り落としても半日は生き延びるキメラアントの生命力も、それを支える意志の根本は脳にある。故に、必殺を期すならば頭蓋を。

 どれほど強固な外殻に包まれようとも、オーラを纏った拳ならば砕くに足る。その殻をさらに覆う分厚いオーラの壁も、この拳ならば食い破ることが出来る。

 銀の手甲に覆われた拳打は、その一撃が確実に蟻の頭蓋を砕いていた。飛散する外殻の欠片、脳漿。拳が穿つ、柔らかな感触。仕留めた――。達成感が緊張を僅かに弛緩しようとした瞬間、全身の肌が粟立った。


 ――来る!


 確信めいた胸中の叫び。肌が、耳が、臭いが、オーラが、それらを統合する今までにノエルの培った経験と才能に基づく危機察知能力が、感じ取った危機の予兆を無視することなく、全身を動かす反射へ塗り替えた。

 直後、強く地を蹴り宙に身を躍らせる。七メートルほど置いて着地。一瞬後、ノエルが立っていたそこへ、悪鬼が舞い降りた。

 誇張抜きで矢の如く空を穿ち、巻き起こす風が煙をなぎ払った。轟音と共に地を踏みしめしゃがみ込み、そして立ち上がるその動作は反動による怯みを感じさせない、軽やかな物だった。それだけで身体能力の凄まじさが伺える。

 悪鬼は比較的人間に酷似した、整った形状だった。単純に外見だけで言うならば、今までにノエルが砕いた蟻達よりも大人しい。

 そして、身近に強者を多く知るノエルでさえ、過去に類を見ない程の猛威を垣間見せるオーラを纏っている。大きく、禍々しく練り上げられている。戦慄に動悸がし、表情が強張った。

 こちらに振り向き、満面の笑みを見せた。目を大きく見開き恍惚を感じさせるその表情は、凶悪に映え狂気を感じさせた。

 無意識の内に逃走を図ろうとする我が身を必死で押しとどめ、僅かに腰を落として臨戦態勢。逃走は無意味だ。間違いなくすぐに補足され、おまけに余計な隙を見せるだけ。ならば――。


 ――先手必勝、とは言わないけれど。


 大きく息を吸い、吐く。僅かに呼吸を整えて、それからより強い練を。纏うオーラを一段階増やし、地を蹴った。共鳴するかのように、迎え撃たんと腰を落とす相手のオーラもまた一段階、脅威を増した。

 状況が好転する兆しは芥ほども見あたらない。しかし、ここで二の足を踏むのは愚の骨頂。無理矢理にでも活路をこじ開ける――! 胸の内で叫び、戦闘行動以外の余計な思考を消した。恐怖をはね除けるのではなく、そこから目を反らし、ノエルはさらに強く地を踏み加速した。

 既に相手の間合い。その振り下ろされる拳に、莫大なオーラが収束していく。ノエルはオーラの揺らぐ起こりを見逃さず、踏み込む方向を横にずらして回避。頬のすぐ横をかすめていく拳。纏うオーラの強烈な圧力を肌で感じた。

 怯まず直後の隙を突き、更に踏み込めばそこは己が間合いの内。ノエルはオーラを込めた右拳を繰り出す。銀の手甲に覆われた拳が、鉄壁のオーラを砕き喰らいながら進み、無防備の脇腹を強かに打った。

 余りにも、手応えがなかった。拳が穿ったオーラは、その体に届くまでの半分程度までだった。そして拳が纏う、削ろうとし結果その膨大なオーラに押された反動で減衰が見て取れるオーラでは、その半分を越えるにも遠く及ばない。


 ――オーラが多すぎる!


 舌打ちすると同時に、続いて襲い来る開かれた掌、その爪による斜めに切り上げるような攻撃を、半歩下がり身を僅かに捻って回避。首の薄皮を削がれた。

 回避運動と共に引かれた右拳、そこに連動し続いて放たれる左の拳打。逆の脇腹へと打ち据えた。さらに多くのオーラを込めるも、やはりオーラを削りきれない。与えたダメージも高が知れていた。

 そして来る蹴撃。大きく仰け反り、跳ね上がるその爪先からノエルは危うく逃れた。そして隙が生じた相手の胸部を、仰け反る勢いのまま後ろに倒れ込むような姿勢で蹴り、反動によって大きく跳躍。危うげ無しに着地し、そこから更に一歩後方へ跳んでより距離を取る。


「は、はぁっ……!」


 そして大きく息を吐いた。時間にすれば、ほんの数秒の遣り取りだろう。しかし、高まった集中によって引き延ばされた刹那は濃密で、悠久の一端を垣間見たかのような錯覚すら覚えた。その中で、死を鮮明に傍らで感じながらの動作は、体力を時間と不釣り合いに大きく削いだ。

 ノエルは緊張と疲労で荒くなった息を整えながら、今の動きこそが自分の天井だと理解した。引き出された極限。その代償がこれだ。

 かろうじて相手の攻撃を凌ぎ、決定打になり得ない拳打を二発ばかり喰らわせて逃げる。今自分が出来たのはたったそれだけだ。相手も、それを意に介した風もない。

 肉体そのものが持つ性能が、圧倒的なまでに違う。幸いと言って良いのか、挙動の予兆を容易に読み取らせ、動作の一つ一つに継ぎ目とも言える僅かな間を作る相手の未熟さが、ノエルの命を繋いでいた。

 つまりは、圧倒的に技量で勝っていながらそれを以てしても、総合的な戦闘能力においてノエルは劣っているということだ。しかも少しずつではあるが、しかし急速にその大きな隙が埋まっていくのを感じる。野生の本能に基づく適応か、はたまた人間の知性による学習か。一人では勝てない――。ハッキリと体で認識した事実に、ノエルは唇を噛み締めた。

 それでも、ここで退いてはならない。せめて、援軍が来るまで保たせねば。今でさえこれだ。見逃し、この蟻がより高みへ上り詰めたら、手がつけられなくなる。

 ……もしも、この様な化け物がこの先も増えたら。それらを統率する王が生まれ、繁殖し、その数を爆発的に増やしたら――。

 人が、終わる。

 つまりは自分も、自分が誰よりも愛するあの人も。

 ゾクリ。

 最悪の想像が生み出す押さえきれない恐怖が、一瞬背筋を大きく震わせた。

 目を反らし押し込めていた筈の恐怖があふれ出すのをハッキリと認識し、全身に重くまとわりつくのを自覚した。

 呼吸が浅くなり、手足が一瞬の硬直を見せた。それはこの場において、あまりにも致命的な隙だった。




 打たれた腹、衝撃が内蔵の奥底まで響いた。強烈な拳打だった。悪あがきのようにも見えた胸部への蹴りも鋭く、その衝撃は心の蔵を震わせた。

 痛苦に歪みそうな表情を、無理矢理に平然としたものにし虚勢を張る。何よりも、己の表面を覆う力の流れを食い破ろうとした拳打へ抱く、言い知れぬ不安を内心に押しとどめながら。

 この人間を生かしておいてはならない。最初の印象は危険だが、生かして捕らえれば女王に捧げる極上の養分になると思っていた。だが、この場で何としてでも討たねば、いずれ王を脅かす強大な敵となると確信した。この、胸の内で微かにざわめくものは、恐怖だ。

 相手が一瞬硬直するのを見逃すことはなかった。殺せ――。湧き上がる殺意に駆られるまま地を蹴り、肉薄する。そこでようやく、相手は回避を始動する。だが遅い。

 強く握った拳に熱が籠もり、全身を覆う力が流れ集っていくのを感じた。そして、自身でその威力を味わった痛烈な拳打を思い出す。あの無駄なく素早い挙動。再現を試みる。

 地を踏みしめ、全身で打ち出す力の収束した拳を放つ。あの流麗さとは比ぶべくもない拙く雑な模倣。だが、今の我が身が体現しうる最高には違いない。直撃すれば、眼前の相手を数度砕いて尚余る――!




 近づいてくる、膨大にして獰悪なオーラの塊。拳がその核だ。

 それを支える、先より幾らかマシといった程度に改善された身のこなし。

 だが身体能力の高い分、動きに現れる鋭さは顕著だった。

 回避は間に合わない。

 脇を締め、両の腕を前方に揃えて構え、盾とする。

 そこへオーラを集めるが、眼前の脅威からすれば無いも同然だと悟っていた。

 身じろぎすら許さない一瞬はゆっくりと過ぎ行き、ゆっくりと迫り来る拳を間近に認めた。

 己が最高と思ったそれよりも、さらに一段上の集中による産物。

 死に瀕する際の集中は終焉を覚悟する為ではなく、打開する覚悟と思索を見出す為の瞬間だと、聞いた覚えがある。

 しかし、この状況を打開する手立てが浮かばない。

 光明をと記憶を探れば、目に浮かぶ過去の光景に鮮やかな思い人の笑顔を見た。

 それすなわち走馬灯。

 ――ごめん。

 何へ向けた物か、思い人に胸の内で謝りながら、己の非力と隙を作った迂闊さを嘆く。

 諦観に支配された体が脱力しかけ――。


 迫り来るオーラの大半が、その拳から肩へと払い退けられた。

 横合いから突き出され振るわれた藁箒によって。


 オーラの激減した拳が触れる。腕から全身を貫くような衝撃を堪えながら、ノエルは救われた安堵か、口元が微かに綻んだ。頼もしい援軍の到着だ――。

 鈍い音が響いた。無防備に近い相手の拳が、ノエルのオーラに押された結果だ。

 敵は、拳が拉げ手首があらぬ方向に曲がったその腕を引きながら後方へ跳躍。そして割り込んだ箒の主へ、警戒の視線を向けた。

 ノエルも、傍らに悠然と立つその人物へと意識を向ける。


「遅れて御免なさいね、ノエル」


「いえいえナイスタイミングですよ、ミリアさん。――狙ってませんよね?」


 ノエルはその人物――ミリアに苦笑を交えた猜疑の視線をチラリと送った。


「流石にこの状況で、そんな余裕ぶっこいた真似はしないわよ」


 苦笑を返すミリア。そして見合って小さく笑う。

 軽口を叩きながら脱力したかのようにも見える振る舞いに、しかし二人は揃って臨戦態勢にあった。睨むでもなく、それでも相手に軽々しくは踏み込ませない威圧を送る。

 敵の警戒し伺う視線が肌に刺すような感覚を覚えながらも、ノエルは乱れがちだった呼吸を正常に整えた。そして、構える。

 ノエルの回復を待っていたのだろう、ミリアも続いて構え、箒の柄側を相手に向けた。


 そして、二人は同時に地を蹴った。


 迎え撃つのは、爆ぜる怒濤の如きオーラ。

 敵の体を払ってオーラをずらす、念の籠もった藁箒。

 相手ががずらされたオーラを修正するまでの隙をつき、薄い防壁へ拳打を加えるノエル。

 時にはノエルがオーラで編まれた手甲を解き、ハーフグラブを纏った手で敵のオーラを僅かにずらし、その小さな隙をミリアが箒の柄で強かに打つ。

 困難だった筈の、破壊と吸収に特化した『暴食の顎(イーター)』から分析と介入に特化した『弄ぶ御手(パズラー)』への瞬時の切り替え。

 ノエルはこの戦闘の中で、今までにない劇的な成長を遂げていた。




 しかし、敵の成長速度はそれを遙かに上回る。

 その肉体へ蓄積していくダメージ。それでも怯むことなく、挙動の淀みとも言える無駄を少しずつ、少しずつ削いでいく。

 防御に繋がる攻撃、回避に繋がる攻撃、攻撃に繋がる回避、攻撃に繋がる防御により、動作の継ぎ目が埋まっていく。

 薄くなった力の部分へ、瞬時に別の箇所から力を流し込む、超高速の操作。押され気味になっていた筈の状況を盛り返し、ここに来て拮抗へと至った。

 そしてそれだけに留まることはなく、蟻は更なる進化を――。

 

 最大の高まりを見せ、全身から湧き上がるその力。

 殺意によって緻密に練り上げられた激流が収束し、形を成していく。

 完成する最高の力に会心の笑みを浮かぶ。

 雄叫びを上げ、今その猛威を振るわんとする。

 そして次の瞬間、昂揚に塗りつぶされていたはずの思考が漂白された。

 己の力の大半を注ぎ込んで形成したはずのそれが、消え失せた。

 何故?

 疑問に囚われると同時に答えは出ていた。

 その、今までに増して異質さを纏った箒。

 それが、力の集約した塊を打ち消した。

 容易に砕くことなど出来ないはずのそれを。

 そして、今この身は力の大半を削がれ無防備――。

 間断なく双方向から押し寄せる猛攻。

 幾重にも連なる衝撃。

 薄れていく意識は、もうそこから先を想うことはなかった。




「結構ギリギリだったわね」


「ええ、地力で圧倒的に負けてましたからね。持久戦に持ち込まれていたら、間違いなくこっちが負けてました」


「奥の手使っちゃったのが痛かったわね」


「大丈夫ですか? 髪の毛、大部浸食されてるみたいですけど」


「大丈夫じゃないわよ。これから、この髪を編み込んだ人形作って清めの儀式。もう撤退しかないわね」


「……勿体ないですね。綺麗だったのに」


「また伸ばすわよ。あなたは、髪の毛伸ばさないの?」


「僕はいいですよ。似合いそうにないですし」


「そんな事はないわよ。髪質は良い感じだし。やりなさいよ」


「え、えっと……」


「そろそろそうしても良いお年頃な訳だし、ちょっとは色気づきなさいな」


「で、でも……」


「私も、出来るだけ早く孫の顔が拝みたいのよ。家の息子と、ね」


「と、年寄り臭いですよ?」


「まあまあそう言わずに、そろそろ頑張ってみなさいな」


「…………そりゃ、出来るなら僕だって」




 続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:392e30b4
Date: 2008/11/14 11:02


「てーへんだてーへんだー!」


 その日の午後、リールベルトとの試合を速攻で終わらせ、部屋でクリスとギャルゲについて議論を交わしていた。どうやって勝ったか? ゴンのパクりだよ。

 そこへ、レトロチックな叫びを上げ部屋へ駆け込んできたじーちゃん。

 うん、正直ちっとも大変そうには見えない。


「どうしたよじーちゃん?」


 とりあえず応じる。

 ついに女の子の日でもやってきたか?


「違うわお兄ちゃん。まだお兄ちゃんの子供は産めないの」


 頬を染め身をくねらせるじーちゃんは、ちっとも可愛く見えない。


「ちょっとキモイぞお前達……」


 横合いから、クリスの呆れた様子の声。


「まあ、コレを見ろ。プリントアウトしてきた」


 その小さな手から差し出された、印刷が若干透けて見える半分に折りたたまれたコピー紙。開いて、色鮮やかな印刷面に目をやった。

 色っぽい肉感的な女性が鮮やかに描かれている。PCゲームの宣伝ページらしい。タイトルは最終痴漢――。


「今度はかぐやかよ!」


 どうしてそれなんだ!

 他に名作いくらでもあるだろうが!

 自然と頬が引きつるのが分かった。


「いや、あそこまでエロに突っ走った作品なら、売れるかもしれないぞ?」


 やったことあんのかよクリス?

 俺の視線に、クリスはすました顔で頷いた。


「初めてのエロゲーだった」


 おいおい、なんでアレなんだよ!

 確かクリスは、初めてのギャルゲーがサクラ大戦だったよな……。


 はじめてのぎゃるげー(サクラ大戦)→Kanon→???→はじめてのえろげー(かぐや)


 ……その間に、一体何が?

 ちなみに、俺の初エロゲはバルドフォースだ。つまらんとか言うな。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十話




 向かい合わせて置いた椅子に二人座っている。

 その一方の俺は、対面のクリスへ思いついたネタを片っ端からぶちまける。


「じゃあ、主人のセクハラに耐えかねたメイドさんが反逆する、メイドさん弑々」


「却下」


「魔法使い(三十歳以上の男性)と魔法使い狩り(売女)の戦いを描いた能力者バトル物、純潔の聖戦」


「――ネタゲーとして一考の余地有りだが、却下。大体、ヲタ共は処女神様を信仰する夢想家ばかりだろうが」


「二次元の若々しい人限定だが、人妻や未亡人を忘れるな。……それじゃあ、七つの大罪の悪魔をパートナーに、魔王降臨の儀式としてバトルロイヤルする感じの――」


「どこぞの作品と被ってるぞ。お前、真面目に考える気あるのか!?」


 俺の脳内ネタを次々と却下するクリスは、耐えかねたとばかりに声を張り上げた。


「真面目に考えた結果がこれだよ!? 悪い?」


 俺も怒声で返す。


「大体、そう簡単に名作が思いついてたまるか! そっちだって、十二人のキモウトに囲まれる『死す他ー不倫せず』とか、自然派美人教師に囲まれる『ヒッピーレッスン』とか、碌でもないネタばっかりじゃないか!」


 言いながら、苛立ちが高まって内から溢れそうになるのが分かる。その過半は自分へと向けられたものだった。

 その直後同時に腰を上げて殺気立ち、互いに苛立ちを爆発させるかのように放った右の上段回し蹴りがぶつかり合う。

 だがウエイトの差か、あっさり俺が押し負けよろけた。身長が十センチは違うので、少し冷静になれば明白の結果ではある。後スネがちょっと痛い。

 そんな俺の醜態を見て冷静になったのか、すまなさそうに手をさしのべるクリス。俺はそれを手で制し、自力で立ち上がって咳払いと共に座り直した。


「……あーなんだ。少し、落ち着こう」


「そうだな……」


 苦笑混じりの提案に、クリスは若干気恥ずかしそうな苦笑を返した。


「若いっていいねぇ……」


 ベッドの上で俯せに寝転びながら、この場での肉体最年少が呟いた。

 外野は気楽そうでいいね。あ、スカートが捲れて中身見えそうだぞ。


「いやーん」


 腿の半ばまで上がったスカートも直さず、なんとも気だるそうな嬌声。眠たげに目を細めていた。


「寝るなら自分の部屋で寝とけ。喧しい会議はまだまだ続くぞ」


「あー起きとくわ。今寝たら夜眠れん」


 目を擦りながら、のっそりと身を起こすじーちゃん。その仕草にちょっぴり萌えた。

 

「しっかし熱心なことだな。……だが確か、話の筋は幾つか良いのが出来とったんじゃないんか?」


 ああ、そんな事も言ったな。本格的な制作には入っていないものの、素材はある程度仕上げていた。

 音楽が、フリー素材とネット上の知り合いに無理言って作ってもらった物の掛け合わせだったのが、アレではあるが。それでもまあ、そこそこの物が出来ただろう。

 他にも幾つか作品の骨子があった。だが、だがな……。


「あの程度じゃ、ダメなんだよ」


 甘く見て佳作。初めてだから、それでも良いと高をくくっていた。

 しかしアレ――劣化AIR&Kanonを見て、そんな甘い考えは消え失せた。火が着いてしまったのだ。

 同時に、焦りも生まれた。

 鍵ゲーくらいの名作が作れたらいいな。そう思っていた。感動作品は、この星では少ないのだ。だから敷居が低く感じていた。

 だが、鍵ゲーがそのまま現れてしまった。あれの与える衝撃はきっと大きいはずだ。

 その後に奴等がクラナドでも出してしまえば、泣きゲーのブームが来る事は必死。その波に少なくない人が乗るだろう。

 地味な佳作なんぞ、あっさりとその中に埋もれてしまう。もう、適当にはやってられん。

 現状を再確認すると同時に、胸内の火が勢いを増すのを感じた。


「続けるぞ、クリス」


「合点だ」


 クリスの応答に、意気込みを感じた。

 それから互いにそれぞれ深呼吸を数回し、気持ちを少し落ち着けた。


「……しかし、ノエルが地味にストッパーだったと実感するな」


 呟くクリス。

 確かに、あの呆れた様子の合いの手とかが、俺らの会話に適度な水を差していた気もする。

 あれは会話が過度に盛り上がらないようにする配慮だったのだろうか。だとしたら、奴の超人っぷりは神の域に達している。


「まあノエルにしたら、別の意図による行動だったんだろうがな」


 ……別の意図って、何なんだろうね?

 しかし、ノエルはキメラアントに関する案件を丸投げ出来そうなグループに会うとか言ってたが、案外直々に狩ってたりしてな。


「今頃、猫っぽい軍団長と戦り合ってたりしてなー」


 自分で言っといて何だけど、無いな流石に。あのネテロ会長も自分より強そうとか言ってたくらいだし。

 それに漫画通りなら、アレが発生するのはまだ先だ。多少の誤差はあるやもしれんが、おっそろしいくらいに重要イベントが漫画と重なっているこの世界じゃ、多分そこも重なると思う。

 だから笑って流した。


「は、ははは……」


 俺に釣られたのか笑うクリスは、けれど表情が引きつっていた。 


「じゃ、閑話休題。今度こそ続き始めよう」


 言って、手を叩く。


「儂も入れてー」


「引っ込んでな爺」


 脱力気味の声をはね除ける。

 最後まで頑張れない人材はお断りだ。やる気の無さが透けて見えんだよ。お部屋に帰って刀の手入れでもしてな。

 そんな感じの内容を告げて、軽く睨み付けて威嚇した。


「手入れは今朝したばっかだっつの。……寂しいねぇ。やっぱり年寄りは若者にハブられる定めにあるのかい」


 目尻に手をやって泣き真似をするじーちゃん。声音も低く、年寄りっぽかった。

 それとこれとは別だっての。んな事するからウザがられるんだぜあんたは。


「……ま、どうしてもってんなら、何か気付いたことあったら言ってくれ」


 それだけ付け加えて、クリスへ向き直った。第三者の助言は正直欲しい。


 そして、それからクリスと意見を交わし合うも、大きな進展は無かったの程々で止めた。

 結局の所、骨子となるテーマが浮かばないのだ。アイデアも、無理矢理ひねり出そうとしても限度があるし。

 加えて言えば、脳が茹だってる現状でいい話が浮かぶとは思えない。


 で、今何をしてるのかというと……。


「ふざけんな、男のロマンを返せ! そんなへっぴり腰の何所が剣術だ!」


「かっかっか、何を言う。これは介者剣法の一種で、ちょこまか動いて相手の手足や鎧のスキマをちょこちょこ斬る、立派な剣術の型だぞ」


「分かって言ってるだろ!? それが真影流とかなんとかだってのか?」


「んなワケないじゃーん」


 ……ま、なんかもうグダグダですわ。

 じーちゃんが刀を部屋に置いてきたって話から、そういやじーちゃんの真剣振るうところ見た事ねーやって流れになったわけさ。

 んで見せてと言ったら、腰の入っていないしょぼい素振りを見せられたわけだ。


「あー、むかつくなこの爺……」


「気持ちは分かるが、落ち着け。権太郎さんも、真面目にやって見せてくださいよ。私だって期待してるんですから」


「分かっとる分かっとるよ。では、退いておれ」


 調度品を部屋の隅に避けて空けた真ん中に、じーちゃんは立つ。俺達は言われた通り、端に寄った。

 両手に持ち、腰を落として前に構えた抜き身の刀。その切っ先を顔の辺りまで上げる。ちなみに、さっきまでお部屋に放置でぶーたれていた中の人は、既に御就寝だ。


「では……キエェェェーッ!!」


 刃が舞い上がり、奇声が上がった。

 高く掲げられ、踏み込みと共に袈裟へと振り下ろされる。風切りの音が鳴り、軌跡にも鋭さの残滓を垣間見せる一閃。

 そこから翻る切っ先が僅かに持ち上がり、身を捻る一歩と共に、刃は右へと薙ぎ払う軌道へ。

 腰の横への捻れはそのままに、保持した柄を腰に引き寄せ、力を溜める。一瞬の後、左手に柄を強く握り、柄の先端に当てた右の掌で強く前方へ押し出す刺突。

 俺は呼吸すら忘れ、煌めく刃の残光鮮やかな剣舞に見入っていた。


 ――というわけでもない。


「……凄いけど、思ったより地味だな」


「確かに、想像を逞しくし過ぎた感はあるな」


 俺の呟きに同意するクリス。

 今更普通に凄腕の武術を見せられても、あまり感動できないというのが正直なところだ。

 これほど綺麗な剣術には、そうそうお目にかかれるものでも無いが。地味に凄いぜじーちゃん。でも、ノエルには遠く及ばないぜ。鋼棍あれば俺でも勝てそう、力押しで。


「そっちから剣術見せろとか言ってそれかい……」


 じーちゃんは気が抜けたのか切っ先を下げ、嘆息と共に肩を落とした。


 そして程なく解散の流れになった。クリスはホテルの、じーちゃんは闘技場内の部屋へとそれぞれ帰っていった。

 静まりかえる部屋。俺はベッドへ身を投げた。急にガランとなったな……。

 失って初めてその幸せに気付く――。漫画や小説にありがちなフレーズがふと浮かんだ。

 幸せ……。珍しくもないが、ギャルゲーのテーマとして使えねぇかな。でも一口に幸せと言っても、色々あるだろうし考えるのが難しそうだな。

 幸せは色々ある。十人十色。沢山の人……。

 ――複数の主人公によるオムニバス形式とか、有りじゃないか?

