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経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”
【第110回】 2010年1月29日
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町田 徹 [ジャーナリスト]

再生機構のウィルコム支援の実態は、
ソフトバンクのM&A支援か?

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 さらに「現在、弊社ではADR手続き成立に向けて債権者の皆様のご理解とご協力のもと、関係各所と鋭意調整を進めております。当社サービスをご利用いただいているお客様、また販売店さまやメーカーさまなどお取引先の皆様への影響はございませんのでご安心ください」とも述べられていた。

 この点について踏み込んで取材すると、どうやら「法的整理は、まだ選択肢のひとつの段階に過ぎない」(複数の関係者)というのが実情のようだ。ただ、従来の法的整理では、実施が常識とされていた金融機関以外の「一般債権」の整理が、JALのケースで行わない前例ができたことなどから、急きょ、法的整理も選択肢に入れた検討が始まったというのが実態らしい。

 そこで、もう一度、最初の日経のスクープ記事をよく読むと、行われている交渉で、ウィルコムが主導権を持った自主的な再建が本当に可能なのかどうか疑問視せざるを得ない表現が盛り込まれている。

 それは、「機構はウィルコムを現行のPHS事業を手掛ける会社と、通信速度が速い次世代PHS事業を手掛ける会社に分割する案を検討している。現行PHS会社の再建は機構が、次世代PHSの展開はソフトバンクがそれぞれ主導する見通しだ」という部分である。

次世代PHS抜きでは
将来の成長性はない

 これを字義通り読めば、ウィルコムの手許に残るのは現行PHSを手掛ける会社だけということが明らかだ。そして、もう一方の次世代PHSを手掛ける会社は、ソフトバンクが傘下に収めることになる。

 つまり、ソフトバンクの「支援を仰ぐ」という記事の表現は、ある種の“詭弁”に過ぎない。実態は、ソフトバンクが美味しい次世代PHS会社だけを買い取り、儲けが期待できなくなった現行PHS会社を機構とウィルコムに押しつけるということに過ぎなくなる。

 ここで説明しておきたいのは、なぜ、ウィルコムが今日のような経営不振に陥ったのか、その原因は何だったのかと言う問題である。

 実は、ウィルコムの加入契約数は昨年12月末段階で429万9400件。2年前の477万2200件に比べて、実に、47万2800件も加入者を減らしている。この加入者の減少が、言い換えれば、利用客離れが経営危機の主たる原因だ。

 そして、ウィルコムの加入者を最も多く奪ったとされているのは、イーモバイルとソフトバンクの2社である。ウィルコムは過去に、エアーエッジの名称で、電子メールの送受信などに便利な定額のデータ通信サービスをいち早く開始し人気を博したが、技術革新の波に乗り後れ、イーモバイルが開始した第3世代携帯電話を活用した高速データ通信サービスに、データ通信の利用客を奪われた。また、低料金が売り物だった「もしもし」の音声電話の利用客は、ソフトバンクの低額サービスに流れたとされるのだ。

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町田徹 [ジャーナリスト]

1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政-解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。


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硬骨の経済ジャーナリスト・町田徹が、経済界の暗部や事件を鋭く斬る週刊コラム。独自の取材網を駆使したスクープ記事に期待!

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