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 『技術の実りこそ革新への兆し』…技術全般に対する自分の考えた座右の銘にして自分への教訓となっている言葉です。技術の実りこそ全く新しい革新が現れる元となる、と言う意味合いです。
 この座右の銘を具現化したのが今回の話です。
 9月5日付けで第一次編集を行いました。
第五章 変わりゆく世界~1939年~
第二十五話 改革の兆し!技術の昇華!強化されし機動艦隊!
9月6日 習志野演習場

 ここ習志野演習場において、まさに静寂が周囲を支配した。参列者は目の前の光景に暫し唖然とし、そんな参列者を憚らず二階堂は込み上げてくる快哉の声が漏れると同時に静寂を造りだした兵器……試製九八式自動追尾型地対空噴進弾『奮龍(ふんりゅう)』とその目標物として定めていた厚さ200mmの装甲板は深々と貫かれている。

「成功だな…これで航空機の撃破率は大幅に伸びる」

 込み上げてくる笑いを堪えながら二階堂はそう呟いた。
 試製九八式自動追尾型噴進弾『奮龍』――史実では対B-29対策として1944年(昭和19年)に船体設計担当の艦政本部第四部において研究され、わずか10か月で試射に持ち込み1945年(昭和20年)4月25日に浅間山での発射実験は目視による無線操縦により自由自在に飛行する事が出来た。この結果に大いに喜んだ上層部は数十基の試作弾が試験され同年6月には特型噴進弾四型には『奮龍』の愛称が付けられた。
 だが、7月の実験では良好な機動性を示したものの、速度が遅く左右に振動する欠点が指摘された。そして四型にはロケット戦闘機『秋水』に搭載される心臓部である液体燃料ロケットエンジン『特呂二号原動機』を搭載するはずだったが、その前に終戦となりその資料は一切焼却処分された。

 そんな最先端の技術を持ちながら実戦配備が行われなかった『奮龍』が今、目の前にその存在感を充分に見せつけている。
 この世界では転生してから2か月後には計画が始動した。誘導方式はレーダー波を利用したビームライディング方式を採用し、推進剤には史実の燃料液体ロケットエンジン『特呂二号原動機』を基に開発したロケットエンジンを搭載、炸薬搭載量100kgと第一世代型艦隊防空ミサイルに匹敵する性能を有する噴進弾(ミサイル)となったのだ。
 その性能は以下の通りとなっている。


試製九八式自動追尾型地対空噴進弾『奮龍一型』――性能諸元――
全長
・8.23メートル
直径
・20.3センチメートル
発射重量
・1360kg
本体重量
・535kg
ブースター重量
・825kg
炸薬搭載量
・100kg
最大速度
・マッハ3.0
到達高度
・2万4400メートル
航続距離
・25km


 だが…と、二階堂は考えた。いくら高性能でもこの性能を維持しつつ大量生産できるのかという問題だった。日本は所謂、持たざる国でありそれに1本当たりの値段も問題だ。当時の日本が採用している魚雷を例にすると九一式魚雷の1本当たりの値段は家1軒立つほどの値段であり、魚雷ですらこれくらいの値段であるから魚雷以上の精密機械の集合体である誘導噴進弾なら尚更値段を張るだろう。そんな事をすれば何としてでも『奮龍』の採用を妨害する動きがあるだろう。
 だとしてもそれらをも覆す性能と発展性を有するこの『奮龍』を艦艇に搭載すれば艦対空ミサイルとして利用ができる。少なくとも対空砲よりは利用価値がある――そう思いながら『奮龍』がもたらす将来の海軍戦略を思っていた。