 それから、それぞれの物語を微妙にクロスさせて、そんな感じの。

 ある主人公の幸せが別の主人公の幸福、または不幸にも繋がっていて、とか……。

 例えば、一章で普通のギャルゲーっぽくした話をして、日の目を見なかった脇役が二章の主人公で。斬新ではないが、有りじゃね?

 一応アイデアの一つとしてストックしとくか。






 視線の先、金の長髪を揺らして足早に進む小さな背中があった。

 じっと見つめて、微笑んだ。


「フフ、フヒヒ、カレンちゃん。わたさない、ぼ、ぼくの……」


 高まる熱と共に湧き上がるオーラ。昂揚と共に、揺れた。


続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十一話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/12/02 01:02


 閃光が通り抜けた。

 それが斬撃だったと理解したのは、一瞬その像を歪ませた眼前の少女が掲げる刃、その輝きを鈍らせ滴る何かに気付いてから。

 直前に響き渡った叫びが、恐怖の悲鳴ではなく裂帛の気合いに満ちた雄叫びだったのだと気付いた時、目を落とすと右の肘から先が無くなっていることに気付いた。

 緩慢な鮮血の噴出が、まるでその腕を代替しようと伸びているように思わせた。ゆっくり、ゆっくりと体内から失われていく。

 それが体感時間の遅延によるものであり、実際は一瞬に過ぎゆくモノだと気付いたのが、時の流れが本来のものとなり、迸る赤の急速な喪失感に目が暗んだその時。

 不思議と痛みは無かった。

 ただ、その患部は熱い。


「あ……ひゃ、ひっ……!」


 小さな悲鳴だけ漏れた。

 危機を実感した事による恐怖ではなく、四肢の欠損への実感が伴わない事による困惑が胸中を占めていた。未だに手があるような感覚も残っている。

 少女へ向けた視線が、懇願の様相を帯びていると自覚できる。


「くくっ、かかっ……!」


 少女の喉奥から漏れる笑い声に、持ち上がるその唇の両端。自分が見惚れた明るい笑顔とは、似ても似つかぬ酷薄さ。

 肩を震わせるその様は、生き生きとしたものに感じられた。そして、纏う靄は爆ぜるように体積を増す。それに伴って強烈な威圧がのし掛かってくる。

 思わず膝をついて、身を震わせた。

 無意識に残った手で傷口を押さえていた。靄の力による肉体の強化が止血に作用し、出血は止まり始めている。ボタボタと落ちていく赤い滴を見つめる視界が潤み、歪んだ。

 寒気がする。歯の根が震え、鳴った。恐怖のせいか、失血のせいか。

 ゆっくりと床に手を這わせ、伸ばした先の『鳥籠』に触れた。

 そうだ、もう一度。コレさえあれば、大丈夫なんだから。全部、思い通りになるんだから――。

 無根拠の安堵に頬が緩んだ。


「ふひゃっ! ひゃあ……!」


 もはや言葉にならない、漏れるような叫びと哄笑。

 『鳥籠』を掲げ、格子のスキマからその先、少女を睨め上げた。

 そして、発動。

 瞬く間に巨大化した念の鳥籠、その入り口が開き、少女を『再び』取り込み、一抱え程度の大きさに戻る。


 直後、砕けた。


 許容範囲を超えた破壊に耐えきれず、全体を構成する力が一気に崩壊したのだ。

 その目に、破壊の瞬間が焼き付いていた。

 格子を斜めに斬り進む刃。少なくとも鉄ほどには固いはずの檻を、すんなりと容易く。

 檻の中では、人の持つ靄の力は押さえ込まれる筈だというのに。

 本来の大きさに戻った少女、刀の切っ先をこちらの鼻先に突きつけた。


「一度破られた技に縋るしかないたぁ、惨めだねぇ。しかも、後に続く何かがあるわけでもない」


 嘲弄に鼻を鳴らし、冷淡な眼差しをこちらに向ける少女。


「念が使えなくとも、斬鉄程度はお手の物なんだよ。儂を閉じ込めたきゃ、もちっとまともな檻を用意しな」


 幼い声にそぐわない荒々しい口調と共に、かがんで間近に顔をのぞき込んできた。

 目を剥く歪んだ表情に、気圧されおののき、小さく息を呑んだ。


「いきなり人を襲って来やがって、何のつもりなんだ?」


「ご、ごめんなさ、ゆるして……」


 問いかけに、ただ許しを請うしかできなかった。

 思考を弁解に割く余裕は無かった。


「だから、どうしてこんな真似しやがったんだって聞いてんだよ」


「ひぃっ……!」


 苛立ちの伺える囁きに、恐怖が加速した。

 そして、下半身が生暖かく湿っていく。


「おいおい、漏らしてんじゃねえよ。みっともねぇなぁ……」


 不快気に吐き捨てる声が、少し遠のいた。


「だからよう、どうしてこんな事したんだっての。誰かの差し金か? 正直に言やあ許してやらんでも無いんだぜ?」


「ほ、ほんと、ですか……?」


「ああ、正直に言えば、な」


 その言葉に縋って、つっかえながら事に及んだ動機を語り始める。

 自分が少女にしか性欲が湧かない人間であること。嗜虐的な行為への願望があったこと。

 溜まりに溜まった性欲による歪んだ感情の発露か、体を覆う力を持つ靄の存在を知り、能力に目覚めたこと。それが、自分が惚れた少女にのみ使用可能な鳥籠の具現化であること。

 閉じ込めた少女はその靄が押し込められ、体に力が入りにくくなること。既に二人の少女を毒牙に掛けたこと。『使いすぎた』為に壊れ反応が鈍ってしまい、物足りなさを感じていたこと。

 そして、天空闘技場で知った少女――つまりは目の前の少女にも情欲を抱き、手に入れようとしたこと。

 知らぬ間に熱が高まり、今までの『成果』の詳細にまで言及を始めていた。つっかえながら、誇らし気に、笑みを含んで。

 ひとしきり語り終え、どこか充実感を覚えながら、肩で息をした。

 大丈夫。これでもう助かる。早く帰ってお家で――。


 突如、視界が落下を映し出した。

 自分が床に落ち弾んで転がる様を、激しくぶれるその光景が知らせる。

 倒れ込んだ? いや違う。

 だってほら、そこに膝をついた自分の体が――。

 首から上が、無かった。

 切り落とされたのだ。

 切り落とされた首で、自分の体を見つめているのだ。

 その切り口から、鮮血が舞った。

 顔へ盛大に降り注いだ。

 頬に浴びる感触が、酷く鈍い。

 目を打つ刺激にも、何より困惑が先に立った。

 そのまま、意識がゆっくりと混濁していく。


「下種が……」


 嫌悪に満ちた声が耳朶を打つのを最後に、そのまま意識は沈んでいった。






「……さて、後始末するか」


 呟き、刃を首無しの死体、その心臓へと突き立てた。

 ――ゴクリ、ゴクリ。

 低く重い、嚥下の音が響いた。刀が、血を飲んでいる。

 傷口から滴る血の量が、目に見えて減っていく。それだけに留まらず、足下の血だまりや体に浴びた返り血までもが、突き立てた刀身に向かってゆっくりと這っていく。

 たどり着いた血は染みるように飲み込まれ、跡形もなく消えていった。

 ぼんやりと見つめ、二十秒か三十秒経つ頃には、干涸らびた死体が出来上がり。引き抜いた刀身には一点の曇りも残らない。


「コレで満足か……?」


 問いかけに答えるモノは居ない。

 それでも、この言葉は届いていると確信がある。

 鞘から解き放つと意識を失うだと? そんな筈はない。

 抜きはなった時に感じる一体感、力強さ。全てがそこに意思の存在を教えている。

 血が欲しいと呻きをあげ、その脈動は小躯の全体を震わせるのだから。


「気に病むことはない」


 優しく言い聞かせるように。


「お前さんが血を啜るのは全部、儂のせいなのだから」


 存分に求めると良い、と。


「ただし、恩恵にはあずからせて貰おう」


 己に振るわれろ。

 これほど身に馴染む凶器は滅多にある物ではないのだから。

 かつての全盛を凌駕して久しいこの身。どうせならば、存分にその力を引き出してみたい。

 愚かと知り叶わぬと知り、とうに諦めた筈の熱情が再び燃え上がっている。暴力への執着――。

 その為に、利用させてもらう。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十一話




「うぅ……」


「あー……」


 沈痛な面持ちで肩を落とすズシ。俺はそれを見て居たたまれない気持ちになりながら、額を抑えた。


「そんな、気にすんなよ。自分のペースでさっ」


「そ、そうですよ、気を落とさないで、頑張って下さい」


 そう言って場を和ませようとする一哉とじーちゃんだが、そんな物が慰めになりゃしないのは本人達も分かっていることだろう。

 声も、少し上ずってるぜ。じーちゃんの慰めにまんざらでもないズシを見て、やっぱり男の子なんだなぁと少し微笑ましく思ったりはしたが。

 ……何があったって?


「うん、見えるよ。ウイングさんのオーラが」


「パスタ、自動車、花壇。脈絡無い文字の組み合わせだな」


「その方が分かり易いでしょう? 実際に見えているかどうか」


 ……ゴンとギドの試合から三日。ついでに言えば、キルアとサダソの試合から一日。負けたのはサダソ。肢曲でかき乱され、背後からの手刀で瞬殺だった。

 そして更に言えば、ゴンとキルアが練を覚えてから五日。

 二人は、凝を会得した。


 ちなみに、ズシはまだ出来てません。一哉は練ですらまだまだです。


 うん。


 ――ありえねぇぇぇぇ!!


 お前らどんだけ早熟なんだよ!?

 練だって一日か二日で習得してるしよ! 俺だって、ししょーからは割と才能ある方だとか言われてたけど、それでも二ヶ月強かかったんだよ!?

 凝はプラス四日くらいだよ! ししょーに回復してもらいながら練の修行やってたからだけどな!

 ……ふう、賢者タイム。

 しかし、こいつらが凄すぎ。何度驚いても足りねーよ。

 漫画だと、怪我したゴンはしばらく修行禁止されるけど、ここではそうなってない。

 漫画では二ヶ月ほどの猶予があって、二人に差をつけ一時的に優位に立っていたズシ。

 それでもやっぱり、あっさり抜かれるが。

 もうこれからは、差を付けられるのみでしょうね。ご愁傷様、ズシ。

 俺も、じきに追い抜かれるのかな。最近なんだか、練の成長具合がイマイチなんだよな。

 せめて、天空闘技場にいる内は二人を見下していたい。うわ、我ながらワンパターンな負け犬の発想だ。

 ま、流石に流まで出来るようになったりは……しそうだな。

 俺の場合は、ししょーの念による回復を利用することによって、堅の持続時間を比較的早く延ばすことが出来た。ビスケのアレより少しショボイ感じと思ってくれればいい。ある程度出来ないと、修行を次の段階に持って行けないからとししょーは言っていた。

 ゴン達にはそれやらないんですかと尋ねてみる? そうすりゃズシだって、手早く次の段階に移れるだろ。


「そんな事をしたんですか……。成長期の体にそうやって負担を掛けるのは、好ましいことではありませんよ」


 ウイングさんはそう言い嘆息した。精孔開いた時のように、真面目にやった方がオーラを制御しやすいとも付け加えた。

 ししょーが適当なのか、ウイングさんが慎重すぎるのか。恐らく前者寄りだろうな。ウイングさんも俺から見たら少々穏やかすぎるが。

 ちなみに俺やノエルの修行メニューは、とーさんの元で学んでいたときの内容を参考にしつつ、逃げ出したくならないように配慮し作成したらしい。

 以前、そんな事を語りながら当時を思い出していたのか、苦笑していたししょー。韻を踏んだつもりはない。今でこそ穏やかだが、とーさんも昔は過激だったんだなぁと伺えた。かーさんの棒術訓練はそれが可愛く見えたというのだから想像したくない。


「流とか堅って何?」


 疑問符を浮かべるゴン。

 こんな感じのだよと、練を維持し軽く突きだした拳に流をする。

 ゴン、キルア、ズシの三人はへーと軽く感嘆の声を出した。ズシ、お前さんも知らんかったんかい。


「基礎が出来ていない内から応用を初めても、上手く身につきませんよ。現状は纏と練に集中して下さい」


 ウイングさんはそう言って、真似を始めたゴンとキルアを窘めた。

 あ、だから教えなかったのか。余計な事しちまったかな。


「あ、私そろそろ試合の時間なので行きますね」


 そして、じーちゃんは軽く頭を下げて部屋を後にする。

 特にやる事もないので、俺も着いていくことにした。




「二百階行きおめでとう」


 控え室を出るじーちゃんを拍手で迎えた。

 試合相手は念使いの女性だったが、体術の方はイマイチだったので直ぐさま絞め落とされた。一方的でつまらない試合運びだったのだが、野郎の歓声に客席が沸いていた。このロリコン(同士)共め。


「ありがとうございます、お兄ちゃん」


 傍に人目がある為か、猫かぶりモードだった。

 はにかむ笑みと共に会釈する様は、中々にかわいらしい。プリテイ爺だ。途端にきもくなった。

 そして、肩を並べて廊下を歩く。


「二百階からはみんな念の使い手だけど、平気か?」


「大丈夫ですよ。お兄ちゃん達が戦った程度の相手なら、余裕……とまではいかないでしょうけど、なんとかなります」


「ファイトマネーは出ないけど、平気か?」


「……負ければ下の階に戻れますかね?」


「四回負ければ、最初からやり直しだけど」


「それも面倒ですね。勿体ないので、戦うだけ戦ってみるのもアリですね」


「とりあえずで戦える相手ばかりじゃないぞおい」


「私は私より強い奴と戦いに行く。――っていうのも大げさですけど、強すぎないくらいの人とは戦ってみたいですね」


「ちょいとバトルマニア入ってるな、っと」


 そこで足を止めた。

 俺とじーちゃんは若干表情を険しくして、前方で塞ぐように止まっている人に意識を向けた。

 車いすの男、リールベルトだ。


「やあ」


 どこか優悦のにじむ、相手の不快を煽るたぐいの笑みをこちらに向けた。

 こないだ俺に瞬殺されたばっかだってのに、何のつもりだ? その余裕の表情は何だ?

 ……もしかして、人質を取ったか? ズシ? 一哉? あるいはクリス? ゴンやキルアは不意を突かれようとそう簡単には捕まらないはずだ。

 背に薄ら寒さを感じた。


「言わずとも気付いたか? キミの友人を預かっているから、こっちに来い。証拠を確かめた後、ちょっと頼まれて欲しいことがある。いや、大した話じゃないさ」


 満足げに頷いた後に、リールベルトはこちらに言葉を挟む隙を与えず、言いたいことだけ口早にまくし立てて背を向けた。着いてこいと言うことか。

 要求は想像がつく。勝ち星をよこせ。そんなところだろう。

 だが、そんなにあっさりこちらに姿を見せたのはどうかと思った。不測の事態でも無い限り、ギリギリまで直接的な接触は避けるべきだと思うのだが、そこの所どうなのだろうか。

 俺に負けたことが悔しくて見下したかったとか、そんなアホな考えなのだろうか。もし、俺がここでお前を人質に取ろうなんて暴挙に走ったら……。

 と、そこで、先を行くリールベルトに飛びかかろうとしているじーちゃんに気づき、無言で制した。止めてくれ、心臓に悪い。今だってちょっと動悸がしてるんだ。

 幸い、背後の遣り取りにリールベルトが気付いた様子もない。静かに安堵の溜息を吐いた。気付かないうちに汗ばんだ手。ズボンに手をこすりつけて拭う。

 じーちゃんの肩に手を置いて首を振り、今は従っておけと言外に告げた。半眼で睨まれる。確かに反撃のチャンスだが――。

 人通りが殆ど無い非常用通路の近辺にさしかかろうとした時、そこでポケットの携帯電話が激しく振動する。低い唸りの音が響く。リールベルトがそれに気付き、首だけでこちらを向いた。

 出ても良いか? そんな俺の問いに、鷹揚な頷きが返ってきた。子犬チックにおずおずと尋ねたのが功を奏したらしい。ちゃう、余裕ぶってやがるだけだ。

 通話ボタンを押した。


『もしもし、リューク』


 クリスだった。


『怪しい二人組が一哉動けなくして連れ去ろうとしていたので、コレは陵じょ――いや、ボーイズラ――でもない。まあ、大変だと思ったので、背後から奇襲掛けて縛り付けておいた』


 どこか得意げなその声は、戯けた風でもあった。


「そうかい。その変態は一体、どんな奴なんだ?」


『何だっけ? キルアに負けたサなんとかさんに、ゴンに負けたギなんとかさんだったかな。まあいい、適度に脅して調教するから、手伝ってくれ』


 そこまで聞いて、俺は形勢の逆転に頬が緩むのを感じた。なんと運が良い。

 俺の笑みにリールベルトは怪訝な顔を、じーちゃんは内容を察したのか頷く。そう、今この時点で、優位に立っているのは俺達だ――。




「よがったー」


 俺は自分の部屋、備え付けのテーブルに突っ伏した。

 一時はどうなるかと思ったよ。冷静になって考えれば、あいつらみたいな小物に大層なこと出来るはず無いんだがな。

 漫画でキルアのやってた脅しだって、俺なら出来なくもない。絶を使えば、迫力に欠けるが嫌がらせを繰り返すことは可能だ。ストーカーの如く執拗な私生活への侵入を繰り返せば、相当嫌なはずだ。

 とりあえずクリスと二人で全開の練して、とっとと闘技場から失せろと脅したが、どれほどの効果があったのやら。要求が呑まれなかったら、ちゃんと嫌がらせをしておこう。

 どうでもいいが、とっとと闘技場って噛んだみたいに聞こえる。


「まあ、無事に済んで何よりだ」


 クリスは脱力し、椅子の背もたれに体重を預けている。少しばかり安堵に浸っているようだ。

 二人揃ってチキンである。ノエルが居ないとダメだね、俺達。

 じーちゃんなんか、落ち着いていたみたいだけど。


「ったりまえだ。あれくらいで動じてたまるか。戦前生まれをなめるなよ」


 湯飲みに緑茶を注ぎながら、じーちゃんは得意げに鼻を鳴らした。

 そうですか。でも、戦時中は大根飯不味かった位しか覚えてねぇとかほざいてたのは、何所の痴呆症オールドタイプだっけ。ちゃんと経験あるの?


「昔の辛気くさい話なんぞわざわざ聞いて、何が楽しいんだ?」


 未来志向、未来志向とやる気なさそうに呟いて、じーちゃんは茶をすする。

 それは、俺は過去から物を学ばないお馬鹿です、ということなのだろうか。


「学んださ。要は、長いものに巻かれろってこった」


 確かに間違っちゃ居ないが、もっと年寄りらしい含蓄のある言葉ってのは無いのか?


「聞く相手を間違ってる」


 自分で断言するなよ。


「……そう言えば、ギャルゲーの話はどうする」


 グダグダな流れを変えようとしたのか、唐突に話題を振るクリス。


「んー、気分が乗らん」


 未だ突っ伏した状態から身を起こさないままに答える。


「いい加減だな……」


「〆切すら設定していない現状じゃ、モチベーションを一定に保つなんて無理無理」


 手をヒラヒラさせながらそう応えた。


「じゃ、話のタネにでも、コレやってみないか?」


 クリスがコートの内からペラいシートを取り出した。

 そこにはあれだ、俺がこよなく愛する金髪ツインテールの幼女(十八歳以上)が描かれていた。


「新発売のTシャツ用転写シートに、パソコンで描いた絵を印刷してみた」


「ほうほう」


「インクとプリンタが専用なせいでぼったくられたが、中々に複雑な色合いも転写出来る優れものらしい。あ、結構な金額使ったから、お前も出してくれ。金持ちだろう?」


 ……まあ、いいけどさ。

 つまりは、これでTシャツを作れと?

 ギャルゲー的美少女Tシャツを作れと?

 素晴らしい。


「サイトのネタにでもどうかと思ってな。他にも幾つか」


 カラフルなシートが数枚追加された。

 それぞれ、かわいらしいおにゃのこが描かれている。


「で、Tシャツは?」


「あっ……」


 そして近くの売店で適当に無地のシャツを買ってきて、制作開始。

 アイロン当てて、すぐに出来るらしい。アイロンくらいなら、部屋に備え付けのが合った。

 失敗することもなく、あっさり完成。細かい部分がちょっと潰れたりもしましたが、おおむね満足できるTシャツが出来上がった。


「……で、これどうするよクリス?」


「そりゃ、着てみないと、ネタに使えないだろう?」


 撮影してやるから――。クリスは、懐からデジカメを取り出し構えた。


「へいへい。……いやん」


「はいはい」


 はにかみやチックに着替えるが、スルーされた。

 白いシャツに袖を通す。安物のごわついた感触。普段着ている丈夫なそれとは違い、生地の薄っぺらさが感じ取れる。

 胸元に目を落とすと、二次元の美少女。ピョン吉のように喋らないだろうか。ど根性ー!

 ああ、何だろう、この安らぎは……。コレが、俺の在るべき姿なのだろうか?

 シャッターを切る音。記録してくれ、俺の雄姿を!

 続いてドアをノックする音。儂が出るから、気にせず続けとけ――。じーちゃんの言葉に頷いて、それから俺はボディビル的なポーズまで取り始めた。割と細身なので、その滑稽さが際だつだろう。良いネタになると、そんな計算の元に。

 やべー、超楽しくなってきた!


「どうぞ、お二人とも」


 ……ん?

 まさか、おい、じーちゃん、てめぇ。


「お前、何やってんだ……?」


 三橋加奈子声に反応し、硬直した。

 ゆっくりと首を回してみれば、主人公コンビ。

 キルアの眼差しは、怪訝を通り越して汚物へ向けるそれだった。

 ゴンは、ただ興味深そうに俺を見つめていた。


 ……オワタ、とでも言えば良いの?




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十二話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2008/12/22 02:53


 前回までのあらすじ


 オタクってやっぱキモイよね。




「お前……」


「知られてしまっては仕方ない……」


 もはや、誤魔化しようもない。


「キルア……。俺は、オタクだ。キモイたぐいの」


「リューク……」


 キルアの声は胡乱気で、しかしどこか寂しさを湛えていた。


「軽蔑したか?」


「まあ、な」


 目を伏せるキルア。

 今日、友情が一つ終わってしまったのか。

 俺も俯く。胸元の少女は満面の笑顔だ。

 ダメだ、シリアスになりきれん。


「つか、なんで黙ってたんだよ?」


「そりゃ、お前ら、引くだろ?」


「そうだけど……。言われないのも、信用されてないみたいでヤなんだよ」


 友達だろ――。そう言ってそっぽを向くキルアには、普段の少々大人びたモノとは違う、不器用さがあった。

 まだキルアの中で俺は友達のようだ。驚きだ。


「キモイからハブるの確定かと思った」


「んなわけないだろ……」


「ねえ、リューク……」


 そこでゴンがおずおずと口を開いた。


「オタクって何?」


 そして、俺はオタクとは何か、それが世間でどれだけ煙たがられているかを懇切丁寧に説明する羽目になった。

 何だこの微妙に羞恥プレイ。ゴンって、興味持ったら見境無いのなホント。

 ちなみに若干引かれた。


「で、お前も萌えーとか言ってんのかよ」


「超言ってる」


「どきどきグラフィティみたいな糞ゲーもやってんのか」


「微妙に古い作品知ってるな、キルアさん。で、糞ゲーって言うって事は、やったのかい?」


「な、ばっ、ちげーよ!」


「お前アレだろ? 最初に、一番攻略難しいヒロインでいこうとして、挫折しただろ。分からんでもない。アレはときメモの詩織並だからな」


「だ、だから、やってねーよ!」


「素直になりなよー。幾つか良作をお薦めしてやっても良いんだぜ?」


「いらねーよ!」


 キルアが本気で嫌がるので、今回の勧誘は失敗。

 ゴンは若干の興味を示していたが、キルアが割と必死で引き留めた。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十二話




 その晩、ノエルから翌日にはこっちへ戻ってくると電話があった。

 内容をクリスに伝えると、淡々とした呟きが返ってきた。


「もうすぐ帰ります。帰ったら、ノエル・レイオットになります」


「やなネタ振りだなおい」


 それはノエルが家の養子になる的な意味でだよな?

 つーか、がんばれ元気は以前、俺がハズしてしまったネタだぞ。あくまで脳内に留まってはいたが。 


「さ、リューク。ベッドインしてノエルを待ち構えていろ」


「だからさー!」


 漫画の内容をそのまま言っているはずなのに、いやに耽美的なイメージが浮かぶ。

 最終回で、ボクシングの世界チャンピオンになって実家に帰ってくる主人公を、おじいちゃんとおばあちゃんがベッドの中で待ちわびている最後のシーンだ。


「息を荒くして帰ってくるはずだ」


「ランニングでしょー!」


 止めてよホント、心臓に悪いから。


「ま、弄るのはコレくらいにしておこう」


「酷いわ! 私を弄んだのね!?」


 どことなく満足げなクリスに、俺はうちひしがれた表情と共にしなを作る。


「はっはっはっ、人聞きが悪いなぁ。言ったじゃないか、君と私は『お友達』だって」


「そんな言い方! お金が目的だったんでしょ!」


 言いながら、財布から先ほど要求されたプリンタやらの代金を渡す。八万ジェニーとか微妙にたけぇよ。

 あ、悪い――。小さく頭を下げて、クリスは受け取った。

 だが、俺の(演技)ターンはまだ終了していないぜ!


「どうして、どうしてそんな酷いことが出来るの!? そんなにお金が大事?」


 そしてクリスのターン。


「甘ったれるな……! 金は命より重い……! そこの認識をごまかす輩は、生涯、地を這う……!」


 ざわ……ざわ……。


「人でなし……! ろくでもない……! この、顎っ……!」


「顎? 八チャンでやってたKanonのことかーー!」


「アゴ~、アゴだよ~」


 クリスの叫びに、間延びした口調で返す。


「アゴご飯食べて、エスポワール行くよ~、とでも繋げる気か? 語呂悪い!」


 クリスの切れ味鋭いツッコミ。コイツ、ノリノリである。


「どうも、ありがとうございましたー」


 コレが漫才のオチですと言わんばかりに、俺は明後日の方向へ頭を下げる。

 先に誰もいませんよ。


「誰に言うとんねん!」


 下げたままの頭を叩かれる。ただ小気味よい音が頭蓋に響いた。

 痛くはないが、揺れてちょっぴり気持ち悪い。


「お前さん達、事前に練習でもしてるのか……?」


 唯一の観客であったじーちゃんが、目を丸くし拍手した。


「……俺ら、何やってんだろ」


「さあ……」


 フッと軽く自重の笑み。

 クリスと顔を見合わせれば、自然と苦笑めいたそれが愉快気になっていく。

 肩を揺らしてひとしきり笑ったところで、じーちゃんが小首を傾げつつ、ぽつりと漏らした。


「……夫婦漫才?」


「その手の単語は持ってくるな。私だって命は惜しいんだ」


 無い胸を抱えるクリスは、割と本気で怯えているようだった。

 命ってあんた……。


「深刻だから、割と」


 真顔のクリス。


「だから、冗談でもそういう事言うなって……」


 微妙に憂鬱になります。






「えと、ただいま、でいいのかな?」


「じゃ、おけーり」


 はにかんだ笑みを浮かべるノエルを部屋に迎え入れた。


「おかえり」


「おかえり」


 室内のクリスとじーちゃんも、軽く手を掲げて言った。

 二人はテーブルで一緒に様々な漫画を広げ、鉛玉を磁力で防ぐなどの間違い超能力を指摘しまくっている。厨臭い小説を書きたい俺としては、そのような誤用は避けたいので割と為になっている。


「思ったより、戻ってくるの早かったな」


 言いながら、クリス達と向かい合う形でノエルと隣り合って座る。 微妙に距離を置いていることにはつっこむな。

 で、ノエルが戻ってくるまで……五日くらいだったか。飛行船なんて遅いから、それ考えると割とスピーディーに済んだ方か?


「まあ、結構急いだしね。すぐにお役御免になったし」


 話するだけだしな。よくもまあ、巨大キメラアントなんて与太話に付き合ってくれたモンだ。

 ま、何にせよこれで一安心だな。丸投げ万歳。気分は利益抜いて下請けに仕事押しつける大企業のごとしだ。


「これで、憂い無くギャルゲーに集中できるってモンだ」


 ゴン達とは……どうしよう。少なくともヨークシン編は深入りしたくない。

 クロロの能力が漫画通りだったりすると、ノエルの能力が狙われる恐れもあるし。


「そこら辺、どーするべ?」


「自業自得と思って諦めたらどうだ?」


 ……クリス酷いッス。

 俺に死ねと。お前までリューク死ねとか言うのか!?


「はぁ……。なら、口実を作ったらどうだ?」


 口実?


「九月のヨークシンは、オークションだけじゃないだろう? 私たちにとっては」


 ――あ。


「そういや、あったな」


「何が?」


 思い至って手を打った俺に、ノエルが問いかける。


「同人即売会」


 コミックフェスティバル。略してコミフェス。

 それ何てげんしけんとは言う無かれ。


「つまり、それに参加すると?」


「そうだ。参加するにしても、来年以降にするつもりだったがな」


「作ると? ギャルゲーを」


「Yes」


「俺達、VSが?」


「YesYesYes!」


 あ、団体名、コレで良いんだ……。


「だが、足りないモノ多すぎないか?」


 音楽とか、碌に用意できてないぞ。


「初めてだし、その辺は適当で構わないだろう。制作の経験を積むつもりで作ろう。いざとなったら外注もアリだ」


 金は有り余ってるんだからな――。高笑いするクリス。

 そんな心構えで良いのか。いや、最初っから名作作れるとは、これっぽっちも思ってませんが……。

 つか俺、サイフ係ッスか。お前も闘技場で稼げよ。二百階まで上がれとは言わんから。


「ああ、そうしようか。金はあって困るモンでもないし。怪我しない程度に手を抜いて」

 

「じゃあ、ししょーにも相談だな。チャットで会議でもするか!」


「あの……」


 そこで、ノエルがおずおずと挙手しながら言った。


「僕も加わって良いかな、それ」


「「へ?」」


 いままで静観のモードだったノエルが、何故今になって……?


「いやまあ、お前さんなら構わんが」


 ノエル=パーフェクトな天才。だから人材不足の穴を埋めることも可能だろう。

 別に、ノエルの声音が静かでありながら有無を言わせぬ迫力を内包していたからではない。


「ヘイヘイ! シモヘイヘ!」


 自分を指して、何やら最強の狙撃兵の名を叫ぶ老いぼれはスルーした。


「じゃあ、改めて、夜露死苦ぅ!」


 親指を立てる俺へ、クリスは冷淡な眼差しを向けた。

 ノエルは満面の笑みを見せた。




『俺達の戦いはこれからだ! 次回作にご期待下さい』




「不吉なこと言うなじじぃ!」




続く




あとがき

微鬱もチラシの裏に移した方が良いんじゃね? と、ちょっと思った(挨拶)

まあ、今更ですね。

そろそろ完結まで巻いていこうと思います。ちらほらある伏線っぽいモノをまともに回収するつもりはナッシング。

そしてオリジナルの新作を構想中。タイトルはソウルバスター。我ながら厨臭い能力者モノになる予定です。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十三話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/01/04 01:52


 落差によって力が生まれる。

 物体は重力によって、低い位置へ落ちる。その際に運動エネルギーが発生する。

 風とて気圧の差による空気の流れであり、守護神も存在と非存在の落差による永久機関である。

 つまり、落差は力だ。

 つまり、普段漢らしい人間が女らしく変身すれば、そこに力が生まれるという解釈は何ら不自然ではない。

 ボーイッシュな少女が女の子らしく身を飾る事によるギャップ?

 その程度では、生ぬるい。

 世には、もっと凄まじい『落差』を操る物達が存在する。




 天に座する星々の群れ。降り注ぐ無数の煌めき。

 比喩ではなく、天から細く儚い光線が幾重にも連なって降り注ぐ。それはさながら光のシャワー。

 それはただ一人へとまっすぐ降り注ぐ。峠の頂、開けた野原に立っている。開けた腕を広げ、胸を反らして、柔らかな笑みで浴びている。

 髭を蓄えた壮年の漢。皺の刻まれた顔つきは柔和で、しかし重厚さを持ち合わせていた。

 片目を閉ざし、モノクルを着用している。白髪の交じった頭髪を、とりあえずといった具合に引っ詰めて後ろに束ねられていたが、よく似合っていた。額に後退の兆しは無かった。

 気品とも言うべき物があった。あくまで首から上は、だが。

 その下?


 セーラー服である。

 水兵の制服という意味ではなく、そこらの女学生が如く、ミニのプリーツスカート。

 膝上までの長さで、厳つい体躯の腰部を申し訳程度に隠すそれはもはや、スカートよりも腰蓑がしっくりくる。

 その脚部ではあるが、黒いスベスベとしていそうな光沢のあるニーソックスが覆っていた。ぴっちりフィットの生み出すそれは、何とも無骨な脚線美。

 凄まじく『落差』がある容姿だった。

 天より降り注ぐ光は、すなわち落差の力だ。

 そして間もなく光が止み、野太い叫びが木霊した。


「乙女パゥワァァ! 充填完了!!(ハァァト)」


 何とも雄々しく、力強い叫びであろうか。女々しさが微塵も感じられない。

 呼応するかのように、大きな風の音が鳴った。辺りの草が揺れ、ついでにスカートの裾も揺れた。一瞬見えたその中身については、あえて言及しない。


「逝くわよぉぉぉ!」


 続いて天を突くシャウト。半身に構えて大きな拳を突きつける先は、もう一人の漢。


「来なさぁぁい!」


 その人物は、漢らしい咆吼を返した。

 重心を前方へ、攻めの剛拳を主においた構えが見られるセーラーと違う、掌を見せ重心を低く置き、受けにまわる柔法が伺える構えをしていた。


 ブルマーだった。

 セーラーよりも若干若く、短く刈り込んだ頭も黒々している。額には白いハチマキ。その両端は背中に届くほど長さの余裕があり、風になびいていた。

 表情には戦いへの喜悦が見て取れた。歯を見せて笑っている。

 上半身の白い服、その大胸筋で盛り上がる位置には「てんれんじ」と書かれた布が縫い付けられている。それが男の名なのだろう。どうでもいいことだが。

 ブルマーは、なんというか……ぴっちりと、こんもり……していた。詳細な描写は避けるが、こんもりしていたのだ。

 そこから伸びる足はやはり太くゴツゴツとしていた。

 そして全身から立ち上る白い靄。これも『落差』の力である。


 場に満ちる殺気と言い表すべき緊迫の雰囲気。

 セーラーは地を蹴った。

 迎え撃つブルマー。


 セーラーの踏み込みが地を揺るがし、まるで地に根を生やしたかの如き安定感で立つブルマーへと迫る。

 放たれるセーラーの拳、そして受けるブルマー。響き渡る轟音。穿たれた大気に衝撃がまき散らされ、ポロリが発生する事実が示すのは、音速超過。

 人間の肉体には到底なしえない事象が、そこに人外の干渉を伺わせる。

 その正体こそが、『落差』なのだ。

 彼らの、場にそぐわない滑稽さやおぞましさが凄まじい落差を生み出し、その力が恩恵として与えられたのだ!


 ……ギャップ萌え云々はどうしたって?

 それはあくまで一例です。




「なんだこれ……」


 デスクに置かれたノーパソ。クリスは立ったまま身を少しかがめてのぞき込む姿勢を硬直させた。

 その後クリスが向ける呆れた視線から逃げるように、椅子をターンさせて顔を背けた。


「なんっていうか、その……電波受信して……としか言い表せないんだが」


 つっこまれようが、やらなきゃいけない。そんな芸人魂が疼いたというか。


「真面目に企画考えろ」


 すんません。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十三話




「ツイてるヒロインって良くないか?」


「真面目に考えろといった傍からコレか」


 すまん、再び電波受信した。

 いや、何所の幼なじみの影響かも知れないな。

 ちなみにその幼なじみは、食材や小物やらの買い出しに行っている。


「世話焼きでいつも可愛い笑顔でしょっちゅうドキってするんだけど、ツイてるんだ……」


「あー……」


 それを聞いたクリスが何か言いたそうにしていたが、結局そこには触れないまま、真面目にやれとお叱りを受けた。


「真面目にやって進まないから、巫山戯てるんだろ?」


「勝ち誇るな」


「けっ、イイコぶりやがって、この似非素直クールが……」


「いきなりすっ飛んだこと言ってやろうか? ――君の事が好き、になれないので死んでくれないか、とか」


「新ジャンル素直冷酷!?」


 結局、企画は遅々として進まない。

 ししょーと相談もしてはいるが、あちらも芳しくないようで、というか出来れば俺が主導でいきたいという歪んだ自己顕示欲がー。

 あ、あと何か知らんが、明日はスカト……カストロとヒソカの試合らしい。原作よりもちょっと早い時期だとクリスが言うとった。

 俺はその辺サッパリ覚えていなかったからな。別に早かろうが遅かろうがどうでもいい。

 ……しかし、このままだと死ぬんだよな、カストロ。分身の術とか言うアホな戦法を選択したせいで。


「その事だが、少し変わった展開になりそうだ」


「どういう事?」


「少し気になってな、ネットでカストロの試合動画漁ってみたんだが……まあ、実際に見た方が早いな」


 そう言ってクリスは俺の背に回って、俺が弄っていたパソコンのマウスを横取りしてネットに繋いだ。そして無料動画サイトを開いた。

 ……背中に当たってるけど、当たってない。


「画質荒いな……」


 どうでもいいこと言って、背中に向いた意識を逸らす。 


「天空闘技場関連は規制厳しいからな。高画質だと直ぐさま削除される。二百階クラスなら、なおさらだ」


 クリスから、予想通りの返答。

 大人気のアニメも削除早いからな、このサイト。どうでもいいが、肩に顔が、耳に息が。

 ……気を取り直して動画を見る。知らない二人が向かい合っている。多分、美形の方がカストロだろう。

 この低画質でも、オーラは見える。しかし、オーラが見える原理が少し気になる。通常では不可視の光線とか出したりすんのかね。

 この人、体捌きは俺より数段上だなって、あれ……?


「一旦止めるぞ」


 クリスがそこで一時停止する。カストロが腰を落として、両手を眼前に掲げた場面だ。

 両手にオーラが少し寄っている。俺ほどでもないが、中々のオーラ量だ。


「拡大すると」


 拡大ボタンがクリックされ、小さかった動画が大きく引き延ばされる。余計に荒くなったが、大まかな形状は捕らえやすくなった。


「オーラの先端が、鋭角になってる……」


「そうだ」


 そして再生がクリックされ、動画が再開する。

 カストロが一足飛びで間合いを詰め、両の手で引っ掻く挙動。鋭利なオーラによって相手の胸元に残された大きな爪痕は、さながら獣のそれだった。

 そして相手が意識を失い、カストロが勝利。前半の軽い遣り取りで相手の呼吸を読んだのだろう、反応を許さない見事な歩法だった。


「……漫画じゃ、多分あそこまで強くなかったな。……なんだっけ、あの技」


「虎咬拳だ」


 そうだった。すっかり忘れてた。

 技による集中の補正か、瞬間的にオーラの量が上がってたな。何つーか、その虎咬拳にスキルを割り振ってる感じ。


「ヒソカとやる前の試合で使ったって事は、小細工抜きだって事かね」


「もしくは、他に奥の手があるというアピールか。前者の気がするがな」


「どっちにしろこの人、殴り合いじゃ俺らよか強そうだ」


「だが、それでもヒソカ相手には役者が不足しているだろう。ここで見た物が、そのまま実力だとは思わないが」


「双方合意の試合なんだし、俺らが止めたりするモンでもない気するが」


「いや、そんなつもりは無いぞ、別に」


 クリスは結構お人好しだからやりかねないと思ったがな。


「そうでなく、差違の原因が気になると言いたいんだ」


「……トリッパーだと?」


 カストロの末路を知っている奴が介入したと、言いたいのか?


「その可能性もあると、睨んでいる」


「接触するのか?」


「確認はしておきたい。リューク、頼めるか?」


「あーはいはい。ま、別に構わんよ。覗きに行きゃいいんだろ?」


「そうだ。行くなら、試合直前がいいと思う」


 了承し、席を立った。

 そして、軽く伸びをする。


「――んじゃ、今はゴン達のとこ、行くかな。気分転換もかねて」


「んじゃ、私は引き続きネットを、と」


「……まあ、いいけどな」 




 キルアが現れた。

 ウイングさんの床……ではなく、所に行こうとして、先を行く白髪頭さんの背中を見つけた。


「おー、キルキルー!」


 呼びかけ、隣を歩く。


「キルキル言うな」


「あーはいはい。ゴンはウイングさんのトコ? おみゃーらに会いに行こうかと思ったんだが」


「俺も行こうとしてたんだよ、コレ持ってな」


 言ってキルアは、持っていた数枚の紙片を掲げた。


「ヒソカとカストロの試合のチケットだ。知ってるか、カストロ?」


「知ってる知ってる。ヒソカに洗礼受けたって奴だろ? ネットで試合の動画、さっき見たところだよ」


「へえ、お前から見た印象はどうなんだ?」


「ガチの殴り合いだったら、まず負けるね」


「何でもありだったら違うって?」


「まあ、なんとかならん事もない……が」


「ほんとかぁー?」


 端っから信じちゃいないだろう、笑い含みの声だった。

 念の戦いだったら一応、キルアよか強いつもりなんだけどなぁ……。そんなに弱そうか、俺?


「――そういやチケット、俺の分もあるの?」


「チケットは見てのとーり、三枚。選手優先券も、売り切れたみたいだぜ」


 購入枚数制限とか、けちくさいよな――。キルアはチケットをヒラヒラさせて、唇を軽くとがらせた。


「まあ、買ってきたのはキルアだしー、ゴンも見たいって言うよな、絶対」


 そもそも、ゴンの為に買ったチケットだろうし。


「ん、お前はいいのかよ? 一応、そのつもりで買ってきたんだぜ」


「まあ、格闘専門チャンネルで特番組まれるだろうし。ズシとかが、どうしてもとか言ったら譲るわ」


「……そうか」


 一哉やじーちゃんは多分、要らねって言うだろうな。




「私、見てみたいです」


 ウイングさんとズシの部屋でチケットを広げたら、真っ先に興味を示したのはじーちゃんだった。


「じじい、テメーはダメだ」


「どうしてそんな意地悪言うんですか?」


 頬を膨らませるじーちゃん。

 く、上目遣いとは卑怯な!


「どうして、爺なの」


「スルーしてくれゴン。ちょっとした間違いだ」


 やばいやばい。


「それで、どうして私じゃダメなんですか?」


「優先度の違いだよ。お前にはそう簡単に譲らない」


「横暴ですねー」


「じゃ、じ……カレン。チケットが欲しかったら、俺とデュエルだ」


 言って、俺はデッキを取り出した。


「ふ、いいでしょう……」


「「――デュエル!」」


 インディアンポーカーだった。


「「降りろ降りろ降りろ……」」


 何とも不毛なガン付け合戦だった。

 結局、単純に引きの強さでじーちゃんが勝利。ちょっと悔しい。


 ――私も連れてってよ!


「危険物の持ち込みって大丈夫でしょうかね……」


「ま、選手なら多分大丈夫なんじゃね?」


 ……最近スルーしっぱなしだった、この刀。

 その後、だらだらと修行に入る。そろそろゴンとキルアは水見式に入っていいんじゃねって感じだ。

 それと――。


「おめでとー!」


「おめでとうっス!」


「お、おう、ありがとう」


 ついに練を習得した一哉に、俺とズシは惜しみない祝福を送った。

 一哉は少し照れくさそうにして、苦労を乗り越えた充実に頬を緩ませていた。


 そして翌日、闘技場のホール天井付近に設置されたモニターで、カストロのインタビューを俺、キルア、ゴン、じーちゃんの四人は大勢に混じって見上げていた。

 画面の向こうでは、穏やかで自信に満ちた表情を浮かべるカストロ。キルアが傍目にも分かるくらいにうずうずしていた。

 そこで、カストロの控え室ちょっと覗いてみねぇとみんなに提案。皆それなりに興味を示していたらしく、二つ返事で了承。控え室にトリッパーらしき人間が、分かり易くいたりすればいいのだが。

 絶で慎重に、とは言っても控え室のすぐ傍で絶になったから、バレバレの可能性が高い。スタッフの目を盗んで少し開いたドアの前へ。そしてそのスキマを覗き込んだ。




「ヒソカ! ヒソカ! ヒソカ! ヒソカぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー! あぁああああああ!!! ヒソカヒソカヒソカぁわぁああああ!!! あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! あの試合の時、いい匂いだったなぁ…くんくん。んはぁっ! ヒソカの髪をクンカクンカしたいお! クンカクンカ! あぁあ!! 間違えた! モフモフしたいお! モフモフ!モフモフ! 髪髪モフモフ! カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!」


 カストロさんが、一人ヒートしていた。

 ざ・わーるど、と言うべきか。俺達の時が止まった。表情が凍り付く。

 そして、カストロがこちらに気付いたのか、目が合ってしまった。


 リューク達は逃げ出した。

 回り込まれることはなかった。


 見ただけで妊娠するのではなかろうか。冗談抜きでそう思わせる嫌な光景だった。

 不謹慎ながら、負けて死んでくれとか思ってしまった。

 そして、じーちゃんは試合のチケットを無言で俺に差し出した。謹んでお断りした。

 ゴン達はヒソカの試合だからと、嫌々ながら見ることにしたようだ。げんなりした表情だった。あーうん、頑張れ。

 ……トリッパー? どうでもいいよそんな物。




「ズキュキュキュキューーーン!!! うおおおおおおおお!! キルア! キルア! キルアたんが僕の前に現れたあああ……ぁああ!! キルアたんひゅぎぇええ!! あうう!! はうううううううううううううううん! ぬうううううううううううううううううん!! きゅう~~~~~ん!! キルアたんにきゅんきゅんきゅん!! うにゅにゅにゅにゅにゅにゅ~ん!! にゃはああああん!!! キルアたん宇宙一かわゆしゅぎゅりゅううううううううううううううううんあんあうんあうんんあんあんあんあああああん!!! もきゅきゅん。 ほえ~ああ……ああキルアたん! ツンツン白髪をナデナデしたい! ほ~らナデナデ! あああったか(ry」


続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十四話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/02/04 03:58


 彼の、この世界での最も古い記憶は、自分が死にかける場面だった。

 腹部を中心に全身へ広がっていく痛みに全身を振るわせ、体が芯から砕けていくような感覚に、戸惑いの表情が自然と浮かんだ。

 視界の先は目映い照明。仰向けに倒れているとそこで気付いた。

 そして、全身から迸る不定形の靄。


 ――コレはオーラだ。ボクはハンター×ハンターの世界にやってきたんだ。


 即断だった。

 言語を解する未知の装身具を拾えば某魔砲少女の世界にやって来たと確信するトリッパーを、遥かに凌ぐほどの早さだった。


 ――ボクを見下ろすこの人は、ヒソカだ。


 道化を思わせる特徴的な装いと美貌を持つ人物が、彼を見下ろして微笑んでいる。

 蠱惑的ですらあるその仕草に見惚れ、痛みも忘れ彼は元気になった。具体的に言うと、下半身の一部分が。

 彼は、二刀使いだった。無論、戦闘技術的な意味ではない。


「次は、期待しているからね……」


 ヒソカが屈み込んで、彼の耳元で囁いた。

 耳朶を打つ美声、生暖かい吐息。

 彼は、軽い絶頂を覚えた。

 そこで意識は途絶え、気がつくと病院のベッドだった。


 そして本来の名とは別の呼称を用いられ、加えて鏡に映る自分の容姿が変貌していた事実から、自分がカストロに憑依したのだという答えに至るまでそう時間はかからなかった。

 あまりにも現実から乖離した状況の中、彼は一切取り乱さなかった。むしろ不自然なまでに速攻で受け入れた。思わずベッドの上で小躍りしたほどだ。看護士には胡乱気な眼差しを向けられた。

 この時点で、彼に元居た環境へ戻ろうなどという意思は、素粒子ほども無い。そのまま、望郷の念に駆られるなどという事も有りはしなかった。

 ヒソカが手加減してくれたのだろうか、彼は翌日には退院できた。そこから、彼の新しい肉体と環境になれる為の試行錯誤が始まった。その際に付きまとう、記憶の違いによる常識のズレなどから来る挙動不審は、全て怪我のショックと苦しい言い訳で誤魔化した。

 それに、試行錯誤などと言っても、特に難しいこともなかった。穴だらけではあるが漫画で読んだ多少の知識はあり、また電脳ページを利用すれば学ぶ事に労は無かった。頻繁に連絡を取り合っている友人親類縁者が存在しなかったのも、頼れる者が居ないというリスクもあったが、誤魔化す手間が省けるという点でプラスに働いた。

 何より、先立つものは本物のカストロが闘技場で稼いだ億単位に昇る大金がある。口座番号を知らなかった為に多少の苦労はあったが、言ってしまえば彼はそれだけで、慣れない異境の富豪に早変わりしたわけだ。


 そして新生活に慣れた頃、彼は速やかに本格的な念の修行を開始した。

 ヒソカの洗礼によって精孔は開き、余暇に瞑想――正確には妄想――をしていたのが功を奏したか、この時点で彼は既に纏を習得していた。

 彼は特異な環境による常人へ対する優越感と、幻想に過ぎなかった漫画の技を習得できるという歓喜により凄まじい集中力を発揮していた。指導者不在でありながらも、上達に要する期間の短さは端から見れば常軌を逸するものだった。

 目標は最強主人公になってモテモテ、原作キャラでハーレムと、今居る世界を現実と見ていない思想を抱いていた。しかし、無意識に自らの限界を定め成長を阻害する弊害の除去という一点のみにおいて、それは大きく貢献した。結果、四大行を修めて一端の能力者になるまでに要した期間は半年も無い。


 さらに体術も、ある意味では念以上に不気味な飛躍的進歩を遂げた。

 折角カストロになったのだからと修行を始めた、漫画の絵でのみ知る――アニメでは詳細な描写が成されなかった――虎咬拳。その武術体系を独自に再現するなど、不可能な筈であった。その肉体が彼本来の物であれば。

 カストロは虎咬拳という武術を修めた人々の中で、歴代でも間違いなく達人と括られる一人であった。その肉体は、たゆまぬ鍛錬の結晶である。つまり、カストロの肉体は虎咬拳を振るうにおいて、これ以上ないほどに最適化された物なのだ。

 最も楽な挙動を取れば、それは自然と虎咬拳の体を成していた。無論、彼自身の凄まじい集中力による助けがあってこそだが。

 人によっては何より重んじる、戦闘における覚悟も、妄想により程良く歪に高まった自己顕示欲が恐怖心を欠如させた。

 そうして、その総合的な実力は瞬く間にカストロ本人を凌駕し、ヒソカとの再戦を待つばかりであった。


 ヒソカが執着対象の一角を占めていた彼。しかし、もう一人会いたい人物が居た。

 キルアである。キルアとカストロの直接の出会いは、キルアが試合直前にカストロに興味を抱いた事に起因する。つまり、ゴンとキルアが天空闘技場の二百階に到達するまで待たねばならない。

 そして、ようやくその時がやってきた。手刀のキルア、押し出しのゴン。二人の特集記事が闘技場を軽く賑わせた。彼は飛び上がるほどに歓喜した。……余計なおまけの存在を知り、少々盛り下がったが。

 リューク。ゴンと同じく対戦相手を押し出す戦法により勝ち進んでいるが、迫力に欠ける為に押し出しの二つ名を賜ることはなかった。大手の掲示板に依れば、ゴンやキルアと共に行動している光景がしばしば目撃されているようだ。


 ――ふざけるな!