その2週間後の9月20日 旅順軍港周辺の海域

 旅順軍港に数隻の艦艇が波を切り裂きながら向かっていた。まず、中心に4隻の戦艦と4隻の航空母艦が、その外側には重巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦12隻――はた遠くから見れば立派な一個機動艦隊だがそうでは無い。
 これらは一部を除いて全て第零航空艦隊所属の艦艇である。4隻の戦艦は『薩摩』型戦艦、4隻の航空母艦は『翔龍』型航空母艦であり、この8隻は改装工事が完了した艦艇であり、残り20隻の艦艇は『第零独立機動艦隊建造計画』によって計画された新造艦艇である。
 なぜ、旅順の造船所で建造されていないのかと言うと、あまりの建造数にさすがの旅順軍港でも建造数に限界が来る事と、民間の造船所にノウハウを学ばせるための2つの理由である。
 早速、紹介してゆくが最初は、『黒姫』型重巡洋艦である。この艦艇は本来は『金剛』型高速戦艦の代用艦として建造されるはずだった『B-65』型巡洋戦艦だったが、当の『金剛』型高速戦艦が防空戦艦として改装されて現役に留まった為に建造されなかったが、『B-65』の設計図をコンセプトをそっくりそのまま移植し、高速打撃を主任務としつつ防空を視野に入れた艦艇として建造したのが『黒姫』型重巡洋艦である。基準排水量3万5000トン、最高速度35ノット、武装は九九式60口径30.5cm三連装主砲4基12門、九九式五連装魚雷発射管4基、九七式65口径長10.5cm連装高角砲12基24門、九五式40mm四連装高角機関砲16基64門、九五式25mm三連装高角機銃24基72門、九七式12.7cm三十六連装噴進弾発射装置6基と重武装が施されている。航空機搭載については水上機を最大8機搭載可能で、カタパルトは火薬式カタパルト2基を備えている等、まさにバランスに長けた艦艇となった。姉妹艦は二番艦『姫神』、三番艦『芙蓉』、四番艦『道後』の4隻となっている。
 続いて、その『黒姫』型の隣になって航行するのが『大淀』型電子軽巡洋艦である。史実では連合艦隊最後の旗艦にして世界に先駆けた指揮専用艦であった『大淀』は、この世界では電子軽巡洋艦として生を受けた。電子軽巡洋艦とはその名の通り、多数の対空電探、対水上電探、対潜ソナーを備えより優れた戦術を配下の水雷戦隊に指揮を行うと言うコンセプトを持っている。基準排水量1万1000トン、最大速度37ノット、武装は改三年式こと九九式65口径15.5cm三連装主砲5基15門、九〇式三連装魚雷発射管4基、九七式65口径長10.5cm連装高角砲8基16門、九五式40mm四連装高角機関砲8基32門、九五式25mm三連装高角機銃16基48門、九七式12.7cm三十六連装噴進弾発射装置6基、航空機搭載数は水上機3機、カタパルト2基と同世代の軽巡洋艦と拮抗いやそれ以上の性能を有しているに違いない。姉妹艦は二番艦『仁淀』、三番艦『音羽』、四番艦『浪速』の4隻となっている。
 最後に駆逐艦だが、特型駆逐艦等の艦隊型駆逐艦の性能を受け継ぎつつ、汎用性を持たせた駆逐艦として建造された『島風』型駆逐艦である。この駆逐艦は史実の同艦の高速重雷装能力を受け継いでおり、基準排水量2955トン、最大速度42ノット、武装は九五式50口径12.7cm連装高角砲3機6門、九六式375mm四連装対潜噴進弾発射装置1基、九九式五連装魚雷発射管3基、九五式40mm四連装高角機関砲4基16門、九五式25mm三連装高角機銃12基36門、九八式Y字型爆雷投射機2基、九四式爆雷投射機2基と対空・対艦・対潜に対応出来る装備が施され、標準装備になりつつある対空電探・対水上電探・対潜ソナーを備え付けられている等、まさに最強の駆逐艦として君臨したのだ。
 以上3種類の艦艇が第零独立機動艦隊に新たに編入される艦艇であり、それぞれ佐世保、舞鶴、大神造船所で建造され、第零航空艦隊の拠点である旅順に試運転航行と兼ねて向かっている。


重巡洋艦『黒姫』 艦橋

 『黒姫』の艦橋内で男女士官・水兵関係無く忙しく行き来している中、1人の男性佐官が指示を出していた。彼はこの『黒姫』の艦長であり、名前は庄司亮輔海軍大佐である。彼は江田島の海軍兵学校を卒業した後、『吹雪』型駆逐艦十一番艦『綾波』の艦長を務めたの後にこの新鋭艦『黒姫』の艦長に就任したのだった。
 さて、彼の指示に従う士官・水兵だが、この『黒姫』いやここにいる『第零独立機動艦隊建造計画』によって建造された艦艇に共通して言える事だが、各艦艇では新型機関・新装備(火器系統等)・新型電子機器等々の慣れない要素が多く、乗組員達は悪戦苦闘していた。
 そんな中、『黒姫』乗組員達は比較的慣れるのが速く、その点では他の艦艇よりは良い状況にあった。
 そのため、自分達が今、何をすれば良いのか庄司艦長の指示が無くてもようやく動けるようになっていった。
 その様子を見ていた庄司艦長は副艦長に後の指示を与えると、自分は気晴らしに同艦の防空指揮所へと続く階段を上がっていった。
 誰もいないはずの防空指揮所のはずが、誰か先客が居た。その先客とは1人の海軍第二種装を着た少女でしかも、身体が透けていた。彼女こそがこの『黒姫』の艦魂、黒姫である。その名に相応しく腰まである黒髪、気品溢れるその様子はまさに大和撫子に相応しい。

「よぉ。ここにいたのか黒姫」

「艦長…大丈夫なのですか?皆に指示を出さなくても?」

「後の事は副艦長に任せたから大丈夫だ。それよりどうしてここに?」

「これから私達が所属する本拠地に向かうと思うと、いても経ってもいられませんから」

 そう言うと彼女は旅順の方向へと身体を振り向かせた際に、艶やかな黒髪が波打つかのように靡いた。

「あっ!艦長、見て下さい!」

 その時、彼女は何かを見つけたのか彼に声を掛けて、その方向に指を指した。

「凄い…艦隊旗艦『紀伊』が……出迎えてくれたのか」

 その指を指した方向には世界最大最強と謳われた電子戦略戦艦『紀伊』が出迎えてくれたのだ。
 これには艦橋内からも驚きの声が聞こえてきた。それに『紀伊』から不規則に光が灯ったり消えたりした。発光信号である。

「キ・カ・ン・テ・イ・ノ・ヘ・ン・ニ・ュ・ウ・ヲ・コ・コ・ロ・カ・ラ・カ・ン・ゲ・イ・ス・ル…『貴艦艇の編入を心から歓迎する』…か」

 発光信号を解読し終えたタイミングで、『紀伊』の高角砲から空砲が放たれた。

「艦長。如何なさいますか?」

「もちろん、礼儀には礼儀を返すべきだからな。副艦長、こちらも空砲を返してくれ」

「了解しました」

 数秒後、『黒姫』を始めとして各艦艇からも空砲を放って返礼する。
 こうして第零航空艦隊に新たな仲間・艦艇が加わった。
 ご意見・ご感想をよろしくお願いします。


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