 彼は激しく憤った。自分の物になるはずのキルア、ついでにゴンとお近づきになっているなど、許し難い行為だ、と。

 面識の全く無い他人の交友関係に口出しする権利が自分に在るのか考えることもなく、リュークは彼の敵に定められた。彼にとって、それは正しい事だったのだ。

 ……そして今、ヒソカとの再戦直前、キルアと自分が出会うはずだった。キルアは、彼から逃げ出した。その傍には、にっくきリュークが居た。


 ――あいつの仕業か!


 逃げ出される直前に自分が何をしていたかも忘れ、彼は更に憤った。その後、間近に見たキルアの表情を思い浮かべ妄想することを忘れなかった。

 そして、カストロは一時の鬱憤晴らしをしようと、携帯電話で大手掲示板、天空闘技場関連のカテゴリでスレッドを立てた。

 スレッドのタイトルは、『リューク死ね』。


 ……余談ではあるが、リューク死ねと書き込む人物の半数近くが、彼のような異界からの来訪者だったりする。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十四話




 ヒソカとカストロの試合から、二日経った。

 ガッシ! ボカ! カストロは死んだ。――となってくれれば正直嬉しかったのだが、カストロは瀕死の重傷で生き残ったらしい。

 カストロの生命力が凄かったということだろうか。それとも、殺さなかったってことか。

 ヒソカはどうして殺さなかったのだろうか。カストロにまだ成長の余地があったからとか、そんなところか?

 まあ、よく知りもしないヒソカについてこれ以上考えても無駄か。俺が知るのは所詮漫画の話だ。

 だけど、もしもさっきの想像が正しかったなら、カストロがどうでも良くなるくらいの大器がわんさか居たって話に……居るな、ゴンとキルアの他に一人。

 大丈夫なんだろうか、ノエル。おもっくそ目を付けられてるっぽいんだけど。

 俺には何も出来ることはないだろうな。ヒソカめっちゃ怖い。あのオーラと微笑を思い浮かべる度に悪寒が……。

 うん、ヒソカの恐怖を和らげる為に、声ネタに走ってみよう。ああ、ここで巫山戯られるくらいには、俺も精神的余裕があるんだなぁ。

 ヒソカにオッパイボインボイーンと脳内で歌わせて……余計に怖くなった気がする。

 それならば、大昔に聞いたキャラクターinCDの内容を……思い出せるわけねえよ。ヒソカがテレビ会社の社長だ、くらいしか覚えてねえっつの。

 もう良いよ。ヒソカ=怖い、で。

 どうでもいいけど、最近掲示板にリューク死ねって書き込みが更に増えてきてるんだけど。皆さんそこまで俺の事嫌いか。

 ゴンやキルアほど俺Tueeeしていないはずなのに、何がいけないというのだろうか。それとも、その微妙な親近感が返って仇となったのか。


「まあとりあえず、ゴンにはメダロットのOP歌わせたい」


「なら、私はレオリオに圓明流を覚えさせたい」


「クラピカは沢山のメイドに囲まれているのが吉ですね分かります」


「じゃあ、ヒソカにフォルゴレ的なオッパイソングを」


「ちっ、先に言いやがったよコイツめ」


「それと、ウイングさんには是非ともSAGAって欲しいな」


「アニメはそこまでいってねえよ。それより、あの人には同人作家デビューがお似合いさ」


「電話で神様に繋がる方じゃなくそれか。なら、いっそ勧誘してみるか?」


「いやいやそれはない。あ、ミトさんはゴンのママだな」


「……すまん、一瞬分からなかった」


「ふ、甘いな。その甘さが、いつか貴様の命取りになるだろう」


「人の食べてるシュークリームを指さすな。私に糖尿の気はない」


 折角思いついたので、クリスと声ネタで盛り上がってます。いや、この世界の方々、俺らの知識通りな声なんで。

 上記の声ネタ、瞬時に理解する人はどれだけ居るのだろうか。こうやってみると、微妙な声優が多い気がする。


「それでだ、キルアの良いネタが思い浮かばないのだが」


「奇遇だな、俺もだ」


 ガンスリネタなんてそのまま過ぎるしな。俺らが求めているのはギャップだ。


「お前ら、余り本人の居ないところで他人を弄るのもどうかと思うぞ」


 じーちゃんが割とまともなこと言った。説得力に少々欠ける。


「言う通りではあるが、無駄にしたくないというか何というか」


「一回もやらないのは、やっぱり勿体ない」


 俺の言葉にクリスも首肯した。

 俺ら、割と腐ってる。


「ギャルゲはどうしたギャルゲは」


「……アイデアなら、無くもない」


 じーちゃんの言葉に自信なさげで返した。

 苦し紛れに以前思いついたアイデアを、簡単にまとめてししょーへ送っただけなんだ。クリスも微妙に難色示しつつ了承。難しいネタだってのは分かってる。

 微妙にクロスする複数主人公のオムニバス形式だ。仮題は「キミに幸アレ」。

 それぞれ他者の幸せが自分の不幸になっていたり逆だったり、立場の違いによる幸せのあり方、その違いがテーマになっている。


「ねこねこ系カスってね?」


 と、じーちゃん。

 ……ああ、今気付いたわ。何の影響受けてたのか。

 目を反らしていたとかは言うな。


「……俺、ウイングさんトコ行くわ」


 今日は録画したヒソカの試合を見て勉強するって事思い出した。

 うん、修行は大事だしね。


「逃げに入りよったか」


「何とでもお言い!」


 裏声で捨て台詞を残し、自分の部屋を後にした。

 そういや、ノエルどこ行ったんだろ? また買い物とかかねぇ。


 そして、みんなでテレビの前に座り込んでヒソカの試合を見る。

 凝をすると、ヒソカの念は結構あからさまだった。


「オーラがゴムみたいに伸び縮みしてる」


 ゴンが目を丸くしている。

 画面の中で、カストロは漫画とは違い積極的に前へ出て虎咬拳を振るっていた。鋭く無駄のない歩法だ。

 ヒソカはそのゴム状オーラでカストロの体を引っ張り体を崩す。できた隙を突いて殴る。

 カストロが、虎咬拳の鋭利に研ぎ澄まされたオーラでそれを切り裂けば、その隙を突いて殴る。

 余計な遊び無く、隙を逃さない力強さ溢れる挙動。条件を満たせば一撃必殺とかそう言うのはない。必要ないのだ、ただ強化した体術があれば。

 やりにくい念とか、それを振るう性質の悪さだけじゃない。その、素の強さが最も恐ろしい。

 過去の試合を見ると、ヒソカは試合で遊びが多かった。パフォーマンスじみた動きをしたり、それでも対戦相手は皆死んでいたが。

 カストロ戦で遊ばなかったのは、気を抜けば脅かされるくらいの基準にカストロが達していたって事か。

 カストロも始めはかろうじて防御し、反撃へと移っていた。決定打こそなかったものの、ヒソカの体表に幾つもの裂傷を刻んだ。

 それに答えるかのようなヒソカの笑みも、カストロの強さを証明していたのだろうか。

 目を剥いて口角をつり上げ、カストロを殴るその姿は人ならざる悪鬼を連想させる。録画した画面越しにも圧倒される物があった。

 後半にさしかかるとカストロは碌に防御も出来なくなり、ヒソカの攻撃は急所を故意に外して嬲るようになった。

 まるで、愛おしんだ戦いの終わりを惜しむようでもあった。この時点で、体術に重きを置くカストロに逆転の目は無かっただろう。

 そして審判がポイントの加算で決着がついたことを宣言した。

 直後にヒソカは一心不乱にいたぶっていたカストロからあっさり離れる。興味を失ったのか、倒れ伏したカストロを一瞥くれることなく背を向ける。

 そのまま少し放置するだけでカストロは死んでいただろう。生き残ったのは、単なる結果だ。格闘家として復帰できるかも怪しい。肉体的にも、精神的にも。

 後方で立っていたウイングさんが、リモコンでビデオを停止した。それから、皆がそろって深々と溜息を吐いた。


「おっそろしいなぁ」


 俺が漏らした言葉も嘆息混じりだった。

 息を吐かせぬとはこのことか。試合時間は十分足らずだったのだが、この疲労感といい三時間の長編映画を見たような感覚だった。

 生でもないのに、これだけの圧力をまき散らすことの出来るヒソカが恐ろしい。

 それから、ヒソカの念、その体術がどのようなものか言及する。ヒソカは凄い。言ってしまえばそればかりだった。

 やっぱり遠い――。そう呟きを漏らすゴンの表情は、決意に満ちていた。震えるその手は武者震いか、はたまた恐怖か。

 近いうちに、やっぱり挑戦するのだろう。俺は、微かに笑んだゴンが恐ろしくなった。




「あー怖かった」


 一人、部屋への帰りに歩きながら漏らした。同じような意味合いの言葉、何度目かになる。

 ヒソカが、どれだけかけ離れている人種なのかを実感した。アレみたいにはなれないし、アレとやり合おうなんて思えない。まさに別世界の人間だ。

 天空闘技場をもう離れようか。もうヒソカには近づきたくないし、関わり合いにもなりたくない。正直な話、ゴンやキルアとも少し距離を置きたいと感じるようになった。

 俺は、あの種の人間がどれだけ恐ろしいかを全く分かっていなかったんだ。理解できない。怖い。それだけで済むレベルじゃない。

 アレらは、その意図が無くとも思うままに生きるだけで、傍にいる人間を殺しかねない。そういう人種だ。ヒソカだけじゃない。ゴンやキルアもこれから先、どう転ぶか分からない。

 漫画の主人公だから、なんて何の保証にもならない。少なくとも、俺はそれで安心できない。

 友達だろ――。ヲタばれしたときの、少し不安げなキルアの顔を思い出す。

 あいつは、我が身可愛さに逃げたがっている俺を裏切り者と誹るだろうか。それとも、悲しむのだろうか。

 そこで、天井の高いホールにさしかかる。天井に設置されたモニターでは注目の選手を特集する番組が流れている。

 何気なく見るも、特に目を引く内容でもない。背を向け、立ち去ろうとした。


『緊急速報ーーー!!』


 そこで画面が切り替わり、女性の声が威勢良く響いた。


『なんと早くも、あのヒソカ選手と次にやり合う相手が決定しました!』


 あらま、何処の何奴だ? 期限ギリギリでもないのに、ヒソカとやり合おうなんてよっぽど強い奴だろうな。


『過去にも弱冠九歳で二百階に到達し、今回に至ってはそこまでたった二日!! 本日百九十階で勝利を決めたばかりです!』


 おいおい、どこの化け物だよ。キルアじゃあるまいし。


『その名は、ノエルーー!!』


 ……え?


 あいつ、が? ……いや、聞き間違いさ。そう思い直すも、直後に否定された。

 画面が切り替わり、映し出される顔と名前。それは間違いなく俺のよく知るノエルだった。

 衝撃に戦慄き、体が強張る。画面に流れるノエルの試合風景も、頭に入らない。口を半開きにした間抜けな表情で、俺はしばらく固まっていた。




「まったく、あのばあさんも碌な事を考えない……」




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十五話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/02/15 02:56


 ヒソカとの試合でボロ負けした彼が目を覚ましたのは、試合から二日後のことである。

 見下ろす自らの全身には包帯が巻かれ、まさにミイラ男の体だった。自分が生きている事実を噛み締め、自分が生き延びたのはきっとヒソカの愛だ(ry

 まあ、とりあえず喜んだ。

 フラグが立った、フラグが立ったと喜んだ。

 ……ヒソカが彼を殺さなかったのは、彼の成長性にまだ期待が持てたと言う事もあった。

 あったのだが、その最大の理由は後に控えたご馳走への備えであり、軽い前菜程度で満足しないよう『空腹』を保とうとしたからなのだが、彼がそれを知ることはついぞ無かった。何という哀れな道化。そのにやけ面を見れば同情する気も消え失せるが。

 オーラによって自己治癒能力が高まった彼の肉体も、常人なら全治半年を要するであろう重傷では安静を余儀なくされた。どうでもいいが、入院二日後に集中治療室から移れるその回復経過は、病院関係者、念能力者にすら酷く不気味がられたそうだ。

 暇を持てあました彼は、病室備え付けのテレビをつけた。ちなみに、彼の病室はVIP待遇の患者に用意された物であり、テレビモニターは壁と一体の超大型だ。

 そして、リモコンで適当にチャンネルを回し、天空闘技場関連のチャンネルを開いた。丁度、闘技場関連で緊急告知があるらしい場面だった。

 ヒソカと次に対戦する相手が決まった。一体何処の何奴だ、ゴンにしても早すぎる――。リュークの存在に続く、漫画と乖離したその状況に彼は眉をひそめた。

 そして映し出されるその対戦相手。


 一目見て、キュンとなった。


「て、天使だ……」


 つまり、フォーリンラブ。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十五話




「どういうことなんだ、ノエル?」


 俺の部屋で、俺とノエルは二人向かい合って席に着いている。

 俺の視線から逃げるように、ノエルは伏し目がちになって黙り込んだ。

 問い質したいことがあった。何故ヒソカと戦うことになったのかと言うことあるし、もう一つ。

 ノエルが九歳の試合映像を特集で見ると、念を習得していたのが分かるのだ。

 しかも、その時点で俺よりも強い。言っておくが、俺は強いというわけではないが、決して弱くもない。俺と共にししょーの下で修行を始めた時点で、ノエルの実力は相当な物になっていただろうと容易に想像がつく。

 つまり、ノエルは実力を隠蔽しているのだ。俺の想像を遥かに上回るレベルで。

 こうして見ていても、俺より結構強いぐらいしか分からない。分かっていても誤魔化されるくらい、力量の開きがあるわけだ。

 俺との修行なんて、ノエルにとってはお遊び程度に過ぎなかったのではないだろうか。俺は、ずっと見下されていた? 嗤われていた?

 ……ノエルがそういうヤツだとは思いたくない。俺と一緒にいたのは、そこに友情があったからだと、信じたい。


「今更怒る気にもならんが、事情くらい教えてくれても良いんじゃないか?」


 今回の経緯とか、隠していた事実についてとか。


「うん……その、ごめん……」


 ノエルは沈み込んだ様子になって、消え入りそうな声で俯いた。


「だから、そういうこと言ってんじゃなくて……」


「分かってる。でも、ごめん……」


 嘘を吐いていたことが、ノエルにとっても重荷になっていたワケか。ま、ノエルなら気にするわな。


「じゃあ、その辺は置いといて、勝算はあるのか?」


「……良くて五分五分ってところかな」


 ヒソカ相手に五分イケルとか、ねーよ。どんだけ強いんだ。

 ……でも、半分の確率で死ぬるってことかよ。


「なあ、いまからでも辞退できないか? つーか逃げちまおうぜ。俺のとーさんとかーさんに泣きつこう、な?」


 三点リーダーを多用しそうな雰囲気からの脱却を謀って、お気楽につとめた口調で提案してみる。

 まあ、本気だが。正直、両親に泣きつくとかみっともないにも程があるが。仮にもハンターですよ、俺。


「……気持ちだけ、受け取っておくよ」


 俯いたまま、ノエルは首を振った。


「それよりもリュークだよ。僕が負けたら逃げないと、今度はそっちが大変だよ」


 顔を上げたと思ったら、俺を心底案じているのが分かる不安げな表情になった。


「言われなくとも、そうなったら目を付けられる前にとっとと逃げるよ。それよりも、今はお前のことだ」


 この期に及んで俺の心配か。余裕があるのか諦め入っているのか。後者に聞こえるのは俺の気のせいか?


「勝算はあるって」


「最悪の場合は死、だ。良くて五割の勝算とか、俺はごめんだね」


 ほら、俺ってチキンだから。

 ……ハンター試験は危ない橋もあった気がするが。


「リュークらしいね」


 口元に手をやって苦笑するノエル。


「さあ、和やかになってきたところで、夜逃げの準備始めようか」


「唐突だね」


「……巫山戯ているように見えるかも知れんが、俺は本気でお前を心配している」


 ちょっと真顔になって言ったら、ノエルがきょとんとした表情になった。


「いつも頼ってばっかで説得力無いけど、お前にもしもの事があったらと考えただけで、落ち着かなくなる」


 今だって、心臓が早鐘拍ってるんだ。

 だから。


「逃げよう」




「……ありがとう」


 固まっていたノエルは一転破顔した。それから目を閉じ、一瞬の間を置いてから、ゆっくりと開く。

 表情は落ち着いた物となっていた。だというのに、そこにはある種の迫力を帯びている。


「おかげで、憂いなく戦える」


 そこに、俺が入り込む隙は無かった。

 無いと、分かってしまった。

 そして、理由を朧気ながら察してしまった。

 たぶん、俺の為。ヒソカに脅されでもしたんだろうか。


「今回、お前がヒソカに目を付けられた原因はきっと、俺とクリスが予測できていながらハンター試験を受けたことにある」


 情けない声が口を突いて出る。

 責任は自分にある。保身でノエルに押しつけるのは、余りにも身勝手で、みじめだ。


「俺らのことを見捨てたっていい」


 ノエルが戦った方が、きっと確実だ。

 それでも、俺らが戦うべきなんじゃないだろうか。そう思い始める。


「だから――」

「違うよ」


 優しい断言で遮られた。


「全部、自分の為だから」


 買いかぶりすぎだよ――。そう言うノエルの笑みは、やけに儚げだった。


「でも、俺らは現実見ないではしゃぎすぎた。ノエルが割を食うのは、違うだろ」


 トリッパーだから――。巫山戯た理由で、危険を鑑みない。余りにも都合の良い考え方だった。

 目の前に突きつけられて、ようやく分かった。


「世の中に都合の良さを求めて浮つくのって、普通のことだよ。リューク達のせいになんて、しない」


 そこで、ノエルは肩をすくめた。


「僕だって、途中で知っても無謀な真似したことあったし。今回のも、自業自得なんだよ、色々とね」 


 そして、自嘲の窺える嘆息を一つ。


「それにさ、ハッキリとした証拠が欲しかったんでしょ?」


 その言葉に、俺はギクリとしてしまった。


「『前』の世界が在ったって、ハッキリとした証拠。だから、物語に近づきたかった」


 今まで、そんな考えを意識したこともなかった。けれど、自然と腑に落ちた。

 俺がトリッパーってはしゃぎ回っていたのは、もしかして不安、だったのだろうか。

 前の世界で積み重ねてきた俺が虚構でなのではと、否定されたくなかったから……。


「間違ってたらごめん。でも、そう感じたんだ」


「いんや、合ってる。結構納得できる部分あったわ」


「そう……」


「とりあえず、その辺は置いといて逃げようか」


「また唐突だね」


 確かに。何度目だろ、この振り。


「このままだと、何度も横道に逸れまくるシュールギャグになってしまいそうだな」


「じゃあ、ここで結論を出そう」


 苦笑するノエルは手を叩いた。


「僕は、逃げないよ」


 予想通りの答えだった。


「いざとなったら、力尽くで押し通すから」


 それも、予想通りだった。

 何故か互いに、小さく吹き出した。


「ちくしょうが、結局は暴力かよ」


 背もたれに体重を預け、倒れ込むように上を向く。


「もっと甘く囁いてくれたら、考えたんだけどね」


 そうくるか。


「それは無理だな」


 二つの意味で。

 ガラじゃないし趣味じゃない。


「残念」


 その表情は、いたずらっ子の笑みだった。


「詳しい事情もさ、ちゃんと話すよ」


 ノエルは、笑みを崩さぬまま告げた。


「そうか。話せ、思う存分に」


「……えと、また今度でいい?」


 その表情が、少し引きつった。


「俺のオタク脳に言わせると、その台詞は思いっきり死の前兆なんだが」


「僕にとっては生き死により重いから、先に雑事を済ませておきたいんだ」


「テスト前に掃除したくなる的な言い訳に聞こえるな」


「ちょっと耳が痛いなぁ……」


 言いながら、苦笑になっていた。

 ヒソカがテスト前の掃除と同格ですか。


「まあ実際、かなり縁起が悪いから、大事を先に済ませよう」


「えー、無理無理」


 慌てた様子で手を振って、拒絶の意を示すノエル。先ほどと比べても、調子が妙に軽い。


「話せって」


「む、無理だって」


「お前マジでヤバイ感じがするって」


「……じゃあ、リュークがそのオタク脳とやらを駆使して、何とかして」


「無茶振りだなおい」


「僕は、今は何にも話さないから」


 そっぽを向くノエル。

 おいおい。いや、ワケ分からんのだが、この状況。

 ……死亡フラグを何とかする方法とか、ねえ。うーん。

 突っ伏して唸り、考える。そして、ふと妙案が浮かんだ。微妙で珍妙な案の略だが。

 頬をテーブルに置いた脱力姿勢のまま、呟く。


「……僕は富竹。フリーのカメラマンさ」


「何それ?」


 怪訝そうな声が返ってきた。


「いや、この際開き直って死亡フラグをぶちまけまくれば、逆にプラスに働くんじゃないかっておもって」


「理屈にもなってないね……」


「とりあえず、色々言ってみようぜ。――おや、誰か来たみたいだ」


「えーと、殺人鬼なんかと一緒に居られるか、俺は部屋に戻る――みたいな?」


「そうそう。後、別に倒してしまってもかまわんのだろう、とか」


「それは知らない。あ、三流悪役が敵に報復を誓って逃げ出すところとか、結構悲惨な末路多いよね」


「分かってんじゃねえか。それとだな……」


 そうやって死亡フラグを列挙していく内に、口の滑りが良くなってきて、熱く語りだしてしまった。

 気付けば軽く身を乗り出し、息も荒くなっている。


「本拠地だってのに、やけに静かだな……。ヘッ、俺たちにびびって逃げちまったんだろ! ……ふう。これだけ言えば、さっきの些細な死亡フラグなんて屁でもないな」


 達成感を噛み締め、手の甲で額の汗を拭う。


「妙なことに、こっちもそんな気がしてくるよ」


「効果有りか。やったね」


「まあ、僕は死亡フラグとかどうでもいいんだけどね」


「ひでぇ」


「まあ、満足はしたから」


「そうかい。なら良しとするか」


「そう言うことにしといて」


 ノエルはそう言いながら、こっちを見つめてニコニコ笑むばかりだ。


「……ノエル」


「なあに?」


「絶対勝てよ」


「うん」


「原作レ○プとか言われてもめげるなよ?」


「……うん?」


「G○NZ○みたいになれよ? いや、むしろお前がG○NZ○だ」


「いや、流石に自重しなよ」






「どういう事なんだ、ソフィアさん」


『私は後押ししただけだよ』


「その辺りを、もう少し詳しく」


『このままじゃ、燻ったまま消えかねなかったからね、色々と。道化さんの申し出を受けるように言っただけよ』


「変化が欲しかったと」


『そう、どう転んでもきっと愉快な事になると思うの』


「全部台無しになっちまったら、どうするんだい?」


『ふふふ……。そんな事、在るわけ無い』


「ちと、妄信が過ぎるのではないのかな?」


『妄信? あなたは、あの子の恐ろしさを解っていないのね』


「身を以て知ったばかりだが、どうにも荷が重い気がしてならん」


『身を以て? それは、あの子に殺されてから言いなさい』


「言えん言えん」


『ふふ、ふふふふふ……』


「へいへい、理解出来ん外野は、大人しく観戦させていただくとしようか」




続く




あとがき

やはり文章能力がかなり切実に欲しい(挨拶)

折角春休みなんだしオリジナル描こうとか思っているから、なおさら文章能力が欲しい圭亮です。

具体案があるのは、未来型天空都市を舞台にした戦闘機のSF(笑)な轟天のキャノンウィングか、魂を構成する素粒子がなんやかんやの現代ファンタジー(笑)なソウルバスター。

現状、タイトルだけで香ばしいこれらを書くのに一番足りないのは、知識です。どんな資料を読めば良いか、それを探している段階です。ググれカスです。

まあそれは置いといて、そろそろ完結が見えてきたかも知れません。うまくいけば、あと十話以内に……。あんまり引き延ばすのも、そろそろアレですしね。

ではコレにて。




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十六話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/04/27 07:03


 闘技場のリング上に緊迫した空気が満ちる。戦闘に対する感受性の弱い常人すら発狂しかねない重圧に、客席も静まりかえっている。この手の空気に親しみ普段は熱狂の叫びを上げるマニア達すら、無言でリングをじっと見つめるのみだ。

 静寂が、状況の異質さを見事に物語っている。荒くれ者の聖地たる天空闘技場でも、この様な事態など数えるほどだろう。

 正方形のリング上では、二人の闘士が臨戦態勢の構えで向かい合っている。ノエルとヒソカだ。お互い二、三歩では足りない程度に、しかし一足飛びでその身を運べる程度に距離を保っている。

 双方共に微かな身じろぎをする様が頻繁に見られた。状況を俄にしか理解できない者には、ただ単に緊張で構えが崩れて隙が出来たかのようにも思えるだろう。しかし実際は、相手がいつ襲いかかってきても直ぐさま反撃に移れるよう重心は崩さず、それでいて隙が出来たかのような、もしくは相手の誘いに乗る振りをするフェイントの応酬だった。

 そして時折踏み切り、刹那にぶつかり合う。相手の虚を突く動作をより高度に成し遂げた者がその瞬間を制し、再び間合いを置いた時、観客に結果が伝わる。

 そのような変則的な試合模様となり、既に一時間は経つ。ある程度戦力が拮抗していなければ、最初の交錯で試合は終了していただろう。

 現状で試合を有利に運んでいたのは、ヒソカだった。念により仕掛けた罠、ただでさえ超高度なフェイントの中に時折本当の隙を作るような大胆さ、戦闘経験の差による咄嗟の思考と挙動その柔軟さ。それらがノエルをじわじわと追い詰めていた。

 単純な近接格闘で言えば、むしろノエルが一段上を行っていた。しかし、コレは既に単なる試合に域を超えた殺し合いだ。殴り合い以外で相手を追い詰める術において、ヒソカはノエルよりも遥かに上を行っていた。

 少しずつ身を削られていくノエル。どの傷も軽い打撲や薄皮を削がれた程度だったが、ヒソカに与えられた傷はその半分程度だ。ポイントも8-4で負けている。


 ノエルは、自身の圧倒的なまでの劣勢を悟っていた。

 今までの遣り取りで、互いの動作に見て取れる癖をほぼ把握しつつあった。おそらくここからは、思考の読み合い騙し合いだ。そこはヒソカに一日の長がある、と。


 ノエルの思考はおおむね正しく、ヒソカは次の衝突に備えて仕込みを始めていた。だが、ヒソカにも警戒を強いられる要素があった。

 それはノエルの成長速度だ。ノエル程の才能があれば、戦闘の中でも相手の動きから学び、時には自らの閃きで突如成長するというデタラメな事態がままある。ヒソカは当然それを予想していた。

 ノエルの学習能力は、ヒソカから見ても異常と言えた。最適化されていく挙動は、一見穏やかそうでありながら鋭い。多様さを増すフェイントは、ヒソカの思考そのものを予測するかのような巧みさの片鱗があった。ノエルの動きを全て見切ったかと思えば、更なる技巧を凝らしてくる。このまま行けば、もしかしたら先に底を晒すのは自身かも知れない。

 その事実にヒソカは歓喜した。更なる興奮がこみ上げ、思わず表情が綻びた。思考がより鮮明になり、この戦いを楽しもうとする。血流が下半身の一点に集中するのが分かった。

 この戦いで摘み取ってしまうのは勿体ない。いや我慢の限界だ、早く終わらせて自らの勝利に絶頂を迎えたい。相反する思考が、ヒソカの胸中で渦巻いていた。


 この迷いは、今回に限りノエルにとってプラスに働いた。結論から言えば、ノエルは生き残った。

 ただ――。

 そう、最後の刹那だ。

 互いに駆け出し間合いを詰め、直後――。


「両者クリティカル!! プラス2ポイント! プラスダウンポイント1、ヒソカ! 11-6! TKOにより、勝者ヒソカ!!」


 響き渡る審判の判定。それから微かにざわめく客席。

 リングを見下ろす者の多くは、その光景を痛ましいと言わんばかりに歪んだ表情をしていた。

 そしてリング上、力無く倒れ伏すノエル。

 ヒソカは、痙攣し前屈みになって股間を押さえていた。痛苦と快感が合わさったような、何とも形容しがたい表情だった。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十六話




 ノエルは生き残った、割と軽傷で。

 ヒソカは死んだ、男性的な意味で。

 だってさぁ、膨らんでいたのに、その、ノエルの蹴りがさ……。

 しかも、局部が真っ赤に染まっていたんだ。あれは、終わっただろ……。

 一緒に観戦していたゴンやキルアも、顔をしかめて股間を押さえていた。痛みを創造したんだろう。拷問慣れしてるって言うキルアも、アレはまた別らしい。

 試合に勝って勝負に負けたって、ああ言う状況を指すんだろうなって思った。

 試合はヒソカの勝利だし、ノエルに賭けた一億は飛んじまったが。言っておくが、やましい意味ではない。勝って無事に戻ってこないと許さない、と暗に告げたつもりだった。実際、ノエルは酷く意気込んだ様子で勝ってくると言っていた。

 まあ、今はノエルの生き残った事実に対する安堵が大きく、一億なんていいさって気分にもなれる。預金残高はまだ半分以上在るし。ここは漢らしく全額つっこんだ方が良かったと思っていたが、結果的にはまあ、これでいいかって感じ。

 試合を終えたノエルは、現在病院に泊まり込みで精密検査中だ。金さえ積めば融通きかせてくれます。無事なんだろうとは思うが、どうも気になってしまう。

 今だって俺は、落ち着き無く自室内で動き回っている。薄笑いと共に俺を追跡するじじぃが果てしなくウザイ。クリスは、落ち着き払った様子で卓について紅茶を飲んでいた。


「歩き回ったら、なんか喉が乾いた。俺にも入れてくれ」


 言いつつ、背後の爺に裏拳を放つ。

 幼女に何やってんだと言われそうだが、顔じゃなくて頭狙ってるからセーフな。


「ん」


 クリスは気だるそうな頷きを返しつつ、空のカップに紅茶を注いだ。コイツは不安の欠片も無いな。


「無事だろう。だってノエルだし」


 根拠無く、さも当然のように言い切るクリス。


「まあ、あいつなら平気だろう」


 背後のじーちゃんも首肯した。なんだか、お前らの方がノエルのこと解ってんな。


「解っているというか、思い知らされたというか」


 遠い目をするクリス。じーちゃんもしみじみと頷いた。

 ……何となく察してしまった。

 そして俺は紅茶を飲む。ノエルよりも入れ方下手だな。一口で解る。


「いまいちだな……」


「ノエルにすっかり調教されちゃって、やーねー」


 おばさん臭い言い回しのじーちゃん。あれ、ちょっと可愛い……。

 っておい! 調教って何だよ調教って。

 そしてクリスも続く。


「今更だろう、リューク。もうお前は、ノエルに寄生しないと生きていけないダメ人間であると自覚しろ」


 なん……だと……。


「って、そう言うお前こそ、ノエル抜きで真っ当な生活が送れるまともな人間であると言えるのか?」


 知っているんだぞ、クリス。お前が俗に言う片付けられない女だって事は。


「ゴミ屋敷の生産者と同列に並べるな。人より多少整理整頓が苦手なだけだ」


「多少、ねぇ……」


 そうかい。まあ、俺も人のこと言えませんけどねー。

 お互い家事無能力者だ。


「「このくずー」」


 クリスと指差し合って、微笑んだ。

 ノリ的に、ガチで打ち合う五秒前。まあ、やらんが。

 ちょっと落ち着いたし、そろそろ寝よ。




 そして朝一に病院にノエルを迎えに行った。

 じーちゃんとクリスの三人で、一般の診察が始まる前に。事前に病院を通してノエルに連絡は入れているし、ライセンスをちらつかせれば時間外面会なんてどうにでもなる。

 嫌なものを、見てしまった。


 ロビーで、全裸のカストロが床に正座していたのだ。

 全裸待機ですね解ります。三人揃って、口元に手を当てて目を逸らした。

 若い女性の看護士が半ば悲鳴じみた声で服を着て欲しいと言っているようだが、当のカストロはどこ吹く風で下がれと言っている。追い出せよ。

 しかし一体、何を、誰を待っているというんだ……。

 まあ、超関わりたくねぇ。

 スルーして、受付へ向かおうとした。

 目があった。めっさ睨まれた。


「リューク死ね……」


 カストロの、怨念が籠もったとでも言うべき低く重い呟き。コイツ、書き込んでるのか?

 つーか、俺コイツに何かしたのか?


「本来ならば殺してやるところだが、今のボクは機嫌が良い。今だけ、お前を見逃してやろう」


 全裸のカストロがとても偉そうに言った。だから俺、コイツに何かしたっけ。


「今日、ボクはボクの天使に想いを告げるんだ」


 恍惚の笑みを浮かべる、全裸のカストロ。

 相手が哀れだ。

 でも、関わりたくない。

 絶対成功しないだろうけど、ガンガレ。

 受付で問い合わせた。ノエルは検査の大体を終え、小休止中らしい。ならちょっと会えるかな。

 と、思った直後だ。


「リューク!」


 ノエルの声が聞こえる。

 奥の廊下からグリーンの入院着を着て、パタパタとスリッパを鳴らし早歩きで向かってくる。

 ノエルに向き直ったその時だ。俺のすぐ横を、カストロが駆け抜けていく。


「愛してるぅぅぅぅ!!」


 雄叫びを上げ、長髪をなびかせ、ナニを揺らし、ノエルとの距離を詰める。 

 相手はノエルだったのか! ノエルとお突き合い(誤字にあらず)しようというのか!?


「ひぃぃっ!」


 表情を引きつらせたノエルの、絹を裂くような悲鳴。

 俺は咄嗟に腕を掲げ、Vツールを伸ばす。右の足首に絡み、カストロは盛大にこけた。


「邪魔をするなぁぁ!!」

 

 それでも尚、這って進もうとするカストロ。俺はカストロを宙に釣り上げ、それを阻止する。

 流石に空を掴むスキルは持ち合わせていないようだ。足首に絡めたまま、更にVツールを伸ばして両手足を束ねてエビぞりにする。

 ナニから床に落下したカストロ。痛苦に喘ぎながら、その中に快感を見出したかのような表情だった。

 カストロがこちらを睨む。俺もにらみ返してやった。ノエルは俺の後ろに隠れた。


「貴様ぁぁぁ! 何でボクの邪魔をする!」


「明らかにノエルが嫌がってたからだろうが! 生憎、ツレが襲われて黙ってるような人間じゃないんだよ」


「キルアたんのみならず、ノエルたんまで毒牙に掛けたというのか! し、しかも、触手プレイだと!? 巫山戯るな! 羨ましい!」


「毒牙って、むしろお前がやろうとしてただろ! 後、触手言うな!」


 Vツールを触手って言われたのは初めてだよ。


「すまん、ワシも触手だと思った」


「実は、私も何度か思った」


 爺とクリスは苦笑しつつ、俺から目を背けた。

 うわ畜生! Vツールで感じるカストロのがっちりした感触を意識しちゃうじゃねえか!


「やっば、超離してぇ!」


 しかし、逃がすとノエルに襲い掛かりかねない。


「それ、解放していいよ」


 ノエルはそう言って俺の前に出た。


「ちょ、ノエル。お前体は――」


「平気だよ。さっき師匠が来てね。バケツ一杯の薬飲まされたから、殆ど万全だよ」


 だから大丈夫、と穏やかに告げる。

 コリャもう言っても聞かん。俺は肩をすくめつつ、Vツールを消した。

 そして、獣が解き放たれた。


 カストロの放つ掌打(おっぱいタッチ)を躱しざまに合わせた右は―――――――――

 正確にカストロの顎の先端を捕らえ―――――――――

 脳を頭骨内壁に激突させ―――――――――

 あたかもピンボールゲームの如く頭骨内での振動激突を繰り返し生じさせ――――

 典型的な脳震盪の症状をつくり出した。

 さらには既に意識を分断されたカストロの下顎へ、ダメ押しの左アッパー。

 崩れ落ちる体勢を利用した――

 左背足による廻し蹴りはカストロを更なる遠い世界へと連れ去り―――――――――

 全てを終わらせた!!!

 その間、実に2秒!!!

 声を忘れたリューク達は――――

 ただただ目前の状況を見守るのみ。

 これがもうじき十四歳を迎えようとする少女ノエル・フライガ、ベストコンディションの姿である。




 ヒソカはベッドに布団の上から寝そべり、天井を眺めながらぼんやりと思索にふけっている。

 日に日に髭が薄くなり、体も丸みを帯びている。声も高くなっていると思うが、殆ど喋らない。ベッドの上でじっとしたまま、時折チラチラと自分の股間を覗き込んでいる。失われた男性器がいつかは生えてくると信じているらしい。

 ――といった、白牙の神奈川県どら息子の様にはならなかった。むしろピンピンしていた。

 ヒソカは常人よりも旺盛な性欲を持っていたが、それはヒソカに根付いている殺人衝動の歪んだ発露である。常人のように欲求を発散しようと破壊に走るのではなく、むしろ逆。ヒソカにとって、生物の根幹たる三大欲求など余計な付属物にしか過ぎない。

 戦い、そして殺す。それさえ最大限に満たされるならば、他にヒソカは何も望まないだろう。たとえそこで果てたとしても、殺す為に生きることを貫けるのならば。ただ、それを叶えるのが難しい。

 なかなか見つからないのだ、ヒソカを満足させるような人間は。成熟し、最強の一角に数えることの出来るこの身は、命の掛かった『本当の戦い』に身を投じることが叶わなくなってきている。

 最高の人と対面し、殺し合う。誰の邪魔も無い、恋人の睦み合いのようなそれを、ヒソカは求める。

 数に任せた危機など、ヒソカにとって不純なそれなのだ。だから、一度標的を定めたらその時が来るまで機会をうかがう。

 旅団に所属した振りをしたのも、その布石に過ぎない。他にもゴンやキルアなど、将来に美味しく実りそうな目を付けた『青い果実』が居る。

 そしてまた一人――。もしかすればクロロすら上回りそうな、先の期待できるあの美姫。少しばかり味見しようとしただけだった筈だというのに、死をくぐり抜けたスリルと体に刻まれた屈辱感がない交ぜになってその胸中でうずく。

 いまでも鮮明に思い出せる、最後の交錯。あの土壇場でヒソカは成長し、追いつきつつあったノエルを引き離した。自分がまた一つ上の領域にのし上がった事実に、得も言われぬ痛快さを覚えた。

 互いに見つめ合い高め合う。そこにヒソカは恋人同士のような艶やかさと近しさを感じた。だから、ヒソカは摘み取ることを躊躇してしまったのだ。目ざとくその隙を突かれた結果がこれだ。


「くふふ……最高だよ、キミ」


 笑みがこぼれた。

 しばし待とう。今でさえ、まだ熟し切っていない。

 彼女は奥底に色狂いの魔女然とした物を秘めておきながら、しかし清らかさに焦がれ執着している部分もある。完全な目覚めまで、まだしばらく掛かりそうだ。

 しかし、その時が来たら、必ず摘み取ろうと決めた。

 あるいはヒソカ自身の命が摘み取られることになろうとも。




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十七話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/05/05 02:13


 ヒソカVSノエル後は、正にお祭りだった。

 闘技場内でも屈指の迷勝負&名勝負として様々な観点から議論がなされ、複数のアングルから撮影された試合映像のディスクは高価ながら驚異的な販売数を記録した。

 闘技場関連のスレでも反響は凄まじかった。ヒソカが汚された、哀れだ。ノエルに責められたい。中性的なノエルとタマ無くした今のヒソカならお似合いなんじゃね。そう言えばノエルもリュークの野郎と一緒にいる事が多いらしい、リューク死ね。

 ……まあ、様々だ。俺どんだけ嫌われてんだよと泣きたくもなるが、それは今更だ。

 ちなみにヒソカは男として再起不能らしい。鍛えた肉体の維持とか、どうすんだろ。確実に今までよりも難しくなるよな。男性ホルモン投与したりすんのか?

 そしてノエルにハァハァするスレも立ち、瞬く間に消化されていく。こんな可愛い子についている筈がない、いやこんな可愛い子についていない筈がない、とかな。それとついてないヒソカにハァハァする輩が作った、スレンダーな体のコラは見事な職人技だった。

 うん、きめぇ。知り合いがこういったものの対象になると、やはり嫌な気分になりますね。

 それとも、嫉妬だったりするのだろうか。

 ノエルが、その、俺に並々ならない好意を持っているのは分かるんだ。どういったベクトルかはさておいて。

 時々、それがどうしようもない重荷のように感じられる。

 どう、向き合えば良いんだろうか。俺は、それに何か返してやれるのだろうか。返してやるべきなんだろうか。

 俺は、ノエルをどう思っているのだろうか。

 ――けど掘られるのは勘弁な!




微妙に憂鬱な日々


第三部 十七話




 グラスを覆うように掌をかざし、練。

 そして水が減る……筈だった。先ほどまではそう思っていた。


「色が紅くなった。十回目だ」


「うん、じゃあ次」


 メモを取りながら促すノエル。俺は小さく頷いて練をした。


「水の中にヘドロみたいな不純物が発生した」


「やっぱり、十回刻みだね」


 メモを見直しながら頷くノエル。


「衝撃の事実だな」


「かなり今更だが」


 軽く唸る俺に、嘆息混じりで告げるクリス。


「けどさ、コレがどういう事か気にならないか?」


 俺は気になる。

 先ほどゴン達と水見式を始めたことにより、俺の念に関する新事実が判明した。

 俺は水見式をすると水の量が減るはずだった。しかしゴン達に続いて久々にやると、増えた。

 その後調べてみると、俺の水見式はどうやら十回刻みでその結果を変化させるらしい。十回同じ反応をした後、また別の系統のそれに変わる。

 さらに続けて統計を取ってみるとそれは全くの不規則で、同じ系統だろうとそのたびに違った反応が見られた。

 ししょーの元で学んでいたとき、水見式は成長の目安を計る為に行われ、ゴン達のようにそれ自体を修行のメニューに取り入れられる事は無かった。

 だから、気付かなかったのだろう。ししょーの教えにボロが出ている気がするなー。ウイングさんと比べると、今更ながら微妙な適当さが感じ取れる。


「お前が特殊過ぎたんだ。仕方ないだろう」


 当のししょーは、そう言いながらクリスとポーカーに興じている。始めは二人とも興味深そうに見ていたのだが、飽きたのか俺と付き合ってくれるノエルを余所にトランプを始めたのだ。

 ちなみに、ノエルの治療の為に呼び出されたらしい。もはやノエルにとって、彼は傷薬に過ぎないのだろうか。俺から見てもししょーはノエルに遠く及ばないように見える。

 まあ、ししょーにもプライドというヤツはあるはずだ。余り触れないでおこう。そしてそこから気を逸らすように、ふと思い出したことについて尋ねてみる。


「そういえば、マリエルさんとはどうなったんですか?」


 ハンター試験でナビゲーターをやっていた元カノさん。ししょーとよりを戻したがっていた彼女に連絡先などをお教えしたのだが。


「それには触れるな」


 ししょーは虚ろな目線を彷徨わせた。何があったというのだろうか。


「人ってのは変わっちまうモンだな……」


 哀愁が漂っていた。

 ししょーが振ったのか、それとも振られてしまったのか。

 やはり、一度離れた二人が元のように戻るのは難しかったのだろうか。


「流石に手錠と首輪は……いや、何でもない」


 何となく、察してしまった。

 彼女は自信に欠けていた女性だった。ししょーとよりが戻って、彼女はきっと不安になりそして――。


 監 禁 調 教 !!


 ……これは少々突飛だったかな。まあ、きっとそれに近いことが起こったに違いない。

 そして、こんな発想しか浮かばない俺の脳みそもおかしいに違いない。

 だから、いつか俺も同じ目に遭うのだろうなんて発想は全くの見当違いの筈だ。だからノエル、俺にチラチラと目線を送るのは勘弁してくれ。

 ……俺の念についての考察に戻ろう。


「ノエル、コイツを見てどう思う?」


「え、やっぱり、リュークの念に関係在るんじゃないかな」


 やっぱりネタには乗ってくれないか、ノエルじゃ。まあいい。


「具体的に、何かあるか?」


 意見を聞きたい。

 他の二人はいいや、スピードやってるし。


「ランダムっていうところがポイントだと思うんだけど……」


「ノエルの方は、水見式と念にどんな関係があるんだ?」


 確実に関連があるのかイマイチ疑わしい。


「ボクの念はオーラの構造把握とそれに派生する組み替え――って話したよね」


「ああ」


 チート過ぎるよな。


「その、物騒だし、色々隠してたこともあって話づらかったんだけど、実際はオーラの繋がりを崩すことに特化してるんだ」


 以前に見せたのは、実際のところオマケみたいな物だね――。ノエルはそう付け加えた。

 ……だから、厨二的すぎるだろノエルさん。視線が冷たい物になるのが自覚できる。

 ノエルは俺の視線に軽く身を竦めながら、更に続ける。


「……その、水見式で、ボクの場合は水の温度が変わったよね。最終的には水蒸気になる。コレって、水分子の結合が解かれるって事だよね」


「ああ、なるほど」


 つまり、ノエルの水見式は分解を象徴していたワケか。

 そうすると、念の修行中にイメージとして浮かんだというパズル様の巨塔は何を表しているんだ? それとも、これも誤魔化す為の出任せか?

 尋ねてみた。


「それは嘘じゃないよ。――どこかの神話に無かった? 天に掛かる塔が神様の怒りを買ってしまった、みたいなの」


 塔は壊れるのが前提のイメージって事か。つまり、イメージ的にはとことん破壊に特化しているわけだ。


「お前、物騒だなぁ……」


「そう言われるのが嫌だったから、言えなかったんだよ。それより、リュークの構築イメージは系統を指し示すボードに、時計みたいな一本の針がある図だったよね」


「ああ」


「今更だけどそれって、ルーレットなんじゃないの?」


 …………あああぁ!

 言われてみれば確かに。例えるなら人生ゲームのアレっぽい感じの。

 つーか、どうして今まで気付かなかったんだ。俺ってばっかでー。


「ばーかばーか」


 こういう時だけ乗ってくるクリスだ。

 つまり、俺の能力は『系統をランダムに変化させる能力』だったんだよ!

 最近成長が頭打ちになってきた感があったのは、もしかして自在な系統変換で自分に制限設けちゃったからか?

 つまり、上手くやれば更なる成長も望める、かも。俺の真の力が目覚めるときがやってきたのか……。

 希望的観測? ご都合主義? ――大歓迎だね。

 不規則な系統変換……出来るか? 頭の中で六角図上の針を動かすイメージ。

 指で狙ったところに留めるのではなく、その指で弾く! 勢いよくルーレットの針は回り出す。

 ぐるぐるぐるぐると、針は回る。

 そして、開放に伴う変化は既に現れていた。俺の目の前にイメージそのままのルーレットが実体として出現し、ファンファーレを鳴らしながら針を回している。

 次第にその速度は落ちていき、止まったのは放出系の位置。そして俺は練をした。


「うわっ」


 思わずといった風に声を上げたのはクリスだった。


「うわ……」


 それから、俺も嘆息混じりの声を上げた。

 以前との違いがハッキリと自覚できる。それほどまでにオーラの量が、力強さが違っていた。

 二回り分ほど殻を破った。そんな感じ。今の俺ならノエルにも……勝てねーよ。ヒソカとの試合はばっちり見てたんだから。

 ……よく考えると、ハンター試験も終わったし、荒事は避ける予定だし、いざとなればノエルは強いし、強くなったからどうだという印象があるな。

 ヒソカに目を付けられるかも知れないと考えると、むしろマイナスなんじゃ……。いや、ヒソカが精神的に復調すればの話だが。

 とりあえず、後で強くなった俺をじーちゃんとか一哉に見せびらかそう。じーちゃんとか、きっと悔しがるぞイエーイ。

 強くなった力を戦いで試すぜとかいう発想が無い辺り、俺のヘタレっぷりが窺える。戦わなくても大体分かるし。クリスは完璧に越えたし。

 ……俺って、ホント器ちっこいな。ダメダメだな。クリスに言われた通りだ。

 ノエル、これからもお前に寄生するから、よろしくな……。

 そう呟くとノエルは顔を真っ赤に染めた。そんな可愛い反応は止めろよ、惚れるから。

 それとクリス、口笛ウザイ。


続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十八話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/06/01 02:35


 闘技場、リングに俺とじーちゃんは向き合って立つ。

 客席は早くも沸きに沸き、じーちゃんの名を呼ぶ野太い斉唱が喧しい。俺を応援する人は居ないのか?

 ……予想の範囲内だが。


「始め!」


 審判の宣言は高らかに響き渡る。


「いくぞ!」


 叫ぶと共にルーレットを回す。止まったのは変化系。

 特質系の時よりも高まったオーラが体を包み込む。そして、練もハズレの特質より数段膨大なオーラと力強さ。

 腕からVツールを伸ばし、その切っ先を牽制の意味も込め、前方のじーちゃんに向け構える。

 じーちゃんは抜け目なく凝をして不意打ちに備えていた。陰をしても意味はなかっただろう。


「あらいやだ、それで私にいやらしい事をするつもりですか?」

 ツルペタな胸を抱えるじーちゃん。分かり易い挑発だ。

 しかし、以前触手と呼ばれた傷はまだ癒えきっていない。途端にVツールが使いにくくなった。

 改めて鋼棍を構え直し、そこによりオーラを纏わせ飛び込む事に変更。何、オーラの量が違う。ガチンコなら負けはすまい。


「――なっ!」


 思わず声を上げた。俺が飛び込もうと重心を僅かにずらした瞬間、タイミングを被せてじーちゃんが地を蹴ったのだ。そのまま躍りかかってくる。

 起こりを悟らせない無拍子の歩法、俺には出来ない芸当だ。重心移動のために反応が僅かに遅れ、機先を制された。

 低く這うように駆けてくるじーちゃん。そして腰に差した刀さんに手を掛け、抜き放つ姿勢をとる。

 フェイクだった。刀を抜くと見せかけて、そのまま素早く手だけをこちらに伸ばし、フリルの袖に隠した物を投げ放つ。

 針のように鋭く研ぎ澄まされた小さな刃物、三本ほど胸目掛けて飛来する。その内一本は並ぶ二本の影に隠れ、見えにくいようになっていた。

 ――殺る気満々かよ!

 棍で薙ぎ払う。じーちゃんは低い姿勢のまま、滑るように俺の左側に移動し、腕を取る。

 つかみ合いは不得手だったので、棍から手を離しオーラを腕に集中して振り払った。崩れた体勢に隙を見出したのか、じーちゃんは俺の胸に拳打を繰り出す。

 指の隙間には、いつの間やら金属の爪が覗いていた。握る手に隠すタイプの暗器。避けると追撃が来るだろうし、当たると痛そうだ。

 なので、普通のオーラに偽装して棍に巻き付かせておいたVツールを解き、じーちゃんの腹に打ち据えながらその細腕を捕らえた。

 さっきの挑発に乗りVツールを使わないと見せかけて、という作戦だったのさ。変化系のオーラはこういった偽装がしやすい。


「それでは」


 俺は拳を腰溜めに構え、


「え、ちょっ……!」


 物理的にも裏を掻かれた精神的にも僅かの硬直を見せ、慌てふためくじーちゃん目掛け、

 ――JET!

 地を這うようなアッパー!

 その鳩尾にたたき込んだ。

 手応え有り。重傷にならない程度に加減したが、無事には済まないだろう。

 じーちゃんは宙を舞い、受け身も取れず地に落ちる。グッタリとしたまま、仰向けで泡を吹いている。どう見ても戦闘不能だった。

 そしてリューク死ねと、観客達のシュプレヒコールは盛大に轟いた。

 まあ、今回は俺が悪者でも仕方ないか、絵面的に考えて。暗器とか使われたけど。

 分かっていても、つい肩を落としてしまう。俺にファンは、味方は居ないのか――?




微妙に憂鬱な日々


第三部 十八話




『おい、儂と試合やらんか?』


『いいよ』


 そんな軽いノリで受けたのだが、じーちゃんは妙に重苦しい雰囲気を纏っていた。

 多分、覚醒(笑)した俺を見せつけた後ぐらいからなんだが……。ノエルに対する俺のように悔しかったのだろうか。一哉も羨ましそうにしていたしな。

 しかし、刀も碌に使わなかったし、あそこまで奇をてらったやり方は予想していなかった。ありゃ、武術家と言うよりも暗殺者だぞ。

 ……その辺りの事情には触れない方が良いのだろうか。じーちゃんが自分の跡を誰にも継がせなかったのは、そういうこと、なのか?

 にしては、じーちゃん本人は力へ執着している様子が見え隠れしているし……。自分は戦い大好きだが、後の世代には毒だろうと思ったってところか?


「カレンのこと、キルアはどう思う?」


 廊下のベンチに腰を下ろし、隣に座るキルアに話題を振ってみる。コイツは観戦してくれていたらしい。

 ちなみにゴンは一人でどこかに行ってしまったようだ。恐らくだが、そろそろヒソカに試合を申し込もうとしているのでは無かろうか。


「あいつ? 俺に言われてもな、お前親戚じゃねぇのかよ」


「いやぁ、お兄ちゃんに隠し事するお年頃のようで、あんな陰険なスキル持ち合わせていたとは思わなんだよ」


「隠し事、で済ませられる程度の技術じゃねぇよ」


 俺からすれば大した事ねーけど――。そう付け加えながらも、キルアの声はどこか胡乱気だ。


「キルアから見て、あいつは危ないヤツだと思うか?」


 問題は、そこだ。

 これからもじーちゃんを家族として見ても良いのか、その決断を下す為の参考に聞いておきたい。

 もしもじーちゃんがまだ引き返せるなら、止めたい。

 ……駄目なら、逃げる。いのちだいじに、だ。


「なんつーか、境目に寄ったり離れたりしてる感じだな。今はまだ、危険って程じゃねぇよ」


「そうか」


 今はまだ、どうにか出来るのか。


「ありがとよ」


「どーいたしまして。つーか、俺にしてみりゃノエルの方がこえーよ」


「それは、まあ、その通りだな」


 そして、キルアに背を向け、その場を去ろうとする。

 が、ふと足を止め、言葉が口を突いて出ていた。


「なあキルア。不躾だが、お前は自分に関してどう思う?」


 言ってから少し後悔した。

 流石にコレは答えにくいだろうな。


「お前から見て、俺のことはどう思うんだ?」


 質問が返ってきた。

 少し、不安そうだった。


「俺からすりゃ、お前は単なる強がりな小動物だよ」


 怖くなんか無い。そう言ったつもりだ。

 過去がどうであっても、いや、積み重ねてきたもののせいだろうが、今のキルアは俺にとってそんなヤツだ。

 内に不安定な爆弾を抱えている、と付け加えるのは控えておいた。

 それを変えられるのは、きっとゴンだけだろう。


「なんかむかつく」


「正直な感想を述べたまでよ」


「その物言いがむかつくっつの」


「じゃーな、キルキル」


「しまいにゃ殴るぞ」


 殴られてはたまらない。小走りにその場を後にした。




「なあ、じーちゃん」


「なんだ?」


 じーちゃんの部屋を尋ねた。部屋に鍵も掛けず、ドレスが皺になることも気にせずに、ソファーへ身を投げ出し項垂れている。

 抜き身の刀が床に突き刺さっていた。一人になりたかったのだろうか。


「さっきの試合のこと、聞いて良いか」


「まあ、かまわんよ」


 覇気のない声だった。


「じゃあ、どうして俺のことヌッコロス気満々だったんだ?」


「ああ、すまんかったな」


 謝罪の意思を感じない声だった。

 諦めに満ちた。そんな言葉がしっくり来るだろうか。


「どうしてだ?」


「ある種の儀式、というのが適当か」


「なんだそりゃ?」


「諦めの、な」


 そこでじーちゃんは身を起こし、こちらに向き直る。


「儂、いや、俺は、強くなりてぇと思ってたわけだ」


 いつもよりも少し荒々しい口調。コレがじーちゃんが隠していたものなのだろうか。


「でもよ、強いヤツなんぞ掃いて捨てるほどにいて、俺は大したことなかった」


 じーちゃんは自嘲の笑みをこぼした。


「諦めきれんで、なりふり構わなくなった。駄目だったがな。むしろ、テメーが弱いって再確認させられた。そんで、諦めた」


 乾いた笑い声。


「が、次のチャンスがやって来たわけだ」


 ニヤリと笑い、じーちゃんは自分を指さした。

 生まれ変わりのことを言っているのだろう。


「でも、やっぱ大した事がねーんだよ」


 そこで、大きな嘆息が漏れた。


「それでも、もう諦めてたまるかって具合だったんだがな。あるとき、ふと思ったワケよ」


 そこに、充実があったのかってな。


 吐き出す言葉は妙に重く、俯く笑み、自嘲に喉が鳴る。


「お前とぐだぐだやってんのがよっぽど良いんじゃねえかってな。もう全部放り出して、妄執全部当たって砕こうかってなもんよ。お前は何だか知らんがいきなり強くなりやがったし、丁度良い壁だと思ったってワケだ」


「それで見事砕けてくれたか?」


「ああ。のんびり長い老後を過ごすさ」


 そこで、じーちゃんはやっと穏やかな表情になった。


「じゃあ、丁度良いな。暇なら、ギャルゲ-作り手伝え」


「ハブっておいて?」


「長い老後なんだ。手慰みの一つ、在った方が良いだろう?」


「違いない」


 じーちゃんは口元を綻ばせた。


「では、老いぼれの微力を尽くそうではないか」


「じゃあ、爺はエロ担当な」


「ちょ、さり気に壁高いぞ!」


「俺だって厳しいんだよ!? だから、皆エロを入れるかで迷ってるし」


「儂が描くと、フランスな文体になるぞ、多分」


「とりあえず、書いてみろ。出来なくても他に色々やって貰うからな」


「横暴だなぁ」


 じーちゃんが仲間に加わった。


 数日後、ゴンはヒソカと戦う日を決めた。

 五月十二日。奇しくも劣化AIRとKanonの発売日だった。こっちのギャルゲー製作はまだ殆ど進んでいないというのに……。

 最近のゴンやキルアの伸びは凄まじい物がある。四大行は修めたと言っても良いだろう。ズシは完璧に置いて行かれた。

 ゴンは止めても聞かない。どうせやるなら、良い戦いをして欲しい。


 そして、試合の日がやってきた。期待と不安が入り交じった心境でゴンを見送る。

 ヒソカの試合はやはり注目度が高く、客席に入れば早くも熱狂の渦にある。

 そしてそれは、両雄が揃ったときに静まった。

 その光景に多くは息を呑むばかり。


 ヒソカが、ゴスロリだった。




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 十九話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/06/15 23:59


 水を打ったかのような静寂。数秒後にそこかしこでざわめきが起こる、俺も口を開いた。


「あれ、どう思う?」


「意外に有りだと思われ」


 俺の呟きに、左に座るクリスは苦笑混じりで返した。

 最前列の客席からはヒソカがよく見える。先には以前よりも肉が落ちたのか、華奢な印象を受けるゴスロリヒソカ。

 じーちゃんのそれとは比べものにならない、大量に白いフリルが重なった黒いドレス。ロングスカートは大きく膨らんでいる。ペチコートでも着用しているのだろうか。

 髪型も以前と違って下ろしてあり、ショートボブの茶髪に楕円状のヘッドドレスが乗っていた。細められた瞳と、左右の頬に描かれた涙滴と星のマークは意外に馴染んでいた。


「ゴスロリとピエロって、合わんこともないな」


「新鮮ではあるな」


 同意なのか分からないクリスの声。


「いや、二人とも、それ以上に注目すべきところ、あるでしょ?」


 右のノエルが若干声を荒げた。

 それは、ノエルと戦ったときよりも若干大きく見える、濁った大河を彷彿とさせる静かで禍々しいオーラのことをおっしゃっているので?

 以前の荒々しさが見る影もない。あの静かさが逆に、ものっそい怖い。

 このある意味悟りを開いたような変貌。一体彼に何があった? あ、ナニが無くなったのか。


「新世界、開けちゃったか……」


 クリスの呟きに、俺は思わず首肯していた。

 ナニが無くなったことで世界の見え方が変わり、結果精神に変質を来してあのような化け物になってしまったんですねわかります。あり得るかボケ。

 ……いや、実際にアレを見ると、それが原因と感じてしまうんだよな。だって、ゴスロリだし。


「なあ、ノエルはアレに勝てるか?」


「ちょっと難しいね」


 乾いた笑いと共にノエルは告げた。その声の様子から、ちょっとどころではないのが窺える。

 ……状況は絶望的なようです。次にノエルとヒソカが戦り合えばノエルが死にかねない。

 そこで脳裏に閃く物があった。


「――ノエル、かくなる上はお前も取り払ってしまえ」


 そうすれば、ヒソカに対抗出来んじゃね!?

 うわ、我ながらナイスアイデア!


「うわ、俺って天才じゃね!? ああそれで逝こう」


「落ち着け! 今のお前は間違いなく錯乱している」


「落ち着いて居るさクリス。ちょっと、死んだはずのじーちゃんが見えるだけさ」


「儂ここにいるから!」


 背後からじーちゃんの声が聞こえる。

 アレ、どうしたの? 河の向こう岸に居たはずだけど。

 うわ石積みプレイ強要されそうだよああそう言えば俺前世じゃ親差し置いて早死にだったねひゃっほい。

 ……ふう、落ち着けよ俺。ヒッヒッフー。


「――ノエル、ヒソカのような『ついてた』娘になれ」


 男の娘に匹敵する新ジャンルを開拓するんだ!


「いい加減落ち着けバカ孫」


 頭に降ってくる拳。衝突後、開かれたその指先が頭蓋骨の継ぎ目を狙ってくるが、この程度どうということはない。

 小さく頭を振って、ノエルに詰め寄る。


「さあノエル、エクスカリバーを捨てるんだ。新しい世界の扉を開け」


 手を取り、真摯に告げた。


「リューク……」


 ノエルは、引きつった笑みを浮かべた。


「さあ!」


 再度促す。

 そして――。


「初めっからついてないよそんなもの!」


 ノエルはそう叫んでから、はっと口元を押さえた。

 ……えーと、これは、どういう事?


 審判が試合の開始を告げた。それに応えるかの如く歓声の怒濤が生まれる。

 だが、俺とノエルは互いに固まった表情で向き合うのみ。

 気がつくと、審判がヒソカの勝利を告げていた。

 慌ててゴンの方へ目をやる。

 ヒソカが、ぼろぼろになって膝を着くゴンへと屈み込み、その頬へ口づけを落としていた。

 思わず視線を反らすと、こちらを見つめるノエルと目があった。

 顔が熱くなるのを感じた。

 俯くノエルの顔も、ほんのりと赤かった。

 何、このラブコメ展開。




微妙に憂鬱な日々


第三部 十九話




 ノエルが、おにゃのこだと判明しました。

 あっさりボロ出し過ぎじゃないかと思ったが、面と向かってノエルにセクハラ発言なんぞ殆どしていなかったなそういえば。

 硬直気味なノエルを置いて、クリスとじーちゃんを引きずってって半ばパニクったまま問いかけました。

 二人とも始めこそ閉口していたのですが、知っていたと漏らしました。どうやら、マジのよう。

 どうして知っていながら黙っていたのか問うと、『第一には傍目で面白かったから』らしいですふざけんな。

 俺は長らく、ノエルをおホモな友達略してホモダチとして見ていたので、非常に気まずいです。

 この流れだと、ノエルは俺にぞっこんラブな訳でしょうか?

 俺のギャルゲ脳だと間違いなくそうなのですが、どうも確信しきれないというか。

 しかし、ある程度の好意は存在するはずです。

 だが、敢えて言わせて貰おうか。


「実際にギャルゲーみたいな一途だと、めっちゃ重くね?」


「さんざっぱら甘えといてそれか」


 クリスの声は冷ややかでした。


「どっちにしろ手遅れだろ」


 じーちゃんはニヤニヤ笑んでいる。


「まあ、外堀は埋まっているからな……」


 クリスはうんうん頷く。


「外……堀……?」


 え、それって……。


「知らぬは亭主ばかりなりってな」 


「ノエルは浮気しないでしょう、おじーちゃん」


「あ、そうですなー、クリスさん」


「「はははははー」」


 ……みんな、知ってるの?


「ノエルは既に、お前のご両親に挨拶を済ませている。……その、色々と」


 クリスは少し言いにくそうに、だがその口元を緩ませていた。

 はは、色々すっ飛ばしすぎですよ、ノエルさん。

 根回しとか、案外黒いね。


「いやいや、本人にそのつもりは無かったらしい。――が、気付けば公認だったそうだ」


 クリスは手を振って否定の意を示したが、結果がコレですよ。


「憂いが無い、とは言いません。ですが、後は貴方次第だと言う事ですよ、お兄ちゃん」


 じーちゃんが次いで言った。

 そして、二人揃って口元に手をやり、上品ぶった微笑。そして、生暖かい視線。

 おばちゃんの井戸端会議を彷彿とさせた。


「いや、あの、そう言われましても……」


「なんだい、あんな器量好しの嫁さん捕まえて、不満があるのか?」


 口ごもり目を反らす俺の顔を、じーちゃんが覗き込むように詰め寄る。


「レールの敷かれた人生ってやつが気にくわないかな」


 言って、遠くを見る目になってみた。


「今更中二ぶるな。素晴らしいじゃないか、レール人生」


 クリスが俺の肩を叩く。

 いや、確かに自分の道は自分で切り開くなんて面倒な真似、出来るならしたくないけど。


「でも、墓場まで一直線のレールですよ」


 ほら、人生の墓場って言うだろ。


「良いじゃないか。早めに用意しておけばいい、墓場を二人分な」


「ただ与えられた物に飛びつくのが、本当に幸せだと言えるのか?」


 言い募るクリスに、またもやウザイ中二的返答をした。


「それ、今までお前の為に骨折ったノエルに言ってみろ」


「い、いや、言えるかよ」


「どうしてだ?」


 そう尋ねられると困るな。

 ノエルが今まで俺に構ってくれたのは、そう言うわけだとして……。

 それをウザイって言うような真似はなぁ……。


「ノエルを大事で断れないなら、答えは出たようなものだ。そう言うことにしてしまえ」


 ただ勿体ないとか、ノエルの事を考慮できないなら、関係を断て。

 静かに、ハッキリとクリスは告げた。

 そのままクリスは俺を反転させ、背中を押す。行けということか。




 ――で、どうすりゃいいねん。

 クリスは、俺がノエルに少しでも好意があればそれで良いみたいな物言いだったな。

 もっと、こう、お互い大事に思ってなければ駄目みたいなのは――。

 ……以前そんなようなこと、言ってしまった覚えが。ノエルに大事だとかどうとか。

 こみ上げる羞恥に思わず唸ってしまう。


「うー……。――あっ」


 いつの間にか、ノエルが目の前に居ました。

 俯き俺に気付いていないようだったが、俺の声に反応したのか顔を上げる。


「り、リューク……!」


 二人揃って硬直してしまう。

 どう切り出せばいいのやら。選択肢が出てくればいいのに。いや、こういう大詰めだと普通選択肢は出てこないか。

 ああ、頭が程良く狂っている。

 とりあえず、何か言おう。


「あー、良い天気だな……」


 ……何言ってるんだろ、俺。

 ここ、天空闘技場内じゃないですか。

 ノエルはそこで小さく吹き出していた。

 うん、結果オーライ。


「今日は曇りだよ、リューク」


「そうだったか?」


「夜半には雨になるでしょうって、天気予報で言ってた」


「そうか……」


 そして、沈黙再び。

 どうしよう。


「ノエルたぁぁぁん!!」


 突如木霊する叫び。

 声のする方へと振り向けば――。


「愛してるぅぅぅ!!」


 全裸に蝶ネクタイのカストロだった。

 ネクタイと長髪をなびかせ、駆けてくる。

 オーラが、局部に集中していた。


「この前はゴメンよハニーマナーをわきまえるべきだったね安心してくれ今回はこの高級なネクタイでばっちりコーディネート済みさばっっ!!」


 ノエルの放った念弾が、カストロの局部を打ち抜いていた。

 強度的に耐えられようとも、その痛みばかりはどうにもならん。

 くずおれるカストロ。ノエルは無表情のまま、カストロに一瞥もくれず終わらせていた。


「リューク、場所を移そうか」


「あ、そうですね……」


 俺は股間を押さえながら、敬語になってしまった。

 ヒソカの時とはまた違った迫力があった。

 そして、促されるままその場を後にしようとする。

 痛みに唸っていたカストロのオーラが、爆発的に膨れあがった。




 カストロの妄想はまさに発展途上。

 放置に追い込まれたことで、この困難な現状を何とか打破すべく、新たな能力を生み出した!!

 オーラが一ヶ所に収束し、形を成していく。


 一分の一スケール、ノエルフィギュア。


 カストロはフィギュアを抱きしめ、スリスリした。

 全身で、楽しもうとした。

 思考をトバし、引き延ばされた刹那に濃密な時を過ごそうとした。

 ゆっくりと過ぎゆくスリスリタイム。

 その肌は、カストロが妄想の中で幾度となく蹂躙したままの感触だ。


 そんな停滞した時の中で尚、迫り来る拳は早かった。

 そして、かつて無い最大級のオーラ纏っている。


 ノエルの拳は、音を置き去りにした。


 脇腹を貫く衝撃。

 次いで襲い来る不可視の衝撃波が、局部を揺さぶった!


「――あぁぁぁぁぁ!!」


「さ、行こうか、リューク」


「え、あれ、置き去りで良いの!?」




「……あの物言いはちょいと強引すぎやしないか、クリスさん?」


「適当にまくし立てて意識させてしまえば、どちらにせよすぐ陥落しますよ」


「ま、元々ある程度意識しあっとるようだし、今回は良い切欠か」


「問題は他でしょう」


「……ソフィアさんか。まあ、儂らが考える必要は無かろう」


「何故です?」


「ノエルもそう思っている、と言うことだ」


「それなら、私たちは出る幕在りませんね」


「言いたくないが、既にノエルも立派な魔女だよ。ちと早いが、そろそろ決着付けても良いだろう」


「荒れるのでは?」


「今のノエルならいけんじゃね、性格的にも」


「まあ、ヒソカとやった辺りから、以前にも増して凄いですからね」


「じゃあ、儂らは今日発売のギャルゲでも買いに行くとするか……」


「アレは新品で買いたくないので、今日はパスさせていただきます」


「そうかい。じゃ、一人で買いに行くとしますか」




続く




[2208] 微妙に憂鬱な日々 第三部 二十話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/12/14 04:50



 ……沈黙が重い。


「え、えと、その……」


 場所を移して俺の部屋。卓について向き合うも、ノエルは酷く居心地が悪そうだ。

 ……部屋に連れ込むべきではなかったな。俺の精神もヤバイ。ドキドキする。


「と、とりあえず、一息、着こう」


 そして、問題を先送りにしよう。

 茶でも入れようと、卓上にある湯飲みとポットの入った籠へ手を伸ばす。


「あ、ボクがやる――」


 手が触れ合った。

 ノエルが顔を真っ赤にして仰け反った。

 俺は固まった。多分顔は紅い。


 ……いくらなんでも、これはないだろ俺ら。

 いつもみたいに軽口叩けねぇよ。

 ノエルがおにゃのことか、ノエルに及ばない現実から逃避する手段としての妄想に過ぎなかったはずなのに……!

 落ち着け、精神年齢は俺の方が上。こう言うときこそ、大人の風格でノエルをリードするんだ。

 さあ、まずはシャワーを……落ち着けねぇよ。三十年の人生経験があっても、社会経験も女性経験も乏しいんだよ、俺は。

 社会経験だけで言えば、多分ノエルの方が遥かに上。つまりは、今更変に取り繕っても意味が無い。

 うん、ありのままで行こう。


「ではノエル君」


「はい先生」


 ……お互いに妙なテンションだ。


「まず、ノエルの背景について話せる範囲でプリーズ」


「……分かった」


 そして、ノエルが魔女の家系で後継者に選ばれたとか、其れを嫌っていたノエルが離れないように枷として、容姿が男らしくなる念をかけられたとか聞き出した。

 枷の意味が分からん。


「今でも美形だから、無理して元に戻らなくてもイインじゃね? ヅカ目指せよ、宝塚」


「カタラヅカって、リュークの前世にあった劇団だっけ? 男役はもううんざりだよ」


「じゃあ、素直に魔女っ子目指せよ」


「黒頭巾被って、念の儀式で人を生け贄に大釜へくべる類の魔女だけど、リュークはなって欲しい?」


「……そりゃぁ、ご勘弁だな」


 身近にそんな人間いるのは、かなりやだ。それに、ノエルには似合わんだろ。

 ノエルは俺の表情から内心を察したのか、俯いて呟いた。


「うん、だから、なりたくない」


 常識で考えて、じゃなくて、俺に嫌われたくないからってのは、自惚れだろうか。

 妄想が現実になった。なのに、現実感がスッポリ抜け落ちている。妄想の延長にしか思えない。


「まあ、そのままでも将来の相手には困らんだろ」


 つい軽口を叩いてしまう。直後後悔した。

 ノエルの心情が俺の推測通りなら、無神経にも程がある。

 自己嫌悪に、頭を抱えた。


「……リュークは?」


「あ、う……」


 ノエルの絞り出すような声に、返す言葉もなく小さく唸るのみ。


「リュークは、ボクがこのままでも、女の子として見られる? 今まで、駄目だったじゃない……!」


 俯いたまま、表情は前髪が邪魔をして窺えない。

 その声は、少し上ずっていた。


 ノエルを女の子として見るって、言葉通りの意味じゃないよな。

 コレはつまり、事実上の告白では?

 あわわわわわわわ。

 体は固まり、口をぱくぱくさせたまま二の句が継げない。

 そして、俺の硬直をどう解釈したのか、ノエルはすんすんと鼻を啜り始めた。

 ……泣かないでぇぇ!


 と、ベストの内ポケットでマナーモードにした携帯電話が呼んでいる。ハンター専用電話、事件だ。ノエルと視線を交わす。


「リューク、ノエル――」「孫よ――」


「悪い、呼び出しだ。行こう、ノエル」


「行こう、リューク」


 空のティーカップをじーちゃんに預け、部屋を後にする。走る俺の肩に、ノエルが並んだ。

 【VS・なおも活動中】

 打ち切りエンド――。


 ……というのは無論、俺の妄想だ。いつの間にやらクリスとじーちゃんが居たのは俺の願望です。

 あ、携帯は本当に震えてるよ。キルアからみたいだ。

 現実から逃げようとする俺は、ノエルの了承も得ずに通話ボタンを押した。


「もしもしー」


『大変だ!』


 開口一番それか。なんだいどうした?

 先を促すと――、


『ゴンとヒソカが、腕を組んで夜の町に――!』


 斜め上過ぎて、一瞬時が止まった。

 ……デートですか?




微妙に憂鬱な日々


第三部 二十話




「それで、俺にどうしろと?」


 合意の上ならば、そのまま煌びやかなホテルになだれ込んで休憩して疲れたって構わないのではなかろうか。俺には止める権利も力も無い。

 ヒソカのナニは無いから、お似合いのカッポーではなかろうか。ホテルではきっと、ゴンが頑張るんだろう。……吐いて良い?


『お前は、ゴンがどうなっても良いのかよ!?』


 だからって、俺に何が出来る。俺では新生ヒソカに遠く及ばない。

 それとキルア、お前もナニを想像している。


『もういい! ――俺がゴンを連れ戻す』


「なっ、おい、待て!」


 止めようとするも、激昂した様子のキルアが受け入れるはずも無かった。制止の言葉を言い終えるよりも早く、キルアは通話を打ち切っていた。

 ――どうすりゃいいんだ?

 このまま、キルアとヒソカの間に挟まれたゴンという何とも腐女子が好みそうな修羅場が発生するのだろうか。ヒソカにナニは無いけど。ナニは無いけど。大事なことだから二回言いました。

 下手すれば、死人が出かねない。嫌な予感がビンビンだった。

 ……あいつらは、友人だ。このまま、何もせずには居られない。でも、一人は怖い。

 ノエルに向き直ると、既にこちらの言わんとしていることを察しているのか、真剣な面持ちでこちらを見つめていた。


「内容は大体聞こえたよ」


「そうか。手伝ってくれ、頼む」


「分かった」


 躊躇いのない頷きが返ってきた。何と頼もしい。

 こんなワケ分からん状況だが、不思議と不安はなかった。


「で、手伝えと?」


「そうです」


 クリスの言葉に頷く。

 俺に呼び出されたクリスとじーちゃんは、大まかな話を聞くと渋面で嫌だとアピールした。

 まあ、分かる。


「バックアップとして、遠巻きに尾行して欲しいってだけだ。やばそうだったらすぐ逃げて構わん」


 ノエルも居るし、クリス達にまで被害が及ぶことも無かろう。


「儂要らんな、足手まといだ」


 そそくさと去っていこうとするじーちゃんの肩を掴んだ。


「その手の心得がないとは言わせんぞ」


「うっそー。マジでアタシもやるのー?」


「お前さんの刀も大喜びだろう?」


 ――ん、いや、ヒソカについてないし、正直のらないわね。


「それにキルアとの修羅場を妄想補完しておいて下さい」


「単なる尾行と言うが、既にヤバイだろうと言っているんだ。というか、権太郎さんの言う通り私たち要らないだろ」


 ますます顔をしかめるクリスに、二枚の紙切れを押しつけた。じーちゃんも覗き込む。

 俺も同じ紙を重ねて掲げる。片方は闘技場周辺の地図だ。


「地図と、もう一枚に載っているのがそれに対応する下水道と、そこから通じる違法に開通した地下道のマップな」


 ノエルが逃走用ルートとして、情報屋さんから暗号化された画像ファイルを買い上げました。いつの間に電話一本でそんな事出来る人になったのやら。

 この辺りを仕切る組織やそれと繋がる方々が、後ろ暗い行為に使用するらしい。もちろん、重要度の高い施設の位置は、よほどのコネが無ければおいそれと売ってくれないので載っていない。今回はあくまでも逃走の為なので必要も無い。

 ヒソカが同じ物を持っていないとは言い切れないが、それでも複雑に入り組んだ迷路状の内部構造はもしもの時の逃走に一役買ってくれるだろう。

 その後、状況に応じた避難ルートを数通り書き込んだのを確認し、ヒソカとゴンを尾行中だったらしいキルアに合流もしくは協力したいという旨を電話で伝えた。

 先ほどの遣り取りが尾を引いているのか少々渋っていたが、地下道の地図は有用だろうという言葉が決め手になり、俺とノエルはキルアと一旦合流することになった。尾行に関してはキルアの指示が必要だろうとも付け加えて。

 別に、お前の為じゃないからな――。と、ツンデレテンプレートな了承を得たので、キルアと通話し指示を聞きながら足早に町へ向かった。


 キルアの元に駆けつけたとき、ゴンとヒソカはけばけばしい外観をした建物の前に居た。

 なんという急展開。と言うかナニがないのに性欲あるんかいてめぇ。遥か後方のクリスとじーちゃんは、もう仕事を終えたと達成感に満ちた笑みで地下道へ消えて行った。はくじょーもん。

 遠く視線の先、不気味な笑みのゴスロリヒソカがゴンの手を引き、ゴンは興味津々に目を丸くしている。ああ、ゴンはきっと分かっていない、看板に書かれたご休憩三千五百ジェニーからの意味を。

 ――これは、助けに入るべきだよな……?

 傍らのノエルに目配せする。ノエルは真顔で頷いて手甲を具現化して構えていた。


「この、泥棒猫……」


 半歩先で歯ぎしりするキルアの横顔を窺う。最終試験を思わせる、追い詰められたような焦燥の窺える形相だった。でも、その単語はヤバイぞ、おい。

 前傾姿勢をとるキルア。しかし、その一歩が踏み切られることがまず無いだろうとも分かった。

 明らかにこちらを意識したヒソカの視線に、圧倒されている。ノエルでさえ堪えきれず、微かに身を震わせているのだ、無理もない。

 そこでヒソカは、下卑た笑みを勝ち誇った勝者の見下すようなそれへとシフトした。今の自分を阻むことなど、俺達には出来やしない。そう告げているようで。

 事実、今のヒソカはノエルの実力を以てしても止めることが叶わない、かもしれない。実力行使以外であの状態なヒソカを退ける方法も浮かばない。

 ――どうする!?

 建物へと入っていこうとする二人。そこで、キルアは思わぬ行動に移った。

 額に尖らせた指をつっこんだ。

 針を、えぐり出したのだ。

 ……なんという、急展開。

 精神的な枷から解放されたキルア。ほんの数秒前とは打って変わった、吹っ切れた笑み。

 恐怖が消えたわけではないだろう。それでも、震える足で一歩踏み出した。

 そして、俺達も後に続いた。

 ……そして三人で止めに入ると、ヒソカはあっさりゴンから離れ去っていった。殻を破ったキルアへのご褒美と付け加えて。

 キルア、ノエル、ゴンをなめ回すように見つめるのは忘れなかった。ついでのように俺もチラリと見られた。今の俺もそれなりに強いからなぁ。

 ゴンは最後まで、よく分からないという風に首を傾げていた。お前、デート経験あるんじゃなかったのかよ。




 ――ま、コレで一件落着としよう。

 精神的に押さえ込まれていた反動で、キルアがいけない方向に飛んで行きそうだけど。

 ……だって、キルアのゴンを見る目が明らかに変わったんですもの。邪推して喚く刀の影響を受けても仕方ないじゃないですか。

 それはさておき、これからギャルゲ作り始めるので、くじら島へ行くであろうゴンやキルアとはお別れしなくてはならない。

 正直言わせて頂ければ、深く付き合うのは怖いし。距離を置くべきだね、俺の精神衛生を考えて。


「――つーわけで、俺にはやる事がある。一旦お別れだ、お二人さん」


「で、ギャルゲ-作りかよ。つれねーな、お前」


「リュークも一緒に行こうよ。その方が楽しいよ」


 ……あれ、以前よりも二人の友好度が上がっている気がする、雰囲気的に。まあ、いい。


「これが、俺のやりたいことなの。文句なんぞ言わせねぇ!」


「……やりたいこと、ね」


 キルアが微妙に反応した。きっと、暗殺者をやめたら何をしようとか将来への不安が頭を過ぎっているんだな。


「ま、そういうことで、また、ヨークシンでな」




 その後、じーちゃんと一緒にウイングさんにお別れの挨拶。ズシがじーちゃんを見てちょっぴり残念がっていた。

 これから実家に顔見せした後、建て替えの終了したししょーの家に向かう予定。全員分の部屋はあるようだ。そして、VSは動き出す。


「――で、じーちゃん、これからギャルゲ作りに参加するわけだし、当然こっちに来られるよな」


「まあ、わざわざ別れる必要も無し、これから行く当ても無し。お前さんの所に厄介なるとするか」


「あーでも、かーさん辺りになんて言い訳しよ……」


「二号さんというのはいかがですか旦那ぁ? ラブコメ突入ですぜ」


「……ノエルが怖くないなら、どうぞ。で、じーちゃんは今子供だけど、保護者に連絡とか大丈夫?」


「大丈夫、ファミ通の攻略本だよ」


「それ、あんまし大丈夫に聞こえない。んで、平気なの?」


「ま、平気じゃねーの? 祖母は儂の心配なんぞしねーし、両親共々愛人と一緒で育児放棄ってるし。お前さんのライセンスちらつかせりゃ、訴えられても勝てんだろ、多分」


「……結構へびぃだな」


「正直、あいつらに情は湧かんな。そして、居場所を求めた少女は現実逃避の果てに、自分が前世の記憶を持った特別な人間だと思い込みましたとさ」


「俺の存在まで否定するなよ」


「さらには、前世からの仲だと嘯く変態に弄ばれて……」


「人を弱みにつけ込む外道にするな」


「冗談ですよ、お兄ちゃん。貴方の前世……お名前、聖龍院舞斗さんでしたっけ?」


「どこの邪気眼だクソ爺」




 そして、だ。後回しにしていた一番の難物。


「……ノエル」


「リューク……」


「すまんかったな、どさくさ紛れで有耶無耶にしちまって」


「別に、そう言う答えなら、僕は別にこのままでも。それとも、拒絶?」


「その、どちらかと言えば、前者なんだが……。まあ、あれだ。今までお前を女の子として意識なんぞしてなかったもんで、しばらく時間が欲しいというか、何というか……」


「要するに、アピールする時間をくれるの?」


「……まあ、大体そんな感じか」


「じゃあ、ちょっと待ってて」


「はい?」


「どうせだったら、万全の状態でやらないと、きっと尾を引くから。こんな、なりゆきのなし崩しじゃなくて、態勢を整えてから誘惑にかかるよ」


「ん、その、具体的には?」


「ちょっと出かけてくる。戻るまで待っててくれると、その、嬉しい……」


「――ちゃんと戻ってくること。それが条件な」




 掲示板を見ると、俺とノエルがヒソカの試合観戦でラブコメってたのを見ていた奴が居たらしい。俺がノエルの手を握ったところやノエルを追いかける画像がアップされていた。

 ……気付かなかったな。と言うか、いい加減こいつらしょっ引いて良いんじゃないかと思うようになった。

 掲示板の内容は主に俺へ対する罵詈雑言。老若男女問わずに侍らす悪人として、それらしくデフォルメされたAAまで作られ、リュークの名前は一部の人間に浸透しつつあった。

 微妙に憂鬱になって、ノエルに申し訳ない気持ちになって、でも、彼女の心を独占しているという事実がすこしだけ誇らしかった。


「いいだろうリューク。君をライバルと認めてやろうじゃないか!」


 掲示板を見たのか、そう声を張り上げるカストロ。

 好感度最低の自覚が無いにも程がある。まあ、ノエルがまた愚地克巳の如きマッハパンチで鎮めました。

 気絶したカストロに、ノエルは何やら落書きをしていた。神字だったのでよう分からんが、肉とかだろうか。

 では今の内に。さようなら、天空闘技場。さようなら、カストロ。

 そして、空港でノエルと別れ、クリス達と実家へ向かった。




 第三部完


 第四部へ続く





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第四部 一話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2009/12/14 04:52



 俺、クリス、ししょー、じーちゃんの一行は、レイオット青果店は徒歩で五分ほどの所まで来ている。

 事前に連絡を入れてもとーさんとかーさんは迎えに来なかったが、サプライズパーティーの用意をしている光景が目に浮かぶ。


「で、だ。もうすぐ家に着くわけだが」


「何だ?」


 そこで俺は足を止め、後ろに続くじーちゃんへと向き直った。先を行くクリスとししょーはそのままと促す。二人は気を利かせたようでそのまま先へ行ってくれた。


「カレンさんよ、口調くらいはここらで固定しておこうぜ。どこで見られてるかわからんし」


 じーちゃんはキャラが安定していない。今更だがこんなお餓鬼様はアレだし、これから知り合いの目に付くことも増えるだろう。

 中身はどうあれ、パッと見で普通に感じるように固定しておいた方が良いと思われる。

 そう説明するとじーちゃんは頷いて応えた。


「ふむ……。ではでは、これからは敬語系おしゃま妹キャラとしてのキャラを確立します。貴方の呼び方は、現状で構いませんか?」


 じーちゃんは溌剌とした口調で両の拳を高く突き上げた。決断早い。


「貴方の呼び方は、十三通りの用意があります」


「アニメ第一期か」


「山田さんは私的に癒しでした。――それで、どうお呼びすれば?」


「兄君で」


「ねーよ」


「はは、口調崩れてる」


「……では、兄者はいかが?」


「OKブラクラゲット、って言うと思ったか。つか、十三番目はもしかしてそれか」


「兄チャマ、チェキです」


「すでに俺の事知り尽くしてるだろうが」


「おにいたまー」


「それは無い。さぶいぼ出来るわ。つか、消去法でお兄ちゃんくらいしか」


「そんなに妹系好きですか」


「以前、妹系始めたのは貴女ですよ」


「じゃあ、リュークさんで」


「ああむしろそれが良い。今更だが、お兄ちゃんはちょっと無いわ、常識的に考えて」


「ですよねー」




微妙に憂鬱な日々


第四部 一話




 俺に妹が出来るようです。

 つまり、かーさんが妊娠していました。現在妊娠四ヶ月。しかも双子らしい。

 これは、俺がいなくなることによって、二人っきりの時間が増えたのが原因でしょうね。

 ……複雑だなぁ。まあ、何はともあれ、おめでたいのは事実。


「名前を決めるときは俺の意見も入れてくれよ」


「はいはい」


 お腹を膨らませたかーさんが苦笑する。


「『ああああ』とかはダメですよ」


 じーちゃんは巫山戯ているのが丸わかりな真顔。


「これもダメだぞ」


 そう言って、クリスはメモを掲げる。『もょもと』と記されていた。


「どこの大作ロープレだっつの」


「好きな子の名前もダメだぞ。そのせいでトラウマになった奴らは多い」


「サラマンダーか、サラマンダーなのか!?」


 そのゲームやったこと無いけど。


「ずっと速い、ですね」


 じーちゃんは哀愁を帯びた表情で遠くを見る目になった。……やったこと、あるのか。

 リビングで卓について、クリス、じーちゃん、かーさん、俺でコーヒーブレイク。じーちゃんも馴染むのが早く、ほんわかムードで問題なし。


『可愛いわねぇ。ねえ、お養母さんって呼んで?』


『死にたくありません』


 ……うん、問題なし。

 ちなみにとーさんとししょーは店先で何やら話し込んでいるらしい。かーさんが言うには、俺やクリスが聞いてはいけない話だと。

 ……俺らが聞いてはいけないって、ノエルに関する愚痴じゃね? 深刻な匂いはしなかったし。自分の半分も生きていない弟子より圧倒的に弱い師匠。その心中やいかに。




「実名プレイは、時に諸刃の剣だと思います」


 じーちゃんは神妙な面持ちで語っている。かーさんが出かけ、三人だけになるとやはり話題が偏ってしまう。


「そう、アレはこりすを攻略していたときでした。私は、こりす可愛いよこりすとハァハァしていました」


 十歳前後の少女がギャルゲにハァハァしていたと語る。シュールだ。実際は老人だったわけだが。


「そして愛を通り越し、『俺がこりすだ!』といった具合に燃え上がったクライマックス、画面に表示されました」


 『山田こりす』、と。


「何故でしょう――。ふと湧き上がる罪悪感。傍にある鏡に、私の顔が映りました。そこには、山田権太郎。ハゲチャビンの爺です」


 自嘲の透けて見える、歪んだ微笑。


「こんな爺ではこりすを幸せになど出来るはずもない――。私はそこで悟りました。私は、こりすを欲望のままに汚すただのエロ爺。ああ最悪だ最悪だ――」


「落ち着け」


 俺は、頭を抱えるじーちゃんの延髄にチョップをかました。


「はうっ」


 チョップは当然それほど強くない。しかし、じーちゃんは小刻みに震え出す。


「ペペモル、ペペモル、ペペモル……」


 呟きを繰り返している。チッセが好きなのは把握した。


「じゃあ、カレンの意見を入れて、ギャルゲにはデフォ名を入れつつ変更可にするか」


 クリスが頷く。ちなみに、いい加減いつまでも権太郎と呼ぶのはアレだと言う事で、呼び名はカレンと改めた。


「おいおいクリス、俺が前に草案書いた名称固定の連作形式はどうしたよ」


「あれ、メンドイしパス。アルバートさんも言ってた」


 ひでぇ。ピキンと閃いて色々盛り込んだのに。


「製作時間もあれだし、今回はお前がもう一つ考えていたシンプルなヤツで良いじゃないか」


 あれか。アイデアこねくり回すと逆に単純な話へ興が乗って、簡単なあらすじ書いたヤツな。


「クリア後のオマケに、長めの後日談を加えることでお得感を挙げるというせこい戦法は採用しても良いんじゃないかと」


 じーちゃんは、俺が以前適当に言ったアイデアを挙げた。


「ファンディスク出せよって話だがな」


 アイデア出した本人が言うのもアレだけど。


「個人的に言わせていただけば、ギャルゲクリア後の寂寥感は異常です」


 しみじみと告げるじーちゃん。


「コンプリート後に残るのは達成感ではなく虚無感です。ああ、もう終わりなのか――と」


「それはあるな」


 思わず頷いた。


「思い入れのあるゲームなら、ジャンルは関係無いんじゃ……」


 クリスは苦笑混じりで返す。


「そう言い替えても構いません。人にとっては蛇足かも知れませんが、それを少しでも和らげる後日談は個人的にアリです」


「まあ後日談やるにしても、やり過ぎない程度にしよう」


 その後を想像する余地を完全に奪い去るのもアレだし。


「畜生、あれこれ考えても結局こうなるのかよ」


「お前がひねくれ過ぎなんだ」


「シンプルイズベスト、とは言いませんが、現状のリュークさんの技量を考えるとそれがベターですね。ご自慢のストーリーとやらは、サイトの方に上げて下さい」






『えいえんはあるよ、ここ(妄想)にあるよ』


 ノエルがカストロの額に書き込んだ神字だ。つまりは自分に関わらないで妄想にでも浸っていろと、カストロの精神に干渉するよう念を設定していた。

 これは祖母の能力を劣化複製したものであり、ノエルはこれでカストロが自身を簡単に諦めるとは思っていなかった。少しでも効いてくれれば――。その程度の意図だった。

 だが、これはカストロの精神を強烈に浸食した。

 現在のカストロは理性よりも欲望を取るタイプであり、加えて妄想と現実がしっかり区別できていたのか若干怪しい思考の持ち主だった。これはカストロの現主人格である『彼』が元々そのような気質を持ち、尚かつ精神が他人の肉体へ移るという非現実的な事象が起こってしまったことに起因する。

 そして、カストロは思い通りに事が運ばない現状を、好ましく思っていなかった。なまじ空想的な体験をしてしまったのが、カストロの忍耐力や自制心を緩ませていたのだ。

 抑圧された精神は、そのはけ口を求めていた。そして、自身の採るべき方針が提示されたことにより、カストロは暴走を始めた。

 妄想に浸ればいい――。その境地に至ったカストロは、寝食を惜しんで自己の妄想へ埋没していった。万物が自身の思い通りになる夢の世界。

 現実よりも、妄想。そんな一念で、カストロはやせ衰えていく自身を全く労らない。

 ――カストロの命は、もはや風前の灯火だった。




 続く




 お待たせしました。色々迷走していましたが、微鬱更新再開させていただきます。





[2208] 微妙に憂鬱な日々 第四部 二話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:ef634cca
Date: 2010/01/22 02:27


 ――もう、ダメか。


 唐突な虚脱感。いや、ようやく気付いたと言うべきか。

 カストロは霞む視界に肉体の限界を悟った。衰弱しきった肉体は、ピクリとしか動かせない。そしてそれさえも億劫だ。

 妄想に耽溺しようとも、現実の肉体が限界を迎えればそれまで。そんな至極当然のことすら慮外のことだった。

 壁に寄りかかった姿勢のまま、胸に顔を埋めている人形を強く抱きしめんとした。それもやはり叶わない。

 愛しい人を象った人形は、柔らかな笑みにカストロ自身とは裏腹の満ちあふれた生命力を感じさせている。覚束ない視界でも、何故か鮮明で眩しかった。

 残り少ない生命力も全て人形の具現化維持に回す。普段であれば、そうなる前に無意識の自己防衛故か解けて消えるはずのだったのに、より存在感を増したような印象すら受けた。

 人形の頭を撫でようとした。腕が微かに震えただけ。愛を囁こうとした。乾ききった唇も、カストロの期待には応えない。

 何も出来ない。ただ、冷え切った身体にじんわりと、生きているかのような人形の温もりを感じるのみ。その温度に身を委ね、意識は闇に沈んでいく。

 別に、それで良い。現実など、どうなろうと叶わない。そう、思っていたはずなのに。

 ふと、虚しくなってしまった。滑稽だ。何も答えない人形に、愛を囁き続ける自分。その感触、体温、何もかも思い通りの筈なのに。

 気になった。本物は、今『どう』なのか。カストロの愛に応えない『本物』が。確かめることはもはや叶わない。それが虚しいのだと、気付いた。そう、矢張り……。


 ――本物が、良かった。


 けれど、もう遅い。やり場のない憤りは寸断され、願うことすら叶わない身となった。

 ……その時、人形が表情を悲しげに歪めたかに見えたのは、カストロの心が生み出した幻想だったのだろうか。


 カストロの亡骸は、それから半日も経たない内に発見された。天空闘技場のスタッフが外出の形跡を感じさせないカストロを訝しんで部屋を尋ねたのだ。

 常人よりも遥かに上を行くその生命力から鑑みれば、自慰の一回でも自重していれば命を繋げた時間差だ。けれど、もう遅い。カストロはもう動かない。

 眩しく澄んだ金髪碧眼の美しい人形も、その部屋には居なかった。




「ホん、モノ……ドこ、でスか……?」


 頼りない足取りで、それは夜の街を行き過ぎていく。すれ違う人々は、その美しさに見とれていた。




微妙に憂鬱な日々


第四部 二話




 つわりもきつくないらしいが、身重のかーさんをおいてししょーの家へ向かうのは少し憚られたので家に居る。ししょーも心配なのか家の空き部屋に泊まって、俺の親にこき使われている。

 そして数日経った昼下がり、居間でクリスと二人。そろそろギャルゲ作りの作業に入るかと思いながらソファーに身を委ねていたら、携帯が震えた。


「グリードアイランド? それなら一哉も知ってるだろ」


 ゴンやキルアの元にいるはずの一哉からの電話だった。グリードアイランドを現在も多数所持しているはずの富豪は誰か、と言うモノだった。


「ツェズゲラだっけ?」


 横で話を伺っていたクリスに問う。


「それは富豪が雇っているはずのハンター。正解はバッテラだ」


「だってさー。聞こえた? オークション終わったら、多分選考会だな」


『ああ、サンキュ。記憶に自信が無くてさ』


「俺もだ」


 思わず苦笑する。ゲンスルーとかゴレイヌは覚えてんだけど。ゴレイヌはゴリラ具現化するために何をしたんだろうって、クラピカの事例から考えるとすっごく怖いんだよな。

 いやまあ、俺も望郷の乾きを癒すべくと励んだ結果、和菓子が幾つか具現化出来るが。ちんすこうを和菓子の範疇に含めて良いのか疑問だが、海ぶどう食べたい。


「てーへんです、てーへんです」


 そこへ駆け込んでくるじーちゃんことカレン。散歩に行っていたはずだが。


「三角形の面積は?」


 そこでネタを振ってみる。


「底辺×高さ×2ですっ!」


 ……うわぁ、自信満々に言ってるよコイツ。

 そういや、昔は九九も怪しかったな、じーちゃんは。もしや、そのまま成長してねーのかよ。まあ、義務教育ブッチしてるみたいだし、この人。

 あ、一応俺は通信教育でその辺消化してるんで。テストも全教科そこそこ点数取れてるよ。


「で、何事よ」


「そうでした」


 じーちゃんは小さく咳払いし、丁寧なお辞儀一つ。


「ヴァルキュリアを打倒するため、『閃光の帝王』にご助力をお願いに参りました」


 ヴァルキュリアを打倒とか、いきなり何バトルチックな展開になったのとは思わなかった。

 閃光の帝王。その二つ名には覚えがあった。だってさ……。




「かつてゲートボールで全国に名を轟かせたそのお力、どうか今一度――」


「ゲートボールで閃光って……」


 クリスの生温かな視線を受け流す。

 いや、何故か全国のゲートボールプレイヤーに邪気眼使いが多かったんだよ、俺が小五の時はさ。……ええ、ノリノリでしたが何か?

 ヴァルキュリア――多分チーム名なんだろうが、これもかなり香ばしいな。


「もう止めて何年経つよ? 力になれるとは思えん」


 前世で中学に入ると同時にゲートボールを止めた俺に、全盛期と比べてどれだけの力を出せるやら。


「いいえ。たとえ錆び付こうとも、全国を震撼させたその才能は未だ煌めきを失っていません」


 私には分かります――。胸に手を当てて、うんうんと頷き一人で陶酔の笑みを浮かべるじーちゃん。


「煌めきって、たかがゲートボールで……」


「舐めるんじゃねぇ、小童が! 貴様に分かるのか!? 第一ゲート外したときの空しさ、スパーク喰らって一人だけ強制的に上がらされた時の寂しさが!」


「おちつけ、カレン。というか、ゴールさせられたのは第三ゲート通したお前のせいだからな」


 第二ゲートまで通したら、制限時間ギリギリまで牽制し合うのは常識だろ。


「違います。ヴァルキュリアのスパークで無理矢理通過させられたのです! 汚された気分です!」


「もうイミフだ……」


 クリスは苦笑と共に肩を竦めた。そら、普通の人は知らんよな、スパーク。俺の二つ名の由来である技能さ。

 あ、閃光だったらフラッシュなんじゃねってツッコミは無しな。


「それに、お願いしたいのは私たち『ライトニング・シャドー』のコーチです。もう五人いるので」


「そうかい」


「ライトニング・シャドーって……」


「もう何も言うなクリス」


 この分だと、疲れる程ツッコむ事態になるから。


「ところでカレン、平行四辺形の面積は?」


「底辺×高さ÷2です」


 やっぱりだめだコイツは。






「俺は認めないぞ、こんな奴」


 広場でカレンと同程度の少年少女に紹介された。直後、開口一番にそう言ったのは、頬にうっすらとバッテン傷のある活動的な雰囲気を伺わせる黒い短髪の少年。まあ、反発はあると思った。


「ふん、俺にコーチなんて必要ない」


 そう呟いて俺らとやや距離を置いたのは、いかにもクールそうな切れ長アイでブラウンの長髪を尻尾みたいに括った少年。絶対ツンデレだコイツは。


「そう言わないで、話を聞こうよ、二人とも」


 二人の間で視線をきょろきょろしているのは、太っちょで短めのな金髪の少年。穏やかそうな細目だ。


「私たちでは勝てないと、カレンは言いたいの?」


 くいっと黒縁メガネのブリッジを中指で押し上げたのは、いかにも知的そうなブラウンのごわついたくせっ毛を伸ばした少女。

 うわー、ぱっとみでぜんいんのこせいがつたわってくるなぁ。……なんかの漫画か? 新感覚ゲートボールスポ根。


「必要です。皆さんも見たでしょう、ヴァルキュリアの非道を。『マスカレード』の皆さんが敗れ去る様を」


 カレンは声高に言い放ち、短髪の少年に詰め寄った。少年は頬を染めている。ショタキラーじじい……嫌すぎる。


「じゃあ、俺の指導は要らなさそうなので、帰ります」


 俺はそう言って踵を返し、クリスの背中を押しながらさりげなく立ち去ろうとしたが、当然カレンにしがみつかれた。少年勢が突き刺さるような視線を浴びせてくる。

 知的少女は皆の――特に短髪勝ち気少年の態度を見て、微かに唇を尖らせていた。ブリッ子カレンはやっぱウザイのかな。……修羅場になりかねないのでは?


「待って下さい、リュークさん。貴方の力は必要です。あの人達は実力が凄い上に、レーザーポインターの妨害までするんですよ!?」


「どんだけ必死なんだよそいつら」


 クリスはあくまで冷ややかだった。


「えーと、コーチだけでなく、試合の審判をしろと」


「そうですそうです。お願いします」


 そして、じーちゃんのうるうる上目遣い。


「俺はやる気が余計に減少した」


「ちょ、声に出ちゃってます!? お願いしますって、今私すっごいやる気なんですから」


 道理で、ここ二、三日ギャルゲ作りにも参加しないはずだ。こっちはプロットと設定集書き上げて、色々作り始めてんだぞ。


「自信がないのか?」


 そこで口を開いたのは、クール長髪少年。そしてゲートボールスティックをこちらに突きつけた。え、結構乗り気だった?


「うん、怖いの。だから帰るね」


 だが、今の俺にその手のプライドは無かった。挑発には乗らない。


「だーかーらー」


 じーちゃんは引き留めるために関節を極めようと、せわしなく俺の身体に手を這わせている。どことなく卑猥だった。


「……ここでレイプ魔って叫んだらどうなるか、教えて差し上げましょうか?」


 身をよじって技を外していたら、ボソリと囁かれ、


「――自信がないだぁ? 俺の実力を見てから言いな!」


 テンション上がってきたゼー!


「……頑張れ」


 ありがとよ、クリス。


 スティックを握ると、世界が変わった。そこかしこに満ちるノイズの意味が、見下ろす視界に映る地面の起伏が、やけに鮮明だ。

 周囲に窺える人物の仕草はやたらスロー。いや、自分の感覚が加速している。全身の筋肉、その動きが認識できる。それをどう動かせば良いのか、頭に描いた理想のフォームから逆算し見当を付ける。

 置いたボールの傍、スティックを構え、打つ。スティックの円筒形のヘッドが進む軌跡の先、打つボールと的になる三十メートル先に置かれたボール、二つで結ぶイメージの直線と重なった。

 真っ直ぐだ。大きな起伏は無い。真っ直ぐ打てれば当たる筈。ゆっくりと、スティックはボールに近づいていく。

 コンと小気味よい音が高らかに。打ち出されるボールもゆっくりと、地面の影響を受けることなくするすると離れていく。そこで下方に固定していた頭を上げ、ボールの動きを目で追う。

 ――確かめるまでもない。

 内心では、打ち出した際の手応えで確信していた。あくまで、それを見届けるだけ。

 そして、半ば停滞する世界の中で永い時を過ぎ、それからゆっくりと加速していく。元のノイズに溢れた世界に帰還したとき――。


「な……!?」


 ボールが命中、直後誰かが驚愕に呻くのを聴いた。

 昔を越える究極の集中。聖域と書いてゾーンと呼ぶ類のそれを今頃になって体得するとは、皮肉だ。これさえあれば、あの時全国を奪れただろうに。


「すげー!」


 熱血な叫びに、


「うん、凄いよ!」


 穏やかな声も驚愕に震え、


「動きに、一切の迷いがなかった」


 平坦な声もどこか感慨深そうで、


「師事する価値、ありそうね」


 むくれがちだった少女の声にも喜悦が伺え、


「やりましょー!」


 カレンの声が木霊し、ライトニング・シャドーの面々が頷いて応えた。

 そして、特訓が始まる。


「あんな卑怯な奴らに負けてやるもんか!」


「姑息な手に頼らなくとも、俺の方が優れているに決まっている」


「僕だって、みんなの力になれるんだ……!」


「カレン……あの泥棒猫、どうしてやろうかしら」


 ……それぞれが抱く想いを聞き流す。


 そして、熱意が力の覚醒を促した!


「リュークさん、聴いて下さい」


 どうしたカレン。


「特訓の末に、風が見える様になりました」


 ゴルフやれば?


「スマイルー、ショット!」


 そいつの向こうには!


「天使の……風があるバイ!」


「「少年サンデー!」」


 ハイタッチ。


「……何で風なんですか。意味無いですよ」


 知るかよ。


 そして……試合には負けた。




続く




おまけ


聖域(ゾーン)

リュークの強化系能力。集中力を強化し、フィジカルバーストもどきな事が出来る。

ただしゲートボール限定。これは、リュークがゲートボール以外に取り柄が無いんじゃないかと微かに思っているため。

系統のルーレットを回していなかったので、更なる集中の先があるが、リュークは一生それに気付くことがない。



幾つか本編に関わりないネタ削除させていただきました。



[2208] 微妙に憂鬱な日々 第四部 三話
Name: 圭亮◆f2ceb6ad ID:2c0bd367
Date: 2011/06/24 23:59


 まばらな舞台席、埋め尽くしていた人間も残るは私とリュークのみ。舞台の向こうに消えるゴンの後ろ姿を見送り、もうじきかと嘆息する。

 グリードアイランドのプレイヤー選抜審査。原作に基づく知識から、受かる勝算はある。

 あるが、それでも確信と言えるほどでもないので緊張する向きもある。やはり、こういった試験等はやはり後半まで待ちたくはないものだ。長時間の緊張は体力を地味に削る。

 まあ、リュークが最後を希望したので待っているのだが。私とリュークは、シャッターと暗幕で二重に覆われた舞台を真ん前にした席に並んで陣取っている。


「くくっ……」


 右隣で、死んだ魚の目で薄笑いを浮かべたリューク。

 表情に、生気が感じられない。

 その癖に反比例したかのような、ここ数日の充実したオーラ量といったら凄まじいもので。

 何を考えているのやら。

 何処に、それをぶつけるつもりなのだろう。

 嫌な予感しかしない。

 ゴン達も若干退くほどの凄まじさと言えば、何となくニュアンスが伝わるのではないかと愚考する。

 死んだ魚の目と、リュークの表情について思わず溢したときは大変だった。


『魚の目? はは、何を仰るクリスさんや魚の目玉はDHAも豊富で俺のようなゴミ屑と同列に並べるなんて失礼っすよーほんとおれって価値無いよねって自虐してる様もマジ痛々しいよねははっどうぞどうぞこのカスめをお好きに貶してくださいなひゃひゃっ!』


 ……めっさ病んでる。

 行間に句読点がうてない早口で、ハイテンション。その数秒後には、沈んだ面持ちで明後日の方向を見やり、言葉にならない呟きを繰り返したりする。

 メンタルクリニック?

 今のリュークを刺激するような真似を、誰が引き受けるというのか。リュークの師匠でもある、アルバートさんすら躊躇ったというのに。

 親御さんを呼ぶ?

 実力的には申し分ないし、リュークを落ち着ける最善策かも知れない。

 が、それは当のリュークによる懇願を振り切れないため、廃案となった。

 ……だって、奇声で叫んだりするし。

 それに、カレンが親を呼ぶのは良くも悪くも劇薬だと付け加えた、というのも大きかったが。

 もう隔離しろよと言われるだろうが、他人様に迷惑をかけないような配慮は最低限しているようで、最近の奇行はカラオケに行って発狂の叫びを上げる程度だ。

 既に手遅れ感が満載だが、見放す気にもならないのだ。

 それは、あれだ。私たちが煽ったのも……うん、あるしなぁ……。

 え、ああうん、ノエル?

 無理無理。だって、うん……。

 そして、傍らのリュークに目をやる。手を組み虚ろな眼差しで、瞑想と言うよりもバットトリップが適切なたとえだろう。小一時間前よりも、オーラが研ぎ澄まされているような気がする。

 気分転換にとグリードアイランドへ誘ったのは私だが、どういった心境の変化でこうまでやる気凛々なのだろうか。

 正直ビクビクしながら、時が過ぎるのを待っていたら。 

 ――唐突な轟音。私は一瞬心臓が止まったのを自覚した。

 いやまて、アレはきっとゴンだろう。漫画では舞台席に人が戻ってきていたような気もするが、今回ゴンは最後じゃない。きっと、最後の審査を始める際に入れ替わりで戻されるのだろう。

 もはや緊張などが吹き飛んで、同時にいろいろな気力も吹っ飛びかけた。

 係の人に促されても、けだるさを残したままという始末だ。舞台へ移っても、先ほどまでオーラを研ぎ澄ませていたリュークと比べれば、ツェヅゲラの威圧感なぞ屁でもない。


「クリスだったね。さて、“練”を見せてもらおう」


 それは、ハンター用語で鍛錬の成果を見せろということを意味する。

 言われると同時に、私はコートの内側に隠した腰のホルスターから拳銃を取り出していた。

 適度な緊張感を伴った、それでいて極力無駄な動きを削いだシャープな動き。……じゃないかなぁ。

 相手に構えたという実感を与えないような、自然な動きを目指しているのだが、先は遠い。


「これでいかがですか?」


 全力じゃないんだぜーと余裕ありげに問うた。これで害意を疑われて落ちたらどうしようと今更ながらに思ったが、なんか開き直ってしまっている。

 いっそ、落ちた方が色々面倒が無くて良いかもと、一瞬思った。

 銃口はツェヅゲラへ向いている。一瞬体をびくつかせていたが、反応が若干遅い気もした。

 拳銃を構えると同時に、練で増強したオーラはそこへ漲らせていた。私の流も上達したものだな。

 ちなみに言えば、以前にノリで作ったスレッジハンマーではなく、ごくごく普通の扱いやすいリボルバーだ。

 さすがに、ここで手の内全て晒すほど愚かではない。それで落ちたら笑えるが、向こうだってある程度は察してくれるだろう。

 ツェヅゲラは目を丸くしているが、それがどういった意味を表しているのか。


「……合格だ」


 良い意味だったらしい。やったね。

 安堵のため息と共に銃をホルスターへ納め、示されるままに奥の通路へ向かう。

 通路は長く、その途中にはベンチなども設けられていた。大きく迂回する形で、先ほどいた舞台席へ出た。

 ゴンやキルアもいて、けれど一哉は居なかった事はお察しください、だな。二人と軽く目配せし、会釈と共に席へ着く。

 リュークほどの交流も無く、会話に困るのでする気も無かった。

 ――そして、轟音。

 ……リュークよ、何をした。先ほどのゴンを上回る衝撃にフロアが揺れたのを感じたぞ。

 少し間を置いて、リュークがのっそりと現れる。肩を落とし、うつむきがちで。


「受かったのに、どうしてそんな顔をしてるんだか」


 嘆息気味に聞いた。


「一応受かったけどさ、なぁんか不完全燃焼って言うか、全力出し切れなかった感があったんだよね……」


 返ってくるのは、嘆息混じりの答え。自嘲気味の薄笑いが非常に不気味だった。

 まあ、おそらくは手の内を殆ど見せないでゴンをパクったんだろう。単純な硬ではなく、多少なりとも技巧を凝らしたと信じたい。

 ……だが、お前は屋敷を修復不能にして不興を買いたかったのか?

 なんかもう、以前のリュークとは別次元の生き物と化したな。そう、つくづく思う。

 あの日から、リュークは変わってしまった。

 即売会の夜から。

 ギャルゲーの出来がいまいちで、俺ら大したことねーなぁと苦笑いしていたあの日とは、もはや別人だ。

 それでも体験版を見て買いに来てくれた人が居て、その人達との交流にジーンときて。

 ノエルから応援の電話が届いて、リュークははにかんだ笑みを浮かべていたりもした。

 打ち上げに夜の繁華街へ繰り出して。

 悪のりして酒を飲んだリュークは、路地裏で吐いた。

 私はそんなリュークの背を摩って、ふと頭を上げたとき、通りを行くその二人を見てしまったのだ。




『クロロと繋がったまま夜の町を歩くだなんて、頭がフットーしそうだよぅ……!』


 ノエルとクロロの野外プレイ。

 後ろの穴で。

 その光景に私は思わずアッと間抜けな声を上げて、リュークがそれに反応し……。

 その先は、言わせるな。




微妙に憂鬱な日々

第四部 三話




 『それ』はクロロは殺そうとした。

 クラピカからジャッジメントチェーンを受けており、なおかつ一連の騒動の後に単独行動を選んだクロロを殺すことは容易いと考えた結果だ。

 視界の遥か先、一人荒野を行くクロロは豆粒大だ。それを見据え、力強い歩み。

 内側から吹き出すどす黒い衝動。同時に、求めるものに手を出す瞬間に伴う恍惚。

 大きな感情の揺れと共に、『それ』の体表が波打った。

 『それ』は、死者の念から生まれた存在である。

 『それ』は、ある目的を持って動いている。

 自身の原型となった『オリジナル』と同一の存在になること。

 クロロの死肉を喰らい、そしてクロロの想う『オリジナル』の断片を手に入れる。人格を補完する上で、他者から見たイメージというのは非常に大事なものだ。

 故に『オリジナル』を知るものを観察し、さらにはその思『念』を略奪する。そうして未完成の自身を補完することを、『それ』は現状における指針と定めている。

 観察はおおよそ終えているが、クロロから得たイメージはあまり役に立たないようだった。そもそも、クロロと『オリジナル』の関係がクロロの一方的な思慕に過ぎなかったというオチだ。

 自分に酷く執着する様子だったから、『それ』の知らない『オリジナル』の断片を多く得られると思って数度褥を共にしてやったのに。

 ……『それ』はビッチですか?

 実際の所、『オリジナル』やそれに深く関わっている存在を観察することが一番手っ取り早いということは分かっている。

 しかし、『それ』に特定人物を捜す技能がない。クロロとの出会いは半ば偶然によるものだ。クロロに貢がせた金品があるので、金にあかせて捜索を始めようとも思うが。


「ねぇ……ちょっと待ってくれないかな?」 


 背後の人物へと向き直る。背後十メートル程に居た。気配を上手く断っていたようで、気付くのに遅れてしまった。

 荒野を行く『それ』を呼び止めたのは、甘ロリなヒソカだった。

 一瞬無視しそうになったが、ヒソカが『オリジナル』と命のやりとりを行った仲だということを思い出した。『それ』を生み出した彼の記憶が断片的に受け継がれているはずなのだが、徐々にそれが薄れていくことを自覚していた。


「何をしようとしているのかな、泥棒猫」

「何が言いたいのですか、負け犬?」


 ヒソカの静かな問いかけに、『それ』は嘲弄の愉悦滲む笑みで応じた。

 知ってるんですよ、貴女が指をくわえて色々見ていたことは――。そう、続けて。

 

「……うん。全部、見てたよキミとクロロが寝るところ」


 ――なのに、クロロに向けるその殺気はなんだい?

 訊ねるような口調でありながら、明らかな断定的意志に基づく言葉だった。

 そして表情に薄笑みを貼り付けておきながら、怒気滲む殺気を漲らせて。

 笑みとは、牙をむく行為に由来する。記憶の奥底から、そんな言葉がふと浮かんだ。

 ――おもしろい。

 『それ』もまた、笑顔で応じた。

 良い機会だと。ここで、ヒソカも喰らっておこう、と。

 ヒソカのオーラが高まるのを感じる。局部のオーラが、特に。

 ナニも無いはずなのに、何を強化しようというのか。

 と、そこで、スカートを持ち上げてそそり立つ物が現れた。オーラの凝縮、具現化か――。

 顕わになるドロワーズ。そこに巻き付いている細いベルト様の器具。器具に固定されているのは、長さ五十センチ強はありそうな筒。へその高さまで微妙に湾曲しながら伸びている。 

 例えるなら、曲がったライフルの銃身というのが適当か。筒にはご丁寧な事にポンプレバーがついている。

 ヒソカはそこに手を添えて、ガシャコガシャコ。

 筒の先はこちらに向いて、そしてふぅふぅと息を荒げている。

 あまりにあまりな光景、呆気にとられて一瞬の硬直。

 『それ』の股間が。

 それはビッチですか?

 いいえ、淫乱テ○ィベアです。

 爆発。

 『それ』は、とっさの横っ飛びで躱す。

 股間のライフルが向く先を高速で進んでいくオーラを、『それ』は微かに視界の端で捉えていた。オーラはヒソカと繋がっているので、放出ではないようだ。


「……剛直爆発《チェリーボーイ》」


 ヒソカはそう呟いて、こちらを見て嗤った。

 ……確かに、回避したはずだ。これは、何だ。

 いつの間に、目の前に液体様の質感を持つオーラが弾けて。

 全身を貫く衝撃。それには耐えた。

 だが、粘り着くようなオーラでヒソカと繋がっている!?


「無駄さ。ボクがBUKKAKEると思ったとき、既にBUKKAKEられているも同然なんだから」


 全身に絡みつくようなオーラのせいで、思うように身動きがとれない。

 そして力みがとれたような、賢者モードの体をなしているヒソカが冷笑と共に躍りかかってくる。

 粘っこいオーラでの牽引。バンジーガムと同等の性質か。なら、宙へ舞ったのが運の尽き。

 向こうの動きは、地に足がついていないことで制限されている。動きを予測するのは容易い、カウンターの拳を繰り出し――。

 ヒソカは地を蹴って、それを回避。カウンターのカウンター、ヒソカの拳をお見舞いされる。顔面直撃、鼻をつぶされた。

 陰で隠したオーラが、ヒソカと地面を繋げていた。それによって体勢を整えられたのだと気付く。迂闊。

 股間の銃身を見せつけられ、視野が狭くなっていた。

 次にその銃身で畳み掛けられるように頬を殴られて、興奮した。

 続いて殴られて、更に蹴られて。

 殴り返して、蹴り返して。

 愉快。

 殺意。

 『それ』は笑みを深くして、ヒソカも共鳴するように哄笑する。

 そしてお互いのオーラも響き合うようにして、爆発。

 決着は、そこから数分と要さなかった。




 続く


 ハンター新刊発売記念というわけでもなく、最近書いてたオリジナルの方が煮詰まってむしゃくしゃしてやったというのが本音です。

 お久しぶりです。続きを楽しみにしてくれていた方にはお詫びを。こんな作品どうでもいいと思ってらっしゃる方、時間を浪費させて申し訳ありません。

 巻いていく巻いていくと何度もパチぶっこいていましたが、就職して忙しくなったので今度はガチです。強引にまとめて後五話程度……多くとも十話はかからず終わる予定です。

 そうでもして一度区切りをつけないと、いい加減私の精神衛生的にまずいので。自分本位もいいとこですが、最後までおつきあいいただけると嬉しいです。

 以上、言い訳でした。




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.286661863327